2026 年 75 巻 3 号 p. 587-593
造血器腫瘍遺伝子パネル検査「ヘムサイト®」における正常対照材料の採取を臨床検査技師が積極的に担うタスクシェア体制の構築とその有用性について報告する。当院ではすでに臨床検査技師による早朝病棟採血を実施しており,この経験が臨床現場での材料採取業務拡大を円滑にした。ヘムサイト®検査においては腫瘍材料(骨髄液)と正常対照材料(口腔粘膜)の同時採取が必要である。そのため検査部が両者を一元的に管理する運用体制を整備した。診療科・病理部・検査部間で役割を明確化し,臨床検査技師が骨髄穿刺支援,正常対照材料採取,乾燥処理,搬送準備までを実施した。これにより,検体採取・処理手技の内部標準化による品質均一化が達成され,検体の迅速な提出と解析精度の安定化が可能となった。さらに,医師・看護師の負荷軽減と検査部の臨床的関与の拡大が実現し,医療現場の効率化に寄与した。今後は,口腔粘膜材料の採取をはじめとする検体採取業務の内部標準化と教育体制の整備を進め,臨床検査技師による検査前工程の品質保証とタスクシェア推進をさらに発展させることが期待される。
This report details the establishment and effectiveness of a task-sharing system where clinical laboratory technologists (CLTs) proactively manage the collection of normal control specimens for the “Hemesight®” hematological malignancy gene panel test. This initiative was facilitated by our CLTs’ existing experience in clinical specimen collection, such as performing routine early ward morning phlebotomy for diagnostic testing, which ensured a smooth expansion of their responsibilities. The Hemesight test requires the simultaneous collection of tumor material (bone marrow aspirate) and normal control cells (oral mucosa). To accommodate this, our laboratory department developed an integrated, laboratory-centered operational workflow for unified management of both specimen types. Responsibilities were clearly delineated among the clinical, pathology, and laboratory departments. In this system, CLTs perform a comprehensive set of tasks: supporting bone marrow aspiration, collecting the oral mucosa control sample, processing the specimen (including drying), and preparing it for transport. This new workflow achieved internal standardization and uniform quality in sample collection and processing. This, in turn, enabled prompt sample submission and stabilized analytical accuracy. Furthermore, the system significantly reduced the burden on physicians and nurses while expanding the laboratory’s direct clinical involvement, contributing to overall operational efficiency. We plan to further refine this model by advancing the internal standardization of collection tasks, such as oral mucosa sampling, and establishing a robust educational framework. These efforts will enhance quality assurance in the pre-analytical phase and promote the continued expansion of task-sharing roles for CLTs.
