日本看護科学会誌
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研究報告
他者とうまく距離をとることができない発達障害の学童に対する看護師のかかわり
山内 朋子
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2014 年 34 巻 1 号 p. 170-179

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Abstract

目的:学童期精神科閉鎖病棟に入院し,他者とうまく距離をとることができない発達障害の学童に対して,看護師がどのようにかかわっているのかを明らかにする.

方法:Leiningerの民族看護学の研究方法を用い,主に参加観察とインタビューを行った.主要情報提供者は看護師9名,一般情報提供者は学童6名とその家族6名,医療スタッフ5名であった.

結果:テーマ6つと大テーマ1つが抽出された.看護師は,子どもをありのまま受け止めて,子どもが距離の近さで訴える‘人とかかわりたい’思いを見極めていた.看護師が子どもに適切なかかわり方を教えたり看護師との間で子どもと大人との信頼関係を修復したりすることで子どもの思いに応えると,子どもは他の子どもとの遊びや思いの言語化ができるように変化していた.

結論:看護師は,子どもの対処方法の体得を支え,子どもの大人への信頼感やアタッチメントを修復することで,子どもの‘人とかかわりたい’思いに応える必要があると示唆された.

Ⅰ.緒言

近年,児童精神科を受診する発達障害の子どもの数が増加している(市川,2005,pp. 13–15).フィールドの学童期精神科閉鎖病棟には,広汎性発達障害や注意欠陥多動性障害,学習障害等の発達障害の学童が入院していた.中には,家族や看護師に抱きつく子ども,他の子どもが嫌がってもちょっかいを出し続ける子ども,家族や他の子どもに言動を指示する子どもがいた.こうした子どもは,他者とうまく距離をとることができない発達障害の学童であった.

発達障害の子どもは対人関係の障害や感覚過敏性,心の理論障害等の特性の影響から,他者の気持ちを読み取ることや他者と距離をとることが苦手である(Baron-Cohen et al., 1993杉山,2011).中には,いじめや虐待を受けて自尊心が低下し(杉山,2011),大人に幻滅している子どももいる(市川,2005,p. 6).発達障害の子どもは特性等の影響からアタッチメントの形成が困難で(van Ijzendoorn et al., 2007),学童期がアタッチメントの形成や修復を行う重要な時期となる(杉山,2011).こうした背景から,専門性の高い看護が求められる.

児童精神科病棟に入院中の子どもは,子ども同士や医療者とのかかわりによって社会的な経験を積む(市川,2005,p. 79).看護師のかかわりは発達障害の学童のアタッチメント形成や修復,他者とのかかわりや関係形成において重要な意味を持つと考えられる.これまで,子どもにSocial Skills Trainingを行って良い行動を褒めることで子どもが看護師に相談できるようになった事例や看護師が暴力のある子どもと一緒に遊ぶことで子どもが落ち着いた事例が明らかになっている(福山ら,2009柚山ら,2006).しかし,実践に活かす上で重要な,看護師が子どものどのような言動を暴力と捉え,どのような言動で褒めているのかといった,かかわりの具体的内容とその意味は言語化されていない.

そこで本研究は,学童期精神科閉鎖病棟に入院し,他者とうまく距離をとることができない発達障害の学童に対して,看護師がどのようにかかわっているかを明らかにすることを目的とした.フィールドで培われてきた専門的なかかわりの内容と意味を探求することで具体的な実践への示唆が得られると考えた.

Ⅱ.研究方法

本研究は,Leininger(1992)の民族看護学の研究方法を用いた.この方法は人々の文化の中にある価値観や生活様式を直接学び,どのように意味づけているのかに焦点を当てることができる.本研究が明らかにする看護師のかかわりには,小児精神科治療の専門病院で継続的に発達障害の学童の看護を行っているというフィールドの特徴や個々の看護師の価値観,子どもの特性等が影響していると考え,この方法がかかわりの理解に有効と考えた.

1.研究参加者

主要情報提供者は,関東圏内にある一病院の学童期精神科閉鎖病棟で勤務する看護師9名であり,看護経験年数は10年未満が5名で10年以上が4名,児童精神科経験年数は5年未満が5名で5年以上が4名であった.一般情報提供者は入院中の,他者とうまく距離をとることができない発達障害の学童6名とその家族6名(表1),同病棟で勤務する医師2名,保育士1名,臨床心理士1名,精神保健福祉士1名の医療スタッフであった.

表1 一般情報提供者一覧(子どもとその家族)

2.データ収集期間とデータ収集方法

データ収集は2011年4月から10月までの約7ヶ月間行った.「観察–参加–再確認モデル」(Leininger, 1992, p. 88)を参考に参加観察とインタビューを行い,子どもの入院経過や治療経過を看護師や医療スタッフ,子どもの家族から承諾を得て診療記録と看護記録からデータ収集した.

