日本看護科学会誌
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短報
冷え症改善プログラムの自己管理アプリケーションを使用した妊婦による評価
中村 幸代堀内 成子
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2016 年 36 巻 p. 60-63

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Abstract

目的:冷え症改善プログラムを実施した妊婦による,自己管理ツールとして開発したWebアプリケーションの使用評価を分析することである.

方法:対象は,冷え症改善プログラムを実施した妊婦60名である.Webアプリケーションには,レッグウォーマーの着用,エクササイズの実施,足裏のツボ押しの項目があり,対象者は4週間セルフ評価を実施した.データ収集は実施終了後の質問紙調査であり,リッカート尺度で,「1.全く思わない」~「5.非常に思う」の5段階で評価した.

結果:プログラム実施の継続に役立った:中央値4.0「やや思う」(四分位範囲0.7),自分自身の冷えの状態を認識することができた:中央値4.0(1.0),プログラムを意欲的に実施することができた:中央値4.0(1.0)であった.

結論:妊婦によるWebアプリケーションの使用は,プログラムの継続やセルフケアに役に立ったという意見が多く得られた.

Ⅰ. 緒言

わが国の多くの女性にとって,出産は生涯1~2回の貴重なライフイベントである.しかし,高齢化等の影響でハイリスク妊産婦は増加し,それに伴う異常分娩率が高まっている.先行研究より,冷え症がある場合,ない場合と比較して早産になる割合は3.4倍であり,妊婦が冷え症であることで,早産等の異常分娩の発生率が高くなることが推定されたため,冷え症の改善を行うことが求められる(中村ら,2012Nakamura et al., 2013).冷え症の改善は,日常生活行動と関係があり,セルフケアを自己管理することが重要である(中村,2008足達,2014).昨今は,セルフケアの自己管理のための様々なアプリケーションが開発されている.自己管理ツールについて,足達(2014)は,実生活の中での行動が鍵となり,自分の行動を見つめることで行動が改善することもあると述べている.

研究者らは,冷え症である正常経過の妊婦を対象に,ランダム化比較試験にて冷え症を軽減するための,セルフケアプログラム「【自宅でできる】冷え症改善パック」を実施した.本研究は,その介入群のみを対象とした教材の評価であり,妊婦向けの冷え症改善プログラムのWebアプリケーションを用いた自己管理ツールについて,妊婦による使用評価を分析することである.

Ⅱ. 研究方法

冷え症改善プログラムを実施した妊婦を対象とした.実施した冷え症改善プログラムの内容は,①レッグウォーマーの着用 ②エクササイズの実施 ③足裏のツボ押しであり,実施期間は4週間である.Webアプリケーションは,研究者が作成したものであり,プログラムの各内容について,対象者は毎日実施状況をセルフチェックした.チェックした実施状況は,瞬時に総合得点化し,その日のプログラム実施状況を対象者が管理できるようにした.また,総合得点に応じてイメージキャラクターから応援メッセージが届くようにした.さらに,Webアプリケーションには,イラストでのプログラム内容の「説明機能」,過去の実施得点を修正できる「カレンダー機能」,実施状況をグラフと数値で実感できる「グラフ機能」があり,プログラムを実施し自己評価できるようにした(図1).

図1

Webアプリケーションのホーム画面

アプリケーションの評価は,4週間のプログラム実施後に,「全く思わない」~「非常に思う」までの5段階のリッカート尺度を使用して質問紙調査を実施した.なお,本研究は,H26年度慶応義塾大学看護医療学部研究倫理委員会の承認を得て実施した(承認番号:217).

Ⅲ. 結果

総リクルート数73名のうち,同意が得られた60名を分析の対象とした.対象の平均年齢は30.8歳(SD4.7),平均妊娠週数は29週4日(SD1.3)であった.使用したWebアプリケーションを下記の8項目で評価した.

