2014 年 10 巻 p. 41-51
1864 年に設立されたクリスチャニア・スカンディナヴィア協会は、ノルウェーの歴史的・政治的現実に立脚した独自のスカンディナヴィア主義を模索した。本稿では、協会の中心人物の一人ドーによる1860年代と第1次スリースヴィ戦争期の言説を比較し、 ドーが独自に唱えていたスカンディナヴィア主義が、後に協会の議論を先導したことを論じた。ドーはデンマーク人・スウェーデン人との民族的親近性を論じる一方で、「ナショナリティ」の歴史的議論と同時代の政治的関係との峻別を主張した。こうした背景には、民族の混合と接触による発展を肯定する「開かれた」ネイション概念があった。また、小国の生存への危機意識、軍事的規模の拡大の主張、スウェーデン重視の統合方針などが協会の政治的構想の基礎となった。ノルウェーの自由と独立を称揚する「愛国派」でもあったドーの影響力は、ノルウェーにおけるスカンディナヴィア主義の思想的基盤の多様さを示している。