日本看護科学会誌
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原著
乳がん治療関連リンパ浮腫患者へのセルフケアプログラムによる患側上肢体積減少効果
有永 洋子 佐藤 冨美子佐藤 菜保子柏倉 栄子
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2015 年 35 巻 p. 10-17

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Abstract

目的:エクササイズ,アロマセラピーによる皮膚保湿ケアとセルフリンパドレナージを含む1日10分間のセルフケアプログラムの乳がん治療関連リンパ浮腫患者(BCRL)への3か月後の効果を評価する.

方法:片側BCRL患者27名が研究に参加した.主要評価項目は上肢体積,副次評価項目は浮腫体積,相対的体積変化率,皮膚組織抵抗値,BMI,自記によるBCRL関連症状,皮膚状態,セルフケア時間,セルフケア点数,自主的・積極的なセルフケア実施の程度,セルフケアによるリンパ浮腫効果の程度,負担感の程度である.測定はプログラム開始前と開始後1か月,3か月に行った.

結果:25名が3か月のプログラムを完遂した.多重比較を行い終了時点で有意差があったのは患側上肢と上腕体積,患側および健側の前腕皮膚組織抵抗値,BMI,違和感であった.健側上肢体積に有意差はなかった.セルフケア時間,セルフケア点数,自主的・積極的なセルフケア実施の程度は有意に上昇した.

結論:3か月間の本セルフケアプログラムは,片側乳がん治療関連リンパ浮腫を和らげる可能性がある.

Ⅰ.緒言

乳がん治療関連リンパ浮腫(Breast-Cancer-treatment-Related Lymphoedema: BCRL)は根治的治療がなく,高リスク患者はセルフケアを一生継続していく必要がある(Ridner et al., 2012).現在,リンパ浮腫セルフケアで効果が示唆されているのは,全身運動と,第2段階複合的治療(Complex decongestive therapy: CDT)である(Ridner et al., 2012).第2段階CDTは,用手的リンパドレナージ(Manual lymphatic drainage: MLD),セルフリンパドレナージ(Self lymphatic drainage: SLD),スキンケア,圧迫療法,エクササイズなどを含む.これらのケアを同時に行うことで効果が期待されるが,MLD(Huang et al., 2013)を含む個々のケアの効果は立証されていない.スキンケアは,リンパ浮腫に伴うドライスキン,線維化,蜂窩織炎などの皮膚症状を予防するために重要である.皮膚保湿剤とMLDの併用は一般的に禁じられているが,リンパ浮腫に悪影響を及ぼすか否かについて検証はされていない.アロマオイルやクリームを併用したリンパドレナージは浮腫とQOLの改善効果が示唆され(Barclay et al., 2006; Kirshbaum, 1996),スキンケアとSLDを同時に行うことで患者の負担が軽減できると考える.

近年,リンパ浮腫に対するヨガ,ウェイトリフティングなど軽度~重度のエクササイズの影響が検証されている(Baumann et al., 2013).太極拳呼吸法を用いた上肢エクササイズ直後には,上肢水分量が52 ml(5.8%)減少しており(Moseley et al., 2005),呼吸や運動の外的動力によるリンパドレナージ効果が示唆されている.多くの患者がリンパ浮腫悪化予防のために患側上肢に負担をかけない生活をしている.しかし,過剰な上肢不使用は筋肉の減少と続発する循環不全によるリンパ系不全の原因となるため,適切な運動法について教育する必要がある.

処方されたリンパ浮腫セルフケアへの患者のアドヒアランスは良好でなかったと報告されている(Brown et al., 2013).乳がん好発年齢は30歳代から50歳代であり,この年代は仕事や家庭で重要な役割があり,セルフケアの時間を取ることが困難と考えられる.セルフケア行動を減少させる理由としては,セルフケア方法や時間確保の困難さ,知識や関心の不足,実施するエネルギーの不足などがあり(Armer et al., 2011),アドヒアランス向上には,患者自身がリンパ浮腫を制御できるという信念,自己効力感が重要である(Sherman & Koelmeyer, 2012).以上のことから,効果的かつ負担感が少なく,実行可能と思えるような,リンパ浮腫セルフケア方法の構築が必要である.

Ⅱ.研究の目的

乳がん治療関連リンパ浮腫患者が,長期リンパ浮腫自己管理を維持できる,簡便で効果的なセルフケアプログラムを開発し,その効果を縦断的に評価する.

