2025 年 74 巻 1 号 p. 140-146
千葉県臨床検査技師会は,数度の予備検討後,2023年に市販試薬を試料としたSARS-CoV-2核酸増幅検査外部精度管理を実施した。試料の希釈方法はウイルス輸送培地よりも精製水が望ましく,配布濃度は,各機器の希釈工程に沿い,最終反応系における濃度を考慮し機器に合わせて調整した。62施設が参加し14機種,延べ62機器を評価したところ,検出限界濃度付近の設定と推測された1機種を除き,陽性試料が検出されることを確認した。一方,陰性試料を陽性と誤答した施設を3施設認めた。外部精度管理実施を望む会員施設は多く,市販試薬を利用した本精度管理調査は安定して継続可能な事業と考える。
After several preliminary examinations, the Chiba Prefecture Clinical Laboratory Technologist Association conducted an external quality assessment of SARS-CoV-2 nucleic acid amplification testing using 2023 commercially available reagents. Distilled water was preferred for sample dilution over the virus transport media, and the distribution concentration was adjusted to match the final reaction system concentration with each device’s dilution process. Of the 62 facilities and 62 devices evaluated across 14 models, positive samples were confirmed, excluding one model suspected to be affected by settings near the detection limit concentration. However, three facilities falsely identified negative samples as positive. Member facilities want to implement external quality assessments, and this quality control assessment using commercially available reagents is considered a stable and sustainable operation.
2020年の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)出現により,各施設で核酸増幅検査体制の構築が必要とされた。同年に実施した千葉県内31施設のアンケート調査では,21施設(病床数45–716;中央値312)が初めて核酸増幅検査機器を導入したことが確認されている。一方,新興感染症として急激に感染が拡大したCOVID-19に対し,各種検査試薬は十分な臨床治験を実施することができないまま販売され,流行当初は性能が不安定な検査機器を認めていた。このような背景から,千葉県臨床検査技師会が実施する外部精度管理事業におけるSARS-CoV-2核酸増幅検査の実施要望を受け,全ての機器で測定可能な試薬の選定,希釈方法,配布濃度を検討したため,その経験を報告する。
千葉県内の施設を対象とし,2021年に21施設12機種,延べ36機器で試薬,希釈媒体検討を実施した。2022年には49施設9機種,延べ66機器で予備検討を実施し,2023年に外部精度管理として,62施設14機種,延べ62機器で評価を実施した。
2. 外部精度管理試料の準備 1) 試薬選定市販のSARS-CoV-2遺伝子検査精度管理コントロール試薬2製品(Table 1)を定価,濃度の点から使用候補とし,試料用の試薬検討を実施した。
製品名 | 販売 | 規格 | 価格※ | 内容 | |
---|---|---|---|---|---|
試薬1 | Exact Diagnostics EDX SARS-CoV-2 Standard |
Bio-Rad | 200,000 copies/mL 0.3 mL × 5本/箱 |
70,000円 | E,N,S,ORF1ab, RdRP合成遺伝子 |
試薬2 | HELIX ELITE Inactivated SARS-CoV-2 Whole virus |
関東化学 | 100,000 copies/pellet 5個/箱 |
149,000円 | Full Genome (非感染性) |
※2024年3月25日確認時点
