2026 年 75 巻 4 号 p. 735-742
心臓超音波検査は,心臓解剖の理解と正確なプローブ操作が不可欠である。初学者にとって三次元構造を超音波画像として把握することは難しく,描出技術の習得には時間を要する。本研究では,学生および初学者を対象とした心エコートレーニング用ファントムを開発し,基本断面の描出性能および教育ツールとしての有用性を検討した。開発した心臓モデルは,ヒト心臓から型取りされた心臓模型をコンピュータ断層撮影(CT)により撮影し,画像データから3Dプリンタを用いて製作した。作成したファントムの描出性能を評価するため,心エコー検査を実施している臨床検査技師5名が評価者として,各断面の描出しやすさを5段階リッカート尺度にて評価した。初期モデルの1次評価では,心臓周囲の素材量が多くプローブ操作が困難であり,特に心尖部四腔断面が斜めに描出されるとの指摘があった。これらの結果を踏まえ,心臓周囲素材の削減および形状調整を行い,改良モデルを製作して同一評価者による2次評価を実施した。その結果,心尖部四腔断面はより直線的に描出され,心尖部長軸断面および二腔断面も概ね良好に描出可能となった。一方で,乳頭筋や腱索などの構造再現に関する課題が指摘された。本ファントムは複数の基本断面を再現可能であり,反復学習を可能とすることから,心エコー検査の基本手技習得およびスキル維持に向けた教育ツールとして活用できる可能性が示唆された。
Echocardiography requires a thorough understanding of cardiac anatomy and accurate probe manipulation. However, beginners often find it challenging to interpret three-dimensional (3D) cardiac structures as two-dimensional ultrasound images, and acquiring these skills requires considerable time. This study developed an echocardiography training phantom for students and beginners and evaluated its imaging performance for standard views and its potential educational applicability. The cardiac model was created by scanning a cast of the human heart using computed tomography (CT). 3D data were reconstructed from CT images, and the model was fabricated using a 3D printer. Five clinical laboratory technologists experienced in echocardiography evaluated the ease of visualization of each standard view using a 5-point Likert scale. In the first evaluation, excessive surrounding material made probe manipulation difficult, and the apical four-chamber view was obliquely visualized. Therefore, the surrounding material was reduced and the model shape was adjusted. In the second evaluation, the apical four-chamber view was visualized more accurately, whereas the apical long-axis and two-chamber views were well visualized. However, limitations remain in reproducing anatomical structures, such as the papillary muscles and chordae tendineae. This phantom enabled the reproduction of multiple standard echocardiographic views and allowed repeated practice without time or location constraints. Therefore, it may have potential utility as a training model for basic echocardiography.
心臓超音波検査(以下,心エコー検査)は,心機能評価に不可欠な非侵襲的検査法として,臨床現場で広く用いられている。心エコー検査では,心臓の三次元構造および心周期に伴う動態を理解したうえで,二次元超音波画像として適切な断面を描出する高度な技術が求められる1)。特に,心尖部四腔像やドプラ法の習得には,立体的な心臓解剖の理解と正確なプローブ操作が不可欠である。初学者にとって心臓の三次元構造を超音波画像として把握することは難しく,描出技術の習得に時間を要することが報告されている2)~6)。
