目的:集中治療室に緊急入室した意識障害のある患者の家族に対し,エキスパートナースの直観は,その家族への援助にどのように影響しているのかを明らかにする.
方法:集中治療室のエキスパートナース6名を対象に半構造化面接を行った.Bergsonの直観を前提とし,直観を示す言葉,それに関連した思考や行為を抽出し,それぞれを質的記述的に分析した.また,場面全体を時系列に直し,直観から捉えた家族援助への影響を分析した.
結果:エキスパートナースの直観は家族の状況を瞬時に捉えていたことが明らかになった.その直観は,無意識に家族の目や口元などから家族の心情を推論していた.エキスパートナースは直観により家族の不安定な状況や気持ちの変化などを認識しており,それに応じて観察や声かけなどの援助を行っていた.また,家族と出会った最初の直観と,以降の思考,行為がつながっていた.
結論:エキスパートナースは直観により動的な家族の内面を捉え,その解釈を踏まえながらより確かな援助へと導いており,思考と援助が連関していると考えられる.
集中治療室(Intensive Care Unit,以下ICUとする)において,生命の危機状態にある患者への看護と同様に,その家族への看護も重要である.救急医療・集中治療の場では,出来事に対する予測や準備がないこと,患者の死が想起されるなどから家族は危機に陥りやすく(山勢,2002;鈴木ら,2006),ICUに緊急入室する患者の家族は,複雑で個別の思いを持った状態である(緒方ら,2004;橋田ら,2006).また急性期における意識障害患者の家族は,患者と対面するまでに非現実的で漠然とした感覚に陥り,その後希望と落胆の中で葛藤を抱くこと(榑松ら,2011),医師の説明や患者の反応から最悪の事態を考えることもあることから(田中,2010),身内に意識障害が起こった家族は危機的状況にあると考えられ,ICUの看護師はできるかぎり早期から家族援助を行う必要があるといえる.
筆者は,エキスパートナースが意識障害のある患者の家族に初めて会った際,何となくおかしいと即時に捉え援助につなげていたという経験があった.この経験から,エキスパートナースは家族の内面を瞬時に捉え効果的な援助を実践している,すなわち直観を基に援助を実践していると考えた.看護師の臨床判断には分析的思考と非分析的思考である直観があり,直観は熟練した人間の能力で,看護において必要不可欠なものであるといえる(Benner & Tanner, 1987/1991; Corcoran, 1990;佐藤,1999;Tanner, 2000).また,クリティカルケアにおけるエキスパートナースは患者のありようを読み取る技能を持っており(中藤,2005),患者の異常時,緊急性の判断が必要なクリティカルな場面で直観が働いていることが示唆されていることから(本田ら,2006;岩田ら,2005;杉本ら,2005;冨久山,2006;渡辺,2002;山崎ら,2006),ICUのエキスパートナースは直観に基づき家族援助を行っていると考えられる.
なお,直観は一般的に定義が不明瞭で,直観を客観化された主観であるとするもの(小林,1990)や行為的直観(西田,1917)など様々あるが,看護においては,包括的に対象を捉えるという点で哲学における直観が有効だと考えられる(守田,2001).そこで,本研究ではBergson(1955/2010)を基に,直観を「対象の内面を,主観と客観の区別にとらわれない,ありのままを捉える共感」とした.Bergsonは,時間は不可分な流れとして持続しており,実在は持続の相のもと常に変化し多様であり流れていくもので,実在の本質を捉える認識は直観であるとしている.看護においても,Rogers(1970/1979)が「人間は,人間を構成する部分の総和以上の存在であり,その総和とは異なる存在なのである」「生命過程は,持続的,創造的,発展的,かつ不確定な要素を含む動的な過程である」と述べていることから,患者を現在だけでなく過去から今に至るまでの持続的な流れで捉えることは重要であり,Bergsonの考えは看護の本質に通じると考えた.哲学における直観を用いた研究では,直観を構成する要素との関連を研究したもの(川原ら,1996;山田ら,2007),直観が患者の危機的状況を捉えているかを調査したもの(小林ら,2001;國岡ら,1994),直観が離床にどう影響しているかを分析した研究(高山ら,2004)はみられたが,直観が看護行為等にどう影響しているかを分析した研究は少なく,家族援助への影響に関する研究は見当たらなかった.そこで,ICUに緊急入室した意識障害のある患者の家族に対してのエキスパートナースの直観は,ICU入室中の家族援助にどのように影響しているのかを明らかにすることとした.それによって,直観をもとに意識障害のある患者の家族に適した援助を早期から計画,実践することができ,患者家族が危機的状況から脱する一助となると考える.また,暗黙知となっていた,エキスパートナースの直観を活かした援助を示すことができ,看護教育の一助となると考える.
