医学検査
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微生物学的検査を用いたメチシリン感性黄色ブドウ球菌に対するセファゾリン接種効果のスクリーニング基準に関する検討(単施設研究)
小柳 紀人伊藤 裕司鈴木 健之後藤 宏次佐藤 直樹鈴木 涼太西尾 信一郎
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2025 年 74 巻 4 号 p. 732-737

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Abstract

菌量依存性にセファゾリン(CEZ)のMICが変化するcefazolin inoculum effect(CzIE)を持つmethicillin-susceptible Staphylococcus aureus(MSSA)が予後に影響する可能性が報告されているが,全株で高濃度菌液(high inocula; HI)を作成してCzIEを評価することは難しい。本研究では,既存の微生物学的検査がMSSAにおけるCzIEスクリーニングに有用かを検討した。2013年5月~2023年1月に中東遠総合医療センターで血液培養から検出されたMSSA 179株を対象として,CEZのMICが標準濃度菌液(standard inocula; SI)≤ 8 μg/mLかつHI ≥ 16 μg/mLの場合にCzIEと判定した。9株(5.0%)がCzIEと判定され,SIのMIC ≤ 0.5 μg/mLで0/128株(0.0%),1 μg/mL 7/48株(14.6%),2 μg/mL 2/3株(66.7%)が該当した。β-ラクタマーゼ試験陰性株ではCzIEを認めなかった。SIのCEZ MIC ≤ 0.5 μg/mLあるいはβ-ラクタマーゼ試験陰性のMSSAを除外することで,HI作成対象から128株(72%)を削減できた。上記除外基準により,CzIEの見逃しなく追加検査数を絞り込み,効率的なスクリーニングが可能となることが示された。

Translated Abstract

Background: The cefazolin inoculum effect (CzIE), in which the minimum inhibitory concentration (MIC) of cefazolin increases depending on the bacterial inoculum, has been reported to affect the prognosis of infections caused by methicillin-susceptible Staphylococcus aureus (MSSA). However, evaluating CzIE using high inocula (HI) for all isolates is impractical in clinical settings. This study aimed to evaluate whether routine microbiological tests could help screen for CzIE in MSSA isolates. Methods: We analyzed 179 MSSA isolates detected from blood cultures at Chutoen General Medical Center between May 2013 and January 2023. CzIE was defined as a cefazolin MIC ≤ 8 μg/mL with standard inocula (SI) and ≥ 16 μg/mL with HI. Results: CzIE was observed in 9 isolates (5.0%). The frequency of CzIE was 0.0% (0/128) in isolates with SI MIC ≤ 0.5 μg/mL, 14.6% (7/48) with MIC = 1 μg/mL, and 66.7% (2/3) with MIC = 2 μg/mL. No CzIE was observed in β-lactamase-negative isolates. By excluding MSSA isolates with SI MIC ≤ 0.5 μg/mL or negative β-lactamase results, 128 isolates (72%) could be omitted from HI testing. Conclusion: The proposed exclusion criteria enabled efficient CzIE screening by reducing the number of additional tests without missing any CzIE-positive strains. Routine microbiological tests may serve as useful tools for evaluating CzIE in MSSA in clinical laboratories.

I  序文

Staphylococcus aureusは重症感染症の原因として重要な微生物の1つである。S. aureus菌血症の1ヶ月以内の死亡率は18.1%と報告されており1),未だに予後不良である。不適切な抗菌薬投与に繋がりやすいmethicillin-resistant S. aureus(MRSA)感染症が予後不良となりやすい1)ことはよく知られているが,セファゾリン(CEZ)感性のメチシリン感性黄色ブドウ球菌(methicillin-susceptible S. aureus; MSSA)が検査室で菌量に依存して中間あるいは耐性を示すようになる特性はセファゾリン接種効果(cefazolin inoculum effect; CzIE)2)と呼ばれる。このCzIEは治療失敗や死亡と関連している可能性が報告され3),4),近年注目が集まっている。本邦では黄色ブドウ球菌用ペニシリンが未承認で,第一選択薬としてCEZが多用されるため5),CzIEは重要な課題と考えられる。

CzIEと判定するためのgold standardは,標準濃度菌液(standard inocula; SI)に加えて高濃度菌液(high inocula; HI)を作成してCEZの最小発育阻止濃度(minimum inhibitory concentration; MIC)を測定する方法6)となっている。しかし,HIを作成する工程は一般的な検査手順には含まれておらず,本邦におけるMSSA菌血症におけるCzIEの頻度が5.8%7)であることを考慮すると,血液培養から検出された全てのMSSAに対してHIを追加で作成してCzIEと判定することは効率的ではない。現状ではCzIEを示す可能性の高いMSSAに絞って検査を行うことが効率的と考えられるが,我々が調べた中では患者の臨床的背景からCzIEを予測することは難しく4),また本邦におけるMSSAのCzIEスクリーニング基準に関する研究は確認されなかった。

