日本看護科学会誌
Online ISSN : 2185-8888
Print ISSN : 0287-5330
ISSN-L : 0287-5330
資料
在宅高齢者の介護予防に向けたフットケアプログラムの開発
第1報:フットケア方法習得のプロセスおよび介入内容の分析
姫野 稔子 小野 ミツ
著者情報
ジャーナル フリー HTML

2015 年 35 巻 p. 28-37

詳細
Abstract

目的:高齢者自身が実施するフットケア方法習得のプロセスを明らかにし,セルフケアのための具体的な介入方法を導き出すことを目的とした.

方法:デイサービスを利用している在宅高齢者7名に週1回12週間フットケアの指導的介入を実施し,介入場面の会話を内容分析した.

結果:介入場面における出現数の特徴から,導入期・前半・中盤・後半・全般の5つに分類できた.フットケア方法は中盤におおむね獲得し,後半では高齢者同士での指導や確認,工夫などがみられるようになった.介入内容では,導入期にはケアの意義や実施方法の説明,前半には観察や判断の方法・疑問の解決による理解の促進,中盤にはケアの適切性の確認とケア方法の支持,後半では見守りや声かけ,励まし等,心理的側面への介入,全般にわたり,理解度の確認や侵襲の予防を行っていた.

結論:高齢者が実施するフットケア方法習得のプロセスにおいて,ケア活動を支援するための介入内容が導き出された.

Ⅰ.緒言

2006年の介護保険制度改革では,既存の制度の見直しに加え,予防重視型システムの確立が掲げられた.この改革では「地域支援事業」と「新予防給付」が創設され,できる限り要支援・要介護状態にならない,あるいは重度化しないことを目指している(厚生労働省,2006).地域支援事業のうち運動器の機能向上プログラムは,転倒予防を目標に展開されている.転倒は,骨折などの身体的影響ばかりでなく,転倒に対する恐怖感,不安感などの心理的影響を与え,高齢者は活動性の低下や閉じこもりという結果を招くといわれている.したがって転倒予防は介護予防に直結するものと言える.

姫野ら(2004)は介護予防が必要な在宅高齢者の足部の形態・機能や転倒経験,立位バランスを調査し,各々の関連性を分析した.その中で,転倒経験や立位バランス低下には,足部の皮膚の異常,足底部の感覚機能の低下,冷えやむくみといった循環機能の低下が関連することが明らかとなった.そこで,このような足部の実態を改善するためのフットケアを検討し,アルコール清拭・足部の観察・ヤスリがけ・足浴・足部のマッサージ・足部の運動の6つの構成内容のフットケアを実施した(姫野ら,2010).その結果,循環機能およびそれに関連する足部の変調や皮膚の状態が改善し,足底部の感覚機能,立位・歩行能力が向上した.フットケアに関する先行研究では,様々な対象者に足浴とマッサージを単独あるいは複合的に実施しているものが多い.そして,ストレス緩和やリラクゼーション効果(新田ら,2010徳武ら,2014),疼痛やしびれの軽減(登喜ら,2014)などが報告されている.また,歩行への影響として,足関節の柔軟性の向上や足趾部の荷重最大値の増加により,歩幅が増加することも報告されている(本多ら,2010).このように,フットケアに関する研究は,あらゆる角度から足浴やマッサージの効果を検証しているが,実在する足部の問題の改善を目指した体系的な取り組みは行われていない.加えて,著者らの研究を含め,研究者が実施したフットケアの効果を検証したものであり,高齢者のセルフケアによる研究はみあたらない.介護予防は本来,地域や場所を問わず適用が可能で,コミュニティ全体あるいは高齢者が自立して取り組めることが理想である.したがって高齢者自身が取り組めるフットケアプログラムの開発は介護予防に有効であると考える.そこで,著者らは,足部の改善がみられたフットケア(姫野ら,2010)をセルフケアのためのプログラムとして開発することを目指した.その開発過程として,まず,実際の指導的介入の場面を分析し,セルフケアのための具体的な介入方法を導き出すことにした.さらに,フットケア期間の前後に足部の形態・機能や立位・歩行能力を調査・比較し,指導的介入によるセルフケアの妥当性を検証した(姫野ら,2014).これらの結果を統合し,フットケアプログラムを開発した.それぞれの研究について,第1報および第2報として報告する.

