目的:12時間二交代制勤務の看護師の日勤,長日勤,夜勤における睡眠,眠気と疲労を明らかにする.
方法:対象者は,22歳の女性看護師7人とした.交代制勤務時の睡眠状態,眠気,疲労感を「関西学院式眠気尺度」,「自覚症状しらべ」,PVT,アクティブトレーサー,アクチグラフを用いて測定した.
結果:身体活動量は,長日勤が日勤や夜勤よりも多く,身体的負担も大きかった.日勤中と夜勤中には,疲労感と眠気は変化しなかった.長日勤では,勤務の終了にかけて直線的に疲労感と眠気は増加し,覚醒水準は低下した.一方,夜勤の開始時には眠気や疲労感は改善していたが,夜勤終了時には疲労のねむけ感やぼやけ感が増加した.さらに,睡眠時間は夜勤前が最も短く,交代制勤務では睡眠覚醒リズムの変化が一時的にみられたものの翌日には改善していた.
結論:12時間交代制勤務では,長日勤が他の勤務より活動量も多く,疲労感や眠気は増加し,覚醒水準は低下した.睡眠時間は夜勤前が日勤後よりも短時間であった.
Purpose: The present study aimed to elucidate sleep states, sleepiness, and fatigue among nurses working 12-hour double, day, full day, and night shifts using subjective and objective indicators.
Methods: Sleep states, sleepiness, and fatigue during day, full day, and night shifts were measured in seven 22-year-old female nurses using the Kwansei Gakuin Sleepiness Scale (KSS), the Subjective Fatigue Questionnaire (Jikaku Sho Shirabe), the Psychomotor Vigilance Task (PVT), and an Active Tracer (GMS Inc., Tokyo, Japan). The nurses also wore an ActiGraph for four days at the end of their shifts for a total of seven days.
Results: A full day shift required more physical activity than day or night shifts. Fatigue and sleepiness did not change during day or night shifts. Fatigue and sleepiness increased during the full day shift and arousal linearly decreased at the end of the shift. Meanwhile, nurses on night shift had less sleepiness and fatigue at the start of the shift, but drowsiness, eyestrain, and fatigue were increased at the end of the shift. The nurses slept for shorter periods before a night shift than after a day shift. Furthermore, sleep-wake rhythms temporarily changed after night shifts but recovered on the following day.
Conclusions: The nurses were more active during 12-hour double and full day shifts than any other shifts, but fatigue was increased and arousal was decreased. The nurses slept for shorter periods before night shifts than after day shifts.
夜勤・交代制勤務は,従事する労働者の生活リズムに変調をもたらし,心身に影響を及ぼすとされている(高橋,2008).交代制勤務者の中でも看護師は,患者サービスを24時間提供する職務の性質上,交代制勤務が不可欠であり,現在,病院や病棟単位で様々な交代制勤務が採用されている.そもそも,看護師の勤務形態は,1992年の診療報酬改定前は三交代制が主流であったが,基準看護承認要件に「二交代制も差し支えない」の一項が加えられてから,二交代制の導入率が急速に上昇した.そのため,夜勤時間が8時間から12時間,あるいは16時間へと長時間化している(日本看護協会,2014).長時間勤務の影響としては,短期的には昼夜逆転の状態がもたらす睡眠時間の減少と疲労の増大(Akerstedt, 1988;小木,1994),作業効率の低下(Wesensten et al., 2004)が知られているが,夜勤時の負担に関する報告が多い(菊池・石井,2015).さらに,長期間,交代制勤務を続けることで生物時計の時刻合わせ(位相調節)が困難となり,概日リズム睡眠障害を引き起こす可能性も指摘されている(大川,2010).概日リズム睡眠障害は,疲労状態の持ち越しによる過労や睡眠障害の常態化によって起こるワーク・ライフ・バランスの崩れなど,複合的に影響を及ぼす(酒井ら,2011).12時間夜勤は,16時間夜勤よりも負担感は少ないと報告されている(折山ら,2014)ものの,夜勤の負担感が減る一方で,日勤,特に12時間の日勤(長日勤)は,労働時間の長時間化により疲労が蓄積する可能性も考えられる(Ishii et al., 2004).その為,疲労回復には夜勤によって生じた睡眠覚醒リズムのズレを,夜勤後に速やかに改善することが重要とされている(Sack et al., 2007).日本看護協会は,夜勤後,おおむね24時間以上の休息を推奨し(日本看護協会,2013),Chungらは,連続した二日間の休日が必要としている(Chung et al., 2012).
