目的:日本語版“Managing Uncertainty in Illness Scale-Family Member form:MUIS-FM”(MUIS-FM-J)の信頼性および妥当性を検討する.
方法:脳神経疾患で入院中の患者の家族204名を対象に調査を行った.調査用紙は,MUIS-FM-J,新版STAI状態–特性不安尺度(STAI),対象者の基本属性と家族の病気に関する認識で構成した.併存的妥当性はMUIS-FM-JとSTAIの状態不安との相関関係により確認した.構成概念妥当性は,主にMUIS-FM-Jの因子構造により確認し,対象者の病気に関する認識の違いによるMUIS-FM-Jの得点の差を算出して弁別性を確認した.
結果:MUIS-FM-Jは原版同様の1因子構造で,Cronbachのα係数は0.91であった.MUIS-FM-J得点は,STAIの特性不安得点との相関係数がr=0.34,状態不安得点との相関係数がr=0.66と正の相関を示した.MUIS-FM-Jは,疾患の種類,発症後の日数,意識レベルや生活動作,現状の予測などにおいて有意な得点の差を認めた.
結論:内的整合性および併存的妥当性,構成概念妥当性の結果から,本尺度は信頼性と妥当性を有すると判断した.
脳神経疾患の発症などによる突然の状況変化は,予期しない出来事である場合も多く,患者とその家族は戸惑いを感じるなどのさまざまな問題に直面する.家族をシステムと捉え,「与えられた影響に対処し,適応しながら均衡を回復していく働きを持つ集団である」(石原,2004)と考えると,その一員が生命の危機に直面し,あるいは後遺症を残すような疾患に罹患した場合,そこから生じうる問題の影響は,患者本人のみにとどまらず,家族の日常性に対する大きな脅威となる.
脳神経疾患患者の家族についての定性的な研究では,家族は,発症の衝撃,生命の危機とそれを脱したことへの安堵,障害回復への疑問と期待,今後の生活に対する見通しのつけにくさなどを体験し,さらに退院後も,変化した患者や家族機能に戸惑いながら生活に折り合いをつけることが明らかにされている(平原ら,2008;古賀ら,2007;榑松ら,2006;Hunt & Smith, 2004; Brereton & Nolan, 2002;池添,2002).つまり脳神経疾患患者の家族は,患者の病気に関して,常に現状と今後に対する不確かさや不安の過程を体験しているといえる.
不確かさは「病気に関連する出来事に対してはっきりと意味づけられない認知状態」と定義される(Mishel, 1988).具体的には,不確かさは(a)病状に関する曖昧さ,(b)治療やケアシステムの複雑さ,(c)病気の診断や重症度についての情報の不足や不一致,(d)病気の進行や予後の予測不可能性,の4つを含む認知状態であると説明されている(Mishel, 1988).つまり,不確かさとは,病気という対象そのものの存在は認知しているものの,その内容は漠然として明確化できないものであり,その時起きている状況を,その人自身が整理できない状態を示すものであるといえる.
一方,不安は,「漠然とした未分化な恐れの感情であり,対象のない情緒的混乱,心理的な矛盾感覚の極まった状態」と定義される(笠原,1993).つまり不安は感情であり,対象がないという点では不確かさと異なるものの,その内容は漠然としており,かつ,状況に左右されるという点で,不確かさと類似した概念であるといえる.
不確かさについては,1988年に,米国のMishelが,「病気に関する不確かさ理論」を発表している.この理論では,不確かさの認知に直接影響を及ぼす影響要因には,症状の現れ方(Symptom Pattern),出来事に対する熟知度(Event Familiarity),出来事の一致度(Event Congruence),医療者への信頼(Credible Authority),ソーシャルサポート(Social Support),教育(Education)があるとされる.さらに不確かさは,その後,患者個人が評価し,対処行動をとることで,最終的には心理社会的適応へと至る一方向性のモデルとして説明されている(Mishel, 1988).
不確かさは,患者だけでなくその家族にも生じるものであり(Ågård & Harder, 2006; Grootenhuis & Last, 1997),不確かさが高いほど不安や抑うつも高くなることが明らかにされている(Mishel et al., 1991; Mitchell & Courtney, 2004;野川,2012).
