医学検査
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資料
検体検査業務の可視化・数値化による効率性向上の取り組み―業務効率化のためのレイアウト変更とTATデータ・動線データによる評価―
岡野 正道成島 瑞樹菊池 尚美松本 大貴米川 伸生武藤 圭一川﨑 智章丸山 常彦
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2026 年 75 巻 2 号 p. 367-375

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Abstract

検査業務の効率化は,患者の待ち時間短縮および診療全体の迅速化に寄与する重要課題である。本研究では,当院検査室のレイアウト変更に伴う業務改善効果を,turnaround time(TAT)および動線データを用いて客観的に評価した。レイアウト変更前の2021年とレイアウト変更後の2024年の2期間において,平日日勤帯のTATとBluetoothを用いた動線データによる移動距離を測定し,分析を行った。2021年当時は部門間が壁で仕切られ,独立運用されていたため,全分野の平均TATが65.3分,60分超過率が43.5%と高く,移動距離も長かった。これらの課題を踏まえ,壁の撤去,部門配置の見直し,装置の搬送接続によるレイアウト変更を実施した。2024年の評価では,平均TATが49.3分,60分超過率が25.7%に改善し,特に生化学・免疫検査ではTATが大幅に短縮するとともに60分超過率も大きく低下した。また,1人当たりの移動距離は最大で56.6%削減され,運用人員も削減可能となった。TATおよび動線データの可視化・数値化は,検査室運営の課題を明確化し,具体的な改善に繋げる上で有効であった。

Translated Abstract

Improving the efficiency of laboratory testing operations is a crucial issue that contributes to reducing patient waiting times and accelerating the overall delivery of medical care. In this study, we objectively evaluated the impact of operational improvements resulting from a layout modification in our hospital’s laboratory, using turnaround time (TAT) and workflow movement data. Weekday daytime TAT and travel distances were measured and analyzed using Bluetooth-based workflow data for two periods: 2021 (before the layout modification) and 2024 (after the modification). In 2021, departments were separated by walls and operated independently, resulting in a high average TAT of 65.3 minutes across all areas, a 43.5% rate of samples exceeding 60 minutes, and long travel distances. To address these issues, we implemented layout modifications by removing walls, reorganizing department locations, and integrating equipment via transport connections. In the 2024 evaluation, the average TAT improved to 49.3 minutes and the rate of samples exceeding 60 minutes decreased to 25.7%, with particularly significant reductions in TAT, along with a marked decrease in the rate of samples exceeding 60 minutes, observed in biochemistry and immunoassays. Additionally, the travel distance per person was reduced by up to 56.6%, enabling a reduction in the number of operational personnel. Visualization and quantification of TAT and workflow movement data proved effective in identifying challenges in laboratory management and facilitating concrete improvements.

I  はじめに

検体検査において,臨床検査技師が迅速に測定・結果送信を行うことは患者の待ち時間短縮に繋がり,病院全体の診療効率向上にも寄与する。そのため,検査室における業務の効率化は重要な課題である。

当院では,2021年時点における検査室のレイアウトが,受付から一般検査部門,血液検査部門,輸血検査部門,生化学・免疫検査部門の順に配置され,各部門間は壁で仕切られており,部門ごとに独立して検査が行われていた(Figure 1)。このような構造は,業務の効率性に影響を及ぼす可能性があり,客観的な評価と改善が求められていた。

Figure 1  2021年 検体検査室配置図

本研究では,検査業務におけるturnaround time(TAT)データおよび動線データを用いて業務を可視化・数値化し,ワンフロア化などのレイアウト変更および業務改善による効率化の効果を評価した1),2)。特に,検体運搬などの検査前工程に焦点を当て,検査業務の最適化と外来診療への迅速な対応を目指した取り組みを報告する。

II  方法

1. 対象およびデータ収集・評価

対象は,一般検査部門,血液検査部門,生化学・免疫検査部門とし,現状の業務を評価するため2021年9月13日(月)~9月17日(金)の平日日勤帯(8:00~16:59)5日間のTATデータと動線データを収集した。これらを用いて業務の効率化を図るための客観的な評価・分析を実施することで課題を明瞭化した上で改善策を検討した。また,電子カルテと生化学分析装置の更新時に改善を実施し,レイアウト変更後の2024年3月11日(月)~3月15日(金)の平日日勤帯5日間,同様にデータを収集しレイアウト変更の効果を評価した。