しかし,主観的指標と客観的指標の双方を同時に測定・評価することにより,12時間に交代制勤務の疲労や睡眠の状態と課題を明らかにした知見は少ない.その為,疲労低減策もエビデンスに基づいて十分整備されていない状況にある.
そこで本研究では,12時間の二交代制勤務看護師の日勤,長日勤,夜勤の疲労や眠気を,主観的・客観的指標によって経時的に分析し,その特徴を明らかにすることを目的とする.
本研究では,看護師の多くは女性である(厚生労働省,2017a)ことから,今後の看護師の睡眠に関する研究の基礎となる調査とすべく,対象を女性に限定した.さらに,心身機能,婚姻状況,看護師としての経験と職位に大きな差異がなく,比較的類似した対象とみなしやすいことを考え,新人期の看護師のみを対象とし,基礎データと今後の示唆を得ることとした.
対象者は,12時間夜勤を伴う二交代制勤務を採用している病床数500床以上の総合病院2施設に勤務する看護師7人とした.7人の内訳は,A病院の血液内科病棟の3人とB病院の小児科病棟の4人であった.外科系・内科系混合病棟に勤務する看護師と比較して外科系病棟で勤務する看護師は疲労自覚症状が強いことから(菊池・石井,2015),本研究では,外科系を除く小児科病棟または内科系の病棟で勤務する看護師を対象とした.さらに,20歳~24歳の看護師は疲労が強く,特に看護師経験年数1年未満の看護師の疲労が強い(市江ら,2008)ことから,看護師経験年数が約1年で,睡眠障害のない22歳の健康な女性看護師を対象とした.なお,対象者の生活スタイルは,6人が1人暮らし,1人は両親と同居であった.
2. 調査対象病院の勤務形態A病院とB病院の勤務形態は,いずれも日勤は08:30~17:15,長時間日勤(以後,長日勤)は08:30~21:15,夜勤は20:30~09:15で,勤務シフトは,2病院ともに「日勤→長日勤→夜勤→休日」の時計回りの正循環型を採用していた.両病棟ともに,スタッフルームの明るさは,記録や処置に支障のない程度の明るさ約500~700 lxに維持されていた.病棟の患者数は約50人,日勤の看護師は7人~8人,長日勤,夜勤はそれぞれ4人体制であった.本研究では,夜勤後の睡眠覚醒リズムを確認するため,全ての対象者が「日勤→長日勤→夜勤→休日→休日→休日」の勤務形態であることを確認し,測定した.
3. 調査項目本研究の目的は,各勤務時の疲労,眠気の特徴を主観的,客観的に明らかにすることである.疲労に関連する因子と測定用具については図1に示した.

疲労と眠気に関する概念枠組みと測定項目
心拍変動(Heart Rate Variability: HRV)と身体活動量を連続的に測定するために,アクティブトレーサー(AC-301,GMS社)を使用した.胸部に3か所の電極を装着し,アクティブトレーサーをベルトにより臍部の高さ,腹部中央に装着して測定した.勤務中に心電図(胸部第II誘導)を記録し,R-R間隔の時系列データより解析プログラムMemCalc/CHIRAM(諏訪トラスト社)を用いて周波数解析を行った.周波数は0.04~0.40 Hzを対象とし,高周波成分(High Frequency component;0.15~0.4 Hz,以下,HF),低周波成分(Low Frequency component;0.04~0.15 Hz,以下,LF),およびLFとHFの成分比(LF/HF)をそれぞれ15分ごとに抽出し,4回の平均を1時間の値とした.HFとLF/HFは,それぞれ副交感神経活動と交感神経活動の指標とされ(林,1999),LF/HFは疲労の客観的評価指標として用いられている(山口ら,2009).身体活動量の評価は,加速度を0.06 Gに設定し,設定以上の加速度が0.1秒連続した場合を1カウントとして,1分毎に本体内のメモリーに取り込まれるように設定し,時間毎の総カウント数を身体活動量として解析した.
