日本看護科学会誌
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研究報告
成人女性を対象とした生理・心理的評価に基づく足浴の最適な「水深」の検討
清水 三紀子 永谷 幸子
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2015 年 35 巻 p. 18-27

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Abstract

目的:成人女性を対象として足浴による生体反応を生理・心理学的な評価指標を用いて足浴の最適な「水深」を明らかにした.

方法:成人女性19名(21~37歳)を対象に,座位にて41°Cの湯温の足浴を15分間実施した.足浴の水深は三陰交を含まない8 cm,三陰交を含み腓腹筋を含まない15 cm,腓腹筋を含む20 cmを設定し,1日おきに3種類の足浴を実施した.心拍変動から低周波成分(LF)と高周波成分(HF)を算出し,副交感神経活動をHF,交感神経活動をLF/HFとした自律神経活動,表面温,深部温,血圧を生理的指標とし,日本語版POMS-短縮版と新版STAIを心理的指標とした.

結果:POMSにおいては水深15 cmでは6項目すべてのT得点において足浴前より足浴後の方が有意に低くなり,8 cm・20 cmに比較してよりリラックス効果が得られた.また,交感神経活動,副交感神経活動,心拍数,表面温,血圧においては水深の相違による有意差はみられなかった.深部温においては水深15 cmが8 cm・20 cmに比較して有意に安定していた.

結論:成人女性を対象とした足浴の水深は生理・心理学的に8 cm・20 cmより15 cmの方が最適であることが示唆された.

Ⅰ.はじめに

女性を対象とした足浴の研究では,女性の約半数が悩んでいると言われている冷えの改善や分娩期における陣痛促進や分娩所要時間の短縮などの効果が数多く報告されている(松本,2001山本,2004宮里,2000).これまでの足浴による生理・心理的指標は,皮膚表面温度および皮膚血流量(上馬場,2004吉村ら,2009Wen-Chunら,2005),自律神経活動(清水ら,2001宮下ら,2000),ストレスマーカーである唾液中コルチゾール値(大平ら,2004),気分を評価する質問紙のPOMS(Profile Of Mood States)や痛みの程度を評価するスケールのVAS(Visual Analogue Scale)などの主観的評価(豊田ら,1997Morishita et al., 2003),薬浴使用の有無(上馬場ら,2003白川ら,2002),足浴中のコミュニケーションの有無(布施ら,2004)などが挙げられる.しかし,それらの研究では足浴の水深が5 cm(足の甲まで)~20 cm(膝下まで)とその幅は大きい.また,一般的な看護技術に関する教科書において足浴容器は臨床現場で頻繁に用いられるベースンの使用を基本としているものがほとんどであり,その水深は約10 cm(踝が浸る程度)と想定されるが,水深は明記されていない.しかし,足浴の水深の相違による水圧や湯に接する表面積の差異は,先行研究の生理・心理的指標に影響を与えることが予測される.しかし,これらの研究では適切な足浴の水深について,その効果を多角的に検討した報告はほとんどない.唯一,川口ら(1999)の気温18°C,足浴温42°Cの条件下で水深5 cmと15 cmを比較した研究では,水分蒸発量と皮膚血流量に差異はみられなかったが,被験者の主観的な発汗感は15 cmのみにみられたと報告している.しかし,一般的な足浴温約40°C前後で水深を比較した研究は見当たらない.

以上より,本研究では成人女性を対象として足浴による生体の反応を生理学的に多角に検討し,さらに心理的評価指標を用いてリラックス状態の程度を評価することにより,足浴の最適な水深を明らかにすることを目的とした.

Ⅱ.用語の操作的定義

足浴の最適な水深:足浴により,心身ともに最もリラックスした状態に至る水深をいう.

Ⅲ.研究方法

1.研究デザイン

準実験研究

2.研究対象者と研究期間

平成20年7~9月に研究協力を依頼し同意を得られた成人女性19名.

3.研究内容

1)環境設定

(1)時間帯と室温・湿度

開始時間8:00~15:00.室温25~28°C.湿度37~75%.

(2)場所

A大学生理学的研究室

(3)測定条件

研究協力者には評価指標に影響を与えないために,①睡眠を6時間以上とる,②食事量を極端に減らさない,③自律神経活動が安定している月経後7~10日目という3項目の協力を要請した.