エキスパートナース:ICU所属経験年数が3年以上で,野島ら(1999)が述べる「適切な判断技術を用いて正確な臨床判断を行う能力」「看護の機能について独自の考えに基づいて,理論や知識,高度に熟練した技術を用いて質の高い看護を提供できる能力」「患者に適切な情報を提供し,また,精神的安楽や安心を提供できる能力」「看護チームや医療チームの中でリーダーシップを発揮できる能力」をもつ者(病棟師長を除く).なお経験3年以上とした理由は,佐藤(1999)が述べるように,経験を2~3年積むと直観を用いると考えたためである.
ICUに緊急入室した意識障害のある患者の家族に対してのエキスパートナースの直観は,ICU入室中の家族援助にどのように影響しているのかを明らかにする.
対象者は,A県内の病院のうち,本研究参加の同意が得られたエキスパートナースとした.なお,エキスパートナースは本研究の定義に基づきデータ収集施設の看護師長に推薦してもらった.
2.データ収集方法データ収集は,意識障害のある患者がICUに緊急入室し,その家族と対象者が関わった場面について,半構造化面接法にて行った.面接は,ICUに緊急入室となった意識障害のある患者がICUに入室し,その家族と対象者が関わった場合,研究者に連絡をしてもらい,心身の負担の少ない時間にインタビューができるよう時間調整を行い実施した.面接の際はプライバシーの保てる個室を使用し,同意を得てメモをとり録音した.質問は,「家族と関わったときの印象,様子,それについてあなたが思ったことやとった行動を教えてください」を導入とし,瞬時に捉えた家族の状況や様相,それは家族の何から捉えたのか(例えば視覚で捉えたなら家族の何を見て,写実的にどの部分を見て捉えたか,聴覚で捉えたならどのような音や声から捉えたか),そしてどのような援助,行為をしたかについて質問した.なお,データ収集は平成23年9月から平成24年3月の期間に行った.
3.データ分析方法研究の真実性の確保のため,半構造化面接のプレテストを行い,インタビューは思い込みの排除に努め,質問に対し自由に語れるよう配慮し,必要時再度インタビューを行った.また,データを何度も読み返し分析を行った.研究のすべてのプロセスにおいて,質的研究の専門家によりスーパーバイズを受けた.
福井大学とフィールドとなる病院の倫理審査委員会へ申請し承認を得た(福井大学倫理審査委員会受付番号第428号).そして,看護部長とICUの看護師長の承認を得て,対象候補者に研究参加の依頼を行った.依頼の際は書面と口頭で,研究の主旨,研究参加は対象者の自由意志であり一度承諾しても途中で辞退できること,参加を拒否しても不利益がないこと,データは本研究の目的以外には使用しないこと,データ管理・データ破棄は研究者が責任をもって行い対象者のプライバシーと匿名性を厳守すること,研究結果は匿名性を厳守し学会や学術雑誌に発表することの説明を行い,同意を得てそれらを遵守した.
研究対象者は,A県内のICUのある病院4施設6名であった(表1).なお,全対象者が録音に同意した.
エキスパートナースが家族に最初に出会ったときの直観について,家族の状況や様相を捉えた何かを「 」,家族の状況や様相を捉えた何かの説明を〔 〕,直観で捉えた家族の状況や様相を『 』とし,以下に看護師Aの場合を述べる.
看護師Aは,「目」が〔泳いでいる感じ・ぼーっとしている感じ〕,「口元」が〔こわばっている感じ〕,「顔」から〔正気じゃない顔・血色のない感じ〕と感じ,『動揺している』と捉えていた.
分析の結果,看護師A~Fの全員が,家族の状況や様相を「目」「目元」「口」「口元」「表情」などの顔の部分から,無意識に,視覚的に瞬時に捉えていた.
3.直観から捉えた家族援助への影響家族の状況や様相を捉えた何か,直観で捉えた家族の状況や様相,援助のつながりについて,エキスパートナースが家族と接した場面を《 》,家族の状況や様相を捉えた何かを「 」,直観で捉えた家族の状況や様相を〔 〕,家族への援助を『 』とし,看護師Cの一場面において説明する.
