2026 年 75 巻 1 号 p. 163-167
当院では病院総合情報システム更新に係る諸準備は事務部情報管理部門が担ってきたが,医療現場との連携不足が指摘されていた。そこで,医療従事者を構成員とした電子カルテ管理室を設立し,職種に適した役割を分担し合うことで,より現場要求を満たすことのできるシステム更新を目指すことになった。本報告は,医療従事者主体の電子カルテ管理室設立によるシステム更新体制の変化と,その過程における多職種連携の実際,および課題について明らかにすることを目的とする。システムの内容・種類に応じて関連する職種でワーキンググループ(WG)を構成したが,サブワーキンググループ(SWG)が予想外に増えてしまったためにメンバーならびに現場スタッフの業務負担増に繋がる結果となった。予算制約のため部門システム数やシステムの機能においてWGの要望通りとはならなかった。またWG活動の長期化によりメンバーの固定化が難しく,活動の進行にも影響があった。その結果,検討の不十分さが原因の設計不具合,設定の確認不足を起因とした問い合わせがシステム稼働後に押し寄せることになった。電子カルテ管理室構成員として病院総合情報システムの更新を経験して,現場とのコミュニケーションの重要性を認識した。次期は職種毎の知識や権限を理解した上で互いを尊重し協力し合い,ユーザーの満足度向上に貢献することを目指したい。
In our hospital, the administrative department has been responsible for updating the hospital information system, but there has been a lack of cooperation with the medical field. Therefore, we decided to establish an electronic medical record management office consisting of medical staff members, aiming to update the system to better meet the requirements of the medical field. This report describes the changes in the system updating system and the actual and issues of multidisciplinary collaboration due to the establishment of the electronic medical record management office, which is mainly composed of medical staff. Working groups (WGs) were organized according to the contents and types of systems, but the number of subworking groups (SWGs) increased, leading to an increased workload for members and on-site staff. Due to budget constraints, the number of departmental systems and system functions did not meet the requirements of the WGs. Also, the progress of activities was delayed due to changes in members as a result of prolonged SWG activities. As a result, after the system went into operation, there were more inquiries due to design defects and insufficient confirmation of settings. As a member of the Electronic Medical Record Management Office, I experienced the updating of the hospital general information system and recognized the importance of communication with the field. In the next fiscal year, I would like to contribute to the improvement of user satisfaction by respecting and cooperating with each other based on an understanding of the knowledge and authority of each job category.