そこで本研究では,市中病院で実施可能な微生物学的検査のうち,特にβ-ラクタマーゼ産生確認試験(以下,β-ラクタマーゼ試験)およびCEZのMICがMSSAにおけるCzIEスクリーニング基準として有用かを検討することを目的とした。

II  材料と方法

1. 対象

2013年5月~2023年1月までに,中東遠総合医療センター(以下,当院)で採取された血液培養から検出されたMSSA菌株を対象とした。同一患者から治療開始30日以内に検出されたMSSAは1菌株とした。中心静脈カテーテルから採取した血液培養のみで検出された場合や,MSSAであることを担保するためにMRSAが同一検体から検出されている場合は除外した。

上記期間で182株のMSSAが同定され,中心静脈カテーテルからの血液培養のみで検出された2株,およびMRSAが同時に検出された1株を除外した計179株を用いて解析を行った。

2. 微生物学的検査

1) SIとHIの作成手順

スキムミルク(富士フイルム和光純薬)で凍結保存されていた菌株をTrypticase soy agar(TSA)培地(日本BD)に接種し,35℃で18~24時間培養したコロニーを薬剤感受性試験に使用した。

SIでは,滅菌生理食塩水を用いてMcFarland No. 1.0に調整した菌懸濁液25 μLをMueller Hinton IIブロス(MHB,日本BD)12 mLに添加し,最終濃度2~8 × 105 CFU/mLとした。HIでは,TSA培地上の1コロニーをBrain Heart Infusion Broth(日水製薬)10 mLに接種して35℃で一晩振盪培養した菌液600 μLをMHB 11.4 mLに添加し,最終濃度2~8 × 107 CFU/mLとした6)。滅菌生理食塩水は自製し,精製水1 Lに塩化ナトリウム(富士フイルム和光純薬)9 gを溶解後,完全溶解を確認して1 mLずつ分注し,121℃ 15分間オートクレーブで滅菌した。

HIが確実に2~8 × 107 CFU/mLとなることを確認するため,予備研究として10倍希釈倍系列による混釈培養法を実施した。異なる5株を4日間にわたり(計20検体)検証し,全て所定の菌濃度内であることを確認した。

全てのSIおよびHIの作成は一人の微生物検査技師によって行われた。

2) CzIEの判定手順

上記にて作成したSIおよびHIの菌液100 μLをドライプレート‘栄研’(栄研化学)の各ウェルに接種し,CEZを試験抗菌薬として,35℃で18時間培養後に微量液体希釈法を用いてMICを測定した。測定には微生物感受性装置IA40 MIC-i(栄研化学)を使用した。CEZのMICがSIにて8 μg/mL以下と判定され,かつHIにて16 μg/mL以上と判定された場合にCzIEありとした6)

3) β-ラクタマーゼ試験

本研究ではβ-ラクタマーゼ試験として,ニトロセフィン法とペニシリン ゾーン・エッジテストを採用した。ニトロセフィン法は,細菌が持つβ-ラクタマーゼによって発色セファロスポリンであるニトロセフィンのβ-ラクタム環が分解される際にみられる赤色の発色を観察する検査である8)。一方,ペニシリン ゾーン・エッジテストは,細菌がもつペニシリナーゼによってペニシリンが分解されて阻止円の形成に影響をするのかを観察する検査である9)。各検査は使用器材のメーカーマニュアルに則り実施した。

 ①ニトロセフィン法

滅菌シャーレにBD BBLセフィナーゼディスク(日本BD)を置き,スポイトで蒸留水を1滴ディスクに滴下し湿潤にした後,新鮮培養菌を爪楊枝の先に取り,先のディスクに塗布した。1時間以内に菌の塗布部分が赤変すれば陽性,無変化の場合は陰性と判定した(Figure 1)。陰性の場合は,ミュラーヒントンS寒天培地(栄研化学)に被検菌株を接種し,BDセンシディスク ペニシリン10(日本BD)を置いて,35℃で16~18時間培養した。培養後,ディスク阻止円の辺縁に生じた集落を採取し,再度BD BBLセフィナーゼディスクによる検査を実施して最終判定とした。

Figure 1  ニトロセフィン法によるβ-ラクタマーゼ試験

A:陽性(菌を接種した箇所が黄色から赤色に変化),B:陰性(変色なし)

