医学検査
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74 巻, 1 号
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総説
  • 板橋 匠美, 深澤 恵治, 奥沢 悦子, 長沢 光章, 長原 三輝雄, 南部 重一
    原稿種別: 総説
    2025 年74 巻1 号 p. 1-13
    発行日: 2025/01/25
    公開日: 2025/01/25
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    日本臨床衛生検査技師会(以下,日臨技)では「令和6年能登半島地震」に伴い災害対策本部を立ち上げ,都道府県臨床(衛生)検査技師会との連携のもと,被災地における検査を受ける際のリスクを最小限に抑え,患者にとって信頼できる臨床検査データの提供および被災住民を救援するため,職能組織として約3ヵ月にわたり継続的に臨床検査技師の派遣を行った。そこで,今回の経験が今後に繋がるよう災害時医療救援活動等において臨床検査技師が果たした役割と今後の課題について検証した。職能組織としての役割を果たすため,リエゾンを派遣するとともに関係団体や行政機関等と連携,協力した活動の経緯と結果から,①初動体制,②被災地における臨床検査試薬提供,③臨床検査技師の派遣,④派遣者の宿泊先の確保,⑤都道府県臨床(衛生)検査技師会における対応,⑥新たに実施した活動等における活動定着化のための実施マニュアル作成と訓練,⑦限られた医療資源の効果的な分配など,日臨技として方針の策定が今後の課題として挙げられた。今回の活動経験により,職能組織として臨床検査技師が果たせる役割は多岐にわたることを踏まえ,限られた医療資源を効果的に分配するため,以後の災害時救援活動においては,日臨技として「何が実施でき・行うか」ではなく,「何が求められており・どうしたらできるか」について,災害時における対応方針を立てていく必要がある。

  • 板橋 匠美, 山田 俊幸, 坂本 秀生, 望月 克彦, 中村 和彦, 深澤 恵治, 村上 正巳
    原稿種別: 総説
    2025 年74 巻1 号 p. 14-25
    発行日: 2025/01/25
    公開日: 2025/01/25
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    2024年1月1日に発生した能登半島地震において日本臨床検査振興協議会では,臨床検査に関わる複数の団体や組織が一丸となり,災害支援活動を迅速かつ効果的に行った。本研究の目的は,この活動内容が果たした災害支援の役割を明確にし課題を検証することにある。支援活動として,石川県庁に設置された石川県保健医療福祉調整本部に派遣したリエゾンと連携し,避難所等での基本的な健康管理や感染症の見守りのための簡易検査機器等の貸与・供与を行った。また,物的支援活動における法的制限の解釈確認が得られ,スキームを構築した。約2ヵ月にわたる支援活動の結果,被災地における臨床検査のリスクを低減し,信頼性の高い検査データの提供に寄与することができた。また,物品の提供スキームが機能し,医療施設や救護班のニーズに迅速に対応することができた。一方,活動経験から得られた課題として,①組織間の連携体制の強化,②物品調達・配分スキームの最適化,③災害対応マニュアルの整備,④地域との連携強化,⑤法的制限に対する事前の備え等が挙げられた。経験と教訓を活かし,平時からの備えと関係組織間の連携活動を強化し,臨床検査分野における将来の災害対応能力の向上を目指したい。

原著
  • 丸田 穏, 佐竹 郁哉, 鴨谷 舞, 水田 裕一, 松﨑 俊樹, 住ノ江 功夫, 村岡 けい子
    原稿種別: 原著
    2025 年74 巻1 号 p. 26-36
    発行日: 2025/01/25
    公開日: 2025/01/25
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    目的:超高齢化社会となった我が国において,心血管疾患を合併した症例は増加しており,心疾患が疑われる患者には検査を実施する,包括的術前評価の重要性は増している。当院では手術を控えた患者の入院前の外来期間を利用し,患者リスクを正確に把握しスムーズな入院治療,より安全な手術,早期退院を実現するという目的で,「入退院センター」という独自の部署が2015年度より設置された。2021年度からはこの入退院センター専用超音波予約枠を設け目的実現に努めているが,この心臓超音波検査において,どれ程の患者においてどのような検査所見が検出されたのか,検出された検査所見がどの程度の患者の周術期管理に寄与したのかは明らかになっていない。そこで今回我々は,心臓超音波検査を対象に,有意所見の検出率と,超音波検査結果の周術期管理への影響を後ろ向きに調査し,術前評価システム構築の重要性を考察した。方法:2021年4月より2023年3月までの期間で,入退院センター専用の予約枠より依頼された心臓超音波検査677例を対象とし調査した。結果:術前心臓超音波検査の追加依頼が発生したことで予定された手術日程が延期された症例は認められなかった。有意所見は全体の72%に認め,それぞれ周術期管理が必要・延期・中止等の対応が施されたことがわかった。結論:術前心臓超音波検査が患者,臨床にとって有益であることを改めて認識する結果となった。当院独自の部署である入退院センターの取り組みを合わせ,その詳細を報告する。

  • 市原 洋士, 古閑 裕久, 村津 郁絵, 竹口 祥人, 中西 信博, 上村 智明, 楠 真一郎, 廣瀬 豊樹
    原稿種別: 原著
    2025 年74 巻1 号 p. 37-44
    発行日: 2025/01/25
    公開日: 2025/01/25
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    大動脈弁狭窄症(aortic valve stenosis; AS)は高齢者の主要な弁疾患であり,診断には経胸壁心臓超音波検査などの画像診断が用いられる。日常診療では聴診による診断が最初に行われるが,聴診は聴覚に依存し,また定量化が難しいため心音解析に関する研究が進行中である。本調査は心音図検査装置(AMI-SSS01)を使用し,ASの重症度を判断することが可能か装置使用感を含めて評価した。21名のAS群と15名の健常人群を対象に検査を行った。経胸壁心臓超音波検査にて判断したASの重症度とAMI-SSS01で取得した心音図の最大振幅に相関関係を認め(相関係数0.762),健常人・軽度AS群と中等度・高度AS間群との最大振幅に有意差を認めた(p < 0.01)。AMI-SSS01を用いた中等度以上のAS検出精度は感度1.00,特異度0.83であった。また,AMI-SSS01使用者6名に対する装置使用感のアンケート調査では,デバイスの使いやすさ,操作方法の理解のしやすさ,デバイスの持ち運びやすさについては5点評価でそれぞれ平均4.0点以上あり,操作方法は簡便であり,理解しやすく,さらにポータビリティに優れていることが示唆された。今後は他の心疾患や症例数を増やした検討が必要であるが,本調査で AMI-SSS01を使用してASの重症度を簡便に判定できる可能性が示唆された。

