医学検査
Online ISSN : 2188-5346
Print ISSN : 0915-8669
ISSN-L : 0915-8669
原著
臓器移植検査における血清非働化処理法の基礎的検討―リンパ球交叉試験―
細羽 恵美子石塚 敏笹野 まゆ小林 悠梨安尾 美年子三浦 ひとみ布田 伸一石田 英樹
著者情報
ジャーナル フリー HTML

2026 年 75 巻 1 号 p. 10-22

詳細
Abstract

臓器移植においてレシピエントが産生するドナー特異的抗体(donor specific alloantibodies; DSA)は,移植後に引き起こす抗体関連型拒絶(antibody-mediated rejection; ABMR)に関与する危険因子である。DSA検出法には,リンパ球直接交叉試験(complement-dependent cytotoxicity cross-match; CDC-XM),リンパ球間接交叉試験(flow cytometry cross-match; FCXM)などがある。ドナーリンパ球を使用するCDC-XMとFCXMは,レシピエント血清中の補体活性を失活させることで補体因子の影響を受けない正確な測定結果を可能とする。本研究では,レシピエント血清中の非働化処理法の条件についてCDC-XM,FCXM,1/2.5Mayer法を使用して基礎的検討を行った。本研究の結果より56℃ 3 minまたは60℃ 2 minにおいてレシピエント血清中の非働化処理が有効であることを確認した。今後,ドナーリンパ球を使用するCDC-XM,FCXMは,本研究で得られた非働化処理法の条件に基づき,レシピエント血清を事前処理することで測定結果に影響を及ぼさない正確な検査精度が担保できると考えられる。

Translated Abstract

Donor-specific alloantibodies (DSA) produced by recipients in organ transplants are a risk factor for antibody-mediated rejection (ABMR) after transplantation. Methods for detecting DSA include the complement-dependent cytotoxicity cross-match (CDC-XM) and the flow cytometry cross-match (FCXM). CDC-XM and FCXM, which use donor lymphocytes, enable accurate measurement results that are not affected by complement factors by inactivating complement activity in the recipient serum. In this study, we conducted a basic study on the conditions for inactivation treatment of recipient serum using CDC-XM, FCXM, and 1/2.5Mayer method. The results of this study confirmed that inactivation of recipient serum at 56°C for 3 min or at 60°C for 2 min was effective. In the future, it is believed that CDC-XM and FCXM, which use donor lymphocytes, will be able to ensure accurate testing without affecting the measurement results by pre-treating recipient serum based on the inactivation treatment conditions obtained in this study.

I  はじめに

臓器移植では,レシピエントが産生するドナー特異的抗体(donor specific alloantibodies; DSA)により移植臓器が障害を受け,抗体関連型拒絶(antibody-mediated rejection; ABMR)を引き起こすことがある1)

DSAは,輸血・妊娠・感染・再移植などの抗原刺激により産生されるhuman lymphocyte antigen(HLA)に対する抗HLA抗体やABO血液型不適合臓器移植に関与する抗血液型抗体などが代表的である。

以前は,DSA高感作症例に関して移植禁忌とされた症例であっても,近年では新しい脱感作療法,抗体除去療法,免疫療法などを事前に施すことで移植が可能となる症例もあり移植成績が向上している2),3)

DSA検出法には,ドナーリンパ球を使用するリンパ球直接交叉試験(complement-dependent cytotoxicity cross-match; CDC-XM)4)~6),リンパ球間接交叉試験(flow cytometry cross-match; FCXM)7)~10)などがある。

CDC-XMは,ドナーのリンパ球をT細胞,B細胞にそれぞれ分離し,レシピエント血清と反応させたのち,ウサギ補体を加えて補体結合性を有するドナー特異的抗体を検出する方法である。

FCXMは,ドナーリンパ球を分離し,補体結合性を有するドナー特異的抗体とHLA以外の抗体の検出も可能な方法である。

腎移植では,レシピエント血清中にDSA,特に補体結合性の抗体が存在すれば,移植腎の血管内皮細胞に発現するHLAと反応し超急性拒絶反応が起こり,移植腎喪失に陥る。リンパ球交叉試験にドナーリンパ球を用いることは,これを移植臓器と見立ているため,CDC-XMやFCXMが一般的で,移植後のABMRを予測するための必要不可欠な検出法である。

レシピエント血清中には抗原に対する補体結合性抗体の反応を阻害する抗補体作用や11),12),自己の補体により測定結果に影響を及ぼす因子などが存在する。そのため,事前にレシピエント血清を非働化処理することで正確な検査精度が担保できると考えられている13),14)

