2015 年 35 巻 p. 203-214
目的:本研究の目的は若手看護学研究者の研究活動の阻害要因と日本看護科学学会に求める支援の関連要因を明らかにすることである.
方法:日本看護科学学会の39歳以下の会員にウェブ調査を行った.研究の阻害要因と日本看護科学学会に求める支援の下位因子を従属変数とした重回帰分析を行った.
結果:648名を分析対象とした.研究の阻害要因の中で,育児中の人(β=0.36)は「ワーク・ライフ・バランスの難しさ」を,助教・助手(β=0.31)は「教育や大学運営等の業務の負担」を感じていた.また「研究能力の不足」,「研究のリソース不足」,「研究者としてのアイデンティティの未確立」,「教育や大学運営等の業務の負担」を阻害要因と感じる人ほどJANSに「研究を促進する環境・システムの整備」を求めていた(β=0.15–0.20).
結論:若手看護学研究者は個々の属性に応じ様々な研究の阻害要因を感じ,支援を求めていた.日本看護科学学会には若手研究者への支援として,①研究者間のネットワーク構築,②研究者としての能力の向上,③研究環境の整備を促進していくことが望まれる.
看護学が質の高い医療・看護の提供に貢献する研究成果を発信するために若手看護学研究者の育成は重要な課題であり,様々な対応(Sidani, 1991; Jacelon et al., 2003; Nolan et al., 2008)を行う必要がある.日本看護科学学会(JANS)の若手看護学研究者を対象とした調査(日本看護科学学会 研究学術情報委員会,2013; Oyama et al., 2015)では,若手看護学研究者の多くが過去3年間で査読付き論文をほとんど発表していないことが示されており,JANSが若手看護学研究者の育成に取り組むことが課題といえる.
若手看護学研究者の成長過程には多くの課題や困難が存在する.Segrott et al.(2006)は看護学研究者の研究能力の発展に影響する2大要因として「資源・組織的取り組みの不足」と「高等教育への移行に伴う教員への役割期待の変化」を挙げている.わが国では看護系大学の若手教員が研究時間の確保などの研究活動の悩み(片岡ら,2009)を持つことが示されている.Tulare et al.(2009)は,日本の看護学研究者を対象とした質的研究において日本の看護学の発展の阻害要因として集団主義,英語能力の不足などを挙げている.JANSは若手看護学研究者の育成に向け組織的にこれらの課題や困難といった研究活動の阻害要因に対応し,若手研究者を支援していく必要がある.
そこで本研究は,JANSがわが国の若手看護学研究者を効果的に育成するための戦略を検討する根拠となる実証的知見を得るために,日本の若手看護学研究者が感じる研究活動の阻害要因とJANSに求める支援,およびそれらの関連要因を明らかにすることを目的とする.
本研究は,前述のJANSが2012年に実施した若手看護学研究者を対象とした調査のデータを,研究活動の阻害要因とJANSに求める支援の関連要因を明らかにする目的で解析した結果を報告したものである.この調査の概要や各変数の記述統計値(本研究で使用していない変数も含む),回答者の自由記述などはすでにJANSのウェブサイト上にて公開されている報告書に記載されている(日本看護科学学会 研究学術情報委員会,2013).
1.対象者日本看護科学学会(JANS)会員で調査時に科学研究費補助金の若手研究A・Bの申請資格を有する年齢(2013年4月1日時点で39歳以下)であった1634人を若手看護学研究者と操作的に定義し2012年10月にウェブ調査を行った.著者の一人であるJANS研究・学術情報委員会の担当理事がJANS理事会に本研究の概要を説明し,会員情報(会員の年齢とメールアドレス)の使用許可を得た.その後,事務局が操作的定義を満たす会員のメールアドレスをネットリサーチ業者(株式会社マーシュ)に送付した.株式会社マーシュは,研究協力の依頼のためこれらのメールアドレス宛に,著者の一人であるJANSの研究・学術情報委員会の担当理事と理事長名義で研究の趣旨と調査票にアクセスするためのURLを含む電子メールをJANS事務局のメールアドレスから送付した.URLからアクセスされるウェブサイトは研究の概要,対象者保護等の内容を含んでおり,それらを読み研究協力に同意する対象者は画面上のボタンをクリックして同意の意思を示した.同意の意思を示した対象者はウェブサイト上の設問に画面上のボタンをクリックしたり,直接文字を入力したりすることで回答した.なお,本調査では調査開始後,画面上に表示されている設問すべてに回答しない場合には次画面に進めない設定とした.上記の依頼メールを送付した2週間後にその時点での回収数を含んだリマインドメールを未回答者に送付した.
