2014 年 34 巻 1 号 p. 208-216
目的:急性期医療を担う関東圏の中堅看護師の職場における「自己の存在価値の実感」と「職務エンパワメント」,「個人的達成感」の関連を検討する.
対象と方法:急性期医療を担う関東圏の病院に勤務する中堅看護師533名を対象に質問紙調査を実施した.「自己の存在価値の実感」はグレッグ(2005)を参考に3因子7項目にて構成し,構成概念妥当性,信頼性を確認した.さらに共分散構造分析にて「自己の存在価値の実感」と「職務エンパワメント」,「個人的達成感」の関連を検討した.
結果:269名より回答を得た(有効回答率50.5%).共分散構造分析の結果(n=259),「職務エンパワメント」が「個人的達成感」に与える直接的な影響は.10であり,「自己の存在価値の実感」を介した間接的な影響は.21であった.
結論:「職務エンパワメント」が「個人的達成感」に与える直接的な影響より,「自己の存在価値の実感」を介した間接的な影響の方が大きかった.「自己の存在価値の実感」は急性期医療を担う中堅看護師にポジティブな影響を与える要因として有用であると推察される.
中堅看護師の職務環境の改善は喫緊の課題である.近年,中堅看護師のバーンアウトが問題となっており,加藤ら(2011)の調査では中堅看護師(331名)の8割が燃え尽きの警戒群であったことが報告されている.その背景には職務における役割増大やワーク・ライフ・バランスにおける葛藤など中堅看護師特有の問題がある.中堅看護師は看護の臨床実践能力や自律度,臨床判断力も高いため(小山田,2009),病棟においては中核的な役割を担い,職場から期待される存在である.そのため複数の業務や役割を担うものの,役割業務負担感,役割の曖昧さは離職意図につながることが報告されている(瀬川ら,2010).さらに結婚や出産,子育てなどのライフイベントが重なりやすい25歳から34歳の看護師は,それを機に離職を考える者も多く(日本看護協会政策企画部,2011),仕事と家庭生活の葛藤(竹内,2010)がバーンアウトの増大(Burke & Greenglass, 2001)や離職意図(Simon et al., 2004)につながることも示唆されている.また常勤看護職員の離職率の高さと平均在院日数の短さには負の関連があることが明らかにされており(藤原ら,2009),急性期医療を担う病院の中堅看護師の負担は大きいと推察される.
このように中堅看護師特有の職務環境がバーンアウトや離職意図につながることが明らかになっている.だが,中堅看護師が仕事にやりがいを持って働くためには,バーンアウトのようなネガティブな側面だけではなく,ポジティブな側面についても検討する必要がある.
ポジティブな気持ちを測定する尺度はいくつかあるが,その中の一つに「個人的達成感」がある.「個人的達成感」は日本語版バーンアウト尺度(久保ら,1992)の下位尺度の一つであり,バーンアウトを測定する際には,反転項目として用いられている.
他にも,ワーク・エンゲージメントという概念がある.ワーク・エンゲージメントはバーンアウトの対概念としてSchaufeliら(2003)によって開発された.しかし,先行研究においては日本人の得点が低い傾向がみられている(岩田,2009; Shimazu et al., 2010).また,船越ら(2006)は看護師の働きがいの構成要素と影響要因について明らかにしているが,働きがいそのものを測定する尺度については作成していない.個人的達成感はバーンアウト尺度の下位尺度のうちの一つであるが,「ヒューマンサービスの職務に関する有能感,達成感」(久保,2007)とされ,高得点になるほど,有能感,達成感が高いことを意味している(久保ら,1994;井田ら,2004;贄川ら,2005).
ポジティブな側面との関連を示す職務環境として職務エンパワメント(Laschinger et al., 2001)が注目されている.Kanter(1993/1995)は仕事の業績に影響を与えるのは性差や個人の能力よりも,職場から受けている「機会」や「支援」といった職務エンパワメントが影響しているとし,職務エンパワメントの重要性を強調している.Laschingerら(2001)は,Kanterの理論が看護職に適用できることを検証し,「機会」「支援」「資源」「情報」の下位尺度からなる職務エンパワメント尺度を開発した.佐々木ら(2011)は,日本の看護師1,511名を対象に,Laschingerの職務エンパワメント尺度を日本語に翻訳した尺度を開発している.だが,単に職務エンパワメントを与えればよいというわけではない.どれだけ職務エンパワメントを与えても,「職務エンパワメント」が個人にとって意味のないものであれば,ポジティブな気持ちにはつながらないと考えるからである.