  • 鈴木 久恵, 小田 千寛, 近藤 ゆめの, 竹内 真央, 龍見 重信, 細川 翔, 内山 智子, 則松 良明
    原稿種別: 原著
    2025 年74 巻1 号 p. 45-57
    発行日: 2025/01/25
    公開日: 2025/01/25
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    子宮頸部細胞診のHCGで「核分裂像2個以上/対物40倍視野(核分裂2個+)」がHSIL判定指標として適用可能か検討した。対象はHSIL:30例,ASC-H:40例。前者は組織診でCIN2以上病変(CIN2+):24例,CIN1:4例,扁平上皮化生(化生):2例。後者はCIN2+:24例,CIN1:4例,化生:12例。Pap標本中5集塊のHCGで核分裂2個+の頻度および観察時間の計測を行った。次に脱色後,anti-phosphohistone H3 (PHH3)-immunocytochemistry(ICC)を行い,Pap標本と同様の検討を行った。結果,1)核分裂2個+の頻度で,①HSILはCIN2+でPap(中央値0%)よりICC(ICC: 42.8%)が有意に高値(p < 0.001)。②ASC-HはCIN2+でPap(0%)よりICC(40.2%)が有意に高値(p < 0.001)。③病変間の比較で,ASC-H/ICCのCIN2+(40.2%)は化生(5%)よりも有意に高値(p = 0.048)。2)核分裂2個+の症例頻度は,ASC-HのCIN2+(95.8%)が化生(50%)より有意に高値(p = 0.003)。3)観察時間で,Pap(52.9秒)よりICC(8.1秒)が有意に短時間(p < 0.001)だった。以上より,PHH3-ICCでの核分裂2個+の適用はHSIL検出に有用である。

  • 山西 八郎, 川邊 美智子
    原稿種別: 原著
    2025 年74 巻1 号 p. 58-65
    発行日: 2025/01/25
    公開日: 2025/01/25
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    クリミア戦争中にナイチンゲールが記録した野戦病院での兵士の死因別死亡者数のデータと,それを円グラフ化した「コウモリの翼」(Bat’s Wing; B.W.)について現代統計学の角度から考察した。ナイチンゲールは戦闘による負傷が原因で死亡する兵士よりも,劣悪な衛生環境による感染症で死亡する兵士が圧倒的に多いことをB.W.により主張した。本論文では,感染症による死亡者数に焦点を当て,B.W.を独自に作成した。感染症による死亡者数は,負傷により死亡,あるいはその他の原因により死亡した患者数と有意な正の相関性を示した。一方,感染症による死亡者数と平均兵力数との間には有意な関係は認められなかった。また,感染症による死亡者数は,劣悪な衛生環境だけでなく,感染症の成立する季節(夏季)も強く関係していることが重回帰モデルより明らかとなった。B.W.で作られる各月の三角形の面積(B.W.面積)が,伝染病死亡者数と有意な相関性を示したことより,これはB.W.の有する数理的な特性として評価できるものと考えられた。また,B.W.面積は,負傷による死亡者とその他の原因での死亡者数から算出される推定感染症死亡者数とも有意な相関性を示したが,これは感染症死亡者数を交絡因子とする疑似相関であり,負傷やその他の原因により感染症で死亡するという因果関係によるものと考えられた。しかし,肯定的に評価するならば,B.W.面積は上述の因果関係に基づく情報を含有しているものと考えられた。

  • 矢野 哲也, 内山 雅之, 望月 玲音, 中嶋 裕, 副島 友莉恵
    原稿種別: 原著
    2025 年74 巻1 号 p. 66-72
    発行日: 2025/01/25
    公開日: 2025/01/25
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    目的:体腔液細胞診における小細胞癌とリンパ腫において,低真空走査電子顕微鏡(low-vacuum scanning electron microscopy; LVSEM)による観察を行い,超微形態学的特徴を明らかにする。方法:胸水細胞診16例(小細胞癌7例,リンパ腫9例)に対し,検査後の標本を再評価・撮影し,Papanicolaou染色(Pap染色)標本のカバーガラスを剥離,リンタングステン酸で導電染色後,LVSEM観察を行い,腫瘍細胞の形態について解析した。成績:Pap染色標本に対する再評価では,16例中5例(小細胞癌3例,リンパ腫2例)で形態のみでは鑑別困難と考えられた。LVSEM観察では,小細胞癌でドーム状(85.7%),密度の高い微絨毛(85.7%),細胞間の結合性有り(85.7%),細胞表面の陥凹(42.9%)がみられた。リンパ腫では,球状(100%),短い微絨毛(88.9%),細胞間の結合性無し(88.9%)であった。LVSEMのみでは,16例中14例(小細胞癌6例,リンパ腫8例)で鑑別可能と考えられた。結論:Pap染色標本のLVSEM観察は,小細胞癌とリンパ腫の鑑別に有用であることが示唆された。