当院では従来,病院総合情報システム更新(以下,システム更新)に係る諸準備は事務部情報管理部門が担っていたが,医療現場の要求がシステムに反映されていないことがしばしば指摘されていた。無論,実際にシステムを使用する職種で構成されたワーキンググループ(以下,WG)は存在し,仕様書案の作成や設計,テストなどの工程に携わってはいた。しかし現場の要求を満たすには十分とは言えず,システム稼働後に改修を余儀なくされていた。そこで,2022年4月に実際にケアに携わっている医療従事者を構成員とした電子カルテ管理室が設立され,事務部情報管理部門と緊密な連携を取りつつ2025年1月のシステム更新に向けた準備を担うこととなった。本報告は,医療従事者主体の電子カルテ管理室設立によるシステム更新体制の変化と,その過程における多職種連携の実際,および課題について明らかにすることを目的とする。
電子カルテ管理室は,病院情報管理システムおよびカルテ情報の管理・運用などを行い,あらゆる診療情報を適切に管理し,安全な診療の提供および医療の品質の向上のための支援を目的としたシステム管理部門である。電子カルテや診療情報に関する要望や課題を整理し,対応を推進するために様々な改善活動を行っており,システム更新に向けた準備もその一つとされた。構成員は医師2名,薬剤師,看護師,診療放射線技師,臨床検査技師,臨床工学技士各1名の計7名である。
1. 準備段階システム更新に向けた電子カルテ管理室の最初の取り組みは,マスタースケジュールの作成と仕様検討のためのWGを構成することであった。マスタースケジュールは従来のスケジュールを参考に作成し,イベントの進行に合わせて適宜修正を加えた。WG構成は,電子カルテシステムの機能別ならびに各部門システムに対応したWGを42のサブワーキンググループ(以下,SWG)に分類し,電子カルテ管理室構成員で会議開催のための準備,議事録の管理,WG運営のサポートなどを行った。仕様書案はSWG主導で作成してもらいつつ,電子カルテ管理室構成員も医療システムに関する展示会に参加したり,企業から直接説明を受けたり,他施設の状況を確認したりして,情報収集とWGへの共有に努めた。病院情報システム契約までの工程は,2022年10月に資料提供招請に関する公表,2023年3月に意見招請に関する公示,2023年8月に入札の官報公告を行い,2023年12月に開札といった流れであり,この間,9回の仕様策定委員会と2回の技術審査委員会が開催された(Table 1)。前回のシステム更新では,ベンダー各社の意見に対する回答書作成にWGが関与していなかったことが問題視されていたため,今回はWGにも関与してもらい,意見のあった要求仕様に対して十分に検討した上でWGの了承を得て修正した。その甲斐あってか,出来上がった仕様書に対してWGメンバーからの表立った異議申し立てはなかった。
| 開催年月 | 事項 | 内容 |
|---|---|---|
| 2022年9月初旬 | 第1回仕様策定委員会 | 委員会設置 導入手続き日程確認 資料提供招請広告審議・承認 |
| 2022年9月下旬 | 第2回仕様策定委員会 | 導入説明書審議・承認 |
| 2022年11月 | 第3回仕様策定委員会 | 資料提供招請の報告 |
| 2023年1月 | 第4回仕様策定委員会 | 仕様書(案)審議 意見招請広告審議・承認 |
| 2023年2月 | 第5回仕様策定委員会 | 仕様書(案)審議・承認 |
| 2023年4月 | 第6回仕様策定委員会 | 意見招請報告 仕様書修正審議開始 |
| 2023年5月 | 第7回仕様策定委員会 | 意見に対する回答書審議・業者送付 |
| 2023年6月 | 第8回仕様策定委員会 | 入札公告審議・承認 |
| 2023年7月 | 第9回仕様策定委員会 | 仕様書,総合評価基準の審議・承認 |
| 2023年9月 | 第1回技術審査委員会 | 入札業者の技術提案に対する審査 |
| 2023年11月 | 第2回技術審査委員会 | 入札業者の技術提案に対する審査・落札者決定 |
開札後のイベントとして,まずキックオフミーティングを開催し,システム概要や今後のスケジュールを病院職員に説明した。その後は,仕様検討のためのSWGをベースに運用・設計検討のSWGを構成した。このSWGでは,SWGメンバーとシステムベンダーで要求仕様の確認やカスタマイズ要否,運用などの議論を重ね,その決定事項を以ってシステムの設計・構築へと進んだ。2024年9月よりテストを開始し,操作訓練,リハーサルを経て2024年12月にシステム更新最終準備期間を迎えた。設計以降は,一部工程に遅延はあったものの概ね順調であった。
3. 稼働前日新システム稼働前日は終日既存システムを停止し,移行作業を行った。あらかじめ院内にシステム停止時対応への切り換えを周知していたこと,毎年システム停止時訓練を行っていたことから,大きな混乱は見られなかった。システム切り換え作業完了後にはプライムベンダーと電子カルテ管理室構成員とで稼働判定会議を行い,問題ないと判定された後,2025年1月1日より正式に新システムの運用を開始した。