2. データの種類

1) TATデータ

検査システムを用いて1日の外来・入院・健診の診療区分別検査件数,検体を検査室で受付してから測定結果が出るまでの平均TATおよび60分超過率,時間帯別検体到着件数を抽出した3)。尚,平均TAT,60分超過率は各部門別に算出した。

2) 動線データ

Bluetoothを用いて送信機(タグ)から発信した信号を,受信機(ロケーター)で受信して位置情報を特定することにより総歩行距離などを可視化する装置(高精度屋内測位システムQuuppa)を使用し,検査部門の担当者ごとにタグを保持して勤務し,天井に設置した受信機へタグの座標データを取得,ビジネスインテリジェンスツール(Tableau)を用いて移動距離と移動軌跡を作成し可視化・数値化した(Figure 2)。

Figure 2  動線データ 使用機材と可視化ツール

3. 統計解析

レイアウト変更前後のTATおよび担当部門別移動距離の比較には,データが正規分布に従わない可能性を考慮し,独立2標本のマンホイットニーのU検定を用いた。両側検定とし,p < 0.05を統計学的有意と判定した。

III  結果

1. レイアウト変更前(2021年9月)

時間帯別検体到着件数からは,外来,入院,健診検体が朝の早い時間に集中するため,検体全体の70%程度が8時~10時の時間帯に集中していた。

オーダー単位での1日の平均件数は362件(外来236件,入院69件,健診57件)で,対象とした全分野の平均TATは65.3分,60分超過率は43.5%であった(Figure 3a)。部門別での平均TATと60分超過率は血液検査15.7分/6.0%,凝固検査33.5分/1.0%,一般検査24.3分/17.9%,生化学検査65.8分/38.6%,免疫検査71.1分/60.5%であった(Figure 4a)。

Figure 3  オーダー単位件数と単日平均TAT・時間帯別検体到着件数

a:レイアウト変更前(2021年9月13日~9月17日)

b:レイアウト変更後(2024年3月11日~3月15日)

Figure 4  部門別 平均TAT 60分超過率

a:レイアウト変更前(2021年9月13日~9月17日)

b:レイアウト変更後(2024年3月11日~3月15日)

また,担当人員と動線データは,血液検査部門は3名の担当者で運用し1日の1人当たり平均移動距離は16,689 m,一般検査部門は2名の担当者で1人当たり平均移動距離は17,408 m,生化学・免疫・輸血検査部門では6名の担当者が運用,1人当たり平均移動距離は18,152 mであった。特に生化学・免疫検査部門では,室内全体を広範囲に移動していることが動線軌跡から確認された(Figure 5a)。

Figure 5  レイアウト変更前後の動線データ

a:レイアウト変更前(2021年9月13日~9月17日)

b:レイアウト変更後(2024年3月11日~3月15日)

2. データ分析による課題抽出

レイアウト変更前のTATデータ分析より,次に示す課題が明らかとなった。

課題① 病棟検体,健診検体に加え,至急性を要する外来検体が午前中の早い時間帯に集中して提出されており,外来診療における迅速な結果報告が求められていた。

課題② 結果報告まで60分を超過した検体が一定数存在し,その多くは遠心処理などの測定前工程や再検検体のピックアップ工程など,人が介在するワークフローに起因するTAT延長であった。