 ②ペニシリン ゾーン・エッジテスト

滅菌生理食塩水を用いてMcFarland No. 0.5に調整し,本菌懸濁液を滅菌綿棒でミュラーヒントンS寒天培地の全面に塗布した。BDセンシディスク ペニシリン10を培地に置き,35℃で16~18時間培養した。判定は阻止円の辺縁がsharp(境界明瞭)なものを陽性とし,阻止円の辺縁がfuzzy(ぼやけた,はっきりしない)なものを陰性とした(Figure 2)。

Figure 2  ペニシリン ゾーン・エッジテストによるβ-ラクタマーゼ試験

A:陽性(阻止円の辺縁が境界明瞭),B:陰性(阻止円の辺縁がはっきりしない)

上記微生物学的検査の判断は,5年以上の経験がある臨床検査技師2名が別々に行い,判断が分かれる場合は3人目の臨床検査技師が判断した。

3. 統計学的解析

CzIEをgold standardとした場合の,β-ラクタマーゼ試験の感度,特異度,およびそれぞれの95%信頼区間(95% confidence interval; 95%CI)を算出した。全ての統計処理はStata 17MP(StataCorp LCC, 2021)を用いた。

III  結果

1. SIおよびHIでのCEZのMICとCzIE

本研究で解析対象となった179株のMSSAについて,SIおよびHIでのCEZのMICをTable 1に示す。SIにおけるCEZのMICは,全ての株で ≤ 2 μg/mLであった。

Table 1 本研究で検出されたMSSAの標準濃度菌液と高濃度菌液でのMICの相関表

合計 高濃度菌液のMIC(μg/mL)
CzIE陰性 CzIE陽性
≤ 0.5 1 2 4 8 ≥ 16
標準濃度菌液のMIC(μg/mL) ≤0.5 128 95 14 12 6 1 0
1 48 0 7 16 13 5 7
2 3 0 0 1 0 0 2
4 0 0 0 0 0 0 0
8 0 0 0 0 0 0 0

MSSA, methicillin-susceptible Staphylococcus aureus; MIC, minimum inhibitory concentration; CzIE, cefazolin inoculum effect

セル内には株数を示した。例えば,標準濃度菌液 ≤ 0.5 μg/mLかつ高濃度菌液 ≤ 0.5 μg/mLの株は95株であった。

本研究においてCzIEを示したMSSAは9株(5.0%)であった。SIにおけるCEZのMICが ≤ 0.5 μg/mLの際にCzIEを示したMSSAは0/128株(0.0%),1 μg/mLで7/48株(14.6%),2 μg/mLで2/3株(66.7%)であった。

2. β-ラクタマーゼ試験とCzIE

本研究で実施したβ-ラクタマーゼ試験とCzIEの関係についてTable 2に示す。ニトロセフィン法の感度100%(95%CI 66.4–100),特異度52.4%(44.6–60.1)で,ペニシリン ゾーン・エッジテストの感度100%(66.4–100),特異度50%(42.4–57.8)であった。

Table 2 セファゾリン接種効果に対する各β-ラクタマーゼ産生確認試験の結果

セファゾリン接種効果 合計
陽性 陰性
ニトロセフィン法
陽性,n(%) 9(10.0) 81(90.0) 90(100)
陰性,n(%) 0(0) 89(100) 89(100)
ペニシリン ゾーン・エッジテスト
陽性,n(%) 9(9.6) 85(90.4) 94(100)
陰性,n(%) 0(0) 85(100) 85(100)

CzIE陽性9株における検査技師2名の一致率は,ニトロセフィン法及びペニシリン ゾーン・エッジテスト共に100%(9/9)で,全株が陽性と判定された。

3. CzIEをスクリーニングする基準

Table 3に,SIのCEZ MICおよびβ-ラクタマーゼ試験結果に基づくCzIE陽性株数とMSSA株数を示す。全MSSA株を評価すると179株の追加検査でCzIE全9株を検出できた。一方で,以下2項目(1.β-ラクタマーゼ陰性,2.SIのCEZ MIC ≤ 0.5 μg/mL)のどちらかを満たす株にはCzIE陽性株は含まれなかったことから,これらを除外基準とすることで128株(72%)のMSSAを追加検査対象から除外することが可能であった。

Table 3 CEZのMIC値とβ-ラクタマーゼ試験結果別のMSSA株におけるセファゾリン接種効果陽性株数

SIのCEZ MIC(μg/mL) 合計
≤ 0.5 1 2
β-ラクタマーゼ試験陰性 0/85 0/0 0/0 0/85
β-ラクタマーゼ試験陽性 0/43 7/48 2/3 9/94
合計 0/128 7/48 2/3 9/179

MSSA, methicillin-susceptible Staphylococcus aureus; SI, standard inocula; CEZ, cefazolin; MIC, minimum inhibitory concentration