看護師Cは,家族員と《最初に出会ったとき》は「口」「声」から〔すごい動揺している感じ〕と捉えていた.《1回目のインフォームドコンセント》においては,「目」から〔検査が終わったのかちょっとほっとした〕と捉え,『事態を知っているためうーんと思った』と気にかけていた.そして,最初の〔すごい動揺している感じ〕から〔話を聞いたらすごいまたショックで何か具合が悪くなるかもしれない〕と捉え,『とりあえず椅子に座ってもらって,落ち着いて聴いてもらおうと思った』と援助していた.その反応として,「目」「体」から〔ショックだったと思う〕と捉えていた(図1).
以上のように,看護師A~Fの全場面で家族の状況や様相を捉えた何か,直観で捉えた家族の状況や様相,援助のつながりを図示し,そのパターンを分析した結果,直観から捉えた家族援助への影響は5つのカテゴリーが導き出された.以下,カテゴリーを【 】で示す.
【最初の直観をもとに援助する】は,場面が変わっても最初に直観で捉えたことをもとに援助することを示していた.
【その場面での直観から最初の直観を確認する】は,ベッドサイドに行くなど場面が変わった際に直観を働かせ家族の状況や様相を捉えた際に,最初の直観で捉えたことと同じであることを確認することを示していた.
【その場面の直観から最初の直観以外の解釈をする】は,その場面ごとに適宜直観で捉えたことが最初の直観で捉えたことと違う内容だったもので,援助に至らなかったものであった.
【その場面の直観から援助する】は,その場面ごとに駆使した直観から最初の直観で捉えたこと以外を捉え,援助にまで発展させることを示していた.
【援助の反応から最初の直観以外のことを捉える】は,行った援助の反応を直観で捉えたとき,最初の直観で捉えたこと以外を捉えることを示していた.
また,場面全体を図1のように通してみたとき,看護師A・B・C・E・Fは最初の直観と以降の援助がつながっており,エキスパートナースは最初の直観をもとに援助を連続して展開していた.
4.直観で捉えた家族の状況や様相直観で捉えた家族の状況や様相を抽出し,6つのカテゴリーに分類した.
【不安定さ】は,家族がショックを受け動揺し,緊張,不安があり,辛い思いをしているなどの不安定な気持ちを示していた.
【冷静】は,家族の落ち着いた様子,緊迫感のない冷静な内面を示していた.
【家族のサポート関係】は,家族間のサポート,関係性,家族の危機を示していた.
【理解している】は,患者の状況,医師や看護師の説明について,家族が理解している,わかっていることを示していた.
【理解していない】は,家族の混乱している様子や,看護師の言葉を間違って捉えたことから,家族が現状を理解していないことを示していた.
【気持ちの変化】は,家族のそれまでの気持ちからの変化を示していた.
直観により影響する家族への援助行為のカテゴリーは6つだった.このカテゴリーと,直観で捉えた家族の状況や様相と比較していった.
【様子を観察する】は,家族がどのような振る舞いや様相を示しているかを観察する援助行為を示していた.直観で家族の状況や様相を【不安定さ】【冷静】【家族のサポート関係】と捉えたときの行為だった.
【説明中・説明後の観察と確認】は,医師の説明や看護師からのオリエンテーションなど,説明中,説明後の家族の状況を観察し,確認する援助行為を示していた.直観で家族の状況や様相を【不安定さ】【家族のサポート関係】【理解している】と捉えたときの行為だった.
【配慮して椅子を出す】は,誰に優先して椅子を出すか,椅子をどこに置くかなどを配慮した上で椅子を出すという援助行為を示していた.直観で家族の状況や様相を【不安定さ】と捉えたときの行為であった.
【普段より説明を減らす】は,通常行っているときより説明を減らす援助行為を示していた.直観で家族の状況や様相を【不安定さ】【理解していない】と捉えたときの行為だった.
【配慮して声をかける】は,家族のつらい思いに共感し,配慮して声をかけるという行為を示していた.直観で家族の状況や様相を【不安定さ】と捉えたときの行為であった.
【家族の言葉に応答する】は,家族の状況に応じ,家族の言葉や問いかけに応答するという行為を示していた.直観で家族の状況や様相を【不安定さ】【理解していない】【気持ちの変化】と捉えたときの行為だった.