Ⅲ.研究方法

1.研究デザイン

本研究はまず,健康人1名を対象にセルフケアプログラムの構成要素のエクササイズ,アロマオイルによる皮膚保湿ケアを併用したSLDの安全性と実行可能性を検証した後,BCRL患者を対象に本プログラムの効果を検証した.本研究は,東北大学病院臨床研究倫理委員会(No. 2012-2-16-1)および協力施設の倫理審査で承認を得た.また,UMIN臨床試験登録システムに登録(UMIN000007616)した.

本研究は,片側BCRL患者を対象とし,セルフケアプログラムによる介入効果を浮腫側上肢と健側で比較する縦断的比較対照研究である.同一個体内の健側・患側の体組成の違いは細胞外水分量/細胞内水分量比のみであるため,患側上肢体積のみが減少した場合,浮腫が改善したと判断できる.

調査は,2012年5月から2013年9月に実施した.

2.研究対象者

対象者の適格基準は,有害事象共通用語規準(CTC AE)v4.0(JCOG retrieved 2013.05.30)のリンパ管・浮腫:四肢グレード1以上の片側BCRL, 20歳以上の女性,ECOG PSが0~2,手術療法・化学療法・放射線療法後6か月以上経過した者とした.除外基準は,浮腫側上肢の急性炎症(蜂窩織炎),リンパ浮腫以外の浮腫,がん再発者,アロマオイルにアレルギーの既往やアトピー性皮膚炎がある,妊娠中または妊娠を予定している者とした.

必要標本数は,リンパ浮腫へのヨガの効果に関する研究(Loudon et al., 2012)をもとに有意水準5%,検出力80%で検出力を算出し,13~19名とした.

リクルート方法は,関西および東北地域にある4施設の乳腺外科医が外来通院中の対象者に研究説明書を配布し,初回面接で調査者が詳細な研究説明を行い,参加同意書を提出した時点で正式に研究参加登録とした.

3.介入方法

本BCRLセルフケアプログラムは,改変したラジオ体操第1(かんぽ生命retrieved 2013.05.30),太極拳呼吸法を用いた上肢エクササイズ(Moseley et al., 2005),中心リンパクリアランス,スゥィートアーモンドオイル+0.5%グレープフルーツ精油を用いたSLD(アロマセラピードレナージ)で1日約10分実施するように構成した.

ラジオ体操は,通常の二倍程度ゆっくりした動作で行うよう改変し,対象者の都合のよい時間に1日1回行うよう依頼した.ゆっくりした動作は,拘縮した筋肉や創の損傷予防,遠心力による末梢側へのリンパ液の移動予防,また,筋肉の緊張を長時間持続することで筋肉強化を図るためである.太極拳呼吸法を用いた上肢エクササイズ(Moseley et al., 2005)は,深呼吸と共にゆっくり上肢を開閉する運動を5回,入浴前に1日1回行うように依頼した.中心リンパクリアランスは,首,肩,上腕から鎖骨窩リンパ本幹に向かって軽擦法を,シャワー中もしくは入浴時に行う.アロマセラピードレナージは入浴直後に実施し,患側の肩,上腕,前腕,手の順に鎖骨窩リンパ本幹に向かってアロマオイルを塗布しながら軽擦を行う.アロマオイルに対するアレルギーは,初回面接時にオイルを塗布し確認した.また,毎回測定結果のグラフをフィードバックした.患者教育は,本プログラムを開発した第一著者が実施した.

4.評価内容と方法

主要評価項目は3か月後の上肢体積量とした.上肢体積は手,前腕,上腕の各部位の体積の和とした.手体積は水置換法で測定した.尺骨茎状突起から上腕は,Taylor法(Taylor et al., 2006)で解剖学的支点を用いて周径を測定し,前腕と上腕体積に換算した.周径測定は,重りつきメジャーテープを用い,仰臥位で行った.

副次評価項目は,皮膚組織抵抗値,浮腫体積,相対的体積変化率(RVC: Relative Volume Change)(Ancukiewicz et al., 2011)の客観的評価項目と,リンパ浮腫関連症状,皮膚状態および,セルフケア状況(セルフケアチェックリストの総合点:セルフケア点数,主観的な自主的・積極的なセルフケア実施の程度,セルフケアによるリンパ浮腫効果の程度,負担感の程度,セルフケアにかける1日の平均時間)の主観的評価項目とした.セルフケア状況以外は健側上肢を比較対照とし,プログラム開始前,1か月後,3か月後に測定した.また主観的評価項目測定は,1週間後も実施した.客観的評価項目測定は,測定の一貫性を保つためリンパ浮腫研究施設で測定方法の訓練をした第一著者が行った.