臨床検査技師の業務範囲の拡大は,近年の「働き方改革」議論が本格化する以前から検討されている。我が国の急速な少子・高齢化社会の到来を背景に,持続可能な社会保障制度の構築は喫緊の課題である。政府は医療・介護分野の改革を進め,その一環として2015年4月1日に施行された法改正により,臨床検査技師の業務として検体採取業務が追加された1)。具体的には,医師又は歯科医師の指示のもと,鼻腔拭い液や咽頭拭い液の採取が可能となった。
このように,社会構造の変化を背景として臨床検査技師の業務範囲拡大が段階的に進められてきた中で,近年では「医師の働き方改革」が社会的に急務となり,医療現場の業務効率化と持続可能性の確保を目的とした「タスク・シフト/シェア」が推進されている2)。これにより,先に始まった臨床検査技師の新たな業務拡大の流れは,医師の業務負担軽減という観点を含む医療全体の構造改革という新たな枠組みとして,さらにその重要性を増すこととなった。すなわち,①社会構造の変化(超高齢化)に対応するための医療体制の再構築,②医療現場の業務効率化のニーズという二つの大きな流れが,臨床検査技師にも新たな職責となりつつある。特に「検体採取」は,単なる業務だけの移管に留まらない。検査結果の適切性に最も影響を与える検査前工程から臨床検査技師が協調的に携わり,臨床検査の品質保証を担うという重要な意義を持っている3)。
個別化医療の中核をなすゲノム医療の領域でも「臨床検査品質の担保」は重要な役割である。造血器腫瘍の分野においても,次世代シークエンサー(next generation sequencer; NGS)を用いた遺伝子パネル検査が診断,治療法選択,予後予測に不可欠となりつつある4),5)。2025年3月1日には,本邦初の造血器腫瘍遺伝子パネル検査「ヘムサイト®」(大塚製薬株式会社)が保険収載され,その臨床応用が本格化した。高精度検査である「ヘムサイト®」の特徴は腫瘍材料と正常対照材料(対照材料)を比較解析するため,その検査精度は同時採取される「対照材料の品質」に依存する。そのため対照材料を確実に採取し管理する検査前工程は,多くの施設の臨床現場で業務負荷となり,品質のばらつきを生む懸念が指摘されている6)。
こうしたゲノム医療特有の課題に対し,当院では臨床検査技師が持つ「検査品質管理」の知識と技術の活用を最大限にし,新たな臨床支援体制を構築した。血液検査を担当する臨床検査技師がヘムサイト®検査依頼時に必要な対照材料の採取を積極的に担う体制である。本稿では,高品質なゲノム医療の実現と臨床現場の他部門の負荷軽減を両立させるこのタスクシェア体制の実際と有用性について報告する。
本タスクシェア体制の導入工程は大きく分けて①「関係部門との合意形成」,②「システム・事務工程の整備」,③「部内実務運用の策定とシミュレーション」そして④「検査部内の体制構築」の4つのステップで進めた。
1. 関係部門との合意形成と役割の明確化体制構築の第一歩として,タスクシェアの主体は検査部となった。院内外の関係者間でヘムサイト®検査の全体像を共有し,役割を定義するための協議を行った。関係部門として,医療支援課,対象診療科(血液・感染症内科,小児科),病理部,検査部,および委託検査会社との合同協議を重ね,検査の位置づけや役割分担を明確化した。
2. システム・事務工程の整備協議で決定した役割分担に基づき,検査を円滑にオーダーし,適切に診療報酬を請求するための基盤を整備した。委託検査会社からの説明をもとに,オーダリングシステムの構築や医事コードの紐付けを進め,診療報酬請求に支障がないよう整備した。
3. 部内実務運用の策定とシミュレーション検査部,病理部および血液・感染症内科医師との間で運用工程を策定した。必要な資材を調達したうえで,検体採取から搬送・提出に至るまでの一連の流れを確認した。リハーサルを実施し,臨床現場と検査部双方が合意した安全かつ確実な検査実施体制を確立した。
4. 検査部内の体制構築タスクシェアの主体となる検査部(当施設では形態検査部門血液検査担当)において,担当技師が業務に従事し部内での準備を行った。ヘムサイト®開始までに,部門内ミーティング等で検査工程や運用上の注意点を共有した。物品管理として,必要物品のリストアップと配置場所の確認を行った。最も重要な工程である「対照材料の採取」について,手技や品質管理に関する実務教育を実施した。また,検体採取に際しては,担当技師が検体採取等に関する厚生労働省指定講習会を修了していることを確認した。
本検査で用いられる検査材料は,「腫瘍材料」と「対照材料」に大別される。腫瘍材料としては,主に末梢血,骨髄液またはホルマリン固定パラフィン包埋組織(formalin-fixed paraffin-embedded; FFPE)材料のいずれか1種類が対象となる。一方,対照材料としては口腔粘膜または爪が対象となる6)。当院では,腫瘍材料として骨髄液,対照材料として口腔粘膜を組み合わせて用いる頻度が最も高い。
2. 関連部門との連携本運用は検査部と診療科だけでなく,病理部および看護部との連携のもとに成り立っている(Figure 1)。診療科からの連絡および依頼を起点に,看護部が骨髄採取等の準備,検査部が検体採取および処理を担い,最終的に病理部が回収や必要な事務手続きを行った後,委託検査会社へ出検する。