2.調査内容1)研究活動の阻害要因先行研究(Arimoto et al., 2012)や準備段階で若手看護学研究者20名程度に行ったインタビューとメール調査を参考に研究者間で協議し44項目を作成した.各項目がどの程度障害となっているかについて「まったく障害になっていない」「あまり障害になっていない」「どちらとも言えない」「やや障害になっている」「とても障害になっている」の5件法で回答を得て,各選択肢に1点から5点を割り当てた.因子分析(重みづけのない最小二乗法,プロマックス回転)を行い「研究能力の不足」,「ワーク・ライフ・バランスの難しさ」,「研究のリソース不足」,「研究に関連するコンフリクト」,「研究者としてのアイデンティティの未確立」,「教育や大学運営等の業務の負担」の6因子(Cronbach α係数:0.76–0.86)を得て,因子ごとに合計点を算出した.
2)JANSに求める支援若手看護学研究者がJANSに求める支援を尋ねた.阻害要因と同様の手順で39項目を作成した.各項目をどの程度行ってほしいかについて「行う必要はないと思う」「どちらとも言えない」「どちらかといえば行ってほしいと思う」「行ってほしいと思う」「非常に行ってほしいと思う」の5件法で回答を得て,各選択肢に1点から5点を割り当てた.因子分析(重みづけのない最小二乗法,プロマックス回転)を行い「研究に関する知識・技術の提供」「ネットワーキングの支援」「若手看護学研究者の学術・学会活動の促進」「研究を促進する環境・システム整備」「リソースの提供」の5因子(Cronbach α係数:0.80–0.93)を得て因子ごとに合計点を算出した.
3)対象者の属性性別,年齢,婚姻状況,最終学位,所属地域,現在の所属,現在の立場を質問した.上記以外に「研究上で困ったときに気軽に相談できる人」と「研究活動についての自信」を質問した.気軽に相談できる人として「現在の職場の上司」など10項目を挙げ該当の選択肢をすべて回答してもらった.「研究活動についての自信」は「全般的に研究に自信がある」かについて5件法で回答を得た.
3.分析方法対象者の属性,研究活動の阻害要因,JANSに求める支援の記述統計量を算出した.研究活動の阻害要因とJANSに求める支援の必要性の各因子の合計得点を目的変数とし,対象者の属性をダミー変数として扱い説明変数として強制投入した重回帰分析を行った.ダミー変数のリファレンスカテゴリーは結果の解釈のしやすさを著者が判断して決定した.JANSに求める支援を目的変数とした重回帰分析では,研究活動の阻害要因も説明変数として投入した.統計解析にはSAS ver9.2を用い有意水準はp<.05とした.
4.倫理的配慮電子メール・ウェブサイトで研究の趣旨,目的・意義,方法,匿名性の保持,参加の自由,不参加による不利益がないこと等を説明し,回答をもって研究参加の同意とみなした.調査を依頼するメールの発信,研究者が作成した設問に基づくウェブサイトの作成・管理は一般財団法人日本情報経済社会推進協会のプライバシーマーク取得済のネットリサーチ業者であり,情報の使用制限や機密保持の義務等を含む契約をJANSと交した株式会社マーシュに委託した.研究者は調査終了後に連結不可能匿名化されたデータを株式会社マーシュより受け取り分析した.調査終了後,株式会社マーシュは会員のメールアドレス等の個人データを含む情報をすべて破棄した.本研究は東北大学大学院医学系研究科倫理委員会(承認番号:2012-1-115承認日:2012年6月25日)とJANS看護倫理検討委員会(承認日:2012年9月20日)の承認を受けた.
依頼した1634名中938名が1問以上の設問に回答し,調査票を最後まで閲覧し全設問に回答した648名(39.7%)を分析対象とした.女性が84%,35から39歳の人が54%,既婚の人が51%で,育児をしている人は33%だった.最終学位は73%が修士号で,所属地域は20%が東京地方,現在の所属が看護系大学である人が72%だった.複数回答で質問した現在の立場,困ったときに気軽に相談できる人でもっとも回答が多かったのは,それぞれ助教・助手(52%),現在の職場の上司(52%)だった.研究に関して全般的に自信がある人は11%だった.