第1報となる本研究では,前述したフットケアを高齢者に対して指導的に介入し,フットケア方法習得のプロセスと指導的介入の内容分析によりセルフケアのための具体的な介入方法を導き出すことを目的とした.

Ⅱ.用語の定義

【指導的介入】セルフケア活動における学習や実践およびそのプロセスに生じる心理的側面に対し,支持・支援する指導者の関わりとした.

Ⅲ.研究方法

1.対象

介護予防の強化の対象として生きがいデイサービスを利用している在宅高齢者で,①高度な言語的コミュニケーション障害がない,②先行研究で立位機能や転倒に関連があった足の実態や正常値からの逸脱などフットケアによる改善を必要とする状況が認められ,かつ医学的治療を優先すべき足病変がない者のうち,研究の趣旨や方法を理解し,研究協力に対する同意が得られた者とした.

2.フットケアの介入

表1に示すケア方法や留意事項を基本とし,事前に調査した足部の状況から作成した個別のフットケアカルテを用いながら介入を行った.

表1 フットケアの方法と留意事項

具体的には,アルコール清拭,観察,ヤスリがけ,足浴,マッサージを一連の流れとし,足部の運動はその前後いずれかとした.ケアの実施は,対象が週に1度通所しているデイサービスにおいて,著者らがケアの方法を口頭やジェスチャーなどで指導し,対象自身が実施する「指導的介入」と,その指導に基づいて対象自身が自宅で実施するケアの2つの方法で構成した.それぞれの方法を週1回ずつ12週間計24回実施した.指導的介入は,6つの構成内容すべてに対して指導を行った.自宅で実施したケアの内容や気づき,疑問をノートに記載し,介入日に持参するよう依頼した.ノートの内容は,個別のフットケアカルテにも記録し,介入の際に活用した.ケアの実施回数はあらかじめ提示したが,その時々の決定は対象に依拠した.なお,ケアの指導的介入は,介入の専門性を統一するためドイツのメディカルフットケア実技指導研修への参加ならびにJapan Foot Care協会の代表によるフットケアの講義やデモンストレーションを受けた著者が主として実施し,共同研究者と場を共有した.

3.ケア方法習得のプロセスの記録

指導的介入はセルフケア活動における学習や実践およびそのプロセスに生じる心理的側面に対し,支持・支援する指導者の関わりであり,指導者と対象者が相互に作用しながら変化していくと考えられる.この変化を経時的に捉えるため,介入場面は対象の承諾を得て録音を実施した.

4.調査期間

2009年2月9日~5月8日

5.分析方法

介入場面は,1日4時間,12日間という膨大な会話データの記録であった.会話には曖昧な表現や指示語,ジェスチャーの様子が多く含まれていたため,記憶が正確な介入当日に逐語録の作成を開始し,指示語が表現するものを追加データとして加えた.逐語録は繰り返し精読し,場面のつながりが読み取れる最小の文脈単位を決定した.次に,曖昧な表現の明確化やデータの言い換え,類似するデータをまとめ数量化することによるデータ量の削減を目的とし,Mayring(2004)が提唱する質的内容分析を参考に以下の手順で分析を行った.

