医学検査
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資料
10年間におけるESBL産生Escherichia coliの検出動向と遺伝子型の比較解析(2012年vs 2022年)
市岡 里奈, 米玉利 準, 丹羽 麻由美, 小川 瑞稀, 石田 秀和, 手塚 宜行, 菊地 良介, 馬場 尚志
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2026 年 75 巻 3 号 p. 603-607

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Abstract

薬剤耐性菌の蔓延は世界的な公衆衛生課題であり,特にESBL産生大腸菌は第三世代セファロスポリン耐性に加えてフルオロキノロン耐性を示すことも多く,臨床上問題となっている。本研究では,岐阜大学医学部附属病院で2012年から2022年に分離されたESBL産生大腸菌の検出動向およびフルオロキノロン感受性の推移を検討するとともに,2012年と2022年に分離されたESBL産生大腸菌101株を対象とし遺伝子型を解析した。その結果,2012年から2022年においてESBL産生大腸菌は漸増傾向で,フルオロキノロン感受性は2020年以降に緩やかな改善傾向がみられた。2012年と2022年の分離菌のCTX-M型の解析では,両年ともにCTX-M-9 groupが70%以上を占めていたが,CTX-M-9 groupでもCTX-M-1 groupでもフルオロキノロン感受性株が増加していた。これらについて抗菌薬使用状況の変化のほか,伝播株の違いが関連している可能性が考えられ,地域におけるESBL産生大腸菌の動態をより詳細かつ継続的に把握することが必要と考えられた。

Translated Abstract

Antimicrobial resistance is a global public health concern and extended-spectrum β-lactamase (ESBL)-producing Escherichia coli is particularly problematic due to resistance to third-generation cephalosporins and fluoroquinolones. In this study, we analyzed the proportion and fluoroquinolone susceptibility trends of ESBL-producing E. coli isolated from 2012 to 2022 at Gifu University Hospital, and we also analyzed the genotypes of 101 ESBL-producing E. coli strains isolated from 2012 and 2022. As a result, ESBL-producing E. coli tended to increase gradually, and fluoroquinolone sensitivity showed a gradual improvement trend after 2020. In the analysis of resistance genes of isolates in 2012 and 2022, the CTX-M-9 group accounted for more than 70% in both years, but fluoroquinolone-sensitive strains increased in both the CTX-M-9 group and the CTX-M-1 group. These findings highlight the need for detailed genotypic analysis and continuous surveillance to monitor the dynamics of resistant strains in the region.

I  はじめに

薬剤耐性菌(antimicrobial resistance; AMR)の蔓延は世界的な公衆衛生上の課題である。世界全体でみると薬剤耐性による死亡を最も多く引き起こしている菌種は大腸菌であり,その半数以上を第三世代セファロスポリン耐性およびフルオロキノロン耐性が占めると推定されている1)。基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ(extended-spectrum β-lactamase; ESBL)産生大腸菌は,第三世代セファロスポリン耐性に加え,フルオロキノロンに対しても耐性を示すことが多く,臨床現場で問題となっている。大腸菌は,市中感染から医療関連感染まで幅広く関与するほか,尿路感染症や腹腔内感染症の主要な起因菌である。これらにおいて初期治療薬を選択するにあたり,地域や施設内におけるESBL産生大腸菌の検出動向,さらにはその薬剤耐性動向の情報は重要である。また,2016年には本邦でAMR対策アクションプランが策定され,翌年には厚生労働省から抗微生物薬適正使用の手引きが示されるなど,第三世代セファロスポリン系薬やフルオロキノロン系薬の使用量低減が図られており,その薬剤耐性における影響にも注目される。

一方,ESBLは主にTEM型,SHV型,およびCTX-M型に分類されるが,近年は特にCTX-M型が世界的に優勢となっている。CTX-M型の中では,本邦においては2000年代前半まではCTX-M-2 groupが多く報告された時期があったが2),その後sequence type 131(ST131)の世界的なクローン性増殖などにより,本邦でも2010年代前半にはCTX-M-9 groupに属するCTX-M-27を産生する株が優勢となったとの報告が複数ある2)~5)。ESBL産生菌は,地域における特定クローンの拡散とともに,プラスミド伝播を介して耐性遺伝子が伝播・獲得されやすく,施設内での拡散も起こり得る。しかし,同一施設におけるCTX-M型の長期的な変化に関する知見は十分ではない。