レシピエント血清の非働化処理法の条件は,1904年に報告された56℃ 30分(minute: min)が現在においても標準法とされている15)。また,2001年に発刊された教本には60℃~63℃ 3~5 minという記載があったが16),現在の教本からは消されている。非働化処理を実施しなければ,レシピエント血清中に存在する補体が,CDC-XMやFCXMにおいて結果判定に影響を与える可能性がある。

筆者らは,ドナーリンパ球を使用するCDC-XMやFCXMの検査結果を正確に迅速に報告するため,先行文献における血清非働化処理法の条件によるリンパ球交叉試験の検査結果への影響および効果を評価することを目的とし,本研究ではレシピエント血清中の補体活性を確実に失活させる最適条件について基礎的検討を行ったので報告する。

II  対象

東京女子医科大学病院泌尿器科および移植管理科に生体腎移植を目的として受診され,本研究に同意を得たドナー,レシピエントの12症例を対象とした。

対象症例の検体使用に関しては,すべて個人同意を得て患者情報を匿名化し,東京女子医科大学の倫理審査委員会承認(承認番号:3731-R)のもとに実施した。

III  方法

1. レシピエント血清およびウサギ補体の非働化処理法

レシピエント血清は,1.7 mLマイクロチューブに100 μLずつ分注し,血清非働化未処理および56℃(3 min, 2 min, 1 min),60℃(5 min, 4 min, 3 min, 2 min, 1 min)の温度条件で血清非働化処理を行った。

ウサギ補体HLA Class I complement CABC-50(One Lambda Inc.)は,1.7 mLマイクロチューブに100 μLずつ分注し,非働化未処理および56℃(30 min,20 min,10 min,5 min,4 min,3 min~1 minは5秒(second: sec)間隔),60℃(5 min,4 min,3 min~1 minは5 sec間隔)の温度条件で非働化処理を行った。

2. ドナー細胞分取法

CDC-XMは,ドナーのヘパリン加末梢血液より,EasySep法(StemCell Technologie, Inc.)を用いてTリンパ球を分取し,自動セルカウンターCellDrop FL(DeNovix, Inc.)にて2.0 × 103個/μLに細胞数を調整した。

FCXMは,ドナーのヘパリン加末梢血液より,リンパ球分離液Lymphoprep(StemCell Technologie, Inc.)を使用し,多項目自動血球分析装置XE-5000(SYSMEX Corporation)を用いて2.0 × 103個/μLに調整した。

3. リンパ球直接交叉試験complement-dependent cytotoxic cross-match(CDC-XM)

60ウェルのテラサキプレート(One Lambda Inc.)にTリンパ球IgG抗体(陽性コントロール,One Lambda, Inc.)を各ウェルに1 μL加え,流動パラフィン(FUJIFILM Wako Pure Chemical Corporation)を10 μL加えた。各ウェルに2.0 × 103個/μLに調整したドナーのTリンパ球を各ウェルに1 μL加え,37℃インキュベーターで60 min静置反応後,温度と反応時間の条件において処理した非働化未処理と非働化処理ウサギ補体(One Lambda, Inc.)を各ウェルに5 μL加えた。更に,120 min室温静置反応させた後,蛍光2重染色液FluoroQuench(One Lambda, Inc.)を各ウェルに8 μL加え,カバーガラスをして倒立位相差蛍光顕微鏡Eclipse Ts2(Nikon Instruments, Inc.)にて判定した。

4. リンパ球間接交叉試験flow cytometry cross-match(FCXM)

ドナーリンパ球は,タンパク質分解酵素であるプロテアーゼprotease type XIV(Sigma-Aldrich Corporation)(終濃度8.0 mg/mL)を加え,37℃インキュベーターで12 min静置反応し,4℃生理食塩水にて2回洗浄後,2.0~3.0 × 106個/μLに調節した。ファルコンチューブ(Becton Dickinson and Company)を4本準備し,ドナー血清(陰性コントロール),リンパ球IgG抗体(陽性コントロール,One Lambda, Inc.),非働化未処理DSA陽性レシピエント血清と60℃ 2 min非働化処理したDSA陽性レシピエント血清を各々100 μL分注した。更に,各ファルコンチューブにprotease処理したドナーリンパ球100 μLを加え,室温にて30 min静置反応した。

4℃生理食塩水で3回洗浄後anti-human IgG-FITC(Jackson ImmunoResearch Laboratories, Inc.),CD19-PE(BD Biosciences),CD3-PerCP(BD Biosciences)を加え,4℃遮光20 min静置反応した。

4℃生理食塩水で2回洗浄後,BD FACSCanto IIフローサイトメーター(Becton, Dickinson and Company)にて測定した17)