Q1「アプリに記録することはプログラム実施を続けるのに役立った」では,中央値4.0(四分位範囲:0.7)であり,75.0%が「やや思う~非常に思う」と回答した.Q2「アプリに記録することは楽しかった」では,中央値3.0(1.0)であった.Q3「アプリに記録することで自分自身の冷えの状態を認識することができた」では,中央値4.0(1.0),「やや思う~非常に思う」53.3%であった.Q4「アプリに記録することで自分自身の日常生活について振り返ることができた」では,中央値4.0(1.0),「やや思う~非常に思う」70.0%であった.Q5「アプリに記録することでプログラムを意欲的に実施することができた」では,中央値4.0(1.0),「やや思う~非常に思う」61.7%であった.Q6「アプリに記録することは面倒であった」では,中央値3.0(1.0),「あまり思わない~どちらともいえない」58.4%であった.Q7「アプリのイメージキャラクターがいるのがよかった」では,中央値4.0(1.0),「やや思う~非常に思う」56.7%であった.Q8「毎回メッセージが送られることがよかった」では,中央値3.0(1.0)であった(表1).

表1 Webアプリケーション実施の評価 (n = 60)
評価項目 中央値 第1四分位数 第3四分位数
Q1 アプリに記録することはプログラム実施を続けるのに役立った 4.0 3.3 4.0
Q2 アプリに記録することは楽しかった 3.0 3.0 4.0
Q3 アプリに記録することで自分自身の冷えの状態を認識することができた 4.0 3.0 4.0
Q4 アプリに記録することで自分自身の日常生活について振り返ることができた 4.0 3.0 4.0
Q5 アプリに記録することでプログラムを意欲的に実施することができた 4.0 3.0 4.0
Q6 アプリに記録することは面倒であった 3.0 3.0 4.0
Q7 アプリのイメージキャラクターがいるのがよかった 4.0 3.0 4.0
Q8 毎回メッセージが送られることがよかった 3.0 3.0 4.0

1:「全く思わない」,2:「あまり思わない」,3:「どちらともいえない」,4:「やや思う」,5:「非常に思う」

フリーコメントでは,「カレンダー機能がついており,点数で記録を見ることができるので,自分が毎日,身体に気をつけているかが分かりやすかった.」「アプリの記録で継続できていた.アプリに記録することで,やらなきゃ!!と思い,やることができた.」「うっかり忘れていても,アプリを見ると思い出すことができた.」等があった.

Ⅳ. 考察

本研究では,セルフケアプログラムを自己管理していくためのツールとして開発したWebアプリケーションについて妊婦の評価を分析した.その結果,冷え症改善のためのセルフケアプログラムにWebアプリケーションを使用することは,セルフケア管理ツールとして妊婦に支持されることが示唆された.足達(2014)は,行動変容の基本的姿勢として,クライアントのセルフケアを促すことが重要であり,行動変容を促すためには,知識を相手に分かりやすく伝える,セルフコントロール力を高める,意欲を高めることが基本であると述べている.つまり,意識の向上と効果の自己認識が重要である.本研究結果でも,「アプリに記録することで自分自身の冷えの状態を認識することができた」「アプリに記録することで自分自身の日常生活について振り返ることができた」「アプリに記録することでプログラムを意欲的に実施することができた」と多くの妊婦が感じていた.この結果は,Webアプリケーションにカレンダー機能,グラフ機能があり継時的にプログラムを実施し自己評価できることで,妊婦のヘルスプロモーションの意識の向上につながっていたと推察できる.このことは,Adachi et al.(2007)の研究で205名を対象としたRCTの研究でも,継続的なセルフモニタリングにてライフスタイルを変えることが有意にダイエットにつながっていたということからも裏付けられる.

以上から,冷え症改善プログラムの自己管理ツールとして開発したWebアプリケーションを使用することは,プログラムの実行によい効果が期待できる.

今後の課題として,より効果的な支援を実施するためにWebアプリケーションの使用と並行して行動変容を促す教育支援の方法の検討が示唆される.

Ⅴ. 結論

冷え症改善プログラムの自己管理ツールとしてのWebアプリケーションの使用は,妊婦の評価として,プログラムの継続やセルフケアに役に立ったという意見が多く得られた.

謝辞:本研究にご協力いただきました妊婦の皆さまに心から感謝いたします.本研究は,1部はThe ICM Asia Pacific Regional Conferenceにて発表した.また,本研究はJSPS科研費基盤研究(C)(25463520)の助成を受けたものである.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

著者資格:NSは,研究の着想およびデザインの立案,統計解析および草稿の作成を実施した.また,研究全体の総括を行った.HSは,研究の着想およびデザインに貢献と原稿への示唆および研究プロセス全体への助言を実施した.すべての著者は最終原稿を読み承認した.

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