これらの背景から,本研究では,岐阜大学医学部附属病院におけるAMR対策アクションプラン策定以降の期間を含む2012年から2022年までのESBL産生大腸菌の検出動向およびフルオロキノロン感受性の推移を検討するとともに,2012年および2022年に分離されたESBL産生大腸菌についてCTX-M型を解析し,比較検討した。

II  対象と方法

1. 対象

ESBL産生大腸菌の検出およびフルオロキノロン感受性の動向については,2012年から2022年の間に岐阜大学医学部附属病院検査部で分離され,表現型によりESBL産生と判定された大腸菌すべての中で,各症例の初回分離株700株(泌尿器由来材料448株,血液71株,その他181株)を解析対象とした。なお,期間を通じてESBL産生大腸菌の由来材料の割合には大きな変化は見られなかった。

ESBL遺伝子型の解析については,2012年と2022年に分離されたESBL産生大腸菌すべての中で,各症例の初回分離株101株(2012年42株,2022年59株)を対象とした。なお,本研究は岐阜大学大学院医学系研究科医学研究等倫理審査委員会の審査を受け実施した(承認番号:2023-255)。

2. 表現型によるESBL産生の判定

KBディスク(栄研化学株式会社)を用いたDouble Disk Synergy Test,AmpC/ESBL鑑別ディスク(関東化学株式会社)を用いてESBL産生を判定した。

3. 薬剤感受性試験

薬剤感受性はIA-40MIC-i(栄研化学)を用いた微量液体希釈法により実施した。レボフロキサシン(levofloxacin; LVFX)のカテゴリ判定はClinical and Laboratory Standards Institute(CLSI)M100-S22に準拠した。

4. CTX-M型解析

シカジーニアスESBL遺伝子検査キット2(関東化学株式会社)を用い,CTX-M型をgroup別(CTX-M-1 group, CTX-M-2 group, CTX-M-8 group, CTX-M-9 group)に分類した。

5. 統計解析

統計解析はJMP Student Edition 18.2.2を使用した。

2012年から2022年までのESBL産生大腸菌の検出およびフルオロキノロン感受性の傾向についてはCochran-Armitageの傾向検定を用い,片側確率5%未満を有意差ありとした。2012年と2022年とのESBL遺伝子型の比較についてはFisherの正確確率検定(両側)を用い,p < 0.05を有意差ありとした。

III  結果

1. ESBL産生大腸菌の割合

2012年から2022年に分離された大腸菌におけるESBL産生株の割合は,10〜20%台で推移し,全体として漸増傾向を示した(Figure 1)。2012年および2022年に当院で分離された大腸菌全体におけるESBL産生大腸菌の割合はそれぞれ15.5%,18.1%であった(p for trend = 0.003)。

Figure 1  Annual proportion of ESBL-producing isolates in Escherichia coli from 2012 to 2022

2. LVFX感受性率の推移

2012年から2022年に分離されたESBL産生大腸菌におけるLVFX感受性株の割合をFigure 2に示した。LVFX感受性株の割合は2012年に16.7%であり,2013年から2019年には12〜20%台で推移し,大きな変動は認められなかった。2020年以降は緩やかな上昇傾向を示し2022年に27.1%へ上昇していた。なお,観察期間を通してLVFX感受性率は緩やかな増加傾向を示したが有意差は認めなかった(p for trend = 0.093)。

Figure 2  Trend of levofloxacin-susceptible isolates in ESBL-producing Escherichia coli from 2012 to 2022

3. CTX-M型の分布

2012年および2022年に分離されたESBL産生大腸菌101株の中でblaCTX-Mを保有していたのは94株(2012年40株,2022年54株)であった(Table 1)。2012年および2022年のいずれにおいても,CTX-M-9 groupが全体の70%以上を占め,主要な型であった(Table 1)。CTX-M-1 groupの割合が10年間でやや増加したが,CTX-M型の全体的な割合に大きな変化はみられなかった。

Table 1 Comparison of CTX-M genotypes among ESBL-producing Escherichia coli isolated in 2012 and 2022

Genotype group 2012 2022
CTX-M-9 29 (72.5%) 41 (75.9%)
CTX-M-1 6 (15.0%) 12 (22.2%)
CTX-M-8 2 (5.0%) 1 (1.9%)
CTX-M-2 1 (2.5%) 0 (0%)
CTX-M-1 + CTX-M-9 2 (5.0%) 0 (0%)
Total 40 54

