ドライアイスで検体を保冷する際,検体保存容器の密閉が不十分な場合はドライアイス由来のCO2が検体中に溶け込むことで検体のpHが低下し,一部の検査項目の測定結果に影響を及ぼすことが知られている。今回,当院と契約中の外部委託検査会社2社(A社,B社)への検体提出時に使用している検体保存容器および当院の検体分注搬送装置で使用中の検体保存容器について,保冷条件の違いが検体中のpCO2およびpHに及ぼす影響を検討した。マイナス20℃の冷凍庫内に保冷した検体を対照とした場合,A社の容器を使用してビニール袋で被覆せずにドライアイス保冷した場合のみpCO2の増加およびpHの低下を認めた。また,これらの検体は解凍から2時間経過後もpCO2およびpHは保存前の数値に戻らなかった。一方,ビニール袋で検体を被覆した場合,いずれの容器で保冷してもpCO2増加やpH低下を認めなかった。以上より,ドライアイスを用いた検体保存および搬送時のCO2溶け込みによると思われる検体中のpH変化を防止するためには,検体保存容器をビニール袋等で被覆しドライアイスとの直接的な接触を遮断することが検体管理上重要と考えられた。
It is well known that when specimens are preserved using dry ice, insufficient sealing of the sample container may allow CO2 derived from the dry ice to dissolve into the specimen, resulting in a decrease in pH and potentially affecting the results of certain laboratory examinations. In this study, we evaluated the effects of different cooling conditions on CO2 levels and pH in specimens using specimen containers employed for sample submission to two external contract laboratories (Company A and Company B), as well as containers used for specimen transport systems in our laboratory. Specimens stored at −20°C in a freezer served as controls. An increase in CO2 levels and a decrease in pH were observed only when specimens were stored on dry ice using the container from Company A without plastic bag coverage. Furthermore, CO2 and pH values in these specimens did not return to pre-storage levels even two hours after thawing. In contrast, when specimens were covered with a plastic bag, no increase in CO2 or decrease in pH was observed regardless of the container type used. These findings suggest that it is important to cover specimen containers with a plastic bag or similar material to prevent direct exposure to dry ice to prevent pH changes in specimens due to CO2 dissolution during storage and transport with dry ice.
検体採取から検査実施までの検体保存時間や保存条件が不適切であった場合,検査結果データに大きな誤差を与える可能性がある1),2)。特に衛生検査所等に院外委託している検査項目については検査実施までに24時間以上要する場合もあり,検体搬送時には周囲の環境も変化することから,搬送過程での検体保存条件も適切に管理される必要がある3)。外部委託検査会社の検査案内には各検査項目における検体の提出条件が記載されているが,一部の検査項目では血漿または血清を凍結状態(保冷)で提出することが求められている4),5)。このため,当院と契約関係にある外部委託検査会社では,遠心処理後の血漿や血清を凍結状態で搬送するためドライアイス入りフリーザーバックが用いられている。一方,ドライアイスで検体を保冷する際に検体保存容器の密閉が不十分な場合,ドライアイス由来のCO2が検体に溶け込むことで検体のpHが低下し6),一部の検査項目では検査結果に影響を及ぼすことが報告されている7)。
今回,当院と契約関係にある外部委託検査会社2社への検体提出時に用いている検体保存容器および当院の検体分注搬送装置で使用している検体保存容器について,血漿および血清へのドライアイス由来CO2溶け込みとpHの変化について検討をおこなった。
検討用の血漿検体としてコアグジェネシス コントロール1(PHC株式会社/Lot No: A513)および血清検体としてQAPトロール1X(シスメックス株式会社/Lot No: QL-125)を用いた。検体保存容器としては,当院と契約関係にある外部委託検査会社2社(A社,B社)への検体提出時に使用している2種類の検体保存容器[保存容器A:ポリプロピレン製],[保存容器B:スチレン・ブタジエン・コポリマー(styrene-butadiene copolymer; SBC)樹脂製],および当院の検体分注搬送装置で使用している検体保存容器[保存容器C:ポリプロピレン製]を用いた。今回の検討では,各条件の検体を同一の市販コントロール試料より分注して作製したため,各測定操作は技術的反復である。
2. 方法 1) 検体保冷方法の区別3種類の保存容器に血漿または血清を1 mLずつ分注したものを各々15本(合計90本)作成し,全ての検体を−20℃の冷凍庫に1時間保冷した。1時間後に検体凍結を目視確認し,検体保存容器および検体種別に各々5本ずつ①−20℃の冷凍庫内に引き続き保冷する対照群,②ドライアイス入りの市販発泡スチロールボックス内にそのまま検体を保冷する直接保冷群,③検体を市販のチャック付透明ビニール袋(10 L用)に入れてドライアイス入り発泡スチロールボックス内に保冷するビニール袋保冷群,の3群に分けた(Figure 1)。

