目的:要支援高齢者の一人暮らし生活意欲測定尺度を開発し,信頼性・妥当性を検討すること.
方法:意欲概念や高齢者支援の専門職の意見等を基に尺度原案を作成し,一人暮らし要支援高齢者に77項目5段階のリッカート法にて自己記入式無記名質問紙調査を行い,218名を分析対象とした.
結果:最尤法プロマックス回転にて因子分析を行った結果,4因子14項目の因子解が抽出され,〈人生を楽しめる力〉〈精神的適応力〉〈生活の活力〉〈一人暮らしを受け入れ味わう力〉と命名した.信頼性・妥当性を確認した結果,尺度全体のクロンバックα係数.850,再検査信頼係数.762,基準関連妥当性.726,モデル適合度は,GFI = .901,AGFI = .853であった.
結論:本尺度は,統計学的に信頼性・妥当性は許容範囲である尺度であると示唆され,要支援高齢者本人や支援者が簡便に使用でき生活意欲の程度を知る指標として活用できる.
高齢者の一人暮らしの世帯は年々増加している(内閣府,2015a).高齢者の思いとしては,「可能な限り自宅で介護を受けたい」(44.6%)と思っている者は約半数おり,「住みなれた自宅で生活を続けたいから」(85.6%)がその主な理由である(内閣府,2015b).その理由の背後には,「故郷を大切にしたい,心が落ち着く自分の居場所にいたい」などの心情や,日本文化の象徴である「先祖や家を守りたい」(佐藤・権藤,2016)という使命感や役割を果たしたい思いなどが明らかとなっている.高齢者が住み慣れた自宅において地域と長い年月をかけて分かちがたい関係を築き,安心かつ安寧できる自分の居場所を形成し,長年積み重ねた日々が思い出となり,その場所が「故郷」そして「人生そのもの」となっている.そのため,住み慣れた自宅や地域に住み続けることにより長年培ってきた習慣を継続できることや,顔なじみの人々が近くにいる中で安心して暮せることが高齢者にとっての生活の質(Quality of life:以下QOL)であり,地域で住み続けられるための支援は重要である.
意欲は物事を成し遂げることの推進力となっており(木菱ら,2004),一人暮らしであっても自宅そして地域で暮らしていくことへの意欲を支えることは,住み続ける思いを持続できるための重要な支援の1つである.意欲とは,「積極的に何かをしようと思う気持ち,種々の動機の中から或る一つを選択してこれを目標とする能動的意志活動」(新村,2008)のことであり,出来事や些細なことにより変化するものである.一人暮らしの介護を必要とする高齢者は,日常生活に支援が必要な身体状態であり,かつそのような状態であるにも係わらず同居家族が不在である環境の中で生活をしていることからストレスをもちやすく,些細な出来事でも意欲は低下しやすい状態にある.意欲の低下は,身体状態の悪化や要介護度の重度化を起こし(鳥羽,2002),その帰結は一人暮らしをしていくことの諦めにつながる.そのため,介護を必要とする高齢者の意欲が低下しないための支援が重要である.日常生活動作(activities of daily living:以下ADL)の低下は,主要な意欲低下の原因となっている(林・久保,2010).重度のADL依存状態にある高齢者が一人で暮らすことの意欲を回復し維持することは困難であると推察されることから,著者らはADL依存状態が軽度の要支援高齢者の意欲について着目した.
意欲は変化するもの(櫻井,2009)である.要支援高齢者は健康問題を抱えて一人暮らしをしており,日々揺れ動く思いの中で生活をしていると考えられる.意欲の状態を捉えることは,生活過程の中で出来事が生じた際や介入した際にどのように変化をしたのか客観的に捉えられ,本人と支援者がその変化を共有し,なぜそのように変化したのか評価し,低下した場合は改善のための介入内容の検討を可能にする.
