医学検査
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症例報告
ペットとして飼育していたトカゲが感染源であると推定された小児サルモネラ菌血症の1症例
毛利 新菜, 有馬 純徳, 長田 昌美, 三嶋 里恵, 森田 奈那, 荒木 猛
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2026 年 75 巻 3 号 p. 642-648

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Abstract

今回,ペットとして飼育しているトカゲが感染源であると推定された小児サルモネラ菌血症を経験したので報告する。患者は生来健康な幼児期の男児で発熱,下痢,経口摂取不良を主訴に来院した。入院時の血液培養及び便培養からSalmonella O13群を分離した。O13群が爬虫類と関連している可能性があることを主治医に報告し,爬虫類との接触歴を聴取したところトカゲを飼育していることが判明した。患者家族の承諾を得て,トカゲ及び飼育環境を調査したところSalmonella O13群が分離された。パルスフィールドゲル電気泳動(pulsed-field gel electrophoresis; PFGE)にて,患者由来株とトカゲ由来株が同一パターンを示したことから,同一クローンによる感染である可能性が高いと判断された。臨床との連携により,感染源の特定及び患者生活環境改善に寄与することができ,多職種連携の重要性を再認識する機会となった。

Translated Abstract

We report a case of childhood Salmonella bacteremia in which a pet lizard was suspected to be the source of infection. The patient, a previously healthy preschool-aged boy, presented with fever, diarrhea, and poor oral intake. Blood and stool cultures taken at admission revealed Salmonella serogroup O13. As serogroup O13 has been associated with reptiles, we informed the attending physician, who then inquired about the patient’s exposure to reptiles. This revealed that the patient had been keeping a pet lizard. With the cooperation of the patient’s family, the lizard and its environment were investigated, and Salmonella serogroup O13 was also isolated from the lizard’s mouth. Pulsed-field gel electrophoresis (PFGE) revealed identical patterns between the strains from the patient and the lizard, strongly suggesting clonal identity. Through close collaboration between the clinical team and the microbiology laboratory, we were able to trace the likely source of infection and contribute to improving the patient’s living environment. This case served as an opportunity to reaffirm the importance of multidisciplinary collaboration in identifying infection sources and promoting preventive measures.

I  はじめに

日本では,非チフス性サルモネラ感染症は,主として汚染された鶏肉や鶏卵などの動物由来食品の経口摂取が主要な感染経路であると考えられている1),2)。しかし近年,ペットとして飼育される動物の多様化に伴い,爬虫類を飼育する人が増加している3)。これにより,ペットとして飼育されている爬虫類が感染源となってサルモネラ腸炎を発症することも知られているが,原因の特定に至った報告は依然として多くない4),5)。今回我々はペットとして飼育しているトカゲが感染源であると推定された症例を経験したので報告する。

II  症例

患者:幼児期の男児。

主訴:発熱,下痢,経口摂取不良。

既往歴:なし。

現病歴:20XX年X月X − 6日から発熱,翌日前医受診し,整腸剤,解熱剤処方を受け帰宅。以降X − 5日からX − 3日までは水様便(2時間に1回)あったが,経口摂取はできており経過をみていた。X − 3日に一度だけ粘血便があった。X − 2日X − 1日は下痢がおさまってきたが経口摂取ができなくなった。X日夜間,高熱のため当院小児外来を受診し,咽頭炎の診断で入院加療となった。

III  入院時検査所見

1. 身体所見

体温:40.1℃,心拍数:125回/分,呼吸数:22回/分,SpO2:96%(室内気)

咽頭・扁桃発赤,白苔あり。左右側腹部と心窩部に圧痛あり。臍周囲に圧痛なし。

2. 血液検査所見

軽度炎症反応上昇,電解質異常,低アルブミン血症を認めた(Table 1)。

Table 1 Laboratory findings on admission

Hematology
WBC 3,700/μL
RBC 3.04 × 106 μL
Hgb 10.7 g/dL
Hct 31.5%
MCV 74.1 fL
MCH 25.2 pg
MCHC 34.0%
PLT 16.2 × 104/μL
Neut 58.8%
Lymph 35.0%
Mono 6.0%
Eosin 0.0%
Baso 0.5%
Biochemistry
TP 5.9 g/dL
ALB 3.0 g/dL
BUN 5.8 mg/dL
CRE 0.39 mg/dL
Na 130 mmol/L
K 3.1 mmol/L
Cl 94 mmol/L
Ca 8.7 mg/dL
T-Bil 0.2 mg/dL
AST 59 U/L
ALT 20 U/L
LDH 396 U/L
AMY 101 U/L
CK 41 U/L
CRP 1.65 mg/dL
Blood Gas Analysis (on room air)
pH 7.481
pCO2 38.1 mmHg
pO2 41.1 mmHg
HCO3− 28.4 mmol/L
Glucose 105 mg/dL
Lactate 1.1 mmol/L
Anion Gap 10.1 mmol/L
Rapid test
GAS (−)
Adeno Virus (−)

