日本看護科学会誌
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研究報告
看護職者の役割移行
─概念分析─
上田 貴子
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2014 年 34 巻 1 号 p. 272-279

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Abstract

目的:本研究は看護職者の役割移行に関する文献を探究し,役割移行という概念の特徴を識別し定義することを目的とする.

方法:研究方法にはRodgersの概念分析アプローチ法を用いた.データ収集にはCINAHL Plus with Full Text,MEDLINE,医中誌Webなど9つのデータベースを使用し,検索用語は「role transition」「nurse」「役割移行」とした.最終的に適切と判断された40文献を対象に分析を行った.

結果:属性として7カテゴリ;【新たな領域で活動することへの意味づけ】【新たな行動様式を獲得するための取り組み】【新たな活動への期待と成功の希求】【職業的アイデンティティの模索】【情緒的反応】【困難との直面】【時間の枠組み】,先行要件として7カテゴリ,帰結として4カテゴリが抽出された.

結論:看護職者の役割移行とは,看護専門職としての発達を志向する看護職者が,新たな領域での活動に意味を見出し,一定期間の活動継続を経て新たな行動様式を獲得していく過程であると定義された.

Ⅰ.緒言

看護職者は,職業を継続していく過程で様々な出来事に対応する必要があり,新たな役割を担うこともその一つである.現在就業中の看護職者は,これらの出来事への対応にある程度成功を収めた経験を有するといえる.しかしながら,役割移行に伴う不全感や不満などの理由から,職業活動を中断する看護職者も存在する.日本看護協会が行った病院実態調査(日本看護協会,2012)によると,2010年度看護職員(常勤)の離職率は11.0%,このうち通算経験3年目,5年目の離職率は12.8%,12.6%であり,新卒看護職員の8.1%を上回っている.

役割とは,地位に付随した集団や社会によって期待され,行為者によって取得される行動様式である(小林,1994).安全で質の高い保健医療サービスを提供することは看護専門職の使命であり,職業活動を継続する過程で様々な役割を担うようになることは必然である.看護職者には,集団や社会が期待する看護職の役割について常に認識しておくことが求められる.

また,新たな役割は,看護職者自身に従来とは異なる行動様式の獲得を要求する.この時期は個人の発達上の移行期と重なっており,職業活動に伴う課題と発達課題とが密接に関連しながら,様々な葛藤やストレスとなって個人に押し寄せる(Super et al., 1996; Bridges, 2003, 2004).Super et al.(1996)は,移行すなわちTransitionを個人の発達課題と職業的発達という二つの視点から捉え,新たな段階へと進むための意思決定のプロセスと説明する.Bridges(2003, 2004)は,役割の変化と個人にとっての意味づけに着目し,時間軸に沿って揺れ動く個人の内的変化としてTransitionを3つの段階で捉えている.

Meleis(1987a, p. 58)は,役割移行について「役割関係の変化,期待,能力の変化を表し,新たな知識を取り入れ,行動を変え,それによって社会的な背景における自己の定義を変えていくことを必要とする」と説明し,安定した状況と状況の間の変化の時期と捉えている(Meleis, 1975, 1987a, b).役割移行は,看護職者が職業を継続する上で必ず経験するプロセスである.役割移行に伴う看護職者の葛藤やストレスに対応するためには,まず看護職者の役割移行そのものの特徴を識別する必要がある.

Ⅱ.目的

本研究の目的は,看護職者の役割移行に関する文献を探究し,役割移行という概念の特徴を識別し定義することである.

Ⅲ.方法

1.研究方法

概念分析の方法には,Rodgers(2000)の概念分析アプローチ法を用いた.この方法は,概念の属性,先行要件,帰結,代用語,関連する概念を明らかにし,概念の一般的な活用を検証することにより概念を定義する.

2.サンプルの選定

対象年度は,文献検索データベースの出版年から2013年9月20日とし,学問領域は看護学,医学,心理学,社会学,教育学とした.検索用語は英語文献では「role transition」AND「nurse」,日本語文献では「役割移行」のみとした.