リンパ浮腫に伴う皮膚線維化の指標である皮膚組織抵抗値はFlinders University Biomedical Engineering作成のトノメーターTMMoseley & Piller, 2008)で測定した.浮腫体積は患側上肢と健側上肢体積差とし,RVCはベースラインの健側上肢と患側上肢の比率から,患側上肢体積の増減率を下記の公式で算出した.T0はベースライン,Tnは各測定点である.   

BCRL関連症状,皮膚状態,BCRLセルフケア状況は自記式質問紙で評価を行った.BCRL関連症状は,先行文献(Keeley et al., 2010; Launois et al., 2002)をもとに11項目を選択し,二極的な形容詞を両極端におき,中心点から左右に評定尺度を設定する意味微分法(Polit & Beck, 2010)を用いた.健側と患側の症状が同じ場合は0点,患側の方が不良な場合は1~3点,良好な場合は−1~−3点とした.項目は乳腺外科医,皮膚科専門医,乳がん看護研究者を対象に,表面妥当性を検討した.主観的皮膚状態も同様に評価し,得点が高いほど重症であることを示す.週に1度リンパ浮腫およびプログラムについての自由記述とセルフケアチェックリストの記載を依頼した.セルフケアチェックリストは,リンパ浮腫セルフケアに関するガイドライン(ILF, 2006; Poage et al., 2008)から14項目を挙げ,実施していた項目数をセルフケア点数とした.主観的な自主的・積極的なセルフケア実施の程度は,自主的・積極的にセルフケアを「全く行っていない(0点)」から「かなり行っている(4点)」,主観的なセルフケアによるリンパ浮腫効果の程度と負担感の程度は「全くない(0点)」から「かなりある(4点)」の意味微分法で評価した.

また,ベースラインで対象者の年齢,治療側,利き腕,手術内容,手術後期間,補助療法,CTC AE, BCRL認知期間,BCRLセルフケア指導およびBCRL治療歴,蜂窩織炎の経験について調査した.プログラム開始後1週目に,有害事象,セルフケア実施状況の確認のため,自記式質問紙と電話調査を行った.データ管理,各評価項目の自動計算,出力は,本研究のために開発した上肢浮腫ケア経過管理システム(IGM Co., Ltd., Tokyo, Japan)で行った.

5.解析方法

解析は,per-protocol解析を行った.ベースラインの健側上肢と患側上肢の分布比較はMann–WhitneyのU検定,評価項目の経時的変化の比較は反復測定による一元配置分散分析を用い,有意差があった項目で多重比較(Bonferroni法)を行った.有意水準は両側5%以下とした.統計解析はIBM SPSS Statistics 21.0 (IBM, USA 2012)を使用した.

Ⅳ.結果

4施設でリクルートした42名中,27名が参加登録し,2名がセルフケアに関心がない,体調・家庭の事情で脱落した.したがって解析対象は25名である.

1.ベースラインにおける研究対象者特性

対象者の年齢は,平均58.5歳±SD10.7,BMIは23.3±3.1,術式は,乳房温存術が16名(64%),全摘術が9名(36%)で,腋窩リンパ節郭清者は20名(80%),センチネルリンパ節生検のみは5名(20%),平均術後期間は57.4か月±42.1であった.化学療法は80%,放射線療法は84%,分子標的療法は16%,ホルモン療法は56%が受けていた.浮腫自覚後の平均期間は35か月±38,上肢の浮腫体積率は5.4%±11.9であった.浮腫体積率が最大の部位でも5%未満だった者は9名であった.部分体積で患側が小さかった者が13名いたが,自覚症状と視診による上肢間比較で部分的な解剖学的変形を認め,CTC AEグレード1に分類した.グレード1は56%,グレード2は40%,グレード3は4%であった.ベースラインの両腕体積の分布に差はなかった.蜂窩織炎既往は4名(16.0%)で,全員3回以上経験していた.17名(68.0%)が,BCRLセルフケア指導を受けていた.実施者が少なかったセルフケア項目は,皮膚保湿とエクササイズで各32.0%,次いでSLD36.0%であった.BCRLセルフケア時間は,1日0分が36%,10分以内が80.0%であった.