2)測定内容

(1)実験プロトコール(図1

はじめに,日本語版POMS(Profile Of Mood States)-短縮版(以後,POMS)(約5分間)と初日のみ新版STAI(State-Trait Anxiety Inventory-Form JYZ)(以後,STAI)(約5分間)を用いて,心理状態の調査を行った.次に測定装置を装着し,皮膚温が安定するまで15分間の安静座位を保持した.その後,41°Cの湯温を保つことが可能な足浴槽の冷え取り君ニュースーパーマイコン(高陽社)に座位のまま両下肢を入れて,15分間の足浴を実施した.湯温と足浴時間は基礎看護学の教科書および先行研究において,湯温38~43°C,足浴時間10~20分の範囲がみられたため,平均的な値を設定した.水深は三陰交を含まない8 cm,三陰交より上で腓腹筋を含まない15 cm,腓腹筋を含む20 cmを設定し,1日おきに3日間かけて実施した.実施の順序は,1例目の水深が1日目8 cm/2日目15 cm/3日目20 cm,2例目の水深が1日目15 cm/2日目20 cm/3日目8 cm,3例目の水深が1日目20 cm/2日目8 cm/3日目15 cmという3パターンを以後19例まで順番に行い,順序バイアスの影響を最小限とした.足浴終了後,介助にて静かに足浴槽をはずし,両下肢の水分を拭き取ったあと,下腿をタオルで覆い,座位にて30分間の安静を保持した.その後測定装置を取り外し,最後に再びPOMS質問紙(約5分間)に回答してもらい,実験を終了した.合計所要時間は約70分間(ただし,実験初日は約75分間)であった.

図1 実験プロトコール

(2)測定項目

生理的指標として自律神経活動・心拍数・表面温・深部温・血圧を,心理的指標としてPOMSおよびSTAIを用いた.

a.自律神経活動の測定

自律神経活動の解析ソフトは,バイタリズム98III(NECメディカルシステムズ)を使用し,R–R間隔変動のパワースペクトル解析を行った.低周波成分(LF)を0.04~0.15 Hz,高周波成分(HF)を0.15~0.40 Hzと設定し,交感神経活動として高周波成分と低周波成分の比(LF/HF)を,副交感神経活動として高周波成分(HF)を指標とした.また,同時に心拍数も連続的にモニタリングした.得られた測定値は,5分ごとに区切り,そのうちで安定している1分間の平均を算出した.足浴前の安静時の値は,安静15分間のうち安定している1分間の平均を算出した.算出したこれらの値は安静時を「1」とし,それぞれの変化率を表した.

b.表面温

表面温の解析ソフトは,BioGraph INFINITI(MPジャパン)を使用し,測定器具は専用のサーミスタ温度センサーを使用した.手部は右第2指の手掌側に,カブレステープで貼布した.温度の変化を電流の変化に変換することにより得られる皮膚温度を0.125秒間隔で連続的にモニタリングできる.得られた測定値は,それぞれ1分間の平均を算出した.

c.深部温

深部温の測定は前額部で行い,深部温モニターコアテンプCM-120(TERUMO)の深部温プローブPDI XX-CM210PD1(TERUMO)を用いた.温度の変化を電流の変化に変換することにより得られる皮膚温度を0.125秒間隔で連続的にモニタリングした.得られた測定値は,それぞれ1分間の平均を算出した.

d.血圧の測定

血圧測定には,上腕式デジタル自動血圧計HEM7051(オムロン)を使用し,左上腕にて1分ごとに測定した.

e.POMS:日本語版POMS(Profile Of Mood States)-短縮版

6領域30項目からなり,「1.まったくなかった」(0点)から「5.非常に多くあった」(4点)までの5段階評価法である.人間の情動を,気分・感情・情緒といった主観的側面から評価する目的で,McNairらにより米国で開発された質問用紙法の一つである.「緊張–不安」,「抑うつ–落ち込み」,「怒り–敵意」,「活気」,「疲労」および「混乱」の6つの気分尺度を同時に測定することができる.合計得点をT得点(合計得点を性・年齢を考慮し標準化した得点:T得点=50+10×(合計得点−平均点)÷標準偏差)に換算した.

f.STAI新版STAI(State-Trait Anxiety Inventory-Form JYZ)

