2024 年 73 巻 4 号 p. 787-793
鹿児島大学病院てんかんセンターは,2013年3月の設立以降,脳神経外科・小児科・神経精神科・脳神経内科の診療科を中心に,看護部・検査部・ソーシャルワーカーなどが協力して,てんかんの包括的診療に取り組んでいる。てんかんセンター設立以降,脳波の検査件数は,増加傾向が続いており,2015年からは,長時間ビデオ脳波検査の電極装着と管理も臨床検査技師が担当してきた。しかし,脳波計の性能や診療科による検査方法の違い,院内システムの整備不足があり運用上問題と考えられた。そこで,2022年3月の機器更新において,診療科と協力し,効率的な運用と一元管理のためのシステム構築を目指した。脳波計を購入する際には,脳波検査専用3台と長時間ビデオ脳波検査専用2台をすべて同一機種に統一した。また,すべての脳波計を生理機能検査部門システムに統合し,脳波データとレポートすべてを診療用端末にて閲覧できる運用に変更した。さらに,長時間ビデオ脳波検査では,新病棟整備に併せて院内LAN端子を設置した病室を増やすことで,運用効率の向上と業務負担の軽減が可能となった。今回の機器更新を通して,脳波計の一元管理を行い,院内システムの環境整備をすることで業務の効率化に繋げることができた。今後,診療科の協力のもと,院内システムや運用効率のさらなる改善を通して,脳波検査の運用をより活性化するとともに,生理機能検査部門のプレゼンス向上を図っていきたいと考える。
The Kagoshima University Hospital’s Epilepsy Center was established in March 2013 and has been engaged in the comprehensive treatment of epilepsy with the cooperation of the neurosurgery, pediatric, and neuropsychiatry departments, as well as the nursing, laboratory, and social worker departments. The number of electroencephalography examinations has continued to increase since 2013. Clinical technologists have also been responsible for the electrode placement and management of long-term video electroencephalography monitoring since 2015. However, there were problematic differences in the performance of the electroencephalography machines, different methods of examination among the departments, and a lack of a hospital system. We aimed to establish a system for efficient operation and centralized management of the electroencephalography in the hospital during the machine upgrades in March 2022. As a result, we purchased three electroencephalography machines dedicated for electroencephalography and two dedicated for long-term video electroencephalography that could record videos and to standardize their performance. In addition, all the electroencephalography machines were integrated into the physiological function examination department system, and all electroencephalography data and reports could be viewed in the electronic medical records. Furthermore, the number of rooms equipped with LAN terminals in the hospital was increased for the workload required by long-term video electroencephalography, which reduced the laboratory staff’s workload. Unifying the electroencephalography management system and improving the environment of the hospital’s system, were carried out to achieve an efficient operation. In the future, we would like to further improve the present status of the Department of Clinical Laboratory with the medical departments’ cooperation.
現在,全国てんかんセンター協議会に属する医療機関は37施設あり,当院てんかんセンターも含まれている1)。また,当院てんかんセンターは,日本てんかん学会認定施設であり,2019年からは「てんかん地域診療連携体制整備事業」による鹿児島県の拠点病院にも選定されている2),3)。当院てんかんセンターは2013年3月に設立され,脳神経外科,小児科,神経精神科,脳神経内科と多岐にわたる診療科を中心に臨床検査技師,看護師,薬剤師,ソーシャルワーカー等が協力して,てんかんの包括的診療に取り組んでいる。また,てんかんセンターが設立されたことで,てんかんの患者を受け入れる窓口が一本化され,各科との連携も取りやすくなり,スムーズな診療が行えるようになった。今回,当院てんかんセンター設立から今日までの検査部の協力体制や2022年3月の生理機能検査機器更新に伴うシステムの院内構築について紹介する。
2013年てんかんセンター設立以降,臨床検査技師7名(常勤職員4名,非常勤職員3名)にて脳波検査枠が25枠/週で運用を行っていた。2015年の生理機能検査機器更新に伴い,生理機能検査システムを日本光電社製に変更,脳波計も日本光電社製への変更を行った。また,医師が施行していた長時間ビデオ脳波検査を臨床検査技師主導に変更を行い,電極装着,機器の管理を行うようになった。2018年からは,歯学部検査室統合により常勤職員が4名から7名の増員に伴い,脳波検査枠も42枠/週に増枠した。また,2022年の生理機能検査機器更新に伴い,生理機能検査システムに入っていなかった長時間ビデオ脳波検査についてシステム統合を行った(Figure 1)。
Epilepsy Center was established in Kagoshima University Hospital in 2013. The equipment was updated in 2015. The number of clinical laboratory technicians was increased due to the integration of the Department of Clinical Laboratory of the Dentistry Hospital in 2018. The equipment was updated in 2022.