5. 1/2.5Mayer法を用いた血清補体価測定法

CH50「生研」試薬キット(DENKA SEIKEN Corporation)を使用した。

感作ヒツジ血球をゼラチンベロナール緩衝液で2.0 × 103個/mLに調整し,温度と反応時間の条件において処理した非働化未処理と非働化処理のレシピエント血清を氷浴槽中で混和後37℃ウォーターバスで60 min振盪した。氷浴槽に5 min冷却し2,000 rpm,10 min遠心した。

遠心後のレシピエント上清血清をマイクロプレートに分注し,吸光プレートリーダーSunrise Remote(Tecan Japan Corporation)を用いて,540 nm波長でAbsorbanceを測定した18),19)

IV  解析方法

1. CDC-XM

非働化未処理および非働化処理ウサギ補体56℃ 30 minの結果を閾値(コントロール)として,それぞれ生細胞Acridine Orangeと死細胞Ethidium Bromideの染色画像をソフトウェアNIS-Elements Ar(Nikon Solutions Corporation)を用いて解析した。また,Tリンパ球のカウントは,輝点Bright spotによる二値化法で算定し,12例の平均生細胞率(%)および平均死細胞率(%)を求めた。DSA陽性判定は,死細胞率11(%)以上とした。

2. FCXM

Pseudocolor解析では,色調により細胞の密集状態を示した。細胞が密集するほど赤色,少ないと青色で表示した。DSA陽性判定は,Anti-human IgG-FITCの蛍光強度median fluorescence intencity(MFI)を用いて,FCXM陰性レシピエント血清1症例,陽性レシピエント血清7症例の計8症例の細胞数をレシピエント血清(MFI)/ドナー血清(MFI)よりRetio 2.0以上とした20)。陽性レシピエント血清は6症例がCDC-XM,FCXM共に陽性,1症例がCDC-XM陰性,FCXM陽性検体を用い,使用したリンパ球は第三者リンパ球を用いた。

3. 1/2.5Mayer法

機械的溶血ウェル(Cell and Buffer; CB)の吸光度をbackgroundとし,完全溶血ウェルの吸光度を溶血率100%として各ウェルの溶血率(%)を求めた。また,血清の希釈系列による反応も確認し,データの信頼性を担保した。

4. 統計解析

CDC-XM,FCXM,1/2.5Mayer法において統計解析にはWilcoxonの符号順位検定(Wilcoxon signed-rank test)を用いた。なお,評価はp ≥ 0.05を有意差なし(not significant; ns)とし,p < 0.05を有意差あり(*)と表記した。

V  結果

1. CDC-XM

CDC-XMの倒立位相差顕微鏡写真をFigure 1に示す。

Figure 1  CDC-XMの倒立位相差顕微鏡写真

Tリンパ球IgG抗体の陽性コントロールに対してウサギ補体の非働化未処理では,死細胞数1,903個(死細胞率100%)であった。ウサギ補体56℃ 30 min非働化処理では,生細胞数1,896個(死細胞率0%)であった。

Tリンパ球IgG抗体の陽性コントロールに対してウサギ補体の非働化未処理では,死細胞数1,903個(死細胞率100%)であった。ウサギ補体56℃ 30 min非働化処理では,生細胞数1,896個(死細胞率0%)であった。

1)ウサギ補体56℃非働化処理条件の検討結果をTable 1に示す。

Table 1 CDC-XMにおけるウサギ補体56℃非働化処理条件の検討結果

非働化処理 56℃

n = 12 生細胞
(平均個数)
平均生細胞率
(%)
死細胞
(平均個数)
平均死細胞率
(%)
死細胞率(%)
陽性判定
最長時間検体
陽性判定
最短時間検体
非働化未実施 0 0 2,000 100
30 min 1,996 99.8 4 0.2 1.7 0.0
20 min 1,988 99.4 12 0.6 2.1 0.0
10 min 1,968 98.4 32 1.6 2.1 0.0
5 min 1,996 99.8 4 0.2 0.9 0.0
4 min 1,998 99.9 3 0.1 1.4 0.0
3 min 1,996 99.7 7 0.3 1.7 0.0
2 min 55 sec 1,991 99.5 9 0.5 1.8 0.0
2 min 50 sec 1,970 98.5 30 1.5 5.9 0.0
2 min 45 sec 1,938 96.9 62 3.1 8.7 0.0
2 min 40 sec 1,911 95.5 89 4.5 13.9 0.0
2 min 35 sec 1,844 92.2 156 7.8 17.9 1.1
2 min 30 sec 1,795 89.7 205 10.3 19.8 1.7
2 min 25 sec 1,682 84.1 318 15.9 23.6 7.9
2 min 20 sec 1,552 77.6 448 22.4 53.0 9.5
2 min 15 sec 1,393 69.6 608 30.4 87.7 12.7
2 min 10 sec 1,227 61.4 773 38.6 91.2 20.1
2 min 5 sec 987 49.4 1,013 50.6 88.4 29.9
2 min 912 45.6 1,089 54.4 86.1 40.4
1 min 55 sec 655 32.8 1,345 67.2 98.5 46.8
1 min 50 sec 445 22.2 1,555 77.8 98.9 49.7
1 min 45 sec 323 16.2 1,677 83.8 99.4 53.9
1 min 40 sec 179 9.0 1,821 91.0 99.6 69.9
1 min 35 sec 75 3.7 1,926 96.3 99.8 88.2
1 min 30 sec 34 1.7 1,967 98.3 99.9 94.6
1 min 25 sec 18 0.9 1,682 99.1 100.0 98.1
1 min 20 sec 11 0.5 1,989 99.5 100.0 98.8
1 min 15 sec 5 0.2 1,996 99.8 100.0 99.2
1 min 10 sec 2 0.1 1,998 99.9 100.0 99.8
1 min 5 sec 2 0.1 1,998 99.9 100.0 99.8
1 min 2 0.1 1,998 99.9 100.0 99.8

