医学検査
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医師労働時間短縮計画の策定に臨床検査技師が貢献するために各施設の臨床検査室が着手すべき内容について
板橋 匠美深澤 恵治勝山 政彦丸田 秀夫
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2024 年 73 巻 4 号 p. 794-799

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Abstract

我が国では医師の過重労働が深刻な問題となっており,これを是正するため,2024年4月から医師の時間外・休日労働の上限規制が適用された。各医療施設はこのための医師労働時間短縮計画の策定が求められ,その方策の一つとして臨床検査技師へのタスク・シフト/シェアが挙げられた。日本臨床衛生検査技師会(日臨技)は,臨床検査技師を取り巻く現状を把握するため,施設実態調査と会員意識調査を実施しており,令和5年度の調査結果によると,当該計画策定のための院内会議に臨床検査室が参加していない施設が7割にのぼった。この傾向を改善するために各施設が取り組みやすい対応策を見出し示すことを目的に分析したところ,タスク・シフト/シェア講習会の受講状況が良好な施設ほど,臨床検査技師が当該計画策定のための院内会議に参加している割合が高いことが示された。このため,臨床検査室の管理職の立場にある者は施設管理層に対して臨床検査技師へのタスク・シフト/シェアの重要性の理解を求めるとともに,講習会の受講を促進することが急務である。特に,若年層を中心とした受講促進策や施設負担での講習会開催が有効とされる。これにより臨床検査室が計画策定に積極的に参加することが期待される。

Translated Abstract

In Japan, the issue of overwork among doctors is a serious concern. To address this, from April 2024, new regulations will cap doctors’ overtime and holiday work hours. As a result, each medical facility must develop a plan to reduce doctors’ working hours. One proposed solution is task-shifting and task-sharing with clinical laboratory technicians. The Japan Association of Medical Technologists (JAMT) conducted surveys to understand the current situation of clinical laboratory technicians. The 2023 survey results indicated that 70% of facilities did not include their clinical laboratories in the internal meetings for developing these plans. To improve this trend, the analysis aimed to identify easy-to-implement strategies for facilities. It was found that facilities with good attendance at task-shifting and task-sharing training sessions had higher participation of clinical laboratory technicians in internal planning meetings. Therefore, it is urgent for those in management positions in clinical laboratories to emphasize the importance of task-shifting and task-sharing to facility administrators and to promote attendance at training sessions. Specifically, strategies to encourage younger technicians to attend and organizing training sessions at the facility’s expense are considered effective. This will likely lead to more proactive involvement of clinical laboratories in the planning process.

I  はじめに

1. 背景

「過労死ライン」は,①発症前1か月間におおむね100時間を超える時間外・休日労働または②発症前2か月間ないし6か月間にわたって1か月あたりおおむね80時間を超える時間外・休日労働を指す1)

我が国の医療は,この過労死ラインを更に超えた年1,860時間以上の時間外・休日労働を病院常勤勤務医の約1割が実施している状況にあり,これを是正するため,「医師の働き方改革に関する検討会」及び「医師の働き方改革の推進に関する検討会」における議論2)を経て「良質かつ適切な医療を効率的に提供する体制の確保を推進するための医療法等の一部を改正する法律」(令和3年法律第49号)3)を成立させることで,労働基準法(昭和22年法律第49号)第141条の規定により,国策として令和6年4月から医師に対する時間外・休日労働の上限規制を適用し始めた。

厚生労働省はこれらの規制の対象となる医師を雇用する医療施設に「医師労働時間短縮計画」の策定を求め4),医療機関の管理下において,その医師の健康と地域の医療提供体制の確保を両立しつつ,各医療機関における医師の労働時間の短縮を計画的に進めるよう施策として強く推進した。

併せて各医療施設の体制を踏まえて,自施設が必要な取組を選び,より能動的に対応できるよう方策をいくつも整備した。その一つには,医師から臨床検査技師への業務の移管(タスク・シフト)や共有化(タスク・シェア)が挙げられ,資格法は令和3年に業務追加のための改正(以下,法令改正)が行われた。

今後の医療の在り方は,各施設で積極的に活用された方策により左右される部分があるといえる。

2. 目的

日本臨床衛生検査技師会(以下,日臨技)では,臨床検査技師を取り巻く社会情勢並びに現状を,今後の日臨技事業活動の参考資料とするため,施設実態調査および会員意識調査を2年毎に実施しており,直近として令和5年度の結果が令和6年4月にとりまとめられて公開された5)