脳波検査の件数は,2013年622件,2014年674件,2015年812件,2016年825件,2017年845件,2018年982件,2019年960件,2020年945件,2021年1,217件,2022年1,185件,2023年1,021件と,2019年からの新型コロナ感染症の影響による検査件数減少を除き,検査件数は増加傾向にあり,常勤職員の増員に伴う脳波検査件数枠の増枠もあって2013年と比較して約2倍の脳波検査件数に増加している。また,2015年からは長時間ビデオ脳波検査の電極装着と管理を業務に取り入れ,検査件数も2015年と比較して約5倍に増加しており,概ね増加傾向にある(Figure 2)。
Gray bars = number with electroencephalography: Black bars = number with long-term video electroencephalography.
脳波検査は,2015年に生理機能検査機器更新にて購入された据え置きの脳波計(EEG-1200)2台,出張検査用の脳波計(EEG-1214)1台にて運用を行っていた。また,長時間ビデオ脳波検査は,てんかんセンター設立以前に購入された脳神経外科/小児科所有の脳波計(EEG-1200)1台,神経精神科所有の脳波計(EEG-1200)1台にて運用を行っていた。脳波計5台は,生理機能検査部門と所有する各診療科による運用状況に下記に示す通り相違があり問題となっていた。脳波計の問題としては,出張検査用の脳波計(EEG-1214)にはビデオ記録するカメラが装着されていないため,検査中の患者行動が記録不可であり,特に発作が起きた際の異常波形出現時の患者の動作が記録できないことが問題であった。脳波検査は,検査終了後,臨床検査技師において脳波所見をレポートに記載していた。しかし,各診療科医師による脳波判読を記載する欄はなく,診療用電子カルテ端末等に記載されており,統一された書式はなかった。このことから,医師による脳波判読の有無が不明なことも多く,問題と考えられた。また,脳波検査を施行する脳波計は,生理機能検査部門システムに接続されており,脳波記録とレポートは診療用電子カルテ端末で閲覧可能である一方で,長時間ビデオ脳波検査を施行する脳波計は,脳神経外科/小児科と神経精神科の占有となっており,診療科ごとの限られた専用端末のみ閲覧可能であり,診療用電子カルテ端末では閲覧不可能であった(Figure 3)。長時間ビデオ脳波検査は,病棟にて検査施行しているが,2022年生理機能検査機器更新以前の病棟において院内LAN端子を設置している病室は,脳神経外科病棟13室,小児科病棟1室,神経精神科病棟0室となっており,院内LAN端子を設置していない病室で検査施行した場合,検査終了後,生理機能検査室にて脳波記録を専用端末へ転送する作業が発生し,手間がかかる運用となっていた。
The clinical laboratory operations prior to 2022. The electroencephalography records and reports were viewable in the electronic medical records in our hospital. However, the long-term video electroencephalography records could only be viewed for a limited number of electronic medical records in our hospital.
