日本看護科学会誌
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資料
がん化学療法誘因性末梢神経障害に対する運動療法の検討:
末梢神経障害のある患者を対象とした運動療法の効果に関する文献レビューから
三木 珠美大岩 美樹
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2018 年 38 巻 p. 56-63

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Abstract

目的:がん化学療法誘因性末梢神経障害への効果的な運動療法について,文献から検討を行い,示唆を得ることである.

方法:医学中央雑誌とPubMedを用い過去5年間の原著論文で,末梢神経障害に対する運動療法に限定し検索を行った.

結果:対象文献は20件であり,糖尿病性末梢神経障害の文献が多くそれ以外は少数であった.運動は有酸素運動,レジスタンス運動,感覚運動が主であり,専門家による管理にて安全面への配慮がされていた.運動療法前後での比較では,全ての研究においてバランス力や歩行力に有意な改善を認めたが,群間比較による有意な改善は必ずしも明確ではなかった.

結論:運動療法前後の比較から,がん化学療法誘因性末梢神経障害への運動療法の試験的導入は,神経症状やバランス力の改善に期待できるものと考える.運動内容は単独より複合的な運動プログラムにて,医療者の管理のもと軽度から始め中等度の負荷で維持することが適切と考える.

Ⅰ. はじめに

がん化学療法の有害事象に化学療法誘因性末梢神経障害(Chemotherapy-induced Peripheral Neuropathy以下,CIPNとする)があるが,抗がん剤の用量制限毒性の一つであり,未だに有効な予防や治療法が存在しない.CIPNは,感覚神経が障害されると,四肢末端にしびれのような異常感覚が24時間持続する.運動神経が障害されると筋萎縮や筋力低下を認めるため,日常動作にも影響を及ぼし,社会生活が阻害され患者のQuality of life(以下,QOLとする)は低下すると言われている(Shimozuma et al., 2009).一般的に総投与量が増すにつれて,発生頻度の上昇が認められ,進行性に悪化する.休薬によって症状の改善が得られるが,時に数ヶ月に渡り改善しない場合もある(André et al., 2009).抗がん剤が有効な症例であってもCIPNの増強により,治療の継続が困難となるため患者の心理的身体的苦痛の大きい有害事象である.このような苦痛を軽減し,またActivities of daily living(以下,ADLとする)の維持やQOLを低下させないためには,医療者による支援と患者のセルフケアが欠かせない.

これまで感覚神経障害によるしびれなどの異常感覚に対し,薬理学的治療法や代替療法による介入研究は行われてきているが,有効性に関しては,研究者間で一致せず確実とは言えない.その一方で近年,運動療法が着目され始め,筋萎縮予防やバランス力の向上,症状の改善を目的に介入研究が行われている傾向にある.また運動療法によってCIPNを有する患者の転倒リスクを回避できる可能性があるため,がんのリハビリテーションガイドライン(2016)においては,QOLの観点からも化学療法患者に対するがんリハビリを推奨している.

しかし,CIPNを有する患者を対象にした研究は,始まったばかりであり,運動療法の有効性について見極めるには,さらなる研究によるエビデンスの蓄積や検討が必要である.そこで,原因疾患は異なるがCIPNと同じ症状である末梢神経障害への運動療法を全般的に分析することによって,歩行に欠かせない下肢筋力や持久力,転倒に関係するバランス力の強化方法や支援内容について有益な情報を得ることができる.また,身体機能の変化や神経症状の変化などから運動療法の有効性について評価することができ,一定の示唆が得られると考える.

したがって,本研究の目的は,末梢神経障害を有する患者への運動療法について文献検討を行い,その結果からCIPNのある患者に対する運動療法の研究や実践に活かせる可能性について探ることである.

Ⅱ. 文献検索と検討の方法

文献検討のプロセスは,Holly(2011)の包括的系統的レビューを参考に進め,文献情報データベースは,医学中央雑誌とPubMedを用いて検索した.

