【目的】静脈採血は侵襲性を伴う医療行為であり,安全性と業務効率の両立が求められる。当センターでは作業の効率化と安全性の向上を目的に,翼状針をシュアシールド翼付採血セット(テルモ;TERUMO)からルアーアダプター付きセーフタッチPSVハイフロータイプ(ニプロ;NIPRO)に変更した。各翼状針の形状や流速,採血室の稼働状況,検体品質および使用感の観点から有用性を検証した。【方法】模擬血液を用いてTERUMOとNIPROの流速を測定した。また,2023年4~9月(TERUMO使用期)と2024年4~9月(NIPRO使用期)における外来採血室の待ち時間,採血所要時間,溶血や痛み・しびれの発生率を比較した。さらに,採血担当者18名を対象に使用感に関するアンケート調査を実施した。【結果】形状について,NIPROは内径が広いことが確認できた。流速はNIPRO22G,23G,TERUMO22G,23Gの順に速かった。平均採血所要時間はTERUMO使用期3分25秒に対し,NIPRO使用期は2分55秒と30秒短縮し,平均採血待ち時間も47秒短縮した。溶血率はTERUMO使用期7.5%からNIPRO使用期1.9%へ有意に低下したが,痛み・しびれの発生率に有意差はなかった。アンケートでは血液流入の速さおよび安全装置の有効性が高く評価された。【結語】NIPROへの変更は,採血時間の短縮と溶血率の低下をもたらし,採血室の効率化と安全性向上に有用であった。
Objective: Venipuncture is an invasive medical procedure that requires both safety and operational efficiency. To improve workflow efficiency and safety in our medical center, the TERUMO butterfly needle with a suction shield was replaced by the NIPRO Safe Touch PSV High Flow Type with Luer adapter. This study evaluated the usefulness of these butterfly needles in terms of needle design, flow rate, blood collection room operations, specimen quality, and user experience. Methods: Flow rates of both needles were measured using simulated blood. In addition, waiting times, blood collection times, and the incidence rates of hemolysis, pain, and numbness were compared in outpatient blood collection rooms between April and September 2023 (TERUMO period) and April and September 2024 (NIPRO period). A questionnaire survey on usability was conducted among 18 blood collection staff members. Results: The NIPRO needle was confirmed to have a wider inner diameter. Flow rates were fastest in the order of NIPRO 22G, NIPRO 23G, TERUMO 22G, and TERUMO 23G. The average blood collection time was reduced by 30 seconds, and the average waiting time decreased by 47 seconds after switching to NIPRO. The hemolysis rate significantly decreased from 7.5% to 1.9%, while no significant differences were observed in pain or numbness. User evaluations indicated high satisfaction with blood flow speed and safety features. Conclusion: The NIPRO butterfly needle contributed to improved efficiency and safety in outpatient blood collection.
