日本看護科学会誌
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原著
二次元レジリエンス要因尺度を用いた看護学生のレジリエンス特性の学年による違い
杉本 千恵笠原 聡子岡 耕平
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2018 年 38 巻 p. 18-26

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Abstract

目的:看護学生のレジリエンスの学年による違いとソーシャルサポートとの関連を検討した.

方法:看護専門学校1から3年生246名に対し自記式質問紙調査を実施した.項目は属性,二次元レジリエンス要因尺度(BRS),ソーシャルサポートとし,一元配置分散分析と重回帰分析を行った.

結果:BRS資質的要因の統御力(F2,227 = 3.2, P = 0.042)は1年生より3年生で,獲得的要因では問題解決志向(F2,227 = 6.2, P = 0.002)と自己理解(F2,227 = 7.3, P < 0.001)が2・3年生で高く,他者心理の理解は差がなかった.自己理解には学校生活に関わる実習教員(β = 0.22)などのサポートが,他者心理の理解には恋人(β = 0.21)など学外他者が影響した.

結論:自己理解,問題解決志向,統御力のレジリエンスが高学年で高く,その育成には学校内外の他者によるサポートが関与した.

I. 緒言

近年,医療の高度化・複雑化に伴い臨床看護師に求められる役割が高まる一方(厚生労働省,2004),看護基礎教育の場では,実習時間削減や患者安全管理,倫理的制約などのため臨地実習における看護実践能力の育成が年々困難となっている(厚生労働省,2007).また,教育期間中は看護学生にとってストレス要因となるものが多く(一戸ら,1990),特に臨地実習は,看護実践面での要求水準が高まるだけでなく,患者・家族,臨地実習指導者などとの対人関係での様々な困難に直面するため(齋藤,2012),看護学生の中には心身の疲弊を感じバーンアウトに陥るものもいる(Haack, 1988福重・森田,2013).このような中で学習課題を達成するには,困難さに向き合い,適応し,たとえ困難な状況に陥り落ち込んだとしてもそこから回復する力,すなわちレジリエンスが必要となる.

レジリエンス研究の対象は健常小児から精神疾患患者と広範で,研究目的により定義が異なる(齊藤・岡安,2009原・都築,2013).本邦では小塩ら(2002)による「ネガティブな出来事からの立ち直りを導く心理特性」という定義が知られている.レジリエンスは「心の強さ」と表現されることが多いが,精神的ダメージを受けない能力であるハーディネス(Kobasa, 1979)とは区別される.ストレスフルな状況に直面しても常に頑張り続ける人はかえってバーンアウトを起こし,深刻な不適応に陥る可能性が高い(Freudenberger, 1980/1983).その点,レジリエンスを獲得できれば,たとえ落ち込んでも何度でも立ち直り,結果として精神的に健康な状態を維持し良好な生活を送ることができると考える.

人間の特性には,もって生まれた能力と,生まれてから身につけていく能力があると言われている.レジリエンスでは,前者は資質的レジリエンス要因(以下,資質的要因とする),後者は獲得的レジリエンス要因(以下,獲得的要因とする)と呼ばれる(平野,2010).平野(2010)は,レジリエンスを導く個人特性を「生得」「獲得」の2側面からとらえる上で,Cloninger et al.(1993)のパーソナリティ理論における「気質」「性格」,Grotberg(2003, 2007)の「I have要因」「I am要因」「I can要因」,小花和(2004)の「周囲から提供される要因(I have)」「個人要因(I am)」「獲得される要因(I can)」などを参考にしている.これらはライフサイクルで獲得すべき発達課題のうち,幼児期から青年期に至る各課題と関連し(Erikson, 1994/2011),これらの段階的達成により獲得される特性とも捉えられる.

本研究では,特に看護基礎教育の評価において重要となる後天的に習得可能な獲得的要因に注目し,看護基礎教育課程における看護学生のレジリエンス構造の明確化を目的に,資質・獲得的要因の区分別に学年進行による違いを明らかにし,さらにレジリエンス獲得における教育関係者によるサポートの影響を検討することとした.