状態不安尺度20項目,特性不安尺度20項目の合計40項目からなり,「1.全くあてはまらない」(1点)から「4.非常によくあてはまる」(4点)までの4段階評価法である.状態不安尺度では不安を喚起する事象に対する一過性の反応を評価し,特性不安尺度では不安体験に対する比較的安定した反応を評価するものである.それらの尺度はさらに不安存在尺度(anxiety-present scale:P尺度;緊張している,ストレスを感じているなど)と不安不在尺度(anxiety-absent scale:A尺度;おだやかな気持ちだ,安心しているなど)の2つのカテゴリーに分けられる.各項目の素点(表1)は5段階に区分され,段階5,4は高不安,段階3は普通,段階2,1は低不安とされる.

表1 素点からの段階早見表(女子大学生)

4.分析方法

統計ソフトSPSS17.0を用いて,独立t検定,対応のあるt検定,Wilcoxonの符号付き順位和検定,反復測定を行った.

5.倫理的配慮

研究協力者には研究の目的,方法を紙面および口頭にて説明し,研究協力拒否権があること,期間中に測定が負担になった場合は協力の撤回をいつでも行ってもよいこと,また,それによる何らかの不利益を被ることがないことを保証した.本研究以外に得られたデータを他用せず,プライバシーを保護することを説明した上で参加の同意を得た.測定中は,測定場所周辺にはアコーディオンカーテンを使用するなどして,測定中のプライバシー保護に努めた.また,測定中は研究者の気分の変調に配慮し,細心の注意を払って実施した.なお,本研究は名古屋大学大学院医学系研究科および医学部附属病院生命倫理審査委員会の承認を得た(承認番号:539).

Ⅳ.結果

1.対象者の属性とSTAI(表2

対象者(19名)の年齢の平均±標準偏差は,26.2±5.55歳(21~37歳)であった.座位の姿勢で測定した床から膝蓋骨上縁までの距離の平均±標準偏差は,46.8±1.2 cmであった.STAIではすべての尺度で段階1~3の低不安から普通の状態の分布が多く,各尺度の1~3段階の合計は,状態不安では全尺度18名/P尺度13名/A尺度17名,特定不安では全尺度14名/P尺度18名/A尺度15名であり,対象は精神的に安定した集団であった.

表2 STAI段階別度数分布

2.POMS(表3

各項目の足浴前後の得点においてWilcoxonの符号付き順位和検定を行った.

表3 POMSのT得点の平均点

1)緊張–不安

すべての水深において足浴前より足浴後の方が,有意に得点が低かった(8 cm・15 cm p<.01, 20 cm p<.05).

2)抑うつ–落込み

すべての水深において足浴前より足浴後の方が,有意に得点が低かった(8 cm・20 cm p<.01, 15 cm p<.05).

3)怒り–敵意

すべての水深において足浴前より足浴後の方が,有意に得点が低かった(8 cm・15 cm・20 cm p<.01).

4)活気

水深15 cmにおいて足浴前より足浴後の方が,有意に得点が低かった(p<.05).水深8 cmおよび20 cmにおいては,足浴前より足浴後の方が得点は低かったが有意差はなかった.

5)疲労

すべての水深において足浴前より足浴後の方が,有意に得点が低かった(15 cm p<.01, 8 cm・20 cm p<.05).

6)混乱

水深8 cmおよび15 cmにおいて足浴前より足浴後の方が,有意に得点が低かった(8 cm・15 cm p<.05).水深20 cmにおいては,足浴前より足浴後の方が得点は低かったが有意差はなかった.

3.自律神経活動

1)LF/HF;交感神経活動の変化率(図2

足浴前の安静時の実測値の平均値±標準偏差は,水深8 cm: 1.24±0.86, 15 cm: 1.29±0.86, 20 cm: 1.18±0.79(以後,この安静時の値を基準とするため,各実測値を変化率『1』と換算して,足浴中・足浴後の各実測値を変化率で表すこととする)であった.3つの水深の安静時の実測値を一元配置分散分析したところ,有意差はみられず,足浴前の交感神経活動に相違はみられなかった.すべての水深において安静時が最も低かった.足浴直後から足浴後25~30分(変化率;8 cm: 3.03±3.71, 15 cm: 2.45±2.27, 20 cm: 2.89±1.90)までは増減を繰り返しながら徐々に上昇し,交感神経活動が亢進した.安静時から足浴後25~30分までの変化率を被験者内変数とし,3つの水深を被験者間因子として反復測定を行った結果[F値=0.921, p値=0.380],足浴の水深による有意差はなく,交感神経活動に相違はなかった.

