2026 年 75 巻 2 号 p. 393-399
外来患者の採尿は患者本人または付き添い者の介助による採取が基本であり,患者の身体状態によっては採尿および提出窓口までの運搬が困難なケースがある。そこで,採尿補助具と採尿カップ専用蓋(以下,専用蓋)を導入し,利用者背景からその有用性を検討した。採尿場所,依頼科,年齢,性別,疾患名および身体的制約等の患者情報の抽出を行った。採尿補助具の利用率は,多目的トイレ6.2%,女性トイレ5.0%であった。専用蓋は,多目的トイレ12.4%,女性トイレ3.1%,男性トイレ1.1%であった。疾患・身体的制約別では,採尿補助具が関節リウマチ13.3%,妊娠9.5%,糖尿病7.6%,専用蓋は,糖尿病9.6%,関節リウマチ6.7%,全身性エリテマトーデス,子宮頸部・体部がんおよび前立腺がん各4.8%であった。多目的トイレでは,車椅子操作による尿をこぼす不安から専用蓋の利用が増え,採尿補助具は,患者または介助者が使用することで患者負荷と尿汚染リスク軽減に繋がったと考えられた。また,女性トイレの専用蓋利用は,患者心理が関係していると考えられた。関節リウマチや糖尿病患者は関節痛や末梢神経障害により採尿カップの把持や運搬が困難であり,また妊娠や肥満体形は,採尿空間確保や前屈姿勢がとり辛いため,採尿補助具が使用されたと考えられた。身近なものでも工夫次第で,患者サービスの向上や検体損失のリスク軽減が期待できる。
In outpatient settings, urine collection is generally performed by patients themselves or with the assistance of a caregiver. However, depending on the patient’s physical condition, both urine collection and transport of the urine cup to the submission counter can be difficult. In this study, we introduced the urine collection aid and the urine cup dedicated lid, and we investigated their utilization as well as the clinical background of the patients. These devices and supplies were installed in multipurpose restrooms, women’s restrooms, and men’s restrooms, and factors such as urine collection site, age, sex, diseases under treatment, and physical limitations were examined. The utilization rate of the urine collection aid was 6.2% in multipurpose restrooms and 5.0% in women’s restrooms. The urine cup dedicated lid was used in 12.4% of cases in multipurpose restrooms, 3.1% in women’s restrooms, and 1.1% in men’s restrooms. Regarding underlying diseases and physical limitations, use of the urine collection aid was more frequent among patients with rheumatoid arthritis 13.3%, pregnancy 9.5%, and diabetes mellitus 7.6%. The urine cup dedicated lid was more often used by patients with diabetes mellitus 9.6%, rheumatoid arthritis 6.7%, systemic lupus erythematosus, cervical or endometrial cancer, and prostate cancer 4.8%. In multipurpose restrooms, the use of dedicated lids was thought to stem from concerns about urine spillage during wheelchair maneuvers. And the use of urinal aids by patients or caregivers was considered to reduce patient burden and the risk of urine contamination. In addition, the use of dedicated lids in women’s restrooms was thought to be related to patient psychology. Patients with rheumatoid arthritis or diabetes often find it difficult to grasp and transport urine collection cups due to joint pain or peripheral neuropathy. Pregnancy and obesity also make it challenging to secure adequate space for urination and maintain a forward-bent posture. Therefore, the urine collection aid and dedicated lid were considered useful for these groups. Even everyday items, depending on how you use it can enhance patient services and reduce the risk of specimen loss.