静脈採血は臨床検査の原点の一つであり,医師と看護師,そして臨床検査技師にのみ認められた“聖域”ともいえる医療行為である。昨今は多くの医療機関で採血業務を中央化・効率化し,外来採血を臨床検査技師が担当することで医師や看護師の負担軽減,タスクシフト・シェアに貢献している。一方で,侵襲的行為に起因する針刺し事故や痛み・しびれの発生,採血者の安全,患者接遇など課題も多く,これらのリスクを回避する様々な取り組みが報告されている1)~5)。特に,翼状針に安全装置を付加した製品は採血時の針刺し防止策として有効性が高く,近年は各社でさらなる改良が加えられている。
2019年7月に,ニプロ社より従来の翼状針の内径を拡張した「ハイフロー」タイプが発売された。当センターでは,作業の効率化と安全性の向上を目的に,2024年に他社製から本品に変更した。その成果について報告する。
検討期間は2023年1月から2024年12月の2年間である。この間に,当科採血室では医療安全の観点から翼状針を変更した。従来品と変更品の基礎的な検討と採血室の稼働状況を比較し,翼状針変更の効果を検証した。
1. 翼状針4種の形状と流速の比較検討に用いた翼状針は,シュアシールド翼付採血セット(テルモ株式会社;以下,TERUMO)の22Gと23G,ルアーアダプター付きセーフタッチPSVハイフロータイプ(ニプロ株式会社;以下,NIPRO)の22Gと23Gの計4種である。これらの針先の外観はiPhone 13ProMaxにて撮影した。
それぞれの翼状針を用いた場合における流速測定を,次のとおり行った。まず,とろみ製剤‘つるりんこ’(森永乳業)3 gを滅菌蒸留水(大塚製薬)900 mLに溶解した低粘稠液と,同3 gを300 mLの滅菌蒸留水に溶解した高粘稠液の2種を作製した。これを模擬血液とし,各翼状針を用いてベノジェクトII真空採血管9 mL(TERUMO)に5 mLおよび9 mLの採取にかかる時間を3回計測,1秒当たりの平均採取量を算出,これを「流速」とした。なお,事前にダミー採血管を用いてルート内に溶液を満たし,ルート容量の影響を除去した。
2. 各翼状針の使用時期における採血室の稼働状況TERUMO使用の2023年4月から9月をテルモ期(27,634件),NIPRO使用の2024年4月から9月をニプロ期(28,454件)とし,外来採血室における両期の稼働状況を比較した。両期間に採血室スタッフの入れ替えや待ち時間に影響すると思われる事故やイベントはない。検証項目は,採血待ち時間(採血受付から呼び込みまでの所要時間)と採血所要時間(患者照合から採血終了までの時間)である。採血情報は,当科で使用する採血管準備システムBC・ROBO-8001RFID(テクノメディカ)から抽出して集計した。なお,「採血終了」時間の個人差を最小限にするため抜針後ただちに終了ボタンを押すことを周知している。
この2期間における溶血の出現率,痛み・しびれの発生状況を比較した。溶血は,生化学分析装置LABOSPECT 008α(日立ハイテク)での溶血指標1(50 mg/dL)6)以上とした。
また,採血者へのアンケートを実施し,両者の使用感についても比較した。当センター臨床検査科に所属する採血業務を担う職員18名に9項目の質問をし,自由記述で回答を得た。類似回答は集約した。
本検討における統計解析はEZR version 1.68(自治医科大学)で行い,有意確率p < 0.01を統計的有意とした。
翼状針4種の針先の外観をFigure 1に示した。針の外径は両社同等であるが,NIPROは壁が薄く,内径が広いことが確認できた。

各翼状針における流速をFigure 2に示した。低粘稠液5 mL採取では,TERUMO23G,TERUMO22G,NIPRO23G,NIPRO22Gの順に0.44 mL/s,0.71 mL/s,0.76 mL/s,0.98 mL/s,低粘稠液9 mL採取では0.28 mL/s,0.44 mL/s,0.50 mL/s,0.63 mL/sであった。同様に,高粘稠液5 mL採取では0.26 mL/s,0.46 mL/s,0.51 mL/s,0.62 mL/s,高粘稠液9 mL採取では0.12 mL/s,0.21 mL/s,0.21 mL/s,0.22 mL/sであった。流速はいずれの粘稠液,採取量においてもNIPRO22Gが最も速く,TERUMO23Gの約2倍速であった。また,TERUMO22G とNIPRO23Gを比較すると,高粘稠液9 mL以外でNIPRO23Gのほうが0.05~0.06 mL/s速かった。