DSA陽性判定を死細胞率11%以上として解析した結果では,非働化処理の陽性判定最短時間は2 min 15 sec,陽性判定最長時間2 min 40 secであり,3 minを超えない結果であった。

Tリンパ球IgG抗体の陽性コントロールに対してウサギ補体3~5 minおよび10 min,20 min,30 minまで平均生細胞数1,993個から1,998個,平均生細胞率98.4%から99.9%であり,平均死細胞率は0.0%と非働化処理の効果が認められた。非働化処理前後において死細胞率ではp < 0.05と有意差を認めた。また,2 minでは生細胞平均912個,死細胞平均1,089個で補体カスケード活性化は認めたが,非働化の状態は平均死細胞率40.4%でとどまっていた。ただし,非働化処理前後において死細胞率ではp < 0.05と有意差を認めた。1 minでは,非働化処理前後において死細胞率ではp = 0.34と有意差を認めなかった。3~1 minは5 sec間隔で非働化処理を実施しDSA陽性判定を死細胞率11%以上として解析した結果,非働化処理の陽性判定までに要した時間の最長時間の検体は2 min 40 sec,最短時間の検体は2 min 15 secであった。陽性判定までに要した時間の最頻値は2 min 35 secの5検体であった。すべての検体において3 minを超えない結果であった。

2)ウサギ補体60℃非働化処理条件の検討結果をTable 2に示す。

Table 2 CDC-XMにおけるウサギ補体60℃非働化処理条件の検討結果

非働化処理 60℃

n = 12 生細胞
(平均個数)
平均生細胞率
(%)
死細胞
(平均個数)
平均死細胞率
(%)
死細胞率(%)
陽性判定
最長時間検体
陽性判定
最短時間検体
非働化未実施 0 0 2,000 100
30 min
20 min
10 min
5 min 1,996 99.8 4 0.2 0.2 0.0
4 min 1,992 99.6 8 0.4 0.4 0.1
3 min 1,993 99.7 7 0.3 0.4 0.0
2 min 55 sec 1,991 99.5 9 0.5 0.5 0.0
2 min 50 sec 1,969 98.4 31 1.6 1.6 0.1
2 min 45 sec 1,973 98.6 27 1.4 1.4 0.0
2 min 40 sec 1,976 98.8 24 1.2 1.2 0.1
2 min 35 sec 1,975 98.8 25 1.2 1.3 0.0
2 min 30 sec 1,959 98.0 41 2.0 2.1 0.0
2 min 25 sec 1,955 97.7 45 2.3 2.3 0.1
2 min 20 sec 1,976 98.8 24 1.2 1.2 0.1
2 min 15 sec 1,969 98.4 31 1.6 1.6 0.2
2 min 10 sec 1,976 98.8 24 1.2 1.2 0.2
2 min 5 sec 1,970 98.5 30 1.5 1.5 0.0
2 min 1,975 98.7 25 1.3 1.3 0.0
1 min 55 sec 1,953 97.6 47 2.4 2.4 0.0
1 min 50 sec 1,900 95.0 100 5.0 11.1 1.2
1 min 45 sec 1,678 83.9 322 16.1 16.1 2.4
1 min 40 sec 1,378 68.9 622 31.1 31.1 5.1
1 min 35 sec 909 45.5 1,091 54.5 54.6 11.3
1 min 30 sec 528 26.4 1,472 73.6 73.6 28.1
1 min 25 sec 254 12.7 1,746 87.3 100.0 49.3
1 min 20 sec 88 4.4 1,912 95.6 100.0 77.2
1 min 15 sec 21 1.1 1,979 98.9 100.0 96.4
1 min 10 sec 7 0.3 1,993 99.7 100.0 98.1
1 min 5 sec 2 0.1 1,998 99.9 100.0 99.8
1 min 2 0.1 1,998 99.9 100.0 99.8

