医学検査
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IgGのサブクラスによるプロゾーンの症例と対応策の考案
木下 美沙青木 義政秋本 卓山中 基子酒本 美由紀堀田 多恵子
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2025 年 74 巻 1 号 p. 169-172

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Abstract

グロブリン量(TP-Alb)と免疫グロブリンの総和(IgG + IgA + IgM;総Ig量)との乖離(大きな差)からプロゾーン現象によるIgGの偽低値に気づいた症例を経験した。汎用自動分析装置のIgG試薬中には,抗IgG1~抗IgG4のサブクラスと反応するポリクローナル抗体が存在しているため,サブクラスごとにプロゾーン濃度が異なる。本症例は,免疫グロブリンの測定値が試薬の定量範囲内であったにも関わらず,IgG1の増加によりプロゾーン現象が起き,偽低値が生じていた。このような症例をとらえるために,TP,Alb,免疫グロブリンの測定値を活用する方法を検討した。対応策として,大きな差を求めるために,グロブリン量と総Ig量の差からヒストグラムを作成し,その値を+3SDの2.1 g/dLと定めた。さらに効率よくプロゾーンをとらえるため,TPの基準上限値8.1 g/dLを用いることとした。以上のことから,グロブリン量と総Ig量との差2.1 g/dL以上かつTP 8.1 g/dL以上の検体に対し,臨床検査情報システム(laboratory information system; LIS)でチェック機能を構築することで,サブクラスによるプロゾーン現象の見逃しを防ぐことができると考えた。

Translated Abstract

Cases of falsely low IgG levels due to the prozone phenomenon have been reported due to the discrepancy between globulin levels and the total of immunoglobulins. In IgG assay reagents, there are polyclonal antibodies that react with the subclasses from anti-IgG1 to anti-IgG4, the prozone concentrations are different for each subclass. In this case, although the immunoglobulins measured within the quantitative range of the reagent, the increase in IgG1 caused the prozone phenomenon, resulting in a false low value. To detect such cases, a method using the measured values of TP, Alb and immunoglobulins was studied. As a measure of response, a histogram of globulin and total Ig values was created to determine large differences, which was identified as +3 SD of 2.1 g/dL. Furthermore, to detect the prozone more efficiently, a reference upper limit value of 8.1 g/dL for the TP has been used. Based on the above results, a check function can be set up in the laboratory information system (LIS) for samples with a difference of more than 2.1 g/dL between globulin and total Ig and TP of more than 8.1 g/dL. To avoid missing subclass prozone phenomena, the LIS could be used.

I  はじめに

一般に計算によるグロブリン量(TP-Alb)は,免疫グロブリンの総和(IgG + IgA + IgM;総Ig量)と相関するが1),2),免疫グロブリンの異常がある場合に,グロブリン量と総Ig量との間に大きな差が生じることがある。その要因としては,M蛋白による非特異的な反応や免疫グロブリンの増加によるプロゾーン現象により,免疫グロブリンの測定値が偽低値となるためである。免疫グロブリンの増加におけるプロゾーン現象の多くは,試薬の定量範囲外の高値で生じるが,中には試薬定量範囲内であっても生じるものがある。この理由の1つとして,M蛋白血症等で特定のサブクラスが増加した場合に,試薬に含まれる各サブクラスに対しそれぞれプロゾーン現象が起こるためである3)。さらにサブクラスによるプロゾーンが生じた場合,汎用自動分析装置では,見逃しが起こる可能性がある。

今回我々は,検体中のIgG1の増加により,試薬中に含まれる抗IgG1抗体に対し,抗原過剰となり偽低値が生じた症例を経験した。汎用自動分析装置のIgG試薬にはプロゾーンを検出するプロゾーンチェックのパラメーターが組まれているが,プロゾーンチェックをすり抜けてしまうような場合でも臨床検査情報システム(laboratory information system; LIS)を用い確認を促す運用を考案した。

II  症例

60歳代男性。前院の血液検査で,IgGの高値と貧血の進行を認めた。このため多発性骨髄腫が疑われ,精査加療目的で当院紹介となった。入院時の生化学データは,TP 14.2 g/dL,Alb 1.9 g/dL,IgG 7,963 mg/dL,IgA 83 mg/dL,IgM 13 mg/dLであった。