このことから,家族は不確かさをどの程度抱いているのか,定量的に看護師がそれらを把握することは,不確かさを緩和し,その後の対処に介入する際の家族支援のあり方を考えていく上で非常に重要である.
不確かさを測定する尺度は,Mishel(1997)により対象別に4種類が開発されている.このうち最初に開発されたのは,入院中の急性期の成人患者用(Mishel Uncertainty in Illness Scale for Adult: MUIS-A)(Mishel, 1981)である.MUIS-Aは当初30項目2因子構造(①曖昧さ,②複雑さ)の尺度として開発された.1983年には当初のデータが再分析され,4因子構造(①曖昧さ,②複雑さ,③情報の不足,④予測不可能性)の尺度が開発された.いずれの尺度もさらなる検証が加えられ,1986年には,28項目2因子構造(①曖昧さ,②複雑さ)の尺度に,1989年には32項目4因子構造(①曖昧さ,②複雑さ,③情報の不一致,④予測不可能性)の尺度に修正され,現在は両者ともに使用可能となっている(Mishel, 1997).その後,慢性疾患患者用の尺度(MUIS-C)が作成された.この尺度は,入院・治療をしていない患者を対象としているため,MUIS-Aから入院環境や治療の質問を除く23項目,1因子構造の尺度として使用されている(Mishel, 1997).病気を持つ子供の親用の尺度(Patients’ Perception Uncertainty in Illness: PPUS)は,MUIS-Aにわずかな修正を加えて作成されたものであり,MUIS-A同様の4因子構造をとる(Mishel, 1983).家族用尺度は,このPPUSの質問項目で使用される“Parent”を“Family”に置き換えて作成されたもの(Managing Uncertainty in Illness-Family Member form)である.本尺度とPPUSは,自分自身ではなく他者の病気に関連した不確かさの程度を測定するという点でMUIS-Aと異なる(Mishel, 1997).つまり,家族用尺度が測定するものは,家族成員個人が,その人の立場で患者の姿や治療環境を見ることを通して得られた不確かさの程度であるといえよう.家族用の尺度においては,509名の家族を対象とした分析で4因子構造もしくは2因子構造は保証されず,現在は1因子構造での使用が妥当と判断されている(Mishel, 1997).これら4種類の不確かさ尺度のうち,日本語に翻訳され,信頼性と妥当性が検討されたものは慢性疾患患者用の尺度(MUIS-C)(野川,2004)のみであり,家族用尺度について,いまだ日本語に翻訳されたものは見当たらない.
よって本研究では,Mishelが作成した“Managing Uncertainty in Illness Scale-Family Member form:MUIS-FM”を元に翻訳して日本語版MUIS-FM(以下,MUIS-FM-J)とし,不確かさが高いと予測される脳神経疾患患者の家族を対象とした横断的調査を行い,MUIS-FM-Jが家族の不確かさを測定する上での信頼性および妥当性を検討することとした.
MUIS-FM-Jは,以下の手順で作成した.
まず,尺度の開発者に対して日本語への翻訳と調査での使用許可を申請し承諾を得た.次に,本調査の研究者2名が日本語への翻訳を別々に行った後に,意見交換を行い翻訳文を作成した.その後,原文を知らない翻訳者によるバックトランスレーションを3回繰り返し,原版に沿った翻訳文を洗練した.さらに,項目表現の適切性を確認するために,7年以上の臨床経験をもつ看護の大学院生5名,および脳神経外科看護の経験を有する看護師長および看護部長3名に,質問項目を確認してもらい,その回答に応じて表現を一部修正した.最後に,現在家族が急性期病棟に入院している4名に回答してもらったところ,回答時間は約5~10分で,回答のしにくさに関する意見はなく,そのまま使用することとした.
2. 調査対象関東および東北地方の計5つの総合病院の脳神経外科および神経内科病棟において,脳神経疾患と診断され入院治療中の患者の家族を対象とした.対象選定の際には,患者および家族が20歳以上の成人であり,かつ主治医および病棟の看護師により,本研究への参加可能な能力があると判断された者とした.生命が危機的状態にある患者と入院当日の患者の家族は除外した.
