動物心理学年報
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シロネズミの単一走行路における反応の変動性と飢餓動因との関係について
岩原 信九郎
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1956 年 6 巻 p. 29-40

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抄録

従来の反応変動性の研究の多くは学習強度の測定値における変動でなく複雑な刺戟事態における反応の固定化を問題にした。ELLIOT (2) やANTONITIS (1) の場合がそれであり, この場合には更に先行反応の後行反応への影響の存在を許し, HULLら (23) が考えている純粋な反応変動性SORではない。
然しHULLと同じ方法を用いると彼においてはSORSERの単位になつているから条件 (例えば動因) のSORに及ぼす効果を測定することは出来ない。このためにはSERの直線的示標をうる目的で表面的測定値を適当に変換すればよいのである。本研究にはこの方法を用いてねずみの単一走行路における学習反応の変動性が動因によつてどう変化するかを見ることを目的とした。
合計108匹の白ネズミを空腹動因の強い順にHD, MD, LDの3つのグループに分け1日1回の強化試行を20日間行い, 続いて1口1回20日間の無強化試行を行つた。測定値は動物がドアが開いてから出発箱を出るまでの出発時間 (ST), それから目標箱前のカーテンに着くまでの走行時間 (RT) と両者を合した時間 (TT) である。
3つの測定値にもとずきHULLと同じ方法でSERを計算し, その値と各試行の時間値の中央値との実験式を求めそれに基いて各ねずみのSERを時間値の最も変動の多い第1強化試行と変動の最も少い第20強化試行について計算した。この計算値と時間値の逆数及び対数とのピアスンの相関係数を求めたところいずれも1に近く高く, 2つの変換値はSERの直線的示標として適切であることが示された。また変換値の分布もほゞ相称型であつたが全体を通じてみると対数変換法が逆数の場合よりやゝ優れているように思われた。個体間変動は或程度まで個体内変動と正比例するという前提の下に強化数及び無強化数の函数としての個体差を四分領域Qで示した。Qを用いたのは分布が生理的極限点による歪みを出来るだけ避けるためである。その結果逆数値では個体差は強化数と共に増大の傾向を, 対数値ではその逆の傾向が現れた。もし個体差がSORと比例すると考えるならば逆数の結果はHULLの所見 (23) を, 対数の結果は試行と共に不必要な刺戟への反応が消去され学習反応が統一されるという一般的考えを支持した。個体差は消去によつて増大したがこれはフラストレーションによるものであろう。
個体差と動因との動因は対数値では逆の関係がえられたが逆数値では何ら一般的傾向が得られなかつた。これに似た関係が消去でも得られた。
個体内変動は習得において対数変換では動因と逆の関係が示唆されたが逆数では一定の傾向なく, これは個体内変動と個体間変動が正比例的であることを示しわれわれの前提が正しいことを証明している。消去時では個体内変動と動因とはいずれの変換値においても統計的な有意性に達するものはなかつた。然しその習得と消去間の差は高い信頼度で有意でありこれも個体差の場合と同じ結果でありフラストレーションによると言える。即ち動因が低下されないので目標箱まで走る行動の統一性は不要になるのである。対数値で動因と変動が逆比例するのは空腹動因が高いほどそれ以外の動因例えば探索欲が少いと仮定されるので動因が高いほど条件刺戟が限定され反応が統一されるからと思われる。

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