II. 研究方法

1. 調査対象およびデータ収集方法

対象者は3年制看護専門学校に在籍する1から3年生の学生246名(1年生83名,2年生89名,3年生74名)とした.2015年2月から3月の学年度末に,自記式質問紙調査を集合法にて実施した.学生の出席状況と成績に関する情報は,調査対象施設の研究協力者にデータベースからの抽出を依頼した.

2. 調査内容

質問紙は,基本属性,ソーシャルサポート,レジリエンス尺度で構成し,基本属性は,性別,年齢,学年,社会人経験の有無とした.

ソーシャルサポートは,クラスメイト,実習グループ,友人,恋人,家族,担任,実習担当教員,その他教員,実習指導者の9項目を独自に設定し,身体的・精神的サポートを「全然役に立たなかった(1点)」から「大変役に立った(5点)」の5段階評価で尋ねた.身体的サポートは必要なサービスや金銭的援助,課題の手伝いなど物理的な行為を提供するものであり,House(1981)によるソーシャルサポートの分類である手段的サポートに相当するものとした.精神的サポートは相談にのることで信頼や共感を提供する情緒サポート,および肯定やフィードバックなどを提供する評価的サポートに相当するものとした.

レジリエンス尺度について,本研究では経験や教育による違いを検討するために,二次元レジリエンス要因尺度(Bidimensional Resilience Scale,以下BRSとする)を用いた(平野,2010).BRSは21の質問項目から成り,「まったくあてはまらない(1点)」から「よくあてはまる(5点)」の5段階評価となっている.この尺度には資質的要因と,獲得的要因の2つの下位尺度が含まれ,資質的要因には,「楽観性」「統御力」「社交性」「行動力」が,獲得的要因には,「問題解決志向」「自己理解」「他者心理の理解」の計7つの下位因子が含まれる二次元構造となっている.平野(2010)は尺度作成時に,Cloninger et al.(1993)のTemperament Character Inventory(TCI)における「気質」と「性格」を「資質」と「獲得」的要因の外的基準として使用し,小塩ら(2002)の精神的回復力尺度との相関関係も確認している.なお,今回BRS使用において,回答の一貫性を保つため,程度量表現を含む質問項目(「よく理解している」の「よく」を除くなど)については開発者の許可を得てオリジナルを一部改変した.

3. 分析方法

属性とBRSの基本統計量を算出し,学年による違いを検討するために,ノンパラメトリックデータはKruskal-Wallis検定および多重比較(Mann-Whitney U検定,P値の補正にはBonferroni法)を,パラメトリックデータは一元配置分散分析および多重比較(t検定,P値の補正にはHolm-Bonferroni法)を行った.さらに,BRSと属性並びにソーシャルサポートとの関係を検討するために,BRSの下位因子得点を目的変数に,属性と各ソーシャルサポートを説明変数とする重回帰分析を7つの下位因子ごとに行った.統計分析には統計ソフトR(ver. 3.1.0)(R Core Team, 2016)とEZR(ver. 1.27)(Kanda, 2013)を使用し,統計的検討における有意水準は5%未満とした.

4. 倫理的配慮

研究協力が得られた施設の研究協力教員から調査書類一式を調査対象者に配布してもらうとともに,研究目的,個人情報の保護,研究参加の任意性および参加の有無は成績とは無関係であること,中断ならびに同意撤回の自由等について文書ならびに口頭による説明を行ってもらい,調査票の回収箱への投函をもって同意とみなした.調査票は施設内設置回収箱から対象施設の研究協力者が回収し,出席・成績情報の連結後に連結不可能匿名化したのち研究者が回収した.同意撤回書には調査票と同一の一意のIDを付記することで同意撤回時のデータ削除に対応した.なお,本研究は滋慶医療科学大学院大学研究倫理委員会(2-8)の承認を得て実施した.