本研究で扱う家族は戸籍上の関係を問わず,互いが家族と認識する者たちを家族とした.入院患者の面会に訪れる家族に調査依頼を行った.ただし,調査対象となる家族は,1名の患者に対して1名のみとした.
3. 調査手順患者と家族をよく知る各病棟の看護師長あるいは責任者の協力を得て,調査対象に合致する者の選定と紹介をしてもらった.その後,研究者が文書および口頭で調査内容の説明を行い,同意が得られた場合に,対象者に無記名式自記式調査用紙を配布した.提出をもって研究参加の協力同意とみなした.
データ収集期間は,2013年5月から2013年9月であった.
4. 調査内容1) 家族の不確かさMUIS-FM-Jは31項目からなる.各質問項目に対して「かなりそう思う」から「全くそう思わない」の5件法で回答を得て,順に5~1点を割り当て合計点を算出する.質問項目には逆転項目が11項目含まれており,これらは値を反転させる.得点範囲は31~155点で,得点が高いほど,家族の不確かさが高いことを意味する.MUIS-FMは,信頼性と妥当性が確認されている(Mishel, 1997).
2) 家族の状態不安と特性不安新版STAI状態–特定不安検査(State-Trait Anxiety Inventory-Form JYZ)(肥田野ら,2000)(以下,STAI)を用いた.STAIは,Spielberger(1983)が開発した尺度を日本人に適用できるよう作成されたものである.状態不安と特性不安を測定する尺度で,それぞれ20項目で構成される.状態不安,特性不安ともに4件法にて回答を得て,それぞれに合計得点を算出する.得点範囲はそれぞれ20~80点で,状態不安得点が高いほど現在の不安が高いことを,特性不安得点が高いほど不安を覚えやすい個人特性であることを意味する.本尺度は,高い信頼性と妥当性が確認されている(肥田野ら,2000).
3) 対象者の基本属性と家族の病気に関する認識対象者(および患者)の基本属性として,年齢,性別,患者との関係,疾患の種類,入院日数などを尋ねた.また,家族が患者の病気に関する状況をどのように認識しているのかを知るために,患者の意識レベル,生活動作,入院時に現在の状況を予測できたか,患者への医療に満足しているかなどの質問を設定し,選択式で回答を求めた.
5. 分析方法1) 信頼性の検証項目分析としてMUIS-FM-Jの各項目の平均値と標準偏差,およびItem–Total相関係数を算出し,その後,Kolmogorov–Smirnovの検定により尺度得点の正規性を確認して,Cronbachのα係数を求め,尺度の内的整合性を確認した.
2) 妥当性の検証併存的妥当性を確認するために,不安は感情で,対象がないという点では不確かさと異なるものの,その内容は漠然とし,かつ状況に左右されるものであるという点で,不確かさと類似した概念であることから,MUIS-FM-J合計得点とSTAIの状態不安得点との相関関係を確認した.確認にはPearsonの積率相関係数を用いた.
構成概念妥当性を確認するために,まず探索的因子分析を行い,MUIS-FM-Jの因子構造を確認した.次に,不確かさというものは,もともとその人に備わった個人特性というよりも,ある特定の状況に対する認識により影響を受けるものであるということを確認する目的で,MUIS-FM-J合計得点は,STAIの特性不安得点よりも状態不安得点とより強い正の相関関係を示すと仮定して相関係数を確認した.さらに,対象者の病気に対する認識の違いによるMUIS-FM-Jの得点を比較することで,尺度の弁別性を確認した.具体的には,対象者が認識している脳神経疾患患者の状態を,尺度得点が反映しているかどうかを判断して検討した.分析は,2群比較には対応のないt検定を用いた.3群以上の比較には一元配置分散分析(ANOVA)を行い,ANOVAで有意な差が認められた場合には,各群間比較のためにTukeyの多重比較法を用いた.
分析には,統計ソフトSPSS Version21を使用し,有意水準5%とした.
