医学検査
Online ISSN : 2188-5346
Print ISSN : 0915-8669
ISSN-L : 0915-8669
資料
レボヘムAPTT SLAにおけるプロタミン補充APTT添加濃度の検討
富岡 菜々子今田 昌秀大倉 尚子山本 絵梨小川 千紘北中 明
著者情報
ジャーナル フリー HTML

2025 年 74 巻 1 号 p. 213-218

詳細
Abstract

活性化部分トロンボプラスチン時間(activated partial thromboplastin time; APTT)は内因系と共通系の凝固因子をスクリーニングする検査項目である。APTT延長は内因系・共通系凝固因子の低下,抗リン脂質抗体の存在などが疑われるが,遠心条件や抗凝固薬の服用,ヘパリン混入などにより測定結果に影響を与える。これらの鑑別を行うため,病歴や服薬情報の収集とヘパリンの影響を除外し評価をする必要がある。鑑別にはプロタミン補充APTT(protamine supplemented APTT; PS-APTT)が有用であるが,試薬ごとにヘパリン感受性が異なるため,試薬ごとの至適添加プロタミン濃度の設定が必要である。我々は,APTT > 34.0秒の検体を用い,未分画ヘパリン投与または混入検体におけるレボヘムAPTT SLAのプロタミン添加濃度の検討を行い,207例中123例(59.4%)にPS-APTTの短縮を認めた。また,APTT 75秒未満の検体に対して硫酸プロタミン溶液0.1 mg/mL,APTT 75秒以上の検体に対して硫酸プロタミン溶液0.2 mg/mLを添加することでヘパリン混入の鑑別が可能であった。またAPTT測定上限を超える検体を除き,簡便にPS-APTTの報告が可能であった。APTT延長症例に対しヘパリン混入の鑑別を迅速に行うことで,臨床へ有用な結果報告が可能と考えられる。

Translated Abstract

Activated partial thromboplastin time (APTT) is a test to screen for endogenous and common coagulation factors, although a prolonged APTT is suspected to indicate decreased endogenous and common coagulation factors and the presence of antiphospholipid antibodies. However, centrifugal conditions, anticoagulant medications, heparin contamination, and other factors can affect the measurement results. In order to differentiate between these factors, it is necessary to collect medical history and medication information, and to exclude the influence of heparin in the evaluation. Protamine-supplemented APTT (PS-APTT) is useful for differentiation, but because heparin sensitivity differs among reagents, it is necessary to set the optimal concentration of protamine to be added for each reagent. We investigated the concentration of protamine added to Revohem APTT SLA in unfractionated heparin administered or contaminated specimens with APTT > 34.0 seconds, and found that 123 of 207 (59.4%) had a shortened PS-APTT. In addition, heparin contamination could be distinguished by adding 0.1 mg/mL of protamine sulfate solution to specimens with an APTT of less than 75 seconds and 0.2 mg/mL of protamine sulfate solution to specimens with an APTT of 75 seconds or longer. The PS-APTT could be easily reported except for specimens exceeding the upper limit of the APTT measurement, and it is thought to be possible to report useful results to the clinic by quickly identifying heparin contamination in cases of prolonged APTT.

I  はじめに

活性化部分トロンボプラスチン時間(activated partial thromboplastin time; APTT)は内因系と共通系の凝固因子のスクリーニングや未分画ヘパリンによる抗凝固療法のモニタリングとして使用される。その延長は,内因系・共通系凝固因子の低下や血友病,抗リン脂質抗体症候群などの血液凝固異常症などが疑われ,クロスミキシング試験や凝固因子活性定量,ループスアンチコアグラントなどの追加検査にて鑑別を行う。しかし,採血時の組織因子混入や遠心条件,抗凝固薬により結果に影響を与える。また,血管内留置カテーテルなどからのヘパリン混入検体では,正確な凝固能の評価が不可能となり,患者の病態を反映しないだけでなく,予期せぬ治療が行われる危険性がある。このため,APTT延長を認めた場合は,まずヘパリン混入の有無を鑑別する必要があり,プロタミン補充APTT(protamine supplemented APTT; PS-APTT)の有用性が報告されている1),2)。硫酸プロタミンを添加し,凝固時間の短縮を認めればヘパリンの存在が証明されるが,硫酸プロタミンはそれ自体に抗凝固作用があり,過剰量の硫酸プロタミンを添加すると濃度依存性に凝固時間が延長するため,混入したヘパリン量に対し適正なプロタミン量を添加することが必要である3)。加えて,APTTは使用する試薬によりヘパリン感受性が異なるため,試薬ごとにプロタミン濃度の設定が必要と考えられる。今回,レボヘムAPTT SLA(シスメックス株式会社)を用い,硫酸プロタミン添加濃度の検討を行ったので報告する。