III. 結果

看護学生246名に質問紙を配布し,236名から回答を得(回収率95.9%),BRSの回答に欠損がない230名を分析対象とした(有効回答率93.5%).

1. 対象者の概要

対象者属性を表1に示した.大多数が女性(205名,89.1%)で,社会人経験者は33名(14.3%)であった.性別(χ22,N=230 = 0.1, P = 0.931)と社会人経験(χ22,N=230 = 2.9, P = 0.232),成績(F2,227 = 0.5, MSe = 17.5, P = 0.635)は学年による違いがなかった.平均年齢は学年差があったが(F2,226 = 6.5, MSe = 46.6, P = 0.002),進級による年齢増加と言えた.出席も学年で差があり(F2,226 = 7.2, MSe = 99.0, P < 0.001),1年生(平均98.2,SD 3.1)や2年生(97.5, 3.8)と比べ3年生(96.0, 4.2)で低かった.学校生活への慣れや実習施設への感染拡大防止対策としての予防的欠席の影響と考えた.背景要因の差は合理的理由のため要因調整せずに以降の分析を進めた.

表1 対象者の属性
学年 P 多重比較
1年(n = 81) 2年(n = 81) 3年(n = 68)
性別(女性),n(%) 73(90.1) 72(88.9) 60(88.2) .931
社会人経験(あり),n(%) 9(11.1) 16(19.8) 8(11.8) .232
年齢(歳),mean(SD) 19.9(3.1) 20.9(2.6) 21.4(2.2) .002** ①<②*<③**
出席率(%),mean(SD) 98.2(3.1) 97.5(3.8) 96.0(4.2) <.001*** ③<①***②*
成績(点),mean(SD) 78.6(6.1) 77.7(7.4) 78.5(4.3) .635

*P < .05,**P < .01,***P < .001

χ2検定, 一元配置分散分析(ANOVA)および多重比較(t検定,P値補正Holm-Bonferroni法)

2. レジリエンス要因における学年別の違い

BRS項目について学年による違いを検討した結果(表2),「自己理解」に含まれる「自分の性格について理解している」では学年により有意差があり(χ22,N=230 = 6.5, P = 0.039),多重比較から1年より3年で理解が高くなる有意傾向がみられた(P = 0.080).他にも「自己理解」や「問題解決志向」「統御力」に関連する項目等で学年による有意な違いがあった.