6. 倫理的配慮調査への協力は自由意思であること,研究への協力は拒否することができ,その場合でも対象者および入院中の患者が不利益を被ることはない旨を説明し,同意の得られた家族(患者の意識に障害がない場合は,患者の了解も得た)に調査を依頼した.調査用紙は,時間的負担の配慮のために提出までに1週間の期間を設けた.また,質問項目には,現在の医療者の対応に関する質問も含まれていることから,回収は入院施設を介さない研究者への直接郵送法とし,秘密保持に配慮した.
なお,本調査は筑波大学医学医療系の倫理委員会承認後(第735号),必要時,各対象施設の倫理委員会の承認を得た上で研究協力承諾を得て実施した.
204名に質問紙を配布し,150名より回答を得た(回収率73.5%).MUIS-FM-Jへの回答に複数の欠損がなく,信頼性の検討および因子分析に使用できたのは144部(有効回答率70.6%)であった.さらにSTAIへの回答にも欠損がなく,尺度の妥当性の分析に使用できたのは133部(有効回答率65.2%)であった.
133名の対象者の概要の詳細を表1に示した.対象者の平均年齢は57.7歳(SD=13.1)で,男性は43名(30.1%)であった.患者の平均年齢は68.5歳(SD=16.1)で,男性は75名(56.4%)であった.入院日数の平均は17.3日(SD=20.9)で範囲は2~125日であった.
MUIS-FM-Jを構成する各31項目の項目分析の詳細を表2に示した.いずれもフロア効果およびシーリング効果を認めず,I–T相関は全項目0.2以上の正の相関を認めた(p<0.05).尺度全体の分散の確認では,Kolmogorov–Smirnovの検定において正規性を認めた(D=0.62, p=0.200).MUIS-FM-Jの平均得点は85.89(SD=17.66)で,範囲47~129であった.Cronbachのα係数は0.91であった.
MUIS-FM-J得点は,STAIの特性不安得点との間ではr=0.34(p<0.001)の弱い正の相関関係を示し,状態不安得点との間ではr=0.66(p<0.001)の中程度の正の相関関係を示した.
2) 探索的因子分析探索的因子分析では,Kaiser–Meyer–Olkin(KMO)の標本妥当性の測度は0.85であった.KMOは因子分析の適合性を確認する事前検定であり,0.7以上が望ましいとされる(石川,2009).次に,主因子法によって因子の抽出を試みた.第1因子から第8因子までが固有値1以上を示したが,第1因子の固有値(8.77)と第2因子の固有値(2.24)との間に大きな開きが認められたことから,スクリー基準により,本尺度は1因子構造であるという判断を採用した.
3) 弁別性の検討対象者の病気に関する認識別にMUIS-FM-J得点を比較した結果を表3に示した.
疾患の種類を,急性発症である「脳血管疾患」(脳梗塞,脳出血,くも膜下出血)と「その他の疾患」の2群に分類して分析した結果,「その他の疾患」群と比較して「脳血管疾患」群のMUIS-FM-J得点が有意に高かった(t=2.21, p<0.05).
入院日数は,基本データを確認した際に平均得点に特徴的な違いを認めた「2日目」「3~13日」「14日以降」の3群に分類して分析した.3群間における得点の差の検定の結果で有意な差を認め(F=8.60, p<0.001),多重比較では,「3~13日」よりも「2日目」と「14日以降」の方がMUIS-FM-J得点が有意に高かった.
患者の家族人数は,同居する家族がいない場合と,同居家族が1人のみの場合,複数人いる場合とで比較するために,「1人暮らし」「2人」「3人以上」の3群に分類して分析した.3群間における得点の差の検定の結果で有意な差を認め(F=4.52, p<0.05),多重比較では,「3人以上」よりも「2人」の方がMUIS-FM-J得点が有意に高かった.
意識レベルは,「常にはっきりしている」「はっきりしている時とそうでない時がある」「常にはっきりしていない」の3群に分類して分析した.3群間における得点差の検定の結果で有意な得点の差を認め(F=11.24, p<0.001),多重比較では,「常にはっきりしている」よりも「はっきりしている時とそうでない時がある」と「常にはっきりしていない」の方がMUIS-FM-J得点が有意に高かった.