希釈媒体を検討するにあたり,試薬1:Exact Diagnostics EDX SARS-CoV-2 Standardをウイルス輸送用培地(VACUETTE Virus Stabilization Tubes,Greiner Bio-One)により希釈し,Loopamp新型コロナウイルス2019(SARS-CoV-2)検出試薬キット(LAMP,栄研化学)で最終反応系に200コピーとなるよう添加したところ5施設中4施設で測定不可となり,反応過程に影響することが確認された。ウイルス輸送用培地は,種類によってはグアニジンなどの不活化剤を含むことでダイレクトPCR測定系に影響するため,各メーカーの対応を確認することが必要とされている1)。そのため,注射用精製水(日本薬局方注射用水;光製薬株式会社),ウイルス輸送用培地(Universal Transport Medium(UTM, COPAN))の2種を候補とし,希釈媒体の検討を実施した。
3) 機種毎の濃度設定測定機種によっては希釈操作を行う工程が含まれ,全ての機器で検出できる濃厚な試料を準備するためには市販試薬を複数セット購入する必要があること,濃厚な濃度が期待できる臨床検体の使用は経年的に同一試料による連続した施設評価を行うことが不可であることなどの理由により,単一濃度の試料を配布するのではなく,測定機器の最終反応系でのコピー数を考慮し各機器に合わせた試料を配布することとした。国立感染症研究所が2020年3月に「新型コロナウイルスの遺伝子検査法の性能評価」として,逆転写及び遺伝子増幅時間に沿い検出限界(ウイルスゲノムコピー/反応以下)を設定しており(Table 2)2),この濃度で検討したところ,検討時の全ての機器で検出することが確認できたため配布濃度とした。一方,ID NOW新型コロナウイルス2019(ID NOW, Abbott),LAMPは希釈倍率が大きく,同様の濃度で準備すると試薬が足りなくなるため,別途検討により検出可能と確認された配布濃度を独自に設定した(Table 3)。
逆転写及び 遺伝子増幅時間 |
検出限界(ウイルスゲノム コピー/反応 以下) |
千葉県内施設 使用機器例 |
---|---|---|
1時間以上 | 50 | BD max, RT-PCR (TaqPath), RT-PCR (Ampdirect), etc. |
15分~1時間未満 | 100 | LAMP※1, FilmArray, Smart Gene, TRCReady-80, GENECUBE, Cobas Liat, etc. |
15分未満 | 200 | ID NOW※2 |
※130 copies/test ※2100 copies/testに変更
BD max(日本ベクトン・ディッキンソン),TaqPath(Thermo Fisher Scientific),Ampdirect(Shimazdu),LAMP(栄研化学),FilmArray(ビオメリュー・ジャパン),Smart Gene(ミズホメディー),TRCReady-80(東ソー),GENECUBE(極東製薬工業),Cobas Liat(Roche Diagnostics),ID NOW(Abbott)
No. | Positive control | 50 copies/test※ | 10 copies/test | 5 copies/test |
---|---|---|---|---|
1 | 12:24 | 18:36 | 31:12 | — |
2 | 12:48 | 22:24 | 23:30 | 25:54 |
3 | 12:00 | 21:36 | 23:18 | 22:12 |
4 | 12:18 | 20:54 | 20:24 | — |
5 | 12:30 | 16:36 | 24:30 | — |
6 | 12:06 | 17:54 | 23:36 | — |
※必要量を考慮し30 copies/testに設定
精度管理参加希望施設に対し,前処理試薬,検査機器,検査試薬について事前アンケートを行い,機器・測定方法に準じた精度管理用試料を調製した。
配布方法はドライアイスを用いた凍結試料配送が望ましいが,2022年の予備検討の際は,同時に送付を行う他の研究班試料への影響があるとの理由で使用許可が下りず,冷蔵配送を行った。施設内検討では冷蔵で3日間は問題ないことを確認していたが,配布準備時に室温を経た影響か複数の施設で検出不可となり,それらの施設では後日凍結試料の再配布により問題なく検出されたことから,2023年の精度管理実施時はドライアイスを用いて凍結試料を配布した。
3. 測定,報告および評価方法参加施設に対し,各機器での使用試料量と,測定時の注意事項として以下の注意事項を記載した文書を配布した。
①到着後は冷蔵(2–8℃)保存し,なるべく早期(24時間以内)に測定
②24時間以内の測定が困難な場合は−20℃以下で凍結保存可。凍結融解は1回のみ
③試料に感染性はないが扱う際は手袋・サージカルマスク着用
④融解後,タッピングや転倒混和を行い,簡易遠心(スピンダウン)した後に使用
なお,回答方法はそれぞれの試料に対し,陽性,陰性,判定不能(理由)のいずれかを入力することとし,陽性の場合に算出される値(Cycle threshold;Ct値,Threshold time;Tt値,Cycle quantification threshold;Cq値等)があれば報告することとした。陽性,陰性の一致をA評価とし,不一致をD評価とした。
試料用市販試薬と希釈媒体検討結果をTable 4に示す。配布濃度条件では,試薬1を精製水希釈で調製した試料が全ての機器で検出され,試薬2を精製水希釈で調製した試料では,濃度を高めた再検査でも未検出となる施設を認めたことから,試薬1を採用した。また,試薬1においては,配布濃度より低濃度での検出能を比較した際も,UTMよりも精製水希釈が望ましい結果となった。