技術論文
  • 尾田 亜実, 高比良 直也, 北野 陽菜, 齊藤 冬見, 竹村 盛二朗, 前野 知子, 松村 佳永子, 小谷 敦志
    原稿種別: 技術論文
    2025 年74 巻1 号 p. 73-80
    発行日: 2025/01/25
    公開日: 2025/01/25
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    1回呼吸法による肺拡散能検査は,洗い出し量(washout volume; WV)750~1,000 mL,サンプリング量(sampling volume; SV)500~1,000 mLを基準として測定する。日本呼吸器学会の呼吸機能検査ハンドブックでは,肺活量低値例に対してWVは500 mL程度まで減量可能とされているが,肺活量が1,000 mL未満の症例は検査不能とされている。本検討では,健常人21名を対象とし,標準法(WV 750 mL,SV 1,000 mL)とWVおよびSV 500 mLからさらにWVのみ100 mLずつ減量した5条件の肺拡散能(diffusing capacity of the lung for carbon monoxide; Dlco)をそれぞれ比較し,計測値への影響および信頼性を検討した。標準法とWV 500 mL,400 mL,300 mLとの間には計測値に有意差を認めず,WV 200 mL,100 mLで有意に低値を示した。また,標準法とWV 500 mL,400 mL,300 mLとの間にはそれぞれ強い相関が認められた。以上より,WVを300 mLまで減量しても参考値として信頼性のある結果が得られる可能性が高く,これまで検査不能であった症例にも対応できる可能性が示唆された。

  • 伊達 卓司, 戸田 宏文, 山出 健二, 上野 稔, 吉冨 一恵, 吉田 耕一郎, 上硲 俊法
    原稿種別: 技術論文
    2025 年74 巻1 号 p. 81-87
    発行日: 2025/01/25
    公開日: 2025/01/25
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    本研究はRNA精製の必要がないAmpdirectTM 2019-nCoV検出キット(株式会社島津製作所)の基本性能評価ならびにサイクル閾値の測定者間差について検討を行った。併行精度試験ならびに室内再現精度試験はEDX SARS-CoV-2 Standard(バイオ・ラッド ラボラトリーズ株式会社)を2濃度に調整した試料を測定し,サイクル閾値の変動係数(coefficient of variation; CV)が2%以下の安定した結果であった。検出限界試験はEDX SARS-CoV-2 Standardを6濃度に調整した試料を測定し,N1遺伝子が250 copies/mL,N2遺伝子が750 copies/mLと,COVID-19の検査室診断に十分な検出限界であった。2022年11月から2023年2月に測定された臨床検体を用いた国立感染症研究所の病原体検出マニュアルに準拠した方法との比較では,全体一致率は96.3%(104検体/108検体)であった。不一致の4検体は,サイクル閾値が36以上の低ウイルス量の検体であった。サイクル閾値の測定者間差の検討では,サイクル閾値のCVは各々0.79~1.33%に収束しているものの,測定者間のサイクル閾値は多重比較検定により,有意差が認められた(p < 0.05)。本試薬は良好な基本性能を有し,SARS-CoV-2の検査室診断のツールとして臨床検査室での幅広い利用が期待できると考えられる一方で,サイクル閾値の定量的な評価には,測定者間差を考慮する必要があると考えられた。

  • 阿部 拓也, 佐々木 一真, 川村 宏樹, 渡邊 博昭, 藤井 豊
    原稿種別: 技術論文
    2025 年74 巻1 号 p. 88-93
    発行日: 2025/01/25
    公開日: 2025/01/25
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    糖尿病管理は,安全で利便性の高い糖尿病治療薬の登場とともに大きな進歩を遂げている。効果的な血糖コントロールには継続的なグルコースモニタリングが不可欠であり,Freestyle Libre Pro®(Libre Pro)をはじめとするフラッシュグルコースモニタリングシステムは低侵襲的かつ継続的なモニタリング機能を有している。しかし,解剖学的部位間,特に左右上腕の間質液グルコース濃度の不一致については,まだ十分に研究されていない。本研究は,Libre Proを用いて左右の上腕の間質液グルコース濃度を比較することを目的とした。成人男性(n = 5)を対象に,体組成および上腕筋面積を測定し,両腕において同時に間質液グルコース濃度を14日間モニタリングすることで左右差を解析した。その結果,間質液グルコース濃度は左右の上腕で有意差が認められ,モニタリング期間を通し,利き腕の方が低濃度であった。これらの結果は,糖尿病治療戦略を最適化するためのさらなる研究の必要性を強調するものである。本研究で観察された間質液グルコース濃度計測時における上腕の左右差は,グルコースモニタリングと糖尿病管理における解剖学的考察の重要性を強調するものである。

  • 吉川 直之, 野田 理美, 小野 佳一, 蔵野 信
    原稿種別: 技術論文
    2025 年74 巻1 号 p. 94-102
    発行日: 2025/01/25
    公開日: 2025/01/25
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    ラテックス比濁法を測定原理とし,測定上限を700 IU/mLに拡大したLTオートワコーRF(II)(富士フイルム和光純薬(株))の基礎的性能評価を行った。正確性,同時再現性,希釈直線性は良好な結果が得られた。検出限界は0.6 IU/mLと現行試薬と同等の性能を有しており,干渉物質の影響は認められなかった。現行試薬および他社試薬との相関は,r = 0.958~0.968と良好な相関性を示した。一方,測定上限以上の検体を希釈後に測定した値を含む場合では,相関性が低下する例を認めた。基準値(15 IU/mL)に対する各試薬の一致率は各試薬間で95%以上と良好であった。LTオートワコーRF(II)は,日常の臨床検査に十分適応可能な試薬性能を有しており,さらに測定上限が拡大されたことからも,より正確な検査結果を速やかに臨床に報告できると考えられた。

  • 丹羽 麻由美, 石田 秀和, 米玉利 準, 小川 瑞稀, 市岡 里奈, 横山 颯大, 開原 弘充, 菊地 良介
    原稿種別: 技術論文
    2025 年74 巻1 号 p. 103-108
    発行日: 2025/01/25
    公開日: 2025/01/25
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    SARS-CoV-2抗原検査は安価で迅速に検査が実施可能であるが,測定キットによっては偽陰性などのリスクも高く結果の判断には注意が必要となる。本検討では銀増幅イムノクロマトグラフィ(IC)法を採用したSARS-CoV-2検出キットの性能を評価した。対象は当院検査部へSARS-CoV-2検出を目的として提出された遺伝子検査用鼻咽頭ぬぐいウイルス保存液検体61検体とした。検討法として,銀増幅IC法である富士ドライケムIMMUNO AGカートリッジCOVID-19 Agを専用装置にて測定した。またリアルタイムPCR法および化学発光酵素免疫測定(CLEIA)法を比較対象とした。検討法とPCR法との判定一致率は75.4%(感度70.6%,特異度100.0%)であり,対照法としたCLEIA法とほぼ同等の結果であった。また,PCR法Ct値27以下と判定された検体は検討法で全て陽性と判定することが確認され,希釈検体による測定感度比較ではCt値28.9の検体まで検出可能であった。検討法とCLEIA法はほぼ同等の結果であり,高感度なSARS-CoV-2検出が可能であることが示唆された。検討法はCLEIA法に比較し,水や消耗品などを必要とせず,装置もコンパクトであるため,日常的なPOCT(point of care testing)だけでなく,災害時などのインフラが乏しい際のスクリーニングとしての有用性が期待される。