3.文献検索およびデータ収集

「role transition」AND「nurse」では,CINAHL Plus with Full Text(1937~2013)109論文,MEDLINE(1950~2013)116論文,PsycINFO(1806~2013)53論文,SocINDEX(1895~2013)4論文,ERIC(1966~2013)22論文,「役割移行」では,医中誌Web(1983~2013)25論文,最新看護索引Web(1987~2013)8論文,JMEDPlus(1981~2013)33論文,CiNii(~2013)31論文,合計401論文が検索された.このうち,重複127文献,看護職者以外(患者,家族,学生,一般社会人など)70文献,具体的記述の不足139文献,入手困難21文献,日本語と英語以外4文献を除外した.その結果,最終的に適切と判断された40文献(英語38文献,日本語2文献)を対象に分析を行った.

4.データ分析方法

概念分析アプローチ法を参考にコーディングシートを作成し,役割移行という用語に着目しながら対象文献を読み,属性,先行要件,帰結,代用語,関連する概念に該当する箇所をデータとして抽出した.抽出したデータはコード化し,共通性と相違性に配慮してカテゴリ化した.さらに,カテゴリ間の関係を検討して構造化し,概念を構成する特性である属性,概念に先立って生じる先行要件,概念に後続して生じた帰結からなる概念モデルを作成した.なお,分析の信頼性を確保するために,博士課程に在籍する学生間で意見交換を行うとともに,理論看護学ならびに看護教育学の研究者のスーパーバイズを受けた.

Ⅳ.結果

1.属性

看護職者の役割移行の属性として,7つのカテゴリが抽出された.以下,カテゴリは【 】,サブカテゴリは[ ]で示す.なお,サブカテゴリ後の〔 〕には,文献の筆頭著者名を記載した.

1)【新たな領域で活動することへの意味づけ】

このカテゴリは,新たな領域で活動するという看護職者の経験が専門職としての更なる成長と結びついており,看護職者にとって特別の意味を有する経験であることを表していた.サブカテゴリは[旅]〔Deasy; Delaney; Dempsey; Duchscher; Godinez; Graham; Lalani; Manning; Qiao; Steiner〕,[移動]〔Duchscher; Duphily; Godinez; Graham; Holt; Manning; Qiao; Robinson; Schmitt; Zurmehly〕,[一新]〔Ziebarth〕,[切り替え]〔Zurmehly〕,[変更]〔Lea〕,[シフト]〔Duphily; Robinson; Sullivan-Bentz; Whitehead〕,[変換]〔Manning; Steiner〕であった.看護職者が新たな領域で活動していく過程は,例えばナースプラクティショナーとして活動する看護職者自身の変遷として表現されていた(Steiner et al., 2008).看護職者が慣れ親しんだ領域や状況を離れ,専門職として新たな領域を開拓していくという点に着目し,professional journeyと表現する論文もあった(Deasy et al., 2011; Duchscher, 2008).

2)【新たな行動様式を獲得するための取り組み】

このカテゴリは,看護職者の主体的取り組みが,新たな行動様式を獲得しようとする彼らの強い意志により支えられているという特徴を持っていた.サブカテゴリは[順応]〔Duchscher; Duphily; Jackson; Lalani; Qiao〕,[適応]〔Bonnel; Chang; Duchscher; Dufault; Duphily; Glen; Holt; Lalani; O’Brien; Robinson; Seng〕,[対処]〔Bonnel; Delaney; Fleming; Graham; Qiao〕であった.看護職者は,新たな役割に順応するために知識を獲得し,幅広い知見を得ようと取り組んでいた.また,困難な状況に対処するための方略を駆使し,覚悟を決めて状況の克服に取り組んでいた.

