医学検査
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原著
多発性骨髄腫の迅速な病期判別システムの構築
山田 瞳髙橋 祐輔笹 亮太木田 秀幸杉田 純一
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2025 年 74 巻 3 号 p. 455-462

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Abstract

多発性骨髄腫(MM)の病期判定には改訂国際病期分類(R-ISS)が用いられ,生命予後の推定に必須である。病期はアルブミン,β2-マイクログロブリンとLDの値に加え染色体異常の有無により,stage I~IIIに分類される。しかし,染色体検査は外部委託する施設が多く,病期の判別には日数を要する。そこで我々はMM診断項目のCa,CrやHbにて,従来よりも迅速に病期判定が可能か検討した。対象は,未治療のMM患者88例とした。病期が進行するのに伴いCa,Crは高値,Hbは低値となった。Crで性差を認めたためeGFRにて同様に検討したところ,病期に相応し値は有意に低下した。また,Ca,Cr,HbとeGFRについてMMの診断に用いられるカットオフ値別に各stageの患者割合を調べた結果,90%以上のstage I症例では全項目がカットオフ値内であった。一方,stage IIとIIIでは項目別に傾向が異なり,単項目での病期判定は困難であった。そこで,各項目を組み合わせたスコアリングシステムを構築し,stage分類の妥当性を検証した。ROC解析から求めたstage IIとIIIのカットオフ値はそれぞれ2点(感度93.3%,特異度100.0%),5点(感度100.0%,特異度75.0%)であり,病期の進行につれ有意に高スコアを示した。また,R-ISSと本システムの分類一致率は78.4%と高く,特にR-ISSのstage IとIIIでは全例で本システムと合致した。以上より,MM診断項目のCa,Cr,HbおよびeGFRを用いた本システムでは,従来よりも早期にMMの病期分類が可能であることが明らかになった。

Translated Abstract

The Revised International Staging System (R-ISS) is widely used to stage multiple myeloma (MM). It classifies stages I–III based on albumin, β2-microglobulin, LD levels, and chromosomal abnormalities. Many laboratories outsource chromosomal testing, often delaying stage determination for several days. We explored rapid staging methods using calcium (Ca), creatinine (Cr), and hemoglobin (Hb) levels as diagnostic parameters for MM. This study included 88 untreated patients with symptomatic MM. As the stage progressed, Ca and Cr levels were higher and Hb levels were lower. Cr levels varied by sex, prompting an examination of the estimated glomerular filtration rate (eGFR), which also significantly decreased as the stage advanced. The percentage of patients in each stage was examined for Ca, Cr, Hb, and eGFR according to cut-off values for MM diagnosis, and the results showed that more than 90% of stage I patients were within the cut-off value for all parameters. However, determining the stage using a single parameter proved challenging as values varied significantly across parameters for stages II and III. Therefore, we developed and validated a scoring system that combines these parameters for stage classification. Cutoff values for stages II and III, derived from ROC analysis, were 2 (with 93.3% sensitivity and 100% specificity) and 5 (with 100% sensitivity and 75% specificity), respectively, indicating significantly higher scores with advanced staging. The agreement rate between the R-ISS and our system was 78.4%, with complete concurrence in stages I and III. In conclusion, our system allows for earlier staging of MM compared to traditional methods. Cutoff values used to diagnose MM.

I  はじめに

多発性骨髄腫(multiple myeloma; MM)は,形質細胞由来の腫瘍であり骨髄腫細胞から産生されたモノクローナル蛋白(M蛋白)が血清中および尿中に増加する1)。MMの病態として,高カルシウム血症,腎機能障害,貧血および骨破壊性病変があり,これらは骨髄腫診断事象(myeloma defining event; MDE)と呼ばれ,カルシウム(Ca),クレアチニン(Cr),ヘモグロビン(Hb)の値により判別される。MMの診断にはInternational Myeloma Working Group(IMWG)による形質細胞腫瘍の診断規準を用い,1つ以上のMDEが存在すると症候性多発性骨髄腫と診断され治療対象となる2),3)