2) 睡眠モーションロガー時計型アクチグラフ(A.M.I社)および睡眠覚醒判定ソフト(AW2,A.M.I社)によって,夜勤中の仮眠および夜勤前後の睡眠を判定した.アクチグラフにてデータ収集後,睡眠覚醒判定ソフト(AW2,米国A.M.I社製)を用いて,睡眠時間,睡眠効率,睡眠潜時を解析した.睡眠指標の定義は,(1)睡眠時間:睡眠と判定された時間,(2)睡眠効率:アクチグラフでAW2式,及びCole式で1未満の値を示した割合が全体の就床に占める割合,(3)睡眠潜時:静止期時間帯の始まりから入眠までの時間,ただし,睡眠判定が連続して20分間以上続くことを条件とした(Webster et al., 1982).
なお,睡眠の判定はアクチグラフで行うが,睡眠日誌を併用することでデータの精度はより高くなる(野田・尾崎,2010)ため,研究対象者には,すべての睡眠について記入するよう依頼し,アクチグラフと睡眠日誌が一致した場合を睡眠とした.
3) 眠気関西学院式眠気尺度(Kwansei-gakuin Sleepiness Scale: KSS)(石原ら,1981)は,スタンフォード眠気尺度(Stanford Sleepiness Scale: SSS)をもとに作成された質問紙であり,睡眠の状態に関する22項目の質問によって構成される.各項目の得点範囲は0~7点,合計点の分布は0~83.3で,値が高いほど主観的眠気が強いことを示す.
4) 疲労疲労状況を確認するために,主観的指標,客観的指標それぞれ新版自覚症状しらべ(以下,自覚症状しらべ)とPVTを使用した.
(1) 自覚症状しらべ(日本産業衛生学会産業疲労研究会,2002)この尺度は,改良が重ねられ,構成概念妥当性を確認された尺度である.質問紙の質問項目の合計は25項目5群に分類される.疲労症状の訴えをI群・ねむけ感,II群・不安定感,III群・不快感,IV群・だるさ感,V群・ぼやけ感の5群に分類して疲労感を多角的に把握することができる.各群の点数は5~25点で,点数が多いほど主観的疲労が強いことを示す.
(2) Psychomotor Vigilance Task(PVT)認知機能の評価には,PVTを使用し,5分間測定した.米国A.M.I社製タブレット型PVT(アンドロイド端末バージョン)に掲示される視覚刺激に対して,できる限り早く反応し,画面に出てきた的を目指してタッチする課題である.反応時間は眠くなる判断に時間がかかるため反応時間は長くなり,反応時間が0.1秒以下と0.5秒以上は誤反応と判断されるため(堀,2011),0.1秒以下と0.5秒以上を除外した.平均反応時間をその時点の覚醒状態と判断した.さらに,反応速度が0.5秒を超える試行をラプスとして,その回数も測定指標として用いた.
4. データ収集手順測定スケジュールを図2に示した.睡眠は,09:00~09:00を1日とし,最も長い睡眠を主睡眠,それ以外の睡眠を副睡眠とした.つまり,日勤後の場合,日勤の翌日の09:00までを日勤後として睡眠を測定し,同様に,長日勤後も21:15の勤務後から翌日の09:00までの睡眠を測定した.続けて,09:00~20:30を夜勤前とし,夜勤後1日目は,夜勤終了時点の09:15~翌日の09:00までの睡眠とした.勤務開始時と終了時にKSSと自覚症状しらべ,PVT検査を実施した.アクティブトレーサーは,勤務開始時から終了時まで測定した.また,アクチグラフは日勤の開始時に非利き手に装着し,入浴時以外の7日間装着し,睡眠日誌とともに,睡眠状態を確認した.

