医学検査
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技術論文
トロンビン・アンチトロンビン複合体(TAT)測定における偽高値発生の原因究明
箕浦 直人, 岡田 悠生, 鈴木 誠也, 阪田 菜穂, 神藤 洋次, 松岡 孝昭
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2026 年 75 巻 4 号 p. 829-833

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Abstract

【目的】当院においてトロンビン・アンチトロンビン複合体(TAT)測定時に,初回値と希釈再検値で大きな乖離を示す偽高値事例が散発した。本検討では,当院で発生したTAT測定における偽高値事例について,発生要因をプレアナリティカルおよび測定系の両面から系統的に検証し,原因を特定するとともに,再発防止策を構築することを目的とした。【方法】全自動血液凝固測定装置CN-6000を用い,偽高値が発生した事象に対して,機器の同時再現性試験,キャリーオーバー(コンタミネーション)試験,回避洗浄設定の検討,および採血管キャップの状態(開栓・リキャップ)による影響を検証した。【結果】プール血漿の同時再現性(CV 5%以下)およびキャリーオーバー(コンタミネーション)試験では異常を認めなかった。しかし,採血管キャップを開栓して測定したところ偽高値が解消され,再度リキャップして測定すると偽高値が再現された。【結論】偽高値の主因は,採血管キャップ外側に付着した残存血液がピアッシング時に検体内に混入したことであった。対策として,キャップ残血の除去確認,ピアッシング回数の制限,および必要に応じた開栓測定の実施が有効である。

Translated Abstract

Thrombin–antithrombin complex (TAT) is a sensitive biomarker reflecting coagulation activation and is widely used in the diagnosis and monitoring of disseminated intravascular coagulation and other acute conditions. In our institution, sporadic cases of falsely elevated TAT values were observed, characterized by marked discrepancies between initial measurements and diluted re-test results. This study aimed to identify the cause of these discrepancies and establish preventive measures. We investigated potential analytical and preanalytical factors using a CN-6000 automated coagulation analyzer. The evaluation included reproducibility testing, carryover assessment, washing protocol optimization, and the effect of blood collection tube cap conditions (closed, opened, and recapped). Reproducibility and carryover tests showed no abnormalities. However, falsely elevated values disappeared when samples were measured after removing the tube cap and reappeared when the cap was reattached. These findings indicate that the primary cause of falsely elevated TAT levels was contamination from residual blood adhering to the outer surface of the tube cap, which entered the sample during the piercing process. Given the high sensitivity of TAT to minimal coagulation activation, even small amounts of contamination can significantly affect results. To prevent recurrence, it is important to ensure removal of residual blood from tube caps, limit the number of piercing events, and consider open-cap measurement when abnormal values are obtained. This study highlights the critical impact of preanalytical factors in coagulation testing and emphasizes the need for careful specimen handling.

I  序・目的

トロンビン・アンチトロンビン複合体(thrombin-antithrombin complex; TAT)は,凝固系の活性化を反映する分子マーカーであり,播種性血管内凝固(disseminated intravascular coagulation; DIC)や敗血症などの急性期疾患における診断および病態把握において重要な指標である1)。TATはトロンビン生成の直接的な指標となる一方,その血中半減期は10~15分と短く,採血手技や検体の取り扱いによる影響を受けやすいことが知られている2),3)。

本検討では,当院で散発した「初回測定で異常高値を示すが,用手による希釈再検では著しく低下する」TAT偽高値事例について,原因を系統的に切り分け,再発防止策を検討することを目的とした。

II  方法

1. 使用機器・試薬

検体の搬送および自動遠心にはIDS-CLAS X-1(株式会社アイディエス)を,測定には自動血液凝固測定装置CN-6000(シスメックス株式会社)を使用した。測定試薬はLPIAジェネシスTAT(PHCホールディングス株式会社)を用いた。使用採血管はニプロ社製の真空採血管(クエン酸ナトリウム3.2%添加)を使用した。凝固検査用検体は一般にクエン酸ナトリウム3.2%(109 mmol/L)を用い,血液:抗凝固剤比を9:1に維持することが推奨される4)~7)。なお,当院では凝固検査検体取扱いに関するコンセンサスに準拠し検体処理を行っている8)。

2. 検討項目

偽高値が発生した事象に対して,以下の4項目を検証した。

・プール血漿の同時再現性試験(同一検体の連続測定)

・キャリーオーバー試験(前試薬および前検体の影響の有無の評価)

