2026 年 75 巻 4 号 p. 803-810
脂質好性菌であるMalassezia属菌やCorynebacterium属菌は,カテーテル関連血流感染症などの原因菌となるが,通常の培地では発育が不良である。本研究では,界面活性剤Tween 80の添加がこれらの菌の発育に及ぼす影響を検討した。羊血液寒天培地およびGAM半流動高層培地を用い,Tween 80添加量(未添加,1滴,2滴)による発育能を比較した。試験菌はStaphylococcus aureus,Escherichia coli,Pseudomonas aeruginosa,Candida parapsilosis(以下,一般細菌・真菌),およびCorynebacterium kroppenstedtii,Corynebacterium macginleyi,Malassezia furfur(以下,脂質好性菌)とした。評価はミスラ法,増菌培養後の発育能および形態学的特徴の観察で行った。一般細菌・真菌4菌種において,Tween 80添加による発育能やコロニー形態への影響は認められなかった。一方,脂質好性菌では添加群で明らかな発育促進を認めた。特にM. furfurは,増菌培地中の微量脂質で増殖したものの,平板培地でのコロニー形成にはTween 80の直接添加(1滴:約20 μL)が不可欠であった。Tween 80添加法は,既存の検査系を阻害することなく脂質好性菌の検出向上と検査期間短縮を可能にする。増菌過程から平板培地への接種に至る一連の工程に本法を導入することは,臨床検査において有用である。
Lipid-dependent bacteria such as Malassezia species and lipid-requiring Corynebacterium species are known pathogens in catheter-related bloodstream infections (CRBSI). However, these organisms often exhibit poor growth on conventional culture media, making their detection challenging. This study evaluated the effects of Tween 80 supplementation on the growth of these lipid-dependent species as well as common clinical isolates (non-lipid-dependent species). Growth was compared using sheep blood agar and Gifu Anaerobic Medium (GAM) semi-solid agar supplemented with varying amounts of Tween 80 (none, 1 drop, or 2 drops). The test strains included Staphylococcus aureus, Escherichia coli, Pseudomonas aeruginosa, and Candida parapsilosis (non-lipid-dependent species), as well as Corynebacterium kroppenstedtii, Corynebacterium macginleyi, and Malassezia furfur (lipid-dependent species). Evaluations were performed using the Miles and Misra method and by observing the growth capacity and morphological characteristics after enrichment culture. For the four non-lipid-dependent species, Tween 80 supplementation had no adverse effects on growth capacity or colony morphology. In contrast, significant growth promotion was observed in the lipid-dependent species in the presence of Tween 80. Notably, while M. furfur showed slight proliferation using trace lipids in the GAM medium, the direct addition of Tween 80 (1 drop: approx. 20 μL) to the solid agar was essential for visible colony formation. The Tween 80 supplementation method enhances the detection of lipid-dependent bacteria and shortens the turnaround time without interfering with existing clinical laboratory systems. Implementing this method across the entire workflow is highly effective for improving clinical diagnostic accuracy.
