背景:尿路上皮癌において栄養膜細胞への分化は予後不良な病理学的因子であり,診断における臨床的重要性は高い。しかし,その形態学的鑑別は必ずしも容易ではなく,従来マーカーとして用いられてきたβ-hCGの感度,特異度は必ずしも高くない。症例:70歳代男性。CTで11 cm大の膀胱腫瘤を指摘された。自然尿細胞診で尿路上皮癌と診断され,化学療法が施行された。腫瘍の縮小後,膀胱全摘術が施行された。切除腫瘍の病理組織では,高異型度尿路上皮癌に加え,細胞境界の明瞭で淡明な細胞と栄養膜細胞様の巨大核,単核~多核の巨細胞を認めた。化学療法に伴う細胞の膨化と鑑別するため免疫組織化学染色を施行したところ,β-hCGは巨細胞の約1%で陽性を示すにとどまったが,ステロイド代謝酵素HSD3B1は大部分の巨細胞で陽性であった。一方,尿細胞診では,化学療法前は単核,多核の巨細胞の出現はごく少数であったが,化学療法後では多数認められた。免疫細胞化学染色では,化学療法後の標本でβ-hCG陽性率が約1%であったのに対し,HSD3B1は約1/4の巨細胞で陽性を示した。以上より,栄養膜細胞への分化を伴う尿路上皮癌と最終診断した。結論:化学療法後の膀胱癌において,栄養膜細胞への分化を疑う巨細胞を認めた場合,治療に伴う細胞変性との鑑別のためにHSD3B1免疫組織・細胞化学染色を施行することが推奨される。