「見知らぬ人–友人モデル」(Leininger, 1992, p. 87)を使用し,一定期間を観察にあてた後,見知らぬ人から友人へと移行しているかを評価しながら遊びや日課に参加し,承諾が得られた場合のみ,看護師と医療スタッフが子どもとかかわる場面やカンファレンス場面に入って看護師や子どもの表情,言動等を観察した.目的に沿って気になった行動や発言は看護師や医療スタッフ,子どもに再確認した.看護師と医療スタッフにのみインタビューを行い,目的に沿って気になった観察場面や解釈の妥当性について尋ね,かかわりの中で感じ,考えていることをできるだけ自由に語ってもらい,承諾を得て手書きで記録し,結果の再確認を行った.

3.分析方法と信頼性・妥当性の検討

「民族看護学データ分析ガイドの段階」(Leininger, 1992, pp. 101–103)に従って分析した.生データを収集して詳細に記述した後,得られたデータの類似性と差異性を明確化し,繰り返し見られる構成要素の意味を分析した.次に,看護師のかかわりの類似した,または異なる意味や表現等の反復パターンを明らかにするためにデータを詳細に調べた.最後に,先行段階のデータを統合してその意味を抽出し,主要テーマと研究結果を抽象化して提示した.

研究の全過程において民族看護学の質的評価基準(Leininger, 1992, pp. 119–121)である信頼性,確認可能性,コンテクストにおける意味,反復的パターン,飽和,転移可能性に留意し,小児看護学の質的研究者からスーパービジョンを受けた.

4.倫理的配慮

本研究は,日本赤十字看護大学研究倫理審査委員会(承認番号:予備調査2010-90,本調査2011-17)および研究施設の看護研究審査会と倫理委員会(受付番号23-5)の承認を得て,子どもの生活やかかわりに支障がないように注意して行った.研究参加依頼は,看護師と医療スタッフには両者が参加する病棟カンファレンスにて,子どもとその家族には両者同席の場で子どもの特性に応じて,口頭と文書で説明した.研究の趣旨と方法,研究参加は自由意志で途中辞退が可能なこと,匿名性の保持,研究成果の発表について説明し,看護師と医療スタッフ,家族には文書で,子どもには口頭で同意を得た.研究結果を希望者に配布した.

Ⅲ.結果

1.他者とうまく距離をとることができない発達障害の学童に対する看護師のかかわり

病棟の看護師は,他者とうまく距離をとることができない子どものことを他者との「距離が近い」と語り,子どもの特性や状況に応じてかかわっていた.抽出したかかわりのテーマ6つに焦点を当て,データと解釈を説明する.看護師と医療スタッフをA~N,子どもをa~f,語りを「 」またはゴシック体で示した.

テーマ1:必要な看護と子どもの目標を見極めて子どもに示す

eくん(9歳)は学校でいじめられ,それを親へ言わずにストレスを溜め込んで身体症状が出現し,飛び降りようとすることがあって入院となった.

入院2週目のある朝,男子二人がキスの真似を始めるとeくんは笑顔で彼らに近寄り,真似して口を尖らせた.しかし,彼らがeくんのことを笑って別々の方向へ駆け出したため,eくんは二人を追い駆けて一人の身体に抱きついた.相手に「止めろよ」と腕を振りほどかれ,ムッとした表情になったeくんは「あっ何だよ.変なこと言った!」と叫んで相手を追い駆け回し,保育士から相手に近寄らずに離れるように言われた.スタッフステーションからその様子を見たD看護師は「eくん,お友達との関係が近いのでチクチク言葉(相手が嫌がる言葉)を言われています.関係性を見ていきます」と他の看護師や保育士に話した.

数日後,両親との面会の様子を見たE看護師は「eくんはスムーズに離れられたけれど,母が彼を膝に乗せたり涙ぐんで離れられなかった.母の方がeくんと近い」と,家族との関係性や家族の特性をI看護師らに話した.

D看護師はeくんのことを「相手にチクチク言葉を言われて言い返しちゃうし,自分から近寄ってチクチクも言っちゃう.距離が近い」と語り,I看護師は「自分で解決しようとして相手と言い合ったり,注目してもらいたくてそうしているのかな」と語り,eくんと他者との距離が近い理由とその意味を捉えていた.I看護師は「家では相談できずにいたので,病棟でどうすればいいのか相談したり考えたりできるように」‘振り返りをする(看護師と話す)こと’と「母との密着が強いので一人で過ごすスキルが身に付くように」‘自室で1日30分一人で過ごすこと’をeくんの目標に取り入れ,目標をeくんに伝えた.

aくん(11歳)は暴言や暴力があり,それを親に叱責されて育つ一方で,親に買い物をねだって暴れて家族が買い与えることが繰り返されて入院となった.入院3ヶ月目のaくんは,病棟で男子に抱きついて肩を組んで歩く一方で,すぐに相手に「絶交」や「あいつに絶交って言え」と言って指示していた.病棟の看護師は「aくんが人を操作している」と話し合い,他の子どもとのかかわり方についてaくんの目標や約束事を決めてaくんに伝えた.