4. CTX-M型別LVFX感受性

CTX-M-1 groupでは,LVFX感受性株の割合が2012年の16.7%から2022年には33.3%に上昇した(Figure 3a)。一方,CTX-M-9 groupでもLVFX感受性株が17.2%から22.0%へ増加した(Figure 3b)。いずれもN数が少なく有意な差は認めなかった。

Figure 3  Levofloxacin susceptibility rates by CTX-M group in 2012 and 2022

IV  考察

2012年から2022年における岐阜大学医学部附属病院でのESBL産生大腸菌の検出動向およびフルオロキノロン感受性の推移を検討したところ,ESBL産生大腸菌の検出は漸増傾向を示しており,LVFX感受性に有意な変化は認めなかった。一方,LVFX感受性は,2020年以降に注目すると緩やかな上昇傾向がみられた。これには,2016年以降のAMR対策アクションプランや厚生労働省による抗微生物薬適正使用の手引きの策定,さらには2020年からは新型コロナウイルス感染症発生に伴う受診行動および抗菌薬処方動向の変化があったことも報告されている6),7)。これらの報告の中では,2020年以降,本邦における経口フルオロキノロン系薬の販売量が顕著に減少していることが示されており6),7),これらが影響した可能性も考えられた。

2012年と2022年のCTX-M型の構成については,期間を通じてCTX-M-9 groupが優勢であり,CTX-M groupでみた割合に大きな変化はみられなかった。CTX-M-9 groupが全体の7割以上を占めた点は,全国175施設(2019–2020年)の検討においてCTX-M-9 groupの割合が51.7%であったことと比較し高い一方8),中部地方の11施設(2011–2017年)の報告9)(CTX-M-9 group: 68.6%)と類似しており,当院で分離されるESBL産生大腸菌は中部地方特有のCTX-M型の構成割合を反映している可能性が推察された。ただし,同一県内でも地域によりCTX-M型が大きく異なるとの報告もあり10),多施設における検討が必要と考えられた。岐阜県では県内全ての感染対策向上加算算定病院が参加する合同カンファレンスを開催しており,その中で感染対策連携共通プラットフォーム(J-SIPHE)を利用し薬剤耐性菌や抗菌薬使用状況についてサーベイランスを行っている。各施設のESBL産生大腸菌を解析し,これらのデータと総合することを通じて,当院における感染対策や抗菌薬適正使用支援活動だけでなく,地域の医療機関との連携の中で地域全体での感染対策・抗菌薬適正使用活動の強化に貢献することも期待される。

一方,CTX-M-9 group,CTX-M-1 groupにおけるLVFX感受性株の割合は,両群ともに2012年と比較し2022年の方が増加していた。ESBL産生大腸菌におけるキノロン感受性については,産生するCTX-M型の違いによっても差があり,本邦においてはCTX-M-9 groupではCTX-M-27産生株よりCTX-M-14産生株が,CTX-M-1 groupではCTX-M-15産生株よりCTX-M-55産生株においてキノロン感受性株の割合が高いことが報告されている6),7)。福岡県の大学病院では2012年から2017年にかけてESBL産生大腸菌のLVFX感受性率は年々低下したと報告されており11),上述したような2017年以降の抗菌薬使用状況の変化による影響のほか,地域による伝播株の違いが関与している可能性も考えられる。

ただし,本研究では,CTX-M型についてgroupまでの解析に留まっており,CTX-M-27,CTX-M-14,CTX-M-15,CTX-M-55などの詳細なサブタイプは特定できていない。また,フルオロキノロン耐性化に関わる遺伝子や変異も把握できていない点も研究限界として挙げられる。

V  結語

2012年から2022年においてESBL産生大腸菌の検出は漸増傾向であったが,フルオロキノロン感受性は2020年以降に緩やかな改善傾向がみられた。また,2012年および2022年に分離されたESBL産生大腸菌を比較すると,両年ともCTX-M-9 groupが優勢であったが,フルオロキノロン感受性株の割合の増加が示唆された。これらはCOVID-19による影響を含めた抗菌薬使用状況の変化のほか,伝播株の違いが関連している可能性が考えられた。今後はさらに,CTX-M型についての詳細なサブタイプ解析やキノロン耐性獲得に関わる遺伝子の解析を含め,地域におけるESBL産生大腸菌の動態をより詳細かつ継続的に把握することが必要である。

COI開示

本論文に関連して,著者が開示すべき利益相反(COI)はありません。

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