意欲を客観的に測る道具が幾つか開発されているが,要支援高齢者を対象にした一人暮らしの生活意欲に関した尺度は見当たらなかった.鳥羽(2002)の「意欲の指標」は,高齢者を対象にADLに関連した意欲について行動観察により評価をするものである.標準意欲評価法(加藤,2006)は,広義における自発性の障害について他覚的,自覚的,行動観察的な視点から評価をする.要介護高齢者においてADLの支援を行うのみでは,一人暮らしを継続していく意欲を支えることはできない.ADLの状況から捉える意欲は可視的であるため捉えやすいが,高齢者が意欲を言語化することは難しく,また生活の思いに関する意欲は不可視であるため観察で捉えることは難しい.本研究は,意欲の言語化と可視化を目指し自身が回答する尺度の開発に取り組んだ.自身が回答することは,心の内面に目を向ける機会となり,顕在化している思いが言語化され,潜在化している思いが引き出され,思いを自覚することで潜んでいる意欲が明らかになり,エンパワメントを引き出されることが期待される.エンパワメントとは自分の問題を自分で能動的に変えていくこと(天野・植村,2011)であり,エンパワメントが発揮されると一人暮らしを続ける意欲の維持につながる.
本尺度が実践の場で用いられれば意欲低下が適時に捉えられるため,適時に介入されることにより,要支援高齢者が住み慣れた自宅で意欲的に自分らしい生活を続けることに貢献すると期待される.
本研究の目的は,要支援高齢者の一人暮らし生活意欲を測定する尺度を開発し,その信頼性・妥当性を検討することである.
「要支援者」は,介護保険法に基づく要支援者とした(厚生労働省,2006).
「高齢者」は,65歳以上とした.
「一人暮らし」は,単独世帯とした(総務省統計局,2015).
「要支援高齢者の自立」は,支援を受けながら自宅で生活をできることとした.
「一人暮らしの生活意欲」は,「自分の心身の状態を把握し自己の存在を認め,一人暮らしであっても精神的に安定し,自分らしく楽しみを持ち,生き生きとした生活をしていこうとする意志」と定義した.なお,「意志」とは「物事を成し遂げようとする積極的な心の状態(新村,2008)」を意味する.
研究デザインは尺度開発,因子探索型研究であり,対馬(2010)と小塩(2012)の尺度開発の手法を基に信頼性と妥当性の確保を検討する過程を経て開発した.
1. 要支援高齢者の一人暮らし生活意欲測定尺度の原案作成本研究における生活の概念とは,社会福祉学における人々が他者や地域との関係をもつこと(本多,1998),および介護福祉学におけるその人らしい生き方をすること(天野ら,2013)を基に,ADLを遂行することのみではなく,他者や社会との関わりをもち,長年培ってきた自分固有の欲求や目標が実現し続けるための行動において,自分らしく生きることとした.意欲とは,行動心理学における自己認知をもつこと(原岡,2000),教育学における何かに向かって自発的な動機をもつこと(櫻井,2009),高齢者心理学における行動の発動や行動を継続していくことに影響を与える感情や情動のこと(佐藤・権藤,2016),および先行研究から生きがいという心的活動をもつこと(長谷川ら,2001;野村,2005)を基に,自己の存在を認め,欲求や目標の実現や人生を謳歌する気持ちをもつことを自ら内発し,生きがいをもち,精神的に安定しながら前向きに自分らしく生きる能動的意思活動とした.生活意欲とはADLの向上に対する活動意思である(林・久保,2010)と報告がある.本研究における生活意欲とは,生活がADLに限ったことではないため,前述の生活と意欲の概念を統合し,自己の存在を認め,生きがいをもち,自分らしく自分の望む生活を続けようとする意志とした.