3. 画像所見

胸部単純X線所見:異常なし。

IV  細菌学的検査所見

血液培養検査はBacT/ALERT VIRTUO(ビオメリュー・ジャパン)にて,PF Plus培養ボトル(小児用)とFN Plus培養ボトル(嫌気用)を用いて行った。入院時に採取された血液培養1セット,小児ボトルと嫌気ボトルともに培養開始後,約12時間で陽転し,培養液の直接塗抹標本をフェイバーG染色液(島津ダイアグノティクス株式会社)を用いて,グラム染色を行ったところ,グラム陰性桿菌を認めた(Figure 1)。MALDI Sepsityper血液培養抽出キット(ブルカージャパン)を用いて直接菌種同定を実施し,Score Value 2.29でSalmonella sp.と同定された。

Figure 1  Gram-negative bacilli isolated from blood cultures (×1,000)

その後,血液由来株及び便由来株の発育したコロニーを用い,サルモネラ免疫血清(デンカ株式会社)を用いてO抗原血清型検査を実施し,O13の結果を得た。当院で過去にSalmonella O13群を分離した経験がなかったため,文献などを調べたところ,リクガメを飼育していた保育施設でSalmonella O13群が検出された患者の発生事例6)があった。このことから爬虫類との接触による感染の可能性が考えられたため,主治医に患者の爬虫類接触歴の調査を依頼したところ,2カ月前よりアカメカブトトカゲを飼育しており,口を近づけるなどの濃厚接触があったことが判明した。そこで主治医と相談し,患者家族の承諾を得て,患者の生活環境改善目的でトカゲ及びケージなどの培養検査を実施した。サンプリングにあたっての採取方法や注意点については,主治医立ち合いのもと,細菌検査技師がベッドサイドで患者家族に直接説明した。説明の際,医療従事者でない家族が適切に検体採取できるよう,手順を平易な言葉で具体的に示した説明用紙(Figure 2)を作成した。また,検体採取後の二次感染予防の観点から,石けんによる十分な手洗いを促す注意書きを加えるなど,安全面にも配慮した。トカゲ皮膚,ケージ内(壁面),ケージ内(床面),トカゲ口,便混入砂利の計5か所よりサンプリングしてもらい,それぞれを培地に接種後一晩培養し,発育したコロニーを同定した結果をTable 2に示す。トカゲ口よりSalmonella O13群が分離された。

Figure 2  Instructions on how to take samples
Table 2 Bacteria name isolated from lizard

採取部位 分離菌 採取部位 分離菌
トカゲ(皮膚) Citrobacter freundii トカゲ(口) Salmonella sp. O13
Ochrobactrum tritici Citrobacter freundii
Pseudomonas mosselii Pseudomonas aeruginosa
Stenotrophomonas maltophilia Serratia marcescens
ケージ(壁面) Citrobacter freundii Stenotrophomonas maltophilia
Citrobacter koseri 便(砂利) Citrobacter brakii
Ochrobactrum anthropi Citrobacter freundii
Pseudomonas stutzeri Ochrobactrum intermedium
Rhizobium radiobacter Ochrobactrum tritici
ケージ(床面) Citrobacter freundii Pseudomonas nitroreducens
Klebsiella koseri Serratia marcescens
Klebsiella pneumoniae
Lactobacillus suebicus
Ochrobactrum tritici
Pseudomonas putida
Tissierella praeacuta

なお,患児及びトカゲ由来株の血清型同定については自施設での検査が困難であったため,実施しなかった。

薬剤感受性試験はRAISUS S4(島津ダイアグノスティクス株式会社)にてRMEN1プレートを用いて実施し,Clinical and Laboratory Standards Institute(CLSI)M100 S26の基準で判定した。

血液由来菌,便由来菌,トカゲ口由来菌の薬剤感受性試験結果をTable 3に示す。後日,制限酵素Xba Iを用いたPFGEを実施し,血液由来菌,便由来菌,トカゲ口由来菌すべてが同一パターンを示したことより同一クローンであることが判明した(Figure 3)。

Table 3 Antimicrobial susceptibility test results

Antibiotics blood culture stool culture strain isolated from lizard
MIC (μg/mL) susceptibility MIC (μg/mL) susceptibility MIC (μg/mL) susceptibility
ampicillin ≤ 8 S ≤ 8 S ≤ 8 S
sulbactam/ampicillin ≤ 8 S ≤ 8 S ≤ 8 S
piperacillin ≤ 16 S ≤ 16 S ≤ 16 S
tazobactam/piperacillin ≤ 16 S ≤ 16 S ≤ 16 S
cefotaxime ≤ 1 S ≤ 1 S ≤ 1 S
ceftazidime ≤ 1 S ≤ 1 S ≤ 1 S
cefepime ≤ 1 S ≤ 1 S ≤ 1 S
imipenem ≤ 0.5 S ≤ 0.5 S ≤ 0.5 S
meropenem ≤ 0.5 S ≤ 0.5 S ≤ 0.5 S
aztreonam ≤ 1 S ≤ 1 S ≤ 1 S
amikacin ≤ 8 — ≤ 8 — ≤ 8 —
gentamicin ≤ 2 — ≤ 2 — ≤ 2 —
levofloxacin ≤ 0.125 S ≤ 0.125 S ≤ 0.125 S
ciprofloxacin ≤ 0.063 S ≤ 0.063 S ≤ 0.063 S
trimethoprim-sulfamethoxazole ≤ 20 S ≤ 20 S ≤ 20 S
Figure 3  Electropherogram by PFGE