各因子の上位2項目は因子1:研究能力の不足で「英語を書く力が不足(81%)」,「英語を読む力が不足(71%)」,因子2:ワーク・ライフ・バランスの難しさで「家事・育児時間を削って研究を優先する罪悪感(32%)」,「家事の負担(31%)」,因子3:研究のリソース不足で「英語論文執筆の指導者の不在(55%)」,「統計分析を気軽に聞ける人の不在(54%)」,因子4:研究に関連するコンフリクトで「教育と研究をバランスよく評価してもらえないジレンマ(39%)」,「看護学研究について上司等と意見が異なるジレンマ(30%)」,因子5:研究者としてのアイデンティティの未確立で「多施設でデータをとる仕組み・組織が作れない(48%)」,「研究者としての適性・才能がない(46%)」,因子6:教育や大学運営等の業務の負担で「講義や演習,実習などの教育業務(53%)」,「研究フィールドを見つけられない(47%)」だった.なお,これらの回答分布はすでにJANSの報告書(日本看護科学学会 研究学術情報委員会,2013)およびその報告書を元に執筆した学術論文ではない雑誌記事でも公開している(深堀,2013).


以降,重回帰分析の結果,統計学的に有意な関連が認められた変数のうち標準化偏回帰係数の絶対値が0.1以上だったものについて述べる.
因子1:研究能力の不足が研究活動を阻害していなかったのは最終の学位が博士号であり(β=−0.18),現在の立場が准教授(β=−0.15),博士課程学生(β=−0.11),その他の立場(β=−0.12)で,研究全般に自信がある人(β=−0.30)だった.
因子2:ワーク・ライフ・バランスの難しさが研究活動を阻害していたのは,女性(β=0.15),既婚(β=0.22),育児中(β=0.36)の人だった.
因子3:研究のリソース不足が研究活動を阻害していたのは最終の学位が修士号であり(β=0.19),所属地域が東海地方(β=0.13),近畿地方(β=0.15),九州・沖縄地方(β=0.14)の人で,阻害していなかったのは,年齢が30~34歳(β=−0.16),所属地域がその他・どこにも所属していないと回答し(β=−0.15),現所属が看護系以外(β=−0.10)であり,困ったときに現在の職場の上司(β=−0.15),現在の職場の同僚(β=−0.10),現在の大学院の指導教官(β=−0.13)に気軽に相談できる人だった.
因子4:研究に関連するコンフリクトが研究活動を阻害していたのは現在の立場が講師(β=0.14),助手・助教(β=0.31),その他の立場(β=0.17)の人で,阻害していなかったのは所属地域がその他・どこにも所属していないと回答している人(β=−0.15),困ったときに現在の職場の上司(β=−0.23),現在の大学院の指導教官(β=−0.13),大学院の同級生(β=−0.11)に気軽に相談できる人だった.
因子5:研究者としてのアイデンティティの未確立が研究活動を阻害していなかったのは,困ったときに現在の大学院の指導教官(β=−0.14),卒業した大学の指導教官(β=−0.11),大学院の同級生(β=−0.10),に気軽に相談でき,研究全般に自信がある(β=−0.16)人だった.
因子6:教育や大学運営等の業務の負担が研究活動を阻害していたのは現在の立場が講師(β=0.18),助教・助手(β=0.32)だった人で,阻害していなかったのは,所属地域がその他・どこにも所属していないと回答し(β=−0.12),現所属が臨床である(β=−0.18)人だった.
3.JANSに求める支援の回答分布と関連要因(表4, 5)各因子の上位2項目は因子1:研究に関する知識・技術の提供で「研究方法論や分析のセミナーをWebで見られるシステムの構築(82%)」,「最先端の研究に関するセミナー(79%)」,因子2:ネットワーキングの支援で「全国レベルで,自らの専門分野の若手研究者と交流ができる場(59%)」,「全国レベルで,自らの専門分野の研究者と交流ができる場(59%)」,因子3:若手研究者の学術・学会活動の促進で「若手研究者が参加できる学会主導の大規模国内研究プロジェクト(64%)」,「若手研究者が参加できる学会主導の国際共同研究プロジェクト(62%)」,因子4:研究を促進する環境・システム整備で「若手研究者の研究能力向上のための組織・上司への提言(74%)」,「臨床教員導入など教育負担軽減法の提言(72%)」,因子5:リソースの提供で「若手研究者への研究助成(79%)」,「学会誌での研究方法論の記事掲載(72%)」だった.なお,これらの回答分布はすでにJANSの報告書(日本看護科学学会 研究学術情報委員会,2013)およびその報告書を元に執筆した学術論文ではない雑誌記事にて公開している(深堀,2013).


