2010 年 14 巻 2 号 p. 5-14
歴史上,儒教に由来する道徳観を備えている日本人の看護師は,誠意を含んだ看護実践を価値あるものとみなしていると考える.しかし先行研究では看護師の誠意について体系的に取り組んだ研究は見当たらない.そこで本研究では,患者に対する看護師の誠意の構造を明らかにすることを目的とした.
事前に作成したインタビューガイドラインに沿い,調査協力に応じた看護師らを対象に半構成的面接を実施した.結果的に8名の看護師から協力を得たが,KJ法による分析の結果,看護実践にみられる行動や態度としての誠意が19項目挙がった.残余カードについても同様に分析したところ,誠意そのものに対する看護師のとらえ方として5項目が挙がり,計24の項目が挙がった.さらに前者の19項目は,【A.当たり前のことがきちんとできること】,【B.自己を律し研鑽すること】,【C.患者を大切にすること】の3カテゴリーに集約された.Aカテゴリーは,個人の成育歴という固有の背景を承け,かつ生涯に渡って誠意が発達してゆく可能性を示した.また,Bカテゴリーではプロフェッションフッドの概念と誠意が,Cカテゴリーではケアリングの概念と誠意が,それぞれ内容面で近似していることが確認された.これらの特徴を備えた看護師の誠意は,看護の本質にかかわる概念であることが示唆された.
誠意は自然発生的で主体には自覚しにくいという特徴がみられたが,一方でケアの受け手や同僚が感じ取るものであることが明らかになった.同僚の看護の中に誠意を察知した看護師が,そこでの誠意を自身の看護に導入することにより,個人固有の誠意が連鎖的に職場内で共有される可能性が示された.