2026 年 75 巻 4 号 p. 923-928
原発不明肺悪性黒色腫は極めて稀であり,肺に悪性黒色腫を認めた場合には原発巣の検索が重要である。今回,多発肺病変を契機に発見され,FDG-PET/CTによる全身検索により側頭部色素性病変が検出された悪性黒色腫の1例を経験した。患者はCT検査にて多発肺結節を指摘され,診断確定のため胸腔鏡下肺部分切除術が施行された。病理組織学的検討ではメラニン色素を含む異型細胞の増殖を認めた。免疫染色ではHMB-45,Melan-A,SOX10およびS-100が陽性を示し,悪性黒色腫と診断した。その後のFDG-PET/CTによる全身検索において,左側頭部にFDG異常集積を伴う黒褐色色素性病変が認められた。さらに同部位周囲には皮下結節が触知された。病理学的確認は行われていないものの,これらの所見から同病変が原発巣である可能性が考えられた。本症例は,FDG-PET/CTが悪性黒色腫症例における全身検索の一助となり,臨床的に見落とされていた病変の検出に寄与し得る場合もあることを示した症例である。
Primary pulmonary malignant melanoma of an unknown origin is extremely rare. Consequently, when malignant melanoma is first detected in the lung, a search for the primary lesion must be performed. We report a case of malignant melanoma presenting with multiple pulmonary lesions in which FDG-PET/CT detected a possible cutaneous primary lesion. The patient was found to have multiple pulmonary nodules during a CT examination, and a partial lung resection was performed to establish a definitive diagnosis. Histopathological examination of the nodules revealed proliferation of atypical cells containing melanin pigments. Immunohistochemical staining was positive for HMB-45, Melan-A, SOX10, and S-100, leading to the diagnosis of malignant melanoma. A systemic evaluation using FDG-PET/CT revealed a large pigmented lesion with FDG uptake on the skin of the left temporal region. Clinical examination further revealed palpable subcutaneous nodules adjacent to the lesion. Although a biopsy was not performed, these findings suggested the possibility that the lesion could represent the primary site. This case highlights the potential value of FDG-PET/CT in detecting clinically unsuspected lesions during the evaluation of malignant melanoma, although pathological confirmation remains essential for definitive identification of the primary site.
悪性黒色腫は皮膚原発,粘膜原発,ブドウ膜原発,および原発不明に大別される1)。原発不明悪性黒色腫は所属リンパ節,皮下,あるいは各種臓器に転移を認めるものの,原発巣を同定できない病態を指し2)~4),全悪性黒色腫の3.7~15%を占めるとされている5)~8)。悪性黒色腫における原発巣の不完全退縮は10~35%に認められると報告されており,決して稀ではない7)。また,原発巣の完全消退も2.4~8.7%の頻度で生じることが報告されている6),9)。従って,原発不明悪性黒色腫の成因として,転移形成に先立つ原発巣の完全消退による原発部位の同定不能や異所性色素細胞の悪性化が考えられている。
肺はリンパ節,肝臓,脳とともに悪性黒色腫の転移好発部位の一つである10),11)。一方で,原発不明とされる単発または多発肺悪性黒色腫の英文報告は50例未満であり,原発不明肺悪性黒色腫は極めて稀である12),13)。それ故,悪性黒色腫の原発巣の退縮が比較的高頻度に見られることを考慮すると,肺の悪性黒色腫が先行して発見された場合には,原発不明肺悪性黒色腫よりも,まず皮膚,粘膜,ブドウ膜原発巣が潜在している可能性を十分に検討しなければならない。
今回,我々は多発肺転移を契機に悪性黒色腫と診断され,FDG-PET/CTによる全身検索の結果,原発巣の可能性のある側頭部皮膚色素性病変が検出された症例を経験したので報告する。
患者:70歳前半の男性。
既往歴:約4年前に胸部弓部大動脈瘤に対してステントグラフト内挿術,左鎖骨下動脈コイル塞栓術,胸部大動脈-頸部分岐バイパス術を施行。
現病歴:胸部大動脈瘤の術後経過観察中,胸部単純CT検査にて左上葉(S1+2)に小充実結節を指摘され,その後,結節の増大を認めた。また,両肺に小充実結節を数ヵ所に認め(Figure 1),転移性肺腫瘍を疑った。確定診断のために胸腔鏡下左肺上葉部分切除術を行った。術中迅速捺印細胞診,術後組織診断により悪性黒色腫と診断した。

左右肺に多発性の小結節が認められる(矢印)。
左肺上葉部分切除検体に径1.5 × 1.0 cmの2個の黒色小結節を認めた(Figure 2)。これらの結節の捺印細胞診のパパニコロウ染色(Papanicolaou)では細胞結合性の弱い,核の大小不同を示す腫瘍細胞が認められた(Figure 3)。これらの細胞の細胞質は豊富で,細胞質には多数の黒褐色顆粒が認められた。核のクロマチンは細顆粒状で,核は偏在していた。明瞭なApitz小体は確認できなかった。