3)【新たな活動への期待と成功の希求】

このカテゴリは,看護職者が新たな活動を遂行することに期待を抱くとともに,成功したいという思いを強く抱いている状況を表していた.サブカテゴリは[期待]〔Duphily; Evans; Glen; Heitz; 日野;Manning; Mooney; Qiao; Schmitt; Spoelstra〕,[自信]〔Bonnel; Chang; Cusson; Delaney; Dempsey; Glen; Glynn; Godinez; Mooney; Samarel; Seng; Spoelstra; Whitehead〕,[成就]〔Godinez; 東堤;O’Brien; Sherman; Whitehead; Ziebarth〕であった.看護職者は,社会や組織の求める役割が個人の発達や成長に直接には結びつかない状況や,予想外の現実に直面した場面にあっても,これを克服することで自信の獲得へと繋げていた.

4)【職業的アイデンティティの模索】

このカテゴリは,看護職者が新たな活動を担う中で多様な価値基準に遭遇し,自らの価値観の揺らぎを経験しながら看護専門職として職業的アイデンティティを模索していくという特徴を持っていた.サブカテゴリは[アイデンティティ]〔日野;Holt; Jackson; Robinson; Seng〕,[内在化]〔Delaney; Fleming; Godinez; Heitz; Jackson; Samarel〕,[自律性]〔Zurmehly〕,[責任]〔Qiao; Steiner〕であった.

5)【情緒的反応】

このカテゴリは,新たな活動の遂行に伴い生じる看護職者の感情とこれに由来する個人のさまざまな反応を表していた.サブカテゴリは[複雑な感情]〔Chang; Cusson; Deasy; Glynn; Godinez; Graham; Jackson; Lalani; Manning; Samarel〕,[肯定的感情]〔Cusson; Delaney; Dufault; Fleming; Glen; Godinez; Heitz; 東堤;日野;Schmitt; Sherman; Ziebarth〕,[否定的感情]〔Delaney; Dempsey; Dufault; Duphily; Glen; Godinez; Graham; Samarel; Sherman; Steiner; Whitehead; Ziebarth〕であった.

6)【困難との直面】

このカテゴリは,新たな行動様式を獲得していく過程で生じる葛藤やストレスといった困難に看護職者自身が向き合うことを表していた.サブカテゴリは[困難との直面]〔Delaney; Duchscher; Glen; Heitz; 東堤;Lalani; Mooney; Qiao; Steiner; Sullivan-Bentz; Whitehead; Ziebarth〕,[葛藤]〔Godinez; 日野;Lea; Samarel; Whitehead〕であった.

7)【時間の枠組み】

このカテゴリは,時間の長さを表していた.サブカテゴリは[1年間]〔Bonnel; Chang; Cusson; Deasy; Duchscher; Godinez; 東堤;日野;Holt; Lalani; Lea; Qiao; Seng; Sullivan-Bentz; Woods〕,[2年間]〔Anderson; Jackson; Manning; Steiner〕,[5年間]〔Heitz〕,[過去と現在との間]〔Robinson; Schmitt〕であった.新たな活動に取り組み始めてから一定程度の活動ができるようになるまで,あるいは準備状態が整うまでの期間を表していた.

2.先行要件

看護職者の役割移行の先行要件として,7つのカテゴリが抽出された.

1)【活動の場】

このカテゴリは,看護職者が新たな活動に就くその設定と状況を表していた.サブカテゴリは[設定]〔Duphily; Fleming; Godinez; Samarel; Sherman; Zurmehly〕,[資格]〔Cusson; Fleming; Glen; Heitz; Spoelstra; Steiner; Sullivan-Bentz; Woods〕,[ポジション]〔Deasy; Delaney; Dempsey; Dufault; Duphily; Evans; Godinez; 東堤;日野;Jackson; Lalani; Lea; Manning; Mooney; O’Brien; Qiao; Robinson; Schmitt; Schoening; Seng; Whitehead〕,[段階]〔Anderson; Cusson; Dempsey; Duphily; Evans; Glen; Glynn; Godinez; Heitz; Robinson; Schoening〕であった.新たな活動の場は,地域,病院,介護施設,あるいは救急部門や専門病棟であった.新たな就業場所は,そこに勤務する看護職者に新しい行動様式の獲得を要求していた.このカテゴリには,上級実践者すなわち看護実践レベルが上がること,看護管理者として昇格すること,資格を取得し活動範囲を拡大すること,などが含まれていた.資格として,ナースプラクティショナー,高度実践看護師(Advanced Practice Nurse),クリニカルナーススペシャリスト,クリニカルナースリーダーが取り上げられていた.