本症例のグロブリン量は12.3 g/dL,総Ig量8,059 mg/dLであり,その差は4.2 g/dLと大きく,プロゾーン現象が起こっている可能性が示唆された。IgGの測定値が高値であることから,患者血清の2n倍希釈系列を作製し,直線性を確認した。IgGの希釈測定結果は,2倍11,774 mg/dL,4倍12,664 mg/dLであり,報告した7,963 mg/dLは偽低値であったことが判明した。また,免疫固定法でM蛋白同定と質量分析を行った結果,IgG1-κ型が同定された(データは示さない)。

III  検査データの組み合わせによりサブクラスによるプロゾーンをチェックする方法・結果

1. 対象

2019年11月~2020年10月に当院で,TP,Alb,IgG,IgA,IgMを同時に測定している13,188件とし,相関性試験と統計解析をJMP(SAS institute, Inc)にて行った。

2. 試薬・機器

測定機器は日立LABOSPECT008,測定試薬はIgG,IgA,IgMともにニットーボーメディカル株式会社製を使用した。本試薬は免疫比濁法(turbidimetric immunoassay; TIA)を測定原理としている。

3. 相関

グロブリン量と総Ig量の相関は相関係数が0.94であり,高い相関を認めた(Figure 1)。

Figure 1  グロブリン量と総Ig量の相関

4. 検査データの組み合わせ

グロブリン量と総Ig量に高い相関を認めたが,理論上グロブリン量は総Ig量よりも大きくなるため,ヒストグラムの横軸を差(グロブリン量-総Ig量)として,差の分布を確認した。その差の平均よりもさらに大きく差が出ている異常値をカットオフ値とした(Figure 2)。差の平均は,1.3 g/dL(中央値1.2 g/dL)であり,+2SD 1.6 g/dL,+3SD 2.1 g/dLであった。カットオフ値は外れ値として設定されることもある+3SDを採用し4),2.1 g/dL以上とした。サブクラスによるプロゾーンチェックのデータの組み合わせとしてこの差以外にも当検査室で採用しているTPのJCCLS共用基準範囲より高値の8.1 g/dL以上という条件を追加した5)。つまり,TPが8.1 g/dL以上かつ差が2.1 g/dL以上の検体に対しLISでデータチェックを行う運用を考案した。

Figure 2  ヒストグラム

IV  考察

今回の症例は,グロブリン量と総Ig量との間に大きな差があり,サブクラスの増加によるプロゾーン現象が確認できた症例であった。要因としてはIgG測定試薬中の抗IgG1~抗IgG4抗体の反応性や,患者IgG1の抗原過剰6)~8)が考えられた。現状の免疫比濁法試薬では,M蛋白など特定のサブクラスが増加する場合に,正確な測定値が得られないことがある。対応策として,TPとグロブリン量と総Ig量を使用したプロゾーンチェックを考案した。データチェックに,TPの基準高値を追加した理由は,プロゾーンによるIgGの偽低値を生じる可能性の高い検体を効率よく判別できると考えたからである。また,グロブリン量と総Ig量との差を統計学的に外れ値として設定されることもある+3SDの2.1 g/dL以上としたが,より正確に判断するためには引き続き検討が必要である。また,データチェックの有用性,妥当性についても今後検討していきたい。IgG試薬にはIgG1 > IgG2 > IgG3 > IgG4の割合でポリクローナル抗体が存在しているため,IgG1ではプロゾーンが起こらない値でも他のサブクラスではプロゾーンを起こす可能性がある。しかし,免疫グロブリンが高値にならない場合にはグロブリン量と総Ig量との差が確認できず,今回のチェック機構では対応できない。さらに,グロブリン量と総Ig量との差が大きい場合でもTPが基準範囲内であればチェックが機能しないため,大きな差が確認された場合はIgG2~IgG4のサブクラスのプロゾーンの可能性,IgD,IgEによるM蛋白の可能性,IgG4関連疾患群なども考慮し,蛋白分画,免疫電気泳動などの追加検査が必要である。

V  結語

M蛋白による分析異常は頻繁に起こるものではないが,グロブリン量と総Ig量との関係性,サブクラスの極端な偏りが免疫グロブリンの測定に影響を与えることを認識し,起こった場合には,迅速に対応する必要がある。このような可能性を認識しながらもLISでデータをチェックすることにより,サブクラスによるプロゾーンを見逃すリスクを減らすことができるといえる。

当検査室で使用しているLISはシスメックスCNAのLa-vital LSであり,条件式の追加は当検査室で簡単に行える。TPが8.1 g/dL以上かつ差が2.1 g/dL以上の検体を保留とするチェック機能が追加できる点も本検討の重要性を左右するといえる。

本研究は九州大学医系地区部局観察研究倫理審査委員会の承認を得て実施した(許可番号23278-00)。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

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