1.医学中央雑誌では,「(末梢神経系疾患or末梢神経障害)and(運動((物理学))or身体運動or運動療法orリハビリテーションorトレーニング)」にて検索を行った.

2.PubMedでは,「(“peripheral nervous system diseases” or “peripheral neuropathy”) and (“exercise” or “physical activity” or “fitness” or “moving” or “sport” or “rehabilitation”)」にて検索を行った.

3.文献の選定基準は下記の通りとし,文献検索と文献選定は,図1に示すプロセスに沿って行った.

図1

文献検索・選定のプロセス

1)内容:研究の対象は末梢神経障害を有する「人」であり,主な焦点が運動療法に関する実験および準実験研究であること,2)期間:2017年3月時点で過去5年間の文献,3)セッティング:全世界,4)言語:日本語もしくは英語,5)Full Textが入手可能なものとした.

4.文献検討については,1)著者,2)研究デザイン,3)研究対象者,4)運動内容・方法,5)効果等のデータを抽出するため表を作成し,これらのデータを介入対象ごとに分析した.

5.倫理的配慮について,文献研究であるため倫理審査は受けなかった.

Ⅲ. 結果

1. 文献の概要

選定基準に適合した文献は20文献であった(図1参照).国内文献が0件,国外文献が20件であり,研究デザインは,ランダム化比較臨床試験が6件,比較臨床試験が14件であった(表1参照).対象は,糖尿病性末梢神経障害に対する研究が17件(表2参照),がん化学療法誘因性末梢神経障害に対する研究が2件(表3参照),その他の誘因性末梢神経障害に対する研究が1件であった(表4参照).

