日本看護科学会誌
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原著
がん患者を在宅で看取った家族の覚悟を支えた要因
大西 奈保子
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2015 年 35 巻 p. 225-234

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Abstract

家族が在宅で患者を看取れるように支援することは,がん患者の在宅ケアには不可欠である.そこで,がん患者を在宅で看取った家族の覚悟を支えた要因を明らかにすることを目的として,がん患者を在宅で看取った家族15名からなぜ在宅で看取ることができたのかという問いを立てて半構成的インタビューを試み,その内容をGrounded Theory Approachの手法を用いて分析を行った.その結果,115のコード,32の概念,8のサブカテゴリー,3のカテゴリーが抽出された.がん患者を在宅で看取った家族の覚悟を支えたカテゴリーは,家族の人生観・死生観である《在宅での看取りを受け入れる思い》,家族を取り巻く人間関係である《周囲の人々の協力》,家族が患者・家族の置かれた現状を認識する《在宅ケアを継続する勇気》であった.家族の在宅での看取りの覚悟を支えるには,これらの要因に介入していくことが必要であることが示唆された.

Ⅰ.緒言

現在,日本のがん死亡数は年間約36万人のうちがん在宅死亡率は8.9%(厚生労働省,2012)である.それに対して遺族調査の視点から自宅死を希望していると推定されるがん患者数は,がん死亡の31%であると指摘されている(森田他,2012).さらに森田他(2012)によると,死亡場所が一般病棟,緩和ケア病棟であった場合,患者が自宅を希望していたと答えた遺族は,それぞれ27.3%, 23%であり,在宅死を望んでも実際は病院死である場合が少なからずあると言える.

これまでに国は在宅ケアを促進するために全国に在宅支援診療所を設置し診療報酬の加算をしてきたが,なかなか在宅での看取りが進んでいない現状がある.在宅での看取りを希望するがん患者が安心して最期まで在宅で暮らせるためには,在宅医療・福祉の連携・24時間体制,医療従事者の症状コントロールの知識と技術の向上,家族支援のあり方などが課題であり(大西,2010),在宅ケアを支える医療・福祉職者の役割は大きいが,がん患者が在宅で最期まで過ごすには家族の協力が不可欠な要因(福井,2007)でもある.

終末期がん患者を看取る家族は,看取りに伴う困難な状況や葛藤を解決するために折り合いをつけるという対処行動を行ったり(平,2007),在宅で患者を介護しながら患者の病状悪化やそれに伴い緊張を強いられる意思決定(柳原,2008)に苦悩したりしている状況が明らかとなっている.さらに終末期患者の家族は,患者が終末期になればなるほどその選択肢は限られ緊張を伴うものになり場の決定は患者と家族の負担のバランスでなされている(柳原,2008)と指摘されている.つまり,在宅での看取りは,家族にとって多大な労力と看取りに伴う不安がのしかかることであり,その労力を軽減し不安を少しでも軽くしなければ在宅での看取りは実現しないと言える(山口他,2008;堀井他,2008).

しかし,反対にがん患者の在宅での看取りは,達成感や家族関係の改善などポジティブな結果が顕著であった(Koop & Strang, 2003),看病の経験を自己の成長に役立つといった意味を見いだす(平,1999;横田他,2008)という報告もあり,看取りの経験は看取る家族に不安や負担感を与えるだけではなく,看取りに伴う後悔を少なくしたり,家族の人間的成長に寄与する側面があると言える.

在宅での看取りを家族が意思決定するには,医療・福祉職者が看取りに伴う家族の負担や不安を軽減することが必要であるが,同時にそれらを家族自身が受け入れることが必要である.看取りに伴う負担や不安に折り合いをつけて(平,2007)家で看取るという意思決定をするには,その行為の前提となる看取りの心構えが家族に必要になると考える.関根他(2010)は,家族が患者を看取る構えとしてコミットメントという概念を用いて説明しているが,それによると家族が看取りという状況に向かう心を決めるといった“家族としての決意”が中核的な特性であると述べている.そのため,家族が在宅で患者を看取るという心構え(看取るという覚悟)をもつことによって在宅での看取りが実現するのではないかと思われる.しかし,その看取りの構え(看取りの覚悟)が,どのような要因によって支えられているのかについては言及していない.つまり,覚悟を支えた要因を明らかにすることは,在宅死を希望する患者を支援することと同時に看取る家族に在宅での看取りの意思決定を支援することにつながると考える.