  • 伊藤 雅貴
    原稿種別: 技術論文
    2025 年74 巻1 号 p. 109-117
    発行日: 2025/01/25
    公開日: 2025/01/25
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    単一クローン性免疫グロブリン(M蛋白)患者は,蛋白質におけるM蛋白が占める割合が極端に高く,その他の免疫グロブリンは顕著に減少している。一方で,非M蛋白患者は各蛋白質を一定の割合で含有している。蛋白質は塩溶液を加えると,濃度によって塩溶または塩析する。患者血清を塩濃度の異なる2液(精製水,リン酸緩衝生理食塩水)とそれぞれ反応させた場合,2液の吸光度を差し引いた吸光度変化量はM蛋白患者と非M蛋白患者とで有意差が認められた。そこで上記の吸光度変化量を用いて,M蛋白スクリーニング検査を実施するために適する測定波長・分注量・測光ポイントを検討した。結果,測定条件を測定波長は340 nm,分注量は試薬80 μLに患者血清16 μL,測光ポイント1とした。次に本検出法の性能評価をした。相関性では,蛋白電気泳動(Mピークの有無)で有意差を認めた。併行精度では,吸光度変化量0.064付近において変動係数(CV%)は4.2%であった。ランダマイズ2回測定法では,2グループの測定値に強い相関があった。ロジスティック回帰分析から得られた受動者動作特性試験(ROC)曲線より,カットオフ値を0.048(感度67.7%,特異度59.1%)とした。曲線下面積は年齢・総蛋白・アルブミン・A/G比のみのROC曲線よりも,本検出法を加えた方が有意に高いことが認められた。結果から,本検出法はM蛋白スクリーニング検査として有用だと考える。

  • 栁田 光利, 岩崎 聖二, 小澤 哲夫, 後藤 正志, 會田 泉, 中島 亮
    原稿種別: 技術論文
    2025 年74 巻1 号 p. 118-123
    発行日: 2025/01/25
    公開日: 2025/01/25
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    当院ではSARS-CoV-2感染症診断において化学発光酵素免疫測定システムによる抗原定量法検査とreal-time reverse transcription PCR法検査(RT-PCR法)を実施している。当初,2本のスワブを用いて抗原定量法とRT-PCR法用の鼻咽頭拭い液を採取していたが,患者の苦痛軽減を目的に1回の検体採取で両方の検査を行う方法を検討した。まず,抗原定量法の検体残液から核酸を抽出する残液RT-PCR法を検討したが,鼻咽頭拭い液を用いた標準的なRT-PCR法(鼻咽頭RT-PCR法)で陽性を示した検体が残液RT-PCR法では全て陰性であった。原因として検体処理液成分によるPCR反応阻害を疑い,次に抗原定量法に使用後のスワブから核酸を抽出して行う残スワブRT-PCR法を検討した。228例で残スワブRT-PCR法と鼻咽頭RT-PCR法の結果を比較したところ陽性および陰性の判定は両法で完全に一致したが,Cp値は残スワブRT-PCR法が鼻咽頭RT-PCR法より平均2.4サイクル多かった。また,検査陽性26例を対象とした融解曲線解析による変異株同定検査の結果も両法で完全に一致した。以上の結果から1本の鼻咽頭拭い液スワブから抗原定量法とRT-PCR法検査が可能であることを確認した。また,残スワブRT-PCR法でも融解曲線解析による変異株の同定が可能と考えられた。

資料
  • 佐子 肇, 羽月 香子, 吉川 裕之, 斎藤 晴子
    原稿種別: 資料
    2025 年74 巻1 号 p. 124-132
    発行日: 2025/01/25
    公開日: 2025/01/25
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    近年,肺非結核性抗酸菌(NTM)症を背景として発症する慢性肺アスペルギルス症(CPA)の合併例が増加傾向にある。今回我々は,2012年から2016年の5年間に当院で分離したAspergillus属菌について,簡易同定法で同定した菌種の種類,およびこれらの抗真菌薬感受性を検討した。分離菌はA. fumigatusが102株(44.9%)と最も多く,次いでA. niger 66株(29.0%),A. flavus 21株(9.3%),Aspergillus属(同定不能)21株(9.3%),A. terreus 13株(5.8%)およびA. nidulans 4株(1.8%)であった。A. fumigatusを分離した患者は70歳代高齢の男性に多く,同時に分離したNTMは,Mycobacterium aviumが多かった。一方,A. nigerを分離した患者は70歳代高齢の男女共に多く,M. aviumおよびM. intracellulareが多かった。これらを疾患別に見ると肺NTM症を背景にAspergillus属菌を分離している患者に多く認めた。抗真菌薬感受性は,ほとんどが良好な感受性を示したが,肺NTM症治療後にCPAを発症した患者で,ITCZおよびVRCZに耐性化したA. fumigatusの1例を経験した。その主な耐性機序はcyp51A遺伝子のM220の変異であった。アゾール系抗真菌薬の長期使用例では耐性株の出現を考慮し,定期的な感受性試験が必要と考えられた。