課題③ 外来検体の優先的な処理体制が十分に確立されておらず,検体区分に応じた効率的な測定フローの構築が必要であった。

以上より,測定前工程の短縮に加え,外来検体の迅速な測定・結果送信が必要であると考えた。

また,動線データ分析からは次に示す課題が明らかとなった。

課題① 生化学・免疫検査部門では各分析装置が単体運用であり,遠心機から離れた位置に配置されていたため,検体運搬距離が長くなっていた。

課題② 各部門が壁で仕切られていたことにより,検体や担当者の移動経路が限定され,特定の通路に動線が集中し混雑が生じていた。

課題③ 部門間の物理的分断により,検体受け渡しや応援対応などの連携が取りにくく,検査室全体としての業務効率を低下させていた。

これらより,検体の測定フローに即した分析機構成・物品配置と,円滑な部門間連携が行える新レイアウトが必要であると考えた。

3. レイアウトの変更と分析装置の更新

これらの課題を解決するため,検査室構造のレイアウト変更として,生化学・免疫部門,輸血部門と血液部門の各部門を隔てていた2か所の壁を撤去し,さらに,生化学・免疫部門と輸血部門の配置を入れ替えた。そして分析装置の更新に伴い,生化学分析装置(LABOSPECT008α:日立ハイテク社)へ更新されたことにより最大計3,600 test/hから4,000 test/hと検体の処理能力は向上し,分注装置(LabFLEX2600G:日立ハイテク社)との搬送接続を行ったことにより検体の投入経路をまとめることで検体の動線短縮を図った4),5)Figure 6)。

Figure 6  レイアウト変更前後の検体検査室配置図と検体動線

尚,この間2022年2月に凝固検査のTAT短縮と精度管理の向上を目的として全自動血液凝固測定装置(CN-3000:シスメックス社)に更新,一般検査部門では全自動尿中有形成分分析装置(UF-5000と尿定性・沈渣ブリッジ接続:シスメックス社)に更新した。2022年3月に輸血検査の標準化と効率化を目的として自動輸血検査装置(Erytra Eflexis:Grifols社)を導入している。

4. レイアウト変更後(2024年3月)

変更後のオーダー単位での1日の平均件数は369件(外来265件,入院76件,健診28件)であり,対象とした全分野の平均TATは49.3分,60分超過率は25.9%と,いずれもレイアウト変更前から改善した(Figure 3b)。分野別の平均TATと60分超過率は血液検査13.3分/4.3%,凝固検査29.6分/0.7%,一般検査7.3分/0%,生化学検査44.6分/7.9%,免疫検査57.2分/43.5%であった(Figure 4b)。

TATデータから,生化学検査では平均TATが44.6分となり21.2分の短縮,60分超過率は30.7%の低下が認められた。免疫検査では平均TATが57.2分で13.9分短縮し,60分超過率も17.0%低下した。さらに,外来検体に加えて健診検体の報告時間についても短縮された。一般検査のTAT短縮は,UF-5000および尿定性・沈渣ブリッジ接続機器への更新による性能向上に伴い,目視確認件数が減少したことと,作業効率化が進んだことで改善が認められた。全分野の平均TATも16.0分短縮,60分超過率は17.6%低下し,マンホイットニーのU検定において有意差を認めた(p < 0.05)(Table 1)。全体として臨床への報告時間が改善され,実際に,臨床医から外来検査の結果報告時間が早くなったとの評価を得た。

Table 1 2021年と2024年の分野別TATの比較

分野 2021年TAT(分:秒)
中央値(最小-最大)
2024年TAT(分:秒)
中央値(最小-最大)
p
全分野 56:31(2:11–438:17) 46:28(2:30–174:50) < 0.001
血液 8:46(1:51–95:50) 9:06(2:20–145:37) 0.868
凝固 33:19(12:25–99:13) 29:13(16:58–89:41) < 0.001
一般 5:28(1:55–91:24) 7:24(0:01–21:20) 0.115
生化 49:36(10:08–438:17) 42:17(4:56–174:50) < 0.001
免疫 64:57(32:42–177:06) 59:32(20:41–121:02) < 0.001

レイアウト変更に伴い,検体動線も改善した。遠心前の検体移動距離は12.8 mから11.8 mへ短縮し,遠心処理後は10.0 mから6.6 mへ短縮と,合計で4.4 mの短縮が得られた。