要支援高齢者の一人暮らし生活意欲の概念枠組みは,高齢者心理学,意欲や動機づけの概念や理論(櫻井,2009;佐藤・権藤,2016,原岡,2000),発達課題(Havighurst, 1972/2004),先行研究(河野・金川,1999;野村,2005;綾部,2007),研究者の経験的知見,保健師,看護師,社会福祉士,介護福祉士,介護支援専門員の意見を基に構築した.概念枠組みを構成する要因は6つであった.「情緒的要因」は,情緒とは目に見えない感情,思考,意識の働きであり,思考や行動を内から駆り立てるエネルギー源や原動力となり,精神活動の基盤を成すもの(吉田,2008)とし,満足感や幸福感などとした.「身体的要因」は,身体状態は一人暮らしの生活を支える基盤とし,健康管理のための行動などとした.「社会的要因」は,近隣者や親族とのつながりや社会的役割などとした.「動機づけ要因」は,一人暮らしへの思いの自覚や生活の場の選択などとし,「価値的要因」は,自分らしい生活を続けることの展望する思いなどとした.「意欲阻害要因」は意欲を低下させる影響とし,不安感や喪失感,孤独感などとした.各々の要因から120項目の尺度原案を作成した.質問の内容的妥当性の確認として,老年看護学や在宅看護学に精通した教員6名と尺度開発経験のある教員3名,要支援高齢者の支援管理者1名で,構成概念と項目の整合性について検討した.さらに表面的妥当性の検討として,研究協力に同意した対象者6名に,質問内容の不明な項目,意味内容が重複している項目,回答困難な表現の項目がないかを検討するプレテストを実施した.質問内容の不明な項目や意味内容の重複項目を削除し,最終的に77項目となり,これを要支援者高齢者の一人暮らし生活意欲測定尺度(以下,本尺度)の質問項目とした.
2. 調査方法 1) 調査対象施設対象施設は1,036ヵ所とした.選定は,47都道府県のインターネット検索で抽出した約4,500箇所の地域包括支援センターから乱数表を用い,154~385部を回収目標サンプル数(鎌原ら,2007)とし,各県の偏りがないようにした.
2) 研究対象者対象者は,要支援(1~2)認定者で65歳以上の一人暮らしの高齢者であり,選定基準は本研究の趣旨を理解し協力の可否を意思決定できる認知機能が保たれており,敷地内に家族の居住がない人とした.
3) データ収集方法・調査期間データ収集の手順は,調査協力に同意があった際に配布数を確認し,調査票と返信用封筒を郵送した.地域包括支援センターの介護支援専門員から研究依頼書と自己記入式無記名調査票を対象者候補者に配布してもらい,対象者の研究参加は調査票の返信をもって同意とした.再テスト法を実施するため,1名につき2通の調査票を配布し,1通は2週間以内を目途に,2通目は先に投函した時より2週間後に投函してもらった.
調査期間は,2017年1月16日から同年5月20日であった.
4) 調査内容回答者の属性は,年齢,性別,一人暮らし年数,一人暮らしになったきっかけ,一人暮らしを継続している理由,主観的健康感とした.主観的健康感は,「自分はとても健康である」~「自分は全く健康でない」の5件法を用いた.
質問項目は,生活意欲を問う質問77項目を無作為な順序で並べ,回答は,「そう思う」5点「少し(時々)そう思う」4点「どちらともいえない」3点「あまりそう思わない」2点「そう思わない」1点の5段階のリッカート法で行った.なお,「意欲阻害要因」は逆転項目とした.
基準関連妥当性の確認は,「高齢者のエンパワメント尺度」(天野・植村,2011)の35項目を用いた.本尺度との理論的な関連が予測されるエンパワメントの概念は,一人暮らし高齢者の生活意欲と同じ視点の傾向であると推測し,これらの点数が高いと生活意欲が高くなり,相関があると仮定した.この尺度は,信頼性・妥当性が検証されており,尺度使用に際し開発者の承諾を得た.
質問票は,視力の低下や理解力の低下など加齢に伴う問題が予測されたため,見やすいこと,理解しやすいこと,回答しやすいことなどが求められる.そのため質問の最後の項目にて,調査票の回答の難易度を5段階評価で確認した.
3. 分析方法統計ソフトはIBM SPSS Base System 23.0J,AMOS 23.0Jを用いた.
1) 項目分析項目分析は,尖度と歪度による正規性の確認,項目間相関分析,Item-Total Correlation Analysis(I-T分析),Good-Poor Analysis(G-P分析)を行った.項目決定基準は,尖度と歪度が絶対値2未満(藤田,2008)を正規性の基準とし,項目間相関.700以下,共通性.300以上,I-T相関.300以上,G-P分析の上位群と下位群に有意差があるものとした.