・回避洗浄(装置の洗浄条件)の設定検討

・採血管キャップ状態(開栓・リキャップ)による測定値への影響

III  成績・結果

1. 偽高値発生の状況と経過

TAT測定において初回値が異常高値を呈し,希釈再検時に著しく乖離した事例の経過をTable 1に示す。

Table 1 偽高値事例の経過(ng/mL)

経過日 希釈なし検体 用手希釈検体 備考
初回
(陽検)
再検1
(陽検)
再検2
(陽検)
2倍希釈
再検
3倍希釈
再検
発見日 201.0 ― ― 53.6 63.0 ピペット清掃
8日後 290.0 ― ― 25.6 20.4 再現性確認
8日後 213.0 ― ― 28.6 22.5
16日後 69.3 50.6 感度以下 感度以下 感度以下 機器点検
19日後 81.1 21.0 ― 13.5 13.5
19日後 52.7 12.75 ― 9.0 6.75
19日後 90.8 103.0 ― 22.5 18.0 測光部確認
29日後 80.7 ― ― 22.5 22.5
29日後 57.0 ― ― 13.5 10.7
32日後 58.2 186.0 ― 41.6 ― キャリーオーバー試験
32日後 74.7 56.9 ― 37.9 ―
32日後 62.6 92.5 ― 49.1 ―
32日後 67.5 45.1 ― 49.1 ―
32日後 40.7 40.7 ― 10.1 ― 回路洗浄
39日後 57.8 130.4 ― 34.1 ―
39日後 69.2 108.0 ― 51.3 ―

Table 1では,初回測定が高値(例:40.7~290.0 ng/mL)を示す一方で,2倍・3倍用手希釈再検では大きく低下(例:9.0~63.0 ng/mL)し,同一検体で希釈直線性が成立しない挙動が散発した。非特異反応も考慮したが,希釈倍率増加に伴う測定値の比例的低下は認められなかった。また,16日後には連続測定で感度以下となるなど,日によって再現性が一定しないことが確認された。なお,表に示していない大半の検体では,用手希釈測定で妥当な値が得られることを確認したうえで初回結果を報告した。

原因切り分けのため,発見当日はピペット(吸引系)の清掃を実施し経過観察したが,8日後に現象が再現した。その後,再現性確認,機器点検,測光部確認を順次実施したが,明らかな異常は認めなかった。

同一検体でも影響の強弱がみられたことから,プロトロンビン時間(prothrombin time; PT)試薬のプローブコンタミを疑いキャリーオーバー試験を実施したが,いずれの項目でも有意な影響は認められなかった。キャリーオーバーの関与は低いと考えられたものの,機器メーカーによるバリデーションチェックを行っていない試薬である点も踏まえ,測定前後に水洗浄を行う回避洗浄設定を導入した。しかし,39日後の確認では初回値と希釈測定値が近い検体がある一方,再検により偽高値が再現する例も認めた。

現象発生から30日以上経過した時点で,機器取扱説明書に「複数回(4回以上)のキャップピアッシングで分注異常が発生する」旨の記載があることを確認した9)。ただしCN-6000は,検体をキュベットへ一次分注した後にサンプリングを行う機構であるため,本現象への直接的影響は原理的に小さいと判断した。

さらに,キャップに起因する圧力異常の可能性を除外する目的で,キャップを外して再度装着したうえで測定したが,現象は収束しなかった。49日後以降は,閉栓(キャップあり)測定および希釈測定を実施した後に開栓測定を行ったところ,2倍希釈と同等の測定値が得られ,偽高値の再現はみられなくなった。

2. 原因の特定

開栓測定ではすべての検体で偽高値が解消された(Table 2)。一方,開栓後に同一キャップをリキャップして測定すると,影響度は様々であるが一部の検体で偽高値が再現した。以上より,本事象はキャップによる圧力異常では説明できず,採血管ゴム栓外側に付着した血液成分がピアッシング時に検体へ混入したことが主因である可能性が高いと判断した。

Table 2 開栓測定による偽高値の解消(ng/mL)

経過日 希釈なし検体 用手希釈検体 希釈なし検体
初回 再検1 再検2 2倍希釈
再検
再開栓 開栓測定
49日後 20.2 41.8 27.9 20.2 ― ―
49日後 50.8 57.7 29.6 12.6 ― ―
49日後 49.9 30.1 ― 46.6 ― ―
53日後 30.7 39.6 40.1 30.7 31.0 30.5
53日後 29.6 46.2 26.8 15.1 32.1 15.8
53日後 51.2 50.3 25.7 17.6 20.5 19.4
53日後 107.2 92.5 79.6 90.0 90.8 86.2
53日後 19.0 132.6 42.4 24.0 19.8 21.3
53日後 67.0 69.2 52.1 37.9 60.7 38.6