まず,逐語録の作成において指示語の追加を行った.しかしながら,それだけでは解釈が困難な箇所には,文脈から逸脱しないよう対象の背景や場面を考慮し,解釈・記述し,表現を明確化した(説明的内容分析).次に,ケア活動の学習や実践,心理的側面の内容に相当する場面に焦点を当てコード化し,それぞれの出現数を数量化した.さらに,内容の同質性と類似性にそってまとめサブカテゴリーおよびカテゴリーを形成した.これらの分析作業は介入日ごとに繰り返し,既存のカテゴリーへのコードの振り分けや新規のカテゴリーの形成を行いながら(要約的内容分析),数量的変化を記録した.さらに,カテゴリー・サブカテゴリーの経時的・数量的出現の特徴をもとに時間軸で構造化し,各時期における介入内容および習得状況をまとめた(構造的内容分析).

6.分析結果の妥当性

本研究で用いた説明的内容分析は,説明的な言い換えの妥当性が重要になる.したがって,介入の場を共有した施設スタッフや共同研究者に生データと言い換えの整合性について確認を求めた.また,分析のすべてのプロセスにおいて,看護学領域における質的研究の研究者からスーパービジョンを受けた.

7.倫理的配慮

研究協力依頼の手続きとして,まず,施設の責任者に対し研究の趣旨と方法を文書と口頭で説明し,研究協力の同意を得た.次に同意が得られた施設の通所介護利用者のうち自立あるいは要支援1の高齢者に研究依頼書を渡し,文書と口頭で説明した.文書の内容は,研究目的および方法,研究参加の自由,途中辞退の保障,匿名性,個人情報の守秘,機密性確保,結果の公開方法,対象が受ける利益と危険の回避であった.研究の主旨および方法を理解し,同意の意思を表明した対象には同意書により同意を得た.

なお,本研究は,広島大学大学院保健学研究科看護学研究倫理委員会において,承認(承認番号219)を得た.

Ⅳ.結果

1.対象の基本属性

研究の説明当日にデイサービスAを利用していた9人全員から同意を得た.しかしながら,90代であった2名については,指導的介入によるケアの実施はできたものの,自宅でのケアが実施できなかったため,分析対象は2人を除く7人とした.対象の平均年齢は75.1±2.5歳(72~80歳)で全員が女性高齢者であった.脳梗塞の既往を持つ者が1人いたが,ケア活動に影響する後遺症はなかったため分析対象とした.そのほか,白内障3人,高血圧症4人,骨折3人,眩暈3人,皮膚白癬3人であり,高血圧症は治療中であったが,コントロールの状態もよく,主治医より本研究におけるケア活動への参加の許可を得ていた.また,過去1年以内に転倒した者はいなかった.

2.フットケア介入の実際

介入初日は,7人に対し一斉に介入する方法を考えていたが,全体には指導内容が伝わらない状況であったため,1~2人ずつの小規模単位で介入を行った.そして,実施内容の理解やケアの習得が進むごとに3人ずつ,5人ずつと一度に指導する人数を増やしていった.このように介入のプロセスにおいて同時に指導する人数は変化した.期間の終盤になると,著者による介入の必要性は著しく減少し,対象各々がケアスペースの空き具合に応じて自発的にケアを実施していた.また,介入当初の実施時間は,ヤスリがけが10分間,マッサージが15分間,足関節および足趾の運動が15分間,足浴が10分間の計50分間であったが,回を重ねるごとに短縮され,最終的には30分弱となった.なお,ヤスリがけは,角質化が消失しケアの必要性がなくなった時点で中止した.

3.フットケア方法習得のプロセス(表2

12回の介入場面の分析過程において,既存のカテゴリーの振り分けにとどまることはなく常に新規のカテゴリーが形成され,習得のプロセスは常に変化していた.全分析過程における最終的な分析結果は,文脈単位が826であり,378のコード,68のサブカテゴリー,33のカテゴリーが形成された.これらのカテゴリー・サブカテゴリーの経時的な出現数の特徴から介入導入期,介入期間前半,介入期間中盤,介入期間後半,介入期間全般と構造化した.さらに,各時期における介入および習得状況に分類し,介入および習得状況における学習・実践・心理的側面について整理した.ただし,カテゴリーが同一であっても,下位項目であるサブカテゴリーの内容と出現時期の違いにより分割して整理した.