2023年1月から2024年12月までの月別採血人数と平均採血待ち時間をFigure 3に示した。テルモ期の採血人数は月平均で4,606人,ニプロ期は4,742人であった。平均待ち時間はテルモ期が6分00秒,ニプロ期が5分13秒であり,ニプロ期で47秒短縮した。

テルモ期とニプロ期の採血所要時間の分布をFigure 4に示した。テルモ期の採血所要時間は2分30秒から3分がピーク,一方ニプロ期は2分から2分30秒がピークであった。平均採血所要時間はテルモ期3分25秒,ニプロ期2分55秒であり,ニプロ期が30秒短かった。

テルモ期とニプロ期における溶血と痛み・しびれの発生状況をTable 1に示した。溶血した件数は,テルモ期2,070件(7.5%),ニプロ期535件(1.9%)であり,ニプロ期が有意に低い結果であった。痛み・しびれの件数は,テルモ期3件(0.11/1,000患者),ニプロ期2件(0.07/1,000患者)であり,両者に有意な差はなかった。
| TERUMO Term n = 27,634 |
NIPRO Term n = 28,454 |
p value | |
|---|---|---|---|
| Hemolysis | 2,070 (7.5%) | 535 (1.9%) | < 0.001 |
| Pain or numbness (/1,000 Patients) | 3 (0.11) | 2 (0.07) | 0.639 |
アンケート調査の結果をTable 2に示した。TERUMO・NIPROの順に,針カバーの取り外しやすさが16.7%・5.6%,ホルダー装着のしやすさが0%・66.7%,羽の持ちやすさが22.2%・16.7%,針の固定が22.2%・27.8%,採血管の固定が11.1%・16.7%,血液の流入の速さが0%・61.1%,採血量の見やすさが27.8%・0%,抜針のしやすさが33.3%・16.7%,安全装置(Figure 5)の使いやすさが11.1%・38.9%であった。
| TERUMO | NIPRO | ||
|---|---|---|---|
| Before blood samples | Ease of removing the needle cap | 16.7% | 5.6% |
| Ease of holder attachment | 0% | 66.7% | |
| Ease of gripping the wings | 22.2% | 16.7% | |
| During blood samples | Fixation of the Needle | 22.2% | 27.8% |
| Fixation of the blood collection tube | 11.1% | 16.7% | |
| Rate of blood inflow | 0% | 61.1% | |
| Visibility of the collected blood volume | 27.8% | 0% | |
| After blood samples | Ease of needle removal | 33.3% | 16.7% |
| Usability of the safety device (prevention of needlestick injury risk) | 11.1% | 38.9% |

静脈採血は臨床検査技師が行う業務のなかで最も侵襲性が高く,患者と採血者の双方に様々なリスクが伴う。近年の各社における採血用機材の改良は採血の現場においてリスク回避に大きく役立っており3),7),8),検査室もまた安全な運営のため業務改善に努めている2),4),9)。我々は翼状針における針刺し防止を強化する目的で,抜針時に針が格納されるNIPROに変更したが,その際に以前から発売されているセーフタッチPSVではなく,ハイフロータイプを選択した。流速が速ければ穿刺時間が短く患者の負担軽減になること10),11),短縮した時間の蓄積は採血室の効率的な運用に繋がることなどが期待され,本検討を開始した。