表2 二次元レジリエンス要因尺度の項目の学年比較
1年(n = 81) 2年(n = 81) 3年(n = 68) Kruskal-Wallis検定 多重比較
median (IQR) median (IQR) median (IQR) χ2 P
資質的レジリエンス要因 楽観性 1 どんなことでも,何とかなりそうな気がする 4 (3–5) 4 (3–5) 4 (3–5) 2.4 .300
4 たとえ自信がないことでも,結果的に何とかなると思う 4 (3–4) 4 (3–4) 4 (3–4) 2.6 .268
14 困難な出来事が起きても,切り抜けることができると思う 4 (3–4) 4 (3–4) 4 (3–4) 2.0 .369
統御力 8 自分は体力がある 3 (2–4) 3 (2–4) 3 (2–4) 2.7 .262
11 つらいことでも我慢できる 4 (3–4) 4 (3–4) 4 (3–4) 3.7 .160
19 嫌なことがあっても,自分の感情をコントロールできる 3 (2–4) 3 (2–4) 4 (3–4) 8.7 .013** ①<③*
社交性 2 昔から,人との関係をとるのが上手だ 3 (2–4) 3 (3–4) 3 (3–4) 1.5 .471
5 自分から人と親しくなることが得意だ 3 (2–4) 3 (3–4) 3 (3–4) 0.3 .864
15 交友関係が広く,社交的である 3 (2–4) 3 (2–4) 3 (3–4) 2.9 .238
行動力 9 努力することを大事にする 3 (3–4) 4 (3–4) 4 (3–4) 2.2 .327
12 決めたことを最後までやりとおすことができる 3 (3–4) 4 (3–4) 4 (3–4) 7.5 .023* ①<③*
20 自分は粘り強い人間だと思う 3 (2–4) 3 (3–4) 3 (3–4) 1.2 .555
獲得的レジリエンス要因 問題解決志向 6 嫌な出来事があったとき,今の経験から得られるものを探す 3 (2–4) 4 (3–4) 4 (3–4) 5.7 .059
16 人と誤解が生じたときには積極的に話をしようとする 3 (2–4) 4 (3–4) 3 (3–4) 5.2 .074
18 嫌な出来事があったとき,その問題を解決するために情報を集める 3 (3–4) 4 (3–4) 4 (3–4) 9.9 .007** ①<③**
自己理解 3 自分の性格について理解している 4 (3–4) 4 (4–4) 4 (4–4) 6.5 .039* ①<③
7 自分の考えや気持ちがわからないことが多い(§) 3 (2–4) 3 (2–4) 3 (2–4) 6.8 .033* ①<③*
17 嫌な出来事が,どんな風に自分の気持ちに影響するか理解している 3 (3–4) 4 (3–4) 4 (3–4) 9.3 .010** ①<②*
他者心理の理解 10 人の気持ちや,微妙な表情の変化を読み取るのが上手だ 4 (3–4) 4 (3–4) 4 (3–4) 2.7 .265
13 思いやりを持って人と接している 4 (3–4) 4 (4–5) 4 (4–5) 8.6 .013* ①<②*③
21 他人の考え方を理解するのが得意だ 3 (3–4) 3 (3–4) 4 (3–4) 1.7 .426

P < .1,*P < .05,**P < .01,***P < .001,Mann-Whitney U検定(P値補正Bonferroni法),(§)逆転項目,median 中央値,IQR 四分位範囲

下位尺度の学年別比較の結果(表3),資質的要因では差がなかったが(F2,227 = 2.0, MSe = 100.3, P = 0.141),獲得的要因では差があり(F2,227 = 7.2, MSe = 200.2, P < 0.001),平均得点は1年生29.9(SD5.7)と2年生32.2(5.2)および3年生33.0(4.9)とで多重比較による有意差がみられ(P < 0.05),1年生に比べ2,3年生で高くなった.

表3 二次元レジリエンス要因尺度の下位尺度・因子の学年比較
1年(n = 81) 2年(n = 81) 3年(n = 68) ANOVA 多重比較
mean (SD) mean (SD) mean (SD) F P
二次的レジリエンス要因尺度(21)§ 69.4 (11.2) 72.9 (11.2) 74.8 (11.0) 4.7 .010* ①<③**
資質的レジリエンス要因(12) 39.5 (7.1) 40.8 (7.1) 41.8 (7.1) 2.0 .141
楽観性(3) 11.2 (2.5) 10.9 (2.4) 11.1 (2.5) 0.4 .641
統御力(3) 9.4 (2.4) 9.9 (2.5) 10.4 (2.2) 3.2 .042* ①<③*
社交性(3) 9.1 (2.9) 9.6 (2.6) 9.6 (2.6) 1.0 .375
行動力(3) 9.8 (2.7) 10.3 (2.7) 10.7 (2.6) 2.1 .128
獲得的レジリエンス要因(9) 29.9 (5.7) 32.2 (5.2) 33.0 (4.9) 7.2 <0.001*** ①<②*③**
問題解決志向(3) 9.4 (2.6) 10.5 (2.6) 10.8 (2.1) 6.2 .002** ①<②*③**
自己理解(3) 9.8 (2.1) 10.7 (1.9) 10.9 (1.9) 7.3 <0.001*** ①<②**③**
他者心理の理解(3) 10.7 (2.3) 11.0 (2.1) 11.3 (2.1) 1.6 .214

*P < .05,**P < .01,***P < .001,ANOVA一元配置分散分析,t検定(P値補正Holm-Bonferroni法),§(項目数)