そこで,本研究では,がん患者を在宅で看取った家族の覚悟とその覚悟を維持するのに必要な要因を明らかにすることを目的とした.

なお,覚悟とは「心に待ち設けること,心構え」(広辞苑,2008)を言い,一方で,意思決定は「問題解決や目的・目標の達成のために,とるべき方向や手段について,複数の選択肢の中からどれか一つを決めること」(看護大事典,2010)であり行為に焦点があたっている.そのため本論文で用いる看取りの覚悟とは,家族が患者を在宅で看取ろうと意思決定を行うにあたっての心構えと同時にその決意を継続する心構えを指すこととした.

Ⅱ.研究方法

本研究では,在宅でがん患者を看取るという家族にとって悲嘆を伴う複雑な事象を明らかにするために質的帰納的研究方法を選択した.

1.研究対象者の選択

本研究では,在宅でがん患者を看取った経験のある家族を対象にするため都内B区医師会の協力を得た.了解が得られた会員の医療機関,もしくは関連する訪問看護ステーションなどから研究対象者を紹介してもらう.看取り後悲嘆から立ち直るのは故人との関係や年齢など個人差があり(Worden, 1991/1993)面接を施行する適当な時期は特定できず,また,グリーフケアの立場では他者に話をすることは悲嘆からの立ち直りに寄与する(Harvey, 2000/2002)とも言われている.そのため,研究の趣旨を紹介先である医療機関から説明を受け面接を了解した主介護者を対象者とした.看取り後時間が経つと記憶が曖昧になるため可能な限り看取った時期から時間が経っていない対象者を依頼した.

2.データ収集の方法

1)データ収集期間

2013年10月~2014年7月

2)データ収集方法

面接を了解してくれた対象者の自宅,もしくは対象者から指定された場所に研究者が出向き面接を行った.指定された場所はプライバシーを保てる静かな落ち着ける場所であるのかを確認してから面接を行った.面接内容は許可を取り録音した.質問内容は,①在宅ケアを始めたきっかけ,②なぜ,最期まで家で看取ることができたのか,③看取るうえで大変なことと支えになったこと,④看取ったことを今どのように考えているかということを対象者の話の流れに沿うように質問していった.

3.データ分析の方法

録音した面接内容は,すべて文章にしてデータとした.Grounded Theory Approach(Corbin & Strauss, 2008/2012)を参考に継続的比較分析を行った.得られたデータを熟読しテーマに関連のある家族が在宅で患者を看取れたと思われる事柄に注目しデータを意味のまとまりごとに切片化し,特性と次元を考慮しながらオープンコード化,軸足コード化し,カテゴリー同士を関連付けていき,選択的コード化にてカテゴリー《在宅での看取りを受け入れる思い》,《周囲の人々の協力》,《在宅ケアを継続する勇気》を見いだしストーリーラインを明らかにしていった.データ分析は,一名の分析が終わったら次の対象者のデータと比較しながら分析し,データ分析と対象者の面接は同時並行で行い,分析過程でキーとなる概念について次の対象者の面接で詳しく聴くようにしていった.なお,10例目の面接以降,新たな概念の抽出はなくなり理論的飽和に達したと考えられる.

4.分析の信憑性

データ分析過程において質的分析に長けている研究者と,終末期患者の在宅看護の経験のある訪問看護師にスーパーバイズを受け,家族が在宅で患者を看取る覚悟を支えた要因になり得るのかどうか分析の信憑性を高める努力をした.なお,スーパーバイズを受ける専門家は対象者の終末期在宅看護に関係のなかったものである.