測定スケジュール
データ収集期間は,A病院が2015年1月から2月,B病院は2015年11月から12月までとした.
5. 倫理的配慮研究協力施設の看護部長と研究対象者に,口頭ならびに文書で,研究協力を依頼した.研究協力依頼文書には,研究の意図・方法・時期・守秘義務など倫理的配慮につい記載し,研究協力の了解を得た.
本研究で得られたデータは,対象者の通し番号を付記し,鍵がかかる保管庫で管理した.なお,倫理的配慮については,県立広島大学研究倫理委員会(保健福祉)にて審査され,承認を得た(承認番号 第14MH023号).
6. データ解析および統計的手法睡眠覚醒リズムの変化を明らかにするために,日勤後の主睡眠をベースラインとし,7日間の主睡眠の開始時刻,睡眠時間を比較した.同様に,主睡眠と副睡眠を合わせて総睡眠時間として分析した.いずれも勤務を要因とする反復測定の一元配置分散分析によって解析し,有意な差が認められた場合は,下位検定として日勤後との比較をBonferroni検定にて行った.眠気や疲労は,日勤が09:00~17:00,長日勤は09:00~21:00,夜勤は21:00~09:00から分析した.評価指標のKSS,自覚症状しらべ,PVTは,勤務開始時と勤務終了時の2時点を抽出し,時間を要因とする反復測定の一元配置分散分析を用いた.有意な差が認められた場合には,下位検定としてBonferroni検定を行った.また,自律神経活動は線型混合モデルによる反復測定の二元配置分散分析(勤務要因×時間要因)を用いた.主効果が認められた場合は,下位検定としてBonferroni検定を行った.データは,平均値(標準偏差)として表記した.なお,統計解析はIBM SPSS 22.0J for Windowsを使用し,両側検定に基づくp値を示し,有意水準は危険率5%未満(p < .05)とし,10%未満(p < .10)を傾向ありと判断した.
日勤後から夜勤後4日までの7日間を比較した結果,主睡眠の開始時刻および睡眠時間に有意な差を認めた(表1).主睡眠の開始時刻は日勤後と比べて夜勤前に有意差を認め,夜勤前は日勤後より早い時刻に睡眠をとっていた(p < .001).また,主睡眠の睡眠時間は日勤後と比べて夜勤前は短時間の傾向にあった(p < .10).副睡眠については,夜勤中の仮眠は7人中2人が1時間(03:00~04:00)とっていた.さらに,夜勤後1日目の副睡眠については7人中4人が12:40~20:30にとっていた.主睡眠と副睡眠を合わせた総睡眠時間については,有意な差を認めたものの,日勤後とは有意な差を認めなかった.