表2 フットケア方法習得のプロセスおよび介入内容

1)介入導入期の介入内容および習得状況

(1)介入内容

介入導入期は介入のみの展開であった.学習に対する介入は,フットケアの項目をはじめ,ケア遂行の際の順序,目的や効果,方法や留意点など【ケアのポイントと実施方法の説明】を行っていた.アルコール清拭や足浴の説明は,介入2回目まで同様の説明を実施していた.また,同時にケア物品の使用方法や使用後の取り扱いの説明,対象が抱いている物品の使用に関する疑問への回答など【ケアで使用する物品と取り扱いに関する説明】をしていた.さらに,ケアの実施過程では,高齢者の足部の機能の特性を踏まえ,単一および複合的ケアにより得られる【ケアの効果および意義に関する説明】を行っていた.実践に対する介入として,実施の継続や着実な取り組みによる【段階的な習得プロセスの推奨】を伝えていた.心理面に対する介入では,他者に足部を見せるという対象の【躊躇に対する声かけ】を行い躊躇の緩和に努めていた.

2)介入期間前半の介入内容および習得状況

(1)介入内容

学習に対する介入は,口頭での説明やジェスチャー,見本の絵を用いた【ケアのポイントや実施方法の説明】や【ケアで使用する物品の取り扱いに関する説明】によって疑問を解消していた.また,視診・触診による【ケア部位特定の重要性と観察結果の整合性の伝達】や角質化のメカニズムの説明による長期的な【ケアの必要性に対する理解の促し】を行っていた.この時期には,ケアの不適切性や根を詰めたことによりケア部位や身体に生じた不具合の有無を確認していた.そして,【ケアによる不具合の原因の推定と原因の解決による解消】を目指し,不具合の原因を伝達していた.一方,対象は足部の運動の困難さを表出していたため,個々の運動遂行の状況に応じた代替方法や課題など【ケアの習得状況の確認によるアドバイス】を行っていた.さらに,ケアの実施のみならず,各自が習得の状況にも注目するよう【ケア習得を意識化するための働きかけ】をし,単一あるいは複合的な【ケアの効果および意義に関する説明】を繰り返していた.実践に対する介入では,効果的な手技習得に向けた【ケア方法向上のための指導】や対象の身体状況に即し,ケアの遂行を可能にする【個々に適したケア姿勢や方法の案出の促し】,対象自身による【身体状況に応じたケアの打ち切りの判断に対する推奨】を行っていた.また,自宅ケアの円滑な導入を意識したアドバイスや記録に関する再説明など【自宅ケアの方法の説明や実施の確認】をしていた.さらに,自宅ケアにおいて足浴の導入が進まない対象に対し,実施している対象が導入を勧めるという【対象間の足浴の促しとアドバイス】による介入がみられていた.心理面に対する介入では,今後の習得過程のイメージを助長する声かけにより【段階的な習得プロセスの推奨】を伝えていた.また,自宅における足浴開始に対する戸惑いの表出を傾聴し,【足浴のためらいの受容と導入の促し】をしていた.

(2)習得状況

学習状況として,対象各々は足底部に存在する高度な角質化の認知と驚きにより【ケアの必要性と個々の課題に対する認知】していた.この時期では実践についての語りはなかったが,心理面では,ケアの体験を通してケアの必要性を理解し,【ケアによる改善の実感とさらなる改善への期待に向けたケア実施の意欲】があふれていた.

3)介入期間中盤の介入内容と習得状況

(1)介入内容

介入期間中盤における学習に対する介入は,白癬様の皮膚剥離が見られた対象に対し,緑茶を使用した足浴に変更するという【足部の状態に応じた足浴の説明】を行っていた.また,実践に対する介入では,介入期間前半で導入が困難であった自宅での足浴実施の報告に対し,【足浴導入の促しによる実施の称賛】をしていた.また,ケアの実施が進む中で,個々の習得状況や運動の実施とそれらの適切さなど【ケアの習得状況の確認によるアドバイス】を行っていた.この時期における心理面に対する言語的介入はなかった.