以降,重回帰分析の結果,統計学的に有意な関連が認められた変数のうち標準化偏回帰係数の絶対値が0.1以上だったものについて述べる.
因子1:研究に関する知識・技術の提供を行ってほしかったのは研究の阻害要因として研究能力の不足(β=0.27)と研究のリソース不足(β=0.33)を感じている人で,行ってほしくなかったのは研究の阻害要因として研究に関するコンフリクトを感じている人だった(β=−0.36).
因子2:ネットワーキングの支援を行ってほしかったのは,現在の所属がその他・現在所属なし(β=0.11)で,研究能力に自信があり(β=0.12),研究の阻害要因として研究能力の不足(β=0.20)と研究のリソース不足(β=0.23),教育や大学運営等の業務の負担(β=0.10)を感じている人で,行ってほしくなかったのは研究の阻害要因として研究に関するコンフリクトを感じている人(β=−0.38)だった.
因子3:若手研究者の学術・学会活動の促進を行ってほしかったのは,最終の学位が博士号の人(β=0.16),研究の阻害要因として研究のリソース不足(β=0.19)と研究者としてのアイデンティティの未確立(β=0.13),教育や大学運営等の業務の負担(β=0.15)を感じている人で,行ってほしくなかったのは女性(β=−0.12)で,困ったときに現在の職場の同僚に気軽に相談でき(β=0.10),研究の阻害要因として研究に関するコンフリクトを感じている人(β=−0.36)だった.
因子4:研究を促進する環境・システムの整備を行ってほしかったのは現在の立場が助教・助手(β=0.17),臨床勤務(β=0.21)で,研究能力の阻害要因として研究能力の不足(β=0.15),研究のリソース不足(β=0.20),研究者としてのアイデンティティの未確立(β=0.11),教育や大学運営等の業務の負担(β=0.16)を感じている人で,行ってほしくなかったのは現在の所属が看護系以外の大学・研究所(β=−0.10)で,研究の阻害要因として研究に関するコンフリクトを感じている人(β=−0.30)だった.
因子5:リソースの提供を行ってほしかったのは研究全般に自信があり(β=0.11),研究の阻害要因として研究能力の不足(β=0.16),研究のリソース不足(β=0.32),教育や大学運営等の業務の負担を感じている人(β=0.17)で,行ってほしくなかったのは困ったときに現在の職場の上司に相談でき(β=−0.13),研究の阻害要因として研究に関するコンフリクトを感じている人(β=−0.69)だった.
JANSの若手看護学研究者は受けた教育や能力,置かれた環境などの個々の属性に応じ様々な研究の阻害要因を感じ支援を求めていた.本研究の結果からJANSには若手看護学研究者への支援として,①研究者間のネットワーク構築,②研究者としての能力の向上,③研究環境の整備を促進することが望まれると考えられた.以降,研究の阻害要因への対応のあり方とJANSに求められる支援について論じる.
1.若手看護学研究者の研究を阻害する要因「研究能力の不足」は,博士号取得者や博士課程在籍者など博士課程で研究の教育を受けた人,および准教授や研究全般に自信がある人など研究経験を蓄積しているであろう人が感じていなかった.博士課程での教育と継続的な研究活動の蓄積が研究能力向上のために重要と示唆された.「ワーク・ライフ・バランスの難しさ」は,女性,既婚者,育児中の人が感じておりライフイベントを経験しやすい世代である若手看護学研究者を支援していく上で重視すべき要因である.
「研究のリソース不足」は,20代の人や修士課程在籍者が感じており,研究に関する教育や経験が少ない人へのリソースの提供が必要だろう.東京とその他の地域との比較で4つの地域の人がリソース不足を感じており,人的資源・研究予算・物理的環境等のリソースに関する地域間格差が示唆された.さらに,現在の職場の上司・同僚や現在の大学院の指導教官に相談できる人ほどリソース不足を感じないことから若手看護学研究者の身近にいる研究者が人的資源そのもの,あるいは資金や物品等の獲得・効率的運用に向けた重要な指導者・助言者となると考えられた.