B看護師は「aくんはいつも人を触って寄って行く.本当は構って欲しいんですよ.本人がチクチク言葉を言うのをよく見ていると,他の子どもと一緒にいたいのにいられない時とか相手に拒否されている時なので」と語り,aくんが他の子どもに触れることや親と他の子どもを操作する状況を他者との距離が近いと捉え,他者との距離が近い理由とその意味を探り,対応を見極めていた.

以上のように看護師は,他者との距離が近い子どもがこれまでの家庭生活や今の病棟生活で家族や看護師,他の子どもとどうかかわり,どのような関係性か,どのような時に距離が近くなるのかを観察していた.得た情報を他職種と共有し,子どもと他者との距離が近い理由やその意味を探って,子どもが家庭や学校に戻るために必要な看護と子どもの目標を見極めて子どもに示していた.

テーマ2:適切なかかわり方を子どもに教える

dくん(9歳)は多動傾向があり,次第に登校をしぶり,家庭で暴れて入院となった.入院2ヶ月目のある日,dくんはfくん(9歳)とマットに座り,それぞれポータブルゲームをやっていた.dくんはチラチラとfくんのゲーム画面を覗くとニヤッと笑いfくんに「あっ,真似した!」と叫んだ.fくんは傍にいたF看護師にdくんを指して「真似したって言う!」と叫んだ.F看護師がマットに膝をつけて真剣な表情で静かに「dくん,fくん,離れてやって」と言うと二人は黙ってゲームを再開した.しかし,F看護師が立とうとすると二人は再び大声で言い合い,F看護師は「dくん,何度も言わないの.fくんが嫌がっているでしょ.fくん,あっちでやって」と3 mほど先を指した.移動しても互いを見て言い合う二人を見たF看護師は,スタッフステーションに入った.数秒して昼食時間になるとfくんは食堂へ走り,dくんは自室に入って行った.

「dくんは連日チクチク言葉が止まらなくて.dくんとfくんは特性が似ていて(知的な)レベル的にも遊べるのはお互いだって分かって近寄っているんだと思います.でも,お互いに距離感が分からない.あのままいても(二人とも)収まらないと思ったので私から距離をとりました」(F看護師)

F看護師は二人の遊びたい思いを捉えた上で,相手が嫌がっていることや離れるべき距離を具体的に伝えただけではなく,二人が離れられない要因に自分も含まれていると捉え,距離をとる重要性や方法を自らの身をもって教えていた.

eくん(9歳)の入院3週間目,M臨床心理士は「eくんは聞いて覚えることの方が得意」と心理検査結果をカンファレンスで報告した.その日の昼食後,eくんは遊び相手の子どもから「絶交」と言われて一瞬相手から離れたが,すぐに近寄って行って相手から「ベー」と舌を出された.eくんは「絶交って言ってくる!」と眉間に皺を寄せて大声で叫びながらA看護師に駆け寄った.A看護師は微笑みながら顔を近づけ,小さなボリュームで穏やかに「いいこと教えてあげる.そういう時は自分が離れるの.あなたがいちいち反応するから反応を見て相手は楽しんでいるの.反応しなければ相手も止めるから無視するの.離れていなさい」と語りかけた.eくんは頷いて自室へ入って行った.

A看護師はeくんのプライマリーのI看護師に「(eくんに)無視をする,反応しないって言ったの.反応しすぎなのよね.心理検査結果で視覚提示(視覚で捉えられる資料を提示する)よりも言葉の方が理解しやすい(特性がある)と言っていたわ.その都度,場面,場面で言って教えていくといい」と提案していた.

「eくんは人との距離のとり方,付き合い方が入っていない(分からない).どうすればいいのかを覚えていくと変わってきますよね.その子のペースに合わせて一つずつやっていくと変わってきます」(E看護師)

その後,dくんとeくんは入院2, 3ヶ月目になると他の子どもと落ち着いて遊んだり一人で遊んだりすることができるようになっていた.

以上のように看護師は,子どもと他者との距離が近い状況で,相手が嫌がっていることや反応を楽しんでいることを子どもの代わりに読み取って子どもに説明し,子どもの特性に応じた方法で人との適切なかかわり方を繰り返し伝えていた.A看護師は子どもが看護師の姿を「見ている」と語り,L保育士も「自分たちのかかわり方がお手本」と語り,自らが実践モデルとなって子どもに人との距離のとり方や声の大きさの見本を見せていた.それによって子どもは人との適切な距離のとり方やかかわり方が実践できるようになっていた.