エキスパートナースは,ICUに緊急入室した意識障害のある患者の家族と最初に出会ったとき,顔の部分から瞬時に家族の状況や様相を捉えていた.そして,最初の直観で捉えたことは後の援助に影響していた.時間が経ったり場面が変わったりすると,その場面で直観しており,【その場面での直観から最初の直観を確認】したり,【その場面の直観から最初の直観以外の解釈】をしていた.そして,【最初の直観をもとに援助】したり,【その場面の直観から援助】したりしていた.また,【援助の反応から最初の直観以外のことを捉え】ていた.直観から援助に至る際,直観により家族の状況や様相を【冷静】【理解している】【不安定さ】【理解していない】【気持ちの変化】【家族のサポート関係】と捉えており,それに応じて【様子を観察する】【説明中・説明後の観察と確認】【配慮して椅子を出す】【普段より説明を減らす】【配慮して声をかける】【家族の言葉に応答する】という援助行為をしていた(図2).
家族に最初に出会ったときのエキスパートナースの直観は,無意識に家族の顔の部分(目や口元など)から家族の状況や様相を瞬時に把握することからはじまっていた.顔の認識において,認知心理学では感情を読み取る場合,目や口を見ようとする習慣があるといわれている(乾,1995).また,渡辺(2002),杉本ら(2005)は,看護師が何か変と患者の異常を察知したときの事象の一つに表情があったと報告し,中藤(2005)は,クリティカルケアに携わる熟練看護者は患者の表情,視線などから患者の変化や反応を読み取ると述べている.ICUのエキスパートナースは,直観にて患者だけでなく家族のありようを読み取っており,目や口を見ることで何かを捉えていると考えられる.これは,エキスパートナースがこれまでに多種多様な状況の家族と接し,その際に顔や表情を観察し家族の心情に寄り添ってきたことが直観につながっているからだと考えられる.また,Bergson(1955/2010)は,「直観を,対象の独自のものと,従って表現しえないものと合致するために対象の内部に身を移す手段である共感」と述べており,エキスパートナースは,状況や様相から瞬時に相手の内面を捉え,自身に落とし込み共感することで,相手の内面を認識すると考えられる.
2.直観から捉えた家族援助1)直観で捉えた家族の状況や様相と援助行為本研究の結果では,直観で捉えた家族の状況や様相は【不安定さ】【冷静】【理解している】【理解していない】【気持ちの変化】【家族のサポート関係】であった.すべて,単純に視覚だけで捉えることのできないもので,直観が家族の内面を捉えるものであることが再確認できる.また,【不安定さ】【気持ちの変化】【冷静】は動的な言葉である.【不安定さ】は,気持ちの安定しない落ち着かない様であり,【気持ちの変化】はわずかな気持ちの変化を捉えたもので,【冷静】は心の落ち着いている「動いていない」という動きを捉えたものであり,動的な内面を感じ取っているといえる.そして,【不安定さ】に対し【冷静】が,【理解していない】に対し【理解している】があり,二極化している.緒方ら(2004)は,ICUに緊急入室する患者の家族員の情緒的反応には肯定的側面,否定的側面があると述べている.本研究においても,直観で捉えた家族の状況や様相を二極化して認識していると考えられる.
しかしながら,今回抽出された家族の状況や様相は,本研究で対象とした意識障害のある患者の家族のその混沌とした内面を表現できていない.これは,直観で捉えたことを表現することが困難であることに起因していると考える.Bergson(1955/2010)が「実在とは動性である.実在するものは既成の事物ではなくて生成しつつある事物であり,自己を維持する状態ではなくて変化しつつある状態なのである」「われわれの知性は不同なものから出発して運動を不動の函数としてしか理解し表現できない」と述べているように,実在は動的で変化するものであり既成概念はその動性を表現できないといえ,ICUに緊急入室した意識障害のある患者の家族の内面も動的で変化するため,既成概念である言葉だけでは家族の内面そのものを表現できないからだと考えられる.しかし,不安定,冷静,理解というこれらの動的な言葉には,その家族の個,ICUに緊急入室した意識障害のある患者の家族の特徴を捉えたものが潜んでいると考える.Bergsonが実在を表現するのに多くの比喩を用いているように,捉えた内面をイメージのまま語ってもらうなどすれば,直観で捉えた内面に近づくことができると考える.それは,ICUに緊急入室したことと患者に意識障害のあることにより混沌としている家族の内面を表現することにつながり,看護においての暗黙知を探る行為だと考える.