測定機器 | 施設 数 |
低濃度設定(copies/test) | 検討濃度設定(copies/test) | 試薬1 | 試薬2 | |||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
低濃度水希釈陽性施設数 | 低濃度UTM希釈陽性施設数 | 検討濃度水希釈陽性施設数 | 低濃度水希釈陽性施設数 | 低濃度UTM希釈陽性施設数 | 検討濃度水希釈陽性施設数 | 備考(試薬2の検討濃度陰性時の対応) | ||||
LAMP※1 | 9 | 10 | 30 | 6 | 0 | 9 | 2 | 0 | 8 | 50 cpの再検査(1施設):陽性 |
LAMP※2 | 1 | 10 | 30 | 1 | 0 | 1 | 0 | 0 | 0 | 50 cpの再検査(1施設):陽性 |
GeneXpert | 6 | 20 | 50 | 6 | 0 | 6 | 2 | 6 | 6 | |
ID NOW | 5 | 30 | 100 | 5 | 3 | 5 | 3(1:判定不能) | 4 | 5 | |
FilmArray | 3 | 30 | 100 | 2 | 0 | 3 | 1(1:判定不能) | 2 | 3 | |
TRCReady-80 | 3 | 30 | 100 | 2 | 0 | 3 | 0 | 0 | 1 | 200 cpの再検査(2施設):1施設のみ陽性 |
BD max | 2 | 20 | 50 | 2 | 0 | 2 | 2 | 2 | 2 | |
Smart Gene | 1 | 30 | 100 | 1 | 0 | 1 | 1 | 1 | 1 | |
GENECUBE※2 | 1 | 20 | 50 | 1 | 0 | 1 | 1 | 1 | 1 | |
RT-PCR(Shimadzu) | 2 | 20 | 50 | 2 | 0 | 2 | 2 | 2 | 2 | |
RT-PCR(TaqPath) | 1 | 20 | 50 | 1 | 0 | 1 | 1 | 1 | 1 | |
RT-PCR(TOYOBO) | 1 | 20 | 50 | 1 | 0 | 1 | 1 | 1 | 1 | |
ELITe InGenius | 1 | 20 | 50 | 1 | 0 | 1 | 1 | 1 | 1 | |
合計 | 36 | — | — | 31(86%) | 3(8%) | 36(100%) | 17(47%) | 21(58%) | 32(89%) |
※1ウイルスRNA抽出試薬(栄研化学)使用,※2Maxwell核酸精製(Promega)使用
ELITe InGenius(Precision System Science),GeneXpert(ベックマン・コールター)
2021年の結果をふまえ2022年に実施した予備検討では,冷蔵試料配布で60/66施設,冷凍試料再配布で残りの6施設も全て検出可能となることが確認され(Table 5),設定した濃度試料をドライアイス冷凍条件で配布することとした。
測定機器 | 施設数 | 検討濃度陽性 | 備考 |
---|---|---|---|
GeneXpert | 15 | 15/15 | |
LAMP | 13 | 13/13 | 1施設:凍結検体再検で陽性 |
ID NOW | 10 | 10/10 | |
RT-PCR※ | 16 | 16/16 | 2施設:凍結検体再検で陽性 |
TRCReady-80 | 4 | 4/4 | 2施設:凍結検体再検で陽性 |
Smart Gene | 4 | 4/4 | 1施設:凍結検体再検で陽性 |
ミュータスワコーg1 | 2 | 2/2 | 検討濃度:50 copies/test |
BD max | 1 | 1/1 | |
cobas Liat | 1 | 1/1 | 検討濃度:100 copies/test |
※Ampdirect(AutoAmp含む),TaqPath,ジーンリードエイト,Cobas,東洋紡ミュータスワコーg1(富士フイルム和光純薬)
試料1(陽性検体),試料2(陰性検体;精製水)を配布し,62施設,14機種62機器の評価を実施した(Table 6)。試料1,2共に正しく回答した56施設(90.4%)をA評価,陽性検体を陰性とした3施設(4.8%)を評価対象外,陰性検体を陽性とした3施設(4.8%)をD評価とした。
測定機器 | 配布試料濃度(copies/mL) | 使用量(μL) | 施設数 | A評価 | D評価 | 評価対象外 | 備考 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
GeneXpert | 750 | 300 | 15 | 15 | 0 | 0 | |
LAMP | 200,000 | 60 | 9 | 8 | 1 | 0 | D:陰性→陽性 入力間違い |
ID NOW | 100,000 | 25 | 9 | 8 | 1 | 0 | D:陰性→陽性 原因不明 |
Smart Gene | 14,000 | 70 | 8 | 5 | 0 | 3 | 検出限界付近の濃度設定 |