下位因子では,資質的要因のうち「統御力」のみ差があり(F2,227 = 3.2, MSe = 18.6, P = 0.042),1年生(平均9.4,SD2.4)に比べ3年生(10.4, 2.2)で有意に高かった(P < 0.05).獲得的要因のうち「問題解決志向」(F2,227 = 6.2, MSe = 38.3, P = 0.002)と「自己理解」(F2,227 = 7.3, MSe = 29.4, P < 0.001)では差があり,1年生(平均9.4,SD2.6; 9.8, 2.1)より2年生(10.5, 2.6; 10.7, 1.9)と3年生(10.8, 2.1; 10.9, 1.9)で有意に高くなった(P < 0.05).「他者心理の理解」では学年差はなかったが(F2,227 = 1.6, MSe = 7.4, P = 0.214),1年生で平均10.7(SD2.3)と「問題解決志向」(9.4, 2.6)や「自己理解」(9.8, 2.1)に比べ高値を示した.

3. レジリエンス要因と対象者属性および精神的サポートとの関連

レジリエンス獲得に影響する要因を検討するために,BRSの各下位因子を従属変数,学年,社会人経験,性別,出席,精神的サポートを独立変数とする重回帰分析を行った(表4).年齢と身体的サポートは他変数との相関が高いため除外した.全変数投入モデルとAIC最小モデルを検討し,後者を報告する.

表4 レジリエンス要因と対象者属性および精神的サポートの重回帰分析(AIC最小モデル)
資質的レジリエンス要因 獲得的レジリエンス要因
楽観性 統御力 社交性 行動力 問題解決志向 自己理解 他者心理の理解
VIF β t β t β t β t β t β t β t
学年 1.14 .16 2.38* .12 1.98* .13 1.95 .22 3.30**
社会人経験 1.15 .13 2.01*
性別 1.17 .12 2.10
成績 1.32 .14 2.14* .31 4.95*** .09 1.40
出席 1.24 .12 1.86
精神的サポート
クラスメイト 1.53 .10 1.42 .25 3.58*** .11 1.66 .29 4.07*** .21 2.98**
実習グループ 1.29 –.13 –1.89
友人 1.40 .10 1.41 .11 1.63 .10 1.40
恋人 1.13 .13 2.04* .09 1.45 .10 1.51 .21 3.17**
家族 1.39 –.13 –1.87 –.19 –2.71**
担任 2.15 .15 2.18*
実習教員 1.57 .12 1.80 .22 3.04**
その他教員 1.97 .14 1.94 .11 1.58 .11 1.56
実習指導者 1.31 –.19 –2.74**
R2 .05* .08** .11*** .17*** .20*** .11*** .14***
Adjusted R2 .03* .06** .10*** .16*** .17*** .09*** .12***
AIC 2.0 –8.3 –18.9 –34.7 –28.6 –10.1 –22.9

P < .1,*P < .05,**P < .01,***P < .001

VIF:Variance Inflation Factor,β標準化偏回帰係数,R2決定係数,Adjusted R2由度調整済決定係数,AIC赤池情報量規準

独立変数間の多重共線性をVIF(Variance Inflation Factor)値により確認したところ全変数3以下で多重共線性はなかった.全モデルの自由度調整済み決定係数は0.03~0.17と低く,採用変数以外の影響がある前提で結果を解釈した.

BRSの資質的要因のうち「楽観性」では成績(β = 0.14, P < 0.05)と担任からのサポート(β = 0.15, P < 0.05)で有意な標準偏回帰係数が得られた.「統御力」では学年(β = 0.16, P < 0.05),「社交性」ではクラスメイト(β = 0.25, P < 0.001)と恋人(β = 0.13, P < 0.05)からのサポート,「行動力」では成績(β = 0.31, P < 0.001)と学年(β = 0.12, P < 0.05)が影響した.「統御力」と「行動力」には今回想定したサポートの影響はなかったが,「楽観性」と「社交性」では学校生活に関わる他者からのサポートが影響した.