5.倫理的配慮

本研究は帝京科学大学「人を対象とする研究」に関する倫理委員会の審査を受け承認(第102号)を得た.対象者の権利を保護するために,研究への参加は自由意志であり,いつでも研究を辞退でき不利益を被らないこと,研究参加でもたらされる利益・不利益,個人情報保護,研究結果の開示,研究成果の公表,データの保管などについて文書と口頭にて説明を行い承諾書を取得した.また,面接に伴う悲嘆の増強等も考えられるため,話したくないことは話さなくてよいことを対象者に伝え,数日後に悲嘆の増強等がないかどうか連絡を取り,必要時,紹介先である医療機関と連絡を取り合う旨確認した.

Ⅲ.結果

1.面接対象者の概要

面接を行った対象者は15名,うち2名は同じがん患者の家族であり別々に面接を行った.また,2名の家族員から同時に面接を行ったのが1事例あった.面接回数は各1回であった.対象者の年齢は20代から80代,平均年齢は58歳であった.看取った患者との続柄は,娘が6名,夫5名,妻2名,嫁1名,息子1名であった.在宅ケア期間は主に最後の退院から死亡までの期間であり,半月から1年,平均4.6ヶ月(3ヶ月以内は8名)であった.面接を行った時期は,看取った日から6ヶ月以内は3名,6~12ヶ月は3名,12~24ヶ月は9名,平均13ヶ月であった.看取った患者の年齢は40代から90代,平均76.6歳であった.面接時間は,40分から120分,平均約62分であった.

2.がん患者を在宅で看取る家族の覚悟と覚悟を決めた(覚悟を強めた)時期

今回,在宅で患者を看取った家族に面接をしてその内容を分析した結果,在宅での看取りを行うにあたり,すべての家族が覚悟をもって看取っていたことが明らかとなった.在宅で患者を看取ろうと覚悟を決めた時期は,「(元々おうちで看取ろうっていう覚悟みたいなものは)もちろんありましたね,当たり前のように看るんだということしかなかったですね.」(対象者3),「初めから在宅でって話を煮詰めてたので,何があっても在宅でって話で…」(対象者14)のように在宅ケアに移行する以前または移行時に在宅で看取る覚悟ができていた家族もいれば,「(訪問看護師から)病院行ってもやることは同じだし,自宅で大丈夫だから心配ないから自宅で看れるように私たちも協力しますからって言われて,それで私もじゃあ自宅でお願いしますって」(対象者13)のように在宅ケアに移行して周囲のサポートを受けているうちに覚悟ができていった家族もいた.

3.がん患者を在宅で看取った家族の覚悟を支えた要因(表1)

がん患者を在宅で看取った家族の体験を分析した結果,115のコード,32の概念,8のサブカテゴリー,3のカテゴリーが抽出された(表1).表1の概念,面接内容の一部の項に記載されている番号は対象者番号である.コード数115は概念に記載されている対象者番号の合計である.また,文中のカテゴリーは《 》,サブカテゴリーは【 】,概念は『 』を示す.

表1 がん患者を在宅で看取った家族の覚悟を支えた要因

がん患者を在宅で看取った家族の覚悟を支えた要因は,カテゴリー《在宅での看取りを受け入れる思い》は,【家で看取ってあげたいという思い】【看取りに向けての心の準備】【家で看取ることは自然なこと】の3つのサブカテゴリーで表された.カテゴリー《周囲の人々の協力》は,【家族(友人・知人)の協力】【援助者の支援】の2つのサブカテゴリーで表された.カテゴリー《在宅ケアを継続する勇気》は,【在宅ケアへの決断をする】【患者の状態を知る】【看取りの経験を生かす】の3つのサブカテゴリーで表された.

1)《在宅での看取りを受け入れる思い》

このカテゴリーは,家族が在宅で患者をケアすることや看取ることに関して家族の人生観・死生観が表れている思いである.この《在宅での看取りを受け入れる思い》はサブカテゴリー【家で看取ってあげたいという思い】【看取りに向けての心の準備】【家で看取ることは自然なこと】で構成されている.

(1)【家で看取ってあげたいという思い】

このサブカテゴリーは,概念『家族としての責任がある』『家で死にたいという患者本人の希望があった』『最期までその人らしく生活させたい』『病院で最期を迎えさせるのはかわいそう』『長年一緒に暮らしてきた歴史がある』『患者への恩返し』から構成されている.患者に対する家族としての責任や自らの思いが患者を【家で看取ってあげたいという思い】に繋がっていることが表れていた.