この調査によると「医師労働時間短縮計画」の策定に向けた院内における会議にあたり,臨床検査室への呼び掛けがない施設が7割を占めていた。

そこで当該調査データを更に分析することで,この傾向を改善するために各施設が取り組みやすく,かつ効果が見受けられる対応策を見出し,一方法のエビデンスとして示すことを目的とする。

II  方法

令和5年度の施設実態調査および会員意識調査で得られた情報を用い,単純集計で得られた値に,他の設問や性別,年代等の基本情報を掛け合わせて集計を行い,有効性のみられる有意差を分析した。

厚生労働省の令和4年医療施設(動態)調査・病院報告6)で全国の病院は8,156施設となっており,これら医療施設のうち当会会員が所属する施設の中で本調査への協力施設は4,890施設(60.0%)となっている。

本分析の対象は,施設実態調査では日臨技会員が1名以上所属している施設の臨床検査責任者とし,会員意識調査では日臨技の会員すべてとしており,令和5年12月から令和6年1月に実施され,施設実態調査で48.7%(回答施設3,734件),会員意識調査で21.4%(回答者15,021名)の回答率及び回答者数のものを用いた。

なお,調査結果の分析においては,回答者の匿名性の確保,データの正確性および一貫性の維持の点に注意を払い,調査結果が信頼性と客観性を持つよう努めた。

一方,医療施設において様々なバイアスが結果の解釈に影響を与えることから,その排除は困難であることを考慮し,結果はあくまでもすべて可能性として扱うこととした。

III  成績・結果

1. 医師の働き方改革推進ための院内会議における臨床検査室への呼び掛け状況

医療施設における医師労働時間短縮計画の策定に向けた院内会議(以下,院内会議)の実施にあたり,「臨床検査室への呼び掛けがない施設」の特徴を把握するための分析をした結果,「臨床検査技師等に関する法律施行令の一部を改正する政令等の公布について」(令和3年7月9日付医政発0709第7号厚生労働省医政局長通知)7)に基づき,日本臨床衛生検査技師会が実施するタスク・シフト/シェアに関する厚生労働大臣指定講習会(以下,講習会)の受講状況が良好な施設ほど,医師労働時間短縮計画の策定に向けた院内会議で臨床検査技師がメンバーとして参加している割合が高いことが示された(Table 1)。

Table 1 タスクシフト指定講習会受講状況と「医師労働時間短縮計画」策定に向けた院内会議開催状況の相関

〈施設実態調査〉 問11と問16から作成 「医師労働時間短縮計画」策定に向けた院内会議開催状況
臨床検査技師が会議のメンバーとなり開催された 開催された 短縮計画策定に向けて,検査部に相談があった 現時点で,検査部に相談はない 合計
タスクシフト
指定講習会
受講状況
全員が受講済みである 42 37 17 180 276
スタッフの7割以上が受講済みである 109 112 44 180 445
スタッフの5割以上が受講済みである 61 96 47 196 400
スタッフの3割以上である 71 90 44 162 367
スタッフの2割以下である 77 103 41 281 502
受講済みのスタッフはいない 60 87 39 843 1,029
タスクシフト指定講習会の開催を知らなかった 0 3 1 64 68
合計 420 528 233 1,906 3,087

着目すべき点としては,逆に院内会議への呼び掛けがない1,906施設において,843施設(44.2%)で講習会の修了者がいなく,1,286施設(67.5%)で修了者が5割未満の点である。

2. 講習会修了者が少ない施設の受講料負担の状況

院内会議の実施にあたっての呼び掛け状況の傾向を踏まえ,「講習会修了者が少ない施設」の特徴を把握するための分析したところ,講習会の受講料を施設負担としているほど,多くの施設のスタッフが講習会を受講している傾向が示された(Table 2)。

Table 2 タスクシフト指定講習会受講状況と受講料負担者状況の相関

〈施設実態調査〉 問11と問11-1から作成 受講料負担者状況
施設が負担した 受講者自身が
負担した
その他 合計
タスクシフト
指定講習会
受講状況
全員が受講済みである 179 82 7 268
スタッフの7割以上が受講済みである 261 83 13 357
スタッフの5割以上が受講済みである 213 121 12 346
スタッフの3割以上である 183 119 11 313
スタッフの2割以下である 179 267 28 474
合計 1,015 672 71 1,758