黒色の結節が認められる(矢印)。

(A)細胞結合性の弱い核の大小不同を示す腫瘍細胞が認められる。腫瘍細胞の細胞質には,黒褐色色素が豊富である。(Original magnification ×40)(B)腫瘍細胞の核は微細顆粒状で,核は偏在している。(同×100)
ヘマトキシリン・エオシン(Hematoxylin-Eosin)染色では黒褐色顆粒を豊富に含む腫瘍細胞の増生が認められた(Figure 4)。マッソン・フォンタナ(Masson Fontana)染色ではこれらの黒褐色顆粒は黒色に染色され,その過マンガン酸カリウム(0.25%)・シュウ酸(5%)による漂白法では黒色染色は消失した(Figure 5)。以上より,黒褐色顆粒はメラニンであると判明した。免疫染色では悪性黒色腫マーカー(HMB-45, Melan-A, SOX10, S-100)(Figure 6)が全て細胞質に陽性を示した。これらの結果から,肺の小結節を悪性黒色腫と最終診断した。なお,腫瘍細胞はPD-L1(clone 28-8)の免疫染色で陽性を示した。

腫瘍細胞の細胞質には黒褐色色素が豊富である。

(A)Masson Fontana染色。細胞質の黒褐色色素は黒色に染色されている。(B)過マンガン酸カリウム・シュウ酸による漂白法。漂白法で黒色染色は消失する。

(A)HMB-45染色,(B)Melan-A染色,(C)SOX10染色,(D)S-100染色。マーカーは全て陽性である。
肺の結節が悪性黒色腫であると判明したため,原発巣の検討のため全身の皮膚の検索を行うとともにFDG-PET/CT検査を行ったところ,左側頭部に8 cm超の色調が不均一な黒褐色斑を認めた。FDG-PET/CT検査で同部位に異常集積(SUVmax 9.19)が認められた(Figure 7)。その後,他院皮膚科に紹介となり,精査が行われた。左側頭部の黒色斑の大きさは10 × 9 cmであり,その皮下に径約2 cmの可動性結節,また前下方に径約3 cmの皮下結節が触知された。病変は先天性色素性母斑を母地として発生した悪性黒色腫であると推定し,皮膚生検は実施せず,免疫チェックポイント阻害剤(Nivolumab)による免疫療法を開始した。現在,新規病変の出現,肺転移巣の増大は認めていない。

(A)FDG-PET/CT検査で左側頭部に異常集積(SUVmax 9.19)を認める(橙矢印)。(B)左側頭部に8 cm超の色調が不均一な黒褐色斑を認める(黒矢印)。
本症例ではCT検査で多発性の小充実結節が見つかり,細胞診,組織診断により悪性黒色腫と診断された。肺の結節の細胞診,組織診断において,腫瘍内にメラニン色素が認められた場合,悪性黒色腫を鑑別の第一に挙げなければならない。従って,悪性黒色腫に特異性の高いHMB-45,Melan-A,SOX10,S-100などの免疫染色を行う必要がある。鑑別において,稀ではあるが,メラニン色素を含むカルチノイド(melanocytic carcinoid tumor)が肺に発生することがあることに留意しておかなければならない14),15)。
本症例では患者の左側頭部の色素斑が肺転移の原発巣である可能性を考えたが,生検による病理学的検討がされていないため,確定はできていない。原発巣を特定し得ない原発不明の肺悪性黒色腫の報告は稀にある12),13)。原発不明肺悪性黒色腫の遺伝子変異の解析から,原発不明肺悪性黒色腫のほとんどは原発ではなく,潜在的な,あるいは原発巣退縮後の皮膚原発悪性黒色腫の転移であると推定されている16)。本症例では,FDG-PET/CT検査での側頭部の異常FDG集積所見,およびこれを基にした皮膚病変の検索で判明した側頭部の黒色色素斑と周囲の皮下結節の存在から,側頭部の黒色色素斑が悪性黒色腫の原発巣である可能性を考えた。側頭部病変の生検,および肺転移巣と側頭部病変の組織の網羅的遺伝子解析がこの可能性の真偽を明らかにすると考えられたが,患者の治療を優先して解析は行われなかった。FDG-PET/CT検査については,悪性黒色腫の転移の検出に役立ったとする文献的報告があり17),本症例においても,当初認識されていなかった皮膚色素性病変を原発巣の可能性のある病変として認識することに役立った。FDG-PET/CT検査は悪性黒色腫の病変の検出において有効性を示す一方で,小型病変の検出における感度は低く,また炎症性病変で集積が見られることも知られているため,その評価には慎重であるべきであろう18)。
免疫チェックポイント阻害剤(抗PD-1/PD-L1抗体,抗CTLA-4抗体)や分子標的薬(BRAF/MEK阻害剤)などの治療法の出現以前は,肺転移のある悪性黒色腫患者の治療において肺転移巣の完全切除は予後を改善する治療法であった19)。新治療薬の出現により,現在,肺転移巣の完全切除の意義に関しては再検討の時期にある一方で,肺転移巣完全切除が可能な症例では,治療的肺切除は治療選択肢の一つとして残る19)。本症例では多発転移巣に対して治療的完全切除が行えないため,抗PD-1抗体薬による治療が選択された。
本症例は多発肺転移を契機に悪性黒色腫と診断され,FDG-PET/CTによる全身検索が原発巣の可能性がある皮膚色素斑の発見の一助となった症例である。
本症例報告は八尾徳洲会総合病院・病院倫理審査委員会で承認された(承認番号2026-02)。
本症例報告の要旨の一部は,第64回日本臨床細胞学会秋期大会(2025年,広島)において発表した。
本論文に関連して,著者が開示すべき利益相反(COI)はありません。