テーマ3:子どもを落ち着く状態に導く

bちゃん(10歳)は学校で他の子どもにからかわれることや勉強が難しいことを我慢し,こだわり行動や親への暴力が増えて入院となった.

入院2ヶ月目のある朝,bちゃんは申し送りの間,スタッフステーションのドアに体当たりして硬い表情でドアノブをガチャガチャ回した.夜勤のB看護師は「昨日の日勤交代前くらいから,かかわり要求的な泣きをしたり大きい声を出したり.昨日の夕方aくん(11歳)からチクチク言われて大声出してバタバタしていました」と申し送った.前日に受け持ったA看護師は「昨日ずっと私と話したかったみたいなんだけれど時間(が)取れなくて.私が離れた後,aくんにチクチク言われたの」と補足した.

H看護師がスタッフステーションから出てくるとbちゃんは「うー」と唸りながらH看護師の腕にしがみついた.H看護師が「学校(分教室)行く準備しないと」と笑顔で促すと,bちゃんは首を振った.H看護師が笑顔で話しかけながらbちゃんに掴まれた腕を引いてランドセルを取りに行くと,bちゃんは無言のまま歩いた後,離れて登校した.

昼食時,病棟へ戻って来たbちゃんは硬い表情でH看護師に話しかけた.H看護師が話を聞いて不穏時の頓服薬を飲むことを提案すると,bちゃんは内服して自室に入り,夕方には他の子どもと笑顔で遊んでいた.

「昨日aくんにブスと言われたのがショックだったみたい.(今朝)笑い話しながら引っ張ったら学校に行ったんです.あの子,ウィットに富んだ会話するといいんです.そうすると『エヘー』って切り替えられる.学校から帰ったら段々にまた『aくんめ』ってなっていたので内服しました.でも『あれを言われて嫌だった』と言えるようになっているのでいいかな.前は言えずに固まっちゃっていたので」(H看護師)

A看護師やB看護師,H看護師は,bちゃんが大きな音を立て,泣き,看護師から離れないこと等をかかわり要求が強いと捉え,その要因を探り,bちゃんの気分が乗る声かけや内服によってbちゃんを落ち着く状態に導いていた.

入院5ヶ月目のaくん(11歳)が分教室で教諭や他の子どもへの暴言を続ける理由をH看護師は「(同級生が)aくんを嫌がっている.aくんもそれを見て分かっている」ためと語った.J医師やE看護師は,aくんには学校と家庭に「誰かリーダーがいる方が本人も楽,落ち着いていられるんじゃない」と語った.

以上のように看護師は,子どもの衝動性や感覚過敏性といった特性,子どもが置かれている状況を日々観察することで,子どもが他者から離れられないのは子どもが不安定な状態や刺激に反応しすぎている状態であるためと捉えていた.その状態となった要因を探り,子どもを取り巻く環境や子どもの内服時間を調整して子どもに意識の切り替えや休息を促し,子どもを落ち着く状態に繰り返し導いていた.それによって子どもは自分の落ち着きを体感し,落ち着くための方法を自ら選択して実践できるようになっていた.

テーマ4:子どもと大人との信頼関係を修復する

cちゃん(10歳)は幼少時に父親から虐待を受け,入院前は不登校で母親から離れられない一方で,母親への暴力があって入院となった.入院後数週間,看護師は飛びついてきたcちゃんを両手で受け止めて一緒に遊んでいた.約1ヶ月後,パーソナルスペースを意識して‘スタッフとは腕1本分離れて話すこと’がcちゃんの目標に決まった.B看護師が抱きついてきたcちゃんに笑顔で「あれ? 腕1本分だよね」と声をかけると,cちゃんは笑って離れていた.

「最初はあんまり離れなさいとは言わない.まだここに慣れる時期.3回に1回はギューってしてあげる.安心して離れることができないからくっついて甘える.大人との関係ができて初めて子どもたちと関係ができる.家族との中でまだ大人との関係ができていないってことじゃない」(A看護師)

「(目標が決まった後は)みんながいるところでは離れられるようになるといいなと思って.その代わり部屋に二人でいる時は隣に座ってじっくり話をするんです.最初はcちゃんもほとんど話さなくてこっちが話していただけなんですけれど,段々と話をしてくれるようになるんですよ」(B看護師)

A看護師とB看護師は,cちゃんが大人との関係ができていないと捉え,看護師に思いを言語化でき,看護師から離れて子ども同士で遊ぶようになることを看護師との間で大人との信頼関係を修復していくサインとして捉えていた.