DSA陽性判定を死細胞率11%以上として解析した結果では,非働化処理の陽性判定最短時間は1 min 35 sec,陽性判定最長時間1 min 50 secであり,2 minを超えない結果であった。

Tリンパ球IgG抗体の陽性コントロールに対してウサギ補体2~5 minまで平均生細胞数1,959個から1,996個,平均生細胞率99.7%から99.8%であり,平均死細胞率は0.0%と非働化処理の効果が認められた。また,非働化処理前後において死細胞率ではp < 0.05と有意差を認めた。1 minでは非働化処理前後において死細胞率ではp = 0.06と有意差を認めなかった。3~1 minは5 sec間隔で非働化処理を実施した結果では,DSA陽性判定を死細胞率11%以上として解析した結果,非働化処理の陽性判定までに要した時間の最長時間の検体は1 min 50 sec,最短時間の検体は1 min 35 secであった。陽性判定までに要した時間の最頻値は1 min 45 sec,1 min 40 secのそれぞれ4検体であった。すべての検体において2 minを超えない結果であった。

2. FCXM

FCXMにおける非働化未処理および非働化処理60℃ 2 minの測定結果をFigure 23, Table 34に示す。

Figure 2  FCXMにおける非働化未処理および非働化処理60℃ 2 minの測定結果

リンパ球のゲートを陰性コントロールで確定し,陽性コントロール,非働化未処理,非働化60℃ 2 min処理は共通のゲートを用いて評価した。

細胞の取り込みはB cell:3,000個と統一した。

細胞数の集中している部分は赤~緑色となっているが,非働化未処理で濃い部分は消失しており,明らかな細胞数の減少を認めた。

Figure 3  FCXMにおける非働化未処理および非働化処理においての細胞数の変化

T Cellにおいて,非働化未処理群と非働化(60℃ 2 min)処理群の間で細胞数の変化に有意差は認められなかった(p = 0.14)。

B Cellにおいて,非働化未処理群と非働化(60℃ 2 min)処理群の間で細胞数の変化に有意差が認められた(p < 0.05)。

Table 3 FCXMにおける非働化未処理および非働化処理の細胞数(T細胞)

n = 8 陰性コントロール 陽性コントロール 非働化未実施 非働化実施
60℃ 2 min
陰性 27,283 39,267 25,476 26,188
症例① 15,392 10,079 559 11,346
症例② 39,041 40,875 22,438 42,936
症例③ 40,259 40,614 1,072 59,542
症例④ 13,925 8,432 19,684 21,837
症例⑤ 17,190 12,054 5,063 11,474
症例⑥ 17,039 13,646 14,525 13,995
症例⑦ 16,630 13,828 18,255 15,032

CDC-XMおよびFCXMともに陰性症例において,非働化未実施群と非働化(60℃ 2 min)群の間で細胞数の変化に有意差は認められなかった。

症例①~⑤のCDC-XM陽性,FCXM陽性症例では,非働化未実施群と非働化(60℃ 2 min)群の間で細胞数の変化に有意差を認めた。

症例⑥⑦のCDC-XM陰性,FCXM陽性症例では,非働化未実施群と非働化(60℃ 2 min)群の間で細胞数の変化に有意差は認められなかった。

Table 4 FCXMにおける非働化未処理および非働化処理の細胞数(B細胞)

n = 8 陰性コントロール 陽性コントロール 非働化未実施 非働化実施
60℃ 2 min
陰性 2,746 2,641 2,697 2,720
症例① 2,172 1,236 66 1,491
症例② 3,042 2,985 307 3,058
症例③ 2,895 2,843 23 2,947
症例④ 1,894 1,063 121 1,603
症例⑤ 2,449 1,417 17 981
症例⑥ 2,415 1,673 80 807
症例⑦ 2,236 1,597 2,569 1,987

CDC-XMおよびFCXMともに陰性症例において,非働化未実施群と非働化(60℃ 2 min)群の間で細胞数の変化に有意差は認められなかった。

症例①~⑥のCDC-XM陽性,FCXM陽性症例では,非働化未実施群と非働化(60℃ 2 min)群の間で細胞数の変化に有意差を認めた。

症例⑦のCDC-XM陰性,FCXM陽性症例では,非働化未実施群と非働化(60℃ 2 min)群の間で細胞数の変化に有意差は認められなかった。

DSA陰性レシピエント血清では非働化処理の有無でTリンパ球,Bリンパ球ともに細胞数の有意差は認められなかった。DSA陽性レシピエント血清では7症例中CDC-XMも陽性の6症例についてはTリンパ球はp = 0.14と細胞数の有意差は認めなかったが,Bリンパ球はp < 0.05と細胞数の有意差を認めた。CDC-XM陰性の症例ではTリンパ球,Bリンパ球ともに細胞数の有意差は認めなかった。