(2)【看取りに向けての心の準備】

このサブカテゴリーは,概念『患者の最期を覚悟していた』『家族内で死についての話し合いをしていた』『医療者から覚悟を促された』から構成されていた.家族は,患者の病状の変化等から『患者の最期を覚悟していた』のであり,普段から『家族内で死についての話し合いをしていた』ことや家での看取りができるように『医療者から覚悟を促された』ことによって,家族は【看取りに向けての心の準備】に表れていた.

(3)【家で看取ることは自然なこと】

このサブカテゴリーは,概念『家で自然に看取りたい』『病院から家に帰ってくるのは当たり前』から構成されている.家族は,患者を看取ることは特別なことではなく『家で自然に看取りたい』と捉えており,末期状態で家に戻ることに関しても『病院から家に帰ってくるのは当たり前』と捉えていた.

2)《周囲の人々の協力》

このカテゴリーは,在宅で患者を看取る家族を取り巻く人間関係・援助関係である《周囲の人々の協力》が看取りの覚悟として関係していることを表している.この《周囲の人々の協力》は,サブカテゴリー【家族(友人・知人)の協力】【援助者の支援】で構成されている.

(1)【家族(友人・知人)の協力】

このサブカテゴリーは,概念『家族の協力があった』『友人・近所の人の助けがあった』から構成されている.家族は『家族の協力があった』や『友人・近所の人の助けがあった』によって,看取りまで在宅ケアができたと捉えていた.

(2)【援助者の支援】

このサブカテゴリーは,概念『チームで対応してくれた』『安心感を与えてくれた』『在宅ケアが充実していた』『家で看取ることを確認された』『介護から離れる時間を作ってくれた』『ケアの指導をしてくれた』『症状コントロールを上手くしてくれた』から構成されている.家族は,様々な援助を医療・福祉職者から受けており,【援助者の支援】がなければ在宅での看取りはできなかったと捉えていた.

3)《在宅ケアを継続する勇気》

このカテゴリーは,家族が終末期の患者が抱える現実を認識することで《在宅ケアを継続する勇気》をもち患者を看取る覚悟に繋がることを表している.この《在宅ケアを継続する勇気》は,サブカテゴリー【在宅ケアへの決断をする】【患者の状態を知る】【看取りの経験を生かす】から構成されている.

(1)【在宅ケアへの決断をする】

このサブカテゴリーは,概念『病院は最期まで看てくれない』『ある程度ゴールが見えていた』『治療の手段がない』『病院では安心できない』『病院から在宅ケアの提案を受けた』『患者が病院を嫌がっていた』『病院では孤独である』から構成されている.在宅での看取りを実現するには,まず在宅ケアへの移行を実現することが必要である.そのためには,家族が患者のおかれている病院の現状や治療の限界を理解すること,患者の意向を知ること,または先の見通しがつくことが【在宅ケアへの決断をする】ことに繋がったことが表れていた.

(2)【患者の状態を知る】

このサブカテゴリーは,概念『患者の状態を見て死が近いのを理解した』や『患者自身が死を覚悟していた』から構成されている.『患者の状態を見て死が近いのを理解した』,『患者自身が死を覚悟していた』様子を家族自身が【患者の状態を知る】ことによって,覚悟が決まり最期まで在宅ケアを継続することに繋がったことが表れていた.

(3)【看取りの経験を生かす】

このサブカテゴリーは,概念『病院で苦しんで亡くなった経験』『生活の中で看取ることができた経験』『よく看てもらえなかった経験』から構成されている.家族が以前,経験した看取りの内容が今の患者の看取りに生かされていることが表れていた.