| 日勤後 | 長日勤後 | 夜勤前 | 夜勤後1日目 | 夜勤後2日目 | 夜勤後3日目 | 夜勤後4日目 | F3,30 | p | |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 主睡眠の開始時刻 | 23:51(01:35) | 00:24(01:35) | 16:41**(01:54) | 01:50(02:59) | 00:37(02:22) | 00:21(02:40) | 23:42(00:52) | 30.898 | <.001 |
| 主睡眠の総時間(分) | 411.9(92.6) | 562.7(156.3) | 187.8#(118.6) | 441.5(133.4) | 465.7(202.0) | 410.2(178.2) | 506.2(86.1) | 5.073 | .001 |
| 睡眠効率(%) | 97.3(2.5) | 96.6(2.4) | 98.9(1.3) | 92.1(12.4) | 96.4(2.8) | 93.2(3.5) | 94.8(2.7) | 1.286 | .290 |
| 睡眠潜時(分) | 4.1(3.4) | 5.3(3.7) | 8.4(6.9) | 3.0(2.9) | 9.7(14.5) | 5.8(8.0) | 9.7(15.9) | .571 | .750 |
| 副睡眠(分) | 0 | 0 | 0 | 102.2**(119.6) | 0 | 0 | 0 | 5.146 | .001 |
| 総睡眠時間(分) | 411.9(92.6) | 502.7(81.2) | 260.5(137.4) | 441.2(133.1) | 392.2(257.8) | 502.0(63.7) | 478.1(87.5) | 2.869 | .022 |
09:00~09:00を1日とし,最も長い睡眠を主睡眠,それ以外の睡眠を副睡眠として平均(標準偏差)で示した.解析は,日にちを要因とする反復測定の一元配置分散分析を行い,下位検定は日勤後との比較をBonferroni検定にて行った.**p < .001,#p < .10
各勤務の活動量の総カウント数は,日勤が平均3,809.5(596.1)回,長日勤が平均5,402.2(963.4)回,夜勤が平均4,241.9(777.6)回であった.勤務で有意な差を認め(F2,12 = 9.477, p = .004),下位検定の結果,長日勤は日勤(p = .004)や夜勤(p = .029)と比べて有意に増加した.
2) HF副交感神経活動の指標とされるHFは,日勤,長日勤,夜勤で交互作用を認めなかった(F18,181 = 1.066, p = .390)ものの,勤務に主効果を認め(F2,181 = 4.603, p = .011),夜勤は日勤と比べて有意に増加していた(p = .001).
3) LF/HF交感神経活動の指標とされるLF/HFは,HFと同様に日勤,長日勤,夜勤で交互作用を認めなかった(F18,181 = 0.786, p = .715).勤務(F2,181 = 27.192, p < .001),時間(F11,181 = 2.674, p = .003)に主効果を認め,日勤と比べて長日勤(p = .002)と夜勤(p < .001)は有意に低下し,夜勤は長日勤よりも有意に低下していた(p < .001).時間では,勤務開始から1~2時間後と比べて,5~7時間後は有意に低下し(p < .05),9時間後が低下傾向を示していた(p = .070).
3. 勤務中の眠気と疲労感の変化KSSは,傾向差を認め(F5,30 = 2.395, p = .061),下位検定の結果,長日勤終了時と夜勤開始時に差を認め(p = .028),長日勤終了時の眠気は,夜勤開始時には有意に低下していた.
自覚症状しらべに関しては,図3に示した.I群ねむけ感が,差を認め(F5,30 = 4.874, p = .002),下位検定の結果,長日勤終了時と夜勤開始時(p = .0016),夜勤開始時と夜勤終了時(p = .0010)に有意な差を認め,ねむけ感は長日勤後から夜勤開始時に低下したものの,再び夜勤終了時には増加していた.

勤務における自覚症状しらべの変化
II群不安定感は,傾向差を認め(F5,30 = 2.541, p = .050),下位検定の結果,日勤開始時と比べて長日勤終了時には不安定感が強い傾向にあった(p = .073).
III群不快感は,差を認め(F5,30 = 3.821, p = .009),下位検定の結果,長日勤開始時と長日勤終了時(p = .045),長日勤終了時と夜勤開始時(p = .026)に有意な差を認め,長日勤開始時と比べて長日勤終了時は増加し,その後,夜勤開始時には低下していた.
IV群だるさ感は,有意な差を認め(F5,30 = 4.298, p = .005),下位検定の結果,長日勤開始時と長日勤終了時(p = .042),長日勤終了時と夜勤開始時(p = .042)に有意な差を認め,長日勤開始時と比べて長日勤終了時は増加し,夜勤開始時には低下していた.
V群ぼやけ感は,差を認め(F5,30 = 7.634, p < .001),下位検定の結果,日勤開始時と比べて長日勤終了時(p < .001),夜勤終了時(p = .028)が有意に増加した.さらに,長日勤開始時と長日勤終了時(p = .001),長日勤終了時と夜勤開始時(p = .007)に有意な差を認め,長日勤開始時から長日勤終了時にかけて増加したものの,夜勤開始時には改善していた.