3. 1/2.5Mayer法

1/2.5Mayer法のマイクロプレート写真および各吸光度変化率(%)の測定結果をFigure 45に示す。

Figure 4  1/2.5Mayer法のマイクロプレート写真

血清希釈系列は全量3.0 mL(分母)に対しての添加した非働化未処理,およびそれぞれの条件において非働化処理した血清量(分子)にて作成し,吸光度を測定した。最上段ウェルの吸光度変化率(%)を用いて非働化処理の効果の評価を行った。

1.0/3.0以下の血清希釈系列はこの実験の有効性の確認のために実施した。

Figure 5  1/2.5Mayer法の各吸光度変化率(%)

コントロール完全溶血を100%として非働化未処理,非働化処理56℃および60℃実施においての各血清希釈系列の吸光度の変化率(%)を求めプロットした。

56℃ 1 min,60℃ 1 minは非働化未処理と同様の吸光度変化であり,非働化の効果を認めなかった。

56℃ 2 minでは1/2程度の非働化の効果を認めた。

56℃ 3 min,60℃ 2 min,1 minはコントロールCBと同様の吸光度を全希釈系列で認め,非働化の効果を認めた。

機械的溶血CBの吸光度0.044(溶血率8.1%),完全溶血の吸光度0.541(溶血率100%)であった。

1)レシピエント血清56℃非働化処理条件において3 minでは,CBと同様の吸光度0.043(溶血率7.9%)で非働化処理前後においてp < 0.05有意差を認め,非働化処理の効果が認められていた。2 minでは吸光度が上昇し0.220(溶血率40.7%)であった。完全溶血には至らなかったが非働化処理前後においてp < 0.05と有意差を認めた。1 minでは非働化未処理検体の吸光度0.459(溶血率84.8%)と同様の吸光度0.474(溶血率87.6%),非働化処理前後においてp = 0.665と有意差を認めず,非働化処理の効果が認められなかった。

2)レシピエント血清60℃非働化処理条件において2~5 minまではCBと同様の吸光度で非働化処理前後においてp < 0.05有意差を認め,非働化処理の効果が認められていた。1 minでは56℃と同様に非働化未処理検体の吸光度0.459(溶血率84.8%)と同様の吸光度0.482(溶血率89.1%)となり非働化処理前後においてp = 0.665と有意差を認めず,非働化処理の効果が認められなかった。

VI  考察

臓器移植におけるABMRは,DSAにより強烈に拒絶反応が進行する症例と徐々に進行する症例がある。

ABMRを発症する臨床的な作用機序は,ドナーの提供臓器に発現している血管内皮細胞上のHLAとレシピエント自身が産生した抗HLA抗体が反応して血管内皮細胞上に血栓を形成し,循環障害を惹起するため発症する。このDSAとなる抗HLA抗体には,補体系を活性化する補体依存性細胞傷害活性(complement-dependent cytotoxicity; CDC)と補体系を介さない抗体依存性細胞傷害活性(antibody dependent cellular cytotoxicity; ADCC)の2つのメカニズムがある。この2つのメカニズムに関連する検査法がCDC-XMとFCXMである。

CDC-XMはFCXMや抗HLA抗体特異性同定検査などに比べ感度が落ちるという報告がされている。これは,測定結果の評価においてはCDC-XMが陰性であっても,FCXM,特異性同定検査において陽性という判定となることに起因していると推測する。これらの検査法はDSAを確認するために実施されているが,捉えているところが異なるからであって,CDC-XMの感度が他方より悪いということにはならず特異性の違いのためである。移植においての特に重要な判定は,そのDSAが補体結合性を有しているかどうかで,それを捉え評価が可能なのはCDC-XMのみである。

ドナーリンパ球を使用するCDC-XMとFCXMでは,レシピエント血清中に存在するDSAの反応を阻害する因子による抗補体作用,または,自己の補体により測定結果に影響を及ぼすことがある。特に補体結合性のDSAでは,その影響により判定が変わることがある。そのため,事前にレシピエント血清を非働化処理することで正確な検査精度が担保できると筆者らは考えている。しかし,血清非働化処理法の条件には,一般的に56℃ 30 minが使用されているが,60℃~63℃ 3~5 minという報告もある。一般的な方法では30 min間のインキュベートを要し,測定時間が長時間となる。