TRCReady-80 | 1,666 | 200 | 4 | 4 | 0 | 0 | |
GENECUBE | 4,500 | 200 | 2 | 2 | 0 | 0 | |
ミュータスワコーg1 | 60,000 | 100 | 1 | 1 | 0 | 0 | |
BD max | 1,000 | 750 | 1 | 1 | 0 | 0 | |
cobas Liat | 150,000 | 10 | 1 | 1 | 0 | 0 | |
RT-PCR・Autoamp(Shimadzu) | 10,000 | 5 | 6 | 5 | 1 | 0 | D:陰性→再度試料配布⇒陽性 |
RT-PCR・Cobas(5800, 6800/8800) | 250 | 600 | 2 | 2 | 0 | 0 | |
RT-PCR・Cobas(Z480) | 2,200 | 24 | 1 | 1 | 0 | 0 | ルミラ・SARS-CoV-2 RNA STAR Complete(LumiraDx) |
RT-PCR・LightCycler(Roche) | 10,000 | 5 | 1 | 1 | 0 | 0 | Ampdirect 2019-nCoV検出キット(Shimadzu) |
RT-PCR・CFX96(Bio-Rad) | 11,000 | 16 | 1 | 1 | 0 | 0 | SARS-CoV-2ダイレクトPCR検出キット(Takara) |
RT-PCR・CronoSTAR(タカラバイオ) | 11,000 | 16 | 1 | 1 | 0 | 0 | SARS-CoV-2ダイレクトPCR検出キット(Takara) |
合計 | 62 | 56(90.4%) | 3(4.8%) | 3(4.8%) |
陽性判定値(時間)が判明する機器について報告を求めたところ,希釈倍率が大きいLAMPでは,13:54~23:18とTt値に9分以上の差を認めた。Smart Gene(ミズホメディー)は4施設から値が報告され,いずれも45 Cycle中40 Cycle以上での陽性であり最終45 Cycleでの陽性施設も認めた(Table 7)。
GeneXpert | Ct値 |
---|---|
1 | N2:36.1,E:33.9 |
2 | N2:36.2,E:33.8 |
3 | N2:36.5,E:33.6 |
4 | 36.7(N2 or E) |
5 | 36.8(N2 or E) |
6 | N2:36.8,E:34.5 |
7 | N2:37.0,E:34.3 |
8 | N2:37.3,E:33.9 |
9 | 37.4(N2 or E) |
10 | N2:37.7,E:34.2 |
11 | N2:38.2,E:35.7 |
12 | N2:40.1,E:39.7 |
13 | N2:41.1,E:38.7 |
14 | N2:42.6,E:38.9 |
AutoAmp | Cq値 |
1 | N1:30,N2:29 |
2 | N1:32,N2:33 |
3 | N1:32,N2:33 |
4 | N1:32,N2:34 |
5 | N1:33,N2:32 |
6 | N1:33,N2:34 |
LAMP | Tt値(分:秒) |
1 | 13:54 |
2 | 15:42 |
3 | 16:06 |
4 | 17:00 |
5 | 17:24 |
6 | 17:24 |
7 | 17:36 |
8 | 18:00 |
9 | 23:18 |
TRCReady-80 | 検出時間(分:秒) |
1 | 2:43 |
2 | 3:44 |
3 | 3:54 |
4 | 5:42 |
Smart Gene※ | Cycle数(最大45) |
1 | 40 |
2 | 41 |
3 | 41 |
4 | 45 |
Ct:Cycle threshold,Cq:Cycle quantification threshold,Tt:Threshold time,N1 and N2:ヌクレオカプシドタンパクをコードするN1,N2遺伝子,E:エンベロープをコードするE遺伝子。
※2022年の予備検討時は43 Cycleで検出(1施設)。
千葉県内施設の要望を受け,市販試薬を精度管理用試料とした外部精度管理調査を実施した。予備検討で条件を確認したところ,希釈媒体としては良好な結果を示した精製水を採用した。UTMは臨床検体で一般的に使用される輸送用培地であるが,希釈操作の際に,精製水に比べるとやや粘性を認めており,これが検討結果に影響を与えたのではないかと推測された。各測定機器で検出可能な濃度を確認し,精製水で調製した市販試薬を測定試料として配布したが,Smart Gene測定3施設において,陽性試料が検出不能となった。正答率が62.5%と80%を下回っており日本臨床検査技師会外部精度管理と同じく,千葉県臨床検査技師会の外部精度管理では評価対象外としている。今回,検出可能であった施設の報告Cycle数,および予備検討時に報告されていた陽性時Cycle数の全てが45 Cycle中40 Cycle以上であったこと,試料配布時の問題は確認されなかったことから,本機種に対して測定限界付近の設定濃度であったことが原因であると推測されたため,陽性検体を陰性と報告したSmart Gene測定3施設のみ,試料準備側の問題による結果と判断し,評価対象外の判定とした。