4.カテゴリー間の関連(図1,図2)

カテゴリー間の関連を検討した結果,《在宅での看取りを受け入れる思い》,《周囲の人々の協力》,《在宅ケアを継続する勇気》の要因が関連し,家族が在宅で患者を看取る覚悟を支えることが明らかとなった(図1).図1は,患者本人を含む家族の人生観や死生観の上に《在宅での看取りを受け入れる思い》という土台があって,その上に《周囲の人々の協力》や《在宅ケアを継続する勇気》の柱を建て,家族が在宅で患者を看取る覚悟を支えられるということを示している.一方,図2のように患者本人を含む家族の人生観・死生観と直結している《在宅での看取りを受け入れる思い》の土台が貧弱であると《周囲の人々の協力》や《在宅ケアを継続する勇気》の柱があったとしても看取りの覚悟はぐらついてしまうということを示している.

図1 家族が在宅で患者を看取る覚悟

《在宅での看取りを受け入れる思い》がしっかりしている場合

図2 家族が在宅で患者を看取る覚悟

《在宅での看取りを受け入れる思い》が貧弱な場合

Ⅳ.考察

1.看取る家族の思い

サブカテゴリー【家で看取ってあげたいという思い】【看取りに向けての心の準備】【家で看取ることは自然なこと】から表されるカテゴリー《在宅での看取りを受け入れる思い》は,患者本人を含めた家族の人生観や死生観が表されていると考える.そこには患者に対する家族としての責任や患者の“家で死にたい”という願いを叶えてあげたいという思いに代表されるように,家族として患者にしてあげたいことやどんな状態でも家に帰ってくることは当たり前だという思い,看取ることは家族として特別なことではなく自然なことであるといった思いに反映されていると考える.

平(1999)は,Franklのロゴセラピーの概念を参考にして意味を前向きに生きていこうとする意志や態度を示すとして,終末期のがん患者の家族が看病に見いだす意味を明らかにしている.それによると家族と患者の親密な関係から,家族として患者にしてあげたい,看病体験が自己の成長に役立つといった意味があると述べている.今回明らかになった《在宅での看取りを受け入れる思い》には,平のいう家族が看病に見いだす意味が内包していると言える.平の場合はホスピス病棟に入院している家族を対象にしたもので,在宅で看取った今回の対象者の方が家族にかかる負担は大きいと考えると,患者との関係性や家族の思いの中には,家族の人生観や死生観が在宅での看取りに反映してくるのは間違いないと考える.一方で,現在約8割の日本人が病院で死亡し,がん患者に限っては約9割が病院で亡くなっている(厚生労働省,2012)が,在宅死と病院死の割合が逆転したのは1970年代のことであり,それまでは家で死ぬことが普通のことであった.そういった歴史を考えると,今回,在宅で看取った家族から《在宅での看取りを受け入れる思い》に表されているような人生観・死生観が語られたのは自然のことなのではないかと考える.

以上のことから家族の人生観・死生観は在宅の看取りの場面において看取りの覚悟を支えるのに重要であり,家族の人生観・死生観と直結している《在宅での看取りを受け入れる思い》が家族の看取りの覚悟を支える基盤となると考える.家を建てるということに例えるなら,患者本人を含めた人生観・死生観という土地の上に《在宅での看取りを受け入れる思い》という家の基礎を作り,その基礎の上に《周囲の人々の協力》や《在宅ケアを継続する勇気》の柱を建ててはじめて家族が在宅で患者を看取る覚悟が支えられるのだと言える.そのため家の基礎である《在宅での看取りを受け入れる思い》の土台がしっかりしたものでなければ《周囲の人々の協力》や《在宅ケアを継続する勇気》の柱がうまく建たず,看取りの覚悟を支えられないということになってしまうと考える.

さらに今回は調査していないが在宅で看取ることができなかった対象者の中にも家族の中に《在宅での看取りを受け入れる思い》といった人生観・死生観はあるのではないかと考える.しかし,その場合は,《周囲の人々の協力》や《在宅ケアを継続する勇気》の条件が揃わなかったため在宅での看取りの覚悟が持てなかったか持ち続けることができず在宅死が実現しなかったのではないかとも考えることができる.

2.家族を取り巻く人間関係

家族(主介護者)を取り巻く関係性を人称的な視点で考えると,一人称的な視点,つまり家族自身のことである①自己との関係,次に二人称的な視点である②患者との関係,そして三人称的な視点である③第三者との関係(ここでは他の家族員も含む)の3つの視点が挙げられる.