4. PVTの変化PVTおよびラプスの結果は図4に示した.PVTは,勤務では有意な差を認めなかった.ラプスは,有意な差を認め(F5,30 = 2.953, p = .028),下位検定の結果,日勤開始時と比べ長日勤終了時が増加傾向にあった(p = .071).さらに,長日勤終了時と夜勤開始時は傾向差を認め(p = .055),長日勤終了時と比べて夜勤開始時は改善傾向にあった.

勤務におけるPVTとラプスの変化
本研究は,本邦における12時間勤務の看護師の日勤,長日勤,夜勤時の睡眠および眠気,疲労感を主観的,客観的に示した最初の研究である.以下,本研究で明らかとなった各勤務における眠気,疲労感の特徴と睡眠覚醒リズムの変化について考察する.
1. 交代制勤務時の身体活動量と疲労感,眠気の変化身体活動量は,長日勤が日勤や夜勤よりも有意に多かったことから,長日勤は日勤や夜勤よりも作業負荷が多く,最も疲れやすい勤務であることが明かとなった.疲労感を示す自覚症状しらべでは,日勤に増加は認められず,日勤後と長日勤前も差がなかったことから,日勤から長日勤にかけて疲労の増加は見られなかった.一方,長日勤の疲労感は,勤務終了時に増加し,特に,自覚症状しらべのIII群不快,IV群だるさ,V群ぼやけは,勤務後に増加した.V群ぼやけ感は日勤,夜勤と比べても有意に高いことから,長日勤終了時は目がしょぼつくなどのぼやけ感が強いことが特徴として示された.さらに,夜勤前はIII群,IV群,V群が改善しており,勤務終了から夜勤開始の間に疲労回復が図られたものと思われる.
長日勤後の睡眠時間は562.7分間,夜勤前は187.8分間であった.長日勤後の睡眠は勤務後にとり,夜勤前の睡眠は勤務前であることから,合計750.5分間の睡眠を長日勤終了から夜勤までの24時間インターバルにとっていた.通常,1日の平均睡眠時間で最も多いのが6時間以上7時間未満であることから(厚生労働省,2017b),長日勤終了から12時間以上の睡眠をとることで,疲労が回復したと思われる(斉藤・佐々木,1998).
次に眠気に関しては,I群のねむけは長日勤終了時と夜勤終了時に増加し,眠気を示すKSSも長日勤後に増加していた.また,反応時間の延長を示すPVTのラプスも長日勤終了時が増加傾向にあったことから,長日勤終了時は疲労の増加のみならず眠気の増加もみられ,認知機能の低下も示唆された.
疲労の客観的指標である自律神経活動では,交感神経活動を示すLF/HFが,日勤は最も高く,長日勤,夜勤の順となっていた.また,日勤と長日勤では14:00~16:00,夜勤では,02:00~04:00に低下した.このことから,日勤が最もストレスが高く,各勤務ともに,午後または早朝にストレスが低下していることが明らかとなった(Zhong et al., 2005).副交感神経活動を示すHFは,夜勤と比べて日勤が低値であったことから,LF/HFの結果と同様に,日勤は夜勤よりもストレスが強いと考えられる.
以上より,日勤が勤務中に疲労が増加しやすいことが自律神経の変化からも明らかとなった.しかし,日勤は労働時間が8時間で,長日勤の12時間より短時間であるため,疲労の進展を防いだものと思われる.このように,看護師にとって長日勤は,勤務中の活動量も多く,日勤,長日勤,夜勤の中で,もっとも疲労や眠気を伴う勤務であることが明らかとなった.