表1 対象文献の概要(20文献)
項目 内容 文献数
北米:米国 カナダ 8
南米:ブラジル 1
欧州:イギリス イタリア オランダ ドイツ ポルトガル 6
中東:イラン 2
アジア :インド 韓国 3
支援対象 糖尿病患者 17
がん化学療法患者 2
難病患者 1
研究デザイン ランダム化比較臨床試験(Randomized controlled trial: RCT) 6
比較臨床試験(Controlled clinical trial: CCT) 14
比較検定 介入群と対照群における群間比較 15
介入前と介入後における比較 10
支援場所 病院およびリハビリ施設 19
在宅 1
運動内容 有酸素運動:トレッドミル サイクルエルゴメーター ストライダーワークアウト リカンベントステッパー エリプティカル・クロストレーナー 太極拳 10
筋力(レジスタンス)運動:トレーニングマシーン ゴムバンド 8
感覚運動:Biodex Balance System(BBS)仮想ゲームバランストレーニング Wobbleバランスボード 全身振動マシーン 9
オリジナルな複合運動 1
支援期間 4~6週間 5
8~10週間 4
12~16週間 6
24週間以上 3
不明 2
支援間隔 週1回 3
週2~3回 6
週5~7回 2
週150–360分 1
不明 8
表2 糖尿病誘因性末梢神経障害の運動療法
著者 対象n デザイン 運動療法 結果
Morrison et al., 2014 37
IG:DM 21 DPN 16
CCT 有酸素運動 12週 介入前後比較:①手足の反応時間 ②歩行速度・歩幅・姿勢 ③片脚立ちテスト ④神経障害スコア:①~④が改善
Dixit et al., 2014 87
IG:DPN 40
CG:DPN 47
RCT 有酸素運動 8週 群間比較にて介入群:①遠位腓骨神経・仙骨感覚神経の伝達速度 ②神経障害スコア:①②が改善
Kluding et al., 2015 18
IG:DM 18
CCT 有酸素運動 16週 介入前後比較:FMD(血流依存性血管拡張反応) 改善 ※18名に有害事象が発生
Ahn & Song 2012 59
IG:DPN 30
CG:DPN 29
CCT 太極拳 12週 群間比較にて介入群:①片脚立ちテスト ②神経症状スコア ③QOL(SF36v2):①~③が改善
Alsubiheen et al., 2015 29
IG:DM12
CG:健常者 17
CCT 太極拳 8週 群間比較では有意差(-)
介入前後比較:①ABC(活動バランス)スコア ②リーチテスト ③片脚立ちテスト:①~③が改善
Quigley et al., 2014 101
IG:教育 33 太極拳 34 バランス 34
RCT 太極拳 10週
教育管理 10週
バランス機能 10週
介入前後比較:太極拳群では①移動速度 ②片脚立ちテスト:①②が改善 バランス機能群では,①足底屈曲力・ステップ幅が改善
Kluding et al., 2012 17
IG:DPN 17
CCT 有酸素/レジスタンス運動 10週 介入前後比較:①疼痛(VAS) ②神経障害スコア ③表皮内神経線維幹(近位皮膚生検):①~③が改善
Mueller et al., 2013 29
IG:DPN(WB)15
CG:DPN(NWB)14
RCT レジスタンス運動 12週
WB群:立位
NWB群:座・臥位
群間比較にてWB群:①6分間歩行テスト ②歩数 :①②が改善
Taveggia et al., 2014 27
IG:DPN(多様)13
CG:DPN(標準)14
CCT 有酸素/レジスタンス/感覚運動 4週 群間比較にて介入群:①6分間歩行テスト ②10 m歩行テストは有意差(-):①②が改善
Melai et al., 2014 94
IG:DPN 48
CG:DPN 46
CCT レジスタンス運動 24週 群間比較では有意差(-)
介入前後比較:①立位継続・移動時間・歩(5%負荷歩行状態画像解析にて)が改善
Handsaker et al., 2016 43
IG:DM 10 DPN 6
CG:健常者 21 DM 3 DPN 3
CCT レジスタンス運動 16週 群間比較:階段昇降速度に介入前は有意差ありが,介入後に有意差なしとなった
介入前後比較:①階段昇降の速度が改善 ②筋肉の活性化は有意差(-)
Francia et al., 2015 43
IG:DPN 26
CG:DPN 17
CCT レジスタンス/感覚運動 16週 群間比較では有意差(-)
介入前後比較:①足関節可動域 ②足関節・足底筋力 ③歩行速度:①~③が改善
Akbari et al., 2012 20
IG:DPN 10
CG:DPN 10
CCT 感覚運動 10セッション 群間比較にて有意差(-)
介入前後比較:①総合・前後安定度が改善
Grewal et al., 2015 35
IG:DPN 16
CG:DPN 19
RCT 感覚運動 4週 群間比較にて介入群:①重心・臀部の揺れ(開眼) ②足関節の揺れ(開閉眼) ③歩数 ④歩行時間:①~④が改善
Lee et al., 2013 90
IG:DPN(WBV)30 DPN(BE)30
CG:DPN 30
CCT 感覚運動 6週
WBV群:バランス+全身振動
BE群:バランスのみ
群間比較にて介入群:①静的バランス ②動的バランス ③肢筋力テスト:①~③が改善
Kordi et al., 2015 30
IG:DPN 10
CG:DPN 20
RCT 感覚運動 6週 群間比較にて介入群:①前脛骨筋力と四頭筋力 ②Timed Up and Goテスト:①②が改善
Iunes et al., 2014 97
IG:DPN 97
CCT セルフ・エクササイズ(11項目)5セッション 介入前後比較:①足底位置が改善 ②神経症状スコアは有意差(-)

IG: intervention group, CG: control group, DM: diabetes mellitus, DPN: diabetic peripheral neuropathy, RCT: randomized controlled trial, CCT: controlled clinical trial, FMD: flow-mediated dilation, QOL: quality of life, ABC: activities-specific balance confidence, VAS: visual analog scale, WB: weight-bearing, NWB: nonweight-bearing, WBV: whole-body vibration plus balance exercise, BE: balance exercise