2)【組織文化】

このカテゴリは,看護職者が組織や社会の一員として組織文化を理解し,そこで求められる機能を遂行する,あるいは準備することを表していた.サブカテゴリは[組織文化]〔Dufault; 日野;Jackson; Robinson; Woods〕,[組織体制]〔Delaney; 東堤;日野〕,[職場環境]〔Delaney; Dufault; Lea; Qiao; Sullivan-Bentz; Whitehead; Zurmehly〕であった.

3)【道具的支援】

このカテゴリは,新たな活動に就いた看護職者が十分に実践できるように,予め準備された教育プログラムを中心とする道具的支援を表していた.サブカテゴリは[オリエンテーション]〔Delaney; Dempsey; Duchscher; Dufault; Glynn; Godinez; Lalani; Manning; Schoening; Ziebarth〕,[ガイダンス]〔Duphily; Evans〕,[教育プログラム]〔Bonnel; Chang; Cusson; Deasy; Dufault; Evans; Glynn; Graham; 東堤;Lalani; Lea; Robinson; Samarel; Schmitt; Seng; Sherman; Spoelstra; Steiner; Whitehead; Ziebarth; Zurmehly〕,[教育]〔Cusson; Deasy; Dempsey; Glen; Glynn; Heitz; Lalani; Manning; Samarel; Schoening; Sherman; Steiner; Sullivan-Bentz; Whitehead; Ziebarth; Zurmehly〕,[情報]〔Cusson; Manning〕,[教材]〔Evans; Godinez〕であった.教育プログラムには,オリエンテーションやガイダンスの要素を含む短期プログラム,資格取得のための2年間を超える長期プログラムが含まれていた.教育内容には,高度な看護実践を行うための知識・技術,特殊な活動に必要なトレーニング,看護の対象者の特性を理解する内容などが含まれていた.教育プログラムへの参加期間を移行期間と捉える研究もあり,これらは教育期間の修了を役割移行の終点としていた(Ziebarth & Miller, 2010; Steiner et al., 2008; Seng et al., 2004).

4)【情緒的支援】

このカテゴリは,看護職者の新たな活動の遂行を支援するために,特に所属する組織や集団からの人的資源の投入を中心とする支援を表していた.情緒的支援には,看護職者の情緒面に働きかける側面と,知識の習得を確認する評価の側面の両方が含まれていた.サブカテゴリは[プリセプター]〔Cusson; Delaney; Glen; Glynn; Godinez; Seng〕,[メンター]〔O’Brien〕,[スーパーバイザー]〔Robinson〕,[サポート]〔Cusson; Deasy; Dempsey; Duphily; Evans; Jackson; Lalani; Manning; Robinson; Samarel; Seng; Sherman; Steiner; Sullivan-Bentz; Ziebarth; Zurmehly〕であった.

5)【能力と専門知識】

このカテゴリは,新たな活動の遂行に必要とされる看護職者の能力や知識内容を表していた.サブカテゴリは[能力]〔Deasy; Duchscher; Schmitt〕,[専門知識]〔Anderson; Duchscher; Dufault; Duphily; Holt; Manning; Robinson; Samarel; Seng; Schoening; Sullivan-Bentz; Zurmehly〕,[得意分野]〔Fleming〕であった.

6)【経験】

このカテゴリは,新たな活動に就く以前に獲得した看護職者の経験を表しており,個人にとって望ましい経験と,そうでない経験の両方を含んでいた.サブカテゴリは[経験]〔Bonnel; Chang; Cusson; Dempsey; Dufault; Glen; Godinez; Heitz; 東堤;Manning; Robinson; Schoening; Seng; Sherman; Spoelstra; Steiner; Woods〕であった.