本研究による検討内容は,CDC-XMについては,補体側の非働化処理の,至適温度,時間について効果を検証するために実施した。FCXMについては,非働化処理においてのレシピエント血清中の補体の影響について検証を行った。また,1/2.5Mayer法においては,実際のレシピエント血清側の補体の非働化処理でも同様の結果が得られるかの検証のために実施した。

CDC-XMの検討結果では,ウサギ補体に関して非働化処理56℃ 2 minでは補体は活性化されカスケードは進む。しかし,平均死細胞率は54.4%と陽性判定ではあるが,1/2程度の非働化処理であった。このことは,福岡21)のヒト血清に関する文献において56℃ 2 minでは1/2程度の非働化処理であったと報告があることと同様の結果であった。60℃ 2 minにおいては平均死細胞率1.3%であったことは56℃より時間的な短縮が可能であることが示唆された。

筆者らは,この検討結果より補体の非働化が開始されると急激に進むのではないかと仮説を立て,56℃および60℃ 1 min~3 minの間で5 sec間隔で非働化処理の追加検討を行った。

CDC-XMにおいて56℃で死細胞率11%以上に到達した非働化処理時間は,最短で2 min 15 sec,最長で2 min 40 secであり3 minを超えることはなかった。60℃で平均死細胞率11%以上に到達した非働化処理時間は,最短1 min 35 sec,最長1 min 50 secであり2 minを超えることはなかった。また,60℃においては非働化処理の効果が平均死細胞率11%を超えるとほぼ平均死細胞100%に到達するまでの時間がおよそ15 secであるのに対し,56℃では60℃の場合より1 min遅くに効果が出はじめ,さらに死細胞率100%に到達するまでに10 sec長い25 secかかっていた。CDC-XMにおいて細胞数の差は特にみられなかったことは,60℃に温度を上げても,検査成績に影響を認めなかったことが証明できた。

FCXMにおける検討結果では,pseudocolor解析においてCDC-XM陰性でありFCXM陽性の症例⑦では,Tリンパ球,Bリンパ球ともに非働化処理前後で細胞数に有意差を認めなかった。CDC-XM陽性かつFCXM陽性症例①~⑥では60℃ 2 min非働化処理実施により,B細胞はp < 0.05と非働化処理前後で細胞数に有意差を認めた。T細胞では非働化処理前後で細胞数に有意差を認めなかった。今回選んだ症例はCDC-XM陽性かつFCXM陽性6例とCDC-XM陰性,FCXM陽性1例をサンプルとしている。症例⑥のT細胞の減少を認めなかったのは,その第三者リンパ球のHLAに反応するDSAのClass Iの抗体はDSAの抗体量により反応する蛍光強度が異なったことや,T細胞はB細胞よりもClass Iの発現量が少ないことが要因であると推測する。そのため,反応した際にDSAとなる抗体の力価によって,T細胞には影響しないが,B細胞には影響するという違いが生じることとなる。更に全症例でT細胞に関して,有意差は認めなかったが,実測値の細胞数を確認すると,症例⑥は例外として全症例が非働化未処理で半数以下に減少している。このようなことが発生するのは,FCXMの機器設定において,B細胞を基準(3,000個)として細胞を取り込んでいるため,B細胞が少ない症例に関しては自ずとT細胞の取り込み細胞数は増えていくこととなることが要因と考察する。症例⑦のFCXM陽性の症例でCDC-XM陰性では,非働化処理前後でT細胞とB細胞が共に細胞数の変化がなかったのは,DSAに補体結合性が無かったためであると推測する。このような症例は多く存在し,このことがCDC-XMが感度が悪い検査であると言われる原因であると思われるが,実際には感度ではなく捉えるDSAの特異性の違いにより差が出ているためであると考察する。

Figure 2のドットプロットでは,すべてのサンプルにおいて同一のリンパ球をゲーティングして評価している。非働化処理未実施の場合であっても,他の場所に著明な集塊が見られないことを確認した。そのため,これらの細胞数が減少している検体に関しては,補体結合性を有するDSAが存在することでドナーリンパ球に対して抗原抗体複合体を形成し,細胞の融解が起こったことと推測する。

補体結合性を有するDSAは,抗体のFab部分がHLAと反応し抗原抗体複合体を形成し抗体の分子構造が変化しFc部分に補体(C1q)が結合して古典経路の活性化が開始される。そして,C4→C2→C3まで活性化が進み,更には膜侵襲経路C5→C6→C7→C8→C9と反応が進みC5b-9の膜侵襲複合体(membrane attack complex; MAC)を作る。この複合体は細胞膜に貫通孔を形成し細胞が破壊されるため,細胞数の減少が起こっていた。非働化処理は重要な処理であることを再確認した。