着目すべきは,講習会修了者が院内スタッフの2割以下である474施設のうち,267施設(56.3%)が受講料を自己負担としている結果であるのに対し,院内スタッフの7割以上が修了している625施設は,440施設(70.4%)が受講料を施設負担としている点である。

3. 講習会の受講料が自己負担となっている施設の法令改正内容の実施状況

先の傾向をさらに深堀するため,その他に認められる特徴を把握するための分析したところ,受講料を施設負担としている施設ほど,法令改正により追加された10行為(以下,拡大業務)を実施していることが示された(Table 3)。

Table 3 法令等改正による追加10行為の実施状況と受講料負担者状況の相関

〈施設実態調査〉 問15と問11-1から作成 受講料負担者状況
施設が負担した 受講者自身が負担した その他 合計
法令等改正による追加10行為の実施状況 医療用吸引器を用いて鼻腔,口腔又は気管カニューレから喀痰を採取する行為 5 1 0 6
内視鏡用生検鉗子を用いて消化管の病変部位の組織の一部を採取する行為 59 36 3 98
運動誘発電位検査 140 37 5 182
体性感覚誘発電位検査 153 46 9 208
持続皮下グルコース(CGM)検査 129 50 6 185
直腸肛門機能検査 12 1 2 15
採血のため静脈を確保し,当該静脈路に接続されたチューブにヘパリン化生食など充填する行為 22 8 1 31
採血のため静脈を確保し,当該静脈路に点滴装置を接続する行為(電解質輸液の点滴) 14 9 0 23
採血のため静脈を確保し,血液成分採血装置に接続,機器操作,抜針及び止血する行為 6 2 0 8
静脈を確保し,超音波検査のための造影剤の投与,抜針及び止血する行為 40 4 3 47
現時点では,上記行為について実施していない 634 476 43 1,153
合計 1,214 670 72 1,956

着目すべきは,受講料を自己負担としている670施設のうち,476施設(71.1%)が拡大業務を現時点では何も実施していないという点である。

なお,「受講料の自己負担割合」において,「院内会議への呼び掛け割合」と「拡大業務の実施割合」に相関が認められたことを考慮し,これら2つに直接つながる特徴がないかを把握するためにクロス集計を主体とした分析をした結果,特徴といえるものは認められなかった。

4. 講習会における年齢層別の受講意識

院内会議の実施にあたり「臨床検査室への呼び掛けがない施設」の特徴に,講習会の修了状況と相関があったことを踏まえ,医療施設に所属する者における講習会の受講意識を年齢層別で分析したところ,年齢が高くなるほど講習会の受講意思が減少する傾向が示された(Table 4)。

Table 4 年齢状況と本人の講習会受講意識の相関

〈会員意識調査〉
Cと問10から作成
本人の講習会受講意識
受講する(又は受講済み) 受講
しない
わからない 合計
年齢状況 20歳以下 0 0 0 0
21~25歳 930 60 221 1,211
26~30歳 1,401 124 255 1,780
31~35歳 1,179 133 268 1,580
36~40歳 1,169 152 293 1,614
41~45歳 1,131 147 313 1,591
46~50歳 1,238 220 369 1,827
51~55歳 1,269 274 411 1,954
56~60歳 915 439 360 1,714
61~65歳 255 320 150 725
66~70歳 24 65 31 120
71歳以上 4 8 7 19
合計 9,515 1,942 2,678 14,135

着目すべき点としては,受講しない意思を示す者は定年退職を迎える年齢分布においてピークに達していることに加え,不明確な意思を持つものが年齢分布での偏りがないという点である。

IV  考察

各医療施設の医師労働時間短縮計画の策定において,臨床検査技師が関わる施設を増やすために必要な改善点について分析を行った。

そもそもの考え方として,病院経営側が臨床検査技師へ業務をタスクシフトする必要があると判断すれば,院内会議に臨床検査室からの参加を求めて施設実態に合わせた調整を行い,人材確保のため講習会の受講料を施設が負担し,トップダウンにより導入を諮ることとなると推察する。これを踏まえ,以下に主要な考察点をまとめる。