さらに,MMの診断確定後には治療の適応や治療法の選択に加え,予後予測のため病期を決定する必要がある4)。近年,MMの病期判定には改訂国際病期分類(Revised International Staging System; R-ISS)5)が用いられている。R-ISSでは血清中のアルブミン(Alb),β2-マイクログロブリン(β2-MG)と乳酸デヒドロゲナーゼ(LD)の測定値に加え,予後不良となる染色体異常(del(17p),t(4;14)またはt(14;16))の有無により病期を3 stageに分類する。しかし,間期核FISH法を用いた染色体検査は外部委託する施設が多く,病期分類まで日数を要する。今回我々は,MM診断に用いるCa,Cr,Hb(以下,MM診断規準項目)の値を使用し,迅速に病期を判別する方法について検討した。

II  対象および方法

1. 対象

2016年1月から2022年7月の間に当院を受診し,MMと診断された未治療症例88例を対象とした。

2. 方法

1) 検討項目

当院初診時の検査データのうち,Alb,β2-MG,LD,Ca,Cr,Hb,推算糸球体濾過量(estimated glomerular filtration rate; eGFR)の7項目をカルテより収集した。なお,Caは大場ら6)のCa補正式にて値を求めた。eGFRは日本腎臓学会の提唱する日本人の推算糸球体濾過量計算式から算出した7)

2) 評価項目

 ①R-ISS stage別によるMM診断規準項目の値

MM診断規準項目について,stage別に検査値を比較した。また,性別による検査値の影響を検討した。

 ②MM診断規準項目のカットオフ値別によるR-ISS各stage患者割合

MMの診断に用いられるMDE規準2),3)に従い,カットオフ値をそれぞれCa 11.0 mg/dL,Cr 2.0 mg/dL,Hb 11.7 g/dL(男性)または9.6 g/dL(女性),eGFR 50.0 mL/min/1.73 m2と設定し(Table 1),各stageにおけるカットオフ値別の患者数とその割合を算出した。Hb値は,「正常下限値よりも2 g/dL低下」と定義されているため,本邦で推奨される共用基準範囲より設定した8)。eGFRは多発性骨髄腫の診療指針9)に基づき,50.0 mL/min/1.73 m2とした。

Table 1 Cut-off values used to diagnose multiple myeloma

Marker Cut-off value
Ca 11.0 mg/dL
Cr 2.0 mg/dL
Hb M: 11.7 g/dL, F: 9.6 g/dL
eGFR 50.0 mL/min/1.73 m2

M: Male, F: Female

 ③スコアリングシステムの作成

Alb,β2-MG,LD,Ca,Hb,eGFRの6項目を用い,スコアリングシステムの作成を試みた。組み合わせパターンは複数作成し,R-ISS stage Iとそれ以外,またはstage II,IIIにおけるROC曲線の曲線下面積(area under the curve; AUC)の大きさから評価した。

3) 統計解析

統計学的解析は,EZR(Version 1.55)を使用した。2群間の比較は,t検定あるいはMann-Whitney U検定を用い,危険率5%未満を統計学的有意差とした。

III  結果

1. 患者背景

対象の患者背景をTable 2に示す。年齢の中央値は,R-ISS stage I群67.5(41–80)歳,stage II群76.0(46–92)歳,stage III群76.5(43–84)歳であった。また,年齢や性別は各stageにより差を認めなかった。

Table 2 Patient characteristics

R-ISS stage
I (n = 12) II (n = 56) III (n = 20)
Age 67.5 (41–80) 76.0 (46–92) 76.5 (43–84)
M/F 5/7 30/26 8/12

2. R-ISS stage別によるMM診断規準項目の値および性別の影響

R-ISS各stageにおけるCa,Cr,Hb,eGFRの検査値をTable 3に示す。まず,MM診断規準項目についてstage別に中央値を比較した(Figure 1)。Stage I,II,III群のCa値はそれぞれ9.1,9.8,10.1 mg/dLであり,病期の進行とともに有意に上昇した(p < 0.05,p < 0.01)。同様に,stage IからIIIのCr値は0.8,0.8,1.7 mg/dLであり,stage III群はstage I,II群に比べ有意に高値であった(p < 0.01)。Hb値は,stage I群で12.0 g/dLであったのに対し,stage II,III群はそれぞれ9.5,8.9 g/dLと有意に低下した(p < 0.05およびp < 0.01)。