医療分野ではシミュレーション教育の重要性が高まり7),安全な環境下で超音波検査技術を反復して学習できる手法として,超音波ファントムを用いたトレーニングが注目されている4),8)。ファントムを用いた教育は,学習者の技能向上と被検者への負担軽減を同時に実現できる点で有用であり9),超音波教育における重要なトレーニング手法とされている10)。既存の超音波教育用ファントムの多くは血管穿刺や基本的な超音波操作訓練を目的としており,心臓解剖や標準的な心エコー断面を十分に再現できるモデルは国内では十分に開発されていない。また,医療系学生の多くは,在学中に心エコー検査の実技を十分に経験する機会が限られており,理論教育を修了しても臨床現場で求められる描出技術が十分に身に付かないことが指摘されている2),6),11)。
また,教育現場では,心臓に特化した超音波ファントムが十分に実用化されていないことから,学生同士が被検者となる実習が主流となっている。一方で,胸部の露出に対する心理的抵抗により被検者役の協力が得られない場合があり,実習時間の不足や被検者役の偏りといった問題が生じやすい。その結果,描出練習の機会が十分に確保できず,技能習得の妨げとなる可能性がある。さらに臨床現場の初学者がトレーニングを行う場合においても,被検者となる同僚が確保できず,練習機会が限られる場合がある。これらの課題を解決するためには,トレーニング環境や被検者条件に依存せず,心エコーの基本断面を安全に反復して学習できる,心エコー検査に特化した教育用トレーニングファントムの整備が重要である。心臓の解剖学的構造を理解しながら,プローブ操作と画像描出の関係を視覚的に学習できるファントムは,初学者の描出技術向上に寄与すると考えられる。本研究では,学生および初学者を対象とした心エコートレーニング用ファントムを開発し,基本断面の描出性能を予備的に評価し,教育ツールとしての応用可能性を検討した。
本研究で用いた心エコーファントムの初期モデルは,既報12)の研究において開発されたものである。初期モデルは,経胸壁心エコー検査における複数のアプローチ法の学習を目的として設計された。設計にあたっては,心エコー検査ガイドライン13)を参考に,株式会社京都科学に製作を依頼した。心臓モデルの作成には,ヒト心臓から型取りされた心臓模型をコンピュータ断層撮影(CT)により撮影し,その画像データから三次元(3D)データを抽出した。このデータを基に3Dプリンタを用いて心臓モデルを製作した(Figure 1a)。素材には人体と同等の音響特性を有する樹脂素材(ウレタンエラストマー樹脂+有機系フィラー:株式会社京都科学,2005年2月特許取得)を使用した。なお,本研究で用いた心臓モデルは,心周期のうち収縮期の形態を基に作成された固定モデルである。ファントムの開発およびユーザビリティ評価が行われ,System Usability Scale(SUS)の平均スコアは68.6点であり,可用性基準(68点以上)を満たす結果が報告されている14)。本研究では,この初期モデルを基に描出性能の改善を目的とした改良を行い,改良前後の比較評価を実施した。

(a) Cardiac model fabricated using a 3D printer.
(b, c) External appearance of the phantom with the cardiac model embedded in a resin material with acoustic properties similar to those of human tissue. (b) Top view; (c) Right lateral view. Dotted lines indicate the portions of material removed for the second evaluation.
本研究では,作成したファントムの描出性能を評価するため,臨床または教育現場において心エコー検査を実施している臨床検査技師5名を評価者とした。評価者自身がファントムに対してプローブ操作を行い,各断面を描出したうえで,描出画像を評価した。画像描出者と評価者は同一人物であり,第三者による別途評価は行っていない。また,1次評価および2次評価は同一の5名が実施した。超音波描出には超音波診断装置Xario100(キヤノンメディカルシステムズ株式会社)および2.5–5 MHzのセクタプローブを使用した。
1) 1次評価(初期モデルの描出評価)初期モデルに対して1次評価を実施した。評価対象の心エコー基本断面は,左室長軸断面,左室短軸断面(大動脈弁レベル,乳頭筋レベル,心尖レベル),心尖部長軸断面,心尖部二腔断面,心尖部四腔断面,大動脈弓部長軸断面とし,各断面の描出しやすさについて評価を行った。評価項目である「描出しやすさ」は,初学者が基本断面を学習するうえで必要な画像が得られるかを総合的に評価する指標とした。具体的には,①目標断面までのプローブ操作のしやすさ,②標準的断面として認識可能な画像の得やすさ,③教育教材として反復練習に活用しやすいこと,を総合的に判断し,5段階リッカート尺度15)を用いて評価した。回答は「大変満足(5)」から「大変不満(1)」までの5段階とした。なお,描出が困難で断面が確認できない場合には「描出不能」と記録した。
