医学検査
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原著
小型熱式流量センサを用いた末梢気道病変の検出を可能にする局所肺機能検査法開発のための基礎的検討
佐藤 浩司松島 充代子長谷川 義大アル・ファリシィ ムハンマド・サルマン式田 光宏池田 勝秀加藤 千秋川部 勤
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2025 年 74 巻 3 号 p. 480-487

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Abstract

COPDなどの慢性呼吸器疾患では,細気管支を中心とする末梢気道(内径2.0 mm以下)が病態形成に重要になる。COPDではこの部位の病変が気流閉塞に関係し,早期に病変を検出することが重要である。しかしながら,現行の肺機能検査では肺全体の機能を評価するには不十分であり,末梢気道の病変の有無,ならびに部位の特定は難しい。これまでに我々はMEMS(microelectromechanical systems)微細加工技術を用いて経気管支的に末梢気道の観察が可能な小型熱式流量センサを開発・改良してきた。本研究では,末梢気道の呼吸計測を目標として,開発した小型熱式流量センサを用いてヒトの末梢気道と同等の径であるラットの気管で呼吸計測を行った。通常呼吸,気道収縮剤投与およびCOPDモデルラットでの呼吸変化について,呼吸数,換気量や呼吸時間をもとに本センサの評価を行った。ラットの通常呼吸において,本センサにより呼吸数と一回換気量を検出した。気道収縮剤投与による呼吸時間の延長および一回換気量の低下を検出できた。さらに,COPDモデルラットの呼気時間の延長や呼気量の低下も本センサで検出できた。これらの結果より,COPDをはじめとする末梢気道の病変が重要な意味を持つ各種疾患で本センサは診断,重症度ならびに薬剤効果の判定に有用な計測機器となりうると考えられた。

Translated Abstract

The peripheral airways (inner diameter less than 2.0 mm), particularly the bronchioles, are important in the pathogenesis of chronic respiratory diseases, such as chronic obstructive pulmonary disease (COPD). Since the pathological lesions in the peripheral airways are associated with airflow obstruction in COPD, early detection of these lesions is important. However, current pulmonary function tests only assess the function of entire lungs, making it difficult to detect precise lesions in the peripheral airways and to identify their location. We have developed and improved a miniaturized thermal flow sensor, which enables the assessment of peripheral airways via bronchoscopy, by using microelectromechanical systems (MEMS) technology. In this study, we measured pulmonary functions in rats, which trachea has a similar diameter to human peripheral airways, using our developed miniaturized thermal flow sensor. Respiratory changes were measured and assessed under normal breathing conditions, following the administration of bronchoconstrictive agents, and in COPD model rats, based on respiration rate, tidal volume, and respiratory time using our sensor. The sensor detected respiration rate and tidal volume under normal breathing conditions. The extension of respiratory time and reduction in tidal volume were detected by the administration of a bronchoconstrictive agent. Furthermore, the extension of expiratory time and the reduction in expiratory volume in COPD model rats were also detected by the sensor. These results suggest that our developed sensor may be a valuable tool for diagnosing and assessing the disease severity, as well as evaluating the drug efficacy, in various diseases, where peripheral airway lesions play a significant role, including COPD.

I  はじめに

近年,呼吸器疾患は増加の一途をたどっており,その中でも特にCOPDの患者数の増加は著しく,530万人以上ともいわれている1),2)。日本人の40歳以上の有病率は8.6%と推定されており,2021年では日本人男性の死因第9位と報告されている3)。しかしながら,実際に治療されている患者数は数十万人で,国民の疾患認知度が低いことも問題視されている1)。令和6年度から開始された「健康日本21(第三次)」4)においても,COPDは対策を講じるべき生活習慣病としてとりあげられており,国民生活の質の向上および医療経済的な観点からもCOPD対策は非常に重要な問題となっている。