(2)習得状況

この時期の学習状況では,対象間の共有が増えていた.対象自身が実感している運動の効果や獲得した実施要領などの【ケア方法の情報の共有】や介入当初の実施状況や所要時間との比較により【ケアの習得状況および機能向上の実感と共有】をしていた.また,実践状況は,介入期間前半での足底皮膚の不具合について,アドバイスに沿ったケアを実施することで,【適切なケアによる不具合の消失】がみられた.また,対象自身がケア方法にアイデアを出すなど【ケアのプロセスにおける工夫の導入】が行われていた.さらに心理面に対する介入では,足底皮膚の改善に伴い【足部に対する自信の芽生え】がみられていた.

4)介入期間後半の介入内容と習得状況

(1)介入内容

学習に対する介入として,対象が実感している運動遂行の向上に対して【ケア実施による改善や向上に対する称賛】を伝えていた.実践に対する介入では,ケアの上達の自覚とそれに伴う対象間のケア方法の指摘と指導など,対象同士による【ケア方法向上のための指導】が行われていた.心理面への介入では,介入期間終了が近づくにつれ,対象は介入終了後のケア継続の意思を共有し,継続方法を提案していた.これに対し【介入後のケア継続に対する提案の奨励】を伝えていた.

(2)習得状況

学習状況では,対象らは各自が実施している足浴について【ケア方法の情報共有】し,ケアの習得状況や実施状況の比較により相互に羨望や称賛するなど【ケアの習得状況および機能向上の実感と共有】していた.さらに,ケアのプロセスを通して【ケアによる足底皮膚改善の実感】を表出していた.実践状況では,指圧による母趾関節の不具合を予防するために自発的に指圧棒を持参し活用するという【ケアプロセスにおける工夫の導入】がみられていた.また,足趾・足関節の運動については,介入時間以外にも【無意識な運動の実施】が行われていた.心理状況では,対象は足底皮膚に対し【ケアによる改善の実感とさらなる改善への期待に向けたケア実施の意欲】を表出していた.また介入期間終了後のケアへの要望やケアの継続を相互に確認する体制を提案するなど,【介入後のケア継続に対する思い】を表出していた.

5)介入期間全般にみられた介入内容と習得状況

(1)介入内容

介入期間全般を通してみられた学習に対する介入は2項目であった.【ケアのポイントと実施方法の説明】では,ヤスリの使用面の識別やヤスリの柄の把持する位置については常に確認と説明を行っていた.また,【ケアで使用する物品の取り扱いに関する説明】も介入期間全般にわたり行っていた.実践に対する介入では,常に観察やケア部位の特定を促し【ケア部位特定の重要性と観察結果の整合性の伝達】を行いケアの実施を奨励していた.また,ケアのポイントを加味した【個々に適したケア姿勢や方法の案出の促し】や【身体状況に応じたケア打ち切りの判断に対する推奨と承認】を常に行っていた.加えて,身体的不具合が見られた際には【ケアによる不具合の原因の解決による解消】を目指すよう伝えていた.さらに,実践による足底皮膚の改善やケアの成果,ケアの実施状況の上達などに対し,【ケア実施による改善や向上に対する称賛】を伝えていた.

(2)習得状況

介入期間全般の学習状況では,対象間で【ケア方法の情報共有】を行っていた.また,運動実施に対する自己評価から【ケアの必要性と個々の課題に対する認知】をし,さらには,ケアの習得状況や運動の実施状況の向上などの【ケアの習得状況および機能向上の実感】を表出していた.実践状況では,実践においては,個々の身体状況に対応するケア姿勢の工夫と決定という【ケアのプロセスにおける工夫の導入】が繰り返されていた.また,ケアの実施の経験により,運動後にケアを実施するなど,自身に適した効果的なケアの順番を見いだすなど【実施するケアの順番の構築】も行われていた.心理状況では,【ケア体験により生じた肯定的な感情】,【ケアによる改善の実感とさらなる改善への期待に向けたケア実施の意欲】や【ケア継続の意思の萌出と共有】,【交流を伴うケアの楽しさの表出】の4項目は介入期間全般において継続的にみられた.