上記に記載している運用状況により生じていた非効率的な運用体制の改善が望まれた。実現には,今まで脳波計を所有していた各診療科と検査部の協力が必要不可欠と考えられた。そこで,2022年生理機能検査機器更新では,各診療科と協力体制のもとで更新を行うこととした。また,生理機能検査機器更新において「脳波検査及び長時間ビデオ脳波検査の生理機能検査部門への統合かつ効率的に管理運営する」ことを念頭に目標を定め,計画を立てて実行した。実現したい目標は,①脳波所見について共有化すること,②脳波計を院内で統合的に運用すること,③検査業務の効率化を行うこと,の3つとした。目標達成に必要な行動は,①脳波レポートの見直しにより臨床検査技師と医師の共有化を可能にする,②脳波検査と長時間ビデオ脳波検査のシステム統合を行い一元管理する,③業務効率化を目的とした脳波計及び院内システムの環境整備を行う,の3点であった。以上の目標を達成するために脳波計の機器検討,脳波レポートの改修と院内システムの整備に取り組んだ。脳波計の機器選定に関しては,①各診療科からの要望,②機器の基本性能と運用体制を鑑みて総合的に評価を行い,選定を行った。
前述に記載している経緯を経て,脳波計5台を日本光電社製に選定し,いずれもビデオ記録が可能な脳波計に統一した4)。脳波検査室に設置する据え置きの脳波計と長時間ビデオ脳波検査に使用する脳波計はEEG-1260を,脳波検査室にて出張検査用の脳波計はEEG-1274を導入し,レポートの改修を行った。脳波検査と長時間ビデオ脳波検査を生理機能検査部門システムに統合し,脳波記録とレポートすべてを診療用電子カルテ端末で閲覧可能な運用とした(Figure 4)。また,現在新病棟整備を行っており,併せて院内LAN端子を設置した病室を脳神経外科13室,小児科11室,神経精神科16室に増設した。以下,目標を達成するための行動と成果について考察する。
The electroencephalography records and long-term video electroencephalography records and reports were viewable from the electronic medical records in our hospital.
既存のレポートシステムは,臨床検査技師の記載のみであったので,脳波所見を共有化するためにも改修する必要があった。改修内容は,臨床検査技師が脳波所見について記載し承認依頼を行う。次に,医師により脳波判読を行い,レポートに所見を記載,総合判定と承認を行う手順とした。そして,医師が所見を記載し承認を行うことで,レポートが未判読から判読済になるシステム変更を行った5),6)(Figure 5)。また,レポート内容に関しても既存のレポートを活かしつつ,てんかんセンター医師からの要望を受け入れ,レポート内容の改善を行った。レポート改善にて臨床検査技師が記載する内容は,覚醒度,背景脳波については振幅,周波数,優位リズムの種類と部位,左右差の有無,周波数変動の有無,α波の漸増漸減の有無,開眼による抑制の有無,睡眠波出現の有無,賦活脳波については光刺激に対する反応,過呼吸に対する反応,音刺激に対する反応,異常波形については出現部位,振幅,波形の種類,頻度を記載するようにした。そうすることで,臨床医から求められている脳波所見内容を記載することが可能となった。さらに,レポートの改修以降,医師による脳波判読の有無が簡便に分かるようになり,未判読の脳波検査に関しては,臨床検査技師から医師に確認を促せる体制になった。また,判読済の脳波所見を再度閲覧することも可能であり,医師の判読内容を参照することで,臨床検査技師の脳波判読所見の知識向上に貢献していると思われた7)。今後,てんかんカンファレンスや関連学会への参加,日本臨床神経生理学会専門技術師認定を取得することでさらなるレベルアップを図っていきたいと考える。
First, the clinical technologist describes the electroencephalography findings and requests approval. Next, the physician reads the electroencephalography, notes the findings in the report, and makes an overall judgment and approval. Finally, the physician approves the report, and it goes from unread to read.