一般に,採血針は内径が大きいほど高い流速である。各翼状針における模擬検体を用いた流速を比較すると,NIPRO22G,23G,TERUMO22G,23Gの順であり,1秒当たり最大0.54 mLの差であった。本検討のアンケート調査でも61%がNIPROの流入が早いと回答しており,明らかに体感が異なることが確認できた。仮に5 mLの採血管を1患者4本ずつ採取した場合,TERUMO23Gは45.4秒(5 × 4 ÷ 0.44),NIPRO22Gは20.4秒(5 × 4 ÷ 0.98)を要し,NIPROで約25秒の短縮となる。1人当たりの採血所要時間で比較した結果も約30秒の短縮であり,本試算の正当性が確認できた。また,すべて23Gを使用した場合でも19秒の差があり,1日約300人を採血する当科では,総じて90分以上の時間が捻出できる計算となる。NIPROに変更後は採血室の環境整備やスタッフミーティング,教育,他業務の応援,病棟支援,治験採血の受け入れなどの業務を充実させることができた。以上から,高流速仕様の翼状針は採血所要時間のみならず採血待ち時間も短縮し,採血室運営の効率化に寄与することが示された。
採血器具の形状は,時に検査結果に影響する。一般に内径が狭い翼状針で真空採血した場合,血球に物理的圧力が加わるため溶血のリスクが高まる。本検討において,内径が広いNIPROで溶血の発生が有意に低かったことは市村らの報告8)と同様であり,内径の広さは溶血検体の低下に繋がることが示された。しかしながら,平田ら3)は内径の異なる翼状針の比較において,溶血(血清カリウム値)に有意差はなかったとしている。さらに,溶血は針先ではなくチューブの内径や長さに関連すること8),同メーカー針でも安全装置の違いが溶血(血清ヘモグロビン値)に影響すること6)が報告されている。試験管内溶血は採血器具だけでなく,遠心分離までの時間,遠心条件,振動,室温変化なども要因となりえるが4),本検討は約28,000件の疫学解析であり,採血から遠心分離までの時間は40分以内であること,翼状針以外の変更はない(チューブの長さは同じ)ことから,適正な結果と考えている。
採血において,穿刺域の内出血や痛み・しびれ,迷走神経反応などの合併症は避けられない事象である。従来の採血針(直針)に比べ翼状針は神経損傷の発生が有意に低いことは既報から明らかである1),9),12)。翼状針間の比較では外径が小さいほど痛みが少ないが(22G/23Gと25Gの比較7)),22Gと23Gでは有意差はない3)。本検討ではテルモ期とニプロ期でのゲージの使用比は確認していないが,両者の痛み・しびれの発生頻度に有意差はなく,平田らの報告3)に一致すると考えられた。
翼状針における安全装置(針刺し防止機能)は,各社それぞれに特徴がある。NIPROは抜針と収納が同時であり,アンケート調査でも針刺し防止に有効との回答が多かった。しかしながら片手でストッパーを引き上げる操作があるため,抜針のしやすさという点ではTERUMOがよいとの回答が多い。住本ら13),須田ら14)は抜針後の針が露出するタイプから収納タイプ(NIPRO)に変更したところ針刺し事故が減少したことを報告している。本検討において期間中に針刺しやヒヤリハットが発生しなかったため比較できないが,NIPROの安全装置は正しい使用のもとにおいて針刺し事故の抑制に有用であろう。
近年,感染対策の観点から,採血時の手袋着用と患者ごとの交換,採血枕・駆血帯・採血台などのアルコール清拭といった作業が行われている。これらの導入による作業効率の低下が懸念されるが,患者を呼び込むまでの間に実施することは可能であり5),15),なによりも患者・採血者双方の安心・安全に繋がっている。
本邦における「血液採取(静脈)」の診療報酬は2010年の13点から改訂ごとに上昇し,2025年は40点と2倍以上である。このことは採血業務における安全管理への期待であり,採血に携わる臨床検査技師はこれに真摯に取り組む責務を負っているといえるのではないだろうか。NIPROはTERUMOに比べ数十円高い(定価比)が,安全性や作業効率向上の対価と考えることができる。昨今「痛くない針」と称する注射針が開発され,採血針への応用も期待される。採血器具メーカーや検査室のたゆまぬ努力は,よりよい患者サービスと安心安全な臨床検査に大きく貢献する。本検討はその成果のひとつであり,翼状針の改良は採血室の効率化に有効である。
採血時の安全性(針刺し防止)の観点から翼状針を変更した。セーフタッチPSVハイフロータイプは従来品に比べ高流速であり,1患者あたりの採血時間の短縮と採血室の効率的な運用に繋がった。このことは安全かつ質の高い患者サービスに寄与する。
本論文に関連して,著者が開示すべき利益相反(COI)はありません。