  • 廣井 綾子, 松田 浩明, 田中 浩美, 松田 綾香, 松井 愛良, 羽原 利幸, 戸田 博子, 瀬﨑 伸夫
    原稿種別: 資料
    2025 年74 巻1 号 p. 133-139
    発行日: 2025/01/25
    公開日: 2025/01/25
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    症例は60代の女性。主訴は発熱,右季肋部痛。発症7日目に当院を受診し,超音波検査(US)では,胆嚢腫大と層構造を伴う全周性壁肥厚を認めた。CTでも胆嚢腫大とRokitansky-Ashoff sinusの拡張を伴う全周性壁肥厚を認め,黄色肉芽腫性胆嚢炎(XGC)と診断された。抗生剤の治療により軽快したが,発症27日目に右季肋部痛が再発し,USでは胆嚢壁肥厚の進行を認め,層構造の消失した不整な所見を呈したが,胆嚢粘膜面との境界である壁最内層の高エコー帯(IHL)の明らかな断絶は認められなかった。また,高エコーレベルの壁内部には低エコー域を認めた。CTでは肝床部への炎症の波及もみられたため,XGCの増悪が疑われたが,進行性胆嚢癌が鑑別に挙がった。その後の経過観察で壁内部に低エコー域を認め,IHLの明らかな断絶は認められず,胆嚢壁肥厚の改善がみられたことより,XGCの診断がより確実となった。発症98日目に腹腔鏡下胆嚢摘出術が施行され,病理検査でXGCと診断された。発症からのUS所見の経過より,当院初診時は急性胆嚢炎からXGCへの移行段階,発症27日目には黄色肉芽腫が形成されていたことが示唆された。USでXGCの経過観察を行う際は,胆嚢壁構造の変化,IHLの連続性に着目することで胆嚢癌との鑑別を行い,さらにはXGC以外の部位に胆嚢癌が存在する可能性も念頭に置き,胆嚢全体を注意深く観察する必要がある。

  • 静野 健一, 加地 大樹, 川名 孝幸, 瀬川 俊介, 梶原 裕貴, 渡辺 直樹, 竹林 孝太郎, 綿引 一成
    原稿種別: 資料
    2025 年74 巻1 号 p. 140-146
    発行日: 2025/01/25
    公開日: 2025/01/25
    ジャーナル フリー HTML

    千葉県臨床検査技師会は,数度の予備検討後,2023年に市販試薬を試料としたSARS-CoV-2核酸増幅検査外部精度管理を実施した。試料の希釈方法はウイルス輸送培地よりも精製水が望ましく,配布濃度は,各機器の希釈工程に沿い,最終反応系における濃度を考慮し機器に合わせて調整した。62施設が参加し14機種,延べ62機器を評価したところ,検出限界濃度付近の設定と推測された1機種を除き,陽性試料が検出されることを確認した。一方,陰性試料を陽性と誤答した施設を3施設認めた。外部精度管理実施を望む会員施設は多く,市販試薬を利用した本精度管理調査は安定して継続可能な事業と考える。

  • 富田 文子, 百田 浩志, 関谷 晃一
    原稿種別: 資料
    2025 年74 巻1 号 p. 147-153
    発行日: 2025/01/25
    公開日: 2025/01/25
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    近年,臨床現場においてインシデント報告活動の活性化は,医療の安全性向上に重要であることが多く報告されている。しかし,国内外において臨床検査技師の業務に関連して発生するインシデント,アクシデント件数についての報告はほとんどなされていないのが現状である。そこで,全国の臨床検査室を保有する済生会医療施設での実態をアンケート調査し報告数を把握するとともに,報告を増やす取り組みや報告後の改善対策の取り組みについて調査を行った。76施設中71施設から回答を得た。ヒヤリ・ハット/インシデント/アクシデント合計報告数の最大値は536件,最小値は0件であった。検査技師一人あたりの報告数最大値は32.3件であった。報告数を増やす取り組みとして,報告の重要性の意識づけや報告内容の共有,報告しやすい環境整備,報告数の目標値設定などが行われていた。報告後の取り組みは,関連部門スタッフへの注意喚起,インシデント事例に関する手順書・作業書の変更や作業環境の調整,インシデント実施者への注意,インシデント事例に関する教育内容の見直しの順に多かった。インシデントとヒヤリ・ハット報告数に正の相関を認めた。報告数を増やす取り組みと報告数の増加には関連性がみられなかったものの,インシデント報告後の改善対策項目数と報告数の増加には関連性を認めた。報告後の改善活動の取り組みによる現場への良い影響が報告数の増加につながっていると考えられる。

  • 口広 智一, 大瀧 博文, 中尾 歩美, 寺前 正純, 木下 愛, 山田 幸司
    原稿種別: 資料
    2025 年74 巻1 号 p. 154-161
    発行日: 2025/01/25
    公開日: 2025/01/25
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    臨床検査の標準化が進められている時代の中で,細菌検査分野は検査技術や結果が技師の技量や判断に関わる部分が多く,検査標準化が遅れている分野である。今回われわれは日臨技近畿支部医学検査学会の微生物シンポジウム開催に先立ち,近畿地区の微生物検査室を有する施設における検査前プロセス,塗抹検査,菌種同定,薬剤感受性検査,耐性菌検査,血液培養検査および報告コメントに関する検査の現状についてアンケート調査を行った。その結果,検査方法,結果やコメントの報告方法などにおいて,施設により大きく異なっている現状が明らかとなった。今後標準化を進めるうえで現状を把握するための有用な資料となると思われた。

  • 岩井 智行
    原稿種別: 資料
    2025 年74 巻1 号 p. 162-168
    発行日: 2025/01/25
    公開日: 2025/01/25
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    当院検査室では2016年より経営戦略として実績のある「トヨタ式」と中小企業の経営戦略である「ランチェスター戦略」を組み合わせた手法を用いて運営を行っている。自治体病院である当院の強みを活かし,2018年には収支比率61.9%,損益分岐点比率21.7%(最高値)を達成し,コロナ禍で一時的に悪化したものの緩やかな回復基調にある。徹底的なムダの排除,5Sを用いた人材育成,差別化の3点に絞って検体検査室の運営を行うことにより,収支改善及び臨床現場のニーズに対応する「変わり続ける」検査室を実現できるかどうかを検討した。