暴言や暴力のあるaくん(11歳)に対してプライマリーのB看護師は,aくんが丁寧な言葉を使った時に「わぁ,いいね」と積極的に褒めていたが,aくんはB看護師に「あっち行け」と拒否的で自らの思いも言語化できず,入院半年が経っても他の子どもとの喧嘩が続いていた.入院半年のある日,B看護師はaくんが暴言を言ったことを聞くと「全てをリセットしたい」と話した.

「私とはあんまり良い関係じゃないんです.家族になっちゃっているのかなって.(距離が)近いというか.aくん,家族にも拒否的なので.ご家族は本当に辛いと思います,辛いですよ.aくん本当は人とかかわりたいんですよね.(入院半年が経って)前よりは私と散歩行くようになったりとか変わっている.(他のスタッフにはaくんが)私を見ているって言われます」(B看護師)

B看護師はaくんの様子を他の看護師や他職種と話し合い,aくんとの関係性の変化を捉えていた.さらに数ヶ月してaくんは看護師に少しずつ思いを語れるようになり,看護師はaくんと二人きりでかかわる時間を設けた.C看護師は「aくんは親との関係ができていないから他の子ともうまくいかない.最近は自分のことを話したりできるようになっているし,今二人きりでかかわる時間が必要だと思った」と語った.I看護師は「私たち“振り回されない大人”とかかわることで段々と大人との関係を営むスキルを身につけられて友達とも遊べるようになる.学童期なので子どもと遊べる方が断然楽しい」と語った.

以上のように看護師は,他者との距離が近い子どもはこれまで親との間で大人との信頼関係ができていないと捉え,まず子どもと一緒に遊んだりして子どもに安心できる存在であることを示し,次に子どものパーソナルスペースを守ると同時に二人きりで過ごす時間を設け,子どもとじっくりかかわることで子どもの思いの表出を促し,信頼関係を築いていた.看護師が子どもとの間で子どもと大人との信頼関係を修復することによって,子どもは困っている時に看護師を求めることや自らの思いを言語化することができるようになっていた.

テーマ5:子どもらしい体験を補う

fくん(9歳)は聴覚や触覚の過敏性があり,学校で周りの子どもの言動が刺激となって暴言や暴力が増えて入院となった.

入院3週間目のある日,fくんは病棟のホールで腕を振って走り回っていた.A看護師は「fくん,ホールでは歩きます.ほら,こっちで遊びましょう」と一緒に座ってカードゲームや折り紙を始め,遊び方を教えていた.その後,fくんは「ねー折り紙やろう」と看護師や保育士を誘うようになり,入院2ヶ月目には他の子どもと一緒に折り紙で遊ぶようになった.しかし,入院3ヶ月目にはマット全体に折り紙を広げて遊ぶようになり,看護師と保育士は‘折り紙はマットのマス目2枚分で遊ぶ’と病棟のルールを決め,fくんが実践できた時には「すごいね」と褒めていた.

「初めはずっとテーブルを叩いたりホールで側転したりしていた.でも今は(し)ない.遊びが拡がって自己刺激をしなくても遊べるようになっている.fくんの父が折り紙やトランプ嫌いなの.(fくんはそれらの遊びを)ここで初めて覚えたのよ.父とfくんの特性が似ているけれど興味があるものが全く違うんですって.(今は生活上の)ルールを守ることができている.初めはいろんなルールが分からなかったんですよ.家で親が枠(ルール)を作ることができない.あの子って嘘はつかないでしょう.拒否的とか否定的な言葉や態度じゃなくて褒めながら言い聞かせることが大事なのよね」(A看護師)

A看護師は,fくんがテーブルを叩くのは自己刺激的な遊びであり,生活上の様々なルールを分かっていないためであると捉え,fくんの興味や性格を探って静かに熱中してできる遊びを一緒にやり,褒めながら遊び方やルールを伝えていた.そうした遊びやかかわりがfくんと家族との間でこれまで行われてこなかったことや家族の特性に着目し,fくんのそうした体験を補っていた.

F看護師は,ひらがなを書くことが難しいdくん(9歳)に日々ひらがなを教えていた.入院2ヶ月目のある朝,F看護師は笑顔で「今朝dくんが2時間ずっと絵や字を描いていたんです.『ひらがな教えて,英語教えて』とか.前は1本線を描くだけでも集中できずに不穏になっていたのに.これまで通常学級でついて行けたと親は言うけれど学校でどうしていたんですかね」と語った.

以上のように看護師は,子どもと家族とのかかわり方や家族の特性に着目し,他者との遊び方やかかわり方が分からない子どもはこれまで家族との間で子どもらしい遊びやかかわりを体験してこなかったと捉えていた.看護師が子どもの興味や子どもに必要なかかわりを探って一緒に行い,子どもらしい体験を補うことで,子どもは新たな遊びや社会性を身に付けられるようになっていた.