Ⅴ.考察

介入日ごとの分析は,既存のカテゴリーへの振り分けにとどまらず,常に新規カテゴリーが創出された.これは,習得状況と介入内容が変化し続け,各時期における特徴的な介入が必要であることを意味している.本研究は,高齢者を対象に6つの構成内容のフットケアを指導的に介入した.そして,高齢者がどのようなケア方法習得のプロセスをたどるのかを明らかにし,そのプロセスに必要な介入内容を抽出した.ケア習得方法のプロセスは一般的なセルフケアマネジメントの介入過程と類似はしていたが,高齢者ならではの特性もみえてきた.また,介入内容の分析では,単なる技術的な介入にとどまらず,対象が高齢者であるがゆえの独特かつ具体的な内容も導き出すことができた.以下,それぞれについて考察する.

1.ケア方法習得のプロセス

本研究の対象は,要介護認定で非該当の判定を受けた自立高齢者であり,高度な言語的コミュニケーション障害がない者であった.介入当初,7人に対し一斉に介入する方法を考えていたが,全体には指導内容が伝わらない状況であったため,1~2人ずつの小規模単位でゆっくりと丁寧に介入を行う方法に変更した.これは,高齢者である対象にとってフットケアはなじみがないことに加え,新たな事柄への適応困難という高齢者の特性であると考える.しかしながら,対象の実施内容の理解やケアの習得が進むごとに,一度に指導できる人数が増え,最終的には全員一斉に介入することができるようになった.高齢者は加齢に伴い新しいことへの学習効率は低下する.しかしながら,時間をかければ学習は可能であることを証明するものであった.介入期間前半は,手技というよりもむしろ知識の獲得の時期であり,自身の足部の実態やケアの必要性を認識していた.介入期間中盤になると,指導的介入が顕著に減少し,対象自身によるケア活動が促進していた.本研究におけるフットケアの実施には,記憶するという機能のみならず,足の末端まで手が届く身体の柔軟性や足趾や足関節の可動性など,様々な身体機能が必要となる.対象はフットケアを実施する上で,高齢者であるがゆえの困難さを抱えていた.しかしながら,それぞれの身体状況に対して試行錯誤をしながら実施可能な独自の方法を生み出し適応していた.介入期間後半では,対象全員がケア方法をほぼ習得し,ケアによる足部の実態の改善や向上を互いに認め称賛し合っていた.一方で,ケア方法の誤りを指摘する様子もみられた.エンパワメントは安心感と緊張感と両側面をもつことでより活性化するといわれており(安梅,2007),互いの肯定的変化を称賛しつつ,課題を指摘し合う関わりはエンパワメントの促進要因になる.自他のケア方法の習得状況を認知し,対象同士でケアが実施できるという自信から自己効力感やエンパワメントが生じていた.

本研究の開始にあたり,高齢者自身によるフットケアは実施可能なのか,どのようなケア方法習得のプロセスをたどるのかについて,先行研究もなく見当がつかなかった.今回明らかにしたプロセスは,一般的なセルフマネジメントの介入過程と類似するものではあったが,対象が高齢者であるがゆえに直面する身体的な困難さやそれに対する適応,克服しながら習得するというプロセスが明らかとなった.

2.ケア方法習得のプロセスにおける介入内容

高齢者に対するフットケアの介入の要点は,ケアに関する知識の理解と確認,個々特有の身体状況に応じたケア方法の案出と実施,心理的側面への支援の3つに大別した.しかしながら,378個のコードから推察できるように,具体的な介入として高齢者の身体的特性に関連する非常に複雑で多様な内容を導き出した.