生活動作は,「全く不便なく生活している」「あまり不便はないと思う」「まあまあ不便はあると思う」「自分では活動できない」の4群に分類して分析した.4群間における得点の差の検定の結果で有意な差を認め(F=9.02, p<0.001),多重比較の結果,「全く不便なく生活している」よりも「自分では活動できない」方が,「あまり不便はないと思う」よりも「まあまあ不便はあると思う」と「自分では活動できない」方がMUIS-FM-J得点が有意に高かった.
脳神経疾患での入院回数は,「初回」と「2回目以上」の2群に分類し,身近で同じ病気の人を見た経験は,「あり」と「なし」の2群で分析したが,いずれもMUIS-FM-J得点の有意な差は確認できなかった.
現状の予測については,入院時に現在の患者の状態を予測「できた」と「できなかった」の2群で分析したところ,現状の予測が「できた」群よりも「できなかった」群の方がMUIS-FM-J得点が有意に高かった(t=−3.45, p<0.01).
患者への医療に関する満足は,「満足」と「不満足」の2群で分析した結果,「満足」群より「不満足」群の方がMUIS-FM-J得点が有意に高かった(t=−5.95, p<0.001).
以上の結果より,MUIS-FM-Jは,疾患の種類,発症後の日数,意識レベルや生活動作,現状の予測,患者への医療に対する満足,患者の家族人数の違いによって,有意な得点の差を認めた.
分析の結果,本尺度は原版と同様に使用することが可能であると判断された.また,内的整合性を示すCronbachのα係数は0.91であり,信頼性を示す基準は十分に満たしていた.今回の調査におけるMUIS-FM-Jの平均得点は85.89(SD=17.66)で,これまでMishelが蓄積してきた主にがん患者の家族を対象とした12件の研究における不確かさ得点の平均値69.3~89.0(Mishel, 1997)の範囲に含まれていた.本研究の対象である脳神経疾患患者の家族は,主として患者の予期しない発症や症状を経験するため,平均値がやや高い範囲に含まれていたのではないかと考えられた.
2.MUIS-FM-Jの妥当性の検討不安は感情で,対象がないという点では不確かさと異なるものの,その内容は漠然とし,かつ状況に左右されるものであるという点で,特に状態不安は不確かさと類似した概念であることから,MUIS-FM-Jと正の相関を示すと予測した通り,中程度の正の相関を認めた.この結果より,本尺度の併存的妥当性は確保されたと判断した.
構成概念妥当性の検討では,まず,探索的因子分析により,MUIS-FM-Jが原版同様1因子構造であることを確認した.つまり成人患者の家族は,患者自身や,関係の密接度の高い患児の親などとは異なり,家族を自分とは明確に区別した存在として扱うことが多いために,病気に関する不確かさの内容も不明瞭になることが,1因子構造となる要因の一つではないかと考えられる.
次に,MUIS-FM-Jは,特性不安よりも状態不安との間により強い相関関係があることを確認した.この結果は,不確かさが個人の性格特性というより,ある特定の状況に対する認識をあらわすものであるとした予測を支持するものであり,本尺度の構成概念妥当性の一部を説明するものであると判断した.
さらに,脳神経疾患患者の家族の病気に関する認識の違いによるMUIS-FM-J得点の差を確認することで,本尺度の弁別性を検討した.
最初に,脳神経疾患患者の臨床上の特徴から,以下の結果を認めた.まず,疾患の種類では,「脳血管疾患」患者の家族は緊急入院のために症状や治療の情報が乏しく,脳腫瘍や未破裂動脈瘤のようにある程度の見通しをもって入院した「その他の疾患」患者の家族と比べて不確かさが高い結果になったものと考えられた.また,意識レベルや生活動作は,家族が患者の症状をある程度重いと状況を認識すると,今後の回復に対する見通しが持てないことで不確かさが高くなるものと考えられた.さらに,入院日数の違いによりMUIS-FM-Jの得点の差を認めた.入院日数は,不確かさが入院直後の2日目に最も高く,その後いったん低くなるものの,14日目以降に再び上昇していた.2日目の不確かさが高い要因としては,脳神経疾患は急性発症する場合が多いという特性上,家族には発症の衝撃があり(平原ら,2008),患者に起きていることや複雑な治療の理解が困難であること(山下ら,2011)が挙げられよう.その後,家族は患者の症状が安定したことへの安堵などを経験するが(平原ら,2008;古賀ら,2007),14日目以降は積極的治療が終了し,医師より,治療からリハビリテーションへの重点の移行や今後の生活を考える必要性についての説明がなされるのが一般的である.この時期の家族は,入院前と変化した患者を前に将来への不安を抱くことから(玉城ら,2004),不確かさが高くなるものと考えられた.