尿検査は非侵襲的検査として尿定性・尿沈渣検査,尿生化学・免疫学的検査,さらには尿細胞診検査など多くの情報が得られるため,日常診療において多方面の診療科から検査依頼がある。しかしながら,外来患者における採尿は,採血とは異なり患者本人または付き添い者の介助による採取が基本である。外来患者と一口にいっても患者背景は多様であり,加齢や外傷により杖や松葉杖を使用する者,下肢機能障害により車椅子を使用する者,自力での移動困難によりリクライニング式車椅子を利用する者のほか,疾患に伴う神経障害により四肢のしびれや疼痛を有する者,さらには妊娠中である者など様々な患者が採尿室を利用している。そのため,患者の身体状態によっては採尿カップへの尿採取や採尿後提出窓口まで運搬することが困難なケースも少なくない。
外来患者採血において,ゲージの異なる採血針や昇降機能付き採血台を設置するのと同様に,採尿室においても採尿しやすい環境の整備は検査依頼側の責務であり,これにより適切な検体の確保や検体損失リスクの軽減にも繋がる。
そこで本研究は,「採尿カップが滑りやすく掴みづらいため,便器内に落としてしまった。」という患者からの訴えを契機に,持ち手付きのホルダー型採尿補助具およびディスポーザブルの専用蓋を導入し,これら器具の利用者背景を明らかにし,その有用性について検討することを目的とした。
本研究は,尿検査依頼があり検査部採尿室にて採尿を行った外来患者4,001名のうち,採尿補助具および専用蓋を使用した186名を対象とした。調査期間は,導入直後の2024年9月1日から9月30日までのうち,土・日・祝日を除く19日間とした。
2. 方法 1) 導入した器具・備品当院で採用されている採尿カップ(株式会社テクノメディカ,TMC CUP,205 mL,φ70 mm)に装着可能な,持ち手付きプラスチック製205 mL用カップホルダーを,本研究では「採尿補助具」と定義した。なお,採尿補助具は百円均一店でも購入可能な市販品であり,販売価格は110円/4個入り(27.5円/個)である。また,オーバーキャップ型プラスチック製蓋(日昭産業株式会社,ディスポーザブル検査カップ用リッド,φ73 mm)を「採尿カップ専用蓋」と定義した。こちらは,定価950円/100枚入り(9.5円/枚)の製品である(Figure 1)。

a-1:採尿補助具として使用したホルダー型カップホルダー
a-2:採尿補助具に採尿カップ(テクノメディカ社製TMC CUP 205 mL)を装着した画像
b-1:採尿カップと採尿カップ専用蓋(日昭産業社製ディスポーザブル検査用リッドφ73 mm)
b-2:採尿カップに採尿カップ専用蓋を装着した画像
多目的トイレおよび女性トイレの各個室に,採尿補助具と専用蓋を設置した。男性トイレには専用蓋のみ設置した。採尿補助具は,各採尿室の個室に4~6個程度配置し,採尿カップとともに提出された使用済みの採尿補助具は,検査部職員が流水洗浄した後,清拭用アルコールワイプで除菌し再利用可能な状態として順次返却する運用とした。専用蓋については,ディスポーザブル製品であるため十分量を配置し,外来患者受付終了後に毎日補充を行った。また,各採尿室にポスターを掲示し,患者に対し適切な利用方法の案内を行った。
3) 患者情報の抽出方法検査部採尿室において採尿を行った患者の採尿場所,依頼科,性別,年齢,疾患名および身体的制約について調査した。依頼科は同日に複数科受診している場合,尿検査依頼があった診療科を対象とした。疾患名は複数の診断がある場合,治療中疾患あるいは本研究に関連が疑われる疾患を優先した。身体的制約については,電子カルテに登録された情報のみを抽出しており,患者本人からの聞き取りや観察による確認は行っていない。また,治療中疾患と身体的制約が重複する場合は,身体的制約のカウントを優先した。なお,本研究は岐阜大学医学系研究科医学研究等倫理審査委員会の承認を得て実施した(承認番号:2022-086)。
採尿補助具の利用率は,女性トイレ5.0%(93/1,877件),多目的トイレ6.2%(12/194件)。専用蓋は,男性トイレ1.1%(22/1,930件),女性トイレ3.1%(58/1,877件),多目的トイレ12.4%(24/194件)であった。さらに,両者を併用した患者が,女性トイレと多目的トイレに限定した群の1.1%(23/2,071件)に認められた。