獲得的要因のうち「問題解決志向」ではクラスメイトからのサポート(β = 0.29, P < 0.001),社会人経験(β = 0.13, P < 0.05)で有意な標準偏回帰係数が得られた.「自己理解」では学年(β = 0.22, P < 0.01),実習担当教員からのサポート(β = 0.22, P < 0.01),実習指導者からのサポート(β = –0.19, P < 0.01)となり,実習担当教員によるサポートの影響が大きかった.「他者心理の理解」ではクラスメイト(β = 0.21, P < 0.01),恋人(β = 0.21, P < 0.001),家族(β = –0.19, P < 0.01)からのサポートが影響していた.獲得的要因では全下位因子でソーシャルサポートが影響しており,「問題解決志向」と「自己理解」では学校生活に関わる他者からのサポートが,「他者心理の理解」では学校生活以外の他者からのサポートが影響していた.また,身近な家族よりも恋人やクラスメイトからのサポートが「他者心理の理解」に影響する結果となった.

IV. 考察

1. レジリエンス要因における学年別の違い

本研究の結果,看護学生のレジリエンス要因について,資質的要因では学年差がなかったが,獲得的要因では高学年でより高い傾向にあった.

レジリエンス尺度の種類は異なるが,看護大学1年生と4年生で高く,2年生と3年生で低かったという横断研究(齋藤,2012)と比較すると,最終学年で高い点は本研究と類似していたが,1年生で高い点は支持しない結果となった.この理由として,調査時期が先行研究5月に対し本研究では学年末と異なること,横断研究による限界が考えられる.

本研究の1年生と2年生の違いは2年次科目,2年生と3年生の違いは3年次科目の影響が考えられる.2,3年は全履修科目における実習割合が多く,学年間差の影響要因として実習が想定される.学年間を実習前後と想定すれば,本研究の結果は看護大学2年生で実習後にレジリエンスが向上した山岸ら(2010)の知見を支持し,このことは獲得的要因の尺度概念とも合致する.

次にレジリエンス特性の内容別に検討する.本研究において1年生より2年生で高くなったBRS下位因子は,「問題解決志向」と「自己理解」であった.レジリエンス要因は単独で機能するのでなく,複数要因が相互作用しレジリエンスを導くと言われ,その中でも重要な位置を占めるのが「自己理解」である(庄司,2009).性格成熟のためには自分の特徴を自覚することが必要であり,メタ認知能力とも捉えられる.

メタ認知とは,自己の認知活動を客観的に捉え評価した上で制御する「認知を認知する」ことである(中山・四本,2012).メタ認知には学習や問題解決場面でいつどのような方略を用いるかといった知識や判断も含まれており,教育現場でのメタ認知能力育成は重要課題である.また,レジリエンス育成プログラムにはメタ認知を高める内容が含まれている(原・都築,2013).

問題解決では自分の理解状況をモニターすること,いわゆるメタ認知的活動のモニタリングが必要である(中山・四本,2012).つまり,「問題解決」能力向上にはメタ認知能力の向上が前提となることから,本研究で「自己理解」と「問題解決志向」が同時期に高くなったのは妥当と考える.

山岸ら(2010)による研究対象は2年生であり,本研究の1,2年生間の差異との比較が可能である.山岸ら(2010)は,小塩ら(2002)石毛・無藤(2005)などの尺度項目を基に6因子の尺度を作成し,「新奇性追求」「メタ認知的志向性」「関係性志向」が実習後向上し,有意傾向ではあるが「感情調整」も上昇したと報告している.「メタ認知的志向性」はメタ認知により自己を振り返ることであり,本研究の「自己理解」と類似した内容を示す.この「メタ認知的志向性」の上昇は,本研究結果での2年生の「自己理解」の高さを支持するものであった.