COPDとは,タバコ煙を主とする有害物質を長期に吸入曝露することなどにより生じる肺疾患で,肺機能検査で気流閉塞を示す1),2)。COPDの本態である気流閉塞は,末梢気道病変と気腫性病変の両者がさまざまな割合で複合的に関与して形成され,病変の広がりと重症化とともに閉塞性換気障害が進行する2),5)。初期症状は,咳,痰などがみられるのみで,無症状で経過することも多く,気道感染(増悪)を契機にはじめて症状が顕在化することも多い2),5)。COPDなどの慢性呼吸器疾患に対しては,細気管支を中心とする末梢気道(内径2.0 mm以下)が病態形成を考える上で最重要部位となるが,従来の検査ではこの部位を評価することが非常に困難であり,早期に病変を検出することは極めて難しい6),7)。このような状況から末梢気道は「サイレントゾーン」とも呼ばれている5),6)

COPDの診断には,タバコ煙を主とする有害物質の長期にわたる吸入曝露やそれに相当する危険因子があり,完全には正常化しない気流閉塞を証明することが必要である1)。この証明のために安定期に施行したスパイロメトリにおいて,気管支拡張薬吸入後のFEV1/FVCが70%未満であることがCOPDの診断の必要条件である5),8),9)。また,フローボリューム曲線を確認することは重要であり,曲線は下に凸型を示すことがCOPDの特徴とされ,検査の妥当性の判断や,中枢性気道閉塞などの他疾患の鑑別にも役立つ9),10)。スパイロメトリは肺機能を評価するうえで最も基本となる検査法だが,口元の呼吸から肺機能を測定するため,肺全体としてしか評価できず,肺の局所での末梢気道病変の検出,さらに病変部位の特定は難しい。スパイロメトリ以外に肺機能を評価する検査法としては胸部単純X線検査や胸部CT検査などの画像検査がある。胸部CTでは気腫型,非気腫型のようにCOPDの病型を分類するなど,COPDの病態を理解することは可能だが,診断することはできず,また,通常の解像度では末梢気道での微小な病変を評価することは難しい5),11)~13)。以上のことから,現在,病変部位となる末梢気道での「吸気呼気」の気流をもとにした肺の生理機能を直接かつ定量的に評価する最適な検査法の開発が望ましい。

これまでに我々は末梢気道の病態評価を目的として微細気流計の開発を行ってきた14),15)。具体的には,MEMS(microelectromechanical systems)技術を駆使した外径2.0 mm以下の小型熱式流量センサで,センサ内に搭載したヒータと2つの温度センサを用いて流量と空気の流れの向きを検出することができる15)。ヒトの末梢気道(細気管支)は一般に内径2.0 mm以下とされ,本センサを気管支鏡下で経気管支的に用いることで末梢気道の評価が可能になり,COPDなどの慢性呼吸器疾患に対する早期発見・最適治療法を確立できると考える。本研究では,ヒトの末梢気道と同等の径であるラットの気管に小型熱式流量センサを挿入し,薬剤ならびに疾患モデルでの呼吸の変化の検出を行うことで,ヒトの末梢気道の病変を検出する計測機器の開発の可能性を検討した。

II  方法

1. 小型熱式流量センサの仕様

呼吸の計測には,MEMS熱式流量センサの駆動方式のひとつである「定温度駆動方式」を用いて計測機器を構成した(Figure 1A, B)。センサは,中央に流量計測素子であるヒータと,ヒータを挟み込むように設置した2つの温度センサ(風向センサ)で構成されている(Figure 1C)。気流量の計測には熱線流速計の原理を使用する16)。ヒータを一定温度で加熱しておき,気流によってヒータ部分の温度が低下すると,定温度駆動回路により電気エネルギー(電圧)がヒータに供給され,ヒータの温度が元の温度に戻る。このときに供給される電圧値は気流量に依存するため,その電圧値変化から気流量を計測する(Figure 1B)。風向判断には差動検出方式を用いた(Figure 1C)。気流の向きによってヒータの熱がどちらかに偏るため,その温度差によって生じる温度センサの抵抗値の差を電圧差として計測することで風向(吸気,呼気)を判断した。また,センサには温度補償素子が組み込まれており,気流の温度を計測することで,気流温度の変化(呼気と吸気の温度差)による計測値への影響を補償した。

Figure 1  小型熱式流量センサの仕様

A:小型熱式流量センサの写真

B:定温度駆動方式におけるヒータ熱分布(流量計測)

C:差動検出駆動方式(風向検知)