図2 LF/HFの変化率

2)HF;副交感神経活動の変化率(図3

足浴前の安静時の実測値の平均値±標準偏差は,水深8 cm: 499.7±423.0 msec2, 15 cm: 285.4±228.3 msec2, 20 cm: 359.7±358.1 msec2(以後,この安静時の値を基準とするため,各実測値を変化率『1』と換算して,足浴中・足浴後の各実測値を変化率で表すこととする)であった.3つの水深の安静時の実測値を一元配置分散分析したところ,有意差はみられず,足浴前の副交感神経活動に相違はみられなかった.水深15 cmおよび20 cmにおいて,足浴開始10~15分(変化率;8 cm: 1.56±1.90, 15 cm: 1.95±1.54, 20 cm: 2.02±1.94)は足浴開始0~5分(変化率;15 cm: 1.06±0.39, 20 cm: 1.38±1.53)より有意に高く(15 cm p<.01, 20 cm p<.05),水深8 cm(変化率;1.14±1.12.1)においても上昇傾向を示しており,すべての水深において足浴中に副交感神経活動が亢進した.

図3 HFの変化率

***: p<.01, **: p<.05

副交感神経活動は,すべての水深において足浴直後から足浴後0~5分(変化率;8 cm: 1.03±0.64, 15 cm: 1.38±1.30, 20 cm: 1.08±0.63)までに急速に下降した.その後,水深8 cmでは15~20分(変化率;1.78±1.79)に,水深15 cmでは10~15分(変化率;2.19±1.70)に,水深20 cmでは20~25分(変化率;2.77±3.11)に再び上昇のピークを迎え,25~30分までに下降したが,安静時までは戻らなかった.安静時から足浴後25~30分までの変化率を被験者内変数とし,3つの水深を被験者間因子として反復測定を行った結果[F値=2.810, p値=0.102],足浴の水深による有意差はなく,副交感神経活動に相違はなかった.

4.心拍数(図4

心拍数は,すべての水深において安静時(8 cm: 70.2±9.6回/分,15 cm: 71.7±9.8回/分,20 cm: 71.9±8.8回/分)と比較して,足浴開始10~15分(8 cm: 68.4±9.3回/分,15 cm: 70.1±10.6回/分,20 cm: 68.8±9.7回/分)で低下した.足浴後は増減を繰り返したが,安静時の値まで戻ることはなかった.安静時から足浴後25~30分までの変化率を被験者内変数とし,3つの水深を被験者間因子として反復測定を行った結果[F値=0.504, p値=0.608],足浴の水深による有意差はなく,心拍数に相違はなかった.

図4 心拍数

5.表面温(図5

表面温は,水深8 cmおよび15 cmにおいて安静時から足浴後30分まで35.0~35.3°Cの狭い範囲の変動であった.水深20 cmでは,足浴後15分より下降し,足浴後30分では34.8°Cまで低下した.安静時から足浴後30分までの各実測値を被験者内変数とし,3つの水深を被験者間因子として反復測定を行った結果[F値=0.017, p値=0.983],足浴の水深による有意差はなかった.

図5 表面温

6.深部温(図6

深部温は,すべての水深において足浴開始5分から足浴終了後30分まで安静時(8 cm: 36.73±0.24°C, 15 cm: 36.70±0.23°C, 20 cm: 36.68±0.25°C)より低下したが,それらは0.18°C(36.52~36.70°C)と狭い範囲の変動であった.安静時から足浴後30分までの各実測値を被験者内変数とし,3つの水深を被験者間因子として反復測定を行った結果[F値=3.774, p値=0.049],有意差がみられ(p<.05),15 cmが8 cmおよび20 cmに比較して有意に安定していた.