2) 妥当性の検討 (1) 構成概念妥当性構成概念妥当性の検討として,項目分析で整理した項目を最尤法,プロマックス回転による探索的因子分析を行った.因子数の決定は,スクリープロットで因子数を推定し,共通性,パターン行列,全分散を説明する割合を確認し,固有値1.0以上,因子負荷量.300以上を項目決定基準とした.下位尺度の因子を解釈して因子名をつけ,確認的因子分析を行い,モデル適合度を算出した.
(2) 基準関連妥当性基準関連妥当性の検討として,構成概念妥当性を確認した本尺度と「高齢者のエンパワメント尺度」(天野・植村,2011)の得点間についてピアソンの相関係数を求めた.
3) 信頼性の検討内的整合性の確認は,尺度全体と各因子のクロンバックα係数を算出した.安定性と再現性を確認は,再テスト法を実施しピアソン相関係数を求めた.
4) 回答者の属性における本尺度の分布の比較属性における比較は,一元配置分散分析を行い,有意差が認められた場合はTukey HSD(Tukey honestly significant difference test)で多重比較した.
4. 倫理的配慮研究協力は自由意思に基づくものであり,拒否した場合でも不利益を被らないこと,結果の公表において個人情報,プライバシーの保護が遵守されることを文書で説明した.同意は対象施設には同意書の提出で,対象者には調査票の返送をもって得たものと判断した.以上について金沢大学医学倫理審査委員会(審査番号699-1,2)および新田塚医療福祉センター倫理委員会(新倫28-65)の承認を得て実施した.
同意が得られた施設は53施設,配布数は340部であり,回収数は221部(回収率:65.0%)であった.分析対象数は,記入漏れのあった3部を除外した218部(有効回答率:64.1%)とした.
1. 回答者の属性(表1)後期高齢者が89.0%占めており,女性が84.7%,一人暮らし年数は10年以上が58.7%であった.一人暮らしになったきっかけは死別が76.6%と最も多く,一人暮らしを継続している理由は「家族が亡くなったから」39.4%,「今の家から離れたくないから」10.1%であった.主観的健康感は,「自分はあまり健康でない」と回答した人が39.4%と最も多かった.
項目 | 人数(%) | |
---|---|---|
年齢 | ||
65~69歳 | 4 | (1.8) |
70~74歳 | 20 | (9.2) |
75~79歳 | 29 | (13.3) |
80~84歳 | 66 | (30.3) |
85~89歳 | 70 | (32.1) |
90歳以上 | 29 | (13.3) |
性別 | ||
男性 | 35 | (16.1) |
女性 | 183 | (84.7) |
一人暮らし年数 | ||
3年未満 | 22 | (10.1) |
3~5年未満 | 26 | (11.9) |
5~10年未満 | 42 | (19.3) |
10年以上 | 128 | (58.7) |
一人暮らしになったきっかけ | ||
若い時から | 11 | (5.0) |
別居 | 21 | (9.6) |
離別 | 9 | (4.1) |
死別 | 167 | (76.6) |
その他 | 10 | (4.6) |
一人暮らしを継続している第一の理由 | ||
家族が亡くなったから | 86 | (39.4) |
今の家から離れたくないから | 22 | (10.1) |
誰もいないから | 22 | (10.1) |
同居できないから | 20 | (9.2) |
人に迷惑をかけたくないから | 18 | (8.3) |
この地域が好きだから | 7 | (3.2) |
一人が好きだから | 5 | (2.3) |
人の世話になりたくない | 3 | (1.4) |
家を住み替えられないから | 3 | (1.4) |
施設に入れないから | 0 | (0.0) |
その他 | 32 | (14.7) |
主観的健康感 | ||
自分はとても健康である | 4 | (1.8) |
自分はまあまあ健康である | 65 | (29.8) |
自分の健康はふつうである | 51 | (23.1) |
自分はあまり健康でない | 86 | (39.4) |
自分は全く健康でない | 9 | (4.1) |
不明 | 3 | (1.4) |
回答者の居住地域(総務省統計局:地域区分) | ||
北海道 | 9 | (4.1) |
東北 | 20 | (9.2) |
南関東 | 16 | (7.3) |
北関東・甲信 | 30 | (13.8) |
北陸 | 18 | (8.3) |
東海 | 6 | (2.8) |
近畿 | 36 | (16.5) |
中国 | 14 | (6.4) |
四国 | 32 | (14.6) |
九州 | 37 | (17.0) |
記述統計,度数分布
正規性は,各項目の得点の尖度と歪度で確認し,基準の絶対値2未満以外の25項目を削除した.