表3 がん化学療法誘因性末梢神経障害の運動療法
著者 対象 デザイン 運動療法 結果
Streckmann et al., 2014 61
IG:CIPN 30
CG:CIPN 31
RCT 有酸素/感覚/レジスタンス運動 36週 群間比較にて介入群:①深部感覚症状 ②バランス力 ③活動レベル:①~③が改善
Schwenk et al., 2016 61
IG:CIPN 30
CG:CIPN 31
CCT 感覚運動 4週 群間比較にて介入群:①足関節・臀部の揺れ ②神経症状:①②が改善 ③歩行速度・転倒恐怖感スケールは有意差(-)

IG: intervention group, CG: control group, CIPN: chemotherapy-induced peripheral neuropathy, RCT: randomized controlled trial, CCT: controlled clinical trial

表4 家族性アミロイドポリニューロパチーの運動療法
著者 対象 デザイン 運動療法 結果
Tomás et al., 2013 40
IG:FAP(病院)8 FAP(在宅):15
CG:FAP 16
CCT 病院群 24週
有酸素/感覚/レジスタンス運動
在宅群 24週
感覚運動のみ
群間比較にて介入(病院)群:①総筋力量 ②歩行能力:①②が改善

IG: intervention group, CG: control group, FAP: familial amyloidotic polyneuropathyp, CCT: controlled clinical trial

2. 運動療法の特徴

運動療法は,病院やリハビリ施設内での実施が19件,在宅での実施が1件であった.全てにおいて,医師または理学療法士や運動療法の専門家が指導を行い監修のもと実施していた.運動期間は,4週間から36週間であった.運動間隔は,週1回から週7回であり,週2から3回の実施が最も多かった.

運動内容は,有酸素運動のみが6件あり,感覚運動のみが5件,筋力(レジスタンス)運動のみが2件,感覚運動とレジスタンス運動の組み合わせが1件,その他の運動が1件であった.有酸素運動にレジスタンス運動と感覚運動を組み合わせた研究が5件であった.

有酸素運動の内容は,トレッドミルやサイクルエルゴメーターなど5種類のマシンを用いた運動と太極拳であった.運動の強度は,「(最大心拍数-安静時心拍数)×強さ+安静時心拍数」=Target heart rate(THR)を算出し,Heart rate reserve(HRR)が,最低で40%~最高で70%の強さとなるよう設定を行い,個人の心拍数や酸素消費量に応じて実施時間や負荷量を決め,段階的にレベルを上げていた.特に問題がなければ中等度(運動中に会話はできるが歌を歌うことができないレベル)から強度の負荷で運動を継続していた.レジスタンス運動の内容は,レッグプレスなどのトレーニングマシンやゴムバンドを用いたり,足関節に錘を付けたりするなど,大腿四頭筋や大殿筋,下髄三頭筋を強化する目的で実施していた.レジスタンス運動においても軽度の負荷運動から始め,段階的に負荷量や回数を増やしていき中等度レベルを維持していた.感覚運動の内容は,バーチャル体験で障害物を避けたり,ボードや振動マシンの上でバランスを取ったりするなど,バランス感覚機能を強化する目的で実施していた.

3. 運動療法のアウトカム

有酸素運動を実施した研究では,介入群と対照群を比較した結果,Dixit et al.(2014)によると遠位腓骨神経伝導速度と仙骨感覚神経伝達速度において,介入群に有意な改善がみられた.介入前後で比較した結果では,Morrison et al.(2014)によると手足の反応時間,歩行速度に有意な改善がみられたが,転倒リスク評価では有意な改善がみられなかった.Kluding et al.(2015)によると,介入後の血流依存性血管拡張反応(Flow-mediated dilation: FMD)において末梢血流量に有意な改善がみられた.