II  対象および方法

1. 対象

2022年12月から2023年5月までに提出された臨床検体のうち,APTT延長(> 34.0秒:基準範囲24.0~34.0秒)でPS-APTTを行った207例を対象とした。検体は3.2%クエン酸ナトリウム加血を室温で1,500 × g,15分間遠心した。

2. 測定装置および試薬

全自動血液凝固測定装置CS-5100および,レボヘムAPTT SLA,レボヘム0.025M塩化カルシウム液(シスメックス株式会社)を使用した。

3. 硫酸プロタミン溶液の調整

下村の方法1)を参考に,硫酸プロタミン(ナカライテスク株式会社)を生理食塩水で希釈し0.05,0.1,0.2,0.3 mg/mLの4濃度の硫酸プロタミン溶液を調整した。

4. PS-APTT測定方法

APTT測定後の残血漿180 μLに,硫酸プロタミン溶液3 μLを添加し混和後,APTTを測定した値をPS-APTTとした。添加する硫酸プロタミン溶液は,下村の方法を参考に濃度を選択し,複数濃度測定可能である検体は,選択した濃度より1濃度高濃度(2または3濃度高濃度)を追加し,適時測定を行った。PS-APTTのAPTTに対する比が1未満(PS-APTT/APTT < 1)をPS-APTT短縮ありと判断した。2濃度以上測定した検体でPS-APTT/APTT比が0.1以上差を認めた場合,濃度による差を認めたと判断し,PS-APTT短縮の頻度および至適添加濃度の検証を行った。また,当院におけるAPTTの測定上限が450秒であるため,450秒以上の結果は450秒とした。

5. PS-APTTと再検値の比較

PS-APTTの短縮を認めたヘパリン混入検体のうち,3日以内に再検査が行われた検体のAPTT値(再検値)とPS-APTTとの比較を行った。2濃度以上測定した検体はより短縮した秒数のPS-APTTを用い,投薬や臨床症状に変化を認めない17検体を対象とした。

III  結果

1. PS-APTT短縮の頻度

PS-APTT短縮なし(PS-APTT/APTT > 1)症例は,84例(40.6%)であった。内訳は抗凝固薬の服用(ワーファリンや直接経口抗凝固薬など)や抗リン脂質抗体,肝合成能障害,抗生物質の投与やその他(低栄養,心肺停止,播種性血管内凝固など)であった。PS-APTTの短縮あり症例は123例(59.4%)であった。短縮あり症例のAPTTとPS-APTTの結果をFigure 1に示す。2濃度以上測定した検体はより短縮した秒数のPS-APTTとした。PS-APTT短縮を認めるも未分画ヘパリンによる抗凝固療法を行っていない症例のうち,カルテにヘパリンロックの使用歴があった症例はヘパリンの混入と判断した。PS-APTTが短縮した検体は全例未分画ヘパリン投与,もしくはヘパリン混入検体であった。

Figure 1  PS-APTTの短縮を認めた症例

2. 硫酸プロタミン溶液の添加濃度に応じたPS-APTT/APTT比の比較

APTT 75秒未満で硫酸プロタミン溶液0.05 mg/mLと0.1 mg/mLのPS-APTTを測定した16検体の結果をFigure 2aに示す。PS-APTT/APTT比は硫酸プロタミン溶液0.05 mg/mLで0.4~0.9,0.1 mg/mLで0.4~0.9であり明らかな差異を認めなかった。硫酸プロタミン溶液0.1 mg/mLのPS-APTT/APTT比が,0.05 mg/mLのそれより低値を示した検体は1例であった。

Figure 2  硫酸プロタミン溶液添加濃度(0.05 mg/mL, 0.1 mg/mL, 0.2 mg/mL, 0.3 mg/mL)によるPS-APTTの比較

a:APTT < 75秒,硫酸プロタミン溶液(0.05 mg/mL, 0.1 mg/mL)

b:75秒 ≤ APTT < 200秒,硫酸プロタミン溶液(0.05 mg/mL, 0.1 mg/mL)

c:75秒 ≤ APTT < 200秒,硫酸プロタミン溶液(0.1 mg/mL, 0.2 mg/mL)

d:200秒 ≤ APTT ≤ 450秒,硫酸プロタン溶液(0.2 mg/mL, 0.3 mg/mL)