2) 項目間相関各項目の項目間相関は,項目決定基準の.700以下であった.
3) I-T分析各項目は,項目決定基準の.300以上を満たす有意な相関を示した.
4) G-P分析合計得点から全体を4群に分け,各項目の上位群(51名)と下位群(58名)の平均得点をt検定により比較したところ,すべての項目はP < .01を示した.
3. 構成概念妥当性の検討 1) 探索的因子分析と因子間相関(表2)正規性の確認で偏りの大きかった25項目を削除後,抽出法は尤度指標を最大に算出できるため最尤法,回転法は因子間の相関を仮定したためプロマックス回転を選択し,探索的因子分析を行った.スクリープロットを確認し,因子数は4とし再度因子分析を実施し,共通性の低い「棲家を変えることは不安である」「身近な人の死を受け入れることができる」など9項目を削除した.尺度の精度を高めるため尺度作成経験者と共に,項目決定基準やクロンバックα係数の変化を繰り返し確認し項目の精選を行った.質問項目の項目数・質問内容の検討を行い,最終的には,全分散を説明する割合49.376%を示す4因子14項目を本尺度の構成因子として採用した.因子間相関は.351~.568であった.
項目番号 | 〈因子名〉クロンバックα係数 項目内容 |
第1因子 | 第2因子 | 第3因子 | 第4因子 | 共通性 |
---|---|---|---|---|---|---|
第1因子〈人生を楽しめる力〉α = .781 | ||||||
30 | 趣味を楽しんでいる | 0.771 | 0.005 | –0.008 | –0.054 | 0.557 |
47 | 何をしたいか目標をもっている | 0.652 | –0.014 | 0.121 | –0.036 | 0.460 |
21 | 今の生活を楽しんでいる | 0.594 | 0.024 | 0.042 | 0.223 | 0.569 |
34 | 心から楽しいと感じる | 0.473 | 0.122 | –0.020 | 0.261 | 0.484 |
第2因子〈精神的適応力〉α = .650 | ||||||
35※ | 毎日の生活に疲れを感じている | 0.010 | 0.759 | –0.176 | –0.043 | 0.426 |
23※ | 自分自身に自信がない | 0.156 | 0.712 | 0.035 | –0.199 | 0.453 |
28※ | 今の生活に不満がある | 0.044 | 0.453 | 0.003 | 0.182 | 0.368 |
第3因子〈生活の活力〉α = .726 | ||||||
45※ | 毎日をなんとなく無駄に過ごしている | 0.140 | –0.099 | 0.828 | –0.059 | 0.649 |
51※ | 時間が無駄にすぎていくという感じがする | 0.003 | 0.027 | 0.735 | –0.128 | 0.490 |
60※ | 毎日することがない | 0.015 | –0.059 | 0.542 | 0.091 | 0.313 |
76※ | 一人暮らしに限界を感じている | –0.100 | 0.255 | 0.366 | 0.105 | 0.346 |
第4因子〈一人暮らしを受け入れ味わう力〉α = .709 | ||||||
38 | 幸せだと感じる | 0.299 | –0.084 | –0.140 | 0.812 | 0.780 |
37※ | 今の生活はむなしく感じる | –0.054 | 0.249 | 0.159 | 0.446 | 0.638 |
70※ | 孤独感を感じる | –0.214 | 0.285 | 0.186 | 0.331 | 0.381 |
因子間相関 第1因子 | 1.000 | |||||