中堅看護師の仕事に対する意識調査からは,「上司や同僚に自分の仕事が評価されない」という不満が強いことが報告されており(日本看護協会政策企画部,2010),自分が組織にとって重要であると感じにくい職場であることが推察される.グレッグ(2005)は「自分が組織にとって重要である」と感じるためには,「自己の存在価値の実感」が必要であると述べている.「自己の存在価値の実感」とは有用性,成長,承認の要素を含むポジティブな気持ちであり,この病院で頑張ろうという思いにつながっていた(グレッグ,2005).
以上のことから,「職務エンパワメント」が直接「個人的達成感」に影響を与えるという関係よりも,「職務エンパワメント」が職場における「自己の存在価値の実感」を介して間接的に「個人的達成感」に影響を与えているのではないかと考えた.よって本研究では,「職務エンパワメント」と「自己の存在価値の実感」,「個人的達成感」の関連について検討し,「自己の存在価値の実感」の有用性について検討する.
なお,本研究における中堅看護師は,Benner(2005/2005)を参考に臨床経験年数4年目以上かつ,Schein (1978/1991)のキャリア中期である25~34歳の看護師・助産師とし,副看護師長・看護師長は含めない.
本研究の概念枠組みを図1に示す.先行研究にて「職務エンパワメント」は「個人的達成感」を高めることが示されている(Hatcher & Laschinger, 1996)(図1-①).
本研究では「職務エンパワメント」が直接「個人的達成感」に与える影響よりも(図1-①),「自己の存在価値の実感」を介して「個人的達成感」に与える影響の方が(図1-③→②)大きいと考えた.
またバーンアウトは仕事の多忙さに影響を受けることが示唆されている(久保ら,1994;田尾,1987).よって「個人的達成感」においても仕事の多忙さを示す「業務過多」の影響を受けると考え(図1-④),概念枠組みに加えた.
個人特性については,職務エンパワメント(佐々木ら,2011)の関連因子や「自己の存在価値の実感」の類似の概念である組織コミットメント(能見ら,2010)の関連因子,「個人的達成感」(田尾ら,1996)の関連因子を参考にした.さらに中堅看護師の生活背景を把握するため,仕事・家庭生活・趣味が日常生活の中でどの程度優先されるかも重要であると考え,調査項目に含めた.
急性期医療を担う関東圏の3病院に勤務する中堅看護師全員を対象とし,無記名自記式質問紙調査を行った.調査協力依頼は,各病院の看護部長に依頼し,了承を得た.調査票の配布は看護部を通じて行い,回収は回答者個々に研究者あてに直接郵送してもらった.本研究では施設ごとに分析結果をフィードバックするため,病院コードを付して調査を行った.
各病院の特徴(平均在院日数,中堅看護師の割合等)については,看護部を対象に質問紙調査を行い把握した.
2.調査内容1)自己の存在価値の実感「自己の存在価値の実感」は「自己の有用性」「自分の努力・成長の実感」「他者による良い評価・承認」の3因子からなる(グレッグ,2005).「自己の存在価値の実感」については,既存の尺度は存在しないため,グレッグ(2005)が質的研究で明らかにした「自己の存在価値の実感」のサブカテゴリーを参考に「自己の有用性」3項目,「自分の努力・成長の実感」1項目,「他者による良い評価・承認」3項目,計7項目を5件法(1.一度も感じない,2.ほとんど感じない,3.時々感じる,4.よく感じる,5.いつも感じる)にて質問した.
この得点が高いほど,職場において自己の存在価値を実感していることを意味する.信頼性についてはCronbachαを算出した.妥当性については研究者間で検討を重ね,内容的妥当性を確保するとともに,プレテストにて表面的妥当性を確保した.因子構造の妥当性についてはSPSSにて確認的因子分析を行った.