IV  考察

当院に提出されるTAT検体の多くはICUの術後検体であり,基準値を超える高値検体が多い状況であった。また,キャップありの通常測定で問題なく測定できている検体も多く,2倍希釈測定値と同様の値が得られる検体も多数存在した。このため当初は,機器が特定の条件(吸引系の汚染,ピアッシング部の状態,洗浄・プローブ動作など)に陥った場合にのみ現象が顕在化する可能性を考慮した。加えて,TATは微量の凝固活性化の影響を受けやすいことから,測定項目への影響度の大きいPT試薬のキャリーオーバーも鑑別に挙げ,装置内コンタミネーションの可能性を念頭に検討を進めた。

しかし,本検討により,TAT測定における偽高値の主因は,採血管キャップ外側に付着した残存血液がピアッシング動作時に検体内に混入したことであると判明した。TATは感度の高い項目であり,微量の全血混入によっても凝固反応が進行し,結果に大きな影響を及ぼしうる3),5),6)。同時再現性試験(変動係数5%以下)およびキャリーオーバー試験で異常を認めなかったことは,測定系(装置・試薬)由来の系統誤差や顕著なキャリーオーバーの可能性が低いことを支持する。さらに,内部精度管理はすべての期間を通じて安定しており,許容範囲からの逸脱は認めなかったことから,装置の測定性能が経時的に不安定化した可能性は著しく低い。

一方,複数回のキャップピアッシング動作に起因する圧力異常は本事象の主因ではなかったが,測定値に影響しうる変動要因の一つとして認識しておく必要がある。

開栓測定で偽高値が解消し,リキャップで再現したことは,装置内部ではなく「採血管キャップ周辺」に原因が局在することを示唆した。近年,凝固検査機器では採血管キャップをピアッシングして吸引する閉栓運用が一般的であるが,CLSI H21(第6版,2024年)では,採血管の外栓(ゴム栓)外側に血液が付着している場合,分析装置によるキャップピアッシング時にその残血が検体内へ混入するリスクがあることを注意喚起しており,分析前にキャップ外側の汚染を確認・除去することを推奨している10)。本事例における偽高値の発生機序はこのリスクと合致しており,キャップ外側に付着した残存血液がピアッシング針を介して検体中へ混入したことが主因と判断された11)。さらに,残血付着の程度や乾燥状態,ピアッシング位置のばらつき,同一検体でのピアッシング回数(再検・希釈再検を含む)などにより混入量が変動し,同一検体でも「初回は偽高値,希釈再検では乖離」といった不整合な挙動として現れた可能性がある。このようなプレアナリティカルエラーは臨床検査全般で一定頻度に認められ,検体受付から測定前工程における管理が結果の信頼性に直結する2),5),6)。

本報告の意義は,TATのような高感度マーカーにおいては,装置や試薬の異常ではなく,採血管キャップ周辺という極めて限定的な部位に起因するプレアナリティカルエラーが重大な影響を及ぼし得ることを実証的に示した点にある。本検証の限界として,混入血液量の定量的評価は行っていない点,単施設での検討である点が挙げられる。なお,キャップ外側に残血が付着する理由としては採血時の血液付着が主要因と考える。

対策として,取扱説明書に記載されているようにキャップ外側の清拭を徹底することが考えられる9)。しかし,採血管本数の多い施設では運用上の負担が大きい。現実的には,TATのように鋭敏な反応を示す項目で異常値を認めた場合,再検時に開栓測定を組み合わせるなど,取扱説明書の記載に準じた運用が有効と考える。

なお,同様のキャップピアッシング機構を有する装置では,メーカーを問わず同種の事象が発生しうる可能性があり,特に鋭敏な項目では注意を要する。したがって,本事例で明らかとなった要因は,臨床検査技師が把握しておくべき重要な変動要因として広く共有すべきである。

V  結語

TAT測定における偽高値の原因は,採血管キャップ外側に付着した残存血液のピアッシング時混入であると判断した。本事例は,凝固検査におけるプレアナリティカル管理の重要性を改めて示すものである。

なお,本内容はPHC凝固線溶セミナー関西2025にて報告した。

和歌山県立医科大学倫理審査委員会(承認番号:161)の承認を得て実施した。

COI開示

本論文に関連して,著者が開示すべき利益相反(COI)はありません。

文献
 
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