介入期間導入期では,主としてケアの目的・方法や意義,ケアの進め方の説明と,足部を見せることに対する躊躇の緩和を行う必要がある.高齢の対象がなじみのないケアに困惑することなく取り組めるよう,少数グループで開始し,理解の状況やペースを考慮した介入が有効であると考える.また,フットケアは他者に足部を見せることが必須である.とりわけ高齢者は他者の前に足を出す行為はご法度という強い観念を持っている.このような文化的背景を理解し,ラポールの形成による羞恥心の緩和に努めることが重要である.

介入期間前半は,ケアに関連する知識を獲得するための介入が主体であった.具体的なケアの方法やケアの意義と効果,変調のメカニズムの説明により,対象はケアに関する知識とケアの必要性を理解していた.また,対象は,徐々にケアによる改善を実感するようになり,効果に対する期待とケア遂行への意欲を表出していた.Lepperら(1992)は,できごとがある価値を持つという自身の経験や認識の強化を目指した教育プログラムは,さらなる学習,記憶,興味をもたらすと述べている.対象が介入により認識した必要性や学習内容,心理的な変化を即座に把握・強化し,モチベーションの向上につなげていくことが重要である.また,足趾や足関節の運動では,対象全員が可動困難であると述べていた.それぞれの関節可動域を確認し,個別の課題や当面の代替策を提示する介入が必要である.靴を履く生活習慣や加齢による身体的影響に対し,可能なことから始める代替策の提示は,ケア継続の意欲を高めると考える.また,段階的に上達が進むこの時期には,個々の状態や変化に注目し,習得状況を意識化させる意図的な声かけも重要であると考える.高齢者の身体状況は様々である.実践においては,個々の身体状況に応じたケア方法やスキルアップのための効果的な手技の指導を行う必要がある.また,その時々のケアを終了する判断もセルフケアには不可欠である.早期から主体的に判断することを意識づけ,判断の適切性を確認・伝達することが重要である.

介入期間中盤では介入の内容が顕著に減少し,比較的自立したケア活動に移行する時期であった.この時期の介入の力点は,実施方法の適切さを確認し,必要に応じて方法の修正を提案することである.さらに,細やかに肯定的な声かけを行い,ケア遂行へのモチベーションや意欲を維持することも重要である.

介入期間後半では,対象全員がほぼケア方法を習得していた.この時期には,対象が自覚しているケアによる足部の実態の改善や向上に対し,称賛するといった心理的側面へのアプローチや,さらなる手技向上のための指導が必要である.

上述した各時期に対する特徴的な介入内容に対し,介入期間全般にわたり,共通する介入もあった.ヤスリがけは,今回のフットケア項目で最も身体侵襲が起こりやすく,実際に介入期間前半で不具合が生じたケアである.ヤスリがけの実施方法を常に見守り,ケアの部位や手技の適切さ,確認や誤った方法に対する指導が必要である.一方,ケアの姿勢による腰痛に対し,身体状況に即したケア方法を案出するように促していた.対象は個々に適したケア方法を実施し,実施後の身体状況を評価しながら修正や改善,方法の決定を行っていた.とりわけ,高齢者の身体状況は多様である.ケアによる不具合は,実施に対する不快や不安,モチベーションの低下を招くため,継続的な見守りによるタイムリーな介入が求められる.ケアの実施に対しては,肯定的変化を実感,共有,称賛し,心理的側面を支持することが,ケア活動を支えると推察する.ともに楽しむことはエンパワメントで最も重要な原則であり,関わりから生まれる開放的な雰囲気や交流により感じる互恵性,場を共有する人との信頼感により創出されるといわれている(山崎ら,1999).介入の全プロセスを通してこれら3つの要素が創出されるよう意図的に関わることが重要である.

