動物心理学年報
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飼育チンパンジーの母子関係に関する一考察
2, 3才の行動発達の分析から
吉田 浩子乗越 皓司北原 隆
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1987 年 37 巻 1 号 p. 15-27

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抄録

ヒトの母子関係と乳幼児期の発達を理解する目的への第一歩として飼育チンパンジーの母子関係の研究が行われた。すなわち, 生後一年までの発達初期の母子の観察結果からチンパンジーではまだ言及されていない愛着理論の検討を既に試みた (21) 。生後1年までの初期の母子関係については多くの報告があるが (3, 4, 5, 6, 7, 11, 15, 16, 17, 19), 2, 3才以後の研究は少ない。此の時期の子供は, 母親への依存がまだ強く残っているが, 子守り行動などにおいて, 主に血縁個体との関わりが観察されている (6, 13) 。また他個体との活発な遊び等を通して.母親から離れて群れのメンバーと社会関係を作りはじめる時期でもある。そのため, この時期の母子関係は母子の相互関係のみを変数としたのでは不十分であり, 母親の社会関係や子供の身体的, 認知的発達からも影響をうけると考えられる。また, チンパンジーの母子関係については, 野生状況下での研究が多いこともあって行動の詳細な観察に基づく分析は少ない。
そこで, 本研究は, 愛着形成後と考えられる2才及び3才の個体の発達に焦点をあてて社会関係の中で見られる母子関係の観察を試みた。疑似的な野生状態にある動物園飼育下における母子を対象に, 自然観察法を用いて母子関係および血縁個体との関係を詳細に記載し, 出現したあらゆる行動パターンを細分化し, 各パターンを数量化することによる分析を試みた。
また, 母子関係に影響を与えると思われる子供の身体的発達の分析については, GOODALLらの野生集団の自然観察結果に基づく報告に見られるような, 身体的運動機能の発達を手掛かりとして記載した。認知発達については, 野生チンパンジーの道具使用行動を参考にして放飼場に設置された遊具である「あり塚」, 「知恵の木」および「ハンマーと叩き台」の使用状況を手掛かりとした。これは, チンパンジーの認知能力の指標として, KOEHLERの実験 (10) 以来, 道具使用行動が多く用いられていること, また野生状況でも道具使用行動は観察・研究されており (2), チンパンジーの認知能力を知る為に, この行動が重要なものであると考えられること (14, 16) による。

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