長時間ビデオ脳波検査の脳波計は,各診療科所有の機器として扱われていた。そのため,脳波結果の参照は,診療科ごとの限られた専用端末のみ閲覧可能であり,診療用電子カルテ端末では閲覧不可能であった。今回,脳波検査と長時間ビデオ脳波検査の一元管理を目的として長時間ビデオ脳波検査を生理機能検査部門システムに統合した。その結果,長時間ビデオ脳波検査の脳波結果が,生理機能検査部門システムを経由し,診療用電子カルテ端末に接続されたため,どこの診療科においても脳波結果を確認できるようになった。また,生理機能検査機器更新以前は,長時間ビデオ脳波検査の脳波計は,脳神経外科と小児科1台,神経精神科1台にて運用を行っていた(Figure 3)。しかし,生理機能検査部門システムに統合することで,基本的な運用に変更はないが,脳神経外科と小児科にて重複して検査があった場合,神経精神科の脳波計を使用できる体制になり,脳波計使用の効率化と長時間ビデオ脳波検査件数の増加に貢献していると考えられた。また,長時間ビデオ脳波検査の脳波結果が4時間毎に診療用電子カルテ端末に送付されるため,生理機能検査室にて脳波結果を参照することで,患者の電極装着の不備が確認できるようになり,迅速に対応できる体制になった。しかし,時間外については対応できる臨床検査技師はおらず,看護師が対応を行っているが,患者の電極装着の不備や機器トラブル等については対応できず,これらの事象に対しての対応方法について看護師への周知,教育が今後の課題と考えられる。
3. 業務効率化を目的とした脳波計及び院内システムの環境整備今回の達成目標に業務効率化を目的とした脳波計及び院内システムの環境整備を入れた理由は,以下の通りであった。脳波計を所有する生理機能検査部門と各診療科によって機器の性能や検査方法が異なっており複雑であったこと,院内LAN端子が整備されていない病室にて長時間ビデオ脳波検査を施行するには手間がかかったこと,さらに脳波検査と長時間ビデオ脳波検査件数が年々増加傾向にあり,業務効率化が必要であったことである。これらを改善するために取り組んだ「脳波検査の検査方法及び脳波計性能の標準化」「院内LAN端子増設」について考察する。まず,脳波検査を施行する際,各診療科によってモンタージュが7パターン[脳神経外科(T1,T2あり,なし),小児科(T1,T2あり,なし),神経内科(T1,T2あり),その他診療科(T1,T2あり,なし)]存在し,診療科とオーダー医の要望によってモンタージュを選択,脳波検査を施行していた。据え置きの脳波計には,モンタージュが7パターン組み込まれていたが,出張検査用の脳波計には4パターンしかなく,診療科とオーダー医の要望により,モンタージュを選択,足りない場合は,臨床検査技師により脳波設定の再構築や,メーカーに問い合わせをしていた。このことから,出張検査用の脳波計のモンタージュを7パターンにし,できる限り脳波設定を再構築しない運用に変更,据え置きの脳波計と統一し検査方法の標準化を行った。また,出張検査用の脳波計にもビデオ記録が可能になったため,検査の統一化が図られた。これらの検査方法と脳波計の性能を統一化した結果,検査を施行する臨床検査技師のモンタージュについての問い合わせは減少し,誰でも迷うことなく検査が施行できる環境が構築できた。また,院内LAN端子を設置していない病室で検査施行した場合,検査終了後,脳波検査室にて脳波記録を専用端末へ転送する作業が発生していたが,院内LAN端子の増設を行ったため,脳波記録を専用端末に転送する作業が減り臨床検査技師の業務負担は軽減された。このような,「脳波検査の検査方法及び脳波計性能の標準化」「院内LAN端子増設」をすることで,誰でも簡単に検査できるだけでなく,検査業務の大幅な効率化につながった。
てんかんセンター設立以降,脳波検査件数は増加し,また,長時間ビデオ脳波検査時の電極装着と管理を担当するなど生理機能検査部門の役割は増している。今回,各診療科が所有する脳波計を生理機能検査部門に統一することで効率的に管理運営することを目的とした機器更新を行った。管理運用を生理検査部門に統一することで業務負担を増やす恐れがあるものの,機器,検査結果を一括管理ならびに院内システムを整備することは効率的な管理運営をする上で非常に有用な手段と考えられた。また,レポートの改修を行い,医師と脳波判読所見を共有することで臨床検査技師の知識向上に貢献していると考えられた。今後,診療科の協力のもと,院内システムや運用効率のさらなる改善を通して,脳波検査の運用をより活性化するとともに,生理機能検査部門のプレゼンス向上を図っていきたい。最後に,今回このような大規模な設備を導入することは,すべての病院では難しいと思われるが,少しでも他病院の導入検討の一助になれば幸いである。
本論文趣旨は,第9回 全国てんかんセンター協議会総会にて発表した。
本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。