Table 3 Results of MM diagnostic parameters

Marker R-ISS stage All stage
I II III
Ca (mg/dL) 9.1 (8.8–9.3) 9.8 (9.1–10.1) 10.1 (9.5–12.0)
Cr (mg/dL) 0.8 (0.6–0.9) 0.8 (0.7–1.1) 1.7 (0.9–3.4)
(M) 1.0 (0.8–0.9) 1.0 (0.8–1.6) 2.6 (1.1–4.1) 1.0 (0.8–1.8)
(F) 0.8 (0.5–0.8) 0.8 (0.6–0.9) 1.5 (0.9–2.8) 0.8 (0.6–1.1)
Hb (g/dL) 12.0 (10.9–13.3) 9.5 (8.5–10.7) 8.9 (6.9–9.6)
(M) 13.0 (11.0–13.5) 9.0 (8.4–11.2) 9.2 (7.1–9.8) 9.6 (8.4–11.2)
(F) 11.2 (10.9–12.5) 9.6 (8.8–10.2) 8.6 (6.9–9.6) 9.4 (8.2–9.9)
eGFR (mL/min/1.73 m2) 69.5 (55.5–73.9) 59.3 (40.5–76.4) 27.6 (12.8–46.1)

Dates are presented as medians (interquartile ranges).

Figure 1  Comparison of the diagnosis of MM biomarkers of R-ISS stages

Boxes represent IQRs. Whiskers represent the range between 2.5th and 97.5th percentiles. (*: p < 0.05, **: p < 0.01)

CrとHbの値は,性別により基準範囲が設定されているため,この2項目について全症例間,および各stageの性別による中央値を比較した(Figure 2)。Hb値では性差による有意差は認められなかったが,Cr値は全症例間において男性群で1.0 mg/dLであり,女性群(0.8 mg/dL)に対し有意に低値であった(p < 0.01)。また,各stageでCr値を男女別に比べたところ,stage IIでは男性1.0 mg/dLに対して女性は0.8 mg/dLと有意な差を認めた(p < 0.01)。そこで,eGFRを用いてstage別の中央値を比較した(Figure 3)。eGFR値はstageの上昇とともに69.5,59.3,27.6 mL/min/1.73 m2と低下し,stage IIIと他の2 stage間で有意差を認めた(p < 0.01)。

Figure 2  Comparison of Cr and Hb levels of R-ISS stages and sex

Boxes represent IQRs. Whiskers represent the range between 2.5th and 97.5th percentiles. (**: p < 0.01)

Figure 3  Comparison of eGFR levels of R-ISS stages

Boxes represent IQRs. Whiskers represent the range between 2.5th and 97.5th percentiles. (**: p < 0.01)

3. MM診断規準項目のカットオフ値別によるR-ISS各stage別患者割合

MM診断規準項目について,カットオフ値を用いstageごとの患者数とその割合を調べた(Table 4)。

Table 4 Classification accuracy patient groups by R-ISS stage

Marker Cut-off value R-ISS stage (%)
I II III
Ca ≤ 11.0 mg/dL 12 (100.0) 52 (92.3) 13 (65.0)
> 11.0 mg/dL 0 (0.0) 4 (7.7) 7 (35.0)
Cr ≤ 2.0 mg/dL 12 (100.0) 53 (94.6) 11 (55.0)
> 2.0 mg/dL 0 (0.0) 3 (5.4) 9 (45.0)
Hb M: ≥ 11.7 g/dL, F: ≥ 9.6 g/dL 11 (91.7) 23 (41.1) 3 (15.0)
M: < 11.7 g/dL, F: < 9.6 g/dL 1 (8.3) 33 (58.9) 17 (85.0)
eGFR ≥ 50.0 mL/min/1.73 m2 11 (91.7) 39 (69.6) 4 (20.0)
< 50.0 mL/min/1.73 m2 1 (8.3) 17 (30.4) 16 (80.0)

CaおよびCrの値は,stage Iで全例,stage IIにおいても90%以上がカットオフ値内であった。しかしながら,stage IIIではカットオフ値を超える症例がCaで35.0%,Crで45.0%であり,差はなかった。Hb値やeGFRに関しても,stage Iの90%以上がカットオフ値内であったのに対し,stage IIIでは80%以上の患者がカットオフ値を超えていた。一方,stage IIではHb値,eGFRともに明確な差はみられなかった。

4. スコアリングシステムの作成と評価

Alb,β2-MG,LD,Ca,Hb,eGFRの6項目を組み合わせたスコアリングモデルを作成し,それらの適合性をAUCにより評価した(Table 5)。その結果,stage Iと他stageとの分類は,モデル2および4のAUCがそれぞれ0.987,0.988と良好であった。一方,stage IIとIIIとの分類には,モデル4がAUC 0.933と最も高値であった。