太極拳を実施した研究では,介入群と対照群を比較した結果,Ahn & Song(2012)によるとQOL得点が有意に高く,バランス力,神経症状スコアに改善がみられていた.介入前後で比較した結果では,Alsubiheen et al.(2015)によると活動バランススコアと片脚立ちやリーチテストにおいて有意な改善がみられた.Quigley et al.(2014)においても,移動速度と片脚立ちテストが有意に改善していた.Iunes et al.(2014)によると,在宅で実施できる11項目の運動を実施し,介入前後で比較した結果,神経症状スコアに変化はなかったが,足底の位置に有意な変化がみられた.

感覚運動を実施した研究では,介入群と対照群を比較した結果,Grewal et al.(2015)によると介入群では姿勢の安定化として重心の揺れ(臀部の開眼時,足関節の開閉眼時)が有意に改善していた.また,歩数の増加と歩行時間の延長がみられた.Kordi et al.(2015)によると,前脛骨筋と四頭筋の筋力が介入群では有意に改善し,Timed up & go(TUG)テストの時間にも改善がみられた.Schwenk et al.(2016)によると,CIPNのある高齢患者に仮想ゲームバランス運動を実施した結果,介入群では開眼立位時とセミタンデム時において足関節と臀部の揺れが有意に改善した.また神経症状であるしびれ感や疼痛においても有意な改善がみられた.Lee et al.(2013)によると,バランス運動と全身振動を実施した(Whole-body vibration plus balance exercise: WBV)群とバランス運動のみを実施した(Balance exercise: BE)群,それに対照群を含め3群で比較した.その結果,WBV群は静的と動的バランス,下肢筋力テストが有意に改善した.介入前後において比較した結果では,Akbari et al.(2012)によると,総合安定度と前後安定度の揺れ幅が有意に改善していた.

レジスタンス運動を実施した研究では,介入前後で比較した結果,Melai et al.(2014)によると立位継続,歩行速度,歩長が有意に増加していた.Handsaker et al.(2016)によると階段昇降時の速度において有意な改善がみられたが,筋肉の活性化では有意な変化はなかった.Francia et al.(2015)によると,レジスタンス運動と感覚運動を実施した結果,介入後に足関節可動域の前屈と背屈,また足関節から足底の筋力,歩行速度に有意な改善がみられた.

有酸素運動にレジスタンス運動や感覚運動を組み合わせた複合的なプログラムによる介入では,介入群と対照群を比較した結果,Streckmann et al.(2014)によると,介入群では深部感覚に関する症状の減少がCIPN患者の87.5%にみられた.またバランス力の有意な改善と活動レベルの増加をみとめた.Taveggia et al.(2014)によると,多様な運動を介入群に実施した結果,標準的な運動の対照群と比較し,介入群では6分間歩行テストが有意に改善した.介入前後で比較した結果では,Kluding et al.(2012)によると,疼痛と神経症状が有意に減少し,近位皮膚生検においては表皮内神経線維幹が有意に増加していた.Mueller et al.(2013)によると,立位での実施を体重負荷運動(Weight-bearing: WB)群とし,座位または臥位での実施を体重負荷なし運動(Nonweight-bearing: NBW)群と比較した結果,WB群の方は6分間歩行テストが有意に向上し,歩数も有意に増加していた.Tomás et al.(2013)は,病院内での実施群と,在宅での実施群に分けて介入を行った.病院群では複合的な運動を実施し,在宅群では感覚運動のみ実施し,毎月フォローアップを行っていた.介入群では身体の総筋力量が増加しており,歩行能力の向上もみられた.介入群の中でも病院群の方がより有意に向上していた.

Ⅳ. 考察

本文献レビューにおいて,末梢神経障害に対する運動療法の内容と成果が明らかとなった.運動療法の内容は,有酸素運動とレジスタンス運動と感覚運動の3つが中心であったが,運動方法や期間,評価ツールなどは多岐に渡っていた.有酸素運動やレジスタンス運動は,主に下肢筋力や歩行時の歩幅などの改善を目的に行われ,感覚運動は体感を鍛えることによってバランス力の改善に繫がることを目的に行われていることが分かった.運動療法後,筋肉量では有意な変化がほとんどみられなかったが,歩行速度や距離,バランス力,神経症状にいたっては,ほとんどの研究で有意な改善がみとめられていた.