テーマ6:成長を子どもに伝える

dくん(9歳)の入院2ヶ月目のある日,病棟のベンチに座って大声で歌う男子5人の声が響いた.傍に立っていたG看護師は,5人に少し声を小さくするように呼びかけた.ベンチから5 mほど離れたマットに座って別の男子3人と一緒にゲームをやっていたdくんは,彼らの声が大きくなると顔を上げて彼らを睨み「ねーGさん.あれ,うるさいよ.なんとかして」とG看護師に聞こえるように言った.G看護師がマットに膝をついて「そうだね.注意しているから」と穏やかに話すと,dくんはジッと彼らを見た後,再びゲームを始めた.

G看護師は「dくん,前だったら彼らに『うるさい』って叫んだりしちゃった.それが職員に言えるようになったのは凄い」と語り,dくんが周りで遊ぶ子どもの言動に反応せずに看護師へ自分の思いを話せるようになり,集中して友達と遊ぶことができるようになった変化を敏感に捉えていた.G看護師は,これらの変化が「薬が効いて落ち着いている」という内服薬の調整や「友達ですかね.あの(dくんといる)男の子たちは皆落ち着いているメンバーで,そういう子たちの仲間に入れるって大きい」と,特性や興味,関心が似ている子どもと仲良くなったことからもたらされていると捉え,F看護師は「成長した」ことをdくんに伝え,退院後も学校で友達関係を築けるようにつないでいた.

bちゃん(10歳)の入院4ヶ月目のある日,H看護師は翌日から外泊に行くbちゃんに,病棟で看護師に相談できるようになっていることと「それを親御さんにもして下さい」と伝えた.翌日の外泊でbちゃんは「プールに入りたい,上がりたい」と親に話すことができた.帰棟後,H看護師から「すごい」と褒められたbちゃんは笑顔で「できた」と言い,自信が持てるようになっていた.

「前は(イライラしながら)『イライラしてない!』って言っていたけれど,今は『薬飲みたい』って言いに来ます.薬飲んだ後に落ち着いていられるのが分かったんだと思う.今回は家でも思いを言えて,成長したんですよ」(H看護師)

その後,bちゃんの退院に向けてH看護師は,入院前に通っていた学校の教諭や家族に看護師のかかわり方とそれに対するbちゃんの反応や成長を伝え,家庭や学校の環境でできることは何かを話し合っていた.N精神保健福祉士は,「看護師のかかわりを家族や学校の先生に伝えて,家や学校の環境でできることは何か,どうすればいいのか,対応を調整することが大切なんです」と語った.

以上のように看護師は,子どもが他の子どもと一緒に仲良く遊んだり,落ち着く方法を実践できたり,自分の思いをその都度訴えられるように変化していることを敏感に捉え,その子どもなりの成長を感じ取っていた.そして,子どもの成長を子ども本人に伝え,看護師のかかわり方や子どもの成長を家族や学校の教諭にも伝えることで,子どもの成長を家庭や学校へとつないでいた.

2.子どもの‘人とかかわりたい’思いに応える

分析結果で明らかになったテーマ全体から,以下の大テーマが抽出された.

大テーマ:発達障害の学童をありのまま受け止めて,子どもが距離の近さで訴える‘人とかかわりたい’思いに応える

看護師は,子どもと他者とのかかわり方や関係性,距離の近い状況を観察し,感じ取った距離の近さや関係性の情報を他職種と共有して積み重ねていた.それは,子どもの距離の近さや思いを受け止め,「嘘はつかない」といった子どもの本質的な性格を捉えて全人的に理解しながら子どもをありのまま受け止め,子どもの距離が近い理由とその意味を見極めるかかわりであった.さらに看護師は,子どもに適切なかかわり方を教え,落ち着く状態に導き,子どもと大人との信頼関係を修復し,子どもらしい体験を補うことで,子どもの‘人とかかわりたい’思いに応えていた.こうした看護師のかかわりによって子どもは,他の子どもと一緒に遊んだり思いの言語化ができたりするように変化していた.

Ⅳ.考察

本研究結果を看護師が【子どもをありのまま受け止める意味】,看護師が子どもの‘人とかかわりたい’思いに応えて【子どもに対処方法を伝える意味】と【子どもと一緒に過ごして体験を補う意味】の3つの視点から考察する.

1.距離の近さで訴える思いの見極め

本研究で病棟の看護師が使う「距離が近い」という言葉は,子どもが家族や看護師,他の子どもと身体接触が多いこと,感覚過敏性や衝動性の高い子ども同士が近寄って暴言や暴力が出ること,子どもが家族や他の子どもに言動を指示すること等を指していた.発達障害の学童が示す他者との距離の近さには,対人関係の障害やアタッチメントの問題,虐待や強い叱責といったトラウマ体験等(杉山,2011),様々な理由が潜んでいる.