非イオン界面活性剤であるTween 80(ポリソルベート80)は,ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルに分類され,細胞溶解や核単離,細胞分画など幅広い用途で利用されている。微生物学領域においては,Malassezia属菌や脂質好性Corynebacterium属菌の脂肪酸源となり,菌の増殖を促進させることが知られている1),2)。
Malassezia属菌は癜風や脂漏性皮膚炎などの皮膚疾患の原因菌となる一方,脂肪製剤投与に関連したMalassezia furfurによるカテーテル関連血流感染症(catheter–related bloodstream infection; CRBSI)も報告されている3)。Corynebacterium属菌においてもCorynebacterium kroppenstedtiiによる乳腺炎の報告4)や,Corynebacterium macginleyiによる細菌性角膜炎への関与が報告5)されている。しかし,乳腺炎ではStaphylococcus aureus,CRBSIにおいてはS. aureusに加えてCNS(coagulase negative Staphylococcus)やEscherichia coli,Pseudomonas aeruginosaなどのグラム陰性桿菌,およびCandida属菌といった一般細菌・真菌が原因菌の多くを占める6)。したがって,脂質好性菌の検出を目的としてTween 80を添加する場合,これらの主要な原因菌の発育への影響を評価する必要がある。そこで,Tween 80の添加が各種細菌および真菌の発育に及ぼす影響を検討した。
脂質好性菌として,M. furfur ATCC 14521,C. kroppenstedtii(臨床分離株),C. macginleyi(臨床分離株),一般細菌・真菌としてS. aureus ATCC 43300,E. coli ATCC 25922,P. aeruginosa ATCC 27853,C. parapsilosis ATCC 22019を使用した。標準菌株はKWIK-STIK(Microbiologics)を使用した。
2. 方法凍結保管している上記菌株を羊血液寒天培地(極東製薬工業株式会社,東京)に接種し,S. aureus,E. coli,P. aeruginosa,C. parapsilosisは大気条件で35℃・24時間培養した菌株,C. kroppenstedtii,C. macginleyiは,大気条件で35℃・72時間培養した菌株,M. furfurはTween 80を培地に滴下し,大気条件で35℃・120時間培養した菌株を使用した。
1) 菌液の調製,生菌数の補正0.9%生理食塩水1 mLに被検菌を懸濁し,標準菌濁度液A(栄研化学株式会社,東京)を対照として比濁法でMcFarland 0.5に調製した。この菌液を原液とし,10倍段階希釈による6段階の希釈系列(菌液1~菌液6)を調製し,一般細菌は108~103 CFU/mL,真菌は106~10 CFU/mLの濃度に設定した。生菌数は,調製した菌液を羊血液寒天培地に50 μL接種し前述の条件下で培養後,培地上のコロニーが計数できる希釈倍率のコロニー数から補正を行った。
2) Tween 80滴下量の算出Tween 80(株式会社スギヤマゲン,東京)は遮光スポイト瓶に封入されており,添付文書に1滴あたりの滴下量の記載がなかった。そのため,校正された電子天秤を用いて滴下された液滴の平均重量を測定し,既知の比重から1滴あたりの容量を算出した。
3) 平板培地でのTween 80添加による発育への影響羊血液寒天培地を使用し,Tween 80の添加量(未添加,1滴,2滴)が菌の発育に及ぼす影響を検討した。Tween 80添加群には所定量を培地表面に滴下後,ディスポーザブルループ(Copan, Italy)で均一に塗布し,培地表面のTween 80が乾くまで10分程度静置した。菌の発育評価はミスラ法7)に準拠した。培地を6分画し,10倍段階希釈液を各分画に10 μLずつ滴下して,35℃,大気条件で培養を行った(Figure 1)。判定は,菌種ごとの発育速度に基づき以下の通り実施した。S. aureus,E. coli,P. aeruginosa,C. parapsilosisは24時間および48時間後,C. kroppenstedtii,C. macginleyiは48時間および72時間後,M. furfurは72時間および120時間後に判定した。

McFarland 0.5の濁度は,一般細菌で1~2 × 108 CFU/mL,真菌では1~5 × 106 CFU/mLに相当するため,滴下する菌液濃度は一般細菌で108 CFU/mL~103 CFU/mL,真菌で106 CFU/mL~10 CFU/mLとなる。
アキュディアGAM半流動高層培地(島津ダイアグノスティクス株式会社,東京)を用いて,半流動高層培地においてTween 80の添加量(未添加,1滴,2滴)が菌の発育に及ぼす影響を検討した。Tween 80を添加(1滴,2滴)したGAM半流動高層培地10 mLはボルテックスミキサーで撹拌後,Tween 80を均一に溶解させるため大気条件下において35℃で1時間静置した。これらの培地へ,グラム染色の検出感度以下に相当する103 CFU/mLに調製された菌液を1 mL接種し,35℃の大気条件下で増菌培養を行った。判定は,S. aureus,E. coli,P. aeruginosa,C. parapsilosisは48時間後,C. kroppenstedtii,C. macginleyiは72時間後,M. furfurは120時間後に実施した。培養後,増菌した菌液を1 mL回収し,羊血液寒天培地に10 μL接種した。なお,接種量および画線操作のばらつきを除外し,定量的な評価を行うため,増菌した菌液の接種は微生物検体処理システムWASP(Copan,Italy)を使用した。判定は,S. aureus,E. coli,P. aeruginosa,C. parapsilosisは48時間後,C. kroppenstedtii,C. macginleyiは72時間後,M. furfurは120時間後に実施した。