各セルには,含まれるメチシリン感性黄色ブドウ球菌数を分母として,その中でセファゾリン接種効果陽性を示した株数を分子として記載した。例えば,SIのCEZ MICが1 μg/mLでβ-ラクタマーゼ陽性株は48株あり,その内の7株がセファゾリン接種効果陽性であった。

IV  考察

本研究で検討されたMSSA株において,SIのCEZのMICが ≤ 0.5 μg/mLの株あるいはβ-ラクタマーゼ試験が陰性の株であることはCzIEの可能性が下がることが示された。SIのCEZ MIC ≤ 0.5 μg/mLあるいはβ-ラクタマーゼ試験陰性のMSSA株を除外してCzIEを評価しても,CzIE陽性株を見逃すことなく,追加検査対象を72%削減可能であることが示された。本研究は,本邦で初めて除外基準を提示したものである。

本研究において,SIにおけるCEZのMICとCzIEの有無との間に明確な傾向が認められた。Dingleらの報告6)でも,SIにおけるCEZのMICが0.25 μg/mLの場合にCzIEを示す株が3/101株(3.0%),0.5 μg/mLで36/178株(20.2%),1 μg/mLで17/25株(68.0%),2 μg/mLで1/1株(100%)としており,本研究と一致する結果であった。一方,MIC ≤ 0.5 μg/mLのうち39/279株(14.0%)がCzIE陽性を示していた点は本研究と異なっていた。本邦でのMSSAのうちCzIEを示す株の割合7)が海外と異なっていることも含めて2)~4),6),海外の研究結果と異なった原因を深く検討するために本邦でのさらなる知見の積み上げが求められる。

本研究ではβ-ラクタマーゼ試験として,ニトロセフィン法とペニシリン ゾーン・エッジテストを用いたが,どちらか一方が陰性を示せばCzIEの可能性が下がることが示唆された。本研究のCzIEの評価では,ニトロセフィン法はペニシリン ゾーン・エッジテストと同様に感度100%を示し,偽陽性が少ない結果であった。これはCzIEを示す株のβ-ラクタマーゼ産生量と各検査の特性によると推察される。SIのMICとβ-ラクタマーゼ産生量が相関することがLivermore10)によって報告されており,SIのMICが高くなるほどにCzIEを認めやすくなることからCzIE陽性株はβ-ラクタマーゼ産生量が多い可能性がある。一方CzIE陰性株は,例えβ-ラクタマーゼを産生していたとしても産生量が少ない可能性があり,産生されているβ-ラクタマーゼの濃度(量)に応じて発色のしやすさが変化するニトロセフィン法8)の方が,偽陽性が少なかった可能性が考えられた。近年,ニトロセフィンを用いた迅速検査によるCzIE評価法が提案されており11),今後はβ-ラクタマーゼ産生の確認でなく,CzIE確認に活用される可能性がある。一方,ペニシリン ゾーン・エッジテストはMICに関係なく陽性を示すことがGillら9)により報告されており,β-ラクタマーゼ産生量の影響を受けにくいため,CzIE判定では偽陽性が増加した可能性が考えられた。

本研究の強みは,日常臨床で実施される検査結果を用いており,どの微生物検査室でも再現可能な点にある。

本研究の限界として,第一に単施設での検討である点が挙げられる。一般化可能性に限界があるため,今後本邦での知見を深めるには様々な地域での検討が必要となる。第二に,全株において菌液濃度を調べていない点が挙げられるが,菌液作成方法を海外先行研究と同様とした上で,計20回の予備実験にて菌液濃度を確認した。第三としてβ-ラクタマーゼ試験の判定方法が技師の主観によるものであるために再現性の問題が生じる可能性がある。

V  結語

MSSAにおけるCzIEスクリーニング除外基準として,SIでのCEZ MIC ≤ 0.5 μg/mLあるいはβ-ラクタマーゼ試験陰性とすることで,CzIEの見逃しなく追加検査数を減らし,効率的な評価が可能と示された。本結果をより強固なものとするために他地域でのさらなる検討を行うことが必要となる。

本研究はヘルシンキ宣言に則って実施しており,中東遠総合医療センター臨床研究倫理審査委員会で承認されている(承認番号2281230501)。個人を特定しうる情報は削除されているために,書面での同意は当院臨床研究倫理審査委員会より免除されており,ホームページ上で研究に関する情報を公開し対象者が拒否できる機会を保障した。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

 謝辞

本研究に貴重なご助言とご指摘を賜りました名古屋大学医学部附属病院先端医療開発部データセンター特任助教 今泉貴広先生および岡山大学病原細菌学分野特任助教 福島伸乃介先生に深謝します。

文献
 
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