7)【時機】

このカテゴリは,看護職者が新たな活動に取り組むことになった時機や適時性を表していた.サブカテゴリは[時機]〔Duchscher; 東堤;Schoening; Spoelstra〕,[時]〔Cusson; Dempsey; Godinez; Jackson; Mooney; Schoening; Seng; Spoelstra; Zurmehly〕であった.[時]は看護職者の不安や焦りを表す表現方法の一つとして,困難(Jackson, 2005),不足(Mooney, 2007),要求(Godinez et al., 1999)という用語と結びついて用いられていた.

3.帰結

看護職者の役割移行の帰結として,4つのカテゴリが抽出された.

1)【新たな行動様式の獲得;成功】

このカテゴリは,看護職者が現在所属する領域での活動を継続しながら新たな行動様式を獲得していること,すなわち成功を表していた.サブカテゴリは[成功]〔Cusson; Deasy; Delaney; Dempsey; Evans; Glynn; Godinez; Jackson; Lea; O’Brien; Schoening; Sherman; Sullivan-Bentz; Whitehead; Ziebarth; Zurmehly〕,[効果的]〔Anderson; Delaney; Glen; Graham; Heitz; 東堤;日野;Holt; Lalani; Lea; Robinson; Samarel; Schmitt; Schoening; Seng; Spoelstra; Whitehead〕,[社会化]〔Delaney; Dufault; Duphily; Graham; 東堤;Holt; Lalani; Lea; O’Brien; Schoening〕であった.

2)【看護専門職としての実践】

このカテゴリは,看護職者が看護専門職として現在の活動に主体的に取り組む前向きな行動を表していた.サブカテゴリは[チャレンジ]〔Anderson; Bonnel; Chang; Cusson; Glen; Holt; Jackson; Manning; Sullivan-Bentz; Ziebarth〕,[ストラテジー]〔Bonnel; Qiao; Sullivan-Bentz〕,[開始]〔Delaney; Evans; Schoening; Spoelstra〕,[開発]〔Cusson; Dempsey; Glen; Graham; Heitz; Holt; Woods〕であった.

3)【看護専門職としての自己啓発】

このカテゴリは,看護職者が新たな活動の遂行で得た成果を実感し,さらなる飛躍と成長を志向するという状況を表していた.サブカテゴリは[専門職性]〔Anderson; Bonnel; Cusson; Deasy; Delaney; Duchscher; Dufault; Evans; Glen; Glynn; Heitz; Lalani; Mooney; Qiao; Robinson; Schoening; Seng; Spoelstra; Steiner; Zurmehly〕,[個人の発達]〔Delaney; Godinez; Graham; Heitz; 日野;Jackson; O’Brien; Schoening; Seng〕であった.

4)【職業活動の中断;失敗】

このカテゴリは,新たな活動を実践することができない,あるいは活動に取り組む機会が得られないなど,職業活動の中断を表していた.サブカテゴリは[退職]〔Anderson; Cusson; Dufault; Glynn; Lalani; Robinson; Zurmehly〕であり,最悪の事態として取り上げられていた.

4.代用語

代用語として,役割変化(Role change)が抽出された(Robinson et al., 2012; Manning & Neville, 2009; Steiner et al., 2008; Holt, 2008).役割変化とは,役割の内容が変わることであり,新たな役割に就くという役割移行の一側面を表していた.しかし,役割移行が個人の経験に焦点を当てる一方,役割変化では役割の内容に焦点を当てており,これらの用語の用いられ方には違いがあった.

5.関連する概念

役割移行に関連する概念として,役割取得(Evans, 2001; 東堤他,2012)と役割拡大(Seng et al., 2004)が抽出された.これらの概念は,役割移行の属性である【新たな活動への期待と成功の希求】と強く結びついていた.

