本稿は,オルタナティブ・バンキングの歴史とその意義を明確にしようとしたものである.オルタナティブ・バンキングは,貨幣の貯蔵機能を減退させ,より貨幣が社会の中で循環するように,預金は基本的にゼロ利子等の特徴を持ったものである.今回は,その事例として,北欧のJAK銀行とスイスのWIR銀行を取り上げる.両銀行とも1929年から始まる世界大恐慌の中で生み出されたものであり,シルビオ・ゲゼルが創出した自由貨幣論を理念の中心に置いている.無利子貯蓄-貸付銀行であるJAK銀行は,デンマークで1931年に,スウェーデンで1965年に設立された.中小企業のための銀行であるWIR銀行は,1934年に設立された.土地に根付く中小企業や人々の活性化の潜在的な可能性を引き出すものとしてのオルタナティブ・バンキングは,主としてインフォーマルな経済を活性化させる地域通貨と並んで,地域コミュニティにおいて注目すべき存在である.