2)職務エンパワメント日本語版職務エンパワメント尺度(佐々木ら,2011)のうち「機会」7項目,「支援」9項目を使用した.日本語版職務エンパワメント尺度は,「機会」「支援」「資源」「情報」の4つの下位尺度から構成されるが,「資源」の意思決定に関する項目や「情報」の給与体系の可視化に関する項目が日本ではフロア効果を示し,具体的な行動と結びつきにくく,答えにくい質問であることが示唆されていた(佐々木ら,2011).そのため本研究では「職務エンパワメント」を「機会」「支援」の2つの下位尺度で測定する.各下位尺度(「機会」7項目,「支援」9項目,計16項目)については,現在職場にどれくらいの「機会」や「支援」があるかを5件法(1.ほとんどない,2.あまりない,3.ややある,4.わりにある,5.たくさんある)にて質問した.職務エンパワメント尺度は下位尺度ごとに平均得点を算出する(佐々木ら,2011).本研究でも「機会」や「支援」の下位尺度ごとに平均得点を算出し,その得点を「機会」,「支援」とした.それぞれの平均得点が高ければ高いほど「機会」や「支援」を受けていると感じていることを示す.
3)個人的達成感日本版バーンアウト尺度(久保ら,1992)の下位尺度のうち「個人的達成感」6項目を用いた.項目には「仕事を終えて今日は気持ちのよい日だったと思うことがある」「今の仕事に心から喜びを感じることがある」などがあり,職場における有能感や達成感を示す内容となっている.日本版バーンアウト尺度は,3下位尺度ごとに得点を算出できる(久保,2007).そのため本研究では,中堅看護師が仕事に達成感を感じている状態を示す尺度として,「個人的達成感」を用いた.回答形式は5件法(1.ない,2.まれにある,3.時々ある,4.しばしばある,5.いつもある)による段階評価を用いた.本研究では,この平均得点を「個人的達成感」の得点(久保ら,1994)とした.平均得点が高いほど「個人的達成感」を感じている状態を示す.
4)業務過多バーンアウトは仕事の多忙さに影響を受けることが明らかにされている(久保ら,1994;田尾,1987).よって「個人的達成感」においても仕事の多忙さを示す「業務過多」の影響を受けると考え,職場ストレッサー尺度(福田ら,2006)の下位尺度のうち「業務過多」4項目を調査した.職場ストレッサー尺度は下位尺度ごとに項目評定の平均値を算出するとされており,下位尺度「多忙・業務過多」のみを抜きだして使用できる(堀,2007).最近1ヵ月くらいの間でどれくらいの頻度で感じたかをあてはまる番号(1.ない~5.いつもある)に印をつけて回答してもらう.平均得点が高ければ,高いストレスを受けていることを示す.
3.倫理的配慮日本看護協会「看護研究における倫理指針」に基づいて倫理的配慮を行った.また国立国際医療研究センターの倫理審査委員会の承認を得て実施した(NCGM-G-001222-00).調査への協力は自由意思に基づき,回答しなくても不利益をこうむることはないことを調査票に記載した.
4.分析方法統計ソフトはIBM SPSS Statistics ver. 19とAMOS ver. 21を用い,以下の分析を行った.
概念枠組みより「職務エンパワメント」が「自己の存在価値の実感」を介して「個人的達成感」に影響を与えるモデルを作成し,共分散構造分析にて検討した.個人特性は,すべての変数との関連を検討した.本研究で測定した変数間の関連については,Spearmanの順位相関係数を用いて多重共線性を検討した.
モデルの評価には,χ2値,CFI (Comparative fit index), GFI(Goodness of fit index), AGFI(Adjusted goodness of fit index), RMSEA(Root mean square error of approximation)を用いた.CFI, GFI, AGFIは.900以上,RMSEAは.050以下を良好なモデルとした(豊田,1998).
調査協力施設の病床数は400~600床であり,平均在院日数11~14日であった.また調査協力施設における常勤看護職員数に対する中堅看護師の割合は約26~46%であった.