血液ガス分析装置ABL90 FLEX PLUS(ラジオメーター株式会社)を用いてpCO2(mmHg)およびpHを測定した。
3) 保冷時間別でのpCO2およびpHの経時的変化各々の検体(血漿,血清)について上記の3群毎に2時間,4時間,6時間,8時間,10時間保冷後に室温静置で解凍しpCO2およびpHを測定した。各保存条件につき5本の検体を準備し,2,4,6,8および10時間後の測定にそれぞれ1本ずつ使用した。したがって,各時点の測定値は独立した検体保存容器1本の測定結果である。この時,測定は各検体につき1回実施した。
4) 保冷検体解凍後のpCO2およびpHの経時的変化上記2)の測定でpCO2およびpHの経時的変化を認めた検体保存容器について,血漿または血清を1 mLずつ分注したものを3本(合計6本)用意し,−20℃の冷凍庫で1時間保冷し凍結を目視確認後,ドライアイス入りの発泡スチロールボックス内に10時間直接保冷した。室温静置にて解凍直後,1時間後および2時間後にpCO2およびpHを測定した。この時,測定は各検体につき1回実施した。
5) 統計処理保冷時間別でのpCO2およびpHの経時的変化の評価には重回帰分析を用いた。pCO2またはpHを目的変数とし,保冷時間(連続変数),検体保存方法(対照群,直接保冷群,ビニール袋保冷群)および保冷時間と保存方法との交互作用項を説明変数とした。なお,検体保存方法は対照群を基準カテゴリとしてダミー変数とした。各保冷時間毎に個別の検体保存容器を用いたため,観測値は独立した測定値として取り扱い,有意水準はp < 0.05とした。
凍結前にpCO2 26.2 mmHg,pH 7.530であった血漿検体およびpCO2 20.0 mmHg,pH 7.745であった血清検体について,対照群ではいずれの検体保存容器においても保冷時間10時間まで経時的な変動は認められなかった(いずれもp > 0.05)(Figure 2)。

これに対して直接保冷群では検体保存容器Aの血漿検体および血清検体のいずれにおいても保冷時間の延長に伴いpCO2上昇およびpH低下を認めており,検体保存容器Cでは6時間目と10時間目の血漿検体でpCO2上昇およびpH低下を認めた(Figure 3)。一方,ビニール袋保冷群ではいずれの検体保存容器であっても対照群と同様に保冷時間10時間までpCO2やpHの経時的な変動は認めなかった(Figure 4)。


検体保存容器Aにおける保冷時間と直接保冷との相互作用は血漿検体ではpCO2で有意(β = 16.38,95%信頼区間9.87–22.90,p < 0.001),pHについても有意であった(β = −0.0896,95%信頼区間−0.1389–−0.0403,p < 0.001)。また,血清検体pCO2で有意(β = 33.83,95%信頼区間28.75–38.91,p < 0.001),血清検体pHでも有意であった(β = −0.173,95%信頼区間−0.2092–−0.1377,p < 0.001)(Figure 5)。