  • 木下 美沙, 青木 義政, 秋本 卓, 山中 基子, 酒本 美由紀, 堀田 多恵子
    原稿種別: 資料
    2025 年74 巻1 号 p. 169-172
    発行日: 2025/01/25
    公開日: 2025/01/25
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    グロブリン量(TP-Alb)と免疫グロブリンの総和(IgG + IgA + IgM;総Ig量)との乖離(大きな差)からプロゾーン現象によるIgGの偽低値に気づいた症例を経験した。汎用自動分析装置のIgG試薬中には,抗IgG1~抗IgG4のサブクラスと反応するポリクローナル抗体が存在しているため,サブクラスごとにプロゾーン濃度が異なる。本症例は,免疫グロブリンの測定値が試薬の定量範囲内であったにも関わらず,IgG1の増加によりプロゾーン現象が起き,偽低値が生じていた。このような症例をとらえるために,TP,Alb,免疫グロブリンの測定値を活用する方法を検討した。対応策として,大きな差を求めるために,グロブリン量と総Ig量の差からヒストグラムを作成し,その値を+3SDの2.1 g/dLと定めた。さらに効率よくプロゾーンをとらえるため,TPの基準上限値8.1 g/dLを用いることとした。以上のことから,グロブリン量と総Ig量との差2.1 g/dL以上かつTP 8.1 g/dL以上の検体に対し,臨床検査情報システム(laboratory information system; LIS)でチェック機能を構築することで,サブクラスによるプロゾーン現象の見逃しを防ぐことができると考えた。

  • 城田 紗希, 鈴木 敦夫, 柴田 悠奈, 桂木 裕実, 黒田 烈志, 弘津 真由子, 加藤 千秋, 松下 正
    原稿種別: 資料
    2025 年74 巻1 号 p. 173-180
    発行日: 2025/01/25
    公開日: 2025/01/25
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    後天性凝固第V因子インヒビター(acquired factor V inhibitor; AFVI)は,血液凝固第V因子(factor V; FV)に対する自己抗体である。後天性凝固因子インヒビターの中でも比較的稀な疾患であることからこれまでにまとまった報告が少なく,プロトロンビン時間(prothrombin time; PT)や活性化部分トロンボプラスチン時間(activated partial thromboplastin time; APTT)そしてクロスミキシング試験などの凝血的検査所見の特徴は報告により様々である。今回我々は,AFVIの凝血学的検査所見の特徴を捉えるべく,当院で経験したAFVIの4症例を解析し検討を行った。解析にあたり,AFVIと同様にPTおよびAPTTの延長を呈し鑑別対象となるビタミンK欠乏症(vitamin K deficiency; VKD)および先天性FV欠乏症(congenital FV deficiency; CFVD)を比較対照としてその特徴を探索した。PTおよびAPTT延長の観点においては,VKDと比較した場合,AFVIおよびCFVDではPTの延長度に対しAPTTの延長がより顕著であった。これは測定試薬のFV活性に対する感受性が異なることに起因していることが示唆された。一方で,AFVIとCFVDではPTに対するAPTTの延長度を比較した場合,互いに大きな差を認めなかったが,クロスミキシング試験においてはAFVIのいずれの症例においてもインヒビターパターンを呈しており,凝固因子欠乏パターンを示すCFVDとはこの点で区別が可能であった。本検討において解析したAFVIは全てFVに対する明確な中和活性を認めるものであったが,AFVIの特徴として,測定試薬の凝固因子感受性に応じたPTおよびAPTTの延長度を比較し,かつクロスミキシング試験の結果を総合して考えることで,FV活性測定やFVインヒビター定量の結果を得る前に一定の予測が可能であり,VKDやCFVDとの鑑別が可能であることが示唆された。

  • 清祐 麻紀子, 横山 麗子, 下野 信行, 小林 里沙, 宮口 ゆき乃, 松本 富士美, 大川内 恭, 池田 慶二郎
    原稿種別: 資料
    2025 年74 巻1 号 p. 181-186
    発行日: 2025/01/25
    公開日: 2025/01/25
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    2012年以降感染防止対策加算が導入され,加算1施設を中心とした感染対策ネットワークが構築されてきた。今回,我々は感染症専門家が不在で微生物検査を外部委託している施設のコンサルテーションを実施し,その視点や改善の実際と評価について報告する。九州大学病院グローバル感染症センターの医師,看護師,臨床検査技師と検査部所属の医師で,桜十字福岡病院の微生物の外部委託検査に関するコンサルテーションを開始した。桜十字福岡病院は合計199床を有する一般病院であり,感染対策チーム(infection control team; ICT)は多職種で組織され,2022年以降は加算3を取得している。コンサルテーションの開始時期はCOVID-19流行下であり,メールやオンライン会議で情報収集や意見交換を行った。それにより,外部委託の微生物検査項目の運用見直しを提案し,その効果をレセプトで評価した。必要な患者に検査が実施されるための教育や周知の必要性,実施する検査は目的に対する最適なセットを提案し,改善に繋げることができた。改善後のレセプトの評価ではコスト削減に繋がり,また,今回の取組みを通じて,コンサルトを受ける側にも様々な意識変容のメリットがあったことが確認できた。加算1施設が感染症専門家の視点で行う微生物の外部委託検査のコンサルテーションは双方にメリットがあり,お互いの立場を理解し,時間をかけたコミュニケーションにより継続した関係が構築できると考えられた。