1. 院内会議における臨床検査室への呼び掛け状況

院内会議に臨床検査室が参加している施設では,講習会の受講状況が良好であることが明らかであった。これは,講習会の受講が医療スタッフの専門性と意識を向上させ,医師の働き方改革に向けた協力体制を強化することの一翼を担っていると考えられる。

一方で,講習会修了者が少ない施設で臨床検査室に呼び掛けが少ない状況は,施設全体の協力体制の欠如や教育体制の不備を反映している可能性も否定できないと推察する。

2. 講習会修了者の受講料負担と呼び掛け状況

講習会の受講料を負担する施設では,受講率が高くなる傾向が示された。これは,病院経営の観点から業務命令により受講させていることと,命令がない場合においても経済的負担の軽減から受講意欲を高めることが要因の一翼を担っていると考えられる。

このことから,病院経営側の認識を変え施設負担で受講を推進することが,臨床検査技師のスキル向上につながり,結果として医師の働き方改革に貢献する可能性があると推察する。

3. 拡大業務の実施状況と受講料負担

法改正で追加された拡大業務の実施状況においても,受講料負担が施設側である場合,実施率が高いことが示された。これは,施設が教育投資を行うことで,法改正に対応した業務遂行能力が向上する可能性があることを意味している。

拡大業務はどの医療施設でも患者に医療提供しているわけではないことから一概には言えないものの,一つの要因として,受講料を自己負担とする施設では,経済的な理由から受講率が低くなり,その結果として臨床検査技師による拡大業務の実施率が低い可能性も否定できないと推察する。

4. 年齢層別の受講意思

年齢が高くなるほど講習会の受講意思が低下する傾向が示されたことから,若年層への受講促進が重要であることが確認できた。特に定年退職を迎える年齢層では受講意思が著しく低下しており,これは将来的な教育体制の見直しが必要であることを示唆している。また,全ての年齢層に対して何らかの明確なインセンティブを提供することで,受講意思の向上が期待される。

5. その他結果の解釈に影響を与えていると考えるバイアス

上記は施設実態調査および会員意識調査で得られた情報をもととした分析結果による考察であるが,この結果は一側面でみた場合の解釈に過ぎず,裏付けとなる情報が非常に乏しいことは言うまでもない。

他方で,拡大業務の実施には,これまである者(部署)が実施していた業務を,これまで実施したことがない者(部署)が行うこととなるため,個々の管理職の立場においてそれ相応の調整が必要となってくる。組織においてこれらの行動を起こすためのきっかけはトップダウンかボトムアップとなるが,タスクシフト・タスクシェアに対する理解度が低い施設ではこの調整は前提として困難となりかねない。

医師の時間外労働の上限規制が施設に対して既に行われていることを鑑み,管理職の立場においては施設の実情を考慮し,院内会議を実施する側に立つ施設管理層と共通認識を持てるよう理解を求めていくことも導入前には必要といえる。

6. 臨床検査室が着手すべきと考える改善策

本調査の結果を踏まえ,医師労働時間短縮計画の策定に臨床検査技師が貢献するため,各施設の臨床検査室が着手すべきと考える改善策は以下となる。

・施設管理層へタスク・シフト/シェアの理解の促進:前提としてその理解度が低い場合,この方策が有用性あったとしても活用されていない事態が起きてしまうため,管理職の立場において理解を求めていくことも必要といえる。

・若年層への受講促進:年齢が高くなるほど受講意思が低下する傾向があるため,若年層をターゲットにした受講促進策が有効といえる。

・施設負担での講習会受講の推進:業務命令により受講させていることや経済的負担の軽減が受講促進に寄与することが可能性として挙がるため,病院経営側に必要性の理解を得ることで施設負担での講習会受講を推進することは有効といえる。

これらの改善策により,臨床検査技師のスキル向上と協力体制の強化が図られ,医師の働き方改革の推進に寄与することが期待される。臨床検査室全体の課題として取り組むことが,結果として医療現場の効率化と労働環境の改善に影響を当たるものと見込まれる。

V  結語

これらの結果と考察は,臨床検査技師の役割を強化し受講環境を整備することが,医師の働き方改革の推進の一助となることを示している。

特に,講習会の受講料を施設が負担することで,修了者の増加と医師から臨床検査技師へのタスク・シフト/シェアを促進される可能性があることが明らかとなった。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

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