直接保存群でドライアイスから検体へのCO2溶け込みが示唆されたA社の検体保存容器を使用した場合,ドライアイス入り発泡スチロールボックス内に10時間直接保存した血漿あるいは血清のpCO2およびpHは,室温解凍後2時間経過しても凍結前の値には戻らなかった(Figure 6)。

日本衛生検査所協会の掲げる検査前工程の標準化ガイドライン第2版8)では,検体搬送時には検体変質による検査への影響が起きないよう,温度,振動,遮光等の条件について管理手順を設けるよう規定され,適切な処理と保存が求められている。また,遠心分離後の血漿または血清を凍結状態で搬送する場合のドライアイス使用についても触れられている。
血漿および血清の保存温度による検査結果値の変化については過去の研究でも示されており9)~11),検体搬送時の保冷にはドライアイスが必要と考えられる8),12)。一方,血漿をドライアイスでの直接保冷環境にて保存した場合,ドライアイス由来のCO2が検体に溶け込むことでpHが低下することが示されている6)。また,Odsæterらの報告7)では,血漿を用いる一部の検査項目では検体pH低下が検査結果に影響することが実験的に示されている。
今回の検討では,重回帰分析により検体保存容器Aにおける保冷時間と直接保冷との相互作用について各検体共にpCO2増加とpH低下に有意性を認めたが,その原因として検体保存容器の蓋の形状の違いが示唆された。Figure 7に示すように,検体保存容器Aでは蓋外れを防止する構造ではあるものの,返し構造のある検体保存容器Bと比較して密閉性は低いと考えられた。また保存容器Bは硬質樹脂製であることも閉栓時の密閉性に寄与していると考えられた。なお,保存容器Bと保存容器Cの蓋形状は類似しているが,保存容器Cは保存容器Aと同様にポリプロピレン製であることから保存容器Bに比べて閉栓時の密閉性が低く,直接保冷6時間後および10時間後のpCO2増加およびpH低下を来したと考えられた。

保存容器Cでは直接保冷した血漿および血清の一部の時点でpCO2増加およびpH低下を認めたものの,時間経過に伴う傾向は認められなかった。直接保冷の血漿検体では8時間後よりも6時間後のpCO2増加およびpH低下を来し,直接保冷の血清検体で4時間後および6時間後のpCO2増加およびpH低下が生じた。これらの変動理由については,本検討からは明らかではなく,測定値誤差や保存容器間のばらつき等が影響した可能性も考えられ,追加検討が必要である。
本検討では,血漿と比較して血清でより大きなpCO2変化を認めたが,この理由については明らかではない。血漿と血清では組成が異なることが影響した可能性も考えられるが,本検討ではその機序を検証しておらず,今後の検討課題である。
一方で,検討に用いた血漿および血清試料は,実際の生体試料とは異なる市販コントロール試料であり,試料固有の性状が影響した可能性も否定できない。また,検討に用いたサンプル数および検体保存容器の種類は限定的であり,他の試料や保存容器に対する結果の一般化には慎重な解釈が必要である。今後は実検体を用いた検討や対象とする保存容器の拡大による追加検討が必要と考えられた。
今回の検討ではドライアイス直接保冷下で保存容器Aで増加したpCO2およびpHの値は検体解凍後2時間経過しても凍結前のレベルに戻らないことが判明したが,ビニール袋で被覆時にはいずれの保存容器でもpCO2およびpHの変化を認めなかったことから,ドライアイス由来CO2が充満した環境と検体との遮断はビニール袋1枚で十分可能であり,実検体における検査管理上でも重要な対策である可能性が示唆された。
ドライアイスを用いた凍結検体の保冷および検体搬送時は,ドライアイス由来のCO2が充満する環境と検体を遮断し,検体へのCO2溶け込みおよびpHの変化を防止することが重要と考えられた。
本論文に関連して,著者が開示すべき利益相反(COI)はありません。