今回のシステム更新は従来と同じ電子カルテシステムのバージョンアップであり,一部の新システムを除いて従来機能は移行されていたことから,更新に伴う病院の業務制限は一切行わず,実際に病床稼働や患者数の落ち込みもなかった。そのためシステム更新による混乱は少ないと考えていたが,2025年1月に寄せられた新システムに対する問い合わせは1,580件と予想以上の数であった。操作性の不慣れさに起因する個人的な要望が最も多かったが,設定ミスと設計の不具合を合わせると4割を占め,事前の確認不足やシステムベンダーとの意思疎通に問題があったことも浮き彫りとなった(Figure 1)。「従来出来ていたことが出来ない」,「操作方法がわからない」といった問い合わせが多く聞かれたが,稼働前の操作訓練会開催,電子カルテホーム画面ならびに学内専用サイトにマニュアルと操作動画を掲載するなどの周知は行ってきた。しかし「忙しくて見ていられない」「直ぐに覚えられない」などの声を多くいただき,全職員に浸透させることの難しさを実感させられた。「従来出来ていたことが出来ない」ことに対しては,問い合わせの内容や口ぶりから職員にかなりのストレスを与えていることが感じ取れた。原因は設定ミスなどの人為的なものから,権限の見直しによる影響,WGの方針による機能の制限,ハード障害など,様々であった。新システムの検証期間は十分に設けたつもりであったが,職種毎に与えられている権限の範囲によって発見可能な不具合とそうでないものがあり,検証を電子カルテ管理室の職種による分担制としたことも不具合の発見が遅れる一因となった。自らに与えられた権限の範囲外で検証できないことが明らかな場合は他職種に協力を仰ぐこともしたが,職種による権限の違いを完全に把握できていなかったために不具合を見落としたことも否めなかった。

WG活動をサポートする中で苦労した点は幾つかあるが,仕様書案作成を始める前に予算に合わせた基幹システムの機能と部門システムの見直しを行ったことがまず挙げられる。基幹システムの機能は従来のものと同等の機能が備わった別製品と比較して,最適と判断されたものを導入することとした。部門システムに関しては,利用者範囲や導入意義の高いものを選定したため,WGのすべての要望を叶えることはできなかった。WGメンバーにはこれらを理解してもらった上で仕様書案作成に取り掛かってもらう必要があった。
次にSWGの多さが挙げられる。最終的には仕様検討SWG数が42,運用・設計SWG数が78となり,複数のWGメンバーに選定されている職員は,多くの時間をWG活動に割くこととなった。メンバー本人の負担もさることながら,業務時間内に設定された会議にメンバーが出席しなければならない場合は,同職種のスタッフがメンバーの業務をサポートするために普段より多くの業務を負担しなければならなかった。運用・設計を検討する段階において,担当するシステムベンダーに応じてSWGを細分化したためにWG活動回数が増えてしまったことは次期の課題と言えよう。
また,WG活動が約3年と長期にわたっており,その間の人事異動からWGメンバーを固定化できず,新任者へ今までの検討内容を説明するために時間を割き,意思決定に時間を要す状況が発生した。その結果,決められた期間で工程を進めるために検討時間が短縮され,あるいは検討時間延長のために次工程の期間を短縮することになり,設計の不具合や設定確認の不足からくる設定ミスに繋がった可能性が考えられる。それが,システム稼働後の問い合わせとなって現れたと推測できる。
各診療部門との連携不足解消を期待されて新設された電子カルテ管理室ではあるが,調達費用の面でSWGには妥協を強いた面が多々あり,且つシステム稼働後の不具合や問い合わせの数を鑑みると,ユーザーの満足度が従来より上がっているとは言い難い。電子カルテ管理室構成員は自らの職種とその業務範囲に関連が深いSWGを担当するようにしていたため,現場との結びつきが強く要求の理解が容易であったことは利点であったと思える一方,本来の職種に与えられたカルテ操作権限による制限や,利用頻度の高い機能やシステムの違いからくる知識の差が,様々な場面で障害となることもあった。
電子カルテ管理室構成員としてシステム更新を経験して,前回までのシステム更新で現場の不満とされていた情報公開の遅れや透明性の欠如に関しては,現場とのコミュニケーションを重要視し,情報共有に努めたことで一定の評価はされたと思っている。次期システム更新においては,多職種で構成された部署である電子カルテ管理室構成員としての経験を活かし,職種によるカルテ操作権限の違いやカルテ機能に対する知識の違いを十分認識した上で互いを尊重し,協力し合うことが重要であると考える。また医療現場の意見を傾聴しつつも実現できない場合などは,理由を丁寧に説明して理解してもらうよう努め,ユーザーの満足度向上に貢献することが,より一層必要になってくるのではないかと実感している。
本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。