2.分析対象者の特性調査対象者は533名,調査票回収数270部,回収率50.7%であった.個人特性がすべて無記入であった1部を除いた269部(有効回答率50.5%)を分析対象とした.分析対象者の個人特性を表1に示す.分析対象者の年齢は中央値29歳,範囲は24~35歳であった.現看護単位経験年数は中央値3.3年,範囲は1ヵ月から13.3年であった.現病院経験年数は中央値4.4年,範囲は1ヵ月から13.3年であった.看護職経験年数は中央値6.3年,範囲は3.3年から13.8年であった.性別は女性が247名(91.8%),資格では看護師が253名(94.1%)であった.教育機関については,個人の中で教育程度が高いもの(専門学校<短期大学<大学<大学院)を最終学歴とした結果,専門学校94名(34.9%),短期大学24名(8.9%),大学144名(53.5%),大学院7名(2.6%)であった.希望の部署への配属は,希望どおりだった154名(57.5%),希望どおりでなかった69名(25.7%),どちらでもない45名(16.8%)であった.仕事・家庭生活・趣味の優先度では,「仕事を優先」16.0%,「家庭生活を優先」11.6%,「趣味を優先」4.9%,「仕事・家庭生活をともに優先」17.9%,「仕事・趣味をともに優先」21.6%,「家庭生活・趣味をともに優先」9.7%,「仕事・家庭生活・趣味をともに優先」13.8%,「わからない」4.5%であり,家庭生活を優先と考える者は142名(53.0%)であった.
本研究で使用した「自己の存在価値の実感」と個人特性には,現看護単位経験年数,現病院経験年数,希望の部署への配属において有意差がみられた.だが,現看護単位経験年数,現病院経験年数においては相関係数が低く,希望の部署への配属においては「機会」の項目「昇進またはより良い部署への異動の機会」と内容が類似しており,「機会」の得点が高かったものが「希望どおりだった」を選んだ可能性がある.そのため,これらの個人特性はモデルに含めなかった.
3.「自己の存在価値の実感」の信頼性・妥当性「自己の存在価値の実感」7項目の記述統計量を表2に示す.7項目の平均値は2.59~3.42(標準偏差=0.54~0.83)であり,天井効果・フロア効果はみられなかった.「自己の存在価値の実感」7項目のCronbachαは.828であった.また「自己の存在価値の実感」を「自己の有用性」,「自分の努力・成長の実感」,「他者による良い評価・承認」の3因子構造と仮定し,SPSSにて確認的因子分析を行った.因子の抽出法は主因子法,回転はプロマックス回転とした.その結果,「自己の有用性」3項目,「自分の努力・成長の実感」1項目,「他者による良い評価・承認」3項目の3因子に分かれ,構成概念妥当性が確認された(表3).
概念枠組みに基づき,「職務エンパワメント」が「自己の存在価値の実感」を介して「個人的達成感」に与える影響を検討した(図2).その結果,「職務エンパワメント」から「個人的達成感」へのパス係数(標準化推定値)は.10であった.また「職務エンパワメント」から「自己の存在価値の実感」へのパス係数は.35であった.「自己の存在価値の実感」から「個人的達成感」へのパス係数は.61であった.さらに「職務エンパワメント」から「個人的達成感」への直接効果が.10であるのに対し,「自己の存在価値の実感」を介した間接効果は.35×.61=.21であった.直接効果と間接効果の和である総合効果は.31であった.また仕事の多忙さを示す「業務過多」から「個人的達成感」へのパス係数は−.12であった.
χ2値=107.277, df=40, p<.001, CFI=.925, GFI=.933, AGFI=.890, RMSEA=.082 * p<.05, *** p<.001
数値はパス係数(標準化推定値),下線は決定係数.
直接効果:.10 (「職務エンパワメント」から「個人的達成感」)
間接効果:.21=.35 (「職務エンパワメント」から「自己の存在価値の実感」)×.61 (「自己の存在価値の実感」から「個人的達成感」)
総合効果:.10+.21=.31
「自己の存在価値の実感」の決定係数は13%,「個人的達成感」の決定係数は43%であった.適合度指標はχ2=107.277, df=40, p<.001, CFI=.925, GFI=.933, AGFI=.890, RMSEA=.082であった.
調査協力施設の病床数は400~600床であり,平均在院日数11~14日であった.一般病棟入院基本料を算定している病院(400床以上)の一般病床の平均在院日数14.8~16.8日(日本看護協会政策企画部,2011)と比較すると,調査協力施設の平均在院日数は短かった.また調査協力施設における常勤看護職員数に対する中堅看護師の割合は約26~46%であった.平成22年度末の年齢階級別にみた就業看護師数(厚生労働省,2011)では,25歳から34歳までの看護師数は全体の31.6%であり,同様の割合であると考えられる.