2) モデル改良1次評価の結果および自由記述を基にモデルの形状改良を行った。主な改良点は,周囲素材の一部を削減し,心臓モデルと周囲媒質との位置関係を調整した点である。具体的には,心尖部方向および前胸壁側を中心に心臓周囲素材の体積を減少させ,プローブ接触面から心臓モデルまでの距離を短縮することで,より臨床的な描出角度が得られるよう設計を変更した。Figure 1b, cの点線部分を削減した。なお,心臓本体の形状および内部構造については変更を加えず,周囲媒質のみを調整対象とした。
3) 2次評価(改良モデルの描出評価)改良後のモデルについて,初期モデルと同一条件下,同一評価者5名で心エコー描出を実施し,2次評価を行った。
統計解析は,描出評価の各断面の評価スコアについて平均値および標準偏差(standard deviation; SD)を算出した。探索的解析として,1次評価と2次評価の比較にはWilcoxonの符号付順位検定(Wilcoxon signed-rank test)を実施した。少数例による予備的検討であるため,結果は自由記述とあわせて,傾向の把握を中心に解釈した。統計学的有意水準はp < 0.05とした。統計解析にはJASP(version 0.16.0)を使用した。
評価対象者は,臨床検査技師5名であり,年代構成は20代1名,30代2名,50代2名であった。心エコー経験年数は平均10.8年(SD 12.0年)であった。内訳は,経験1年が2名,2年が1名,20年が1名,30年が1名であった。なお,50代の2名はいずれも心エコー検査の熟練者であり,うち1名は日本超音波医学会認定超音波検査士(循環器領域)の資格を有していた。もう1名は過去に同資格を保有していたが,現在は更新失効している。
2. 1次評価(初期モデル)ファントムの描出画像に関する1次評価では,胸骨左縁アプローチ(左室長軸断面)は4.0(1.3),左室短軸断面(大動脈弁レベル)は3.2(1.0),心尖部四腔断面は3.8(1.6),胸骨上窩アプローチ(大動脈弓部長軸断面)は4.4(0.8)であった(Table 1)。自由記述では,「心尖部四腔像が斜めに描出される」「心臓周囲の素材量が多くプローブ操作が困難」「心尖部から四腔断面,二腔断面,三腔断面が明瞭に描出できるとよい」などの意見が挙げられた。自由記述はカテゴリー別に整理しTable 2に示した。これらの結果を踏まえ,心臓周囲素材の削減および形状調整を行い,モデルの改良を実施した。
| Echocardiographic view | First evaluation (scores)* | Second evaluation (scores)* | p-value** | ||||||||||
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| Reviewer | Mean (SD) | Reviewer | Mean (SD) | ||||||||||
| 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | ||||
| Long-axis view | 3 | 5 | 5 | 5 | 2 | 4.0 (1.3) | 4 | 5 | 5 | 4 | 4 | 4.4 (0.5) | 0.586 |
| Parasternal short-axis view at the aortic valve level | 2 | 4 | 4 | 4 | 2 | 3.2 (1.0) | 4 | 4 | 5 | 4 | 4 | 4.2 (0.4) | 0.174 |
| Parasternal short-axis view at the papillary muscle level | Not obtainable | — | 3 | 4 | 3 | 4 | 3 | 3.4 (0.5) | — | ||||
| Parasternal short-axis view at the apical level | Not obtainable | — | 4 | 5 | 5 | 5 | 4 | 4.6 (0.5) | — | ||||
| Apical long-axis view | Not obtainable | — | 5 | 5 | 5 | 5 | 4 | 4.8 (0.8) | — | ||||
| Apical 2-chamber view | Not obtainable | — | 5 | 5 | 5 | 5 | 3 | 4.6 (0.4) | — | ||||
| Apical 4-chamber view | 3 | 5 | 5 | 5 | 1 | 3.8 (1.6) | 5 | 5 | 5 | 5 | 4 | 4.8 (0.4) | 0.371 |
| Aortic arch long-axis view | 4 | 5 | 5 | 5 | 3 | 4.4 (0.8) | 3 | 4 | 4 | 4 | 4 | 3.8 (0.4) | 0.233 |
*Ease of visualization was rated using a 5-point Likert scale ranging from “very satisfied (5)” to “very dissatisfied (1).”
**The Wilcoxon signed-rank test was used to compare the two evaluations. Statistical comparisons were performed only for views obtainable at both evaluation time points.