2.本プログラムのBCRLへの効果

3か月後の上肢体積の変化(表1)は,患側の上肢(F=9.671, p=0.000)と上腕(F=8.758, p=0.001)および前腕(F=4.157, p=0.022)に有意差があった.手は有意差がなかった(F=2.442, p=0.098).健側は上肢(F=0.995, p=0.378),上腕(F=1.017, p=0.370),前腕(F=0.053, p=0.948),手(F=1.382, p=0.261)の全部位で有意差がなかった.一元配置分散分析で有意差があった項目の多重比較では,患側上肢のベースラインと3か月後(p=0.010),1か月後と3か月後(p=0.002),上腕のベースラインと3か月後(p=0.023),1か月後と3か月後(p=0.002)で有意差があった.

表1 上肢体積(mL)の変化

皮膚組織抵抗値(表2)は,患側の胸部(F=3.487, p=0.039)と前腕(F=14.807, p=0.000),健側の前腕(F=18.371, p=0.000)で有意差があった.多重比較で有意差があったのは,患側前腕のベースラインと1か月後(p=0.002)および3か月後(p=0.000),健側前腕のベースラインと1か月後(p=0.001)および3か月後(p=0.000)であった.

表2 皮膚組織抵抗値の変化

浮腫体積率は上肢(F=2.816, p=0.070),上腕(F=1.428, p=0.250),前腕(F=2.867, p=0.067),手(F=0.750, p=0.478)で,RVCは上肢(F=1.089, p=0.345),上腕(F=0.412, p=0.665),前腕(F=1.410, p=0.254),手(F=0.153, p=0.859)でいずれも有意差がなかった.BMIはF=3.940, p=0.026で有意差があり,多重比較ではベースラインと3か月後に有意差があった(p=0.034).

BCRL関連症状(表3)は,違和感(F=4.850, p=0.004),しびれ(F=3.431, p=0.021),触覚異常(F=3.819, p=0.013),腫れ(F=4.414, p=0.007),重い(F=3.243, p=0.027)と皮膚状態(F=3.083, p=0.033)で有意差があった.痛み(F=1.467, p=0.231),ぴりぴり感(F=1.294, p=0.283),だるさ(F=2.341, p=0.080),しめつけ感(F=0.519, p=0.670),熱感(F=0.129, p=0.943),その他症状(F=1.352, p=0.264)は有意差がなかった.多重比較では違和感のベースラインと1週間後(p=0.016)および3か月後(p=0.019),触覚異常のベースラインと1週間後(p=0.031),腫れのベースラインと1か月後(p=0.014)で有意差があった.

表3 BCRL関連症状の変化

皮膚反応は初回オイル塗布時にはなかったが,研究期間中3名にみられ,ほかの保湿剤に変更しプログラムを継続した.蜂窩織炎は,既往患者4名中3名が調査中再発し,炎症所見が消失する2週間から1か月,プログラムを中止した.その後プログラムを再開し,3か月の評価時点で分析対象と捉え,測定を実施した.

3.本プログラムのBCRLセルフケア状況への効果(表4

有意差があったのは主観的な自主的・積極的なセルフケア実施の程度(F=7.295, p=0.000),セルフケア点数(F=14.323, p=0.000),セルフケア時間(F=9.041, p=0.000)で,セルフケアによるリンパ浮腫効果の程度(F=2.679, p=0.054),負担感の程度(F=2.441, p=0.072)は有意差がなかった.多重比較では,自主的・積極的なセルフケア実施の程度はベースラインと1か月後(p=0.010)および3か月後(p=0.004),また1週間後から1か月後(p=0.022),セルフケア点数はベースラインと1週間後(p=0.001),1か月後(p=0.006),3か月後(p=0.001),セルフケア時間はベースラインと1週間後(p=0.010),1か月後(p=0.009),3か月後(p=0.006)で有意差があった.