2. 睡眠覚醒リズムの変化看護師をはじめとした交代勤務者の睡眠は,質・量ともに劣化しやすく,概日リズムが乱れやすいという特徴を有し(影山,2014),概日リズム性睡眠障害の1つとして,睡眠障害国際分類第2版(ICSD-2)に分類されている(American Academy of Sleep Medicine, 2005).今回,日勤後から夜勤後4日目までの7日間の主睡眠と副睡眠を分析した結果,主睡眠の睡眠効率,睡眠潜時は差がなかったものの,主睡眠の開始時刻と総時間に差を認め,夜勤前に約3時間の睡眠を午後からとっていた.一時的に夜勤後に睡眠覚醒リズムは変化したものの,長日勤は身体的負担も強く,勤務終了時には眠気や疲労感も増加していた為,長日勤後に通常の主睡眠をとり,さらに,翌日の勤務前に約3時間の主睡眠をとることで,概日リズムのフリーランを軽減したものと推察した.そして,睡眠・体温のリズムと同調したことで24時間の周期に近づき(Campbell et al., 1990),疲労や眠気の回復を図ったと思われる.そもそも,不規則交代勤務者の睡眠障害は,生体リズムと睡眠覚醒スケジュールが脱同調した状態となるため,自律神経障害,中途覚醒の増加や持続時間の短縮などの睡眠障害が出現しやすい(白川,2011).しかしながら,本研究では12時間夜勤を伴う交代制勤務の場合,一時的に睡眠覚醒リズムは変化したものの,夜勤後は修正できていた.その要因としては,勤務間のインターバルが確保されていた為と考える.勤務間インターバルが11時間以下のクイック・リターンが多ければ多いほど,交代制勤務障害や不眠,過度の眠気のリスクが高まる(Kecklund & Akerstedt, 2004).今回,勤務間のインターバルは,日勤後が約15時間,長日勤後が約24時間,夜勤後が47時間以上であったことから,疲労回復のための睡眠をとるために十分なインターバルが確保されていたと推察した.
以上から,一定期間のインターバルを確保することで,疲労回復効果のある睡眠(副睡眠)をとることを可能とし,看護師の健康はもとより医療の安全も維持できると考える.12時間夜勤を伴う二交代制勤務の場合,睡眠覚醒リズムのズレも夜勤の翌日には改善していることが,客観的評価からも明らかとなった.
本研究は,これまでに明らかにされていない二交代制勤務の看護師の疲労状態に言及したものであり,データの蓄積としての価値もある.しかしながら,研究の限界として,効果量f = 0.25,α = 0.05,検定力をCohen(1988)の慣例値0.60とした場合,対象者は少なくとも10人は必要であったが,被験者の年齢や経験年数,病棟を同一としたことから,疲労感や眠気について一定の結果を得るに至った.これ以上の調査は現場の負担となると考え,一度停止した.今後,被験者を増やす中で,さらに特徴が明らかになる可能性もあり,今後の課題としたい.また,交代制勤務に従事する看護師という母集団に対する一般化可能性の限界として,男性を含まないこと,性周期が影響を及ぼした可能性は否定できない.しかしながら,本研究結果は,経験年数による疲労の経時的変化および性差による疲労の違いを明らかにする上での基礎的データとなり得ると考える.今後,さらに交代制勤務の影響を検討していく必要がある.そして,今回明らかになった疲労や眠気についての低減策を構築する必要がある.
12時間夜勤を伴う二交代制勤務では,長日勤が最も身体的負担が大きく,疲労感や眠気が増加した.長日勤後と夜勤前に睡眠をとったことから,夜勤開始時には,眠気や疲労は回復し,勤務終了時にも疲労感や眠気の増加は見られなかった.さらに,12時間夜勤を伴う二交代制勤務者では睡眠覚醒リズムの変化は夜勤時にみられるも,翌日には回復していた.
謝辞:本研究にご協力いただきました看護師の皆様,ならびに病棟看護師長,看護部長の皆様に心から感謝申し上げます.なお,本研究はJSPS科研費JP25670912,JP26293452の助成を受けたものです.
利益相反:本研究における利益相反は存在しない.
著者資格:SOは研究の着想,デザイン,データ収集,分析,解釈,原稿作成までの研究プロセス全体;YMとMKは研究の着想およびデザインに貢献.すべての著者は最終原稿を読み,承認した.