2. 実験動物

Sprague-Dawley(SD)ラットを使用した。ラットは温度22–23℃,湿度55 ± 5%の条件下で自由摂食,摂水のもと,少なくとも実験前に3日間ほど施設内で飼育したものを使用した。すべての動物実験は名古屋大学大学院医学系研究科の動物実験委員会の承認のもと(承認番号D240019-002),名古屋大学における動物実験等に関する動物取扱規定を遵守して実施した。

3. COPDモデルラットの作製

COPDモデルラットは既報をもとに作製した17),18)。具体的には,産仔を生後3日から12日までの10日間,デキサメタゾン0.25 μg/25 μL/日を皮下投与した。呼吸の計測は,ラットの気管径が小型熱式流量センサの径とほぼ同等となる12週齢(デキサメタゾンの最終投与日から71日後)で実施した。呼吸計測後は,肺組織を摘出した。なお,全ての実験において未処置の実験動物を対照群とした。

4. 呼吸計測

ラットは,3種混合麻酔(塩酸メデトミジン0.375 mg/kg,ミダゾラム2 mg/kg,酒石酸ブトルファール2.5 mg/kg)下で気管切開し,経気道的に小型熱式流量センサを装着し,呼吸計測を行った。薬剤の投与による呼吸の変化を評価するため,頸静脈にカニュレーションを施し,カニューレを通して薬剤の投与を行った。得られたデータの流量換算は,事前に実施したセンサ特性評価で得られた流量とセンサ出力の関係を表す校正式を用いて,計測した電圧値を流量値に変換した。また,風向センサの値から,呼気を正の値,吸気を負の値になるように処理し,最後に気流波形の積分値をとり,一回換気量を求めた。

5. 肺組織標本の作製

摘出した肺は,10 cm H2Oの定圧で10%中性緩衝ホルマリン液を用いて注入固定した。パラフィン包埋後にミクロトームで切片厚3 μmで薄切し,ヘマトキシリン・エオシン染色(hematoxylin eosin; HE)を行った。

III  結果

1. 小型熱式流量センサを用いた通常呼吸の計測

はじめに小型熱式流量センサを用いてラットの通常呼吸の計測を行った。3種混合麻酔下でラットの気管を切開し,経気道的に小型熱式流量センサを装着し,呼吸を計測した(Figure 2A)。得られた呼吸波形は,ラットの腹部の動きと連動していることを目視で確認し,吸気,呼気の波形を記録した。また,吸気と呼気それぞれの換気量を計算したところ,吸気が2.04 mL,呼気が2.10 mLとなり,吸気と呼気の換気量がほとんど同じ量であることを確認した。以上の結果より,小型熱式流量センサでラットの通常呼吸が計測できることが確認された(Figure 2B)。

Figure 2  ラットの通常呼吸波形

3種混合麻酔下でラットの気管を切開した後に,気管内にチューブを留置し,固定した。小型熱式流量センサは,気管内に留置したチューブに装着し,呼吸計測を行った。

A:センサ装着時の写真 B:通常呼吸の波形

2. 気道収縮剤のメサコリン投与による呼吸変化の評価

メサコリンは,気道過敏性を評価する検査で使用される薬剤のひとつで,投与により気管支平滑筋の収縮および気管内の分泌物の増加を一過性に誘導し,健常動物であっても閉塞性の呼吸障害を引き起こす。メサコリンを投与することで,気道が狭窄した状態を健常ラットで作製し,小型熱式流量センサで閉塞性の呼吸変化が検出できるか検討した(Figure 3)。ラットの右頸静脈にカニュレーションを施し,通常呼吸の計測後に,メサコリン50 μg/kgを4分間かけて静脈内投与した。メサコリンの投与開始から経時的に計測した各時間の呼吸5回分の平均値を用いて,呼吸時間(吸気-吸気間の時間),1回換気量(呼気量)を算出し,また,これらの経時的な変化についても評価した。メサコリン投与開始から,呼吸波形パターンに変化がみられ,特に呼気時の波形について時定数の大きい減衰カーブが観察された(Figure 3A, B)。また,1回換気量(呼気量)が減少し,それに伴い呼吸時間(吸気-吸気間の時間)が延長した。メサコリン投与終了時においては,メサコリン投与前と比較して,1回換気量(呼気量)は約2.27 mLから約1.50 mLに減少し,呼吸時間(吸気-吸気間の時間)は約1.02秒から約3.87秒に延長した(Figure 3C)。メサコリンの投与を終了してから1分経過後から,延長していた呼吸時間(吸気-吸気間の時間)がメサコリン投与前に戻り,また,1回換気量(呼気量)はメサコリン投与前より増加した(Figure 3C)。以上の結果より,メサコリン投与によって誘導される一過性の閉塞性の呼吸変化を小型熱式流量センサで検出可能であることが示された。

