動物心理学年報
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ヒヨコの刻印づけ-初呈示と運動制限-
原 正隆
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1973 年 22 巻 2 号 p. 51-60

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抄録

早熟性のトリのひなが孵化後まもなく呈示されたさまざまな刺激を恒常的に追従, 接近するようになる, という刻印づけ (Imprinting) の現象についての報告は数多くあるが, わが国では, 佐藤 (15), 藤田 (2) の文献の総括があるだけで, 実験報告はほとんどない (4, 8) 。
刻印づけの測定方法は, 大別すれば, 孵化したてのひなに初めて刺激を呈示 (初呈示, first exposureと呼ぶ) し, その時の刺激への追従, 接近を測定する場合と, 初呈示の後にテスト期間を設け, この時に追従, 接近を測定する場合とがある。ところが, 反応の恒常性や, 孵化したてのひなの運動能力の未発達なことを考えると, 後者の方が好ましいと考えられる。その場合, 初呈示の効果は, 初呈示のない統制群と比較することによって検討できる。ところが, このような統制群を設けた研究は数少ない。そこで, 本研究では, 臨界期内に初呈示を受けない統制群を設け, 臨界期後に追従をテストする方法によって, 刻印づけの生起を確認する。
また, 刻印づけの強さの規定因として, 初呈示の時の追従の量があげられ, HESS (5) は, 刻印づけの強さは追従に要した努力 (消費したエネルギー) の対数に比例するという “努力の法則” を主張し, これを支持する実験を報告した (5, 6, 7) 。HESSの他にも, THOMPSON他 (16) も努力の法則を支持している。これに反して, 刻印づけには, 初呈示での追従は必要ないという主張がある (10) 。例えば, MOLTZ他 (12) は, 追従を許されず, 動く刺激を眺めるだけの群は, 後に追従を許された時に, 以前に追従を許された群と同じように追従すると報告した。この他にも同様な報告がいくつかある (1) 。このように, 後の追従にとって, 初呈示の時の追従が必要かどうかについては一致が見られていない。そこで, 本研究では, 初呈示での運動制限の効果をも検討する。
刻印づけの確認と “努力の法則” の正否を検討するため, 白色レグホンのひなを運動制限下, あるいは, 運動制限をせず初呈示をし, 後のテストで追従反応を測定した。この結果, 初呈示をしない統制群との差はなく, 刻印づけは確認できなかったが, これは, 種差によるものと思われる。また, 初呈示の時, 運動制限をすると, 後の追従反応は, 運動制限をしない群より少なく, “努力の法則” を支持した。

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