APTT 75秒以上200秒未満で硫酸プロタミン溶液0.05 mg/mLと0.1 mg/mLのPS-APTTを測定した15検体の結果をFigure 2bに示す。PS-APTT/APTT比は硫酸プロタミン溶液0.05 mg/mLで0.4~0.8,0.1 mg/mLで0.2~0.6であり,0.1 mg/mLのPS-APTT/APTT比が0.05 mg/mLのそれより低値を示した検体は12例であった。また,硫酸プロタミン溶液0.1 mg/mLと0.2 mg/mLで測定した10検体のPS-APTTの結果をFigure 2cに示す。PS-APTT/APTT比は硫酸プロタミン溶液0.1 mg/mLで0.2~0.7,0.2 mg/mLで0.2~0.7であった。硫酸プロタミン溶液0.2 mg/mLのPS-APTT/APTT比が0.1 mg/mLのそれより低値を示した検体は5例であった。

APTT 200秒以上450秒以下で硫酸プロタミン溶液0.2 mg/mLと0.3 mg/mLを測定した6検体のPS-APTTの結果をFigure 2dに示す。PS-APTT/APTT比は,硫酸プロタミン溶液0.2 mg/mLで0.1~0.6,0.3 mg/mLで0.1~0.2であった。硫酸プロタミン溶液0.3 mg/mLのPS-APTT/APTT比が0.2 mg/mLのそれより低値を示した検体は3例であった。

3. ヘパリン混入検体のPS-APTTと再検値との比較

APTT 450秒以上の2検体でPS-APTTと再検値の差が大きく,その差は31.1秒,60.9秒であった(Figure 3)。450秒未満の検体で差は最小値0.7秒,最大値17.8秒であり,APTTに比較しPS-APPTと再検値は近似する値であった。

Figure 3  ヘパリン混入検体のAPTT,PS-APTTと再検値との比較

IV  考察

APTTは内因系と共通系の凝固因子のスクリーニングや抗凝固療法のモニタリングとして使用される。未分画ヘパリンは静脈血栓塞栓症や播種性血管内凝固症候群の治療に用いられ,APTTが1.5~2.5倍となるように調整が行われている。一方,ヘパリンロックしている血管内留置カテーテルからの脱血不十分な採血や,ヘパリンフラッシュ後の採血によるヘパリンが混入した検体では,正確な凝固能の評価が困難である。APTTを正しく評価するためには,ヘパリン混入の鑑別を行う必要があり,PS-APTTは未分画ヘパリンの存在を鑑別するために有用な検査法とされている。硫酸プロタミンは体外循環後のヘパリン作用の中和に使用されており,アンチトロンビンと拮抗し,プロタミン・ヘパリン複合体を形成することでヘパリンの抗凝固作用を中和する4)。このためヘパリン混入が疑われる検体に硫酸プロタミンを添加し,凝固時間の短縮を認めれば,ヘパリンの存在が証明される。硫酸プロタミンはヘパリン中和作用からヘパリン混入検体のAPTTを短縮させるが,抗凝固作用も併せもつため,混入したヘパリンに対し過剰量の場合,ヘパリンの鑑別が困難となる5),6)。またAPTT試薬は,リン脂質や活性化剤の種類や濃度の組み合わせによりさまざまな試薬が市販されており,ヘパリン感受性は試薬ごとに異なる。そのため,使用するAPTT試薬ごとにPS-APTTのプロタミン添加濃度の設定が必要であると考えられる。

レボヘムAPTT SLAは合成リン脂質とエラグ酸を用いた試薬で,トロンボチェックAPTT-SLA(シスメックス株式会社)に比較し,ヘパリン感受性が高いと報告されており,ヘパリン濃度依存性に従来試薬よりAPTTが延長する7),8)。そのため,延長したAPTTに対し従来試薬で報告されているよりも低濃度の硫酸プロタミンでPS-APTTが測定されると考えられた。

PS-APTTが短縮した症例は123例(59.4%)認め,未分画ヘパリン投与中,またはヘパリン混入症例であった。PS-APTTが短縮しなかった症例は84例(40.6%)認め,延長は未分画ヘパリン以外の要因であり,PS-APTTは既報の通り未分画ヘパリンの鑑別に有用であった。