Table 5 Comparison of scoring system models for R-ISS staging and AUC

Marker Cut-off value Model 1 Model 2 Model 3 Model 4
Alb < 3.5 g/dL 2 2 2
β2-MG ≥ 5.5 mg/L 2 2 2
3.5–5.5 mg/L 1 1 1
LD ≥ 222 U/L 2 2 2
Ca > 11.0 mg/dL 2 2 1
Hb M: < 11.7 g/dL,F: < 9.6 g/dL 2 2 1
eGFR < 50.0 mL/min/1.73 m2 2 2 1
Max score 6 6 12 9
AUC R-ISS stage I vs stage II and III 0.858 0.987 0.978 0.988
R-ISS stage II vs stage III 0.821 0.917 0.919 0.933

モデル4のstage Iとそれ以外,およびstage IIとIIIにおけるROC曲線をFigure 4に示す。解析から求めたstage IIおよびIIIのカットオフ値はそれぞれ2点(感度93.3%,特異度100.0%),5点(感度100.0%,特異度75.0%)であった。算出されたカットオフ値に基づき,stage Iは1点以下,stage IIは2–4点,stage IIIは5点以上と定義し,各stageのスコアと患者数を求めた(Table 6)。その結果,R-ISSのstageと本スコアの一致率は78.4%と高く,stage IおよびIIIでは本スコアとの一致率は100%であった。一方,stage IIに関して2–4点を示した症例は66.1%であった。stage別にスコアを比較したところ,全stage間で有意差を認めた(p < 0.01)(Figure 5)。

Figure 4  Degree of R-ISS stages by scoring system model 4
Table 6 Comparison of scores of R-ISS stages

R-ISS stage
I (n = 12) II (n = 56) III (n = 20)
Score 0–1 12 (100.0) 5 (8.9) 0 (0.0)
2–4 0 (0.0) 37 (66.1) 0 (0.0)
5–9 0 (0.0) 14 (25.0) 20 (100.0)
Figure 5  Comparison of score levels of R-ISS stages

Boxes represent IQRs. Whiskers represent the range between 2.5th and 97.5th percentiles. (**: p < 0.01)

IV  考察

多発性骨髄腫ではR-ISSによる病期分類が推奨され,主に本疾患に対する予後予測に用いられる。しかし,その判定項目の1つに高リスク染色体異常の有無を調べる必要がある。このような染色体異常の検査はFISH法で行う検査であり,外部委託検査にて行う施設が多く結果報告までに通常5日から10日程度の日数を要する。そこで我々は,MM診断規準項目をはじめとしたスクリーニング検査項目を用いた迅速な病期判定が可能であるか検討を行った。

MM診断規準項目のCaおよびCr値は,stageの上昇とともに高値になり,Hb値は低値になった。MMの病態として,骨髄腫細胞が産生する破骨細胞活性化因子により骨融解と高Ca血症をきたす。また,M蛋白血症による腎機能障害や骨髄腫細胞の増殖による血球産生抑制が知られている10)。一般的に病期の進行と病態の悪化は比例し,各血中濃度もそれを反映し変化することが推測された。

CrやHbの値は,性別により基準範囲が設定されているため,性差による検査値の影響についても検討した。Hb値は性別による差はなかったが,Cr値は全症例間で男性が有意に高かった。Cr値に関してstageごとに有意差を確認したところ,stage IとIIIは性差がなかったものの,stage IIでは有意差があった。Crは筋由来の代謝産物であり,その産生量は筋肉量に依存するため,男性では女性よりも高値となる11)。IMWGによるMDEの規準は「血清Cr > 2.0 mg/dLあるいはクレアチニンクリアランス < 40 mL/min」とされており,性別に関する記述はない2),3)。一方,共用基準範囲では,Crは性別に基準範囲が設定されている8)。以上より,Cr値を使用する際は,性別を考慮し設定する必要性が考えられた。そこで,性別や年齢の影響を考慮したeGFRを用い値の分布を調べたところ,eGFRはCr値と同様にstageの上昇とともに低下した。また,Table 4よりstage IIIにおけるカットオフ値外の症例は,Crが9症例,eGFRが16症例と大きな差を生じた。Crの値がカットオフ値内で,eGFRの値がカットオフ値から外れた症例は7症例であり,うち6例が女性であった。すなわち,Cr値には性差があり女性で低値となることから,Crを用いMDE規準で判断すると見逃す可能性がある。eGFRは日本人を対象とした腎機能推定式であることからも11),本検討において有用なマーカーになりうることが示唆された。

