動物心理学年報
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シロネズミの貯蔵行動に及ぼす静穏剤の効果
石井 巌
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1967 年 17 巻 1 号 p. 1-11

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抄録

大体において大脳辺縁系~視床下部に作用する2種の静穏薬の投与によって, 白ネズミの貯蔵行動は顕著に抑制されることが, 実験によって示された。その際, 貯蔵行動に関連があると考えられていた要因のうち, 年令, 不安度, 幼少のときの欲求不満の経験, 遺伝的要因, 飢餓動因などの要因は, 実験試行と統制試行とに対して同一で一定に保たれている。気温, 食欲や摂食量などの要因は, 貯蔵行動の減少と関連がないことが示された。投与による活動性の変化については, 二木宏明氏や志村元氏の論文によると, クロールジアゼポキサイドでは, むしろ活動性は高まるくらいであり, クロールプロマジンでは, 活動性は20%程度減少するにすぎないので, 貯蔵行動の顕著な降下には有意な作用はしていないと考えられる。これらの事実から, 推測されることは, 貯蔵行動の要因は, 2種の静穏薬によって抑制される不安, 大脳辺縁系などに関連した自己保存に関する下等的基本機構であると言うことである。気温か飢餓かと言うような特殊な単一要因のみが直接的に貯蔵行動をひき起こすのではなくて, 多種の特殊要因のうちのいずれでもが, 数段の介在を経て一般的となり間接的にのみこの機構を活動させ, 貯蔵行動をひき起こすことができるのである。この実験は, 行動の確率過程論的状態素子理論とは別個の関係で行われたので, 実験事実のみを記し, どんな状態素子が介在し, どんな機構でどんなふうに活動しているかについては記さないことにする。

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