医学検査
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業務効率化・医療安全対策を考慮した先進的病理部門システムの構築
藤江 修吾林 直樹村上 真理子大越 純也澤田 涼子伊藤 英史大嶋 剛史
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2026 年 75 巻 2 号 p. 376-384

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Abstract

病理検査は患者の治療方針を決定する上で不可欠な役割を担っているが,多くのプロセスで検査技師による手作業が必要であり,業務の効率化を妨げる要因となっている。当院では老朽化した病理部門システムをバージョンアップし,当院独自のカスタマイズ機能を実装することで,業務効率化と医療安全対策の強化を図った。具体的には,細胞診検体一括受付機能,汎用ラベル出力機能,免疫染色オーダーのシステム化,抗体データベース管理機能,患者情報へのアクセス機能,進捗一括変更機能,さらにTAT管理機能と工程時間管理機能により,業務効率化と進捗の可視化を実現した。医療安全対策としては,切出照合機能による検体取り違え防止,レポート管理機能や結果報告メール機能による診断漏れ防止と情報伝達の迅速化を図った。業務効率化と医療安全対策は,それぞれの目的に応じて適切なバランスを取ることが重要であり,その実現のためには各施設の運用に即したシステム構築が必要である。さらに,導入後も継続的に評価・改善を重ねることで,効率的かつ安全な病理検査業務が可能となり,患者に安心で質の高い医療を提供できると考えられる。

Translated Abstract

Pathological examinations are indispensable for determining appropriate patient treatment strategies; however, many processes still require manual procedures performed by clinical laboratory technicians, which hinder operational efficiency. At our institution, the aging pathology department system was upgraded, and institution-specific customized functions were implemented to enhance both operational efficiency and medical safety measures. Specifically, functions such as batch reception of cytology specimens, general-purpose label output, system-based management of immunohistochemistry requests, antibody database management, direct retrieval of patient information, bulk progress updates, as well as TAT and process time monitoring, contributed to improved efficiency and visualization of workflow progress. Regarding medical safety measures, specimen cross-check functions, report management, and automated result notification via email helped reduce the risk of specimen misidentification, missed diagnoses, and delays in information delivery. Maintaining an appropriate balance between efficiency and safety is essential, and achieving this requires system design tailored to each facility’s operational practices. Furthermore, continuous evaluation and improvement after implementation enable pathology departments to ensure both efficient and safe laboratory operations, ultimately supporting the provision of reliable and high-quality diagnostic services for patients.

I  はじめに

病理検査は医療において,患者の治療方針を決定する上で不可欠な役割を担っている。その一方で,多くのプロセスにおいて依然として検査技師による手作業が必要であり,業務の効率化を妨げる要因となっている1)

業務効率化の手段として,主に「検査の自動化」,「運用の変更」,「システムの利用」が挙げられる。しかし,病理検査分野において「検査の自動化」は実用レベルで進んでいるとは言えず,多くの施設では「運用の変更」や「システムの利用」で工夫しているのが実情である2)

当院は2003年3月に松浪硝子工業株式会社の病理部門システム「PathWindow」を導入した。2012年にハードウェアの更新,システムのバージョンアップを実施したが,長期の使用に伴いハードウェアの老朽化やシステムの処理速度低下という課題が生じた。こうした背景を踏まえ,2023年に更なるバージョンアップを実施し,パッケージ機能に加えて当院独自のカスタマイズ機能を実装することで,業務効率化と医療安全対策の強化を図った。本論文では,この実装した機能について報告する。

II  当院及び臨床検査・病理技術科の概要

当院は愛知県刈谷市および高浜市,さらにトヨタグループ8社が運営主体となる企業立病院である。2025年4月時点の病床数は704床(一般698床,感染症6床)であり,臨床検査技師は70名在籍している。そのうち病理検査に従事する検査技師は10名,細胞検査士は7名である。2024年度の病理検査実績は,組織診件数8,370件,細胞診件数17,414件であった。細胞診件数は子宮がん検診を実施していることもあり,同規模の病院と比較しても高い水準にある。そのため,病理検査部門の業務負荷は大きい。したがって,迅速かつ正確な診断体制の維持のため,当院では「システムの利用」による病理検査の効率化を重視している。

III  病理部門システムの改訂プロセス

病理部門システムのバージョンアップにあたり,業務効率化と医療安全対策の強化を目的とした基本方針を策定した。続いて,66項目のカスタマイズ機能を要件定義として取りまとめ,必要な機能の全体像を明確にした。システム開発はこれに基づいて進められ,ユーザーテストおよびデータ移行を経て,2023年11月に新システムが本稼働した(Figure 1)。