③は今回,カテゴリー《周囲の人々の協力》で明らかとなったが,これは先行研究(堀井他,2008;山口他,2008)からも在宅での看取りの実現には不可欠な要因であることは間違いない.一方,一人称的な関係である①自己(家族自身)との関係や,二人称的関係である②患者との関係においては,カテゴリー《在宅での看取りを受け入れる思い》の中に表れていると言える.つまり,家族自身が患者を看取ることに対してどのように考えているのかといった一人称的な視点や患者に対して家族として最期どうしてあげたいのかといった二人称的な視点が家族の人生観や死生観の中に表れていると考える.

そして,この3つの関係性を在宅で患者を看取ろうと覚悟を決めた,または強くした時期で考えると,退院・在宅ケア開始時,またはそれ以前から患者を家で看取ろうとある程度覚悟を持っていた家族は,①や②のように一人称的,二人称的な視点が,③の三人称的な視点よりも割合が大きい.反対に在宅ケアを受けている最中に看取りの覚悟が強くなっていった家族は,①と②よりも③の割合が大きいと考える.これによって,特に在宅ケアを受けている最中に看取りの覚悟が強くなっていった家族は《周囲の人々の協力》が看取りの覚悟にはより重要だったと言える.つまり,在宅ケアに移行する際に,すべての人が在宅での看取りの覚悟を持っているわけではなく,在宅ケアを受けながら看取りの覚悟を決めたり強めたりするのだから,その時に《周囲の人々の協力》が家族に看取りの覚悟を強くさせる,または支えるのに力を発揮するのだと言える.

3.家族が現実を認識する力

サブカテゴリー【在宅ケアへの決断をする】【患者の状態を知る】【看取りの経験を生かす】で表されるカテゴリー《在宅ケアを継続する勇気》は,家族が現実を認識する要因であると考える.この現実の認識には,社会や病院の現状,患者の状態,過去の看取りの経験があると言える.治療の限界や病院が置かれている現状を家族が認識することは,それまでの病院に行けばなんとかなるといった病院信仰を打ち崩すことになる.また患者の病状の悪化を目の当たりにすることによって否が応でも患者の死を受け入れざるを得なくなってくると言える.さらに過去の看取りの経験から,家族は今の家族の看取りをどうしていくべきかを考える指針とするのだと言える.

緩和を意味するpalliativeの語源は,マントや覆いを意味するラテン語のpalliumである(Lugton & McIntyre, 1999/2008).つまり痛みや苦しみを覆って感じさせないようにする,見えないようにするというようにも解釈できるが,それだけでは片手落ちで時には覆いを剥ぐ,真実を見るということも必要であると考える.つまり,今回明らかになったように在宅での看取りの覚悟を支えるには,家族が現実を認識することが大切であると言える.

4.がん患者を在宅で看取る覚悟

希望するがん患者が在宅で最期まで生活するには,家族の理解や協力は必要不可欠な要因であり(福井,2007),家族がネックとなって在宅療養だけではなく在宅での看取りに結びつかない事例も少なくないのが現状であろうと考える.在宅で看取るということは,家族にとって大きな負担と不安がのしかかることであり(山口他,2008)簡単に看取れることではない.関根他(2010)が指摘している在宅での看取りの中核である“家族としての決意”が,本論文で扱う看取りの覚悟であり,看取りの覚悟なしに在宅での看取りは行えないと考える.そのため今回面接をした家族すべてが患者を在宅で看取ろうと覚悟を決めて看取っていたのは当然のことだと言える.医療・福祉の体制を整えることは在宅での看取りに不可欠な要因であるのは間違いないが,それだけでは在宅での看取りに結びつかないということは,国が在宅ケアに財政的にバックアップしてもなかなか在宅での看取りの件数が増えていかないという現実が物語っていると思われる.特にがん患者の場合は,在宅での看取りは1割に満たない(厚生労働省,2012).そのため家族は,在宅で患者を看取る覚悟をもってはじめて在宅で患者を看取るという意思決定ができると考える.

