医学検査
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Letter to the Editor
WVおよびSV設定変更に関する慎重な検討のお願い
高谷 恒範
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2025 年 74 巻 4 号 p. 782-783

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いつも興味深く読ませていただいております。

医学検査に掲載された論文の内容について,査読委員の先生方に確認したいことがあり,Letter to the editorとして投稿いたします。

医学検査,2025; 74: 73–80 尾田 亜実,他:肺拡散能検査における洗い出し量減量に伴う計測値の検討についての論文で,WVおよびSVの設定変更について,慎重な検討が必要と考えます。下記にその理由を述べさせていただきます。

論文に記載された結論によれば,WVを従来の750 mLから300 mLに減少させても,検査(従来の設定:WV 750 mL,SV 1,000 mL)に問題がなかったとのことですが,以下の点について確認したいことがあります。また本論文(資料)を拝読する限り,呼吸器機能検査機器メーカーであるチェスト社が推奨し,かつ機器取扱説明書に記載されているWVについての文面の記載もありませんでしたので,その点についての意見も頂きたく思います。

 1.WVおよび死腔量に関する影響について

機器的死腔量および解剖学的死腔量を考慮すると,WVを300 mLまで減少させることは問題がある可能性が高いと考えます。チェストの基準では,機器的死腔量は最低150 mLが必要とされており,解剖学的死腔量約150 mLに加え,マウスピースやフィルターの容量(約50 mL)を考慮する必要があります。たとえ検査の再現性や精度が保たれていたとしても,正確な値が得られているかどうかは別問題です。しかし,今回の検討で出たデータが確かであれば,もう少し,データ解析を行う必要性があると考えます。今回の比較データで気になる点があります。

①標準のWVを750→500→300→200→100と減少させていった段階のデータで500 mLのときにDLcoの値が22.91→24.52で増えている点が気になります。

②患者個人の肺容積(肺容量)や呼吸機能(ガス分布や拡散能)に個別差があるため,これらのばらつきが結果にどの程度影響するのか,確実な臨床データの蓄積が不可欠です。

 2.DLcoSB検査の連続測定の影響について

DLcoSB検査を6回連続して実施した場合,データに変化が認められなかったとのことですが,検査条件において時間間隔(5分以上)を空けることで検査手順の信頼性を評価することには限界があると考えます。私自身の経験では,3回目以降にデータが低下するケースを確認しており,通常,肺機能検査では繰り返し測定が肺機能の重症度により影響を受ける点を考慮する必要があります。しかし,今回のデータで変化がなかったことに対して私たちも検討することが必要かもしれません。

 3.SVの設定変更の影響について

チェスト(企業)メーカーの説明によると,SVが機器の仕様により500 mLに制限されているとのことですが,SVを従来の1,000 mLから500 mLに変更することは,ガス拡散測定の正確性に直接影響を及ぼす要素であり,慎重な対応が求められると考えます。

 4.COのヘモグロビン親和性と連続測定の影響について

COのヘモグロビンに対する結合力は酸素の約200倍とされており,一酸化炭素ヘモグロビン(CO-Hb)の半減期は,通常の空気中で約3~4時間,100%酸素吸入で40~80分,高気圧酸素療法ではさらに短縮されると報告されています。

通常の検査で,心臓から出た血液が体内を一周するのに要する時間は,約30秒と考えると1回目,2回目までは,連続測定してもCO-Hbの影響は,受けないと思われます。しかし,時間を空けたからと言って大丈夫かは,今後検討が必要ではないでしょうか。このため,連続測定を行う際には,CO-Hbの蓄積や排出に伴う影響を考慮する必要があります。

以上の観点から,WVおよびSVの設定変更には慎重な対応が必要であり,特に以下の点についての追加データを求めます。

・WVやSVの変更が検査結果に及ぼす影響の具体的な分析

肺疾患による影響(特にCOPD,IPなど),低肺気量患者における影響を考えないといけませんので,今回,使用したデータの詳細な報告が必要と考えます。

中央値ではなく,個々のデータの比較についても提示して頂ければとおもいます。

・検査手順および連続測定における信頼性の評価に関する明確な臨床データ

VAおよびVI値の表記,HeとCoの測定グラフの提示

・COのヘモグロビン親和性や連続測定時の影響に関するさらなる検討もしくは,連続測定におけるデータの開示をお願いします(FACO,FICO,FAHe,FIHeなど)。

ご多忙のところ恐れ入りますが,これらの点についてご対応いただけますと幸いです。

追記:FACOがFACO2になっています。

 
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