様々な理由が絡み合って起きている他者との距離が近い状況を子ども自身が言葉で説明することや子どもとの関係の渦中にいる家族が理解することは困難であった.そのため,人がどのようにその状況に巻き込まれているかを理解することで課題と対処が分かると指摘されているように(Benner & Wrubel, 1989, pp. 20–22),看護師が子どもと他者との距離が近い状況をよく理解して必要な対応を見極める必要がある.

その方法として病棟の看護師は,テーマ1~5のように子どもと他者との距離が近い状況に入り込み,感じ取った距離の近さを言語化し,テーマ1, 4, 5のように子どもと家族の関係性や家族の特性を捉え,それらの情報を他の看護師や他職種と積み重ねることで,複雑に絡み合った理由を紐解いて距離の近さの意味を探っていた.さらに,病棟の看護師は子どもをありのまま受け止めることで,テーマ1, 2, 4のように子どもが距離の近さで訴える,構って欲しい,遊びたいといった‘人とかかわりたい’思いを見極めることができていた.

しかし,病棟の看護師が子どもをありのまま受け止めることには困難も伴っていた.テーマ5でB看護師は,aくんから家族へ向ける態度と同様の拒否的態度を向けられ,他の子どもとのトラブルが続く現状に悩み,家族の辛さも体感していた.それでもB看護師は,自らの感情やaくんとの関係性を他の看護師や他職種と共に話し合って言語化することでaくんの変化に気づくことができていた.アタッチメントの形成が阻害されている子どもをケアする人には,子どもの行動の裏に潜む問題を考慮できる能力や子どもの痛みに気づき,認め,証言できる能力が求められる(James, 1994, p. 75).子どもをありのまま受け止めることで看護師が感じる困難は,発達障害の学童が抱えている他者とかかわる上での困難感や家族が感じている痛みそのものであったと考えられる.

病棟の看護師が子どもや家族の痛みに気づくことができたからこそ子どもの‘人とかかわりたい’思いを見極めることができ,また,子どもの変化や子どもとの関係性の変化を敏感に捉えることを大切にしていたからこそ,子どもが他の子どもとの遊びや思いの言語化ができるように変化したと考えられる.

2.対処方法の体得の支援

発達障害の子どもを対象とする治療教育では,日常生活のスケジュールやルール(枠組み)等を決める「構造化」が行われる(市川,2005).病棟の看護師は子どもの生活全般について枠組みを決めていたが,子どもの家庭生活には様々な枠組みがないことや家族が子どもの言動に反応して叱責したり離れられずにいたりと子どもに巻き込まれていることをテーマ1~5で見出していた.一般的に学童期は子ども同士の交流が重要な時期だが,発達障害の学童同士では互いに巻き込まれてしまうことも病棟の看護師はテーマ1~5で見出していた.アタッチメントとトラウマに関する問題を抱える子どものケアは困難なもので長期に亘る(James, 1994, p. 79).実際,テーマ2, 3, 6のように,子どもが人との適切なかかわり方等を覚えるのには入院から数ヶ月間を要していた.

場の空気や相手の気持ちを読み取ることが難しい発達障害の子どもには(Baron-Cohen et al., 1993杉山,2011),自身を取り巻く状況や状態を代わりに読み取って伝えてくれる存在が必要である.テーマ2, 3で病棟の看護師が,他者との距離が近い子どもの状況や状態を読み取って子どもに説明し,子どもに対処方法を伝え,自ら方法を実践して見せていた意味は,他者との距離が近い状況で相手の気持ちや自分がどうするべきか判断することが難しい発達障害の学童が対処方法を体得できるように支えることにあった.それによって子どもは,テーマ2, 3, 6のように人との適切なかかわり方や自分自身が落ち着く方法を実践して理解し,自分なりの対処行動がとれるように成長していた.

看護師は子どもの言動の原因を把握して具体的な対処方法を説明する必要があると言われているように(市川,2005),これまで子どもへの対処方法の伝え方が明らかになっている.本研究では子どもへの伝え方に加え,子どもの対処方法の体得を支える上で看護師は自らの存在が子どもに影響を与えることを意識し,実践モデルとなって対処方法を示すことが重要であると新たに明らかになった.

3.信頼感やアタッチメントの修復

テーマ4, 5で病棟の看護師は,まず子どもと一緒に遊ぶこと等で子どもに安心感をもたらし,子どもが入院生活に慣れた頃や子どもと看護師との関係性の変化に合わせて,子どものパーソナルスペースを守ると同時に二人きりで過ごす時間や空間を設けて子どもらしい体験を補うという段階的なかかわりをしていた.さらにテーマ4~6のように病棟の看護師は,叱責によって子どものトラウマ体験を再現しないよう,褒めるかかわりを続けて子どもの自尊心を高めていた.