  • 降田 喜昭, 石井 修平, 鈴木 菜月, 小嶋 未来, 川上 美由紀, 鞠子 文香, 中村 裕樹, 安藤 純
    原稿種別: 資料
    2025 年74 巻1 号 p. 187-192
    発行日: 2025/01/25
    公開日: 2025/01/25
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    CAR-T細胞療法は,患者T細胞にキメラ抗原受容体を遺伝子導入した細胞が患者の腫瘍細胞を攻撃する免疫療法である。当院は,2020年2月にTisagenlecleucelの認証施設となり,白血球アフェレーシスから細胞数測定・細胞調製・保管管理までを輸血・細胞療法室の臨床検査技師が一括支援している。白血球アフェレーシスの静脈確保,遠心型血液成分分離装置と患者の接続・取り外し,抜針・止血は医師が行っている。機器の操作開始から,患者の循環血液量1回分を処理した時点で,採取バッグ内の有核細胞数およびCD3+ T細胞数を測定し,終了のタイミングを医師と相談の上判断している。細胞調製は,細胞培養加工施設内で行っており,凍結用のプログラムフリーザーおよび気相式液体窒素タンクは,細胞培養加工施設に隣接した効率的な運用としている。2020年4月~2023年10月の白血球アフェレーシス件数は64件であり,白血球アフェレーシス日の再調整や採取時の重篤な有害事象の発生はなかった。CAR-T細胞療法の適応患者の治療予定を考慮し,適切なタイミングで実施することは重要である。輸血・細胞療法室の臨床検査技師が白血球アフェレーシスから保管までを一括支援することで,他部門との業務調整が不要となり,患者毎にフレキシブルな対応が可能である。

  • 板橋 匠美, 益田 泰蔵, 深澤 恵治, 丸田 秀夫
    原稿種別: 資料
    2025 年74 巻1 号 p. 193-199
    発行日: 2025/01/25
    公開日: 2025/01/25
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    日本の医療現場では,医師の労働時間短縮が重要課題となっており,令和6年4月から医師の時間外労働や休日労働時間に制限が設けられた。各医療施設は労働時間短縮計画を策定する必要があり,その一つの方法として臨床検査技師へのタスク・シフト/シェアが国策で提案されている。日本臨床衛生検査技師会は臨床検査技師の現状把握のため実態調査を実施し,その結果を公表している。本研究ではこの結果を分析し,医師から臨床検査技師へのタスク・シフト/シェアがアクシデント発生に与える影響を検証した。結果として,教育・訓練が不十分な施設ではアクシデント発生率が高い傾向が見られたが,適切な教育・訓練と管理体制が整った施設ではアクシデントの発生が抑えられていることが明らかとなった。結論として,臨床検査技師へのタスク・シフト/シェアは,適切な教育・訓練と管理体制の下で安全に実施可能である。これにより,医師と他の医療従事者が協力して質の高い医療サービスを提供し,持続可能な労働環境を構築することが期待される。

  • 板橋 匠美, 明神 大也, 西岡 祐一, 深澤 恵治, 丸田 秀夫, 小野 孝二, 今村 知明
    原稿種別: 資料
    2025 年74 巻1 号 p. 200-205
    発行日: 2025/01/25
    公開日: 2025/01/25
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    日本の医療制度は,国民皆保険によって高い保健医療水準を達成してきた。他方で,2040年以降の人口減少により医療費総額の増加が緩やかになる可能性はあるものの,高齢者人口の増加に伴い,しばらくは医療費の増加が避けられない現状がある。このため,医療費適正化計画が策定され,都道府県ごとに医療資源の効率的な活用が求められている。本研究では,臨床検査領域における医療資源の投入量の地域差から,政策的介入の余地がある優先するべき項目の例示をすることを目的としている。方法として2022年度のNDBオープンデータにおける“D検査”の算定回数を基礎情報とし,都道府県ごとの人口数で地域差が大きい項目を選定する他,専門団体である日本臨床衛生検査技師会へのヒアリングを実施した。結果として,政策的介入の余地がある医療サービス項目には,訪問診療における超音波検査と直腸肛門機能検査があがり,地域差の要因に対する意見として,①人材確保が難しい地域,②検査を実施できる医師の地域偏在,③診療報酬改定により新たに追加された項目における普及の進捗状況が影響を与えているとの見解が集まった。結論として,訪問診療における超音波検査および直腸肛門機能検査の二項目について,さらなる分析と適正化が求められることが明らかになった。この研究は,地域差のある医療資源の投入量に対する政策的介入の重要性を示し,今後の医療費適正化計画に資するものである。

  • 李 相太, 坂井 優, 龍見 重信, 宮林 知誉, 田中 宏明, 大前 和人, 藤原 宗典, 倉田 主税
    原稿種別: 資料
    2025 年74 巻1 号 p. 206-212
    発行日: 2025/01/25
    公開日: 2025/01/25
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    本研究は,臨床検査とAIに関する臨床検査技師の認識を調査し,新興技術をテーマとする講習会の意義を検討することを目的とした。2023年8月19日に開催された人工知能と臨床検査をテーマとした講習会の事前申込者と受講者を対象にオンライン調査を実施した。回答はFisher’s exact testで分析し,自由記載は共起ネットワーク図から分析した。講習会前の回答者278名中,62.9%がAIに肯定的であった。AIに肯定的な群はそれ以外の群と比較して,AI関連Webサービスの利用頻度が有意に高かった(p < 0.01)。また,より積極的にAIに関する情報を入手する傾向にあった(p < 0.05)。講習会前に最も支持された「AIの判定を必ず臨床検査技師が最終確認すべき」との意見は,講習会後に有意に低下した(p < 0.05)。受講者169名中,63.9%が今後の積極的な情報収集意思を示した。自由記載では,業務改善や品質向上,技術の進歩への期待が示された一方で,AIの実用化に向けた課題も挙げられた。調査結果からは,回答者の多くがAIに肯定的だが,従来の役割維持を前提とした期待であることが示唆された。また,講習会参加が情報収集行動の契機となる可能性が示された。本研究により,臨床検査技師のAIへの前向きな認識が明らかになり,新興技術の実状解説と議論を交えた講習会には意義があると考える。この結果は,臨床検査医学におけるAI導入の議論や,都道府県臨床検査技師会の生涯教育運営に寄与する可能性がある。

  • 富岡 菜々子, 今田 昌秀, 大倉 尚子, 山本 絵梨, 小川 千紘, 北中 明
    原稿種別: 資料
    2025 年74 巻1 号 p. 213-218
    発行日: 2025/01/25
    公開日: 2025/01/25
    ジャーナル フリー HTML

