2023 年 7 巻 p. 19-51
本稿は、アイマラ語による口承の物語や歴史語りを原文対訳の形式で公開しつつ、それぞれの語りの特徴について考察を加えるという、藤田が展開してきた取り組みの一環を構成する。ここでとりあげるのは、弟フリアン・タピアと姉アスンタ・タピア・デ・アルバレスによって語られた、両姉弟の祖父がキリワヤ(ボリビアのラパス県ムリーリョ郡)のアシエンダ領主によって虐待されていたのに対し、祖母がラパスの街に住む自身の姉妹の結婚相手の軍人(大佐)を頼り、大佐からの働きかけでこの虐待を止めてもらうという、家族の中で伝承されてきたオーラルヒストリーである。冒頭Ⅰ章では、どのような協力関係の下でこの調査が行われたかについて述べる。Ⅱ章では、この語りのあらすじを示す。Ⅲ章では、この語りがアイマラの人々と支配階層のあいだのどのような社会関係を示しているか、姉と弟で語りの強調点がどのように異なっていて、またどの点は共通で踏まえられているか、そしてこの語りのアイマラ語の文体にどのような特徴が見られるかについて考察する。Ⅳ章では、アイマラ語の表記や、訳に用いるスペイン語のバリアント(アンデス・スペイン語)とその意義について述べた後で、原文対訳テクストを掲げる。Ⅴ章では、結論と今後の展望を述べる。