陰性検体を陽性と報告した施設を3施設認めた。LAMPでの1施設はTt値が報告されておらず,確認したところ実際は陰性であったが入力間違いと判明した。AutoAmp(Shimadzu)での1施設は,陽性値とほぼ同じCq値を報告しており手技上の誤りも疑われたが,確認したところ原因について思い当たることがないとの回答であった。なお,この施設に再度凍結試料を配布したところ,正しく検出が行われた。また,ID NOWで1施設認められたが,検査反応過程を確認することができない測定方法であり,ロットによる偽陽性なのか手技によるものか,原因は不明であった。
今回使用したExact Diagnostics EDX SARS-CoV-2 Standard試薬は,200,000 copies/mLと高濃度であるが,LAMPでウイルスRNA抽出試薬を使用する場合400倍希釈して反応系に添加するため,原液60 μLを使用してようやく反応系では30 copies/testとなる。一方,Ampdirect 2019-nCoV検出キット(Shimadzu)を使用するRT-PCRでは,配布した試料を希釈することなくそのまま添加するため10,000 copies/mLで5 μLが必要量であり,機種により用意する試料濃度・量は大きく異なる。そのため,希釈工程を含めた調査では各機器に応じた試料準備が必要と考える。また,今後新たな測定法を追加する場合は,評価を行うにあたり随時予備検討の実施が望まれる。
市販されている試薬濃度表示は,精度の高いDroplet digital PCR法で確認している場合であっても若干の誤差が生じるとされており,今回の検討では使用していないが,AcroMetrixCoronavirus2019(COVID-19)RNA Control(Thermo Fisher Scientific)のCOVID-19 Low Positive Controlのように,試薬濃度が5 × 102/μL ± 20%との表記で販売されている製品も認める。今回,Smart Geneで測定限界付近の濃度が原因と推測される検出不能結果を認めたが,このような場合は設定濃度を高める必要があるといえる。
SARS-CoV-2核酸増幅検査の外部精度管理調査は,奈良県臨床検査技師会が2022年に報告を行っている3)。この調査では,倫理審査委員会の承認を得てバイオセーフティー・レベル3適応検査室で処理した臨床検体と,市販試薬試料を配布している。発症3日以内の検体から抽出した試料はいずれの機器でも検出され,発症直後の検体はコピー数が多い理想の試料と考えられるが,継続して実施するにあたっては検体確保の課題や測定施設の評価,特に検出不能と報告する施設に対しては慎重に評価を行う必要があると思われる。また,市販試薬試料の検討では検出不能となる施設を認めており,市販品を使用する場合は機器の適応確認または配布濃度の事前調製が必要と考える。この報告では,陽性検体として5,000 copies/mL濃度試料を配布し,LAMP法実施施設では正答率が5/7施設(71.4%)の結果となっている。この濃度試料では,LAMP法の反応系においては13 copies/testとなり,我々の事前調査において測定限界が5–10 copies/testと推測された結果から,陽性検体として配布するには測定限界付近の薄い濃度であることが推測され,より十分な濃度の試料配布が望まれる。これらの課題を解決するため,我々は事前調査を行うことで市販試薬を測定機器に応じた濃度に調製し,陽性検体が陽性と判定される配布条件を確認した上で,評価を行うことを試みた。なお,希釈倍率の大きいLAMP法においては,陽性判定値(Tt値)に最大9分以上の施設間差を認め,測定時の手技に注意が必要であることを指摘することができた。
本調査には,主に2つのリミテーションが存在した。1つ目のリミテーションは,本調査は単回の調査であり,機器・試薬・操作の精度について十分な評価を実施できなかった。今後,同様の調査を繰り返し実施することで,これらの参加施設の機器・試薬・操作の精度を評価していく必要がある。2つ目のリミテーションは,参加施設が少ない機器が存在したことである。特に参加施設が1施設のみの機種では他施設の結果と比べることができず,本調査ではこの点を評価できなかった。一方,遺伝子機器の簡易化に伴い,多くの施設で様々な機器が使用されており,外部精度管理として実施してほしいとの意見を受け今回の取り組みが行われた。今回の経験から,機器によっては試料の配布濃度を十分検討すべきであることも今後の検討課題として確認された。
なお,患者検体を用いた遺伝子検査実施時には,適切な検体採取・輸送や結果報告過程といった要素も各施設の検査能力として評価するべきであり,今後の取り組むべき課題であると考える。
千葉県臨床検査技師会において,SARS-CoV-2核酸増幅検査の外部精度管理調査を実施した。市販試薬を使用することにより,準備が容易かつ安定した試料を供給できる。会員施設の実施要望があることから,今後も外部精度管理の一つして調査の継続を検討していきたい。
本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。
精度管理配布試料の条件検討を行うにあたり,多くの施設にご協力をいただきました。あらためまして感謝申し上げます。