第2因子 | 0.355 | 1.000 | ||||
第3因子 | 0.351 | 0.405 | 1.000 | |||
第4因子 | 0.463 | 0.568 | 0.479 | 1.000 |
最尤法,プロマックス回転,全分散を説明する割合 49.376%,※は逆転項目
意欲尺度全体のクロンバックα係数.850
※は逆転項目,「 」は質問を示す.第1因子は,「趣味を楽しんでいる」「今の生活を楽しんでいる」「心から楽しいと感じる」「何をしたいか目標をもっている」の4項目で構成されていた.これらは,未来を考え楽しむことから構成されていることから,〈人生を楽しめる力〉と命名した.第2因子は,「毎日の生活に疲れを感じている※」「自分自身に自信がない※」「今の生活に不満がある※」の精神的不適応な状態を表す3項目で構成されていた.これらには自己を変えて状態に適応したいという意欲が潜んでいると考え〈精神的適応力〉と命名した.第3因子では,「毎日をなんとなく無駄に過ごしている※」「時間が無駄にすぎていくという感じがする※」「毎日することがない※」「一人暮らしに限界を感じる※」の気力の低下の状態を表す4項目で構成されていた.これらには生き生きした生活を望む意欲が潜んでいると考え〈生活の活力〉と命名した.第4因子は,「幸せだと感じる」「今の生活はむなしく感じる※」「孤独感を感じる※」と自分のあり方の評価,空虚感の3項目で構成されていた.これらには自分の状態を受け入れて人生を味わうことで一人暮らしの意欲となる享受力と関連があると考え,〈一人暮らしを受け入れ味わう力〉と命名した.仮定した概念枠組みに抽出された4因子の構成を表し,概念図(図1)で示した.中央の4つの丸は情緒的・阻害要因,つまり生活意欲を表した.生活意欲に影響する要因の動機づけ要因と価値的要因は,生活意欲と相互作用があると仮定し,双方向矢印で表した.四角の枠は生活意欲の基盤である要因として身体的要因と社会的要因を他の要因を囲むように表した.本研究で明らかになったものは実線,それ以外を点線で示した.
要支援高齢者の一人暮らし生活意欲の要因の概念枠組み
探索的因子分析で採択された14項目の適合度指標は,χ2 = 169.907,df = 71,P = .000,GFI = .901,AGFI = .853,CFI = .894,RMSEA = .080,AIC = 237.907であった.
「要支援高齢者の一人暮らし生活意欲測定尺度」の確認的因子分析の結果
高齢者エンパワメント尺度(天野・植村,2011)と本尺度14項目の尺度全体及び4つの下位尺度において,P < .01水準で有意な相関がみられた.
要支援高齢者の一人暮らし生活意欲測定尺度 | |||||
---|---|---|---|---|---|
人生を楽しめる力 | 精神的適応力 | 生活の活力 | 一人暮らしを受け入れ味わう力 | 尺度全体 | |
高齢者エンパワメント尺度 | .403** | .531** | .540** | .761** | .726** |
ピアソン積率相関係数 ** P < .01 1)天野・植村(2011)
本尺度のクロンバックα係数は尺度全体.850,下位尺度.650~.781であった.
再テスト法の回収数は169部(回収率77.5%)であった.再検査信頼係数は,〈人生を楽しめる力〉.717,〈精神的適応力〉.867,〈生活の活力〉.901,〈一人暮らしを受け入れ味わう力〉.901,〈全体〉.762であった.
6. 回答者の属性における本尺度の分布の比較(表4)回答者の属性における本尺度の一元配置分散分析による分布の比較では,主観的健康感のみに有意差がみられ,多重比較では,どの因子においても回答間に有意差がみられた.