V  入院後経過

入院後の経過をFigure 4に示す。入院日(X日)に血液培養1セットを採取したが,咽頭炎による発熱と1週間前からの下痢による電解質異常と低アルブミン血症であると考え,整腸剤と補液を行い抗菌薬投与はせず,経過観察の方針とした。しかしX + 1日に入院時採取血液培養から,サルモネラ疑いグラム陰性桿菌が検出されたため便培養を採取したのち,cefotaxime(CTX)200 mg/kg/dayの投与を開始した。X + 3日に腹部超音波検査を施行したところ,上行〜横行結腸の肥厚と腸管膜リンパ節腫大,回盲部リンパ節腫大を認めた。同日より解熱傾向となり,血液培養より検出された菌の薬剤感受性結果を受けampicillin(ABPC)200 mg/kg/dayにde-escalationした。X + 8日目にamoxicillin(AMPC)内服にスイッチし,変更後も全身状態は安定しており,X + 11日に退院となった。X + 3日までは1日1回の泥状便であったが,X + 4日以降は下痢を認めなかった。

Figure 4  Clinical course

後日再診時に聴取したところ,飼育していたトカゲは譲渡したとのことであった。

VI  考察

本症例は,非チフス性サルモネラ菌の中でも比較的報告の少ないO13群による血流感染症であり,さらにペット由来で感染源が推定された稀な例である。通常非チフス性サルモネラ感染症は,軽症の胃腸炎で済むことが多いが,小児や高齢者,免疫不全患者では菌血症に至る可能性もあり,重症化のリスクがある点には留意が必要である。特に本症例のように臨床症状が咽頭炎と診断され,初期段階でサルモネラ感染を疑う所見が乏しかった点からも,血液培養や便培養などの適切な検査の実施,さらには検査室からの迅速な情報提供が,診断の確定に直結したことは注目に値する。

本症例では血清型の同定には至らなかったが,O13群には複数の血清型が含まれることが知られている。代表的なものとしてSalmonella Poonaがあり,特にカメなどの爬虫類を感染源とする小児感染例が認められている7),8)。その他に,Salmonella Cubanaは家禽関連環境や食品由来株として報告されている9)。

本邦における非チフス性サルモネラ感染症の多くは,汚染された鶏肉や鶏卵などの動物由来食品の摂取に関連するとされている1),2)。一方で,ペットとの接触による感染については,一般には十分に認識されているとは言い難い。

ペットとして飼育する動物の多様化によって,爬虫類を飼育する人が増加しているが,林谷らの報告10)によるとペットショップで販売されている爬虫類のサルモネラ保有状況はカメ類で72.2%,トカゲ類で74.6%,ヘビ類で100%であるとされている。また,爬虫類を感染源とするサルモネラ感染症はアメリカでは公衆衛生上の問題として認識され,販売規制が行われた経緯もある11)。日本においてもミシシッピーアカミミガメ(ミドリガメ)との関連が強く疑われた小児重症サルモネラ感染症の2症例12)を受けて,再発防止を目的とした注意喚起13)が厚生労働省から発表されたが,広く周知されておらず,爬虫類との接触によるサルモネラ感染についてあまり知られていない。また直接接触することがなくても保護者を介して子へ感染する場合もある。爬虫類だけでなくイヌ,ネコ,ハリネズミのように身近なペットからの小児感染例14)~16)の報告もあるため,ペットの種類に関わらず動物由来感染症への社会的認識の向上とともに,医療機関・ペット販売業者・行政が連携した感染予防対策の整備が求められる。

VII  結語

本症例は,当院で過去に分離した経験のないO抗原血清型を示すサルモネラ属菌を分離したことで,爬虫類との接触を疑い,臨床との連携により,感染源の特定と患者の生活環境改善に至った。今回の症例を経験し当院小児科では,問診の際にペットとの接触の有無や飼育歴について聴取する体制が整備された。人・動物・環境の健康を一体的に捉える「One Health」の視点からも,本症例は動物由来感染症において感染経路の把握と生活環境への介入が,再感染の予防につながることを示した重要な症例であり,検査や診療には他職種との情報共有や連携が重要であり,適切な診断・治療につながることが再認識できた。今後も臨床との円滑な連携を図り,検査部門として感染症の診断・感染源特定に貢献できる体制を構築していきたい。

この症例は論文公表にあたり患者保護者の承諾を得た。

COI開示

本論文に関連して,著者が開示すべき利益相反(COI)はありません。

 謝辞

本症例の報告にあたり貴重なご助言を賜りました北九州市立八幡病院臨床検査科の木村聡先生,元北九州市立八幡病院小児科の小川裕子先生,PFGEを実施していただいたひびきAMR研究会の村谷哲郎先生に深謝いたします。

文献
 
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