    活性化部分トロンボプラスチン時間(activated partial thromboplastin time; APTT)は内因系と共通系の凝固因子をスクリーニングする検査項目である。APTT延長は内因系・共通系凝固因子の低下,抗リン脂質抗体の存在などが疑われるが,遠心条件や抗凝固薬の服用,ヘパリン混入などにより測定結果に影響を与える。これらの鑑別を行うため,病歴や服薬情報の収集とヘパリンの影響を除外し評価をする必要がある。鑑別にはプロタミン補充APTT(protamine supplemented APTT; PS-APTT)が有用であるが,試薬ごとにヘパリン感受性が異なるため,試薬ごとの至適添加プロタミン濃度の設定が必要である。我々は,APTT > 34.0秒の検体を用い,未分画ヘパリン投与または混入検体におけるレボヘムAPTT SLAのプロタミン添加濃度の検討を行い,207例中123例(59.4%)にPS-APTTの短縮を認めた。また,APTT 75秒未満の検体に対して硫酸プロタミン溶液0.1 mg/mL,APTT 75秒以上の検体に対して硫酸プロタミン溶液0.2 mg/mLを添加することでヘパリン混入の鑑別が可能であった。またAPTT測定上限を超える検体を除き,簡便にPS-APTTの報告が可能であった。APTT延長症例に対しヘパリン混入の鑑別を迅速に行うことで,臨床へ有用な結果報告が可能と考えられる。

  • 伊藤 英史, 磯部 勇太, 宮本 康平, 西尾 祐貴, 鈴木 雅大, 森本 千穂, 児島 有理彩, 大嶋 剛史
    原稿種別: 資料
    2025 年74 巻1 号 p. 219-225
    発行日: 2025/01/25
    公開日: 2025/01/25
    ジャーナル フリー HTML

    全国で救急患者数が増加し,医師や看護師の負担が増える中,医療の持続可能性を確保するために各職種へのタスク・シフト/シェアが推進されている。2021年に臨床検査技師の業務範囲が拡大され,救急現場での役割が期待される。当院検査部門はこれを実現するため,2018年から業務削減と標準化に取り組み,労働力の効率化を図った。新グループの設立,ゼネラリストの育成を経て,2023年に常駐体制で本格運用を開始した。法改正により拡大された業務や,採血,心電図,検体採取等の従来業務を担当した結果,年間約1,005時間の負担軽減効果があった。一方で,法律上の制約により,静脈路確保や輸血療法などにおいて効率的な負担軽減に限界があることが課題として挙げられる。臨床検査技師が救急外来に常駐することで,医療現場の労働力が向上し,他職種との連携も深まることで,救急医療の質の向上に貢献すると考える。

  • 市村 直也, 赤羽 あゆみ, 甲田 祐樹, 東田 修二
    原稿種別: 資料
    2025 年74 巻1 号 p. 226-231
    発行日: 2025/01/25
    公開日: 2025/01/25
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    採血時のめまい・吐気・冷汗・眼前暗黒感といった症状は,血管迷走神経反射(vaso-vagal reaction; VVR)に起因すると考えられ,採血合併症の一つとして認識されている。当院中央採血室での採血に伴う気分不良の発生状況を,およそ70万件におよぶ採血実施記録を用いて分析・検証した。何らかの症状が生じて観察等を要した件数は111件であった。発症率は0.02%であり,30歳未満が発症者全体の59%を占めていた。発症率には時期変動があり,最低は4月の0.005%,最高が7月の0.028%であった。採血管の数が多いほど発症率は上昇したが,同じ本数同士で比較した場合,発症の有無と採血量に有意な差を認めなかった。発症した症例では,発症しなかった場合に比べて採血所要時間が延長していた。採血を行う職員の技量・性別と発症の有無との間には関連は認めなかった。当院中央採血室での採血に伴う気分不良の発生状況を示した。献血室,健診施設,病院採血室ではそれぞれ受診者構成が異なるにも関わらず,若年者層が好発群であることでは一致している。病院採血室では患者年齢,季節,採血管の数に注目して職員が予防的に採血に臨むことで,気分不良の発症予防や発症した場合の早期発見につなげられる。またそうした行動は結果的に採血所要時間の延長の抑止につながり,円滑な採血室運営にも繋げられることが期待できる。

症例報告
  • 中川 智博, 平良 彩乃, 平岡 希実子, 乘船 政幸
    原稿種別: 症例報告
    2025 年74 巻1 号 p. 232-239
    発行日: 2025/01/25
    公開日: 2025/01/25
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    【はじめに】当院では抗CD38抗体薬投与による不規則抗体検査の偽陽性反応の確認として,不規則抗体スクリーニング(以下,SC)赤血球のDTT処理をロット変更毎に実施し,保存している。また,DTT処理赤血球は不規則抗体の化学的性質確認にも有用である。今回,不規則抗体検査において抗LWが疑われ,DTT処理SC赤血球による確認が有用であった2症例を報告する。【症例1】70歳代女性。末梢性T細胞リンパ腫で治療中。B型RhD陽性,SC陰性。1カ月後Hb低下のため,赤血球製剤2単位依頼。SC陽性となり同定検査の結果,抗D様反応がみられた。DTT処理SC赤血球による不規則抗体検査で陰性化し,抗LWと判断した。計6単位の赤血球製剤で輸血副反応は発生しなかった。【症例2】90歳代女性。骨髄異形成症候群。O型RhD陽性,不規則抗体陽性。同定検査で抗D様の反応がみられ,DTT処理SC赤血球による不規則抗体検査で陰性化し,抗LWと判断した。計16単位の赤血球製剤で輸血副反応は発生しなかった。【考察】抗LWは臨床的意義のある抗体ではないが,RhD陽性赤血球との交差適合試験では不適合となる場合が多く,LW抗原がより少ないRhD陰性赤血球の使用が望ましいと考える。DTT処理赤血球による反応性確認は,抗D様自己抗体と抗LWの鑑別に重要である。今回,抗CD38抗体薬投与の偽陽性反応確認用DTT処理赤血球が抗LWの判断に有用であった。

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