「研究に関連するコンフリクト」は助教・助手や講師,現在の職場の上司に相談できない人が感じていた.Turale et al.(2009)は日本の看護学発展の阻害要因として集団主義を挙げ,新人スタッフが教授の意に沿わない意見を言いにくいという現象を紹介している.「研究に関連するコンフリクト」は上司・指導教員等の研究への無理解などの項目を含むもので,助教・助手や講師の立場であった人たちは,上司等に対し研究に関する意見が言いにくく研究が阻害された可能性が考えられる.大学院の指導教官や同級生に相談できる人はコンフリクトを感じておらず,大学院の指導教官や同級生との良好な関係は若手看護学研究者にとって貴重といえる.
「研究者としてのアイデンティティの未確立」は,在籍・卒業大学院の指導教官や同級生に相談できる人ほど感じておらず,指導教官や同級生との良好な関係が,アイデンティティの確立やアイデンティティが未確立な人の研究を促進する役割をもつことが考えられる.
「教育や大学運営等の業務の負担」は,助手・助教や講師が特に感じていた.先行研究でも看護学の若手教員が研究,教育,実践,社会貢献など多数の役割を過剰な負担と感じること(Conn et al., 2005)や多岐にわたる看護教員の業務が高い負担となること(Segrott et al., 2006; Turale et al., 2009)が指摘されており,看護学研究者の業務負担の軽減策を検討していく必要がある.
2.若手看護学研究者に対してJANSに求められる支援研究の阻害要因に関する分析結果と考察,およびJANSに求める支援の記述統計および関連要因の分析結果に基づき,JANSに求められる支援を考察する.
1)研究者間のネットワーク構築本研究では,研究の阻害要因として「研究能力の不足」,「リソース不足」,「業務の負担」を感じている人が「ネットワーキングの支援」を求めていた.海外の報告でもポストドクターや若手看護教員への経験豊富な研究者からのメンタリング,同僚同士のメンタリングやネットワーキングの研究活動への有用性が指摘されている(Sidani, 1991; Jacelon et al., 2003).研究者間のネットワーク構築は,学協会がその活動として行うべき活動の一つといえ,構築されたネットワークから若手看護学研究者の研究能力の向上や研究環境の整備に寄与する人的資源の獲得につながることも期待される.また研究全般に自信がある人が「ネットワーキング支援」を望んでおり,「ネットワーキング支援」の項目で「若手アカデミーの創設・提言」を5割強の人が望んでいたことから,研究者としてある程度成長した人が自身の研究の発展や,研究環境・学術発展に関する意見を学会や社会に主体的に提言するためのネットワーク・組織体制を望んでいたとも考えられる.さらにネットワーク構築を望んでいた「所属のない人」にとってはこの支援が進学や就職等のきっかけとなることも期待される.以上よりJANSは若手研究者支援の一環として研究者間のネットワーク構築を促進していくべきと考える.しかし,ネットワーキング支援に含まれる項目すべてに対する回答は6割前後と大きな差はなく,どういった支援が若手看護学研究者に効果的かは定かではない.JANSは若手看護学研究者のネットワーク構築を促進する様々な対策を試行錯誤していく必要がある.
2)若手看護学研究者の研究者としての能力の向上若手看護学研究者の研究能力の不足やアイデンティティの未確立への対応は,研究者を養成する大学院の役割ともいえるが,JANSにも若手研究者の研究者としての能力の向上を促進する支援が望まれる.「研究に関する知識・技術の提供」に含まれる12項目すべてで6割以上の人がJANSに支援を行ってほしいと回答したことから,JANSは若手看護学研究者に幅広い知識や技術を提供するため,現在も行っている研究に関するセミナー等を充実させていくことが望ましい.なかでも「英語を書く・読む力の不足」,「英語論文執筆の指導者の不在」の項目で5~8割の人が研究活動を阻害していると回答しており,若手看護学研究者の英語論文の執筆・理解の能力の向上の取り組みの優先度は高い.また「研究に関する知識・技術の提供」を求めていたのは研究能力やリソースの不足を感じている人だったことから,JANSが若手研究者に知識・技術を提供する際には,現状では主に研究の教育や経験が十分でない人に向け行うことが有効かもしれない.知識・技術を提供していく際にはJANSに求める支援のなかで「セミナーをWebで見られるシステム」や「学会誌での方法論に関する記事」の割合が7割以上と高いことから,質の高い知識・技術を効率的に普及できる方法で行うことが望ましい.
さらに「若手研究者の学術・学会活動の促進」を博士号取得者,研究のリソース不足・アイデンティティの未確立を感じている人が求めていたことから,博士号取得後,十分なリソースを持たずアイデンティティが確立していない若手研究者を対象とした研究コミュニティの構築や,それらの人の学会活動やプロジェクト研究等への関与などを通して研究経験の蓄積や成長を促すことも一案かもしれない.