運動強度については,安全面を考慮し段階的に強度を上げるようプログラムされていることから,身体疲労や継続性の観点からも対象患者の状態を確認しながら負荷を加えていくことが適切であると判断できる.また,有酸素運動やレジスタンス運動は,中等度から強度の運動レベルで調整し実施していることや,Mueller et al.(2013)の負荷無し群と有り群の比較からみても,負荷が無いもしくは軽度より,中等度レベル以上の強度で運動を維持した方が効果は現れやすいと判断できる.開始時期や継続期間に関しては,研究によってさまざまであり,適正時期について言及はされていないが,総体的にみて抗がん剤治療の早い時期から継続して実施することが望ましいと考える.CIPNを有する患者は,足底や足指の知覚異常に加え,反射力や下肢筋力の低下がみられる.そのため,目的や機能に応じて運動療法を単独で実施することも可能であるが,特にCIPNが高頻度に出現するオキサリプラチン投与患者(Extra et al., 1990)や,転倒を起こしやすいパクリタキセル投与患者(田頭ら,2015),CIPNの進行速度が早い患者に対しては,単独の実施よりも運動療法を組み合わせて複合的に実施することがCIPNには効果的であると考える.

我が国の第2期がん対策推進基本計画(厚生労働省,2011)では,がん領域でのリハビリテーションの重要性を述べており,CIPNのある患者に対しても運動療法によって,ADLやQOLの低下を予防できるようサポートしていく必要がある.また,米国スポーツ医学会委員会のガイドライン(ACSM, 2017)によるとがん患者およびがん経験者は,週に約150分の中強度の有酸素運動をすることや負荷トレーニング,ストレッチなども推奨している.ただ,運動プランは個人に合わせて調整する必要があるといわれている.

これらのエビデンスや本文献レビューのアウトカムから,CIPNを有する患者に対し,抗がん剤による感染リスクの高い時期や全身倦怠感の増強時などには注意が必要であるが,個々の状態や運動習慣に合わせたレベルで安全性を確保しながら,試験的に運動療法を取り入れていく価値は高いと示唆された.また,CIPNに対する症状コントロールはこれまで難しいとされてきたが,患者のセルフケア能力は決して低いわけではなく,グッドプラクティスを取り入れ活用していきたい思いが強いことから(三木,2017),運動療法を適切に取り入れ,主体的に実施することで,症状緩和や活動力の維持,転倒などの二次障害の予防に繫がっていくと考える.

本文献レビューにおける限界と課題は,CIPNに対する運動療法の研究はまだ少数ではあったことと,全ての研究において運動療法の有効性を示していたが,その多くは介入前後で比較した研究であり,背景因子に差が無いよう介入群と対照群を設定し群間比較した研究が少なかったことである.介入研究では,二群間の背景因子の統一と群間比較にて評価されることが適切である(及川,2012)ことから,今後,CIPNを対象とした運動療法の介入効果の検証では,その点に留意して実施することが望ましいといえる.

今後の展開として,CIPNに対する運動療法が標準化され,がんリハビリとして包括的な支援プログラムの構築へと発展していけば,患者のADLやQOLの改善に貢献できるものと考える.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない

著者資格:筆頭著者のTMは,研究の着想から文献検索,文献検討,内容の分析,論文の構成,執筆まで一貫して行った.共著者のMOは,文献検討,内容の分析,結果の図表の構成に貢献した.著者間で該当する文献を検討し,採択する文献を吟味した.また文献内容の結果の妥当性や信頼性についても協議し,結果と考察をまとめ洗練させていく作業を繰り返した.すべての著者は最終原稿を読み,全体の文章や表などに誤りがないか確認を行い承認した.

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