次に,APTTに対し2濃度以上のPS-APTTを測定した結果を比較し,至適添加プロタミン濃度を検討した。APTT 75秒未満の検体では硫酸プロタミン溶液0.05 mg/mLと0.1 mg/mLのPS-APTT/APTT比に明らかな差異を認めなかったことから,75秒未満の検体に対してはどちらの濃度でも過不足なくヘパリンを中和していたと考えられた(Figure 2a)。

APTT 75秒以上200秒未満について硫酸プロタミン溶液0.05 mg/mLと0.1 mg/mLを比較したところ,0.1 mg/mLのPS-APTT/APTT比がより低値を示した。次に,硫酸プロタミン溶液0.1 mg/mLと0.2 mg/mLを比較し,半数(5/10)で0.2 mg/mLのPS-APTT/APTT比がより低値を示し,基準範囲付近に短縮していた。しかし残りの半数は0.1 mg/mLと0.2 mg/mLに明らかな差異を認めなかった(Figure 2c)。これらのことから,75秒以上200秒未満の検体に対しては,0.2 mg/mLを添加することで過不足なくヘパリンを中和できていると考えられた。また,APTT 75秒以上200秒未満の検体のPS-APTTと,再検値が近似する値であったことから,参考値としてPS-APTTを利用することが可能と考えられた(Figure 3)。ヘパリンが混入している検体は原則検体の採り直しを依頼するが,再採血が困難な患者などに対しては,参考値としてPS-APTTを利用することで患者の負担軽減を図られると考えられる。

APTT 200秒以上450秒以下の検体では,硫酸プロタミン溶液0.3 mg/mLのPS-APTT/APTT比が0.2 mg/mLのそれより低値を示した検体を3例認めた(Figure 2d)。3例中2例は,測定上限の450秒を超えた検体で,ヘパリン混入検体であった。これらの検体はPS-APTTと再検値の比較においてその差が31.1秒,60.9秒であり,0.3 mg/mLの硫酸プロタミン溶液がヘパリンを中和するのに十分量でなかったと推察された(Figure 3)。しかし,0.2 mg/mLと0.3 mg/mLのいずれの硫酸プロタミン溶液においてもPS-APTTの短縮を認めたことからヘパリンの鑑別は可能であった。測定上限を超えるような高度延長検体についてはヘパリンによる延長かどうかの鑑別ができればよいと考え,0.2 mg/mLの硫酸プロタミン溶液を選択することでその鑑別は可能であると考えられた。

既報ではAPTT 40.0~50.0秒に対し硫酸プロタミン溶液0.05 mg/mL,50.1~100.0秒に対し0.1 mg/mLを第一選択とし,APTT 100.1秒以上の検体に対し0.2 mg/mL~0.5 mg/mLをAPTTの延長度により選択するとしている1)。我々は,APTT 75秒未満の検体に対してプロタミンが不足することなく鑑別できるように硫酸プロタミン溶液0.1 mg/mLを添加し,また,APTT 75秒以上の検体に対して一律0.2 mg/mLを添加することでヘパリン混入の鑑別が可能と考えられた。しかし,測定上限を超えるようなヘパリン混入の場合は,硫酸プロタミンの添加量が不足するため真値に近いPS-APTTを報告することはできないと考えられるが,PS-APTT短縮からAPTT延長の原因がヘパリンの影響であるという判断が出来れば良いと考え,添加濃度を0.1 mg/mLと0.2 mg/mLに設定した。

ヘパリン混入症例のPS-APTTと再検値の比較では,PS-APTTが再検値と近似する値となった(Figure 3)。このことは,APTT延長度により選択する2濃度の硫酸プロタミン溶液でPS-APTTの値が利用可能であることを意味し,簡便にPS-APTTを測定することが可能であると考えられた。

V  結語

レボヘムAPTT SLAのPS-APTTに選択する硫酸プロタミン溶液の添加濃度を検討した。APTT 75秒未満の検体に対し硫酸プロタミン溶液0.1 mg/mLを選択し,75秒以上の検体に対し0.2 mg/mLを選択し測定することで,ヘパリン混入の鑑別ができることに加え,測定上限を超える検体を除き簡便にPS-APTTの報告が可能である。

本研究は,川崎医科大学・同附属病院倫理審査機構の承認(承認番号6065-00)を得て実施した。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

文献
 
© 2025 一般社団法人 日本臨床衛生検査技師会
feedback
Top