本研究で1年生より3年生で高くなった能力に「統御力」があった.これは変化しにくい資質的要因であるが,平野が尺度開発時に外的基準とした精神的回復力尺度(小塩ら,2002)の「感情調整」と相関が高く,学年別得点傾向の類似がみられた(杉本ら,2015).2年生を対象とした山岸ら(2010)の研究では「感情調整」向上は有意傾向であったが,1ヶ月と短い評価期間でも縦断研究での上昇がみられたことから,長期継続観察では有意となる可能性がある.ここでの「感情調整」は自分の感情のコントロールを意味し,本研究の「統御力」と類似した内容である.「統御力」とは自分の衝動や感情をコントロールする能力である.自己を客観視するメタ認知能力向上は自己思考制御の前提であり,「自己理解」が2年生で,「統御力」が3年生で高くなった結果と合致する.感情コントロール能力はGrotberg(2007)小花和(2004)の「I can」要因に位置づけられ,獲得可能な要因と認識されている.平野の研究では,「統御力」がTCIの気質に含まれる「損害回避(他者から評価される状況を極力回避する)」と負の相関があり(平野,2010),一卵性双生児で正相関がみられたこと(平野,2011)から,資質的要因に位置づけられている.しかしながら,「統御力」を従属変数,TCI下位因子を独立変数とした重回帰分析で,「損害回避」以外にも性格に含まれる「協調性(他人と関わる能力)」や「自己超越性(全てのものは全体の部分であるという統一意識)」で有意な正の標準偏回帰係数が得られていた(平野,2010).吉村(2007)は一般大学生を対象にした研究で,レジリエンスを発揮するためには自己感情のコントロールと肯定的な未来志向が大切であり,これら2要因は獲得可能であると述べている.これらから「統御力」は資質的要因と獲得的要因の2側面を有する可能性があると思われる.

その他,先行研究(山岸ら,2010)で実習により変化した「新奇性追及」と「関係性志向」について,「新奇性追及」は新しい物事への興味や挑戦する志向を示すが,BRSに該当する下位因子がないため比較できなかった.「関係性志向」は他者との関わりを示し,本研究の「社交性」と類似した因子である.「社交性」では学年による違いはなかったが,「関係性志向」では上昇したことから,本結果を支持しなかった.「新奇性追及」と「社交性」はTCIの気質要因との類似性が高く(木島,2000),変化しにくい要因であり,本結果はこれを支持した.

本研究では,獲得可能な要因のうち「他者心理の理解」では学年による顕著な差がなく,看護基礎教育期間の能力育成可能性は低いと思われたが,1年生ですでに高値を示していた.他者視点をとり他者の情動を感じる能力とされる「共感」について,看護学生と一般女子大生を比較した研究で(林,2002),看護学生の方が「共感的配慮(不幸な他人に対して同情や憐れみの感情を経験する傾向)」が高く,学年差がないことが示されている.本結果もこれを支持した.

他者心理の理解とは他者の認知特性を理解し推量する能力であり,自己理解とは自己を客観的な他者視点から見ることであり,自己理解と他者理解は一方向性ではなく相互作用により発達する.自己理解の深化により他者理解が進み,他者行動により生じた現象を当事者視点で捉え直し,自己と比較することでさらに自己理解が進む.

「自己理解」と「他者理解」のどちらが先行するかには「理論説」と「シミュレーション説」の二つがある.理論説では両者は同期連動して発達し,シミュレーション説では自己理解より他者理解が遅れると考える(柴田,2011).本研究では「他者心理の理解」は上昇傾向のみで「自己理解」の様な顕著な差はなかったため,シミュレーション説の発達メカニズムに近いと考えられた.