直観により影響した家族援助は,【様子を観察する】【説明中・説明後の観察と確認】【配慮して椅子を出す】【普段より説明を減らす】【配慮して声をかける】【家族の言葉に応答する】であった.そして,多くは直観で【不安定さ】と捉えた際の行為であった.これは【不安定さ】という家族にとって危機的な状況であると捉えたときに,援助を密にしていると考えられる.また,これらは短時間で適宜状況に応じて行う援助であった.エキスパートナースは,ICUに緊急入室した患者の生命を優先する必要があり,家族と時間をかけての関わりができないという状況下でも,家族に配慮し援助を実践していたと考えられる.なお,これらの家族援助のカテゴリーは,鈴木ら(2006)が救急医療・集中治療における家族看護の基本的姿勢と必要な援助で挙げている,誰もが行うべき基本的行為であるといえるが,Wiedenbach(1975)が述べたように,何を思考し何を目的として行うかが援助において重要だと考える.エキスパートナースの直観が影響した援助行為には,直観で捉えた家族の状況や様相への配慮が含まれていた.今後,対象者数を増やし調査を継続することで,援助のわずかな違いが浮かび上がってくると考える.
2)直観からつながる継続的な思考の連関本研究で抽出された直観の影響するパターンは【最初の直観をもとに援助する】【その場面での直観から最初の直観を確認する】【その場面の直観から最初の直観以外の解釈をする】【その場面の直観から援助する】【援助の反応から最初の直観以外のことを捉える】であった.つまり,最初の直観で捉えた家族の内面を基に援助を展開しつつ,その場面ごとに直観を働かせ,最初に直観で捉えたことを確認し,新たな直観を自身に落とし込みながら,さらなる援助を行っていると考えられる.またこれらは連続して行われていることから,エキスパートナースは常に家族に関心を寄せ直観を駆使していると考えられ,本研究では直観という実践的知識をもとにした思考と行為の連続性を明らかにしたといえる.この直観による援助の連続は,Bergsonのいう持続に当てはまる.Bergson(1955/2010)は持続をメロディーにたとえ,実存の流れは過去からの結びつきであり,過去は何らかの形で現在に結びつくと述べている.これまでの結果から,エキスパートナースは直観を駆使し,持続の相にいる家族の動的な内面を捉えていたと考えられる.そして,持続の相にいる実在は家族だけでなく,直観による思考と援助の連続を行う看護師もそうであると考えられる.直観で捉えた家族の内面を自身に落とし込み,それをもとに援助を展開し,さらに捉えた内面や解釈を踏まえ,援助を行うという連関が考えられる.ICUという家族と接する時間の短い状況で,直観をもとに援助することを心がけることは,家族の内面に応じた援助を連続して展開できると考えられる.
ICUに緊急入室した意識障害のある患者の家族援助に影響するエキスパートナースの直観について調査した結果,エキスパートナースの直観は,無意識に家族の顔の部分から家族の状況や様相を瞬時に把握することからはじまっていた.エキスパートナースは直観により家族の不安定な状況や気持ちの変化などを認識しており,それに応じて観察や声かけなどの援助を行っていた.また家族援助は,最初の直観で捉えた家族の状況や様相を基に行いつつ,その場面ごとに直観を働かせ,最初に直観で捉えたことを確認し,新たな直観を自身に落とし込みながらさらに展開されており,それは連続して行われていた.
本研究は対象者が6名と少なく,家族の状況や関わった場面,インタビューの時期が統一されていなかった.また,実際の援助行為には無意識下で行われている場合もあること,インタビューの技術が未熟であることから,事象のすべてを抽出できていないことが考えられる.今後,インタビュー時期,データ入手方法を検討し,多くの看護師を対象に調査することで,直観を駆使したICUでの家族援助方法を模索することが課題である.また,直観が根底に流れているという視点を持ち,直観で捉えたことをそれぞれが語り合うことが課題である.これにより早期からの援助計画,実践につながると考える.
ご多忙にもかかわらず本研究にご協力くださいました看護師の皆様,病院関係者の皆様に心より感謝申し上げます.
なお本研究は,平成24年に福井大学大学院医学系研究科に提出した修士論文を一部加筆・修正したものである.
利益相反:本研究における利益相反は存在しない.
著者資格:KIは研究プロセス全体に貢献.ASは研究の着想およびデザイン,研究のプロセス全体に貢献した.すべての著者は最終原稿を読み,承認した.