| Category | First evaluation | Second evaluation |
|---|---|---|
| Structural reproducibility | Visualization of the aortic valve cusps (NCC, RCC, and LCC) would be desirable. | Visualization of the aortic valve cusps (NCC, RCC, and LCC) would facilitate understanding. |
| The chordae tendineae and papillary muscles could not be sufficiently confirmed; therefore, visualization of these structures would be desirable. | Visualization of the papillary muscles would be desirable (reported by two evaluators). | |
| Reproduction of the pericardial cavity would be desirable. | Observing images during diastole as well would be desirable. | |
| Inclusion of a subcostal view would further enhance the model. | Further improvement in the visualization of the interventricular septum and valvular structures would be desirable. | |
| Shape/model design | The four-chamber view was visualized; however, it was oblique. Modification of the shape of the surrounding material would be beneficial. | The apical long-axis view was well visualized; however, angle correction was necessary. |
| Clear visualization of the apical four-chamber, two-chamber, and three-chamber views from the apical approach would be desirable. | The apical two-chamber view appeared excessively expanded in the depth dimension; a more proportionate, streamlined shape would be desirable. | |
| A rounded or spherical outer shape rather than a square shape may improve probe maneuverability. | Compared with the first evaluation, the image was visualized in a straighter orientation (reported by two evaluators). | |
| Angle correction was necessary. Further trimming of the surrounding material would be beneficial. | ||
| Educational usefulness | Suitable as a teaching material for student training. | Probe manipulation from the apical 2-chamber view to the apical 4-chamber view was easy, which was considered beneficial for learners. |
| The image was easy to interpret for learners who have difficulty with the apical approach. | ||
| Other comments | The long-axis and parasternal short-axis views gave the impression of an elderly heart with an upward leftward orientation. |
改良後の2次評価では,左室短軸断面(大動脈弁レベル,乳頭筋レベル,心尖レベル),心尖部長軸断面,心尖部二腔断面,心尖部四腔断面の描出が可能となった(Figure 2)。また,1次評価で評価を行った胸骨左縁アプローチ(左室長軸断面),左室短軸断面(大動脈弁レベル),心尖部四腔断面では統計学的有意差は認められなかったが,描出可能断面の増加および評価スコア上昇の傾向がみられた(Table 1)。

(a) Long-axis view; (b) Parasternal short-axis view at the aortic valve level; (c) Parasternal short-axis view at the papillary muscle level; (d) Parasternal short-axis view at the apical level; (e) Apical long-axis view; (f) Apical two-chamber view; (g) Apical four-chamber view; (h) Aortic arch long-axis view.
Abbreviations: LA, left atrium; LV, left ventricle; RV, right ventricle; IVS, interventricular septum; IAS, interatrial septum; MV, mitral valve; AV, aortic valve; TV, tricuspid valve; LVOT, left ventricular outflow tract; RVOT, right ventricular outflow tract; Asc Ao, ascending aorta; Desc Ao, descending aorta; BCA, brachiocephalic artery (innominate artery); LCCA, left common carotid artery; LSA, left subclavian artery; RPA, right pulmonary artery; LV apex, left ventricular apex.
2次評価の自由記述(Table 2)では,ファントム形状に関する複数の意見が得られた。また,乳頭筋や腱索の再現に関する意見が複数みられ,特に乳頭筋が描出されない点について改善の必要性が示された。心尖部アプローチに関しては,心尖部長軸断面および二腔断面の描出は概ね良好であったが,断面角度や形状の調整が必要であるとの意見がみられた。一方,心尖部四腔断面については,1次評価と比較して断面がより直線的に描出されるようになったとの評価が得られた。胸骨上窩アプローチ(大動脈弓部長軸断面)については,断面角度の調整および素材量のさらなる削減に関する意見がみられた。
4. modified Simpson method(Simpson法)による左室容積計測作成した心エコー教育用ファントムでは心尖部断面像の取得が可能であり,Simpson法による左室容積計測を実施することができた。左室内腔のトレースが可能であり,左室容積評価に必要な計測手技を再現できることが確認された(Figure 3a, b)。

(a) Apical two-chamber view used for left ventricular volume measurement with the modified Simpson method.
(b) Apical four-chamber view used for left ventricular volume measurement with the modified Simpson method.