Ⅵ.研究の限界と今後の課題

本研究は高齢者が著者に指導的介入を受けながらフットケアを実施し,その場面の分析からセルフケアのための具体的な介入方法を導き出した.また,指導的介入による足部の形態・機能や立位・歩行能力の向上も検証している.しかしながら,1集団に対する介入結果であり,他の集団や他の介入者で同様の結果が得られるか言及できないことは研究の限界である.今後は,本研究の結果に基づいて,フットケアの指導者を育成し,地域で実施・検証・修正を重ねながら地域で実施可能な介入プログラムを提唱したい.

Ⅶ.結論

介入場面の分析によるカテゴリー,サブカテゴリーの出現数の特徴から5つの時期に分類できた.各時期における介入内容を以下に示す.

  • 1. 介入期間導入期では,ケアの実施方法やケア物品の取り扱い,ケアの効果や意義の説明を行う.長期的かつ段階的なケアにより改善を目指すことを推奨する.声かけによる羞恥心の緩和を行う.
  • 2. 介入期間前半は,具体的なケア方法の説明を行い,対象が抱くケアに対する疑問を解決する.足部の観察結果のケアに対する影響や重要性について理解を促す.対象が実感する足部の変化や効果を捉え,ケアへの意欲につなげる.個々に適したケアの姿勢や方法の案出を促し,ケア方法の確立を推進する.ケアを打ち切るタイミングなど,自己判断を意識づける.ケア方法向上を目指した効果的な手技を指導する.実施困難な足部の運動に対する代替方法や遂行を可能にするための個々の課題を伝達する.習得状況の変化を意識化させる.自宅ケアの開始に対する戸惑いを受容し,説明的介入を行う.
  • 3. 介入期間中盤では,新たに生じた状況に対し,即時かつ柔軟な対応と指導を行う.ケアの実施状況の好転をタイムリーに捉えて称賛し,実施への意欲を高める.ケア方法や運動の実施状況の適切性を確認し,必要時にアドバイスを行う.対象間の関わりを見守り,賛同などにより支持的に関わる.試行錯誤によって対象が編み出したケアのアイデアを奨励し,ケアに組み込む.
  • 4. 介入期間後半では,対象が実感する運動遂行状態の向上や無意識な運動の実施に対し称賛する.対象間の関わりに対して見守り,エンパワメントを促進する.ケアの継続を提案し,セルフケアへの移行を推進する.対象が導入したアイデアの有効性を確認し,新たなケア方法として発展させる.
  • 5. 介入期間全般を通して,ヤスリやケア物品の使用方法を確認し,誤用による侵襲を予防する.対象の身体状況に応じたケア方法の案出やケア終了の判断を促し,自己判断の確立を目指す.対象間で共有している情報や理解の程度を把握し,必要な介入を行う.対象が認知した運動の実施状況の評価や課題を確認し,指導を行う.ケアの習得状況や運動の実施状況向上の自覚による肯定的感情を共有・称賛し,心理的側面を支持する.和やかな雰囲気づくりや交流による互恵性や信頼感の形成を意識して関わる.

Acknowledgment

研究にご協力をいただきました対象者の皆様に心より感謝申し上げます.

本研究において専門的な立場からご指導をいただきました広島大学大学院の新小田幸一教授,小林敏生教授に深く感謝申し上げます.また,データ収集において,サポートしていただきました元九州大学大学院の孫田千恵助教にも深く感謝いたします.なお,本論文は広島大学大学院に提出した博士論文の一部に加筆・修正したものであり,第32回日本看護科学学会学術集会で発表した.

助成:本研究は,平成20~21年度科学研究費助成金(挑戦萌芽)課題番号20659369を充て実施した.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

著者資格:MOは研究の着想から分析の実施,論文をまとめ上げるすべての過程において助言をし,最終原稿について承認した.

References
 
© 2015 公益社団法人日本看護科学学会
feedback
Top