Figure 3  気道収縮剤投与による呼吸の変化

ラットの右頸静脈にカニュレーションを施し,メサコリン50 μg/kgを4分間かけて静脈内に投与した。投与開始後,呼吸波形を経時的に計測することで呼吸機能の変化を評価した。

A,B:メサコリン投与開始を0秒として,メサコリン投与開始からの各時間(30,60,150,240,360秒)における5秒間の呼吸波形

C:メサコリン投与からの経時的な呼吸時間(吸気-吸気時間)および呼気量の変化

D:計測項目の詳細

呼吸時間:吸気の開始から次の吸気が始まるまでの時間(吸気-吸気時間)

呼気量:黒色部分の面積

3. COPDモデルラットの呼吸計測

開発した小型熱式流量センサで病態の特徴を反映する呼吸情報が得られるか検討するために,COPDモデルラットの呼吸を計測した。COPDモデルは生後3日のSDラットにデキサメタゾンを10日間皮下投与することで作製し,ラットの気管径が小型熱式流量センサの径とほぼ同等となる12週齢(デキサメタゾンの最終投与日から71日後)で呼吸計測を行った。その後,肺組織を摘出し,HE染色を行った。対照群と比べ,デキサメタゾン投与群では肺胞壁の破壊および肺胞径の拡大が認められ,肺全体で画一な気腫様の形態変化が確認された(Figure 4A)。対照群のラットおよびCOPDモデルラットの呼吸波形をFigure 4B, Cに示す。COPDモデルラットは,気道閉塞のため,換気量を維持するために呼出に時間をかけるも換気量が著しく減少し,換気不良の状態が観察された(Figure 4B)。吸気時間は対照群とほとんど差がないものの,COPDモデルラットの呼気時間は延長するとともに,呼気波形の減衰カーブの傾きが緩やかになっていた(Figure 4B, C)。以上の結果より,小型熱式流量センサによって,COPDモデルの呼吸の閉塞性変化を検出できた。

Figure 4  COPDモデルラットの呼吸計測

A:肺組織のHE染色画像

B:対照群およびCOPDモデルラットの呼吸波形

C:COPDモデルラットの呼気波形を対照群の呼気波形の高さに調整した波形

IV  考察

現在広く行われている肺機能検査は,あくまで肺全体を評価しているため,局所での末梢気道の換気量を評価することができない。末梢気道での呼吸計測法が実現できれば,肺の局所での生理機能を直接かつ定量的に評価することが可能となる。本研究では,広島市立大学との共同研究により開発した小型熱式流量センサを用いて,ヒトの末梢気道径と同等のラットの気管での呼吸計測を試みた。通常呼吸の計測,メサコリン投与による閉塞性の呼吸変化の検出およびCOPDモデルラットの気腫肺での呼吸の計測を行った。

はじめに,小型熱式流量センサを用いて,ラットの通常呼吸の計測を行い,腹部の動きと連動して,吸気,呼気の波形が検出されること,また,吸気と呼気の換気量がほとんど同じ量であることを確認した。小型熱式流量センサで検出したラットの吸気,呼気での換気量はそれぞれ2.04 mL,2.10 mLであった。ラットの換気量は約2.1 mL程度であり19),20),検出した換気量は妥当であると考えられ,今回使用したセンサでラットの通常呼吸が計測できることが確認できた。