本予備的検討では,心エコー教育用ファントムの形状改良により,描出可能断面の増加および描出評価改善の傾向が認められた。1次評価では,心臓周囲の素材量やモデル形状の影響により,プローブ操作および断面描出に制限があることが示された。特に,四腔断面の傾きや描出困難が指摘された。これらの課題を踏まえ,周囲素材の削減および形状調整を行った結果,乳頭筋レベルおよび心尖レベルの短軸断面,心尖部長軸断面,心尖部二腔断面の描出が可能となった。また,既存断面である左室長軸断面,大動脈弁レベル短軸断面,心尖部四腔断面においても評価スコアの上昇傾向が認められ,モデル改良が描出性の改善に寄与した可能性が示唆された。一方,大動脈弓部長軸断面の評価は4.4(0.8)から3.8(0.4)へ低下した。これは,大動脈弓部付近の素材については削減などの改良を行っていないため,胸骨左縁アプローチや心尖部四腔断面のように改善が認められた断面と比較して,描出性の改善が得られなかったことが影響した可能性がある。本研究の新規性として,既報で開発された初期モデルを基盤に,評価結果を踏まえて形状改良を行い,改良前後で描出性能を比較検討した点が挙げられる。さらに,一部に乳頭筋,腱索,弁尖など詳細構造の再現には課題が残るものの,心エコー基本断面を一通り描出可能な教育用モデルとして発展し得る可能性が示唆された。
心エコー教育では,プローブ操作と断面理解の習得が重要である。本研究で開発したファントムは複数の基本断面を再現でき,教育ツールとしての有用性が示唆された。近年,超音波教育においてはシミュレーション教育の重要性が指摘されており,ファントムやシミュレータを用いたトレーニングが教育効果の向上に寄与することが報告されている7)~9)。本研究で開発したファントムは,基本断面の理解およびプローブ操作の習得を目的とした教育モデルとして,初学者教育に有用なトレーニングツールとなる可能性がある。また,本ファントムは心臓の立体構造の理解にも有用であると考えられる。特に,心尖部長軸断面から心尖部二腔断面,さらに心尖部四腔断面へとプローブを回転させる操作の理解および練習に役立つ可能性がある。本ファントムは被検者を必要とせず,プライバシーにも配慮した反復可能な学習環境を提供できる点からも,心臓解剖および心エコー検査手技の理解を支援する教育教材として有用である可能性が示唆された。さらに,本ファントムではSimpson法による左室容積計測の練習も可能であった。心尖部断面像を用いて左室内腔のトレースが可能であり,左室容積評価に必要な基本的計測手技の習得に活用できる可能性が示された。Simpson法は臨床における左室容積および左室駆出率評価の基本的手法であり,初学者がその計測原理および手技を理解するためのトレーニングツールとしても有用であると考えられる。
また,シミュレーションベースの教育は,初期トレーニングのみならず,スキル保持の向上やスキル低下の防止にも有効であることが報告されている7),16)。特に初学者では,十分な反復練習が行われない場合,習得した技術スキルは時間の経過とともに低下することが指摘されている16),17)。また,臨床検査技師の業務範囲は幅広く,部署ローテーションなどにより一定期間,心エコー業務に従事しない場合,習得したスキルが低下する可能性も考えられる。このような状況において,ファントムを用いた反復トレーニングは,心エコー検査に必要なプローブ操作および断面理解の維持・向上に寄与する可能性がある。本研究で開発したファントムは,学習者が時間や場所に制約されることなく繰り返し練習できる環境を提供できる点において,スキル維持の観点からも有効な教材となる可能性がある。
本研究にはいくつかの限界がある。乳頭筋,腱索,弁尖などの詳細構造の再現性の向上に加え,胸郭構造の付与や心臓位置の調整を行うことで,より臨床に近い描出環境の再現が可能になると考えられる。また,今回製作したファントムは収縮期の心臓形態を模した固定モデルであったため,収縮期と拡張期の両モデルを再現した開発も,操作性およびリアリティの向上につながると考えられる。さらに,本研究は評価者数が少なく,結果の一般化には慎重な解釈が必要である。改良前後の評価を同一評価者が行っているため,初回評価の経験が再評価に影響した可能性がある。加えて,改良版への期待による評価の偏りや,繰り返し評価による慣れが結果に影響した可能性も否定できない。そのため,本研究で認められた評価向上が,すべてファントム改良そのものによる効果であると断定することはできない。今後は,評価者数を増やすとともに,改良前後で独立した評価者による検証や,評価対象を伏せたブラインド評価を取り入れることが必要である。さらに,学生を対象とした教育効果の検証を行うことで,心エコー教育におけるトレーニングツールとしての有効性をより明確にする必要がある。
本研究では,心エコー教育用ファントムの形状改良により,描出可能断面の増加および描出評価の向上が確認された。改良後のファントムでは複数の基本断面の描出が可能となり,心エコー検査の基本手技習得を支援する教育ツールとして活用できる可能性が示唆された。
なお,本研究は,2024年度文京学院大学共同研究助成の支援を受けて実施した。本論文の一部は第19回日本臨床検査学教育学会学術大会(2025年8月,岡山市)で発表した。また,本研究は文京学院大学保健医療科学研究倫理委員会の承認を得て実施した(承認番号2023-0016)。
本論文に関連して,著者が開示すべき利益相反(COI)はありません。