表4 リンパ浮腫セルフケア状況の変化

Ⅴ.考察

本プログラムは,主観的・客観的指標ともに有意なBCRLの改善を示唆した.上肢体積の有意な減少は患側のみにみられ,健側と患側上肢間の体組成で唯一の相違点である患側上肢の余剰な細胞外水分が有効にドレナージされたことを示唆した.1か月後,主観的な腫れは有意に減少したが,体積の平均は健側・患側ともに軽度上昇する傾向があった.これはプログラムによる筋肉量の増加に伴い体積が上昇したが,リンパ系システムの改善により細胞外液が排出され,患者が解剖学的な変化を認知したと考えられた.1か月後から3か月後の間に,患側上肢のみに有意な体積減少があったことからも,この可能性が示唆される.また,BCRL関連症状の違和感,触覚異常は1週間後に有意に改善しており,プログラム早期から症状緩和を示唆した.皮膚組織抵抗値は有意に減少し,皮膚線維化の軽減が示唆された.健側前腕においても皮膚の軟化があったが,ヨガのパイロット無作為化比較試験(Loudon et al., 2014)でも同様の傾向が見られ,全身運動による血行・リンパ系の運動促進が,全身の皮膚状態に影響を与えた可能性がある.BMIはBCRLに大きな影響を与えるが,3か月後有意に減少しており,プログラムによる体重管理効果が期待される.浮腫体積とRVCは有意差がなかったが,標本数が副次評価項目に対する設定ではないため,検出力不足が考えられる.ベースラインで患側の部分体積が健側より小さかったが,プログラム後にRVCが減少した対象者が手で2名,前腕で5名,上腕で3名,上肢で2名おり,現在臨床や研究で多く用いられる周径,体積のみに頼った診断が,BCRLを看過する可能性を示唆した.特に,小柄で体積差が出にくい日本人の場合,患者の自覚症状,健側を対照とした解剖学的差異の評価,RVCを用いた術前との比較を診断指標に加えることが望ましいと考える.

3回以上の蜂窩織炎既往があった患者4名中3名がプログラム実施中に蜂窩織炎を発症し,蜂窩織炎の反復性とコントロールの難しさを示唆した.蜂窩織炎既往がなかった患者には新たな発症がなかったが,既往のある患者にはスキンケアを含むセルフケアの徹底をさらに促す必要がある.

主観的な自主的・積極的なセルフケア実施の程度,セルフケア点数,セルフケアの時間は有意に向上した.従来のリンパ浮腫セルフケアは,複雑で労力を要し(Armer et al., 2011)患者にとって負担感があったと考えるが,本プログラムは有意な負担感上昇が見られなかった.本プログラムは,ほとんどの日本人に実施経験があるラジオ体操と簡単なエクササイズ,スキンケアを同時に行うリンパドレナージで構成され所要時間も約10分程度である.入浴前中後にプログラムを組み込み,習慣化しやすく実行可能性を高めた可能性がある.リンパ浮腫管理アドヒアランスと自己効力感や自律能力への認識は相関があり(Sherman & Koelmeyer, 2012),患者が本プログラムを簡易で実施可能と捉えられたことにより,セルフケアの向上に繋がった可能性がある.

Ⅵ.本研究の限界と課題

本研究は,同一個体内の患側上肢体積と健側上肢体積を比較したが,今後倫理的問題を考慮した無作為化比較対照試験の実施を課題とする.また,リンパ浮腫は長期にわたる問題であるため,長期間の検証が必要である.さらに,浮腫体積,RVCといった副次評価項目を測定するには検出力が不十分だった可能性がある.BCRL関連症状の評価に用いたツールは海外の信頼性・妥当性のあるツールをもとに作成したが,本調査では,表面妥当性の検討に留まったため,本調査で作成したツールの信頼性・妥当性の検討が今後必要である.

Ⅶ.結論

BCRL患者25名が,改変したラジオ体操,太極拳呼吸法を用いた上肢エクササイズ,およびアロマセラピードレナージを含む1日約10分のBCRLセルフケアプログラムを3か月間行った.その結果,患側上肢体積の減少,皮膚硬化の改善,BCRL関連症状の緩和を認めた.また,セルフケア実施状況が向上した.3か月間のBCRLセルフケアプログラムは,BCRLを緩和し,BCRLセルフケア実行可能性を高める効果の可能性が示唆された.

Acknowledgment

本研究にご協力頂いた対象者の方々,また多大な助言を下さったFlinders UniversityのNeil Piller先生,東北大学菊地克子先生・宮田敏先生,福島県立医科大学大竹徹先生・各務竹康先生,加藤乳腺クリニック加藤誠先生・佐久山陽先生,滋賀県立成人病センター四元文明先生・堀泰祐先生,京都市立病院森口喜生先生,IGM藤原崇様他研究協力者の方々に深謝致します.

本稿は東北大学大学院医学系研究科に提出した博士論文の一部であり,2014年International Lymphoedema Framework Conferenceにて発表したものを加筆・修正した.なお,本研究は平成25年度~27年度文部科学省科学研究費補助金基盤研究C課題番号:25463419,公益財団法人佐川がん研究振興財団がん研究助成,豪州首相日本対象教育支援プログラム,社団法人山形ヘルスサポート協会の助成を受けたものである.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

著者資格:YAは研究の全プロセスに貢献;FSは研究のデザイン,原稿への示唆および研究プロセス全体への助言;EKおよびNSは原稿への示唆および研究プロセス全体への助言.すべての著者は最終原稿を読み,承認した.

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