①自分はとても健康である | ②自分はまあまあ健康である | ③自分の健康はふつうである | ④自分はあまり健康でない | ⑤自分は全く健康でない | 多重比較による検定1) | |
---|---|---|---|---|---|---|
〈人生を楽しめる力〉 | ||||||
F値 4.31 有意確率.002 |
17.25 | 15.92 | 15.35 | 13.70 | 12.00 | ②–④* |
〈精神的適応力〉 | ||||||
F値 12.75 有意確率.000 |
14.50 | 10.06 | 10.35 | 8.01 | 6.00 | ①–②*④***⑤*** ②–④***⑤*** ③–④***⑤*** |
〈生活の活力〉 | ||||||
F値 3.06 有意確率.018 |
17.25 | 15.05 | 13.14 | 13.13 | 13.78 | ②–④* |
〈一人暮らしを受け入れ味わう力〉 | ||||||
F値 6.54 有意確率.000 |
14.00 | 11.51 | 10.37 | 9.86 | 6.67 | ①–⑤* ②–④*⑤*** ③–⑤* ④–⑤* |
〈尺度全体〉 | ||||||
F値 8.75 有意確率.000 |
63.00 | 52.54 | 49.22 | 44.70 | 38.44 | ①–⑤* ②–④***⑤** ③–⑤* |
One-way ANOVA得点は平均値を示す
1)多重比較 Tukey honestly significant difference
* P < 0.05,** P < 0.01,*** P < 0.001
調査票の難易度は,「そう思う」51名(23.4%),「少しそう思う」41名(18.8%),「どちらともいえない」22名(10.1%),「あまりそう思わない」37名(17.0%),「そう思わない」68名(30.7%)であった.
I-T分析の結果から,尺度全体からみて関連性の低い項目はないことから,本尺度の項目は独自性を持ちながらもひとつの内容を測定していることが確認できた.G-P分析では項目の得点の差により,意欲の高低を評価する弁別力を測定できる尺度であることが確認できた.確認的因子分析により仮定した構成概念であるかを検証するためにモデル適合度を確認したところ,本尺度のRMSEAは.080であった.RMSEAは.050以下がよく,.100以上は当てはまりが悪い(小塩,2012)と判断されていることから,本尺度は,ほぼ許容できると考えられた.AGFIとCFIは.900以上をよいと評価(小塩,2012)されており,本結果は.853~.894と概ね近似であるため,総合的に本尺度のモデルは統計的に許容できる範囲であると判断した.
一人暮らし生活意欲として仮定した概念枠組みと本尺度の因子との関係をみると,6つの要因のうち「情緒的要因」と「意欲阻害要因」が抽出されていた.つまり,本尺度の測る意欲とは,意欲を支える基盤や影響力となる要因ではなく,思考や行動を内から駆り立てるエネルギー源や原動力のことであり,精神活動の基盤を成す意欲と,意欲低下を与える影響で構成されていることが明らかになった.不満や孤独感は意欲の低下につながるが,このことはネガティブ状態と評価をするのではなく,背後にある満足したい思い,例えば孤独を感じたくない思いや願いを秘めた意欲であると捉えることが望ましいと考えられる.
本尺度を構成する因子の〈人生を楽しめる力〉〈生活の活力〉〈精神的適応力〉〈一人暮らしを受け入れ味わう力〉は,本研究の一人暮らし生活意欲の定義の「自分の心身の状態を把握し自己の存在を認め,一人暮らしであっても精神的に安定し,自分らしく楽しみを持ち,生き生きとした生活をしていこうとする意志」とほぼ合致する内容であった.また,因子間相関は,各因子ともに中等度の関係性がみられたため,4つの因子は同じ概念で構成されていると確認できた.
2) 基準関連妥当性高齢者エンパワメント尺度(天野・植村,2011)は,「人々や組織やコミュニティが自分たち自身の生活全体をコントロールできるように力を得るプロセス」という概念であり,「他者との相互作用」「安定した居場所」「自己の可能性の意識化」「主体的行動」の4つの下位概念をもつ.高齢者エンパワメント尺度と本尺度の下位尺度間には,中等度の正の相関が認められた.本尺度は,高齢者エンパワメントの視点を含み,関連があると判断し,妥当性が確認できた.
3) 信頼性本尺度の全体と下位尺度のα係数は.700以上を示し,信頼性が担保された基準(川本ら,2016)を満たしているため内的整合性は確認できたと判断した.さらに再検査信頼性係数は,基準の.700以上を示しており,本尺度の再現性,安定性は担保されたと考えられた.