また,多目的トイレにおける利用者の性別割合は,採尿補助具が男性42%(5/12件),女性58%(7/12件),専用蓋は男性46%(11/24件),女性54%(13/24件)で,多目的トイレ利用者に性別による明らかな差異は認められなかった(Figure 2)。

採尿補助具または専用蓋利用者を年齢別にみると10歳代から高齢になるにつれ増加し,70歳代でピークを示す左裾の長い分布を示した。利用者の年齢中央値は60歳であった。
3. 依頼科別の割合依頼科別の割合は,採尿補助具が産婦人科19.0%(20/105件),総合内科16.2%(17/105件),免疫・内分泌内科11.4%(12/105件)であった。専用蓋では,総合内科22.1%(23/104件),産婦人科12.5%(13/104件),整形外科11.5%(12/104件)と上位を占める結果となった。
採尿補助具と専用蓋を併用した患者に限定すると,総合内科30.4%(7/23件),糖尿病代謝内科17.4%(4/23件),整形外科13.0%(3/23件)と上位を占める結果となった。
4. 疾患および身体的制約別の割合疾患・身体的制約別の解析では,採尿補助具が関節リウマチ13.3%(14/105件),妊娠9.5%(10/105件),糖尿病7.6%(8/105件)であった。専用蓋では,糖尿病9.6%(10/104件),関節リウマチ6.7%(7/104件),全身性エリテマトーデス,子宮頸部・体部がん,前立腺がん 各4.8%(各5/104件)と高い割合であった(Figure 3)。

専用蓋の内訳で「その他」の割合が高くなったが,その内容には本研究の目的に関連を疑う疾患がいくつか含まれていた。
また,採尿補助具と専用蓋を併用した患者に限定すると,糖尿病21.7%(5/23件),変形性股関節症8.7%(2/23件),全身性エリテマトーデス8.7%(2/23件),全身性強皮症8.7%(2/23件)と上位を占めた。
本研究は,「採尿カップが滑りやすく掴みづらいため,採尿カップを便器内に落としてしまった。」といった患者からの投書を契機として部門内で対策を協議し,臨床検査の精確さを向上させる検査前プロセス改善の一環として採尿補助具および専用蓋を導入したことに始まる。導入後の利用者背景を分析した結果,様々な要因が影響していることが明らかとなった。
まず,多目的トイレにおいて車椅子使用者で付き添い者がいない場合,当院多目的トイレの構造上,便座から提出窓口まで距離があるため,採尿後に便座から直接提出することが困難である。そのため,一度車椅子に移乗し提出窓口近くまで移動する必要があるが,この車椅子操作をする際に尿をこぼすことへの不安から専用蓋の使用を促したと考えられた。また,採尿補助具を用いることにより,採尿カップを挿入する空間を最小限に抑えられる。これにより,患者本人または付き添い者による採尿時に,被採尿者が脚を大きく開排しなくても採尿可能であるため,下肢可動域に制限がある患者には特に有用と考えられた。さらに,採尿カップに直接手が触れないため,採尿時の手指汚染リスクを低減できる点も使用率の増加に寄与したと推察された(Figure 4)。

a:採尿カップを手で把持した画像
b:採尿補助具を使用して採尿カップを保持した画像
c:母指~中指の機能不全を想定し,環指で採尿補助具を使用した画像
また,女性トイレにおける専用蓋利用率が男性トイレより高かった理由として,導入前女性トイレでは血尿(月経に伴う混入を含む)や尿路感染症に起因する臭気を伴う検体に対し,トイレットペーパーを蓋の代用として提出される事例が散見されており,導入後も血尿検体などに対し専用蓋の利用が確認されたことから,「採尿カップ内部を他者に見られたくない」という患者心理が利用率に影響した可能性が示唆された。