図6 深部温

7.血圧

1)収縮期血圧(図7

収縮期血圧は,水深8 cmおよび15 cm(8 cm: 95.5±7.2 mmHg, 15 cm: 94.2±5.2 mmHg)では足浴開始1分より足浴開始15分の方が有意に低下し(8 cm p<.05, 15 cm p<.01),水深20 cm(95.5±6.2 mmHg)においても低下傾向を示した.安静時から足浴後30分までの各実測値を被験者内変数とし,3つの水深を被験者間因子として反復測定を行った結果[F値=1.905, p値=0.060],足浴の水深による有意差はなく,収縮期血圧に相違はなかった.

図7 収縮期血圧

***: p<.01, **: p<.05

2)拡張期血圧(図8

拡張期血圧は,水深8 cmおよび15 cm(8 cm: 59.6±7.4 mmHg, 15 cm: 58.2±7.0 mmHg)では足浴開始15分より足浴開始1分の方が有意に低下し(8 cm p<.05, 15 cm p<.01),水深20 cm(59.1±7.3 mmHg)においても低下傾向を示した.安静時から足浴後30分までの各実測値を被験者内変数とし,3つの水深を被験者間因子として反復測定を行った結果[F値=1.342, p値=0.106],足浴の水深による有意差はなく,拡張期血圧に相違はなかった.

図8 拡張期血圧

***: p<.01, **: p<.05

Ⅴ.考察

1.心理的評価

水深15 cmではPOMSの6項目すべてのT得点において,足浴前より足浴後の方が有意に低くなり,水深8 cmおよび20 cmに比較して,リラックス効果が高かった.また,被験者より水深8 cmの足浴実施時には“(水が)少ない,(水深が)低い”,水深20 cmの足浴実施時には“(水が)多い,(水深が)高い”といった発言が頻回に聞かれた.これより,水深15 cmは観光地などで設置されている一般的な足湯の水深と類似しており視覚的に違和感がなかったため,リラックスが得られた可能性が示唆された.

2.生理的評価

水深15 cmおよび20 cmの副交感神経活動の足浴開始10~15分は,足浴開始0~5分に比較して有意に高くなり(15 cm p<.01, 20 cm p<.05),リラックス効果が得られたと考えられた.特に水深15 cmでは有意差がp<.01となり,その効果は顕著に現れた.副交感神経活動の亢進により血管拡張が生じ,水深15 cmの足浴開始15分の収縮期血圧および拡張期血圧は足浴開始1分より有意に低下し(p<.01),心拍数は減少傾向を示し,表面温の上昇に伴う深部温の低下がみられたと考えられた.血圧・心拍数・表面温・深部温の変動は,金子ら(2009)Morishitaら(2003)などの結果同様,正常範囲内であった.これらより,成人女性を対象とした水深15 cmの足浴は水深8 cmおよび20 cmより副交感神経を亢進させ,血圧・心拍数・表面温・深部温の変動は正常範囲内でリラックス効果を発揮させることが示唆された.水深15 cmでリラックス効果が高いというこの結果は,心理的評価であるPOMSと同様であった.

一方,足浴後の交感神経活動は増減を繰り返しながら徐々に亢進していったが,副交感神経活動は水深15 cmおよび20 cmでは足浴後10~15分,水深8 cmでは足浴後20~25分から低下がみられた.これらの結果に影響した要因の1つに,左上腕で1分ごとに血圧測定を実施したため,頻回な加圧による左上腕の絞めつけがストレスとなり,交感神経活動の亢進と副交感神経活動を低下させた可能性が考えられた.また,竹本ら(2007)の研究では,座位による足浴は副交感神経活動を減弱させると述べており,足浴体位による影響を示唆している.本研究では座位の姿勢保持を実験内の60分間行っており,座位の長時間の保持がストレス因子の1つとなり,交感神経活動の亢進と副交感神経活動が低下した可能性が示唆された.さらに,湿度が37~75%と不安定であったことが自律神経活動に影響した可能性があった.しかし,厚生労働省が定める建築物衛生法の適正な相対湿度40%以上70%以下の基準(厚生労働省HP)から大幅に逸脱した値ではなく,対象からも“蒸し暑い”,“乾燥する”といった湿度に関する不快な発言はなかった.また,岡本ら(2003)の研究では,室温25°Cの条件下で湿度40%と70%の自律神経活動を比較したところ,心拍変動のHF成分については湿度の影響は認められなかったと報告している.これらより,本研究において自律神経活動が湿度に影響された可能性は低いことが予測されたが,研究の限界として,今後湿度の影響を明らかにする必要がある.また,交感神経活動と副交感神経活動は一般的に拮抗作用を示すが,本研究では同時に活性化した.これは,R–R間隔の変動は副交感神経遮断薬の投与で小さくなるが,交感神経遮断薬の投与では影響がないことより迷走神経を反映しているとされていることより(日本自律神経学会,2000),交感神経活動を表す指標をLF/HFとする信頼性を問う結果となった.