担当人員および動線データについては,血液部門は3名の担当者で運用し,1人当たりの1日平均移動距離は7,103 m,一般検査部門は2名の担当者で1人当たり平均移動距離は6,994 m,生化学・免疫・輸血部門は計4名の担当者が運用,1人当たり平均移動距離は18,152 mから7,882 mへと減少し,マンホイットニーのU検定で有意な差を認めた(p < 0.05)(Table 2)。これらはいずれも変更前の約半分の移動距離であり,生化学・免疫・輸血部門では担当者を2名削減して運用が可能となった。動線軌跡の解析では,担当者ごとに移動範囲が集約化されていることが確認された(Figure 5b)。動線データから,生化学・免疫・輸血部門を6名体制から4名体制で運用,移動距離は1人当たり平均7,882 mと56.6%削減しつつ業務運用が可能となった。

Table 2 2021年と2024年の担当部門別移動距離の比較

担当部門 2021年移動距離(m)
中央値(最小-最大)
2024年移動距離(m)
中央値(最小-最大)
p
血液担当 15,762(8,772–24,900) 7,152(3,720–10,931) < 0.001
一般担当 17,757(5,436–22,484) 6,397(4,012–10,931) < 0.001
輸血担当 13,996(7,344–26,168) 7,705(6,638–8,144) 0.011
生化学・免疫担当 19,227(11,676–27,072) 7,670(1,049–10,155) < 0.001

これらの効率化の結果,生化学・免疫検査部門,輸血検査部門,細菌検査部門間で連携が向上し,細菌検査部門の人員強化へとつなげることができた。

IV  考察

本研究では,TATデータと動線データという二種類の指標を用いて検査室業務を可視化し,レイアウト変更および業務改善の効果を定量的に評価した。TATデータからは,レイアウト変更後に平均TATの短縮および60分超過率が低下したことが示され,動線データからは担当者1人あたりの移動距離と担当人員の削減が可能となったことが確認された。これらの結果は,検査室内の空間構成と作業フローを同時に見直すことが,検査業務全体の効率化に有効であることを示唆している1)

従来,検査室の課題抽出は,担当者の経験や感覚的な評価に依存する場面が多かったが,本研究ではTATと動線を数値指標として用いることで,業務負荷の集中や移動のムダといった構造的問題を客観的に明らかにすることができた。そのうえで,生化学自動分析装置の更新と連動させて測定前工程の動線を短縮するレイアウトを採用したことが,移動距離削減とTAT短縮の双方に寄与したと考えられる。今後,同様の手法を他部門や他施設にも展開することで,検査室設計や業務改善の際の意思決定を支援するツールとして活用しうる。

本研究には,単一施設・限定期間での検討であること,介入要因が複合しているため個々の影響を完全には分離できないことなどの限界がある。しかしながら,TATデータと動線データを統合的に評価する枠組みは,検査室運用の現状把握と改善効果の検証に有用であり,将来的にはタスク・シフト/シェアや病院全体の業務再設計を検討する際の基盤情報としても応用可能と考えられる。

V  結語

本研究における検査室運用の最適化により,TAT短縮・移動距離削減・運用人員の効率化が実現され,患者の待ち時間短縮および外来診療への迅速報告に寄与した。今後も継続的な評価と改善を重ね,さらなる業務効率化と病院全体のサービス向上に繋げていくことが重要である。

COI開示

本論文に関連して,著者が開示すべき利益相反(COI)はありません。

 謝辞

本論文作成に際してご助言いただきました,当科前顧問の中山宗春先生に深謝いたします。

文献
  • 1)   髙瀬  大樹,他:位置情報を活用した病院物流動線の評価・計画支援システムの開発.清水建設研究報告,2018; 95: 171–178.
  • 2)   今村  正一,他:検体検査部門統合化に伴う搬送システム導入効果と効率的な診療支援.日本臨床検査自動化学会会誌,2005; 30: 66–74.
  • 3)   原  繁一,他:患者サービス向上のためのTAT短縮への挑戦.日赤検査,2009; 42: 100–104.
  • 4)   前山  宏太,他:当院における凝固・生化学・免疫検査分野の機器更新と業務見直しの効果.青臨技会誌,2024; 48: 76–82.
  • 5)   下坂  浩則:これからの検体検査搬送システム.医機学,2010; 80: 300–306.
 
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