症例によっては腫瘍材料として骨髄液や末梢血ではなく,FFPE材料が用いられる場合がある。FFPE材料の品質評価および管理は,日本病理学会が定める「ゲノム診療用病理組織検体取扱い規程」7)の推奨条件に基づいて行っている。病理部がこれらの基準に沿ってFFPE標本を作製するとともに,標本の品質評価と管理を一貫して担当しており,解析に適した検体を確保できる連携体制を構築している。
3. 臨床検査技師の役割と検体品質の担保本タスクシェア体制の中核として,臨床検査技師が腫瘍材料処理および対照材料の採取と処理に関与し,検査品質の担保を担う(Figure 2)。

臨床検査技師は診療科が実施する骨髄穿刺現場に出向し,材料の処理に従事する。ベッドサイドで採取された骨髄液を速やかに所定の採取容器へ分注し,直ちに塗抹標本を作製する。
2) 対照材料(口腔粘膜)の採取と処理対照材料の採取は臨床検査技師が積極的に実施する。患者から口腔粘膜を専用器具で擦過採取した後,検査室へ搬送し,ただちに検体処理(風乾)を行う。これにより,検体を提出可能な状態へ迅速に整える体制とした(Figure 3)。

①本人確認と検査説明をする。
②材料採取する(口腔粘膜擦過法)。
③材料搬送
④材料処理:安全キャビネット内で60分間風乾する。専用容器に入れる。
⑤出検準備:腫瘍材料と対照材料を専用袋に入れ,所定の冷蔵庫にて保管。病理部へ電話連絡する(引き渡し)。
当院の体制では,臨床検査技師が骨髄穿刺材料の処理(腫瘍材料の確保)と対照材料の採取・処理を並行して行う点に特徴がある。診療科での検体採取から検査部での検体処理までが一連の工程として技師の管理下で一体的に運用することにより,迅速かつ安定した検体搬送体制を構築した。
今回構築した体制は臨床検査技師が検体採取から処理・搬送までの一連を担うことにより,検査の前処理工程の全体について専門的視点から管理する点に特徴がある。従来,検体採取は医師や看護師が担うことが多く,採取後の処理や検体品質のばらつきが検査精度に影響することが懸念されていた。特にNGSを用いた遺伝子解析では,採取・保存条件のわずかな差が解析結果の再現性に直結することが報告されており8),9),その安定性維持は臨床的にも極めて重要である。本体制により臨床検査技師が対照材料の採取および処理の一連を担うことで,採取手技の標準化と検体品質の均一化に貢献できる可能性がある。当院ではすでに,臨床検査技師による早朝病棟採血を実施しており10),これまでに培われた採血業務の経験が本体制の導入を円滑にした。病棟採血の実施により,臨床検査技師が臨床現場での患者対応や本人確認を含む採取業務に習熟していたこと,また医師や看護師と日常的に協働していたことが,院内での理解と協力を得やすい基盤となった。
近年の「医師の働き方改革」においては,医療安全を損なうことなく業務分担を推進することが求められている。臨床検査技師が積極的に専門性を活かして検体採取に関与することは単なるタスクシフトではなく,専門職間の「タスクシェア」として好適事例のひとつである11)。今回の体制構築では,臨床現場の医師・看護師の負荷軽減と検査品質の確保に貢献できる体制が同時に達成され,医療全体の効率化にも寄与したと考えられる。
さらに,臨床検査技師が患者から直接正常口腔細胞を採取することで,採取状態等の情報把握が可能となった。特にゲノム医療では,検体採取や保存過程のわずかな差異が解析精度を左右するため,臨床検査技師がその前工程を担う意義は大きい。このような経験の蓄積は,今後の教育や技能継承にも資するものと考える。検査部が前処理工程から関わることで,検体採取時の標準手順の実施やコンタミネーション防止等の統一化が可能となる。特に,検体採取後のスワブ保管に関してはFigure 3のように搬送Box内でスワブを横に固定することで,立てて搬送するよりも安定感が得られた。採取器具や処理法の標準化,教育体制の整備を進めることで,今後さらに多くの施設での導入が期待される。
また,診療科・病理部・検査部間の連携強化も重要点である。造血器腫瘍の遺伝子解析においては,腫瘍材料(骨髄液・末梢血・FFPE)と対照材料を適切に組み合わせる必要がある。血液・感染症内科では診療判断,検査部では骨髄液採取後の処理および対照材料採取と前処理,病理部ではFFPE材料の管理と委託検査会社への出検準備を分担することで,各部門の専門性を活かした合理的な分業体制を実現できた。このような多職種協働体制は,検査の信頼性を高めるのみならず,各部門の業務効率化にも寄与した。
以上のことから,本タスクシェア体制は,検体採取という臨床検査の前工程処理に臨床検査技師が積極的に参画することで,「検査品質の保証」,「医療の効率化」,「職種間連携の強化」を同時に実現し得ることを示した。今後は,口腔粘膜採取をはじめとする検体採取業務をさらに拡充し,医療現場全体におけるタスクシェア推進をめざすことが重要である。
臨床検査技師が骨髄液採取補助と対照材料採取の検体処理を担うタスクシェア体制を構築した。診療科,看護部,病理部,検査部および医事課の緊密な連携により,腫瘍材料の採取後の処理と対照材料の採取,処理が安定し,委託検査への出検までの体制を確立できた。本支援体制は,造血器腫瘍パネル検査の実臨床導入において,検査部が臨床現場にも積極的に関われる有益なモデルと考えられる。
本論文に関連して,著者が開示すべき利益相反(COI)はありません。
検査部ならびに病理部,血液・感染症内科ほか関係する皆様にこの場をお借りし心より感謝申し上げます。