MM診断規準項目について,R-ISS stage各患者群におけるカットオフ値別の割合を検証した。Stage Iは全項目で90%以上がカットオフ値内であった。したがって,stage Iの多くの症例はMDE規準である高カルシウム血症(Ca > 11 mg/dLまたは正常上限値よりも1 mg/dLを超えて増加),腎機能障害(Cr > 2.0 mg/dLまたはクレアチニンクリアランス < 40 mL/min),貧血(Hb < 10 g/dLまたは正常下限値よりも2 g/dLを超えて低下)を満たさないことが示唆された。MM診断時には約80%が骨破壊性病変を有することが報告されており12),stage Iは主に骨X線,CTやPET/CT検査で推定可能な骨病変が症状であると推測された。Stage IIでは,90%以上の症例でstage Iと同様にCaとCrの値がカットオフ値内であった。Hb値やeGFRはstage Iの症例群よりも低値を示す症例が多いもののstage分類ができるほどの差はなかった。Stage IIIでは,症例80%以上でHbとeGFRがカットオフ値よりも著しく低値を示した。CaやCrに関しても,他のstageよりカットオフ値を超える症例が認められたが,stage IIとの分類は明確にはできなかった。以上から,stage IIおよびIIIに関して,単一項目のみでstageを分類することは困難と考えられた。Stage Iにおいても,単独の項目で判断するより複数項目を組み合わせることでstage分類の信頼度が向上すると推察された。このようなことから,R-ISSおよびMM診断規準項目を用いて,R-ISS stageを早期に予測するスコアリングシステムの作成を試みた。

MM診断規準項目であるCa,Hb,eGFRのみでスコアリングしたモデル1は,R-ISS項目のみを用いたモデル2よりもROC分析において判別度の妥当性が低かった。そこで,R-ISSおよびMM診断規準項目の両者を組み合わせたモデル3を作成しモデル2と比較したところ,AUCはほぼ同等の結果を示した。より有用なシステムの構築を目指し,MM診断項目を1点,R-ISS項目を2点と項目別に比重を置き検討を行った(モデル4)。その結果,AUCは最も高値を示し,スコアもstageが上昇するほど有意に高くなった。また,モデル4にて本検討症例のスコアを求めた結果,stage IおよびIIIは全例で定義したスコアと合致していた。一方,stage IIのスコア分布は広く,明確なstage分類は困難であったものの,MM患者の66.1%をstage IIに分けることができた。一方で,stage II群には進行および死亡のリスクレベルが異なる患者を含む可能性が報告されており13),このことがスコアリングに明確な差を認めなかった要因と考えられた。すなわち,既存のR-ISS項目のみでの評価に比べ,MM診断規準項目を補助的に加えたモデルの方が各stageの分類を行うには最適であることが示唆された。いずれにしても,R-ISSと本システムの全体一致率は78.4%であり,特にstage IおよびIIIの病期分類は確実に行えることが明らかとなった。

MMの治療において,プロテアソーム阻害薬や免疫調節薬の使用が可能となり,患者予後が著明に改善されるようになった5)。このような患者予後の改善に即した病期分類としてR-ISSが提唱されたが,病期決定には検査日数を要する染色体検査が必須である。今回我々が構築したスコアリングシステムは,スクリーニング検査項目のみを用いた簡便な方法であり,即日におおよそのstage判別を可能とする。また,血液検査のみでの判定が可能であることは,経時的な変化を観察できるという利点もある。ただし,スコアとR-ISS stageとの合致度は高かったものの,本システムを用いた予後予測の解析は実施していない。また,本検討は単施設における後ろ向き観察研究であり,症例数も限られた検討である。今後,多施設共同研究などによる多数の症例での検討が望まれる。

V  結語

R-ISS stageの決定には染色体検査結果が必須であるが,MM診断項目のCa,Cr,Hb,eGFRの値を用いたスコアリングシステムを用いることで,おおよその病期分類が即日に可能となることが示唆された。

本検討は札幌北楡病院治験審査委員会の承認を得て実施した(承認番号:230511.01)。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

文献
 
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