次に,疾患・身体的制約別の分析では,関節リウマチ(rheumatoid arthritis; RA)患者において,手のこわばりや握力の低下,疼痛,関節炎の進行とともに見られるボタン穴変形,スワンネック変形,尺側偏位,ムチランス変形などの手指の変形や母指のZ変形により,採尿カップの把持が困難となる。そのため,リング状の持ち手に指を通して把持できる採尿補助具の利用が多くなったと考えられた。また,RAによる関節炎は下肢にも生じ,股・膝・足関節の疼痛や変形,足趾の外反母趾や槌指変形が歩行にも影響を与える1)~3)。これにより提出窓口までの運搬に不安を感じ専用蓋の利用が増加したと推察された。同じく膠原病の一つである全身性エリテマトーデス(systemic lupus erythematosus; SLE)でも,多発性関節炎に伴う関節痛や血管炎による神経障害(neuropsychiatric SLE; NPSLE)が知られている。血管炎による末梢神経障害は,末梢神経栄養血管の閉塞による虚血性梗塞が原因とされ,適切な治療を行い血管炎が鎮静化した後も四肢のしびれが持続するケースがある4)~6)。このような症状により,SLE患者でも採尿補助具や専用蓋の使用に繋がったと考えられた。その他,シェーグレン症候群,全身性強皮症などの自己免疫疾患群も関節炎による疼痛を伴うため,同様に利用に繋がったと推察された1),7)。
また,糖尿病(diabetes mellitus; DM)患者において採尿補助具および専用蓋の使用割合が高かった背景には,糖尿病性ニューロパチーの存在が考えられた。糖尿病性ニューロパチーは高頻度に見られる糖尿病性合併症の一つであり,高血糖の持続による細小血管障害や解糖系を介さないポリオール経路で過剰に代謝されたソルビトール,フルクトースの蓄積が神経線維の変性や脱落を引き起こすとされている。症状は遠位側神経に生じやすく,足趾や足底のしびれ・疼痛から始まり,進行とともに上肢にも波及する。また,神経障害や血流障害,易感染性により靴ずれ,外傷,足・足趾の変形をきたしやすい。靴ずれなどを契機に高度進行例では潰瘍や壊疽を形成しうる8)~12)。これらの症状による把持や歩行困難から,採尿補助具および専用蓋の利用率が増加したと考えられた。これらRAおよびDM患者の多くが総合内科からの尿検査依頼であった。両者は様々な臓器に障害をきたし,内科領域に留まらず,関節炎などによる整形領域の対応や肥満,高血圧など包括的診療を要するため,依頼科別の内訳で総合内科の割合が高くなったと考えられた。
さらに,妊娠中や高度肥満症例では体形により採尿時便座との空間確保が不十分になり,また,前屈姿勢の保持が困難となるため採尿時に採尿補助具が多く利用されたと推察された。一方,妊娠されている方は比較的若年者が多く(年齢中央値:35歳)採尿カップの運搬に対する不安が生じにくいため,専用蓋の使用が限定的であったと考えられた。これにより,採尿補助具と専用蓋を併用した群において,疾患・身体的制約別で妊娠の割合が低くなったと推察された。さらに採尿空間の確保が不十分という点で,変形股関節症患者は,股関節可動域の制限や疼痛により脚の開排が困難になるため,妊娠や肥満同様に採尿補助具の使用が有用であったと推察された。
がん化学療法に伴う末梢神経障害は,しびれや疼痛などの異常感覚で発症し進行性に悪化する。症状は末梢感覚神経に生じやすく,末端のしびれ,神経痛,錯感覚,感覚鈍麻が典型である。末梢神経障害を生じやすい抗がん薬として,微小管阻害作用を有するタキサン系抗がん薬やビンカアルカロイド系抗がん薬,白金製剤,プロテアソーム阻害薬が知られている13)~15)。本検討でも悪性腫瘍患者に採尿補助具ないし専用蓋の使用が認められ,一部はこれらの薬剤性神経障害が背景にあった可能性が示唆された。
最後に,導入後患者から「採尿カップを落として尿をこぼしてしまった」などの訴えは現在のところなく,採尿補助具および専用蓋を利用したにも関わらず,検体損失に至った事例は発生していない。さらに,導入当初,男性トイレでは主に立位姿勢での採尿を行うため採尿補助具を設置していなかったが,本研究結果から性別に限定されない需要が明らかとなり,男性トイレへの設置に至った。
本研究により,採尿を行う患者には多様な背景が存在することが明らかとなった。採尿や検体運搬を困難にする要因を把握することで,今回導入した採尿補助具のように日用品であっても創意工夫によって患者サービスの向上や検体損失リスクの軽減に寄与し得ることが示唆された。一方で,疾患や身体的制約,治療薬の影響に加え,「可視化しにくい患者心理」を含むいくつかの要因が複雑に重なり合っている可能性があり,これらの解明にはさらなる研究が必要であると考える。
本論文に関連して,著者が開示すべき利益相反(COI)はありません。