医学検査
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WVおよびSV設定変更に関する慎重な検討のお願い
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2025 年 74 巻 4 号 p. 786-789

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論文(医学検査,2025; 74: 73–80 尾田 亜実,他:肺拡散能検査における洗い出し量減量に伴う計測値の検討について)に対する投稿「WVおよびSV設定変更に関する慎重な検討のお願い」を拝読いたしました。該当論文を審査しました査読者の1人としてご返答申し上げます。

前置きといたしまして,該当論文の対象者は呼吸器疾患のない健常人(21名)であります。査読者(当方を指します。以下同様)としては,健常人から得られた結果が呼吸器疾患を有する患者(DLco検査を必要とする患者)に,そのまま当てはまるものではないと考えております。この考えは著者・査読者双方で一致しており,論文内には「WV 300 mLの減量では死腔の影響を大きく受ける可能性があり,健常人と同様の結果が得られないことも考えられる。この減量法を臨床に応用するためには,呼吸器疾患のある患者での検討が必要である」と記載されております。

各施設においてDLco検査は,呼吸機能ガイドライン,各施設の使用機器マニュアルや標準作業手順書などに準じて精度よく検査が実施されていると認識しております。しかし,それらに準じた場合でも検査不能例があり(低肺気量などのため),臨床側から参考値でもいいからDLco値を求められる場合もあります。何とかして臨床に結果を報告したい,そのために本検討を行ったものと査読者は理解しております。もし仮に,呼吸器疾患を有する患者に同じ検討を行い同様の結果が得られた場合であっても,まずは上記手順書などに準じてDLco検査を実施し,それでも検査できない患者がいた場合の最終手段の「WV 300 mL」であると理解しております(安易に使用するべきではない)。WV 300 mLまで減量するリスクを臨床側・検査側がともに知った上で,各施設が「WV 300 mL」を使用するか否かを判断するものであると考えております。該当論文および引用文献などを熟読し査読を進め,最終的に「採用」としましたが,今回,多くのご指摘をいただいたことに対して真摯に受け止めております。

 指摘事項1.WVおよび死腔量に関する影響について

ご指摘の「機器的死腔量および解剖学的死腔量を考慮するとWV 300 mLまで減少させることは問題がある可能性が高いと考えます。」については,著者・査読者も同様に考えておりWV 300 mLにした場合,SVに死腔量が含まれてしまう可能性を論文内で記載しております。従って「WV 300 mLまで減らしてDLco検査を行っても問題がない」ではなく,あくまでも「臨床に応用できる可能性」を結語に記載しております。次のご指摘である「たとえ検査の再現性や精度が保たれていたとしても,正確な値が得られているかどうかは別問題です。」については,その通りであります。査読時,査読者も同じような指摘をしました。実際の臨床では,DLcoSB標準法(WV 750 mL, SV 1,000 mL)を1回行い,それが妥当な値であった場合,その値を報告する施設,2回行い2回とも妥当な値であった場合,その平均値を報告する施設,2回のうち最も妥当な値を報告する施設など,結果の採択方法は施設ごとで異なります(もちろん再現性も確認します)。標準法で実施できないと判断した場合,WV,SVの設定を変更しますが,その変更方法も施設ごとで必ずしも統一されていないと考えます。一般に標準法で検査できなかった場合,すべてコメントを入力し,設定変更に伴う測定値への影響があることを臨床側に報告しますが,どれぐらいの影響があったかを報告することは困難です。仮に検査の妥当性が確認できた標準法1回目の値を「正確な値(真値)」とするならば,減量法のDLco値は真値ではなく,参考値となります。参考値ですが,どれぐらい真値とずれているかを報告することはできません。WV 300 mLと設定し1回目で検査可能であった場合と,標準法でどうしても3回目を報告せざるを得なかった場合,どちらが真値に近いのかはわかりません。実際の臨床において参考値で報告する場合,真値に近いであろうと仮定して(病態や他の肺機能検査結果からも総合的に判断して)報告している側面があるのではと考えております。「正確な値が得られているかどうかは別問題」のご指摘は全くその通りですが,該当論文に関しては,「正確な値(真値)ではないかもしれないが,臨床に応用できる値なのでは」と考え査読を行いました。