以上のように,頻回な血圧測定,長時間の座位保持,湿度,自律神経活動の測定方法が交感神経の亢進を導いた可能性は否定できない.しかし,それらの条件下においても,副交感神経の有意な上昇,心拍数の減少,血圧の低下およびPOMSにおけるリラックス状態への移行の結果より,足浴中は副交感神経が優位であったことは明らかであり,これは単純に足浴の効果であるといえる.加えて,3つの水深の比較より,足浴では水深15 cmが最も心身ともにリラックス状態となることが明らかになった.

他方,足浴後30分の時点においても交感神経活動,副交感神経活動,表面温,深部温,血圧は安静時の状態に回復しておらず,足浴の影響が持続した.そのため,足浴によるこれら生理反応の影響の持続時間を明らかにすることが今後の課題である.

また,水深の相違によって生じて加温される体表面積の違いが循環動態に影響を与えることが予測されたが,表面温・血圧・心拍数に有意差はみられなかった.また,深部温は水深15 cmが水深8 cmおよび20 cmにより有意に安定する結果となった.踝まで湯に浸る程度の水深8 cmと腓腹筋まで湯に浸る水深20 cmでは,加温される体表面積に大きな差がみられる.さらに腓腹筋は第2の心臓と呼ばれ,下肢の多量の血液を心臓に戻す筋ポンプ作用がある(今戸,2007).そのため,腓腹筋の加温の結果,水深20 cmは水深8 cmおよび15 cmより血管が拡張して筋ポンプ作用が弱まり,下肢の血流が停滞することによって有意に表面温・血圧・深部温は低下し,心拍数は増加することが予測されたが,本研究の41°Cの湯温で15分間の足浴条件では加温される体表面積と筋ポンプ作用に影響がないことが示唆された.

Ⅵ.結論

心理的指標であるPOMSにおいて,水深15 cmでは6項目すべてのT得点が足浴前より足浴後の方が有意に低くなり,さらに生理的指標である副交感神経活動の足浴開始10~15分は足浴開始0~5分より有意に高かった(p<.01)ことより,リラックス効果が得られたことが示唆された.また,血圧・心拍数・表面温の変動は正常範囲内であり,深部温は水深8 cmおよび20 cmより有意に安定した結果より,成人女性を対象とした足浴は,生理・心理学的に水深8 cmおよび20 cmと比較し,水深15 cmが適していることが示唆された.

Ⅶ.本研究の限界と今後の課題

  • 1. 本研究では座位の長時間保持(60分)がストレス因子の1つとなり,足浴後の副交感神経活動が低下した可能性が示唆されたため,体位による生理反応の影響を明らかにすることが今後の課題である.
  • 2. LF/HFが交感神経活動を表す指標であるかを再検討する必要がある.
  • 3. 湿度が自律神経活動に与える影響を検討する必要がある.
  • 4. 足浴後30分の時点においても生理反応(交感神経,副交感神経,表面温,深部温,血圧)は安静時の状態に回復しておらず,足浴の影響が持続した.そのため,足浴によるこれら生理反応の影響の持続時間を解明することが今後の課題である.
  • 5. 本研究結果である水深15 cmの足浴を成人女性に実施し,冷えや月経痛の緩和や分娩促進の効果を検討する必要がある.

Acknowledgment

本研究にご協力いただきました対象者の皆様に心より感謝申し上げます.本研究は平成19~20年科学研究費補助金【若手研究(B)課題番号19791692】の助成を得て実施した.また,本研究の一部を第3回日中韓看護学会で発表した.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

著者資格:MSは研究の着想およびデザイン,統計解析の実施,草稿の作成に貢献した.SNは原稿への示唆および研究プロセス全体への助言をした.2名の著者は最終原稿を読み,承認した.

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