病棟の看護師が根気強く数ヶ月間に亘って子どもと過ごす時間を大切にしていたからこそ,子どもは他の子どもとの遊びや思いの言語化ができるように変化したと考えられる.その過程で病棟の看護師は,看護師を目で追うといった子どもの愛着行動(Bowlby, 1982)の変化を捉え,子どもと大人との信頼関係や子どものアタッチメントの形成,修復のサインとして受け止めていた.

児童精神科看護師が行う遊びは子どもの看護師への信頼やアタッチメントを促進させることが明らかになっている(花田ら,2005).これらに加え,テーマ4, 5で病棟の看護師が子どもと二人で過ごす時間を設け,子どもが家族との間で体験してこなかった遊び等を一緒に行った意味は,大人との信頼関係ができていないために他の子どもともうまくかかわることができない発達障害の学童の,大人への信頼感やアタッチメントを修復することにあった.本研究によって,看護師は発達障害の学童の信頼感やアタッチメントを形成する役割に加えて修復する役割も担っていることが新たに明らかになり,看護師が築く病棟環境は子どものアタッチメントに影響を与えることが示唆された.

アタッチメントやトラウマの問題を抱えた子どもには注意深くゆっくりとしたペースで新しい関係を受け入れてもらう必要がある(James, 1994, p. 92).本研究から,子どもの信頼感やアタッチメントの修復のためにはゆっくりとしたペースの中で子どもの変化に応じた段階的なかかわりを行う必要があると言える.また,看護師の行う遊びは子どもの新しい体験や学習につながるが(花田ら,2005),新しい体験に加え,看護師は子どもがこれまで家庭で体験していない子どもらしい体験を見極め,その体験を補うことが重要であると新たに明らかになった.

病棟の看護師は,自らのかかわり方やその意図,子どもの変化を他の看護師や他職種,子ども,家族に伝えて共有していた.それを大切にする文化特有の価値観と慣習を看護に活かしているからこそ(Leininger, 1992),看護師の実践知(Benner & Wrubel, 1989)の共有や他職種との連携の強化につながり,テーマ6のように子どもの成長を家庭や学校へとつなぐことができていたと考えられる.

Ⅴ.研究の限界および今後の課題

本研究は,子どもとその家族に看護師のかかわりをインタビューしておらず,子どもや家族が捉えた看護師のかかわりとその影響は明らかになっていない.今後,子どもや家族を主要情報提供者にして研究を行うことで子どもや家族への理解を深め,より効果的な看護師のかかわりが明らかにできると考える.

Acknowledgment

本研究にご協力下さいました研究参加者の皆様,研究施設の皆様,ご指導下さいました日本赤十字看護大学筒井真優美教授に感謝申し上げます.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

本研究は日本赤十字看護大学大学院看護学研究科修士課程に提出した修士論文に加筆,修正を加えたものである.本研究の一部は,第32回日本看護科学学会学術集会にて発表した.

References
  • Baron-Cohen S., Tager-Flusberg H., Cohen D.(1993)/田原俊司(1997):心の理論自閉症の視点から(上),八千代出版,東京.
  • Benner P., Wrubel J.(1989)/難波卓志(1999):現象学的人間論と看護,医学書院,東京.
  • Bowlby J.(1982)/黒田実郎,大羽蓁,岡田洋子,他(1993):母子関係の理論I愛着行動,岩崎学術出版社,東京.
  • 福山由紀子,川中邦恵(2009):多動,衝動性が高い患児の暴力に対する看護介入—淋しさやあまえを受容したかかわりを振り返る—,日本精神科看護学会誌,52(2),43–47.
  • 花田裕子,寺岡征太郎(2005):児童精神看護で実践されているケアとしての遊びの構成要素,日本精神保健看護学会誌,14(1),71–78.
  • 市川宏伸(2005):ケースで学ぶ子どものための精神看護,医学書院,東京.
  • James B.(1994)/三輪田明美,高畠克子,加藤節子(2003):心的外傷を受けた子どもの治療—愛着を巡って,誠信書房,東京.
  • Leininger M. M.(1992)/稲岡文昭(1995):レイニンガー看護論—文化ケアの多様性と普遍性,医学書院,東京.
  • 杉山登志郎(2011):発達障害のいま,講談社,東京.
  • van Ijzendoorn M. H., Rutgers A. H., Bakermans-Kranenburg M. J., et al. (2007): Parental sensitivity and attachment in children with autism spectrum disorder: Comparison with children with mental retardation, with language delays, and with typical development, Child Dev., 78(2), 597–608.
  • 柚山香世子,中谷春香,千田謙(2006):小児(幼児・学童期)精神科病棟のSSTを意識した看護師のかかわりの効果—アスペルガー障害をもつ3事例を通して—,日本看護学会論文集 小児看護,37,62–64.
 
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