1/2.5Mayer法における検討結果では,レシピエントの血清非働化処理56℃ 2 minにおいてCDC-XMと同様に変化率40.7%で補体カスケードが不完全な非働化処理であった。56℃ 3 minにおいて完全に非働化処理が完了していた。また,60℃ 2 minにおいてもCDC-XMと同様に完全に非働化処理が完了していた。本研究において,非働化処理の条件について,56℃と60℃の温度の違いや,それに伴って時間を短縮することが可能となることを証明できた。本来,1/2.5Mayer法は血清補体価CH50を算出する検査試薬であるが,本研究では血清非働化処理の有効性の確認に代用した22)

補体系は,補体作用を制御するタンパク質も含め30種類の成分から構成される血清タンパク質である。

その役割は,生体内に侵入した病原微生物や生体内に生じた抗原抗体複合体などを排除する働きである。また,活性化されるカスケードには,古典経路,第2経路,レクチン経路の3つが存在する23)。本研究に使用した検討法では,CDC-XM,1/2.5Mayer法が古典経路を反映した方法である。

補体成分は,主に肝臓で生産されるタンパク質で生体内では酵素前駆体のチモーゲンとして体内を循環している。補体には,C1,C2,C8,B因子の易熱性とC3,C4の耐熱性が存在する。易熱性は1~2 minで活性が半減し,C3,C4は56℃,30 min熱処理を加えた場合であってもその活性は1/2~1/4程度残っている21)。しかし,C3,C4のように活性が残っていた場合でも補体は単体では作用できないため細胞破壊までのカスケードは進んでいくことはないと言われている16)。今回の検証で,56℃の温度条件であっても非働化処理時間は3 minでカスケードが進まないことを証明することが可能であった。

筆者らは,血清非働化処理法の条件として56℃ 30 minが標準的な方法であると位置づけ,60~63℃ 3~5 minに関しては4℃上昇するだけでおよそ10倍の血清非働化処理効果が得られるのではないかと推測した。しかし,本研究では実際には56℃ 3 minで血清非働化処理が有効であることを証明した。60℃においても2 minで非働化処理が有効であることを証明したが,現在の免疫検査学の教科書では60~63℃ 3~5 minに関しての記述が削除されている23)。削除された理由は不明である。

Carpenterの報告24)では,ヒト血清を51℃~61℃の温度条件での検討において56℃ 30 min,60℃ 3 minという最適条件を見いだしている。更に,1989年に上田の報告25)では,ポール・バンネル反応,梅毒緒方法,RAPAの各検査で56℃の条件下において30 minと10 minの違いによる検証では結果判定に差異が無いことを証明している。今回の検証において,CDC-XM,FCXMで56℃の条件下では3 min,60℃の条件下で2 minで結果判定に差異がないことを証明することができた。

ただし,なぜ56℃ 30 minが現在もなお一般的であるかというところでは,上田の報告25)の中で文献的な考察にはなるが,56℃ 30 minは高力価補体のモルモット血清による実験結果がヒト血清においても引き継がれているのではないかと推測される。

血清中のタンパク質は,一部の好熱菌タンパク質を除き,多くのタンパク質の立体構造は50℃以上で壊れ,タンパク質は変性し失活すると言われている26)。そのため,血清非働化処理に関しても長時間の高温曝露は,ヒト血清中のDSAに対しても悪影響を及ぼす可能性が示唆される。

DSAに変性が生じた場合,リンパ球交叉試験では抗原抗体複合体を形成しづらくなり,偽陰性になりかねない。陰性であると移植が実施されることとなるため,急性の拒絶反応を起こし移植腎喪失が起こる。そのため,タンパク質の高温曝露を短時間で効果的に行うことは,移植成績に大きく関わってくることとなる。また,CDC-XMのT細胞陽性の場合は移植禁忌とされている。そのため,非働化が不十分なレシピエント血清内に存在する補体等よりCDC-XM偽陽性となる場合では,本来受けられる移植を受けられなくなるため,待機しているレシピエントの負担が大きくなる。非働化を実施しないことはもとより,実施した場合であってもその実施方法が最適でないことで問題が生じてくることとなる。検査結果を正確に報告するには,非働化処理を行うことは必要であるが,処理時間が長いことも敬遠される要因であると推測する。一般的な56℃での非働化処理を30 minから3 minへの大幅な時間の短縮が可能であることが証明できたことは,今後の移植検査において貢献できると考える。

VII  結語

臓器移植におけるドナーリンパ球を使用するCDC-XM,FCXMでは,レシピエント血清の非働化処理法の条件として56℃ 3 minまたは60℃ 2 minが検査精度向上に有効であると考える。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

文献
 
© 2026 一般社団法人 日本臨床衛生検査技師会
feedback
Top