Figure 1  病理部門システム 「PathWindow(松浪硝子工業株式会社製)」

IV  業務効率化を目的としたシステム機能の紹介

1. 細胞診検体一括受付機能

従来の細胞診検体受付では,病理部門システムの受付画面で1件ずつ処理を行い,その後まとめて検査用ラベルやスライドガラスを出力していたため,多大な手間と時間を要していた。

新システムでは,液状化細胞診検体を一括で受付可能とする機能を追加した。具体的には,病理部門システムの細胞診一括受付機能を使用し,検体バーコードを連続で読み込ませた後,「一括受付」ボタンをワンクリックすると,読み込ませた全ての検体に対するスライドガラスと検査ラベルが自動的に出力される(Figure 2)。検査ラベルは貼付時に目視で照合し,検体情報の一致を確認している。さらに,液状化細胞診検体の処理装置では,検査ラベルとスライドガラスの2次元コードが一致した場合にのみ標本が作製される仕組みとなっており,検体取り違え防止対策となっている。これにより,細胞診検体の一括受付が可能となり,受付業務の効率化に大きく寄与した。

Figure 2  細胞診検体一括受付機能

A:細胞診一括受付画面を展開し,受付対象となる全ての検体バーコードの読込を連続で行う。B:読込後,細胞診一括受付画面下にある「一括受付」ボタンをクリックすると同時に必要なスライドガラスと検査ラベルが出力され,受付が完了する。

2. 汎用ラベル出力機能

従来のシステムには,汎用的な患者識別用ラベルを出力する機能が備わっていなかった。そのため,必要に応じて手書きで記載していた。さらに,病理管理番号や患者名を誤って記載するリスクも存在していた。

新システムでは,患者情報画面から病理管理番号,患者ID,患者名,年齢,性別,および患者情報を含む2次元コードが記載された「汎用ラベル」をワンクリックで出力可能な機能を追加した(Figure 3)。汎用ラベルは単に患者識別のために使用するだけでなく,外部委託検査における結果報告書の取り込み作業にも活用している。汎用ラベルを貼付した結果報告書を専用スキャナで読み込むことにより,2次元コードが同時に読み取られ,病理部門システム内の該当患者ファイルに自動的に格納される仕組みとなっている。これにより,複数枚の結果報告書の取り込み作業も迅速に行うことが可能になった。

Figure 3  汎用ラベル出力機能

A:患者情報画面下にある「汎用患者ラベル」ボタンをクリックすると汎用ラベルが出力される。B:汎用ラベル。上から順に病理管理番号,患者ID,患者名,年齢,性別,2次元コードが記載されている。

3. 免疫染色オーダーのシステム化

当院における従来の免疫染色オーダーは,紙伝票を使用していた。病理医が記載した紙伝票は,検査技師が1枚ずつ確認し,病理部門システム内の該当患者の標本ブロック情報にオーダーされた抗体を手入力する必要があった。

新システムでは,マスタ設定で自由にレイアウト可能な染色依頼画面を追加した。病理医が病理部門システム上の依頼画面で抗体名を選択・確定することで,その情報が標本ブロック情報に自動登録され,同時に追加染色依頼票が専用プリンタからリアルタイムで出力される仕組みとした(Figure 4)。この依頼票には染色名や疑い病名,抗体保管場所などが自動表示される。これにより,検査技師による手入力作業が不要となり,抗体の入力間違いや免疫染色の準備にかかる負担が軽減した。

Figure 4  免疫染色オーダーのシステム化

A:組織診断画面にある染色情報欄をクリックすることでシステム様式の免染・特染依頼票が展開される。B:免染・特染依頼票(システム様式)。 C:追加染色依頼票

4. 免疫染色における抗体データベース管理機能

免疫染色で使用する抗体の陽性部位や臨床的意義の確認に際しては,従来,添付文書などを直接参照する必要があった。

新システムでは,陽性部位,使用目的,希釈倍率,プロトコール,ロット番号,抗体保管場所,添付文書などの抗体情報を病理部門システムの染色情報マスタに登録する機能を追加した。これは,免疫染色依頼画面上で抗体名を選択することで,マスタに登録された全ての情報を即時に表示できる仕様となっている(Figure 5)。これらの機能により,不明点が生じた場合でも病理部門システムを通じて抗体情報などを迅速に参照でき,業務効率の向上に寄与した。