2.「自己の存在価値の実感」7項目の信頼性・妥当性「自己の存在価値の実感」7項目全体のCronbachαは.80以上であり,高い内的整合性を示していた.また,確認的因子分析の結果,本研究で作成した「自己の存在価値の実感」尺度は,グレッグ(2005)が質的研究で明らかにした3因子(「自己の有用性」「自分の努力・成長の実感」「他者による良い評価・承認」)と構造が一致していたことから,構成概念妥当性が確認でき,本研究の分析に耐えうると判断した.
3.「職務エンパワメント」が「自己の存在価値の実感」を介して「個人的達成感」に与える影響の検討「職務エンパワメント」は,直接「個人的達成感」を高めるというよりも,むしろ「自己の存在価値の実感」の影響を介して間接的に「個人的達成感」を高めていた.共分散構造分析で「職務エンパワメント」から「個人的達成感」へ与える直接効果は.10であったのに対し,「職務エンパワメント」が「自己の存在価値の実感」を介し「個人的達成感」を高めるといった間接効果は.21であり,間接効果の方が高い値を示していた.また「個人的達成感」への影響については,「業務過多」からの影響が−.12であるのに対し,「自己の存在価値の実感」からの影響は.61という結果を示しており,「自己の存在価値の実感」の方が「業務過多」よりも「個人的達成感」に大きな影響を与えていた.これらの結果から,以下2点の知見が示唆できる.
1つ目は,「自己の存在価値の実感」の有用性についてである.本研究では「職務エンパワメント」が直接「個人的達成感」を高めたという関係よりも,「職務エンパワメント」により,職場における自己の存在価値を実感できたことが「個人的達成感」を高めた可能性が考えられる.これは,単に「職務エンパワメント」を与えればよいというわけではなく,「自己の存在価値の実感」という意味づけが「個人的達成感」を高めるのに有用であるとする仮説を支持するものである.
2つ目は,急性期病院の多忙な環境においても「自己の存在価値の実感」を高めると「個人的達成感」が高まる可能性があるという知見である.「自己の存在価値の実感」は「業務過多」を調整しても「個人的達成感」に大きい影響を与えていた.「自己の存在価値の実感」には「自己の有用性」,「自分の努力・成長の実感」,「他者による良い評価・承認」の3側面があるが,例えば,スタッフに対し「あなたの仕事は職場の役に立っている」,「あなたは職場にとって必要な存在だ」というメッセージをしっかり伝えることが「自己の存在価値の実感」を高めるのに有用であろう.
これまで「自己の存在価値の実感」について量的に検討された研究はなく,本研究において「自己の存在価値の実感」が「職務エンパワメント」と「個人的達成感」を介するポジティブな要因として有用であることが明らかになったことは新たな知見である.
今後「自己の存在価値の実感」を高める他の要因についても検討していく必要がある.
本研究では急性期医療を担う関東圏の中堅看護師が認識している「自己の存在価値の実感」と「職務エンパワメント」,「個人的達成感」の関連を明らかにすることを目的に分析を行った.その結果「職務エンパワメント」が「個人的達成感」に与える直接的な影響より,「自己の存在価値の実感」を介した間接的な影響の方が大きく,「自己の存在価値の実感」の意義が示唆された.さらに「自己の存在価値の実感」は「業務過多」による影響を考慮しても「個人的達成感」に大きな影響を与えていた.これは急性期病院に特徴的な多忙な環境においても,「自己の存在価値の実感」を高めると「個人的達成感」が高まる可能性を示唆している.
本研究にご協力いただきました皆様に心より感謝申し上げます.
本研究は,国立看護大学校研究課程部看護学研究科に提出した特別研究論文(修士論文)の一部に加筆・修正を加えたものである.
利益相反:本研究における利益相反は存在しない.
著者資格:すべての著者は共同で研究を実施し,論文を作成した.JMは,MOとKKの指導を受けながら,研究の着想,研究デザインの作成,調査,データ入力と分析,データの解釈,論文作成を行った.すべての著者は最終原稿を読み,承認した.