各菌種の補正濃度は,S. aureus 5.50 × 108~5.50 × 103 CFU/mL,E. coli 2.50 × 108~2.50 × 103 CFU/mL,P. aeruginosa 5.24 × 108~5.24 × 103 CFU/mL,C. kroppenstedtii 1.90 × 106~1.90 × 10 CFU/mL,C. macginleyi 3.70 × 106~3.70 × 10 CFU/mL,C. parapsilosis 5.10 × 106~5.10 × 10 CFU/mL,M. furfur 1.30 × 106~1.30 × 10 CFU/mLであった(Table 1)。
| 菌液1 | 菌液2 | 菌液3 | 菌液4 | 菌液5 | 菌液6 | ||
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 設定濃度(CFU/mL) | 一般細菌 | 108 | 107 | 106 | 105 | 104 | 103 |
| 真菌 | 106 | 105 | 104 | 103 | 102 | 101 | |
| 補正濃度(CFU/mL) | S. aureus | 5.50 × 108 | 5.50 × 107 | 5.50 × 106 | 5.50 × 105 | 5.50 × 104 | 5.50 × 103 |
| E. coli | 2.50 × 108 | 2.50 × 107 | 2.50 × 106 | 2.50 × 105 | 2.50 × 104 | 2.50 × 103 | |
| P. aeruginosa | 5.24 × 108 | 5.24 × 107 | 5.24 × 106 | 5.24 × 105 | 5.24 × 104 | 5.24 × 103 | |
| C. kroppenstedtii | 1.90 × 106 | 1.90 × 105 | 1.90 × 104 | 1.90 × 103 | 1.90 × 102 | 1.90 × 10 | |
| C. macginleyi | 3.70 × 106 | 3.70 × 105 | 3.70 × 104 | 3.70 × 103 | 3.70 × 102 | 3.70 × 10 | |
| C. parapsilosis | 5.10 × 106 | 5.10 × 105 | 5.10 × 104 | 5.10 × 103 | 5.10 × 102 | 5.10 × 10 | |
| M. furfur | 1.30 × 106 | 1.30 × 105 | 1.30 × 104 | 1.30 × 103 | 1.30 × 102 | 1.30 × 10 |
計10回の測定の結果,平均重量は0.023 ± 0.00081 gであった。製品の安全データシートに記載された比重(1.08 g/mL, 20℃)に基づき算出した結果,1滴あたりの容量は21.3 μLとなった。
3) 平板培地でのTween 80添加による発育への影響S. aureus,E. coli,P. aeruginosaおよびC. parapsilosisについて,培養24時間および48時間における発育状況とコロニーサイズを比較した結果,Tween 80未添加群と各添加群(1滴,2滴)との間で,菌の発育能および形態学的特徴に差を認めなかった。一方,脂質好性菌であるC. kroppenstedtii,C. macginleyiおよびM. furfurでは,Tween 80未添加群と比較し添加群で明らかなコロニーサイズの増大を認めた(Table 2)。また,M. furfurにおいては,Tween 80未添加群ではコロニーの発育が認められなかったのに対し,添加群では発育を確認した。なお,Tween 80を添加したすべての平板培地において,溶血現象が確認された(Figure 2)。
| コロニーサイズ(mm) | ||||||
|---|---|---|---|---|---|---|
| C. kroppenstedtii | C. macginleyi | M. furfur | ||||
| Tween 80 | 培養48時間 | 培養72時間 | 培養48時間 | 培養72時間 | 培養72時間 | 培養120時間 |
| 未添加 | < 0.05 | 0.05–1 | < 0.05 | 0.05 | 未発育 | 未発育 |
| 1滴 | 0.05–1 | 2–3 | 0.05–1.5 | 1–2 | < 0.05 | 1–2 |
| 2滴 | 0.05–1 | 2–3 | 0.05–1.5 | 1–2 | < 0.05 | 1–2 |
脂質好性菌のコロニーサイズは,Tween 80未添加群と比較し添加群で明らかな増大を認めた。

培地上部から時計回りに菌液1,菌液2…菌液6を滴下した。一般細菌・真菌の発育への影響は認めなかった。脂質好性菌ではTween 80添加によるコロニーの増大を認めた。
通性嫌気性菌であるS. aureus,E. coliはTween 80未添加群,各添加群(1滴,2滴)のいずれにおいてもGAM半流動増菌培地全体に良好な発育を認めた。一方,偏性好気性菌であるP. aeruginosa,C. parapsilosisは,いずれの群においても培地上層部に良好な発育を認めた。これら4菌種について,増菌後の菌液(Tween 80未添加群,各添加群)を羊血液寒天培地へ接種し48時間培養した結果,菌の発育能および形態学的特徴に明らかな差を認めなかった(Figure 3)。