次に,気道収縮剤による閉塞性の呼吸変化の評価を行うため,ラットの右頸静脈にカニュレーションを施し,通常呼吸の計測後にメサコリン投与開始から経時的に呼吸を計測した。メサコリンは臨床検査でも使用される一過性に気道収縮を誘発する薬剤で,気道過敏性を評価する試験に用いられる21)。メサコリン投与開始から呼吸波形パターンに変化がみられ,特に呼気時の波形については時定数の大きい減衰カーブが観察された。また,呼吸時間(吸気-吸気間の時間)が延長し,それに伴い1回換気量(呼気量)がわずかに減少した。これは,メサコリンの投与によって気管支平滑筋の収縮および気管内分泌物の増加が誘導され,気道が狭窄することで,呼気の流速低下,および呼気時間の延長がもたらされたと考えられる。さらに,十分に肺内の空気が呼出されないうちに次の呼吸がはじまることで,換気量が低下したと考えられる。また,メサコリンの投与終了後,1分経過時点から,延長していた呼吸時間(吸気-吸気間の時間)がメサコリン投与前の間隔に戻り,また,1回換気量(呼気量)はメサコリン投与前より増加した。これは,メサコリン投与終了後から気道閉塞が回復しはじめるため,1回換気量(呼気量)を増やすことでメサコリン投与中の換気量低下による換気不良の改善を行ったと考えられる。

次にCOPDに特徴的な呼吸波形を検出するために,COPDモデルラットを作製し,呼吸の計測を行った。COPDモデルラットは対照群と比較して呼気時間の延長に伴い呼気波形の減衰カーブの傾きが緩やかになった。これは,肺胞破壊によってもたらされた肺コンプライアンスの増加により,細気管支が呼出時に胸腔内圧によって虚脱するため,気道抵抗が増大し,ピーク以降の気流速度が低下したと考えられる。加えて,フローのピークの低下もみられた。これは,末梢気道の狭窄や虚脱・閉塞による気道抵抗の増加に加えて,気腫性変化による肺コンプライアンスの増加により,呼気開始時の肺への陽圧が気道内へ伝わらず,結果としてフローのピークの低下がもたらされたと考えられる。以上の結果より,小型熱式流量センサによって,COPDを含む閉塞性疾患で特徴的にみられる呼吸の変化を検出できる可能性が示唆された。

COPDでは肺コンプライアンスの増大に伴い,肺の弾性収縮力が低下することでequal pressure point(EPP)がより中枢側の気管支で虚脱が生じることが多い。ラットを用いて本研究の検討結果をヒトに適用する際には,例えばラットはヒトと比べて気道が短く,呼吸回数も多いため,EPPの移動範囲や虚脱の起こる部位に違いが生じる可能性が当然ある。実際にヒトに応用する際にはこの点に注意を要する。ヒトの細気管支を想定し,気道径が同じラットの気管に気流計を実装し検討したが,ヒトで実用化するためには解剖学的特性を含めた検討が必要である。さらに,ヒトでは気管内に留置するチューブの内径や設置位置が測定結果に影響する可能性があり,特に,気管支よりも狭いチューブを使用した場合,人工的な抵抗増大によりフローリミテーションが生じる可能性が考えられる。気管内にチューブを挿入することによる圧力損失や,抵抗の増大を加味した測定系の作製が望まれる。

本研究では,ヒトの末梢気道での呼吸計測を想定し,開発した小型熱式流量センサを用いてラットの呼吸計測を行った。本研究の成果は,末梢気道病変の検出を可能とする高精度の検査法の樹立を期待させる。末梢気道でのその場計測を可能とする検査法を確立することは,末梢気道病変の部位と程度を特定することができ,患者の病態を評価するうえで大きな意義がある。今後の研究の発展によりCOPDなどの慢性呼吸器疾患の早期発見・最適治療法の導入につながることが期待される。

V  結語

本研究では,小型熱式流量センサによって,COPDなどの閉塞性疾患で特徴的にみられる呼吸の変化を検出できる可能性が示唆された。また,小型熱式流量センサを用いてCOPDなどの慢性呼吸器疾患に対する早期発見・最適治療法を確立できる可能性を示唆した。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

 謝辞

本研究は,科学技術振興機構研究成果展開事業研究成果最適展開支援プログラムA-STEP JPMJTR23R1の助成を受けたものである。本研究にご協力いただいた名古屋大学大学院医学系研究科 坂部名奈子先生,免疫学研究室の皆様に感謝申し上げます。

文献
 
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