動物心理学年報
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キンギョの回避学習におよぼすアクチノマイシンDの効果 (その1)
大井 修三
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1973 年 22 巻 2 号 p. 61-70

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抄録

学習・記憶に核酸や蛋白質が関与しているという仮説 (12, 14, 17, 20) を検討するのに, 核酸や蛋白質の合成を阻害する物質を使用する報告が最近多くなされている (1, 2, 3, 4, 5, 6, 7, 8, 9, 10, 11, 16, 17, 18, 19) 。アクチノマイシンD (actinomycin D, Act-D) はそういった物質の1つであって, DNA依存性RNA (DNA-dependent-RNA, d-RNA) の合成をほぼ完全に抑制すると考えられている (13, 15) 。AGRANOFF, et al. (1) は, キンギョに回避訓練をおこなわせ, その直後にAct-Dを投与してその効果を調べ, 学習を阻害するという結果を得た。しかし, 彼らの実験では, 活動性への影響・継続学習におよぼす継続投与の効果・訓練期間中のd-RNAの合成の可能性・投与量の効果等が調べられていない。そこで本論文では, 実験IにおいてAct-Dの活動性におよぼす効果, 実験IIにおいて継続学習直後に投与する継続投与の効果, 実験IIIでは, 訓練期間中のd-RNAの合成の可能性を考慮して訓練直前にAct-Dを投与してその効果を調べ, 同時に投与量の効果も検討する。
キンギョを被験体としてAct-Dの回避学習におよぼす阻害効果を調べ, 学習・記憶の核酸説を検討する。
実験I : 活動量におよぼすAct-D (2μg, 1μg, 0.5μg) の効果を, 1日おき4回の継続投与をしながら調べた。活動量として水槽内の通過区画数を測定した結果, Act-D は活動量に影響をおよぼさないことがわかった。
実験II : 1日おき4回の訓練の直後にAct-D (2μg) を投与して回避学習におよぼす効果を調べた。装置はシャトルボックス様の回避条件づけ槽, 条件刺激は100V20Wの電球からの光, 無条件刺激は4Vの交流である。この結果, 群と試行の交互作用に有意差がみられ, Act-Dは学習の習得速度を阻害することがあきらかとなった。
実験III : 訓練開始30分前にAct-D (2μg, 1μg, 0.5μg) を投与して, 回避学習におよぼす訓練前投与と投与量の阻害効果を調べた。実験手続き等は実験IIに同じ。その結果, 群間に差がある傾向がみられた。また, 薬物の投与量とブロックの交互作用に有意差がみられた。以上のことは, 訓練前のAct-D投与が回避学習をより阻害し, その投与量が習得率に影響することを示しているものと思われる。したがって, 本実験は回避学習の習得にはd-RNAが必要であるということを示しており, 学習・記憶の核酸説を支持しているといえよう。

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