がん患者を在宅で看取れる要因の一つは,期限があるから挑戦できると家族が捉えていること(蒔田他,2009)が必要と指摘されている.また高齢者や難病患者の在宅と違い,がん患者の在宅の場合は,長くて3ヶ月で,その期間,家族が覚悟をもって介護すればなんとかなる(岡部,2013)と言われている.今回,在宅ケア期間が3ヶ月以上の家族もいたが,その場合は患者が高齢者で他の疾患が重なっている場合や,治療の限界を患者本人が感じてADLが保たれている早い段階で在宅に切り替え普通に生活し,亡くなる1ヶ月前から往診や訪問看護などの在宅医療を受けていた事例もあったため,平均在宅ケア期間が4ヶ月以上になったと考える.在宅ケア期間はそういった個々の事情を考慮しなければいけないが,今回の結果で『ある程度ゴールが見えていた』ということが,がん患者を在宅で看取る覚悟を支える要因であり,がん患者の場合,在宅ケアの期間が限られているということを家族が認識できることが在宅での看取りにつながると考える.そのためこの『ある程度ゴールが見えていた』という要因はがん患者の在宅での看取りに特徴的であると言える.

5.看護への示唆

家族の在宅での看取りの覚悟を支えるには,《在宅での看取りを受け入れる思い》《周囲の人々の協力》《在宅ケアを継続する勇気》に介入することである.《周囲の人々の協力》《在宅ケアを継続する勇気》は,制度を利用したり教育的に支援したりして比較的看護が介入しやすいが,《在宅での看取りを受け入れる思い》は,患者本人を含む家族の人生観や死生観の部分が強く表れており,特にがん患者の在宅ケアの場合,在宅ケア期間が短いということもあり,そこに看護が介入するのは難しい.家族に《在宅での看取りを受け入れる思い》が弱い場合は,在宅での看取りを断念する一つの判断材料になるのではないかと考える.しかし,在宅ケア移行時に看取りの覚悟ができていない家族が『医療者から覚悟を促された』ことによって在宅での看取りが実現できた例もあった.つまり,《在宅での看取りを受け入れる思い》に援助者が介入できる可能性があると言えるので,家族の《在宅での看取りを受け入れる思い》がどの程度なのか,日々のケアの中から意識的に探っていくことが必要であると考える.また,がん患者が在宅ケアへ移行する時,または継続に,ある程度のゴールを家族に認識してもらうことが,がん患者の家族の覚悟を支えることにつながると言える.

6.研究の限界と課題

今回,15名のがん患者を在宅で看取った家族を対象にして家族の看取りの覚悟について調査したが,在宅ケア期間が数週間から1年と幅があったこと,看取った患者の年齢が40代から90代であったことなど,条件にばらつきがあったことが本研究の限界である.今後は症例数を増やし,条件の違いによる看取りの覚悟の違いや,一般的にがん患者より在宅での介護が長くなる高齢者や難病患者の場合との違い,在宅でケアを受けていたが,最期,病状の悪化等で病院で看取った事例との違いなどを明らかにすることが今後の課題である.

Ⅴ.結論

がん患者を在宅で看取った家族の覚悟を支えた要因は,家族の人生観・死生観である《在宅での看取りを受け入れる思い》,家族を取り巻く人間関係である《周囲の人々の協力》,家族が患者・家族の置かれた現状を認識する《在宅ケアを継続する勇気》であった.そのためそれらの要因に介入していくことが家族を支え,がん患者が希望した在宅で最期まで過ごすことができる援助になると考える.

Acknowledgment

本研究を行うにあたり調査にご協力いただきました調査対象者の皆様,施設関係者の皆様,ご助言いただきました青森中央学院大学古橋洋子教授,帝京科学大学奥宮暁子教授に心より感謝申し上げます.本研究は,平成25年度帝京科学大学教育推進特別研究費,および平成26年度JSPS科研費26463359の助成を受けて実施した.また,本研究の一部は,第34回日本看護科学学会学術集会にてポスター発表した.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

著者資格: NOは研究の着想,デザイン,またはデータの入手,分析,解釈,すべてにおいて貢献した.

References
 
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