2. 回答者の属性における本尺度の分布の比較と回答の難易度本尺度は,回答者属性別の分散分析の結果で主観的健康感以外に有意な差がみられなかったことから,性別や年齢に左右されない尺度であるといえる.主観的健康感において「とても健康である」「まあまあ健康である」「ふつうである」「あまり健康でない」「全く健康でない」との間にどの因子も有意な差がみられた.つまり,生活意欲が高いと主観的健康感が高いことが示唆され,三徳ら(2006)の報告と符合した.本研究の回答者は,要支援認定を受けており,何らかの疾病や障害がある高齢者であった.しかし,生活意欲が高い高齢者は自身を健康であると捉えていた.その理由として,主観的健康感は,単に身体的健康を示すことではなく(村田・津田,2008),QOLや生活満足感,主観的ストレス量など精神的な要因の影響がある(五十嵐・飯島,2006)ためである.つまり,疾病や障害を持っていても,楽しみながら自分らしく満足できる生活を送ることで生活意欲が高まり主観的健康感は高くなることが考えられた.
本尺度は,高齢者自身が回答しやすい簡便な調査票を目指した.調査票は,文字の大きさやレイアウト,文章の長さも考慮したため,回答の難易度の回答は,「難しいとは思わない」が最頻値であった.しかし,「難しい」と回答した人は2割いた.これは,項目数の多さと逆転項目をランダムに入れたことが理由として考えられた.対策は項目の並べ方を考慮することであり,質問項目が14項目と減ったため,難しいという印象は今後解消されると期待される.
3. 看護実践への示唆尺度とは,直接観察することが困難な側面を測るものさしとなる.本尺度は,「個々の思考や行動を内から駆り立てるエネルギー源」である内面に潜む意欲を可視化しそれを得点化することにより簡便に意欲の程度を測定できる.意欲とは,自分自身でも気がつかない潜在的なものがある.質問項目に回答をすることで,自分自身を振り返り,現在の状態を評価するきっかけとなる.また,高齢者本人と一人暮らし高齢者の支援者とが共有することにより,高齢者が望む必要な意欲に関する支援を捉える手がかりを得ることとなる.さらに,一人暮らし高齢者の支援者は,意欲の低下の原因を探り,高齢者自身のニーズを引き出し自分らしい生活の支援に繋がり,生活意欲の程度の推移を捉えることにより,一人暮らしが困難にならないために早期に介入内容の検討が可能となる.
つまり,本尺度は高齢者自身と支援者双方が使用できる要支援高齢者の一人暮らしの支援の一助となる.
4. 研究の限界と今後の課題今回,日本の全地域を対象に調査を行ったが回答者がなかった地域があったことが研究の限界であり,偏りがある可能性は否めないため一般化は慎重に行う必要がある.今後の課題は,逆転項目を多く含む尺度であるため,弁別的妥当性を検証する尺度との関係性を検討し妥当性を高めることである.また,要支援者だけでなく,要介護者でも使用できるかを検証し,幅広く使用できる尺度であるかを確認することである.さらに,尺度の結果から一人暮らし高齢者の意欲の低下を抽出することで支援の手がかりとし,意欲の向上支援につなげていく実践事例を検証し,尺度の有用性を示すことである.
1.因子分析により,4因子14項目の因子解が抽出された.
2.第1因子は〈人生を楽しめる力〉,第2因子は〈精神的適応力〉,第3因子は〈生活の活力〉,第4因子は〈一人暮らしを受け入れ味わう力〉と命名した.
3.本尺度の信頼性・妥当性は統計的に許容範囲であることが確認できた.
謝辞:本研究に快くご承諾いただきました地域包括支援センターの管理者様,スタッフの皆様,調査に御協力頂きました高齢者の皆様に心からお礼申し上げます.本研究は,日本学術振興会科学研究費補助金(基盤研究(C)課題番号15K11784)の助成を受けて行った研究である.
利益相反:本研究における利益相反は存在しない.
著者資格:SNは本研究の発想,研究計画の作成,その計画に基づいた研究の実施,得られた研究結果の解釈,研究論文の執筆を行った.MKは研究の着想および研究計画の作成,原稿への示唆および研究プロセス全体への助言を行った.全ての著者は最終原稿を読み,承諾した.
付記:本論文の内容の一部は,第37回日本看護科学学会学術集会にて発表した.