指摘事項1-①に関しては,ご指摘通りDLco値が22.91→24.52と1.61 mL/min/mmHg増加しています(約7%の増加)。「増えている点が気になる」とのことですが,査読時その箇所の指摘はしておりません(もう一人の査読者も指摘なし)。対象者21名の個々のデータがわからないため明確な回答はできませんが,減量法は標準法と比べearly sample となるためWV 500 mLに減量した影響というよりも,Figure 1(6回連続測定9名分の個々のグラフの動き)を見ますとDLcoが急に増えている箇所が複数あり,同様のことがここでも起こっているのではと推測されます(増加方向に引っ張るデータの存在)。この増加の「要因」は色々推察されますが,特定は困難であると考えます。指摘事項1-②に関してはご指摘通りであります。健常人と患者では肺容量,肺内ガス分布や拡散能は大きく異なり,また患者であっても個々の患者でそれらは異なります。データの蓄積は今後の重要な課題でもあります。

 指摘事項2.DLcoSB検査の連続測定の影響について

該当論文の初稿では,検討方法は「1)各呼吸機能検査,2)肺拡散能検査における標準法と減量法の比較」のみの記載でした。標準法と減量法の比較では,6回もDLco検査を行っていることに驚き,著者にデータの取得方法(検査順の確認,対象者全員が同じ順番で検査を行ったか否かの確認)を詳細に聞きました。そして「繰り返し測定におけるDLco値への影響」を考慮する必要があると判断し,査読時「DLco検査とDLco検査の間を5分以上開けたとしても,繰り返し測定によって,血中CO分圧が上昇し,back pressureの影響を受けDLco値は低下を示すことは広く知られています。(一部省略)もし「繰り返し測定」が考慮されないままデータを取得し,そのデータを用いて解析を進めたのであれば,結果が変わる可能性があります。」と指摘しました。この指摘により,検討方法に「肺拡散能検査の連続測定による影響」が追加されました。著者はDLco連続測定の検討を文献9)に準じて実施し,再度論文を提出されました(文献9)は非喫煙健常人1名,DLco10回連続測定,間隔4分以上)。著者は初め連続測定の検討を1人しか行っていなかったので,「本来なら対象者全員で検討していただきたい。無理ならできる範囲で良いので複数人で評価していただきたい。」と再度指摘しました。査読者としては対象者21人全員の検討を望んでおりましたが,最終的に連続測定は9人で評価されています。

ご指摘の「経験では3回目以降にデータが低下するケース」は,同様の経験があります(私の場合は日常検査時・患者・上手くできず,DLco 3回実施の3回目でデータ低下,1~2回目は妥当性なく3回目の結果をコメント付きで報告,検査困難例)。

著者から健常人における6回連続測定の結果を受け,査読者も驚きました。ご指摘の「通常,肺機能検査では繰り返し測定が肺機能の重症度により影響を受ける点を考慮する必要があります。」はその通りです。呼吸器疾患を有する患者を検討対象とした場合に,重症度を加味する必要があると考えております。

 指摘事項3.SVの設定変更の影響について

ご指摘の「説明によると,SVが機器の仕様により500 mLに制限されているとのことですが…」とあります。該当論文内の「使用機器における肺拡散能検査時の分析可能なSV最小量は500 mLであり,これ以上SVの減量はできなかった。」は査読者の指摘により加筆されました。該当論文の文献3)には,「VCが1 L未満 となると検査不能となる」と記載があります。文献6)は「肺気量800 mLの場合,WV 400 mL・SV 400 mLの割合で測定する」と表で示されています。該当論文における使用機器SV最小量を著者に確認し,「500 mL」の回答を得て,400 mLの設定はできないため,一文を入れるようお願いしました。

次にご指摘の「SVを従来の1,000 mLから500 mLに変更することは,ガス拡散能の正確性に直接影響を及ぼす要素であり,慎重な対応が求められる」ですが,査読者も同様に考えております。該当論文Figure 6に示しましたように,WV,SVを減量することで,それぞれのグラフ上における位置は上方向へ大きくシフトしております。これは減量することによって「サンプル量の違い」だけではなく,「サンプル時間のずれ」,「肺内サンプル領域の違い」も生じていることを示しDLco値に影響してきます。Spicerらの論文*1)では,呼吸停止後の呼出早期肺胞気(early sample)と後期肺胞気(late sample)の肺胞気CO濃度の差は,健常人より慢性肺気腫の方が大きいと示されています。サンプル時間のずれが及ぼすDLco値への影響は,健常人より呼吸器疾患を有する患者の方が大きいと読み取れます。このようなことを考えながら査読を行ったのですが,該当論文内にFigure 6を説明する文章やSVの変更はガス拡散能の正確性に直接影響を与えることを示す文章を記載すべきであったと考えます。