一般細菌・真菌の発育への影響は認めなかった。
C. kroppenstedtiiおよびC. macginleyiは,Tween 80未添加群と比較し添加群において,濁りを伴う明らかな増菌を認めた。しかし,増菌後の各菌液を羊血液寒天培地へ接種し72時間培養した結果,菌の発育能および形態学的特徴に明らかな差を認めなかった。一方,M. furfurは,Tween 80未添加群において目視で確認可能な程度のわずかな増菌を認めたのに対し,添加群では著明な濁りを伴う増菌を認めた。しかし,増菌後の各菌液を羊血液寒天培地へ接種し120時間培養したところ,いずれの群においてもコロニーの発育を認めなかった。そこで,羊血液寒天培地表面にTween 80を1滴滴下後に菌液を接種した結果,120時間培養でコロニーの発育を認めた(Figure 4)。

脂質好性菌ではTween 80添加により半流動高層培地において良好な増菌を認めたが,未添加群と添加群とで平板培地での発育および形態学的特徴に明らかな差を認めなかった。M. furfurではTween 80により半流動高層培地で良好な増菌を認めたが,平板培地には再度Tween 80を添加する必要があった。
本研究の結果,脂質好性菌の迅速かつ確実な検出において,Tween 80の添加が有用であることが示された。脂質好性菌の発育促進効果について,Riegelら8)はC. kroppenstedtiiの集落形成には通常2–3日を要するが,1%のTween 80を添加したTrypticase Soy寒天培地を用いることで,24時間でコロニー形成を認められたと報告している。本検討においても,ミスラ法による48時間培養後のコロニーサイズは,未添加群と比較して明らかに大きく発育し,先行研究と同様に増殖促進効果を認めた。C. macginleyiにおいても村上らの報告9)と同様にTween 80添加培地で良好な発育を認めた。また,添加群でのコロニーサイズに差を認めなかったことから平板培地へのTween 80の滴下量は1滴(21.3 μL)で必要十分であると考えられた。しかし,グラム染色でMalassezia属菌を疑う菌を認めたにもかかわらず,Tween 80添加培地に発育を認めない場合はM. restrictaやM. globosaといったTween 80利用能を有さない菌種の可能性を考慮し,選択培地を用いた検査の実施を検討する必要がある。一方で,一般細菌・真菌であるS. aureus,E. coli,P. aeruginosa,C. parapsilosisの発育能やコロニー形態に影響が認められなかったことから,臨床検体中に一般細菌・真菌および脂質好性菌が混在する場合でも,一般細菌・真菌の発育に阻害を与えず,検出が可能であることが示唆された。ただし,非イオン界面活性剤であるTween 80添加により赤血球の脂質二重膜が破壊されるため,血液寒天培地において溶血が生じる。そのため,溶血性を特徴とする菌種の観察においては判定に苦慮する可能性がある点に注意が必要である。
半流動高層培地を用いた検討においても,一般細菌・真菌の発育に影響は認められなかった。一方,M. furfurは増殖に脂質を必要とするため,脂質成分を含有しないGAM半流動高層培地では発育しないと思われたが,Tween 80未添加群においても目視で確認可能な程度のわずかな増菌が認められた。これは,GAM半流動高層培地中の消化血清末に含まれる微量な脂質成分(中性脂肪,コレステロール,リン脂質,遊離脂肪酸)がTween 80未添加条件下における発育を支持したと推察される。また,増菌後の菌液を接種した平板培地において,C. kroppenstedtiiおよびC. macginleyiでは未添加群,各添加群のコロニーサイズに差を認めなかったこと,M. furfurでは発育を認めず,Tween 80を再度添加する必要があったことから,脂質好性菌を対象とした増菌培養の運用においては,増菌過程だけでなく,その後の平板培地への接種時にもTween 80を添加することが検査時間の短縮,検出率の向上に不可欠であることを示している。
また,今回使用したTween 80は遮光瓶に付属の滴下用スポイトを使用して培地へ滴下した。非イオン界面活性剤であるTween 80は粘性が高く表面張力が低いため,標準的なポリプロピレン製チップを用いた正確な分注は困難である。これに対し,スポイトによる滴下法は一定量を簡易かつ安定して添加する上で有用であった。なお,本検討で算出した1滴量(21.3 μL)未満の微量を添加する際には,液残りを最小限に抑える低吸着チップ(シリコンコーティングチップなど)の使用が必須であると考えられる。
本研究において,平板培地および半流動高層培地へのTween 80添加は,一般細菌・真菌の発育や形態学的特徴に影響を及ぼすことなく,脂質好性菌に対して顕著な増殖促進効果を示すことが実証された。特に脂質好性菌の検出においては,半流動高層培地での増菌過程だけでなく,その後の平板培地への接種時にもTween 80を1滴(約20 μL)添加することが,確実なコロニーの発育と検査時間の短縮において極めて重要となる。本手法は,既存の培地への滴下および添加という簡便な操作であり日常検査でも取り組みやすい方法である。
以上のことから,CRBSIや肉芽腫性乳腺炎などが疑われる臨床検体において,本法をルーチン検査に組み込むことは脂質好性菌の検出率向上と迅速な結果報告に大きく寄与するものと考えられた。
本論文に関連して,著者が開示すべき利益相反(COI)はありません。