Ⅴ.考察

1.概念モデルと本概念の定義

概念モデルを図1に示す.本概念の特徴を表す属性は,【新たな領域で活動することへの意味づけ】を基盤としており,看護職者が【時間の枠組み】の中で【新たな行動様式を獲得するための取り組み】と【新たな活動への期待と成功の希求】と【職業的アイデンティティの模索】を経験し,【情緒的反応】や【困難との直面】を経て,新たな行動様式を獲得していく一連の過程を表していた.先行要件は,新たな環境である【活動の場】と【組織文化】,新たな活動に影響を及ぼす外的要因と内的要因,【時機】であり,これらは概念に先立って生じていた.外的要因である【道具的支援】と【情緒的支援】には,教育プログラムの提供やメンターの配置が含まれ,看護職者の活動を直接に支援していた.内的要因である看護職者の【能力と専門知識】と【経験】は,新たな活動を遂行するための基盤であった.帰結として,【新たな行動様式の獲得;成功】と【職業活動の中断;失敗】があり,看護職者の職業継続状況を表していた.看護職者は【看護専門職としての実践】と【看護専門職としての自己啓発】によって新たな行動様式を獲得し,役割取得や役割拡大へと繋げていた.

図1 看護職者の役割移行の概念モデル

以上の結果を基に,本研究では看護職者の役割移行を「看護専門職としての発達を志向する看護職者が,新たな領域での活動に意味を見出し,一定期間の活動継続を経て新たな行動様式を獲得していく過程である」と定義した.

2.概念活用への有用性と課題

役割移行という概念は,新人と称される看護職者の状況を説明する際に用いられており,特に看護学生から看護師への役割移行に焦点を当てるときに用いられる傾向があった.役割移行と合わせて用いられる概念にはリアリティショックや役割葛藤があり,いずれも役割移行の困難さと関連していた(Glynn & Silva, 2013; Lalani & Dias, 2011; Deasy et al., 2011; Qiao et al., 2011; Duchscher, 2008; Mooney, 2007; Lea & Cruickshank, 2007; Jackson, 2005; Delaney, 2003; Whitehead, 2001; Evans, 2001; Godinez et al., 1999; Dufault, 1990).

看護職者の役割移行は,職業活動を通して成し遂げられる看護職者個人の発達過程であり,看護職者のキャリア発達と結びついている.役割移行の成功には,新たな活動に対する看護職者のモチベーションやレディネスなど,複数の要因が関連していた(Glynn & Silva, 2013; Mooney, 2007; Seng et al., 2004; Delaney, 2003; Whitehead, 2001; Bonnel et al., 2000).また,経験豊富な看護職者であっても,新たな領域で活動を成し遂げることは容易ではないことを示していた(Duphily, 2011; Delaney, 2003).このことは,一定の役割やポジションに必要とされる教育内容を特定し,教育プログラムとして提供するなどの道具的支援の必要性を示唆している.本概念を定義することにより,役割移行期にある看護職者の特定が可能となり,必要とされる支援について検討することが可能となった.

今後の課題は,役割移行に伴う看護職者の状況を把握し,必要な支援を提供できる支援システムを構築することである.そのためには,看護職者が活動する新たな環境ならびに活動に影響する要因について検討し,役割移行の促進要因と阻害要因を特定することが必要である.

3.研究の限界

今回,研究対象となった40文献のうち,国内文献はわずか2文献であった.わが国の看護職者の役割移行に本概念を適用するためには,役割移行を経験した看護職者の事例を集めるなどして,さらに検討を重ねることが必要である.

Ⅵ.結論

Rodgers(2000)の概念分析アプローチ法を用いて看護職者の役割移行の概念分析を行った.属性の7カテゴリ,先行要件の7カテゴリ,帰結の4カテゴリが抽出され概念モデルが提示された.看護職者の役割移行とは,看護専門職としての発達を志向する看護職者が,新たな領域での活動に意味を見出し,一定期間の活動継続を経て新たな行動様式を獲得していく過程であると定義された.今後の課題として,役割移行期にある看護職者を支援するための支援システムを構築することの必要性が示唆された.

Acknowledgment

本研究論文の作成に際しご指導くださいました聖路加国際大学の田代順子教授,松谷美和子教授に心より感謝申し上げます.なお,本稿の一部は日本看護学教育学会第24回学術集会にて発表したものである.

References
 
© 2014 日本看護科学学会
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