3)研究環境の整備若手看護学研究者が感じていたリソースの不足,教育や大学運営等の業務負担,ワーク・ライフ・バランスの難しさ,コンフリクトなどに対応し,JANSも研究環境の整備に貢献していく必要があると考える.求める支援の「研究を促進する環境・システム整備」と「リソースの提供」には阻害要因の6因子のうち4因子が有意な正の関連を示しており,環境整備やリソース提供は幅広い阻害要因への対策となり研究活動の促進に効果を有する可能性が高い.なかでも助教・助手,講師は「研究に関連するコンフリクト」,「教育や大学運営等の業務の負担」が研究を阻害すると感じており,JANSは若手研究者の多くが助教などの立場で勤務する看護系大学の研究環境の整備に貢献すべきといえる.その一手段として7割以上の人がJANSに求めていた「若手研究者の研究能力向上のための組織・上司への提言」,「教育負担軽減のための提言」や「若手研究者が成果を出している大学・研究室の運営方法の紹介」が有効かもしれない.米国や英国,豪州等では,看護学部の研究の活性化を目指した活動の報告例がある.例えばConn et al.(2005)は,自所属で学内の複数教員でResearch Interest Groupの組織化や研究担当副学部長の任命などを行い組織内の文化を変容させ研究活動を活性化させた事例を紹介している.JANSでも学術集会や学会誌上で若手看護学研究者の育成事例等を共有することが有用かもしれない.また,臨床勤務の人も「研究を促進する環境・システム整備」を求めていたことから,臨床の研究者への支援もさらに検討すべきである.
「リソースの提供」は上司に相談できない人や「リソース不足」を感じている人が特に求めており,未整備な環境にいる人への補助的な支援として重要である.現時点でJANSによる英文校正資金援助等も行われているが,JANSの有する資源は限られており,どの程度,誰に,どういった支援を行うべきか慎重に検討する必要がある.さらに,リソースの提供を行う上では,阻害要因の「リソース不足」に見られた地域差に留意し,地方会員への積極的支援を検討する必要がある.
最後に,「ワーク・ライフ・バランスの難しさ」や「研究に関連するコンフリクト」は対応すべき重要課題であるが,JANSによる短期間で広く効果を発揮する対策の実施は難しいだろう.「ワーク・ライフ・バランスの難しさ」は性別・婚姻・育児状況など介入困難な要因に影響され,この難しさを感じる人は求める支援の5因子のいずれにも有意な関連は示さなかった.また「研究に関連するコンフリクト」を感じる人は求める支援5因子すべてを望んでいなかった.これらより上記2つの因子に対しては,即効性が期待される対応だけでなく,社会や看護学領域,若手研究者が所属する組織の価値観や文化,システムの変革を含め長期的に対応していく必要がある.
3.研究の限界と今後の課題本研究を解釈する上ではJANSの若手会員の中でも特に研究活動への関心が高いもののみが回答した可能性を考慮する必要がある.看護系以外に勤務する人やその他の立場の人などいくつかの独立変数の従属変数への関連については,それらの人の状況を詳細に把握できていないため解釈が困難な点もあり今後の検討の必要がある.さらに,JANSにより若手看護学研究者に対して行われる支援の効果の検証も必要だろう.
JANSの若手看護学研究者は個々の属性に応じ様々な研究の阻害要因を感じ,支援を求めていた.JANSは若手看護学研究者への支援として,①研究者間のネットワーク構築,②研究者としての能力の向上,③研究環境の整備を促進していくことが望まれる.
本研究は日本看護科学学会研究学術情報委員会の活動として委員会の予算によって行われた.本研究にご協力いただいた日本看護科学学会に在籍する若手会員およびデータ分析を補助していただいた東京医科歯科大学事務補佐員日置章子氏に心より感謝申し上げる.
利益相反:本研究は日本看護科学学会研究学術情報委員会の活動として委員会の予算によって行われた.
著者資格:HF, MM, YO, FA, KO, MK, AK, ET, MN, TYは研究の着想およびデザインに貢献;HF, MMは統計解析の実施;HFは草稿の作成;TYは研究プロセス全体の統括;HF, MM, YO, FA, KO, MK, AK, ET, MN, TYは原稿への示唆;すべての著者は最終原稿を読み,承認した.