Figure 5  免疫染色における抗体データベース管理機能

A:免染・特染依頼票にある抗体名をクリックすると,該当の抗体情報が展開する。B:抗体情報画面。添付文書のPDFをクリックすると,マスタ登録された該当の添付文書が展開する。

5. 患者情報へのアクセス機能

従来,組織診断および細胞診スクリーニング時に患者の臨床情報を確認する際は,電子カルテにて行う必要があった。

新システムでは,病理部門システムの診断画面から該当患者の内視鏡検査レポートや検体検査結果,WEBカルテにワンクリックでアクセス可能な機能を追加した(Figure 6)。電子カルテおよび内視鏡システムとの連携により,診断時に必要な臨床情報をその場で即座に参照可能になった。これにより,所見の正確な把握が可能となり,診断の精度向上に寄与した。

Figure 6  患者情報へのアクセス機能

A:細胞診・組織診診断画面の右上に,内視鏡検査レポートや検体検査結果,WEBカルテにワンクリックでアクセス可能なボタンを設置した。B:WEBカルテ。

6. 進捗一括変更機能

受付,切出,包埋,薄切,診断医提出までの各工程で,誰がいつ処理を行ったのかを履歴として記録している。その記録は患者情報画面にて確認することが可能である。診断医に標本を提出する際,運用上1患者毎に患者情報画面を開き,進捗状況を「診断医提出」に変更する必要があった。1日に約30件の患者情報画面を展開し,進捗状況を変更していた。

新システムでは,標本確認時に複数の病理検体の進捗状況を一括で変更する進捗一括変更機能を追加した。具体的には,進捗状況管理画面を展開し,診断医に提出可能な標本の2次元コードを連続で読み込む。その後,「進捗状況:診断医提出済」を選択し,「更新」ボタンをクリックすると該当の進捗が全て一括で変更される仕組みである(Figure 7)。これにより,標本の確認および診断医への標本提出作業の効率が大幅に向上した。

Figure 7  進捗一括変更機能

A:進捗状況管理画面を展開し,診断医に提出可能な標本の2次元コードを連続で読み込む。B:進捗状況管理画面下にある「進捗状況:診断医提出済」を選択し,「更新」ボタンをクリックすると該当の進捗が全て一括変更される。

7. TAT管理機能

組織診および細胞診検査における業務進捗状況の可視化とTAT管理を目的に,病理部門システムの機能を拡張した。当院では,検査技師が担当する工程を対象にTATを定義した。組織診では受付から診断医への提出までの時間,細胞診では受付から結果報告または診断医への提出までの時間を対象範囲として設定している。

新システムでは,組織診受付一覧および細胞診スクリーニング一覧画面に「検体受付からの経過日数」を表示する機能を追加した。経過日数は病院の稼働日を基準に自動計算され,土曜日や日曜日の他,祝日などの特定休日は休日マスタの設定に従い除外される仕組みとなっている。カウントは組織診では標本が診断医に提出された時点で,細胞診では診断結果の報告または診断医への提出時点で自動的に停止し,経過日数が一定の基準を超えると一覧上の表示色が変化するようにした(Figure 8)。これにより,TATの可視化を実現し,病理検査業務の優先度を適切に把握することが可能になった。

Figure 8  TAT管理機能

細胞診受付一覧画面に検体受付から経過した日数が表示される。既定の日数が経過すると表示色が変化する。

8. 工程時間管理機能

組織診検査および細胞診検査における進捗状況をより詳細に把握するため,TAT管理機能と連携した工程時間管理機能を導入した。

新システムでは,「受付~診断医提出」「診断医提出~結果報告」「受付~結果報告」の各工程に要した日数をデータとして抽出し,Excel形式で出力可能な機能を追加した(Figure 9)。これは,PathWindowパッケージに搭載されている進捗管理機能を当院の運用実態に合わせてカスタマイズしたものであり,従来よりも簡便に算出できるようになった点が特徴である。これにより,各検査の進行状況をリアルタイムで把握でき,検査の遅延に対する早期対応が可能になった。

Figure 9  工程時間管理機能

進捗状況管理画面に「受付~診断医提出」「診断医提出~結果報告」「受付~結果報告」の各工程に要した日数が表示される。

V  医療安全対策を目的としたシステム機能の紹介

1. 切出照合機能

切出工程では,容器ラベルとカセットの取り違えによる検体誤認が発生するリスクがある。これを防止するために構築したのが,切出照合機能である。

本機能は2つのプロセスで構成されている。第1に,検体受付時に容器ラベルとカセットを同時に出力する。システムの仕様上,これらは受付ボタンを押したタイミングで自動出力され,両者には同一の患者情報が記載された2次元コードが印字される。この段階で容器ラベルを確実に検体に貼付することが極めて重要である。第2に,切出作業前にバーコードリーダーで容器ラベルとカセットの2次元コードを読み取り,システム上で照合結果を確認する。情報が一致すれば「○」,不一致なら「×」が表示される。1検体受付毎の容器ラベルの貼付を徹底することで,取り違えを未然に防ぐことができる(Figure 10)。