 指摘事項4.COのヘモグロビン親和性と連続測定の影響について

ご指摘の「時間を空けたからと言って大丈夫かは,今後検討が必要ではないでしょうか。このため連続測定を行う際にはCO-Hbの蓄積や排出に伴う影響を考慮する必要があります」はその通りであります。査読時,査読者も同様に考えました。検査方法を確認した際,著者は「肺拡散能における標準法と減量法の比較」を①DLco(標準法:WV 750 SV 1,000)→②DLco(WV 500 SV 500)→③DLco(WV 400 SV 500)→④DLco(WV 300 SV 500)→⑤DLco(WV 200 SV 500)→⑥DLco(WV 100 SV 500)のように対象者21名全員同じ順番で行っていました。そのために,連続測定の影響を指摘しました(上記指摘事項2にも記載)。連続測定によるCO-Hbの影響を考慮する場合,全員同じ順番で検査を行うのではなく②→③→④→⑤→⑥→①,③→④→⑤→⑥→①→②,④→⑤→⑥→①→②→③のように対象者毎に順番を変える,もしくはランダムに検査を行う方法ならば,CO-Hbの影響を平均化することができるのではないかと査読時に考えておりました。

連続測定における肺拡散能力・呼気CO濃度の変化を報告した大久保らのデータ*2)(3分間隔で12回連続測定,対象者の記載なし)をもとに,該当論文に相当する6回連続測定の変化をグラフから読み取ると,呼気CO濃度は0.001%(1回目)→0.0023%(6回目)と上昇し,これがback pressureとして働きDLco値は25.2 mL/min/mmHg(1回目)→23 mL/min/mmHg(6回目)と8.7%低下しています。宮澤らのデータ*3),*4)(10分間隔で10回連続測定,健常人対象)でも6回目のDLco値は1回目と比較し約10%低下しています。しかし,該当論文文献9)(4分以上間隔で10回連続測定,健常人)のデータでは13.97 mL/min/mmHg(1回目)→14.32 mL/min/mmHg(6回目)となり,低下していないことがわかります(むしろ値としては0.35 mL/min/mmHg上昇)。該当論文も低下が認められませんでした(健常人を対象としているにもかかわらず連続測定の結果が異なったことは,ご指摘のように今後の検討が必要であると考えております)。J.M.B. Hughesは著書(監訳 福地義之助)の中で,「単一呼吸法の施行回数が5回以下であるならば,一酸化炭素バックプレッシャーの補正を必要としない。」と述べています*5)

ご存知のようにCO-Hbの影響,サンプリング位置の上方へのシフト(early sample),SVにおける死腔の混入は,いずれもDLco値を低下させる要因です。低下させる要因が存在しているにもかかわらず,該当論文では「DLcoとDLco'は標準法とWV 500~300 mLまでの減量では有意差を認めなかった」という結果が得られています。つまり,ガス拡散測定の正確性に直接影響を及ぼす要因を含んでおり正確な値(真値)ではないが,臨床に応用できる値なのではと判断しました。

 機器取扱説明書に記載されている文面の記載

冒頭部分の記載「呼吸機能検査機器メーカーであるチェスト社が推奨し,かつ機器取扱説明書に記載されているWVについての文面の記載もありませんでしたので,その点についての意見も頂きたい」のご指摘ですが,私はチェスト社ではなく他社の呼吸機能測定装置を用いてDLco検査を行っておりました。よってチェスト社の機器取扱説明書に精通しておらず,著者に対して「記載がない」との指摘ができませんでした。この点について編集部を通じてお聞きしたところ著者からは「機器の取扱説明書を確認しましたが,WVについての文面の記載はありませんでした。」との回答を得ております。

最後になりますが,該当論文の文献4)は健常者と患者209名を対象として標準法(WV 750 mL・SV 1,000 mL)と減量法(WV 300 mL・SV 700 mL)を比較,文献5)は健常者20名を対象としてWV 750 mLから500 mL,400 mL,300 mL,200 mL,150 mL,0 mLと減量し,測定間隔は15分で比較検討を行い,ともにSV 300 mLの有用性を結論にしています。この2つの文献はいずれも抄録(1990年代)であります。該当論文における連続測定やWV 300 mLの結果は,DLco検査の定論と相対し驚かされる内容です。「論文」という形で報告するという点においても意味があったと考えております。

文献
  • *1)   Spicer  WS et al.: Diffusing capacity and blood flow in different regions of the lung. J Appl Physiol, 1962; 17: 587–595.
  • *2)   大久保  輝男,他:肺機能検査TODAY(肺拡散能力).Medical Technology, 1998; 26: 654–660.
  • *3)   宮澤  義,他:肺拡散能力測定の再現性に及ぼすCO-Hbの影響.臨床検査技師年報,1990; 213–215.
  • *4)  日本臨床衛生検査技師会ライブラリー:呼吸機能検査の実際,2009.
  • *5)  福地 義之助(監訳):肺機能検査―呼吸生理から臨床応用まで,メディカル・サイエンス・インターナショナル,東京,2004.
 
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