両理解の関係性について自己中心性(他者視点をとれず他人が自分と同じ出来事を経験し,同じ感情を持っていると思うこと)(Piaget, 1964/1968)からみると,自己理解についで他者視点獲得に至るとも解釈できる.幼児期の自己中心性は青年期には解決され,他者の思考を考慮できるようになるが,他者と自己の思考の区別が困難で,他者思考の推論に自己思考が影響するなど,青年期は異なる性質の自己中心性を持つ(Elkind, 1967).青年期の自己中心性は社会化の過程で得られる社会的認知と関係する.社会化は青年期最大の発達課題であるアイデンティティ獲得との関連で説明され,この時期に幅広い社会参加活動を体験することが重要とされる.

本対象学生で自己理解が向上した反面,他者理解が進まなかった点は,1年の時点で他者理解の得点がすでに高かったことから,元々他者理解力の高い学生が入学していることが予測された.しかしながら一方で,近年の青年期延長や社会化遅延による自己中心性の持続の影響が考えられる.看護師経験10年目以降の看護師で経験年数の短い看護師に比べて「他者心理の理解」が高いとの報告があり(笠原,2015),社会化にともなう成長可能性もあり,卒業後の継続観察が必要である.

2. レジリエンス育成と看護基礎教育との関係

看護学生のレジリエンス育成には臨地実習による効果があり(山岸ら,2010),特に小グループでのプロジェクトベース学習が効果的とされる(Chen, 2011).本研究でも,全履修科目における臨地実習割合の多い2,3年生でレジリエンスが高かった.また,能力向上の起点となる「自己理解」の高さに実習担当教員からのサポートが関係していたことから,実習の役割は大きいと考える.自己理解から感情調整や問題解決にいたる成長は,正課教育だけでは不十分であり,昨今その役割は正課外教育に期待されているが(村田・小林,2015逸見,2015),看護領域では臨地実習がその役割を一部担うと思われた.

看護基礎教育での変化がない「他者心理の理解」については,能力の高さに教育関係者のサポートは関与せず,それ以外の他者によるサポートの関与が認められた.中でも身近な家族でなく,恋人やクラスメイトからのサポートが影響していた.他者心理の理解には社会活動の幅広さが関与すると考えられ,正課外活動の重要性が示された.看護基礎教育では過密化が問題となるが,レジリエンス育成の観点からは教育と生活のバランスが重要である.

3. 本研究の限界と課題

本研究の限界として,サンプル数による統計的検出力の小ささと,単一施設研究による一般化可能性の低さがある.さらに,横断研究のため同一集団における変化をとらえたものでないこと,入学直後データの不足により,1年次教育過程の効果を評価できていないなどの限界があり,今後縦断研究が必要である.BRSは資質と獲得の観点によるレジリエンス評価が可能であり,教育効果の検討に有用な尺度であるが,資質的要因である「統御力」で獲得的要因の特徴がみられたことから,看護学生での尺度妥当性検討も必要と思われる.また,重回帰分析による決定係数の小ささから,今後関連要因の追加も必要と考える.

V. 結論

看護学生のレジリエンス要因を生得的な資質的要因と教育等により習得可能な獲得的要因の2側面からとらえ,看護基礎教育過程における学年による違いを検討した.また,レジリエンスとソーシャルサポートとの関係も検討した.

獲得的要因のうち「自己理解」が実習担当教員のサポートや2年次の教育を経て高くなり,「問題解決志向」が進むことが明らかとなった.「統御力」は習得困難な資質的要因に含まれるが,3年生で高くなり獲得可能性が考えられた.一方,獲得的要因である「他者心理の理解」は向上しなかった.この能力には正課外活動での人間関係によるサポートが影響しており,学生のレジリエンス育成における正課教育と正課外活動のバランスの重要性が示された.

謝辞:本研究にご協力いただきました皆様に深く感謝申し上げます.なお,本研究は平成27年度滋慶医療科学大学院大学医療管理学研究科修士論文の一部を加筆・修正したものである.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

著者資格:CSおよびSKは研究の着想およびデザイン,データ収集,結果の分析と解釈,原稿の作成を行った.KOは原稿への示唆および研究プロセス全体への助言を行った.すべての著者は最終原稿を読み,承認した.

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