Figure 10  切出照合機能

A:容器ラベルとカセット。B:検体に容器ラベルの貼付。C:切出照合画面を展開し,切出作業時の容器ラベルとカセットの2次元コード読取を行う。D:切出照合画面上での照合結果(〇,×)。

また,照合履歴を管理・検索できる機能をもち,患者番号をキーに,照合日時や担当者を即座に確認することが可能である。これにより,有事の際にも迅速な原因究明と対応が可能となり,検体管理の信頼性と安全性が大きく向上した3)

2. レポート管理機能

病理診断結果が報告されると,電子カルテのメッセージ機能を通じて検査依頼医に通知が自動送信される。その後,レポートの確認ボタンをクリックすることで「既読」として記録される仕組みとなっている。従来では,電子カルテ上で既読・未読の管理が行われていた。

新システムでは,既読・未読情報が病理部門システムと連携される機能を追加した(Figure 11)。さらに,患者番号や検査日などの条件で既読・未読のレポートを抽出でき,結果はExcelファイル形式で出力可能になった。これにより,報告書の確認状況を簡便かつ正確に把握できる体制が整い,確認漏れの早期発見に繋がった。

Figure 11  レポート管理機能

報告書一覧画面に病理診断結果の既読状況が表示される。

3. 結果報告メール機能

当院では,外部委託検査の結果報告を検査依頼医に通知する方法として院内メールを使用している。従来は手作業であり,時間を要するだけでなく,患者情報の入力間違いや,送信先の選択間違いのリスクが存在していた。

新システムでは,病理部門システム上の該当患者画面にメール送信ボタンを設置し,定型文の院内メールをワンクリックで自動送信可能な機能を追加した(Figure 12)。これにより,手作業によるメール送信の手間が省略されただけでなく,医師への確実な情報伝達が行われ,迅速な結果確認を促すことが可能になった。

Figure 12  結果報告メール機能

A:患者受付情報画面下にある「外部委託検査結果報告通知」ボタンをクリックする。B:外部委託検査結果報告通知画面。オーダー医もしくは選択した医師への通知ボタンをクリックすることで,メール送信される。

VI  結語

当院では,病理部門システムのバージョンアップを通じて,業務効率化と医療安全対策の双方に貢献するシステムを構築した。細胞診一括受付機能,汎用ラベル出力機能,免疫染色オーダーのシステム化,抗体データベース管理機能,患者情報へのアクセス機能,進捗一括変更機能,TAT管理機能および工程時間管理機能などは業務効率化に寄与し,受付・診断・報告の各工程における作業時間の短縮や進捗状況の迅速な把握を可能にした。また,切出照合機能,レポート管理機能,結果報告メール機能は,検体誤認や確認漏れのリスクを低減する医療安全対策として有効であった。これらの機能により,作業工程全体の効率化が進み,検査技師が確保できる実務時間にも余裕が生まれた。一方,細胞診検体一括受付機能や切出照合機能のように,ラベル貼付など作業者の確認に依存する工程は依然として残されている。他システムとの連携上の問題もあるが,当院ではこれらの機能をどのような場面でも対応可能にすることを今後の重要な課題としている。

病理検査は手作業が多いという特性上,業務効率化と医療安全対策のバランスを取ることが難しい検査分野である。業務効率化を重視しすぎると確認作業の省略やシステム依存の増大によるリスクが生じる可能性があり,一方で安全性を優先しすぎると過剰な確認工程により業務負担が増加する。

その課題を解決する方法の一つに,病理部門システムの効果的な利用がある。各施設の運用に即したシステム構築が重要であり,現場の作業フローやスタッフの役割分担を十分に反映させることが必要である。導入後も継続的に評価・改善を重ねることで,病理部門における業務効率化と医療安全対策の両立が実現し,患者に安心で質の高い医療を提供できると考えられる。

本論文の要旨は,日本医療検査科学会第56回大会(2024年10月,神奈川)において発表した。

COI開示

本論文に関連して,著者が開示すべき利益相反(COI)はありません。

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