以上のように,脳神経疾患患者は,病変が頭蓋内の目に見えない部位であるために治癒や悪化の判別が難しいという特徴があることから,今回の結果では,入院時における現状の予測が「できた」群より「できなかった」群の方が不確かさは有意に高いという結果になったものと考えられる.
2つ目に,医療への満足の有無による不確かさの違いを認めた.今回の結果は,患者への医療に満足していない家族は不確かさが高いという結果であった.家族のニードを満たす要因の1つに,医療者に対する信頼や期待があるといわれている(山下ら,2011).患者の病状の経過が医師の説明通りかどうか,あるいは安心して患者の治療を任せられるかどうかという要因が不確かさに影響しているものと考えられた.
3つ目に,患者の家族人数による違いを認めた.患者の家族人数については,「2人」の場合よりも「3人以上」の場合の方が不確かさ得点は低いという結果であった.「2人」とは,患者以外の同居人がいないということであり,この場合,家族間での患者の病状に関する情報の共有や家庭生活維持への協力体制などが得にくいことが考えられ,このような状態が不確かさに影響しているのではないかと推測された.
以上より,今回の結果は,脳神経疾患患者の家族の病気に関する認識の違いによるMUIS-FM-J得点の差を説明しうるものであり,MUIS-FM-Jは弁別性を備えた尺度であると判断した.
よって,本尺度の信頼性,さらに妥当性として,併存的妥当性,構成概念妥当性は確認されたと判断した.
3.本研究の限界と課題本調査は,一部地域の脳神経疾患患者の家族に限定された結果であるという限界がある.また状況変化の大きい患者の特性上,再テスト法の実施は不適切と判断し安定性の確認は行わなかったが,十分な安定性の確認と一般化のためには,さらなる調査の必要がある.
また本尺度は,因子分析の結果で固有値1以上の因子が8つあり,下位尺度のない測定用具としては31項目と項目数が多いことから,今後はさらなる検証によって項目を厳選し,回答の負担も少ない尺度に洗練していく必要がある.
さらに,妥当性の検証では,今回は対象者の病気に関する認識から臨床上の特性を考慮して弁別性を確認したが,より強固な構成概念妥当性の検証のためには,Mishelの理論上の先行要因,すなわちすでに明確になっている変数を用いた検証が必要であると考える.
以上の課題はあるものの,家族を対象とした不確かさを測定する日本語版尺度の完成の意義は大きい.今後は本尺度を活用し,不確かさに影響する具体的な先行要因の関連検証や,その後の対処方法や心理社会的な適応との関連を明らかにし,効果的な看護介入を考えていくことが課題である.
本研究では,Mishelが作成した“Managing Uncertainty in Illness Scale-Family Member form: MUIS-FM”を翻訳して日本語版(MUIS-FM-J)とし,脳神経疾患患者の家族を対象に,MUIS-FM-Jの信頼性および妥当性を検証した.
その結果,本尺度は信頼性と妥当性を有することが認められた.今後は,対象を増やしての一般化,および効果的な看護介入の評価尺度として活用していくことが課題である.
本研究にあたり,大変な状況の中アンケートにご協力くださいました患者家族の皆様,調査の進行にご協力くださいました医療機関の皆様,論文執筆にあたりご助言くださいました筑波大学助教笹原朋代先生に心より感謝申し上げます.
利益相反:本研究における利益相反は存在しない.
著者資格: Iは研究の着想から原稿の作成までの研究プロセス全体;Mは原稿への示唆および研究プロセス全体への助言.全ての著者は最終原稿を読み,承認した.